ソフトウェア、自動車、飲食店、BtoB、BtoCとさまざまな業界でサブスクリプションサービスが増加しています。
株式会社矢野経済研究所の調査では、日本の2020年度のサブスクリプションサービス市場は、前年度比28.3%増の8759億6000万円。さらに2021年度は13.8%増の9965億円になると予測されています。
サブスクリプションサービスは、企業から見れば新規開拓が比較的容易で、長期的に契約を継続できれば大きな収益をあげられるビジネスモデルです。ユーザーにとっては低コストでサービスを使い始め、かつ解約が容易というメリットがあります。
そのため、企業視点では「売る前」だけではなく「売ったあと」の顧客とのリレーションシップ(関係性)により力を入れる必要が出てきます。
マーケティング・営業活動の力のいれどころが従来のビジネスモデルとは大きく変化してきたことに留意しましょう。本記事では、サブスクリプション時代において重要な「カスタマーリレーションシップ」について解説します。
カスタマーリレーションシップとは?
カスタマーリレーションシップとは「企業と顧客との信頼関係」のことを指します。ビジネスの基本であり、企業のマーケティング・営業活動・サポートなど顧客との接点を持つすべての領域で最も重要な概念だといえるでしょう。
1:5の法則、5:25の法則で知られるように、一から新規開拓をするよりも既存顧客から売上げを上げるほうが何倍も効率的です。企業は顧客との長期的な信頼関係を作ることで、売上げ拡大の基盤を作ることができます。
カスタマーリレーションシップの重要性
SNS時代、サブスクリプション時代には、カスタマーリレーションシップはますます重要になっていきます。
多くのサブスクリプションは月単位の契約なので、顧客はサービスに不満があればすぐに解約できます。サービスを使い続けてもらうためには、顧客に信頼され続けなければなりません。
加えてSNS社会では、一顧客がFacebook、TwitterなどのSNSなどを通じて強い発信力、拡散力を持ち企業に大きな影響を及ぼすようになりました。
米国Salesforce社の調査によると62%の顧客は「悪い経験を他の人と共有する」と答えています。また、72%の顧客が「良い体験を他の人と共有する」という結果が出ています。ポジティブな評価のほうが拡散されやすいという結果は、企業にとっても喜ばしいことでしょう。
いずれにせよ、製品・サービスが顧客から良い評価を得ればSNSやレビューサイトから評判が拡散し、実際の売上げにつながるでしょう。逆にマイナスの評価が拡散されると、製品・サービスを検討している見込み客にブレーキがかかります。既存顧客の解約率が増す可能性も高いでしょう。
今や顧客の評判が売上げにダイレクトに影響する時代になったということです。
(出典:Salesforce)
ファネルからフライホイールへ
顧客の購買行動モデルは大きく変化しました。現在は購買後の顧客の活動が非常に活発になり、企業にとっても重要です。
この顧客の影響力の増大、顧客の購買行動の変化は、これまでのファネルのような購買モデルでは表せなくなってきています。このような環境変化のなか、HubSpotは「フライホイール」という新しい購買行動モデルを提唱しています。
顧客をAttract(ひきつけ)、Engage(信頼関係をつくり)、Delight(喜んでもらう)ことで、顧客が製品・サービスの推奨者となり新規のお客様が増え続けていくサイクルを表す購買行動モデルです。
顧客満足度を高めることで、顧客が顧客を呼び込んていく循環型モデルであり、SNS時代、サブスクリプション時代に適したモデルだといえるでしょう。
(参照:HubSpot)
企業と顧客、現実の信頼関係
ビジネスにおいて顧客との信頼関係が重要なことはいうまでもなく、昔から多くの企業が「お客様のために〇〇を」という理念を掲げてきました。
しかし、残念ながら現実には顧客は企業の発信する情報も、企業の窓口である営業担当者も、あまり信頼していないようです。
たとえば、HubSpotの2018年の調査では、ビジネスソフト領域で顧客が信頼する情報源のトップは「口コミ」で55%、「顧客レビュー」「メディアの記事」と続き営業担当者を頼りにしている率はわずか22%にすぎません。
(出典:HubSpot)
これは営業担当者の質が低下したのではなく、ネットワーク社会になったことで顧客が情報を得る手段が多様化したためかと思われます。
要はごまかしのきかない時代になったともいえます。現代の企業は、今一度自社のカスタマーリレーションシップを見直す必要性に迫られているといえるでしょう。
CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)とは?
CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)と聞くと、ITシステムの印象が強いかもしれません。しかし、本来は顧客と長期にわたり良好な関係を築きながらLTV(顧客生涯価値)を最大化し、売上げや利益を上げていく経営手法のことを指します。
特定の顧客(ロイヤルカスタマー)との関係を重視するなど、顧客を分類して優先順位をつけたマーケティング・営業活動を行っていきます。クラウドシステムの「CRM」は、あくまで顧客データベースを構築して顧客のニーズを分析するためのツールの一つです。
(1)LTV(Life Time Value)の最大化(RFM分析)
CRMでは、LTV(顧客生涯価値)を最大化することを目的とします。ちなみにLTVとは、顧客の一生ではなく取引を開始してから終了するまでの間(カスタマ―ライフサイクル)に、顧客から得られる価値の合計のことです。
自社のロイヤルカスタマーを見つけLTVを最大化するためには、カスタマーライフサイクルに沿った営業・マーケティング施策を展開していきます。
(出典:Zendesk)
また、そのためには顧客データを詳細に分析する必要があります。優良顧客を選別する手法のひとつにRFM分析があります。
RFM分析とは、Recency (直近の購入)、Frequency(頻度)、Monetary (購入金額)の 3つの指標で顧客を分析しランクづけする手法です。かんたんにいえば「直近で、頻繁に、高い金額を使ってくれている顧客」を見つけ出すために行います。
もちろん多くの企業で活用されるABC分析でも売上げ金額の多寡で顧客の傾向はつかめますが、RFM分析に比べるとシンプルな分析結果となります。
RFM分析は、「R」の指標があるため顧客の成長過程がつかめます。たとえばコロナ禍のように大きくビジネス環境が変化した場合でも、現在時点を軸にして順調に成長している顧客、逆に離れていきつつある顧客などを把握できるのが特徴です。
(2)企業から顧客に対する価値提供の見直し
顧客の心理も購買行動も、昔とは大きく変わりました。今までと同じようなスタンスのマーケティング・営業施策では、顧客からの信頼度を高めるのはおそらく難しいでしょう。
企業は「カスタマーリレーションシップ」の本質に立ち返って、顧客との信頼関係の在り方を見直し、顧客を本当に大切にする必要があります。
以下の図のように顧客視点にたったマーケティング活動を行い、顧客視点にたった価値の提供をしていきましょう。
(3)データの背景まで分析して施策を考える
施策を考えるときに留意するべきことは、分析とはあくまで施策を考える材料を出すための一工程にすぎないことです。
データをRFM分析して今時点の優良顧客にアップセル・クロスセルを促し、爆撃のようにメールやコールをすればよいというものではありません。そのようなやり方では、顧客満足向上どころか逆効果になりかねません。
顧客がどの製品・サービスをどのくらいの頻度で購入しているか、担当者からどのような問い合わせがあったか、企業の規模、企業ステージはどこか、業績の伸び具合はどうかなどの背景まで考慮して、分析結果をもとに施策を考えていく必要があります。
派手な広告宣伝よりも製品・サービスの品質が大切です。営業担当者のセールストークよりもWebサイトへの事例の掲載、フリーミアムプランの提供、購入後のサポート強化など、顧客視点にたって自社が各顧客のステージに対して何が提供できるかを考えていきましよう。
サブスクリプションモデルとカスタマリレーションシップの関係
サブスクリプションモデルの特徴は、最初に顧客獲得のためのコストを投資して、サービスを長期的に利用してもらうことで収益を拡大することです。
これまでのビジネスモデルのように契約時点で大きな売り上げが上がるモデルとは異なり、いかに一度取引にいたった顧客に継続利用してもらえるかが勝負になります。
BtoB SaaSであれば顧客に使い続けてもらうためには、新機能の追加、素早いアップデート対応、カスタマーサポート、カスタマーサクセス部門の手厚いサポート、ユーザーコミュニティの支援などさまざまな施策が必要になります。
- 定期的な製品・サービスのアップデート
- 長期取引顧客、ロイヤルカスタマーへの感謝とサポート
- SNS、コミュニティサイトを通じ顧客との信頼関係醸成
- 顧客満足度調査の実施
- 顧客からフィードバックされた意見の製品・サービスへの反映
- カスタマーサポート部門への投資
たとえば、最近はカスタマーサクセス部門を創設する企業が増えましたが、カスタマーリレーションシップは、言葉だけでなく、実際に人やコストを投資することで強化されます。
上記の施策のすべてを実行することはできなくても、手の届く範囲から具体的な施策に落とし込み、実行していくことが何より重要です。
まとめ
サブスクリプション時代、SNS時代になって顧客の購買行動は大きく変化しました。
実際、自分を振り返ってみれば、何かを購入するときには企業の公式WebサイトよりユーザーレビューやSNS上の口コミを信頼したり、いきなり大金を投資するよりもサブスクサービスを利用するのではないでしょうか?
顧客側はどんどん進化しています。最近は目が肥えてきてレビューのやらせを見抜いたり、企業のインフルエンサーを見抜くなど、レビューや口コミすらシビアに評価できる人もいます。
企業がカスタマーリレーションシップを強化するためには、製品・サービスの品質向上に尽力することと、時代に即したマーケティング・営業施策を行う必要があります。
顧客に押しつけるのではなく、顧客が自身で製品・サービスを判断するための正しい情報を提供すること。自社の製品・サービスを愛用してくれる顧客に定期的に感謝の意をカタチにして表明することが大切です。
SNSやコミュニティサイトを通じて得た顧客のフィードバックを製品・サービスの改善に生かしていくことなど、地味ではありますが正しい施策を続けていきましょう。