UX(ユーザーエクスペリエンス)をマーケティング担当者が大切にすべき理由とは

2022/07/08
BtoBマーケティング マーケティング UX UX(ユーザーエクスペリエンス)をマーケティング担当者が大切にすべき理由とは

BtoB企業のマーケティングにおいて重要なのは、製品サービスの認知拡大や、販売の促進だけではありません。認知から購入、製品サービスの活用までの全体的なプロセスにおいて、ユーザーの満足度を高く維持する必要があります。

購入に至るまでのプロセスに不満があると、ユーザーの満足度は向上しません。企業の購入担当者の77%は購入までのプロセスが複雑だと感じており、マーケティング担当者は改善を進めるべきです。

ユーザーの満足度を高めるために有効なのが、UX(ユーザーエクスペリエンス)の概念です。

UXは主にWebサイトやアプリの設計、製品サービスのデザインに用いられてきましたが、マーケティングにも取り入れられます。本記事ではUXの概要と、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者がUXを大切にすべき理由を解説します。

UX(ユーザーエクスペリエンス)とは?

UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、Webサイトやアプリ、製品サービスを利用して顧客が得る体験全体を指す言葉です。

  • メリットを享受できた
  • (自社・自分ごととして)満足できた
  • ほしい情報がすぐ得られた
  • 課題を解決できた

など、ユーザーにとって成果となる体験が得やすいほど、UXの品質が高いとされています。

UXと似た言葉にUIがありますが、これはユーザーインターフェースの略で、ユーザーとの接点を指す言葉です。一般的にはWebサイトやアプリの操作画面を指します。

  • ボタンや文字が見やすい
  • 見たいページをすぐに開ける
  • どこを押せばよいのかわかりやすい

など、操作性の良いUIが高品質なUIとされています。SaaS企業においては、UIの質が提供サービスの価値に直結するため、特に重要です。

良いUIは良いUXの一部であり、両者は切り離せない関係です。

発展の背景

UXという言葉は、日本では1990年に刊行された、認知科学者・認知工学者であるDon Norman(以下ノーマン)氏の著書で初めて登場しました。「誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論」(原題:The Design of Everyday Things )です。

1999年には、ユーザビリティを確保するための国際規格 ISO 13407が制定されました。人間中心設計(HCD:Human Centered Design)の観点をもとに、ユーザー視点に立った利便性や体験が追求されるようになったのです。

この規格は2010年には改定されて「ISO9251-210」となり、その際にUXの概念が追加されました。

AppleのHIG

(AppleのHIG)

GoogleのMarerial Design

(GoogleのMarerial Design)

大企業のUX導入事例として有名なのが、AppleとGoogleのUXデザインです。AppleはHIG(Human Interface Guidelines)、GoogleはMaterial Designの概念をそれぞれベースにしています。

いずれもガイドラインを策定して、ユーザーが使いやすいデザインを追求し、UXを改善するためのアイデアを他社にも共有しています。プラットフォーム全体のUXを高めるためには、自社の取り組みだけでは限界があることを、AppleもGoogleも認識しているのです。

マーケティング担当者がUX(ユーザーエクスペリエンス)を理解すべき理由

製品サービスのデザインだけでなく、マーケティングにおいてもUXの概念を取り入れる必要があります。

UXの最初の提唱者であるノーマン氏が設立したUXコンサルティング企業、Nielsen Norman Groupは、「マーケティングや工業デザイン、インターフェースなどをシームレスに融合させることが、高品質なUXを実現するのに必要」としています。

現在では購買活動において、ユーザーが主体的に情報収集をし、比較検討することが主流となってきました。マーケティングにおいてもUXを強化することで、ユーザーとの結びつきを強固にし、製品サービスの購入までのステップを進めてもらいやすくなるでしょう。

この章では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者が、UXを施策に取り入れるべき3つの理由を解説します。

理由1:企業の購入決定者はWeb上で情報収集している

BtoB企業やSaaS企業のWebサイトの役割は、時代と共に移り変わってきました。従来は、自社の製品サービスを知ってもらう看板としての役割が主でした。2008年ごろから企業戦略の一環として組み込まれることが多くなり、2011年以降はコミュニケーションプラットフォームとしての役割が主流となっています。

アメリカの調査会社Forrester社の調査によると、購入決定者の74%が意思決定のための調査をオンライン上で行っていると回答しています。

BtoB-EC 市場規模の推移

(引用元:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/210730_new_hokokusho.pdf)

また、近年では営業チームによる商談を介さず、Web上で製品サービスを購入するBtoB-EC化の風潮も強くなっています。実際に上図の経済産業省の調査では、BtoB-EC市場が年々拡大傾向にあることがわかります。

BtoBやSaaSでもWeb上で取引が完結する動きが広まっているため、検討から購入までのユーザー体験の質を高めることは必要不可欠です。

UXの概念は製品サービスだけでなく、マーケティング戦略におけるWebサイトの設計にも必要なのです。

理由2:購入までのプロセスにおけるユーザー満足度を高める

マーケティングにおけるUXは、Webサイトの設計だけではありません。購入までのプロセス全体において、ユーザーの満足度を高く維持できるように施策を考える必要があります。

アメリカの調査会社Gartneによると、企業の購入担当者の77%は購入までのプロセスが複雑かつ困難だと感じています。また、調査対象の90%は、認知から購入に至るまでのプロセスをまっすぐ進んでいるわけではなく、特定のタスクをループするように繰り返していることが判明しました。

ユーザー体験は認知・検討の段階から始まっています。UX全体の品質向上のためには、Web上の情報収集から契約までの一連のプロセスにおいて、ユーザーの満足度を高めることが重要です。

アスクルのECサイト

(アスクルのECサイト)

事務用品の販売などを行う株式会社アスクルでは、ECサイトのUXに工夫を凝らしています。

たとえば、アスクルには「マイカタログ」という機能が用意されています。気になった商品をどんどん登録しておけば、ユーザーはあとで気になった商品を見比べて、どれを買うかを手軽に検討できるのです。

ストレスなく買い物ができたユーザーは、次回もアスクルで購入したいと感じるでしょう。このようにユーザーにとって便利な機能を追加することで、WebサイトのUXを改善できます。

理由3:競合と差別化できる

カオスマップ

(引用元:https://basicinc.jp/btobmarketing-chaosmap)

現代ではBtoBやSaaSの製品サービスは非常に多く、抜きん出るためには常に競合と戦わなければなりません。たとえば、上図はBtoBマーケティングの領域におけるカオスマップで、競合性が高いことがわかります。

ユーザーも数ある製品サービスから選別しなければならないため、認知・検討段階でUXの品質が低いと、選考から外れてしまう可能性があります。競合と差別化するためにも、マーケティング段階でUXを高めることが重要です。

また、UXの向上は企業や製品サービスのブランディングにも役立ちます。マーケティングの段階で、ユーザーの抱える課題がスムーズに解決されるイメージを持ってもらうことで、自社に対する信頼を高めてもらいやすくなるでしょう。

自社や製品サービスに対する好意的な評価が増えれば、自然とブランディングにつながります。

マーケティング担当者がUX(ユーザーエクスペリエンス)を改善するためにすべきこと

高品質なUXを実現するためには、買い手の心理と行動の理解が欠かせません。BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者が、UXを改善するためにすべきことを解説します。

ペルソナ作成

マーケティング施策を考える際には、ペルソナを作成しましょう。ペルソナとは、自社の製品サービスの代表的な顧客像のことです。主にBtoC業界で行われてきた手法ですが、BtoB業界においても有効です。

ペルソナを作成する前に、以下の準備を行う必要があります。

  1. ユーザーアンケートや市場調査などで情報の収集・整理をする
  2. 収集・整理した情報をもとに、市場にいる顧客を細分化し、属性ごとに分類する(セグメンテーション)
  3. どのセグメントの顧客をターゲットにするか決定する(ターゲティング)
  4. 他社にはない自社の強みを洗い出し、購買へと導く戦略を立てる(ポジショニング)

これらの準備を整えてから、まずは「人物ペルソナ」を作成します。年齢や性別、所属部署、役職はもちろんのこと、仕事内容や部署が抱えている問題についても想定し、ペルソナを作り込みましょう。

<人物ペルソナの例>

名前

佐藤 登

年齢

36歳

性別

男性

所属部署

情報システム部

役職

現場リーダー

仕事内容

社内システム全般を管理している

・基幹システム

・経費システム

・勤怠管理システム

・顧客管理システム

決裁権

なし

部署の課題

営業部より、顧客管理システムリプレースの打診があり、新システムを検討している。

 

BtoB業界におけるペルソナがBtoC業界と異なるのは、人物ペルソナだけでなく「企業ペルソナ」も作成するという点です。企業規模や事業内容などの項目から、企業ペルソナを作り込みましょう。

<企業ペルソナの例>

会社名

ABC株式会社

資本金

2億円

従業員数

300名

事業内容

広告代理店

 

ペルソナ設定をする際は、つい売り手側の願望や理想を込めてしまいがちです。収集した情報をもとにペルソナを作成することで、具体的な顧客像が見え、現実に即した施策を立案しやすくなります。

カスタマージャーニーマップ作成

カスタマージャーニーマップとは、顧客が製品サービスを認知・購入し、活用するまでの流れを、時系列順に可視化したものです。

カスタマージャーニーマップは、以下の4つを軸として作成します。

  • フェーズ
  • 顧客が取る行動
  • 顧客との接点
  • 顧客の感情

これらの項目について要素を洗い出し、以下のようなマップを作成しましょう。

フェーズ

情報収集・認知

比較・検討

購入・契約

製品サービスの活用

顧客の行動

・Webで検索

・資料請求

・セミナー参加

・展示会参加

・ベンダーの営業担当に話を聞く

・社内で検討

・見積請求

・契約

・発注書

・製品サービスの利用

・不明点の問い合わせ

・社内説明会

顧客との接点

・企業Webサイト

・自社セミナー、ウェビナー

・展示会ブース

・製品サービスの提案

・ニーズのヒアリング

・価格の提案

・契約書のやりとり

・導入のための説明会

・カスタマーサクセス

・カスタマーサポート

・FAQ

・マニュアル

顧客の感情

どんな製品サービスがあるかわからない

・課題が解決できそう

・他社製品サービスとの違いがわかりづらい

・社内検討用の資料作成が面倒

・価格感が合わない

・決まって良かった

・製品サービスを活用できるか不安

・社内利用を浸透させられるか不安

・課題が解決できた

・操作方法が難しい

・社内利用が広まっている

・一部利用していない社員がいる

 

情報収集・認知の段階からフェーズを細かく分け、ユーザーの行動や感情を想定すれば、適切なケアや対策を取れるので全体的なUXが向上します。購買心理学を取り入れながら、ユーザーの行動や心理を細かく、かつ具体的に想定することが大切です。

製品サービスの販売促進活動には、社内で複数のメンバーが携わっている場合も多いでしょう。カスタマージャーニーマップを作成して共有することで、チーム全体で認識を合わせられるようになります。

ABテスト

ABテストとは、パターンAとパターンBの2つを用意し、どちらがより効果が高いかを検証するテストです。2種類以上のパターンを同時に検証する場合もあります。

ABテストは、Webマーケティングにおいて、主に広告バナーや広告文、Webサイトデザインを検証するために用いられますが、UXの改善でも重要です。

改善案のパターンを用意し、検証と分析、改善を行うPDCAを回していくことで、UXの品質を高めていきましょう。

まとめ

製品サービスに対するユーザーの満足度を高めるためには、製品そのもののデザインだけではなく、マーケティングにもUXの概念を取り入れることが重要です。

ユーザーの属性やニーズ、購買心理を理解した施策を取ることで、購買までのプロセスにおいてユーザー体験の品質が高まります。結果として、BtoB企業やSaaS企業でも自然な形でブランディングができて、競合との差別化につながるでしょう。

買い手が製品サービスを認知してから購入後に活用するまでのプロセスを可視化し、ユーザーの行動や心理を想定することで、具体的な施策を立案しやすくなります。UXの改善を、自社のマーケティング戦略に取り入れてみてください。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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