リレーションシップマーケティングとは何か?BtoB SaaS企業でマーケティング関係者には知っておいてほしいこと

2021/04/30
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近年はサブスクリプションモデルの事業が増加傾向にあり、顧客との継続的な良好関係が事業存続に直結するチャーンレート(顧客維持率)を重要指標とするSaaSビジネスも増加しています。

BtoB SaaSビジネスをしている方であれば、「カスタマーマーケティング」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。筆者の前職であるHubSpotの米国チーム側にも「カスタマーマーケティング」の担当がおり(当時)、顧客との良好な関係を築き、アップセルクロスセルにつながるマーケティング活動を行うチームがありました。

実はこのカスタマーマーケティングの考えは、もともとBtoBで一般的に知られているリレーションシップマーケティングに大変似ています(ほぼ同じ)。そのため、カスタマーマーケティングを勉強したい方は、リレーションシップマーケティングを理解すべきでしょう。

リレーションシップマーケティングとは、企業と顧客との関係性を重要事項とし、長期取引を前提とするBtoB企業には必須のマーケティングの考えの一つです。

しかし、近年は顧客と企業の関係性が変貌しました。リレーションシップマーケティングの在り方もより時代に合わせた形に変化をしなければいけません。

  • インターネットにより顧客の情報収集力は飛躍的に高まりました
  • SNSの影響で現代の顧客は1人ではなく複数のネットワークを持っています
  • 顧客は発信力があり批評家やメディアに近い力を持っている人もいます

総じて顧客のパワーは強くなりました。もはや顧客はただの購入者ではありません。

ただし、この変化は企業にとってプラスの面もあります。顧客との距離が近くなり、これまで見えづらかった製品・サービスに対するさまざまな意見や要望を入手できるようになりました。顧客満足度を高めればSNSやレビューサイトを通じて、知名度や企業規模に関係なくポジティブな評価を拡散してもらえるようになりました。

新しいビジネス環境にあわせたリレーションシップマーケティングを行うことで、企業と顧客はよりよいパートナーシップを結ぶことができるでしょう。本記事では、BtoB SaaS企業のマーケティング関係者に知ってほしいリレーションシップマーケティングについて解説します。

リレーションシップマーケティングとは?

リレーションシップマーケティングとは、顧客との関係性に投資するマーケティングです。新規顧客獲得や一回だけの売上よりも、顧客と継続的・長期的な関係を築くことで得られる利益の合計=顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の最大化を重視するところに特徴があります。

一般的なマーケティング活動(例えばデマンドジェネレーションなど)は、リード獲得から営業のパイプライン作りに焦点が当てられます。そのため重要な指標は、設定された期間の間にどれだけ有効な商談につながるリード獲得に貢献できたか、などが指標になります(企業により異なる)。

 

リレーションシップマーケティングとトランザクショナルマーケティングの違い

Transactional Marketing vs relationship marketingの違い

 

リレーションシップマーケティングでは、顧客の継続や維持、長期的な関係構築に焦点が当たるため、一般的に知られているデマンドジェネレーションのような考えとは異なる視点でマーケティング活動を行う必要があります。

リレーションシップマーケティングの生まれた歴史的背景

企業と顧客の関係性についてのマーケティングは、1970年代から欧米で萌芽しました。リレーションシップマーケティングとは、米国のLeonard L. Berry(以下ベリー)氏によって1980年代に提唱された概念です。

背景には米国でのサービス産業の台頭があります。サービス業におけるリピーター の重要性が認識されるとともに、顧客満足度や顧客のリテンション 、顧客とのリレーションシップ (関係性) についての研究が進みました。

ベリー氏は、リレーションシップマーケティングとは、顧客との関係を維持、促進するためのマーケティング活動であるといいます。目的は新しい顧客を開発することだけでなく、既存の顧客を維持することに焦点を当てることであり、最終的には協力関係を通じて双方の長期的な利益を向上させることが目標と結論づけています。

その後、さまざまな研究者やマーケティング実践者により研究が重ねられリレーションシップマーケティングが、企業の多くの領域にプラスの影響を与えると実証されていきます。顧客との関係性に力を入れることが企業と顧客相互の利益になるという考えの土台には、 ベリー氏が提唱した思想があると言えるでしょう。

また、皆さんご存知のCRM(Customer Relationship Management)も、1960年代まで一般的だったセグメントした人たちに対して(一方的に)行うダイレクトマーケティング(Direct Marketing)から、顧客の状態に合わせ関係性を構築するためにデータに基づいて行うマーケティング(データベースマーケティング)に進化していったソフトウェアになります。

 

カスタマーリレーションシップのイメージ

 

 

リレーションシップマーケティングの手法

リレーションシップマーケティングは、インバウンドマーケティング、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディア、ABM、リファラルマーケティングなど幅広い領域の顧客との接点で展開されています。

リレーションシップマーケティングは、いわばあらゆる施策の根幹にあるべき概念であり特定の手法ではなく、同時に従来のマーケティングと対立するものではありません。むしろ、機能横断的に実行できるプロセスです。

 

リレーションシップマーケティングのイメージ

中心的な手法としては、既存顧客のリテンションを重視し、以下のように顧客との良好なコミュニケーションの醸成、顧客ロイヤルティやエンゲージメントの向上を促進する施策を実施していきます。

手法例)

  • 顧客満足度調査やアンケート調査を実施し顧客からのフィードバックを募る
  • フィードバックされた意見を会社の製品・サービスに反映させる
  • 長期取引顧客、ロイヤルカスタマーに感謝を表明する(イベント招待、特典)
  • SNSを利用し顧客との接点を持つ
  • コミュニティサイトを運営または支援する
  • 営業部門、カスタマーサポート部門の品質向上
  • 顧客モニタリングツールを活用してパーソナライズされた提案をする
  • 製品・サービスのバンドル化(パッケージ化)

既存顧客に対する投資は一見重要度が低いように見えますが、マーケティング関係者ならご存じの 1:5の法則(新規顧客獲得から売上を得るコストは既存顧客からより5倍かかる)や5:25の法則(顧客離れを5%改善すれば利益が25%改善する)にあるように、収益拡大に直結します。

 

5:25の法則

 

また、近年のSNS社会であれば既存顧客の満足度向上=良い評価の拡散=新規顧客の増加という図式は多くの業界であてはまります。なにしろ、現在の顧客が企業や営業担当者のメッセージよりも製品・サービスを購入し活用した顧客の声を信用します。

既存顧客との関係性に注力することが売上の拡大や新規顧客の増加につながる可能性は昔より相当に高くなっているでしょう。企業がSNSのアカウントを活用したりコミュニティなどのネットワークに投資することは今や重要な施策になりつつあります。

 

顧客コミュニティのイメージ

 

弊社のお客様はとくにBtoB SaaS企業がほとんどのため、このリレーションシップマーケティングがなぜBtoB SaaS企業に対して重要なのかを見ていきましょう。

なぜBtoBのSaaS企業がリレーションシップマーケティングを重要視すべきか

ここでは、BtoB SaaS企業にリレーションシップマーケティングが適している理由を解説します。

理由1:サブスクリプションモデルだから

SaaSは、サブスクリプションを維持することで収益を上げていくビジネスモデルです。成約金額の1人あたりの単価は数百円~10000円程度と高くないケースが多く、しかも月額課金。

解約が容易なので事業を成長軌道に乗せるためには基本法則が2つ存在します。

1)いかに新規顧客数と単価を増やしていくか

2)いかに解約数を減らすか(リテンション率を高めるか)

この二つが勝負となり結果的にMRRやARRの積み上げにつながります。

投資を受けているSaaSスタートアップの場合は、PMFがまだであったり、十分な売上が発生していないことがほとんどです。損益分岐点(ブレイクイーブン)がかなり先にあり新規顧客獲得が最重要課題となります。

同時に、契約後一定数解約が確実に(容易に)発生するため、他業界よりも顧客満足度の高さが売上に直結しやすいビジネスモデルなのです。

そのため、カスタマーマーケティングのような顧客との長期的な関係性構築に焦点を当てたマーケティング戦略が重要になり、リレーションシップマーケティングとの相性はとても良好です。逆にリレーションシップマーケティングを手薄にすると解約企業が増加し事業成長ができません。

一般に、どの業界であっても顧客は解約する際にあまり本音を伝えてくれません。顧客満足度調査やアンケート調査に回答してくれる顧客は企業や製品・サービスにそう不満がない層が多く、総じてスコアは高くなりがちであり、正確な満足度とは言えないものです。

以下、SupperOfficeの調査(英語)によると、離脱した顧客の68%は「その会社が自分のニーズを気にかけていない」と感じてサービスを辞めてしまうそうです。SaaSに限定した調査ではありませんが、顧客がソフトウェアのような製品だけではなく、いかにサービスに何を期待しているのかを理解することが重要かがわかります。

 

顧客が去っていく理由

(参照:SupperOffice

 

理由2:「納品」が存在せず常に品質をアップデートし続ける必要があるから

SaaSは、「納品」という段階が存在せず顧客の要望をサービスに反映させていくアジャイル型に近いビジネスモデルです。リレーションシップマーケティングに力をいれて顧客の声を製品・サービスに組み込んでいくことが、自社の顧客との強固な関係づくり、他社と違う製品・サービスの独自性、競争優位性につながっていきます。

SaaSビジネスの特性上、勝ち残るために機能拡張や異なる領域への事業拡大を行う必要があります。上記で解説したようなTransactional Marketingだけに力を入れていると、将来的な事業拡大の成功率を下げることへとつながります。

当然ながら、継続顧客に対してアップセル、クロスセルを行う方がゼロから新規の顧客獲得よりも、より効果的かつ経済合理性が高くなります。

つまり、納品が存在せずに常にアップデートを行っていくSaaSのようなビジネスモデルであればなおさら長期的な関係性に焦点を当てるようなリレーションシップマーケティング(Relationship Marketing)の考え方は欠かすことができません。

長期的な関係性を築くことによって、自分たちの求めた機能が付加された製品・サービスを提供されたら、顧客はより製品・サービスのファンとなり新機能を活用してくれたり、さらに健全な意見をフィードバックしてくれる可能性が高くなります。

常に競合企業以上の価値を顧客に提供し続けていかなければならないSaaS企業にとってリレーションシップマーケティングは生命線です。

理由3 オンラインを中心にして施策の検証・改善・リファラル検証し「摩擦(フリクション)」を軽減しやすいモデル

SaaSビジネスは、下記の図にあるように新規のユーザー獲得からツール利用までが循環するモデルとなっており、結果的に既存ユーザーなどのコミュニティ運営などを通しリファラル効果を得やすいビジネスモデル。

たとえば、HubSpotであればHubSpotユーザーグループ(日本では現在開催されていない模様)であったり、Salesforceでも同様のユーザーグループ会や日本独特の分科会などが存在しています。

 

リレーションシップマーケティングのサイクル

(画像出典:BUSINESS 2 COMMUNITY

 

とくに、既存顧客が自発的にユーザー会などを主宰してくれる場合はリファラル(口コミ)によって新規リードが発生しやすくなり、新たな顧客の紹介につながるサイクルが自然形成されていきます。

また、特殊なSaaSでない限り、eBookなどからのリード獲得や、無料資料請求や問い合わせなどからのMQL獲得、受注、リファラルという循環の大部分をオンライン中心にして進めることができるため、顧客の行動データをITツールで取得しやすく各領域の施策の検証、改善が比較的しやすくなります。

もちろんですが、データマネージメントなどを行い顧客のライフサイクル(Lifecycle)を正しく理解した上での施策を行うことが肝になってきます。それらの大枠の地図を作り、施策を改善し続けることで買い手と売り手との間で発生する「摩擦(フリクション)」を軽減することが可能で、既存顧客の満足度から新規リードの獲得というサイクルを構築しやすいことも理由です。

「摩擦(フリクション)」に対しての考えはこちらの記事でフライホイールを解説している箇所を参考にすると良いかもしれません。

リレーションシップマーケティングを学ぶ上でおすすめの論文

ここでは、リレーションシップマーケティングを学ぶための論文を紹介します。

(A)論文名:「サービスで捉えるリレーションシップ― 「ベネフィット・ワン」にみる市場創造のダイナミズム 」 研究者:(茨城大学大学院金 賢氏、茨城大学今村 一真氏)

先行研究としてリレーションシップマーケティング研究の3学派(アメリカン学派、欧州のIMPグループ、ノルディック学派)が紹介されています。また、各研究の理論的接続を試みています。

顧客とのリレーションシップの構築が収益獲得に関連することに視点をおく「アメリカン学派」は日本でもよく知られていますが、欧州の主にBtoBの産業財市場にけるリレーションシップの研究を蓄積した「IMPグループ」、アメリカン学派やIMPグループとは異なる視点で企業の提供物について研究した「ノルディック学派」の研究を紹介しています。

一読するとリレーションシップマーケティング全体像についての洞察が深まるでしょう。結論として、事例分析から「リレーションシップの発見や特定が市場創造につながる」ことを明示しています。また、さまざまなリレーションシップの構造があり、ビジネスによってその拡張も可能としています。

(B)論文名:マーケティング・プロセスの効率性追求-リレーションシップ・マーケティングのアプローチ(1996年09月25日 Business & Economic Review 1996年10月号)」 研究者:株式会社日本総合研究所 額宮良紀氏

日本を代表するシンクタンク日本総合研究所の提供する論文です。リレーションシップ・マーケティングを事業運営に取り入れたものの、利益の飛躍的拡大等の成果に結びつけられない企業が少なくないことにふれています。

その原因を顧客の囲い込み(リテンション)といった着眼点そのものではなく、従来の高コスト体質の営業組織体制を維持したまま、リレーションシップマーケティング導入を試みた「変革のアプローチ」にあると指摘しています。

解決策として、収益性重視のリレーションシップを確立するためには「顧客の区別化」「コンタクト・アプローチの差別化」「顧客別の収益性評価」がポイントとしています。実践的であり、営業・マーケティング関係者が近視眼的になりやすいところで、視界を広げてくれるような分析がされています。

(C)論文名:「リレーションシップ・マーケティングの誤解【名著論文再掲】なぜ顧客は逃げていくのか」研究者:デイビッド・グレン、ミック  スーザン、フォルニエ  スーザン・ドブスカの 3氏

リレーションシップ・マーケティング施策により顧客の人間性が蝕まれていること、ITのおかげで戦略の自由度は広がったが、かえって顧客は逃げてしまい、CRMもワン・トゥ・ワンもお題目で終わってしまうと指摘し、顧客の論理に立った真の顧客戦略を再考している論文です。

※こちらはDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)会員以外は有料(税込み¥880)です。

ちなみに英語の論文が読めるのであればこちらの「Customer engagement : transactional vs. relationship marketing」などもおすすめです。

カスタマーマーケティングって実はリレーションシップマーケティングが元になっている?

最近はカスタマーマーケティングという言葉もよく目にします。定義については、Googleで検索1位にくる記事を見ても、英語検索で出てくる記事をみても、ほとんどリレーションシップマーケティングと同じ意味合いです。

例:

『顧客マーケティングとは既存の顧客を対象としたマーケティング活動やキャンペーンのことで、特にリテンション、顧客ロイヤルティ、アドボカシー、成長、コミュニティへの参加を促進するために設計されています』Groovehqより和訳・引用)。

ただし、リレーションシップマーケティングが既存顧客との関係を重視するマーケティングではあるものの広義では、新規見込み客との関係性も含んでいるのですが、カスタマーマーケティングは既存顧客のみを対象と言い切っているところが現状の相違点かと思います。そのため、実践的な内容の記事が多く見受けられます。

2021年2月時点では「カスタマー・マーケティング・メソッド」の1冊が登場しています。パレートの法則(80対20の法則)を基にカスタマー・ピラミッドを作成し顧客を選別し収益を生み出す体質を作る手法を解説しており、マーケティングでも営業部門でも応用しやすい内容になっています。

 

カスタマー・マーケティング・メソッドの本

(画像出典:東洋経済新報社

 

リレーションシップマーケティングの研究が半世紀続いている一方、カスタマーマーケティングについての研究文献、書籍の数はあまりないことから、リレーションシップマーケティングから派生した概念だと考えられます。

使われだしてから歴史が浅い用語の定義がばらつくのはよくあることですが、興味深いのは昨今「カスタマーマーケティング」という職種名が増えてきたことです。

例:サイボウズ社の「カスタマーマーケティング」求人内容

 

サイボウズ社の求人

(出典:サイボウズ社

 

上記以外にも先端IT企業の求人が目立ちます。求人内容を見てもリテンションだけでなく既存顧客との関係性を軸にビジネスを拡大していく方向であることが多く、先進的な企業が既存顧客との関係をこれまで以上に重要視し、新たな関係性の在り方を追求していることがうかがえます。

カスタマーサクセスの次にくるスタマーサクセスをスケールさせるという表現もされていることから、おそらく、今後ますますこの種の求人は増えていくでしょう。

まとめ

近年の顧客は「単なる製品・サービスを購入して活用する購買者」ではなくなりました。情報収集力がありネットワークを持つ顧客は、製品・サービスのファン、客観的なレビュアー、シビアな鑑識眼を持つメディアのいずれにもなりえます。顧客の声が業績に与える影響は、これまでよりはるかに大きくなっています。

しかし、企業が顧客の声を聴き続け、真摯に製品・サービスの品質を向上させていくならば、おそらく顧客は心強いパートナー、応援者でい続けてくれるでしょう。顧客の要望をサービスに反映させ続けることが生命線のSaaS企業にとって、リレーションシップマーケティングに投資することは極めて重要です。

戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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