SaaS業界は、独特のビジネス用語を使います。ARR、MRR、LTV、etc。聞きなれないかもしれませんが、ARPU(アープ)もそのひとつ。サイトによっては、SaaS関係者が知るべきランキング10位以内に入る重要メトリクスです。
ARPUとは、簡単に言えば「ユーザー1人あたりの売上高」であり、売上げ予測やパフォーマンス分析に活用される指標です。
特にSaaSなどのサブスクリプション型ビジネスモデルでは、ARPUを向上させることはMRRの増加、顧客生涯価値(LTV)の増加、ひいては業績向上に結びつくことが多いため、多くの企業が活用し決算資料でも重要視される指標のひとつです。
しかし、ARPAやARPPUのように見た目が似ている言葉や、LTVのように意味が似ている言葉が多く、「どうしてもよくわからない……。」という方も多いのでは?
そこで本記事では、SaaS関係者が知っておくべきARPUについて、その基本的な意味、算出方法や重要性、さらにはARPUを最大化するポイントなど、どこよりも詳しく解説します。ぜひ最後まで読んでみてください。
(出典:Investopedia)
ARPUは英語で「Average Revenue Per Unit」の頭文字を取ったもので、「アープ」と読みます。構成する各単語の意味は以下のとおりです。
読み解くと「個体あたりの平均売上高」。つまりARPUとは、ある製品やサービスに対して、ユーザー1人がもたらす売上高を平均化した指数のことです。期間は管理によってさまざまで、月次はもちろん、日次、四半期、一年などで計算することもあります。
ここでいう「個体」とは、SaaS業界では特に「ユーザー」や「サブスクライバー」を指します。そのため、最後の「Unit」を「User(ユーザー)」と言い換え、「Average Revenue Per User」とすることも多く、むしろ近年ではこちらの方が主流です。
「User」でなく「Unit」の用法が好まれるケースももちろんあります。それは対象が「人」でない場合で、わかりやすい例でいうと携帯電話です。
携帯電話は1人のユーザーが複数台を所有するケースもありますので、例えばあるモデルのARPUを試算する際には、ユーザー数ではなくSIMカードの数が重要となります。そのため、海外携帯会社によっては「Average Revenue Per SIM」という言葉を好むこともあるとか。
ただ、この携帯電話のケースは、ARPUに加え「ARPA」を併用するというのも近年の主流になりつつあります。ARPAについては後述いたしますので、ぜひそちらもお読みください。
ARPUを算出する上で、最も基本的で一般的な計算式は以下です。
しかし、ARPUに対する考え方がSaaS業界、携帯通信業界と、業界が変わる中でも異なることは前項で説明したとおりです。そして同じSaaS業界においても、ビジネスモデルが変わればARPUの算出方法も変わってきます。なぜかというと、扱う数字が変わるからです。
ここでは、SaaS業界における一般的なビジネスモデルごとのARPUの算出方法の一例を紹介します。
利用課金モデルとは、サービスの利用に伴いユーザーに課金をするビジネスモデルです。定額課金制サブスクリプション型のSaaSや、アプリ内でアイテムの購入などを促す従量課金制リカーリング型などがあります。
利用課金モデルにおける基本的なARPUの計算式は以下です。
有料課金ユーザー率とは、ユーザーの総数に対する有料課金ユーザーの割合で、以下の計算式で算出されます。
利用課金モデルのユーザーの中には「課金していないユーザー」というのも存在します。例えば、基本無料のゲームなどで有料のアイテムなどを一切購入しないプレイヤーもこれに該当します。
この「無課金ユーザー」を含めた総ユーザー数でARPUを算出してしまうと、どうしてもARPUは低くなってしまいます。より実態的なARPU、つまりより売上高に貢献してくれるロイヤルティの高いユーザーあたりのARPUを算出するためには、無課金ユーザーを省いた有料課金のユーザーの比率を計算式に組み込み反映させてあげる必要があります。
また、これは後述するARPPUに通する算出方法ですので、関連づけて理解するのがよいでしょう。
広告表示課金モデルとは、自社が提供するサービス(アプリやWebサイトなど)に広告を表示させるスペースを設け、そのスペースに広告が表示されるごとに広告主に広告料を課金するビジネスモデルです。
広告表示課金モデルでは、以下の計算式でARPUを算出するのが一般的です。
CPMとは、「Cost Per Mille(Thousand)」、つまり広告を1000回表示した時の価格です。「Mille(ミル)」はラテン語で「1000」を意味します。
そして、ユーザー1人あたりの平均広告表示回数は以下の計算式で算出します。
式で見るとわかりにくいのですが、分解して中身を見ていくと先に紹介したARPU計算式の基本形と同じことを、別の数字を使って行っているのがわかります。
広告表示課金モデルでは、基本的にページに訪れたユーザー数と価格発生の件数がイコールとなります。利用課金モデルと違い「無課金ユーザー」を考慮する必要がないため、基本形のARPU計算式に極めて近い計算式が一般的には使用されます。
広告クリック課金モデルとは、自社が提供するサービス(アプリやWebサイトなど)に広告を表示させるスペースを設け、その広告がクリックされるごとに広告主に広告料を課金するビジネスモデルです。
広告クリック課金モデルでは、以下の計算式でARPUを算出するのが一般的です。
CPCとは「Cost Per Click」、つまり広告が1クリックされた時の価格です。
そして、広告クリック率は以下の計算式で算出します。
広告クリック課金モデルは広告表示課金モデルと非常によく似ている印象を受けますが、その実「無課金(クリックしない)ユーザー」が発生します。そのため利用課金モデル同様、広告クリック率(有課金ユーザー率と同義)を計算式に盛り込むことで、より実態的なARPUが算出できます。
ARPUには非常に似た用語が多いです。見た目が近いもの、意味が似ているものなど……。そのため思わず目を背けたくなってしまう方も多いと思います。そこでここでは、ARPUと関連してよく目にする似た用語についてと、それぞれの用語とARPUとの違いについて読み解いてみましょう。
ARPUと似た用語に「ARPA」があります。ARPAとは、「Average Revenue Per Account」のこと。つまり、ある製品やサービスの「1アカウントあたりの売上高」を指します。
ARPAは以下の計算式で算出されます。
ARPAはARPUと違い、1ユーザーではなく1アカウント(契約者・取引先)あたりの売上高を示す指標です。ユーザー数がアカウント数と異なるケースが多いビジネスモデルでは、ARPAの活用意義は必然と高くなります。
先に説明した携帯電話業界などではこれが顕著になるため、有名なところですと2015年にKDDIがARPAを導入しています。
SaaSの例も挙げてみましょう。例えば、HubSpotの営業支援ツール「Sales Hub」を導入するとします。A社でSales Hubを導入する場合、営業部署の中の限られた1名にだけ使用させる、というのは現実的ではありません。A社を「1アカウント」とした場合、A社の営業員の数に応じて「複数のユーザー」がいるのが自然です。
この場合、会社を問わずSales Hubを使用する営業員ひとりひとりの平均課金額を追うのがARPUであり、A社・B社などアカウント単位での平均課金額を追うのがARPAということになります。
ARPUとARPAのどちらを指標として重視すべきかは、サービスモデル、価格プランによります。SaaS業界でもARPAを公開している企業は多く、例えばマネーフォワード社の決算資料でも、課金顧客数とARPAの成長を強調しています。両方を公開する企業もあります。
もうひとつ、ARPUとよく似た用語に「ARPPU」があります。ARPPUとは、「Average Revenue Per Paying User」のことで、ある製品やサービスに対する「有料課金ユーザーあたりの売上高」を指します。
ARPPUは以下の計算式で算出します。
ARPPUは、無課金・有料課金のユーザーが混在するような(前述した利用課金モデルのような)サービスにおいて、有料課金ユーザーのみに焦点を当てて分析を行いたい際に使用されます。
具体例としては、ソーシャルゲームなど、基本無料で有料のアイテム購入を促すようなサービスで、有料コンテンツを購入してくれるロイヤルティの高いユーザーが、どれほど売上高に貢献してくれているかを分析するためにはARPPUは最適といえます。
また、期間限定キャンペーンや特別割引などの施策を打ったときの効果分析を行う際、無課金ユーザーも分母に含めるARPUと有料課金ユーザーに絞ったARPPUを見比べることで、施策の効果をより詳細に知ることができます。
例えば、施策に対してARPPUは大きく向上したがARPUの変化が小さい場合、その施策はロイヤルティの高いコアユーザーには反応があったが、無課金のユーザーを有料課金へとコンバートすることはあまり効果がなかったと判断できます。
LTVはARPUと名前としては似ていませんが、概念が似ているため混合されている方も多いかもしれません。
LTVとは、「Lifetime Value(顧客生産価値)」というマーケティング用語を省略したもので、ある顧客が自社との取引開始から終了までに、どれだけの利益をもたらすかを表す指標です。
LTVを活用することで、自社が取引中の各顧客の、自社に対する将来的な価値を金銭的に算出することができます。これにより取引先に対する優先順位を正しく把握し、営業戦略や取引方針を決定することが可能です。
顧客(ユーザー)ごとの売上高という点だけ見ると似ているように思えるARPUとLTV、この両者の決定的な違いは「視点」です。
ARPUが「売上高に対する(特定されない)平均的な1ユーザーの貢献度を表す」とすると、LTVは「ある特定の顧客の自社の売上げに対する将来的な貢献度を表す指標」といえます。
まずARPUは、(すでに上がっている)売上高に対してその内訳はどうであったかと「過去」を振り返り分析する視点であるのに対し、LTVは特定の顧客のこれまでの売上高をもとに今後どれくらいの売上高が見込めるかと「未来」の戦略を練る視点として使われます。
また、評価の矛先が「特定の顧客」か「不特定の平均的なユーザー」かというのも違います。ARPUはユーザー1人あたりの売上高を平均化することで、自社サービスに対するユーザーのパフォーマンスを全体的に評価します。そのため、それに応じた方針や施策の変更は必然的に全体的なものになります。
対してLTVは、特定の取引先の自社に対するパフォーマンスを個別評価します。そのため、それに応じた営業方針や戦略は個別の取引先に対するものになるのです。
LTVについては当ブログのこちらの記事でも紹介しております。ぜひご一読ください。
ARPUは、顧客単価の差が比較的少ない定額課金サービスの業界でよく用いられます。少数の大型クライアントに依存するようなビジネスと違って、ARPUをベースにした売上げ予測などの精度が高いからです。
ここでは、ARPUがよく用いられる3つの業界とその理由を紹介します。
ARPUはSaaS 業界の重要指標です。SaaSは3~5つの価格プランを持ち、月額または年額で購入してもらうなど、サービスが標準化されているため、ARPUと顧客の増加状況を見ると売上げ予測が立てやすいためです。
ARPUが高まれば月間経常収益(MRR)は比例して高まり、顧客生涯価値(LTV)が向上する可能性が高まります。もちろん、ARPUが高くても顧客数が増えなければ業績はさほど伸びませんが、業績予測の指標としてはかなり有効とされています。
SaaSは黒字化するまで何年もかかるビジネスモデル。赤字の段階で成長予測を示す指標が必要です。そのため多くの上場SaaS企業が、ARPUを重要メトリクスのひとつとして開示しています。
SNS業界にとっても、ARPUは重要な指標です。SNS各社はそれぞれARPUの定義は異なるものの、財務報告に記載し公開しています。なお、SNSなどのクリック課金広告型ビジネスモデルのARPUの計算式は「CPC x CTR」です。
SNS業界においてARPUが重要になってきた理由は、SNSがすでに世界中に普及しユーザー数が頭打ちになりつつあるからでしょう。これまで広告費が大きな収入だったわけですが、ユーザー数が増えずCTR(クリック率)も伸びなければ、広告媒体としての可能性も広がりません。
そのため、各社「新規ユーザー獲得」から「既存ユーザーの収益最大化」へと移行させつつあり、新しい課金手法としてソーシャルコマース(SNS上のショッピング)でARPUを向上させる動きがあります。
まだメジャーとは言えないサービスですが、SNSでの評判が購買に大きく影響する時代なので、ARPUの向上が期待できるとともに、一般のECにとっては脅威となるでしょう。
(参考:ferret-one)
電気通信業界はARPUを昔から活用してきた業界であり、ある程度定義も共通しているためグローバルのARPUランキングも出ています。
日本の3大キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)ももちろん重要視しており、近年もスマートフォン販売にともない順調にARPUを向上させてきました。
ガラケ―時代の安いプランはほぼなくなり、契約の2年しばり、契約月を逃すと安くは解約できないなどの施策でユーザーが払う費用は高くなりました。スマートフォンで便利になった反面、もうちょっと安くても……と感じる方も多いと思いますが、これはキャリア視点だとARPUを伸ばすことに成功したことになります。
しかし、近年は政治主導による値下げ圧力、SIMロック禁止などもありARPUが右肩下がりです。各社とも通信事業以外へのサービス拡大や、既存顧客へのバンドルサービスなどでARPUを増加させようとする動きがあるようです。
携帯電話事業に限定して言えば、すでにスマートフォンの普及率は94%。日本は人口減少中。売上向上のためにはARPUを上げる必要があります。この点、ほかにセットで売れる多数のサービスを持つ大手キャリアには強みがあります。
ビジネスにおいて売上高を向上させる方法が、「顧客の単価を上げる」か「顧客数を増やす」であると仮定すると、どの業界においてもARPUは重要といえます。しかし、特にサブスクリプションモデルにおいてはARPUを活用するメリットが高いといえます。ここでは、SaaS業界でARPUが重要な理由についてみていきましょう。
インターネットやSNSによりさまざまな情報が取得可能となっている昨今、自社だけが唯一無二のノウハウを独占することは過去に比べて格段に難しくなってきています。
現に多くの業界においてコモディティ化が進み、似たような製品やサービスを提供する競合他社が乱立するなか、多くの市場は成熟し飽和状態となっています。そのような環境下で、新規のユーザーを増やしていくことは決して容易ではありません。
その中でも売上げを継続的に伸ばしていくためには、ユーザーあたりの課金額を増やしていくことの重要性が高まるのは自然の道理です。
同時に、市場が飽和しているというのは、成熟していない状態に比べ市場規模を測りやすい状況ともいえます。自社のARPUはもちろん、競合他社のARPUをある程度予測分析することで、市場における自社のシェアを正確に推し量れるという点でもARPUは役に立ちます。
SaaS業界では、ARPUが高くなる=顧客が毎月サービスに払う金額が上がる、なのでMRR(月間収益)も向上。顧客数が増えるとさらに収益が上がり、長期的にはLTV向上にもつながるでしょう。
ARPUが下がりつつあるなら逆のことが言えます。ARPUの数値をトラックすることで、今後の事業が順調に伸びていくか、下降気味か予測できるので、早め早めに次の手を打つことができます。
ARPUは、投資家から見ると企業の成長可能性を判断する有力な指標です。業界内の企業を比較することで、投資先がライバル企業よりも収益性が高いか、顧客満足度が高いかを推測できます。
ARPUは必ず公開しなければならない指標ではありません。ただ、ベンチャーキャピタルから出資を得る際にもアピールポイントになります。上場SaaS企業になると、ARPUもしくはARPAを公表するケースが多く見られます。
以下はチャットワーク社の2021年決算資料ですが、これまでのユーザー数の増加とARPUの伸びが強調されています。
(出典:Chatwork株式会社 2021年12月期 本決算説明資料)
米国のProfitWell社が941社のSaaS企業を対象としたチャーン率の調査(BtoB、BtoC含む)では、4桁のARPUの顧客は1~2桁のARPUの顧客よりも解約する可能性が約50%低いという結果が出ました。高ARPUの顧客はリテンション率が高いわけです。
ARPUの高い顧客が、どの価格プラン(月額、年額等)、オプションサービスを選んでいるかは、マーケティング施策や価格プランのアップグレードの際のヒントになるでしょう。
低ARPUの顧客については解約リスクが高いため、リテンションマーケティングを強化する必要があります(ペルソナが正しければ)。このようにARPUは、顧客の状態を教えてくれる指標です。
(出典:RECUR by Profitwell)
ARPUの意味や重要性については、ここまで説明してきたとおりですが、では実際にARPUはどのように伸ばしていけばよいのでしょうか? ここでは、特にSaaSビジネスにおいてARPUを最大化するための方法について、一例を紹介していきます。
2022年7月、Slackが価格プランを改定し、値上げとともにフリープランの履歴が3カ月へと制限されることとなり、話題になりました。
非常に思い切った施策ですが、これにより同社は、多くの無課金ユーザーを有料プランへのアップグレード へ促し、さらにアップグレードを望まない無課金ユーザーをある種切り捨てることで、自社のユーザー層をロイヤルティの高い優良ユーザーのみに絞り込むことに成功したといえます。
取引先や協力部署の言質をとる、というのはさまざまなビジネスシーンにおいて必要不可欠です。その点で、3カ月前の履歴が見れなくなるコミュニケーションツールというのは、ビジネスにおいては致命的です。あくまでも無課金にこだわるユーザーは、まだ無料サービスが続く競合他社のサービスへと流れる可能性もあります。
それでも、それらのユーザーを切り捨てても悪影響は少ないと評価したのでしょう。というよりも、純粋にARPUを向上する上では無課金ユーザーの縮小はむしろ狙いの範疇だっただろうと予想がつきます。
このように、予算的にもITリテラシー的にも自社のサービスを使ってくれそうなユーザー、つまりは「ペルソナ」を絞り込むことも、価格体系の見直しのひとつの方法です。
前項で説明した無課金ユーザーの有料課金へのアップグレードや、無課金ユーザーの切り捨ての反対施策として、既存ユーザーの顧客ロイヤルティを高めるという動きも効果的です。
例えばサービス外でのユーザーコミュニティの設置、ユーザー間あるいはユーザーと企業側の交流イベントなど、ユーザーとサービスとの接点を増やすリレーションシップマーケティングにより、ユーザー全体の売上高に対する貢献度を引き上げるというものです。
上手くいけば前項のようなリスクを追わずともARPUの向上が図れるほか、顧客ロイヤルティが上がれば解約率の向上も同時に期待できます。
顧客ロイヤルティを高め、ユーザー1人あたりの単価を上げるためには、先に示したリレーションマーケティング以外にも、それ相応の要素が必要です。
常にユーザーが求めるニーズを把握し、それに応じた新製品や新機能を提供することで、追加課金を促し続けることができます。
また、サポートやサクセスの強化も重要です。十分にサービスを活用できていない、追加機能についてよく知らないといったユーザーは、企業側からアクションをしないと、自社サービスで自身の課題が解決できるということに気づけず、なかなか活性化がしづらいこともあるでしょう。
そうしたユーザーにサポートやサクセスが寄り添い、ユーザーの現状に沿った提案をすることでロイヤルティが高まり、アップセルの機会が生まれることもあります。また、このような地道な活動によってブランドそのもののイメージアップにも繋がり、サービスの価格アップも視野に入ってくるかもしれません。
予算をあまり持たないSMBに単一の低価格のサービスを提供する場合、数多くセールスしなければ業績は伸びず大変です。サービスを補完するオプションサービスも用意し、アップセル、クロスセルで売上げを伸ばしARPUを高めることが望ましいと言えます。
また、関連製品をセットで販売するバンドル戦略も有効です。顧客は割安で多くのサービスを入手でき、ベンダーは売上げが高くなり安定もします。
例えば、Microsoftはライセンス販売からサブスクリプションにシフトし、Microsoft365では1アカウントで、Word、エクセル、PowerPoint、1TBのOneDriveクラウドストレージがセットになりました。
ユーザーから見ればリーズナブルでいたれり尽くせりのサービスですが、Microsoftにとっても長期で見ればWord、エクセルをたまに使うくらいの低ARPUの顧客層の単価を上昇させる効果があったでしょう。
SaaS業界は、他の業界と比べてもユーザーのフィードバックが比較的容易に取得することができるため、ARPUによる自社のパフォーマンスチェックがしやすいビジネスモデルです。SaaS企業の多くが、ARPUを自社の成長性を示す重要な指標として運用しているのが、それを示しているといえます。
ARPUを最大化するための手法についていろいろと例を挙げてきましたが、ARPUはあくまでも自社のパフォーマンスを表す指標であり分析の材料です。ARPUを伸ばさねばと、すぐアップセル、クロスセル、価格アップにとびつくのは目的と手段があべこべですので、まずはなぜARPUが順調に伸びているか、停滞しているか、下降しているかなど細かく分析することが第一歩です。
その上で、営業戦略(どの層にフォーカスして営業していくか)、マーケティング戦略の打ち手を決めていきましょう。