THE MODELl型と呼ばれる分業型営業組織の普及に従い、昨今特にSaaS業界で注目を集めている「インサイドセールス」ですが、このインサイドセールスにも「SDR」「BDR」と分類される種類があるのをご存知でしょうか?
「SDR」と「BDR」は同じインサイドセールスでも、ターゲットとする対象やアプローチの仕方が全く異なります。この記事では両者の性質や役割の違いから、BtoBのSaaS企業における具体的な仕事内容や導入のポイントについて詳しく解説します。
従来の営業の役割を分業したうちのひとつであるインサイドセールスは、さらにその業務内容によって「SDR」と「BDR」に細分化されます。
SDRとは、「Sales Development Representative」を略したもので、一般に「反響型」と呼ばれるインサイドセールスのスタイルです。
インバウンド型のインサイドセールスとも呼ばれ、マーケティング部門が集めたリードを育成・選別し確度の高いもの(ホットリード)のみをフィールドセールスへ引き継ぐことを主な役割としており、日本で一般的に「インサイドセールス」として認識されているものの多くはこのSDRを指します。
SDRが引き継ぐリードは、インバウンドマーケティングによりリード側が既に何かしらのアクション(問い合わせ、資料請求など)を起こしており、スタート時点で購入意欲が比較的高いことが多いとされます。反面、熱が冷める前にスピーディにコンタクトを行う必要があるため、大量のリードを効率よく捌く、という印象が強いスタイルでしょう。
BDRとは、「Business Development Representative」の略で、一般に「新規開拓型」と呼ばれるアウトバウンド重視のインサイドセールスのスタイルです。リードからのアクションを待たず、自社がターゲットとする企業に対して積極的にアプローチを行います。
不特定多数のリードから高確度の見込み客を探すのではなく、自社が取引を望む企業へ直接アプローチをかけるため、受注した時のリターンはより大きなものとなります。反面、ターゲットの購入意欲が低い段階(コールドリード)からのスタートとなるため、受注確率や難易度が高くなりやすく、担当者のスキル依存度や戦略的なアプローチの必要性が高いといった特徴があります。
インターネットの普及で買い手・売り手ともに情報収集力が著しく向上したことにより、それを逆手に取るインバウンド型のマーケティングやセールスに注目が集まるようになりました。
日本国内でもTHE MODEL型と呼ばれる分業型営業組織についての記事をよく見かけるようになっており、インバウンドマーケティングで大量に取得したリードに対してSDRがコンタクトを行う、といったスタイルはSaaS企業を中心に新たなトレンドとなっているようです。
一方でインバウンドにリードを収集するスタイルは、デメリットも多く見つかってきているのが事実です。後述しますが、対象が個人やSMB(中小企業)に偏ってしまいがちな傾向があります。また、SMB企業は売上げの規模や安定性に難があり、SaaS企業の多くが採用しているサブスクリプションモデルの解約率も高くなりがち、といった特性があります。
これらのデメリットをカバーするためには、ターゲットをより売上げ規模が大きく解約率の低い契約を結べるエンタープライズ(大企業)層へ移行する必要があります。後述するBDRおよびABM戦略は、そのような特定の企業をターゲットとした営業活動を得意とするインサイドセールスですので、日本でも今後一層注目度が高くなっていくことが予想できます。
「良質なリードを次工程(フィールドセールス)へできるだけ多く引き継ぎ、営業全体の売上げ向上を図る」という点で、ゴールとする出口は同じと言えるSDRとBDRですが、そのアプローチの仕方に大きな違いがあります。ここでは両者の違いに注目して深掘りをしてみましょう。
SDRとBDRはその性質上、ターゲットとする対象が異なります。SDRが得意とするターゲット対象は主にSMB(中小企業)です。
『2020年版中小企業白書』によると、日本における企業の99.7%が中小企業、大企業は残り0.3%ですから、SMB層をターゲットとすると案件数を稼ぎやすく、受注の総数も自ずと多くなります。ただし、SMB層は資金力が低いことが多く、一件ごとの受注単価や継続率は低くなりがちというデメリットがあります。
BDRは主にエンタープライズ(大企業)層へターゲットを絞ります。大企業は数が非常に少なく、その分案件数・受注数も少なくなりがちです。しかし大企業は一件ごとの受注単価・継続率が高く、一件でも受注できたら安定した大きな利益が見込めるのがメリットです。
SaaS企業の多くが採用しているサブスクリプションモデルにおいては、サービスの「解約率」が売上げに大きな影響を及ぼすのは想像に難くありません。『for Entrepreneurs』による300社以上のSaaS企業を対象としたリサーチでは、契約金額が大きい大企業ほど契約継続期間は長くなり、また解約率も大きく減少するという結果が出ています。
(出典: for Entrepreneurs)
(出典: for Entrepreneurs)
(出典: Tomasz Tunguz)
SDRのインサイドセールスを語る上でよく聞くのが「リードジェネレーション(Lead Generation)」という言葉です。リードジェネレーションでは見込み客をリード(人)ベースで捉え、個人にプロダクトを「認識してもらうこと」からスタートし、実際に購入してもらうまでの導線を追います。
対して、BDRを理解する上で重要となるのは、ABM(Account Based Marketing)というコンセプトです。リードABMでは、その名の通りアカウント(企業)に焦点を絞ってマーケティング・セールス活動を行います。ターゲットとする企業を特定し、ターゲットに特化した戦略で集中的にアプローチする方法です。
リードジェネレーションが不特定多数のリードから受注を「掬い上げる」スタイルだとしたら、ABMはより積極的に受注を「狩りに行く」スタイルと言えるかもしれません。
(出典: Prospect Hunter)
実際にBDRに求められるのはどのようなことなのでしょうか? ここではBDRの役割と具体的な仕事内容について解説します。
BDRの役割の中でも、特に重要となるポイントは以下の5つです。
BDRは「新規獲得型」と呼ばれる通り、自社のターゲティングに合う新規の見込み客の獲得が主な仕事です。ターゲットとする企業に対して情報収集を行い、意思決定のプロセスやキーマンを把握し、そのターゲットに特化した戦略を実施します。
アウトバウンドに新規案件の獲得を行うため、コールなどの提案時にプロダクトの魅了を相手に伝えられる営業会話力に加え、ターゲットに合わせ、オンライン・オフライン両方の手法を臨機応変に立案・実施するスキルや、営業の他部署と綿密に連携を取るためのコミュニケーション能力も必要となるでしょう。
また効率よく案件情報を整理するため、CRM、MA、SFAツールなどを扱えるITリテラシーも必要となります。
BDRと対比して、SDRにはどのようなことが求められるのでしょうか? ここではSDRの役割と仕事内容について解説します。
SDRが分業型営業組織の中で求められる役割は、大きく以下の3つに分けられます。
SDRの主な仕事は、マーケティング部門が集めたリードを整理・育成・選別し確度の高いもの(ホットリード)のみをフィールドセールスへ引き継ぐことです。
一般的にはインバウンド(プル型ともいう)マーケティングにより収集されたリードに対して、メールやコールなどでファーストコンタクトを行います。
BDRに比べ扱うリードの購入意欲が比較的高い状態からスタートすることが多い反面、大量のリードに対し相手の熱が冷める前にスピーディにコンタクトを行う必要があり、時間効率が求められる側面もあります。CRMツールやIP電話システムなどを用いて、時間効率を最大化する重要性が自ずと高くなるでしょう。
SDRとBDRの2種類のインサイドセールスへ人材を配置する上で、BtoBのSaaS企業が考慮すべき点のひとつとして、キャリアパスがあるでしょう。どのような順番でSDRとBDRのキャリアパスを設定すべきか、企業によって考え方はさまざまでしょうが、参考としてSalesforce社が設定するキャリアパスを紹介します。
(出典: Salesforce)
Salesforce社では、SDR→BDR→フィールドセールス→マネージャーという順番で人材を育成しています。これはSDRに比べBDRの方が臨機応変なスキルを必要とするという側面に加え、実際の営業プロセスの順番に沿って部署を移ることで、営業組織全体に対する理解度を深めるという意図もあります。
(出典: kalungi)
SDRとBDRの両方に必要不可欠となるのが、ITツールの活用です。膨大なデータの管理や複雑な分析などを自動的に行ってくれるITツールはインサイドセールスのみならず、デジタルセールスには欠かせないものとなっています。
ここではSDRとBDRの業務効率化を助けるツールを紹介します。
社員が獲得した名刺データを一括管理し、社内外の人脈を可視化することができるツールです。ターゲット企業のキーマンの情報を組織構造とともに把握することができ、ターゲットに向けた詳細な戦略立案の手助けとなるでしょう。
『Sansan』獲得した名刺データを社内で一括管理
インサイドセールスが案件化したリードを、実際に商談のクロージングを行うフィールドセールスに引き継ぐ際には、リードに関する情報が正確に管理されている必要があります。CRM・SFAツールを使用して見込み顧客に関するさまざまな情報を案件ごと、商談のフェーズごとに管理することは、営業チーム全体の売上げ拡大を図る上で大きな助けとなるでしょう。
大量のリードに対してコールをかける際、一件コールが終わるごとに通話内容を手動で記録していては時間がかかってしまい、インサイドセールスの業務効率を最大化することはできません。IP電話ツールを使えば、通話内容を連携するCRMやSFAに自動的に記録してくれます。
また、通話データを一括管理・分析することができるものもあり、チーム全体のコールレベルを引き上げる手助けにもなるでしょう。
ABMマーケティングツールは、特にBDR業務を遂行する上で大きな助けとなるツールです。取り込んだ顧客データを分析し、自社と親和性が高く受注確度の高い企業を抽出してくれます。新規開拓のためのターゲット特定に大きな助けとなるでしょう。
(出典: Liskul)
SDRとBDRは、見込み客の獲得方法という営業活動の入り口にあたる部分が異なります。主にマーケティング部門がインバウンドで収集してきたリードを引き継ぐSDRに対し、アウトバウンド型のBDRは自らがターゲットを選定し新規の見込み客獲得のために動きます。
しかし入り口が異なるこの2つの型は、最終的に案件をフィールドセールスに引き継ぎ商談のクロージングを委ねるという点で出口部分が共通します。マーケティングからインサイドセールスへ引き継がれるリード(MQL)、インサイドセールスからフィールドセールスへ引き継がれるリード(SQL)の判定基準が2つの型でバラバラだと、次工程で混乱が起きかねません。
営業プロセス全体での業務の整合性を取るためには、BDRはマーケティングと営業をつなぐ架け橋の役割も担うということを意識し、マーケティング部隊と緊密にコミュニケーションを取り合い、お互いに連携する必要があるでしょう。
いかがでしたでしょうか? 日本ではインサイドセールスというとインバウンド型のSDRが広く認識されていますが、SaaS企業が継続的に売上げを拡大していくためには、インバウンド型だけでなく自社と親和性の高い企業に向けて積極的に新規開拓を行うアウトバウンド型の営業も重要となります。
BDRは求められる役割や必要となるスキルも多く、人材獲得や育成の難易度はSDRに比べて高くなりがちですが、強いBDR部隊を組織することができれば、エンタープライズの新規開拓から安定した収益を獲得し、SaaSビジネスで発生しがちなSMB市場での頭打ちを避けることができるかもしれません。この機会に検討されてみてはいかがでしょうか?