マイケルポーターの「差別化戦略」とは?BtoBマーケティング担当者も知っておくべきこと

2022/06/03
5Forces マイケルポーター 差別化戦略 マイケルポーターの「差別化戦略」とは?BtoBマーケティング担当者も知っておくべきこと

マイケルポーターの「差別化戦略」とは、ハーバード大学経営大学院教授のMichael E. Porter(以下、マイケルポーター)氏が提唱した、経営における「3つの基本戦略」のひとつであり、「5Forces分析」「バリューチェーン」とともに、提唱されてから40年以上世界の国々で活用されている戦略フレームワークです。

日本に「ポーター賞」という賞があるのをご存知でしょうか? 一橋大学大学院が2001年から主催しており、コロナ禍以前はマイケルポーター氏も授賞式によくこられていたようです。これまで、BtoBでは日本電産、キーエンス社などが受賞しています(2021年のカンファレンスはこちら)。

ポーター賞公式

マイケルポーター氏は、学術界においては経済学と経営学領域で最多の引用数を誇ります。「古典」とも表現されるマイケルポーター氏の数々の理論は、現代においてもアカデミック、実業界の両方から支持され続けており、経営者やビジネスマンが学べることが多々あります。

今回は、BtoBマーケティング担当者も知っておくべき、マイケルポーターの3つの基本戦略のひとつ「差別化戦略」について紹介します。

マイケルポーターの「差別化戦略」とは?

マイケルポーターの「差別化戦略」とは、1980年にマイケルポーター氏が著書『競争の戦略』で提唱した、企業が競争優位性を持つための3つの戦略のひとつであり「自社の独自の価値を提供することで他社と差別化する戦略」です。

競争戦略との関係性

マイケルポーター氏は『競争の戦略』において、企業の収益性が業界平均の上に位置するか下になるかは、業界内での企業の相対的な位置によって決まると述べました。そして「外部環境分析フレームワーク5Forces(5フォース分析)」とともに、企業が持続的な競争優位性を保有するための「3つの基本戦略」を提唱しました。

1. コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略とは、企業がその業界で最も低コストの生産者になることを目指すことで、競走優位を確立する戦略です。コスト優位の源泉には規模の経済の追求、独自技術、原材料への優先的なアクセス、自社独自のバリューチェーンなどがあります。

コストリーダー企業になれば、業界の平均的な価格を設定することで業界平均以上の収益を上げられます。また、低価格戦略をとり他社との価格競争に勝ってシェアを拡大できます。

2. 差別化戦略

差別化戦略とは、他社にない独自の価値を提供することで、市場にポジションを築く戦略です。独自の価値とは購買者側から見たユニークさ、独自性です。製品、原材料、特許、技術力、人材、ブランディングなどさまざまな差別化手法があります。一般に他社にない価値を提供することで、他社より高い価格でプロダクトを販売できます。

3. 集中戦略

集中戦略とは、あるニッチな市場に集中して、コストリーダーシップ戦略か差別化戦略をとることです。特定の市場に経営資源を投入することで、他社よりも市場ニーズに最適なソリューションを提供できるため、競争優位を築きやすくなります。集中すべき市場の選択には地理、企業規模、性別年代ほかなどさまざまなセグメンテーション手法があります。

マイケルポーター氏は、企業が競争優位を保つ戦略は、突き詰めるとこの3つに集約されると述べています。なお、3つの戦略と呼ばれますが、集中戦略が実質2種類あるため3象限と4象限のフレームワークが存在します。以下は、4象限のフレームワークです。

4つの基本戦略

横軸:競争優位の源泉を低コストと差別化  縦軸:競争の範囲(市場)が広いか狭いか

(参考:University of Cambridgeグロービス経営大学院、『マイケルポーターの競争の戦略 エッセンス版』)

BtoBマーケターが読むべきマイケルポーターの本と論文

マイケルポーター氏は、これまで19冊の書籍と125以上の論文を出しています(2021年時点)。今回は、差別化戦略に役立ちそうな本と論文を紹介します。主要な著書についてはこちらもご覧ください

新版 競争戦略論Ⅰ

書籍『新版 競争戦略論Ⅰ』

(出典:Amazon

内容:マイケルポーター氏のベストセラー『競争戦略論Ⅰ』の改訂増補新版です。ITは競争戦略をどう変えるか? 経営者の使命は何か? 企業の社会的責任をどう考えるべきかなど、現在のビジネス課題についても論じられています。競争戦略の基本を学べ、かつ現代の実務についてのインサイトを得られる本としておすすめです。

日本の競争戦略

書籍『日本の競争戦略』-1

(出典:楽天ブックス

内容:マイケルポーター氏が10年以上にわたる調査の上、成功の罠にはまった日本企業の打開策を解説した本です。数々の統計データをもとに、日本企業は経営に対する価値観を根本的に転換するべきであり、企業やマネジャーの名声や評判は事業規模ではなく、戦略の独自性に基づくべきであると説いています。

高品質の追及、カイゼンなどのオペレーションに特化するだけでは新興国にすぐキャッチアップされる時代、「差別化戦略」がいかに日本企業にとって重要かわかる本です。

AR戦略:拡張現実の並外れた可能性 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文 Kindle

論文「AR戦略:拡張現実の並外れた可能性」 (1)

(出典:Amazon

内容:マイケル ポーター氏が、AR(拡張現実)の本質と進化するAR関連技術と応用の形態、ARの重要性を解説している論文です。

2022年5月に、Googleが「翻訳できるARスマートグラス」を発表して話題になりました。「スマートフォンを必要なくする」と言われている革命的なプロダクトです。

ARスマートグラスは、マイケルポーター氏の5Forces分析でいうと「スマートフォンの代替品」の出現に相当するでしょう。もっと影響を受けるのは、Zoomを始めとするオンラインミーティングツールかもしれません。

ビジネスマンのコミュニケーションに多大な影響を与えそうなAR製品。今後の各プラットフォーマーの動向を注視するとともに、大枠でそのAR技術の持つ本質を理解しておくことが大切です。

(出典:YouTube

差別化戦略における考え方とは

ここでは、マイケルポーターの差別化戦略の基本的な考え方を解説します。

考え方1:独自性、差別化を追及する

差別化戦略とは、他社にない自社の強みを追求する戦略です。いかに他社と差別化できるか? 市場で独自のポジションを得るかが重要です。自社の価値を見つける方法、他社と差別化する方法には、以下のような切り口があります。

  • 製品による差別化
  • 原材料による差別化
  • 特許などの知的財産
  • 技術力、デザイン力
  • 立地よる顧客のメリット
  • 人材力(優秀さ)
  • 革新的なプロセス
  • ブランディング、他

マイケルポーター氏の差別化戦略とは、単純にひとつの特徴で差別化するのではなく、突出している価値、自社が提供でき他社にない価値を軸に、自社のバリューチェーンを調整し事業活動を連係させ続けることで独自性を際立たせ、コピーされにくい商品・サービスを提供できるという考え方です。

土台はバリューチェーン

例えば、高収益企業で有名なキーエンスの特徴はファブレス企業であること、営業マンが徹底した顧客ニーズをヒアリングして製品開発に活かす体制があること、分刻みでマネジメントする科学的な営業体制などがあります。

このような仕組みは、ビジネスマンの多くが頭ではすぐ理解できるでしょう。しかし、普通の会社ではそう実行できないこともわかるかと思います。

例えば、一般的な日本企業にはセクショナリズムが蔓延しており、連係どころか対立していることもあります。各現場が頑張っているものの、部分最適にとどまり全体最適にならないことがよく見受けられます。連携ということだけ見ても非常に難しいのが実態です。

キーエンスが驚異的な収益を実現できているのは、創業者の事業哲学の社内への浸透、それによるセクショナリズムの少なさ、徹底して顧客ニーズをくみ取る企業姿勢、分単位で営業マンの行動をマネジメントする科学的なマネジメントなどがあります。

そのほか、一貫した独自のバリューチェーンの強みがあるからだと言えるでしょう(ほかにも独自の強みがあります)。戦略にもとづいて全社的な活動が連携しているのです。キーエンス社の社長は「他社にはまねできない」と断言しています。

バリュー・チェーン

自社独自の価値は何か?

Appleのプロダクトのデザインはたしかに洗練されており、操作していて快適です。しかし、仮に無名の中小企業がiPhoneレベルの素晴らしいデザインと機能の製品を出したら、どうなるでしょうか?  おそらく、すぐ大手にデザインを真似されてあっという間に市場から駆逐されてしまうのではないかと思います。

Appleのような「ブランド品」を出していく企業は、機能、品質を高めるのと同じくらいブランディングに力を入れます。

広告、パッケージ、ストアなどのブランディングで自社の思想、カルチャーを伝え、顧客エンゲージメントを高めることでユーザーは「本物」を持ちたがるようになります。このようにブランディングの優先順位を高くするのも、バリューチェーンの最適化です。

コンサルティングファームなら、差別化要因は人材の優秀さでしょう。その場合、継続的な教育支援に投資しなければ競争優位の源泉を失いかねません。優秀な人材が採用でき、定着する魅力的な待遇、活躍の場の提供など、人材を軸にしたバリューチェーンの調整が必要でしょう。

強みを活かし、一方で自社の弱みの部分はアウトソースも活用してより成果を出す、あるいはコストを押さえるなど、提供価値を軸に立てた戦略にそってバリューチェーン(事業活動全体)を常に最適化し続けることが重要です。表面的に真似はできても、長年にわたり調整されたバリューチェーンの模倣は困難だからです。

考え方2:あくまで「顧客から見た価値」でなければならない

「自社には他社にない優れた技術がある。」このように、この製品は素晴らしいと信じていても、顧客から見て価値がなければ差別化戦略は成功しません。強みとは、あくまで顧客が評価する自社の強みです。

素晴らしい精度や多くの機能を、顧客はそこまで求めていないケースもあります。独自性のある素晴らしい製品は、すべての機能が他社より勝っているというわけではありません。しかし、プロダクト全体の価値は顧客が感動するレベルに仕上げられています。

顧客視点で自社の独自性を捉えなおすことが大切です。顧客視点とずれがあるのであれば、調整する必要があるでしょう。もしあいまいな顧客像しかもたない場合は、ペルソナ作成から始め顧客理解を深める必要があります。
顧客視点で自社の価値を把握するフレームワークには、4C分析や、バリュープロポジションSWOT分析などがあるので活用しましょう。

例:マーケティングミックス4C

4C

考え方3:トレードオフとは

「戦略の本質とは何をやらないかを選択することだ。」というマイケルポーター氏の有名な言葉があります。

マイケルポーター氏は、企業がコストリーダーシップ戦略をとるのであれ、差別化戦略を目指すのであれ、二兎をおうと「スタックインザミドル(どっちつかずの状態)」に陥りがちであり、高収益を上げるには集中すべきという考え方を当初から提唱しています。

ただしこの考え方は、当然ながら差別化戦略をとる企業がまったくコストに無頓着、コストリーダーシップ戦略をとる企業が独自性など考えないという意味ではありません。どちらを軸に戦略を進めるか、自社のバリューチェーンをどの軸にあわせて調整するかという意味です。

『競争の戦略』を世に出してから40年以上たち、インターネットの出現によりビジネス環境は変貌しました。AmazonをはじめとするECが実現できているように、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略を両立しやすい環境が整ってきています。

近年はマイケルポーター氏も初期の研究を再検討し、「戦略にあわせてバリューチェーンを特別に調整するなら、スタック・イン・ザ・ミドルに陥らずに差別化と集中と低コストを実現している企業もある」と解説しています。

とはいえ、戦略にあわせてバリューチェーンを統合することは簡単ではなく、両方を追うことでバリューチェーンはより複雑になることはたしかでしょう。

事業経験の浅い多くのスタートアップ、ベンチャーの場合、競合他社よりも低いコストで競争する、顧客に評価される次元で差別化する、ある領域に集中するかの選択となったなら、「差別化集中戦略」を選択したほうが取り組みやすいかと思います。

幸い、大企業病にはなっておらず、セクショナリズムも少ないのが若い会社の長所。適した戦略を選択したあとは、バリューチェーンを調整しやすいはずです。改めて自社が「何で戦うか(差別化)」「どこで戦うか(集中)」を検討し、自社のポジションをとっていきましょう。

まとめ

「マイケルポーターの差別化戦略」とは、独自の価値を顧客に提案することで他社と差別化して競争上の優位を確立する戦略です。市場で他社と同じ土俵、同じルールで競うのではなく、自社の収益を上げやすい領域を見つけ、できるだけ競争相手のいないところで勝負する戦略です。

マイケルポーターの3つの基本戦略はシンプルで本質的であり、どのような規模の組織にも活用できる「競争の原理原則」のようなものです。

「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の違いを理解し、事業戦略の立案やマーケティング戦略を考える際に、適切な選択をしていきましょう。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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