ここ2〜3年でオウンドメディアを始める企業が急速に増えてきました。日本最大級のオウンドメディア紹介サイト『オウンドメディアライブラリ』は掲載数800以上、オウンドメディアカンファレンスなども開催されています。
氾濫とまではいきませんがこれだけ増えてくると、その領域で読んでもらえるのはなかなか大変になってきます。オウンドメディアのスタイル、活用できるプラットフォームも多様になってきたので、これから立ち上げる方々は選択肢が多すぎて、逆に迷われることもあるでしょう。
そこで本記事では、最近のオウンドメディアの成功事例と参考サイトを紹介します。自社の目的にあったオウンドメディアを運営する際の参考にしてください。
オウンドメディアは、一般に企業がオンライン上で運営しているメディアやBlogを指して言われます。しかし、実は他にもさまざまなスタイルのオウンドメディアがあります。
オウンドメディアとは、英語の語源を紐とくと「Owned(所有している)」+「Media(媒体)」なので、単純に「所有しているメディア」という意味です。一般には、企業が運営しているメディアを指しますが、NPO、大学、自治体のオウンドメディアもあるので、「組織が所有しているメディア」と解釈してよいでしょう。
所有しているという意味なので対象は幅広く、多種多彩なオウンドメディアがあります。例えば、多くの人がオウンドメディアと呼ぶナレッジサイト、ニュースサイト、企業ブログ以外にも、広義ではメールマガジン、SNSアカウント、noteアカウント、紙メディアである広報誌、社内報、会社案内などもオウンドメディアに含まれます。
オウンドメディアは最近伸びてきたメディアなので、現状、使う企業によって定義がばらついています。広義では企業が所有している媒体すべて、狭義では企業運営のオンラインメディアという解釈です。微妙に各社意味が異なるので、市場調査、アンケート調査の結果を見る際は、オウンドメディアの定義を意識して確認しましょう。
オウンドメディア以外に企業がマーケティングに活用できるメディアに「アーンドメディア」「ペイドメディア」があります。
noteプロデューサーの徳力基彦(tokurik)さんの記事で、このトリプルメディアそれぞれの定義、オウンドメディアが日本に導入された際の定義、そこから意味がやや誤解されていったことなどが詳しく述べられています。
内容を引用させていただくと、アーンドメディア、ペイドメディアの違い、3つの媒体の概念は以下のとおりで、メディアによっては重複する機能を持ちます。
(引用:「オウンドメディア」の定義について、英語のWikipediaには、ちゃんとオフラインのケースも並んでいたのでご紹介 - 徳力基彦のnote)
また、具体的にどんなメディアが該当するかは以下のとおりです(オウンドメディアは前項を参照してください)。
企業や代理店によって生成された、企業やブランドに関連するメディア活動
オフライン事例:
・伝統的な広告(例:テレビ、ラジオ、新聞や雑誌の印刷広告、屋外広告)
・スポンサーシップ
・ダイレクトメール
オンライン事例
・ディスプレイ/バナー広告
・検索広告(例:Google広告)
・SNS広告(例:Facebook広告)
・メール広告
企業や代理店が直接生成したのではなく、顧客やジャーナリストによって生成された企業やブランドに関連するメディア活動
オフライン事例
・ニュースメディアのカバー
・専門媒体における露出
・専門媒体における評価やレビュー
・顧客間における商品に関するクチコミやアドバイス、推奨
・商品をお互いに見せ合ったり説明してくれる消費者
オンライン事例
・デジタルメディアにおける露出
・オンライン上のクチコミ
・オンラインコミュニティやSNSにおける投稿
・オンラインのレビューやクチコミサイト
(引用:「オウンドメディア」の定義について、英語のWikipediaには、ちゃんとオフラインのケースも並んでいたのでご紹介 - 徳力基彦のnote)
オウンドメディアは、立ち上げるのは比較的容易ですが、続けること、求めている成果を出すことは決して簡単ではありません。ここでは、オウンドメディア立ち上げの成功のステップを解説します。
まずは、オウンドメディアの役割を明文化すること。必ず文章にしましょう。
経営層から「なんでうちのマーケティングってオウンドメディアとか作らないの? 」と言われて、なんとなくユーザーに「役立つ情報を出していけばいいかな」くらいのふわっとした認識でスタートしてしまったら、そこで苦難の道を歩み出したと言えるでしょう。
オウンドメディアはいろいろな用途に活用できるからこそ、しっかり役割を定義して始める必要があります。中途半端なポジションになると、成果が上がりません。あれもこれもできると思うと印象が散漫になり、どれも印象が残らなくなって、成果今一歩となりやすいのです。
まず、オウンドメディアを出すことで何を期待するのか、目的をしぼりこみましょう。
代表的な役割は以下4つ。テーマを明確にすればエッジがたつのでそこで注目を集めることでき、読者が増え、結果的に他の効果も出てきます。
そもそも、誰にオウンドメディアを読んでもらいたいのでしょうか?仮にBtoBのリード獲得であれば、学生や主婦ではないでしょうし、ビジネスマンというくくりでも広すぎます。
リード獲得目的の場合、ペルソナ(理想の見込み客プロファイル)とカスタマージャーニー(ペルソナの購買行動)をきちんと可視化しなければ、読者が増えても、たまに記事がバズっても、肝心のリードは増えません。それなのに読者が増えるほどに仕事は増えて大変になり、一体何をしているんだろう……ということになります。
ペルソナを解像度高く作成しましょう。作成はそれほど難しくありません。ペルソナの見本は今の自社のロイヤル顧客に近いので、顧客インタビューをすることでかなりリアリティあるペルソナが設定できます。
役職や勤めている企業の規模、業種、日頃の悩みや課題、ITリテラシー、活用しているSNS、情報集手方法などをテンプレートやペルソナ作成ツールを使って作成します。顔写真もつけて、名前もつけましょう。このように、現実にいそうなペルソナを頭に浮かべながら、オウンドメディアの構成を考え、メッセージを発信することが重要なのです。
HubSpotの無料ペルソナ作成ツール
(出典:HubSpot)
次に、ペルソナの購買行動を可視化するためのカスタマージャーニーを書きましょう。自分が大きな買い物をしたときを思い返すとイメージできると思いますが、最初に欲しい情報と後半で欲しい情報は異なります。
見込み客は最初にどんなキーワードでググるでしょうか? TwitterやYouTube検索をするでしょうか? 上司に稟議を上げるために必要なエビデンスは何でしょうか? 見込み客の欲しい情報は変化します。
購買ステージのステップごとに、ペルソナが存在しているチャネルに役立つコンテンツを配信していくことはマスト。そうしないと、ペルソナと出会えませんし、出会えても途中で情報が得られないとわかれば、他のサイトに向かうかもしれないからです。
自社が運営すべきオウンドメディアの種類(ブログ、メールマガジン、SNS等が)決まったら、担当者を決めて内製するか、半内製するか、完全にアウトソーシングするか決めましょう。このオウンドメディア運営の体制づくりが非常に重要です。
方法としては、内製、アウトソーシング、半内製などがあります。自社のスタッフの得意領域によっても異なりますが、丸投げは基本的に避けたいところです。内部にノウハウが蓄積されないですし、提供されている成果を正しくジャッジできません。
基本は「半内製」をおすすめします。
また、どの種類のオウンドメディアであれ、魅力あるテーマを考える必要があり、細かいタスクも多く時間がかかります。1人にまかせるのではなく、ある程度余裕を持たせた制作体制を整えることが大切です。
オウンドメディアは長期戦。高品質のコンテンツを継続的に制作するためには、無理なく続けられる布陣を引いておくことがポイントなのです。
以下は体制の一例です。
メールマガジン、SNSなどはナレッジメディアよりは労力がかからないので、業務だけを見れば1人で半内製化で進めることも可能です。しかし、半内製であってもダブルチェックできる体制のほうが望ましいと言えます。
このように、目標を明確にし制作体制を整え、役割分担を決めた上で、コンテンツの内容を組み立てます。コンテンツを企画する際は以下のトピッククラスター戦略、バイイングセンター(DMU)を意識してください。
ブログであれ、YouTubeであれ、オウンドメディアはGoogleの検索基準を意識する必要があります。ただ、漫然と記事テーマを出していくのではなく、「その道のプロ」とGoogleが認識するように、コンテンツを構造化することがポイントです。
簡単に言えば、ビッグワードを狙ったコンテンツ(ピラーコンテンツ)と、それに対して、10個以上のロングテールを狙ったクラスターコンテンツを作成し紐づけることです。
ブログ記事を量産し続けても、構造化していないとあまりSEOの成果が出ません。note記事で詳しく紹介していますので、ぜひこのトピッククラスター戦略は実施してください。
BtoB企業の場合、コンテンツ制作の際はバイイングセンター(DMU)も意識する必要があります。少し規模の大きい企業になると数人の購買関係者がいるものです。
担当者が「ぜひやりましょう」といっても、上長、財務部、法務部、他役員などから茶々が入り、承認が下りないことは珍しくありません。不景気ムードになっているため、さらに方々からの圧力は強まるでしょう。
最近の米国Inbox Insight社のレポート「ABMのマーケティング調査レポート」で、B2Bマーケターたちは、コンバージョンを妨げるおもな要因のひとつに「DMUのメンバー全員を織り込むのを怠ったこと」をあげています。自社組織を見ればわかるように、彼らは必ず出てきます。
DMUには、イニシエイター、決裁者、購入者、インフルエンサー、ゲートキーパー、ユーザーの6つの役割を持つ人がいます。稟議が回るシーンを想定して、彼らが確認したいであろうテーマのコンテンツをあらかじめ織り込み、用意しておく必要があるのです。
この段階の大半の確認事項は、実務的な内容より費用対効果、コンプライアンス、企業としての信頼性ですので、オウンドメディアのひとつである公式Webサイトも充実させてください。
以下は一例です。
ここでは、オウンドメディアの成功事例を参考サイトを紹介しながら解説します。
(出典:https://www.okan-media.jp/)
運営企業:株式会社OKAN
特徴:法人向け置き型社食サービス「オフィスおかん」を提供している株式会社OKANのオウンドメディア「おかんの給湯室」は、企業の健康経営や福利厚生などに関する記事を中心に発信しているオウンドメディアです。
国の後押しもあり、大企業だけでなく中小企業にも健康経営を進める企業が増え続ける昨今。どのようなアプローチをすればよいか迷う多くの人事担当者にとって、「おかんの給湯室」は有益な情報サイトとなっています。人事向けのナレッジサイトは数多くありますが総合的なサイトが多く、健康経営や福利厚生に特化した情報が「おかんの給湯室」ほど網羅されていないからです。
実務担当者にとって非常に助かるオウンドメディアであり、結果的にリード獲得にも成功しています。ペルソナを明確にし、ペルソナが悩んでいる数々のテーマに沿って役立つコンテンツを配信し続けることで、自社の認知度を高め、見込み客獲得に成功している例と言えるでしょう。
運営企業:LIG株式会社
特徴:LIG公式サイトのページにある、LIGブログは、もともとはWeb制作のお問合せ獲得の役割を担っていたブログだそうです。しかし、えっと思うような面白記事が非常に多く、もちろん実務に役立つコンテンツもあって、雑誌的な面白さがあります。
LIGブログはその編集の奇抜さから、Webメディアとして早々に認知され、オウンドメディアが少ない時代、面白いブログメディアとして注目され、メディアとしての権威性を獲得しました。ブログが成長し、マネタイズにも成功し、さらにブログに予算を投下できるようになるという好循環。ブログを起点に問合せや収益アップ、新しい事業の誕生など、いろいろな波及効果も生まれました。
上野の小さなWeb制作会社が、オウンドメディア(自社ブログ)によって権威性を持ち、大きな成功をあげた例だと言えるでしょう。
(出典:https://www.youtube.com/channel/UCw0-UD5wPjtaVF6MACqKwSA)
運営企業:スマートキャンプ株式会社
特徴:「BOXIL CHANNEL」は、SaaS比較サイト「BOXIL SaaS(ボクシル サース)」を運営するスマートキャンプ株式会社が、2020年3月から運営しているYouTubeアカウントです。マーケターの方なら、ググッてBOXILの記事を読んだことがある方も多いと思いますが、YouTubeでも高品質でわかりやすいコンテンツを発信しています。
ただし、違う点は2022年12月時点でYouTubeで「SaaS」と検索しても、SaaSに関する情報はわずかであり、ブルーオーシャンということです。海外情報が多く、フリーランスの人か僅かな企業しか発信しておらず、「BOXIL CHANNEL」のライバルになりそうなアカウントは見当たりません。
ユーザーの検索手段がリッチコンテンツ(動画、音声)にシフトしている時代、早々に認知を広げるべく、YouTubeを展開している「BOXIL CHANNEL」は、SaaSメディアとしてソートリーダーシップをとっていくと思われます。
(出典:https://wacul.co.jp/lab/report/)
運営企業:株式会社WACUL
特徴:DXソリューション「AIアナリスト」の提供やDXコンサルティングサービスを行う株式会社WACULのオウンドメディア「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」は、非常にシンプルな、研究レポート主体のオウンドメディアです。
内容は、企業のDXの実態調査、BtoBオンラインイベントの実態調査、企業Webサイト制作の実態調査など、企業のマーケティング担当者が知りたいデータばかりです。
デジタルマーケティングの進化を常にキャッチアップしたい、自社のデジタルマーケティングをよりブラッシュアップしたいマーケティング担当者にとって非常に役立ちます。
WACUL社は研究顧問・パートナーにアカデミック、ビジネス領域の実力者を招聘しており、たしかな調査のもとレポートを発行しているため、数ある情報源の中でも信頼性が高く、マーケターは安心して活用できます。
内容が本当に価値があれば、必要以上に体裁にこだわらずテキスト情報だけであっても、十分効果があるとわからせてくれる成功例です。
運営企業:NEC(日本電気株式会社)
特徴:IoT、AIが普及しつつある日本の今とこれからのIoT社会をリアルに見せてくれるオウンドメディアです。
テーマは幅広く、実用的なものもありますが、いわゆる先端技術、革新的テクノロジー、破壊的テクノロジーと言われるような領域の技術に関する内容がメイン。それをわかりやすく伝えています。
NEC色は一切出していません。多くのBtoB企業のオウンドメディアはリード獲得かブランディング目的ですが、wisdomは市場の創造、新しい市場についてのユーザーの啓蒙に注力しているように見えます。
これができるのは大手企業ならではの資金力、そして、未来の社会のさまざまな場面で活用される可能性が高い、IoT社会で開花する技術力があるからだと考えます。NECは顔認証システムをはじめIoT社会のインフラになる技術を豊富に蓄積しています。
BtoBにおいてDX化が促進し、BtoCにおいて人々が新しいIoT社会を自然に受け入れられるような変化を起こせれば、それは後々NECの追い風になるでしょう。新たなテクノロジーをわかりやすく伝え、人々を啓もうする、新しい市場を作る下準備のようなことをオウンドメディアでできています。
実際このような先端技術は、いわゆるメディア業界に詳しい記者が少ないため(広く浅くになるので)、先端を走っている企業だからこそ運営できるオウンドメディアと言えます。
(出典:https://twitter.com/SHARP_JP)
運営企業:シャープ株式会社
特徴:会員数80万人以上、Twitter運用の成功例としてしばしば紹介されるシャープのTwitterアカウント。
例えば、12月なら「ボーナスという幸運に巡りあったみなさま。その使い道を虎視眈々と狙っています。」というような、フランクなツィートが親しみやすく、かつリプライにまめに返信する担当者のコミュニケーション能力もあって、活況です。
2022年10月には、「死ぬほど嫌いな家事を教えて」というtweetに1日1万件のリプライを集めました。顧客アンケート調査、匿名の市場調査などをはるかに上回る調査能力です。
社風も違えば個人のキャラクターも異なるので、そのまま真似る必要はないものの、SNSの活用方法としては見習うところがありすぎるくらいあります。
Twitterの企業アカウントは今のところ無料。それにも関わらず、エンゲージメント向上、リレーションシップの構築、ファンづくり、顧客、一般人とのプロダクトの共創、ファンづくりなどさまざまなマーケティング成果を上げているのです。
(https://www.youtube.com/watch?v=O-iNlBwGP5g)
運営組織:農林水産省 大臣官房広報評価課広報室
特徴:農林水産省のYouTubeアカウント「タガヤセキュウシュウ」は、若い職員たちの官僚とは思えぬコミカルさで人気で、チャンネル登録者は16万人以上。
これを見ると、人こそが最強のメディアであるなとしみじみ感じます。
職員のコミカルなやりとり、登場する農林水産省の人たちの言動は、日頃は不祥事などでたたかれていたり、尊大なイメージがあったりする官僚像をくつがえし、素朴さやあふれる個性、仕事を愛している様子を伝えてくれます。人に魅力があるので、紹介している農林水産物の良さも伝わります。
結果的に官庁のイメージアップ、採用ブランディング(応募したいというコメントが多数)、ユーザー(国民)のエンゲージメント向上に大成功していると言えるでしょう。
動画内で「予算が限られているなかで」という発言が出てきます。官公庁は、予算も多くなく、炎上したら世間から最もたたかれやすい組織です。そんな官公庁がSNSで(YouTubeだけでなく、Instagram、Twitter、Facebookアカウントもたくさん活用)広報活動に成功していることは、アーンドメディア、オウンドメディアに及び腰になりがちなBtoB企業の励みになるかと思います。
オウンドメディアを持つ企業が急速に増えてきました。オウンドメディアの種類も、Blog、動画、noteのようなプラットフォームの活用など、多種多彩になっています。
自社でコンテンツの編集が可能であり、コストパフォーマンスにも優れたオウンドメディアは、有料のペイドメディア、良い評判を拡散してくれるアーンドメディアと組み合わせて活用すれば、さまざまな恩恵をもたらします。軌道に乗れば、リード獲得やブランディング以外にも、個別にさまざまな問合せが増え、化学反応が起き、事業成長につながるでしょう。
ただ、オウンドメディアは、始めようと思えばプラットフォームを活用してすぐ始めることができるため、安易に始めててしまいゆきづまるケースが多々あります。本当にオウンドメディアで成果を出したいのであれば、オウンドメディアの役割の明文化、ペルソナとカスタマージャーニーの作成、運用体制の明文化は必須です。
自社の目的を明文化してからぜひスタートしてください。長期で継続できてこそ資産価値が出てくるのでで、無理なく継続できる体制も作っていきましょう。