売り込みに対して、良い印象を持っている見込み客は少ないかもしれません。見込み客は情報収集は熱心ですが、よほどタイミングがあわない限り、すぐ資料請求してすぐトライアルに進むなどありえません。
ニーズの浅い段階で直接会うことや、SNSで親しくなりすぎて期待を持たせるのも悪い……と結構気も使う方も多いかと思います。これは関係性の浅い顧客も同様です。
そのような慎重な顧客と関係性を築くのにぴったりなのが、メールマーケティング。「リアルタイム性のなさ」「堅苦しいビジネスマナー」「放置しても問題ない」といったいわばメールの短所が絶妙な距離感となり、逆に好まれます。
今後もBtoB営業において、メールマーケティングは有効な手段であり続けるでしょう。そこで本記事では、メールマーケティングを効率的に行うためのメールマーケティングツールについて解説します。
メールマーケティングツールは、メールマーケティングを効率的に行うために活用するツールです。
大量のメールを送信したり、対象を細かく絞りこんで配信したり、魅力的なメールを作成したりすることができます。高機能なツールの場合、ユーザーの行動に沿った自動メール配信なども可能です。
メールマーケティングとは、メールを活用して見込み客や顧客との信頼関係を醸成し、問い合わせや売上げアップ、ブランディングにつなげるマーケティングです。
テキストが主体なので手軽に始められ、コストパフォーマンスに優れた手法です。オウンドメディアの新規投稿記事、ウェビナー開催、動画の紹介など多様なマーケティング施策のハブとしても使われます。
有効性には定評があり、HubSpotの2024 年マーケティング戦略およびトレンド レポートでも、マーケティング担当者が「最も活用する手法の第1位 (33%) 」になっています。
(出典:HubSpot)
メールマーケティングに活用するツールは、メーラー、メール配信システム、MA(マーケティングオートメーション)の3種類が代表的です。メールの量やどのようなメールマーケティングを行いたいかによって適したツールは異なります。
メーラーとは、OutlookやGmailのような電子メールを送受信するためのアプリケーションのことを指します。「メールクライアント」「メールソフト」ともよばれます。
少量の見込み客や顧客に対して月に1回程度の案内を送るシンプルなマーケティングなら、メーラーでも十分に対応可能です。ただしリスト管理やターゲティングは基本的なレベルに留まりますし、手動で行う領域が多く手間暇がかかります。
また、OutlookやGmailなどのメーラーだと、一度に大量のメールを送信することに制限があります。大量のメールを短期間で送信すると、スパムとして扱われるリスクも高まるでしょう。
なお、メーラーもベンダーによって機能が多少異なります。株式会社PIGNUSが2023年に公表した「メールソフトの市場調査とシェアTOP3製品」によると、日本の企業で活用されているメーラーのシェアはOutlook、Gmail、Yahoo、Thunderbird、サイボウズなどです。
メール配信システムとは、大量のメールを一度に配信したり、特定の条件でセグメントして配信したりすることを高速で行えるメールマーケティングに特化したツールです。
メーラーで作業するよりも格段に効率がアップします。一度リストに登録すれば、簡単にリストをセグメントし配信スケジュールを設定できます。開封率やクリック率などの詳細なデータも自動的に集計可能です。
専用ツールなので操作がシンプルで使いやすいところも長所。一般に大量配信をする際に活用されますが、詳細な効果測定ができるため、少数のリストの段階から活用するメリットもあるでしょう。
MA(マーケティングオートメーション)とは、マーケティング活動で繰り返し行う作業を自動化するツールです、一般にメールマーケティング機能が搭載されています。
メール配信システムでできるリスト管理、セグメント、効果測定に加えて、ユーザーのWebサイト訪問履歴の追跡、リードスコアリングなど高度な機能があります。導入コストは高いものの、レベルの高いマーケティングが可能です。
メールマーケティングツールは、メールのデザイン、送信先の細かい分類、高速配信、デバイスに沿ったメールコンテンツの最適化、効果測定、 レポート生成などができます。ベンダーのサービスプランによって、各ツールでできる範囲は異なります。
OutlookやGmailでメールマーケティングを行う場合、送信先はExcelやGoogleスプレッドシートなどで管理することが一般的です。そのため、送信先をセグメントした後に手動でインポートする必要があり手間暇がかかります。
GmailではGoogle AppsScript、OutlookではVBAなどを使って自動送信も可能ですが、プログラムの基本知識も必要です。
一方、専用システムやMAなら年齢・性別・エリアなどの複数の条件で、その都度リストを簡単に細かくセグメンテーションできます。デモグラフィックデータによる分類だけでなく、サイト訪問履歴、資料ダウンロード履歴のあるユーザーのみにリストを絞り込むことも可能です。見込み客の状況に合わせた適切なメールマーケティングができます。
しかも、一度リストを読み込ませればこれらをすべてシステム内で簡単に指定ができるので、手動で行う面倒な作業から解放されます。
メーラーを活用する場合も、基本的なメールのデザインやカスタマイズは可能です。標準的なテンプレートも用意されています。
メールマーケティング専用ツールやMAなら、HTMLメールもドラッグ&ドロップ操作で作成可能。直観的に美しいデザインのメールが作成できます。画像は人の注意を惹きやすくメールマーケティングの成果を高めます。
以下はメールマガジンに限定した調査ですが、企業のマーケティング活動を支援する株式会社ファングリーの2023年の調査によると「メールマガジンの印象が、企業のイメージに影響すると思うか」という設問に対して「影響する」「どちらかというと影響する」と回答した人をあわせると全体の70.7%に上りました。
なお受信後、「企業にサービスなどの問い合わせをしたことがある人」は46%、「企業が公開している資料やレポートをダウンロードしたことがある人」は59%。このように、メールマガジンはしっかり読まれているため、デザインや文章のクオリティに力を入れることは大切です。
(出典:法人向けメールマガジン受信に関する利用実態調査|株式会社ファングリー・アンケトス調べ)
メールマーケティングツールを活用すると、大量のメールを送信できます。高機能なツールになると、シナリオに基づいた予約配信などができるため、作業効率が飛躍的にアップします。
顧客の名前や興味のある商品などを、メールの本文に組み込むことも可能。このように個人に合わせたメッセージを送信することは、開封率やクリック率の向上につながります。以下のように顧客の状況や行動履歴に合わせた自動メールも送信できます。
専用ツールなら、以下のようなメールの開封率、クリック率、コンバージョン率などの詳細データを取得できます。
分析データをもとに、より見込みのある層に絞り込んでタイミングよくマーケティングが行えます。また、A/Bテストといって異なるメールを送信してどちらの内容がより効果的かを検証できるため、成果が上がりやすくなるでしょう。
このような分析も専用ツールを使うとスピーディーに行えます。
メールマーケティングツールの代表的なものを紹介します。
日本でよく活用されるメール配信システムには、blastmail、配配メール、Mailchimpなどがあります。いずれもサブスクリプションで、価格帯のプランは3〜4種類。無料プランがあるサービスもあります。
(出典:配配メール公式サイト)
配配メールは、累計で1万社以上に使われているメールマーケティングツール。初心者でも直観的に活用できる操作性が好評です。ドラッグ&ドロップでHTMLメールも作成できます。
メールの開封率やクリック率がわかることはもちろん、誰が開封したかの詳細な分析も可能です。また、 複数のIPアドレスを使用しているため迷惑メールに判定されない工夫がされています。サポート体制も充実。ユーザーの95%が満足しています。
特徴:
価格:Lightプラン、Standard/Premiumプラン、Bridgeプランあり ※要問合せ
(出典:MailChimp公式サイト)
世界に1000万人以上のユーザーをもつメールマーケティングツールです。
配信リストのセグメンテーションはもちろん、SNSや広告との連携など、マーケティング活動を自動化できる高度な機能が充実しています。コミュニティも充実しており、ユーザー同士の情報交換やアドバイスが活発です。
特徴:
価格:無料プラン、Essentialプラン、月1150円(1カ月無料)、プレミアムプラン 月3万4500円、スタンダードプラン 月1750円(1カ月間は無料)、※無料トライアルあり
(出典:Benchmark公式サイト)
前述の調査結果のように、メールの印象はブランディングに強く影響します。Benchmarkなら、500種類以上のHTMLメールテンプレートが用意されており、AIによる自動デザイン機能も活用可能。デザイン知識のない担当者でもセンスのよいメルマガを作成できます。
顧客の行動に合わせて自動でメールを送信することが可能ですし、A/Bテスト機能をはじめとした最適化ツールを備えているのも特徴です。リアルタイムに効果を検証しながらメールマーケティングのPDCAを回せます。
特徴:
価格:無料トライアル、Proプラン月1785円、Enterpriseプラン(要見積)
※無料トライアルは登録アドレス500件、月3500通まで配信可
(出典:blastmail公式サイト)
blastmailは、メール配信が初めての人でも使いやすい操作性、大量のメールを高速で配信する機能が人気で日本企業の導入社数は2万4000社以上。官公庁、大手企業から中堅・中小企業まで幅広く活用されています。
デロイトトーマツミック経済研究所が公表する、2024年7月号「クラウド型eメール一斉配信サービスの市場動向と中期予測」で、14年連続で新規契約・顧客数シェアとも1位の人気ツールです。
特徴:
価格:Lightプラン月4000円、Standardプラン月8000円~、Proプラン月3万円~
MA(マーケティングオートメーション)とはマーケティング活動を効率化するツールですが、メールマーケティング機能も搭載されています。
MAを使えば、メール配信、リスト管理、効果測定など、メールマーケティングに必要な機能を網羅的に利用可能です。加えてWebサイト訪問履歴の追跡、リードスコアリング、自動化されたワークフローなども行えます。
以下に有力なツールを紹介します。
HubSpot Marketing Hubはマーケティングを効率化するツールであり、メールマーケティング機能が含まれています。
HubSpotのMarketing Hub、Service Hub、Sales Hubなど「〇〇 Hub」と呼ばれる各種ツールは、すべてCRMと連動しているので、HubSpotのCRMデータベースに基づき、正確なデータを利用してEメールをカスタマイズ可能です。無料で基本的なマーケティング活動を始めることができます。
特徴:
価格:無料プラン、スターター月額2400円、Professional月額10万6800円、Enterprise月額43万2000円
(出典:Marketing Cloud Account Engagement公式サイト)
Marketing Cloud Account Engagement(旧 Pardot)は、CRMと一体化したBtoB向けマーケティングオートメーション(MA)です。高度なメールマーケティングを可能にするさまざまな機能が備わっています。
メール作成は、用意されたテンプレートを利用すれば、誰でも簡単に統一された魅力あるメールを作成可能。セグメント機能が高度なため、適切なメッセージを適切な対象顧客に適切なタイミングで送信できます。
特徴:
価格:Growth月15万円、Plus月33万円、Advance月52.8万円、Premium月180万円
(出典:Adobe Marketo Engage公式サイト)
Adobe Marketo Engageは、世界最大級のマーケティングオートメーションであり、高度なメールマーケティング機能が含まれています。
特徴:
価格:要問合せ
メールマーケティングツールを選ぶ際は、予算、所有リストの量、どのようなレベルのマーケティングを行いたいかなどの諸条件や目的を確認してからスタートしましょう。
メールを配信するには対象のリストが必要です。前提としてリストがデータベース化されていなければなりません。また、自社の顧客情報のデータベース(CRM等)とメール配信システムとのデータ連携ができるかが重要です。
リストは増え続けます。以下は、株式会社リンクアンドパートナーズが提供するPRIZMAリサーチによる、2023年のインターネット調査の結果。マーケティング担当者1003名にリサーチしたところ、メールマーケティングの新規リストの入手先は以下のとおりです。
展示会やウェビナーなどで随時リストが追加されるため、連携がスムーズでないと余計な作業が増えます。手動でデータを更新すると二重登録や古い情報が残り、重複して送ったり必要ない人に送ったりするため受け手の印象が悪くなります。
タイムリーな案内もしづらくなり、既に購入した商品に対して「購入を促すメール」が送られるなど、顧客体験を悪化させることが起きかねません。
(出典:PRIMZA)
どのようなメールマーケティングを行いたいかによって合うツールは異なります。
登録した人全員に同じ内容のメールマガジンを一斉に送りたいのか? 見込み客を対象に徐々に商品に関心を持ってもらうためのシナリオメールを配信したいのか? 既存顧客との関係性を深めたいのか? メール配信の目的も企業によってさまざまです。
総合的な内容をメールマガジンで月に1回程度一斉配信するのであれば、メーラーでも可能。ただし、機能が限定的でメールの効果もつかみづらくなります。
見込み客や顧客を対象に売上げにつなげていくことがメール配信の目的であれば、件数に関係なく対象の属性、状況によって適切なコンテンツを送り効果測定もできるメール配信システムやMAが必要になるでしょう。
リードの行動追跡やスコアリングをもとに業務を自動化したい場合はMAが適しています。
目的の例:
目的 |
適切なツール |
理由 |
少数顧客へメールマガジンを月1回一斉送付 |
メーラー |
リスト分類の必要がない ※500件以下が目安 |
新規顧客獲得(見込み客→顧客化) |
メール配信ソフト、MA |
見込み度によるリスト分類、シナリオに沿った配信、効果測定が必要 |
ブランディング |
メール配信ソフト |
優れたHTMLエディタによりメールのデザイン品質を高められる |
既存顧客のアップセル、クロスセル |
メール配信ソフト |
顧客グループごとに適切な内容を送信し効果測定する必要がある |
メールマーケティングはコンテンツを企画し作成、配信するまでに時間を要すうえに神経も使います。時間をかけずに印象のよいメールを作成したいなら、メールテンプレートの豊富なツールが望ましいでしょう。
使いやすさも重要。操作性がよいツールは直感的に使えるため、余計なストレスを感じずに業務を進めることができます。使い勝手については、レビューサイトなどの評判からある程度は推測可能です。
また、無料トライアルやデモ版でしばらくツールを試すことで、使いやすさを体感できます。
きめ細かなサポート体制は、担当者が初心者の場合かなり重要です。特に海外系のツールは日本人にとってマニュアルなどもわかりづらいことが多いので、重々チェックしましょう。
ベンダーによって、電話、メール、チャットなど複数のサポート方法を提供している場合もあれば、チャットのみやメールのみに限定していることもあります。サポートに頼るときは基本的に困っているときなのでレスポンスの速さが重要。この点、今でも電話でサポートできるベンダーは安心感があるでしょう。
一般に、FAQを各社用意していますが、聞かなくてもわかるような内容ばかりで肝心の回答がなければ、そこを確認する時間は担当者にとってムダな工数。かえってストレスが増します。コミュニティサイトも同様です。
対応時間もチェックポイント。 24時間対応のサポートなのかビジネスアワーのみなのか? 海外のツールだとタイムゾーンも違うので夕方質問して朝に返事をもらえるという良いタイミングになるケースもありますが、そうとばかりとは限りません。
メーラー→メール配信システム→MA(マーケティングオートメーション)の順で価格は高くなります。価格が高いほど機能が充実していき、高度なマーケティング活動が可能になりますが、使わない機能が多いのであれば、あまり意味がありません。
定期的にメールマガジンを少数のリストに配信する場合は、メーラーやメール配信システムの無料プランで十分かもしれません。リストが500件を超えたあたりで専用ツールの有料版導入を検討しても問題ないでしょう。ここは担当者の忙しさにもよります。
大量のリストにメールを計画的に配信したり、メールマーケティングの成果を詳細に把握したりしたいのであれば、以下の機能を持つ有料の専用システムなどを活用したほうが、作業時間が短縮できROIも向上します。
メールマーケティングは、マーケティング手法の中でも費用対効果に優れている施策です。メールマーケティングに取り組むにはメールマーケティングツールが必須。ツールには「メーラー」「メール配信システム」「MA(マーケティングオートメーション)」があります。
自社がどのようなメールマーケティングを行いたいかという目的を決めて、優先順位の高い機能を整理しましょう。そのうえで「現在のデータベースと連携できる」「シンプルに操作できる」「費用対効果が見合う」ツールを選んでください。