オンライン上では、比較的見込み客の数を集めることは簡単です。しかし、集まったリードを着実に成約に結びつけるのはなかなか大変で、いわゆる「今すぐ客」はわずか。そこから、ナーチャリング(見込み客育成)というプロセスを行う必要があります。
2015年の、米国マーケティングメディアDemand Genの調査によると、適切なナーチャリング戦略を実行できた企業は、販売機会が20%増加したそうです。いかにナーチャリングが、リードを顧客にかえる重要なプロセスであるかがわかります。
とはいえ、同調査ではマーケターの51%が「ナーチャリングで5回以上のタッチが必要」と回答しているので、多忙な営業マン、マーケターにとって難しいタスクでもあることは事実でしょう。
予算も時間も投下して集めたリードは眠れる宝。仕組を構築してしっかりフォローし、顧客化していくことが大切です。本記事では、ナーチャリング(見込み客育成)とは何か? 意味と重要性、具体的な方法をフェーズごとに解説します。
ナーチャリング(見込み客育成)とは、見込み客(リード)を顧客に転換するまでのプロセスであり、マーケティング手法のひとつです。見込み客と良好な信頼関係を築きながら、商品・サービスへの理解を促進していきます。「リードナーチャリング」とも呼ぶこともあります。
ナーチャリング(見込み客育成)は、英語の「Nurture(ナーチャ):育てる、助成する」という言葉からきています。一度、接点ができたリードと信頼関係を醸成し、自社商品・サービスの購買意欲を高めてもらうことがおもな目的です。
デマンドジェネレーションのプロセスの中では、ナーチャリングは以下のように2ステップ目に位置します。
前述のように、ナーチャリングができているかどうかで案件化率が大きく変わります。2019年のHubSpotの調査でも、74%の企業が「リードを顧客に変えることを向こう1年の最優先事項」と回答しています。
一度接点を持った見込み客(リード)がすぐ購入検討する率は、BtoBの場合それほど高くありません。セールスサイクルにもよりますが半年以内なら早いほうであり、来年以降の検討というケースもよくあります。
営業スタッフは数値目標を背負っているので、どうしてもニーズが明確で近々売上げになりそうなリードを優先します。忙しいのはマーケティング担当者も同様で、ある調査では65%のマーケティング担当者がリードを育成していないとう結果が出ています。
しかし、そのようなリードもフォローしていないでいると、2年以内に他の企業のサービスを利用しているケースが多いのです。リードを育成していない=機会損失です。
ナーチャリングされたリードは、そうでないリードよりも47%多く購買を行うという調査結果もあります。組織的にナーチャリングができている場合、以下の効果が期待できます。
オンラインのナーチャリングは、匿名のリードに対して行うこともあるため、見込み度合の精度は正直リアルな営業活動によるナーチャリングより低くなります。2021年のdatabox社の調査では半数以上の回答者が、リードの40〜70%はまだ購入する準備ができていないと回答しています。それでも量を集めやすいため収益に貢献します。
(出典:databox)
ナーチャリングは案件化率、成約率を向上させる重要施策です。とはいえ、ナーチャリングの成果を出すには、ある程度の条件があります。以下の準備ができていない状態で着手しても成果はあがりません。
ナーチャリングはリードの数がないと機能しません。少ないリードのナーチャリングに力を入れても案件化率がある程度で頭打ちになるので、成果が倍増するわけではないのです。前提として、リードを大量に集める仕組みが必要です。
もし、リードを集められていない状況なら、まずリードを生み出す仕組みを用意しましょう。広告、検索エンジン対策、SNS、オウンドメディア運営などから自社に適した手法を選び、情報を発信しリードを集め続ける仕組みを構築することが先です。
ただし、やみくもにブログを書いたりメルマガを出したり広告出稿するのではなく、事前にペルソナ作成をしていないと、見込み客ではない層を集めてしまうので、注意しましょう。
ペルソナとは、半架空の理想の顧客プロファイルです。BtoBであれば、どのような企業規模の、どのような役職の、どんな課題や志向性をもった人が自社の商品・サービスを愛用するかを考えます。自社の優良顧客を何人かインタビューすると、見えてくるでしょう。
それぞれのペルソナに適したコンテンツを作成することができます。
(出典:HubSpot)
ペルソナを作成したら、ペルソナがどのチャネルを訪問するかなどをカスタマージャーニーを書いて予測しましょう。カスタマージャーニーとは、ペルソナの行動や思考、感情といった動きを認知から購買に至るまで時系列で見える化したものです。
ナーチャリングは、見込み客の心理・関心にあわせて信頼関係を醸成していくフェーズです。当然、真剣に検討しているリードは、時間の経過とともに関心度も知りたい情報も変化します。
単調に同じようなコンテンツを送るのではなく、段差をつけて必要な情報を送信できるようにする必要があります。カスタマージャーニーに沿って区分を作り、見込み客がどの段階にいるかを分類し、適切なコンテンツを提供しましょう。
関連情報の提供、必要なサポートを行い、バイヤーズジャーニーの各ステージでのポジティブな感覚をもってもらうことが必要です。
もしリードのウェブ上での行動分析データがあれば、見込み客のウェブ閲覧履歴などの行動分析とカスタマージャーニーを重ね合わせることによって、見込み客の行動に基づいたカスタマージャーニーのデータ上の定義を作ることができます。
なお、カスタマージャーニーを簡単に作成できる海外無料ツールがあります。高精度な無料翻訳ツールDeeplとあわせて活用すれば特に費用はかかりません。
ペルソナとカスタマージャーニーが把握できれば、ペルソナのナーチャリングに適したコンテンツ作成企画に入れるでしょう。コンテンツマップも作成してみるのが大切です。
(出典:https://blog.alexa.com/lead-nurturing/)
ナーチャリングにはCRM(顧客管理情報システム)やマーケティングオートメーション(MA)などの活用が欠かせません。リードが大量に獲得できている場合、大量の見込み客データを関心度にあわせて分類し、届けるコンテンツをかえるタスクは手作業ではかなり難しいためです。
ナーチャリングを自動化すると、労力を削減できるのはもちろん、リードへ適切なタイミングで適切なコンテンツを届けやすくなり案件化率が高まります。
近年はマーケティング領域のITツールは増えており、SFA、CRMやMAとカテゴリーされてはいるものの、ほぼ同種の機能を持っていたりします。ただ、日本企業でMAを必要な段階の企業はまだ少ない印象なので、最初は簡易なCRMやメールプラットフォームでも十分でしょう。
なお、CRMには無料サービスもかなりありますので、中小企業で予算がなくても導入できます。CRMで見込み客のフェーズを可視化し、自社のカスタマージャーニーの定義から、適したコンテンツを配信できるように設定しましょう。
御社では、データを入力する際の数字は半角でしょうか、全角でしょうか? ルールがなく各自ばらばらで入力し、そのデータが各部署に点在していないでしょうか。
意外と多くの企業でできていないのがデータマネジメントの基本です。ナーチャリングに限りませんが、データを集める際の共通のルールが決まってないとデータを有効活用できません。入力基準を統一しましょう。
企業の問い合わせフォームも、CRMと連動させるフォーマットにしておくことがポイントです。自由にご意見をいただきたいという気持ちで自由入力にすると、社内システムと連動させるのにかなり労力がかかってしまうからです。
小さいことですがデータの入口の部分を統一しましょう。企業内のデータ活用については経営企画、人事部門なども実施していると思いますので、一度社内で統一するとデータを横断的に活用する際に楽になるでしょう。
ナーチャリングをどの部署が担当するかは、商品・サービスの価格、セールスサイクルによって異なります。何年かに1回しか決まらない大型の契約を追うのであれば、担当営業マンがナーチャリングしたほうがよいでしょう。
しかし、分業してインサイドセールス部門が行ったり、マーケティング部門が担当したりするほうが、営業体制として合理的なケースもあります。スモールビジネス対象のBtoB SaaSなら、可能な限り自動化して人の手があまりかからないようにする必要もあります。
まず、大事なのはどこが担当するかを決めることです。決めていないと同じ見込み客にマーケティング部門と営業部門両方からメールが届き、ナーチャリングのつもりが迷惑営業ぽい印象になる可能性があります。
営業とマーケティング部門で話し合い、SLA(サービス レベル アグリーメント)を結びましょう。案件引き渡しのリードの基準も決めておくことが重要です。先に決めておけば後々の「案件(アポ)の質が悪い……」「決めてくれない……」といった、よくある行き違いの感情を軽減できるでしょう。
(画像引用:Free Tempate - SLA Tempate for Sales & Marketing - HubSpot)
バーチェスファネルのTOFU(興味関心)、MOFU(検討段階)、BOFU(購入段階)それぞれのステージに適したコンテンツを作成します。
ナーチャリングに適したさまざまなコンテンツ用媒体がありますが、告知は一般にメールです。メールマガジンだけでもナーチャリングっぽいことは可能ですが、どちらかというとメールマーケティングを行うために、オウンドメディア、動画、ウェビナーなどのお客さまたちに役立つコンテンツ作りに精を出すようにしましょう。
そのようなコンテンツが存在しないと、そもそもナーチャリングをするにあたっての打ち手が全くない状態といえるからです。ポイントは以下のとおりです。
どの手法がよいかは商品・サービスによって異なり、トレンドもあります。現実問題、マーケティング担当者がどの程度時間をさけるかも重要です。現実に運用できる手法を選択してください。
カスタマージャーニーにそってリストをセグメントして、TOFU、MOFU、BOFUそれぞれの対象リストに適したコンテンツを届けましょう。
TOFUとは、認知の段階です。このステージの見込み客は深い関心は持っていないため、SEO施策、SNSやブログによる情報発信など、受動的なスタンスでもふと目にとめてもらえるようなチャネルを活用し、以下のコンテンツを届けることが望ましいでしょう。
見込み客に自社商品・サービスの存在を知ってもらったり、課題に気づいてもらえたりするような教育的コンテンツを届けましょう。
MOFUとは、比較検討の段階です。ある程度業界の概要がわかって、自社の課題もわかっているステージなので、より専門的な情報や具体的な事例を届けなければなりません。また、検討段階に入っているため、自社の強みが伝わるコンテンツを届ける必要があります。
BOFUとは購入検討段階です。導入することに前向きであり、何社か検討し最も優れた商品・サービスを選びたいと考えています。
この段階では、価格、操作性を確かめるためのデモなどが重要になります。契約方法や導入後のサポート、何かあったときの保証などが気になるフェーズなので、WebサイトのFAQページなどを充実させることがポイントです。
見込み客を増やすのは大変な業務です。しかし考えてみれば、近年はSNSやブログ、メールなどの無料で活用できるプラットフォームがあれば、無料CRMサービスもあります。もちろん有料サービスの機能のほうが充実していますが、本格的に始める前に自社に合う方法を試すことができる恵まれた環境は整っています。
リードを集めて案件化するプロセスは決して簡単ではありませんが、大きなリスクなく始められることも事実です。自社に放置している見込み客情報は点在していないでしょうか? ナーチャリング(見込み客育成)に着手して、長期目線で企業収益に貢献していきましょう。