BtoB企業が新規取引先開拓ですべき打ち手一覧!

2022/04/04
新規開拓 マーケティング 営業 BtoB企業が新規取引先開拓ですべき打ち手一覧!

売上げがある程度安定してきたら、既存顧客との関係性を重視し安定した経営戦略へシフトする。このような考え方は大切と言えますが、それにより新規取引先開拓が疎かになることは企業の成長が止まってしまう、ないしは予期せぬことで既存顧客を失った際に経営が傾いてしまう、といった危険性をはらみます。

この記事では、BtoB企業が新規取引開拓の重要性を再確認するべき理由を述べたのち、実際に打ち出すべき施策についてを営業・マーケティングの観点からそれぞれ実際のデータをもとに解説していきます。

新規取引先開拓の重要性

そもそも、なぜBtoB企業に新規取引先開拓が重要となるのでしょうか?ここではまず、3つの観点からBtoB企業における新規取引先開拓の重要性について解説します。

KEIRETSUの崩壊

「Keiretsuの崩壊」はBtoB企業の新規取引先開拓の重要性を高める大きな一因でしょう。

Keiretsu」とは、日本における「企業系列」のことで、複数の企業が特定の利害を基礎にして形成する結合関係を指します。「Keiretsu」という名前が英語でも浸透している通り、海外では戦後の日本文化特有のビジネス形態として認識されています。

三菱系や住友系などの旧財閥系企業集団、融資先の銀行を親とする銀行系列、自動車産業や家電産業などの最終製品メーカーを親とするサプライチェーンなどがその例に当たります。

アメリカの外交問題評議会が発行するForeign Affairs誌の記事では、日本のKeiretsuにはおよそ2万6,000社の親会社と5万6,000社の系列会社、併せて1,800万人の従業員(日本の労働人口のおよそ1/3)が含まれると述べてられおり、Keiretsuがいかに日本の労働環境に大きく根付いているかが押し計れます。

また同記事は、日本のGDPが近年大きく衰退していることを挙げた上で、その要因は日本市場にKeiretsuがあまりにも大きく根を張り過ぎていること、Keiretsu内は強固な既存取引で固められており、新規のましてや海外のサプライヤーの参入が非常に難しいことであると指摘しています。

しかしKeiretsu体制は、その巨大化した組織のせいで市場の変化に非常に脆いという点も指摘されており、後述するインターネットを起因とした昨今の市場の変化に対応しきれず、利益の確保が難しくなる企業がでてきていることが「Keiretsuの崩壊」を指し示しています。

かつて猛威を振るった東芝の企業分割は、これまでの下請け体制で新規の取引先及び利益を確保できなくなった例として記憶に新しいところでしょう。

買い手の購買力が高まっている

インターネットやSNSなどの普及により、以前よりも買い手の購買力が高まっている点も、新規顧客の獲得が重要となる一因です。プロダクトに関する情報の入手が容易になったことで、BtoB企業のバイヤーは、以前のように外部の営業が持ち込む情報を頼りにするのではなく、自身のリサーチによる情報を優先とする傾向が見られてきています。

例えば、米リサーチ&アドバイザリの権威であるGartner社は、プロダクトの購入を検討中のBtoBバイヤーは購買行動にかける時間のうちわずか17%しかサプライヤーとの面会に使わないというリサーチ結果を発表しており、これは購買における意思決定の大半が営業員がバイヤーに接触する前に完了してしまっていることを示しています。

仮に複数のサプライヤーから購買を検討する場合は、1社に充てる面会時間はさらに少なくなるでしょう。

Gartner_BtoB購買行動

(画像出典:Gartner)

  • 和訳
    • Distribution of buying groups’ time by key buying activities(バイヤーの主な購買行動における時間配分)
      • 27% Researching independently online(オンラインでのリサーチ)
      • 22% Meeting with buying group(購買グループのミーティング)
      • 18% Researching independently offline(オフラインでのリサーチ)
      • 16% Other(その他)
      • 17% Meeting with potential suppliers(サプライヤー候補とのミーティング)

Gartner社はさらに、2025年までにはBtoBビジネスにおけるサプライヤーとバイヤーのやりとりのうち、80%以上はデジタル上で行われるようになると予想しています。既にBtoBバイヤーの33%はサプライヤーの営業員とのやりとりを望んでおらず、ミレニアル世代に絞るとその割合は44%まで昇ります。

インターネットにより買い手の購買力が向上していることは明らかで、プロダクトの情報入手がどんどん容易になっていく今後は、既存の取引先に縛られないバイヤー主体のサプライヤー選定がさらに顕著になっていくと予想が立てられます。

サプライヤー側も既存客に固執するばかりでなく、買い手側の購買力向上を逆手に取るような、積極的な新規開拓の施策を検討する必要が出てくるでしょう。

持続可能な売上げの確保につながる

SaaS300社:解約率(売上)

(画像出典:for Enterpreneurs)

他にも、新規顧客の獲得は持続可能な売上げの確保につながるという点も見逃せません。

米ベンチャーキャピタルDavid Skok氏が経営し、Forbs誌が選ぶ「起業家のためのウェブサイト100選」に選出された『for Enterpreneurs』では、BtoBを主とする2017年SaaS企業150社以上を対象としたリサーチで、SaaS企業における年間の平均解約率(売上げベース)は13%(売上げが$500万/年の企業を除く)だと発表しています。

実際には企業の規模や業種、契約規模の大小などで平均解約率は変動しますが、一つの指標として平均的なSaaS企業が売上げを持続するためには、単純計算で毎年売上げの13%以上は新規顧客からの売上げで占める必要があるという見方ができるでしょう。

つまり、まだ顧客が少ない企業はもちろん、既に多くの既存顧客を抱えるBtoBのSaaS企業にとっても、安定した売上げを確保するためには新規顧客開拓は必要不可欠であると捉えることができます。

BtoB企業が新規開拓で考えるべき打ち手:営業部門編

それではBtoB企業が新規顧客を開拓するためにはどのような施策が取れるのでしょうか? ここではまず、営業部門が取れる打ち手とその効果についてデータをもとに解説していきます。

訪問営業

新規顧客開拓と聞くと、まずは「飛び込みで訪問営業を」と考える方が多いのではないでしょうか?

訪問営業とは、企業の営業員が実際に見込み客のもとへ訪問し、営業を行うことを指します。広義では後述する電話営業などで商談のアポイントを取ったのち、クロージングを目的として訪問する行為も含みますが、ここでは主に飛び込みの訪問営業について解説します。

インターネットが普及した現代においても、飛び込みの訪問営業は多くの企業で使われる手法です。

米人材会社であるZIPPA社による米企業の雇用リサーチによると、Fortune500(Fortune誌が定めるアメリカ上位500社)でも依然13%の企業が飛び込み営業に特化した人材の確保を必要としていますし、アメリカ合衆国労働省労働統計局は2020年においても国内の訪問営業による売上げは年間に300億ドルにも昇るとしています。

ただ、その分営業員に与えるストレスも大きいようで、同じくZIPPA社の訪問営業員に関するデータには、58%もの訪問営業員が1年足らずで離職している、というものもあるため注意が必要です。

電話営業

電話営業とは、その名の通り電話を用いて見込み顧客へのアプローチを図る手法です。既に購買意欲が高まっている見込み客へコールをする「ウォームコール」と、完全に新規の相手にコールをする「コールドコール」があります。

Salesforce社が92%の顧客との交流は電話を通して行われるとしているほど、電話での営業は現代のアメリカにおいても重要視されているようです。特にアメリカではウォームコールを活用したインサイドセールスが発達しており、米経営誌Harbard Business Reviewでは、インサイドセールス組織による売上げ効果は外回り営業の売上げ効果に比べ40-90%高くなると報じています。

ただ、昔ながらのコールドコールの効果については疑問が残ります。Gartner社によるリサーチでは新規のコールドコールは目当ての企業のバイヤーに辿り着くまでにも平均最低18回のコールが必要というデータが出ており、企業によっては目標とする費用対効果、もしくは時間対効果を出すためには一筋縄では行かないこともあるかもしれません。

問い合わせ営業

問い合わせ営業とは、企業の問い合わせ先の電話番号やメールアドレス、ウェブサイト等のコンタクトフォームに対してアプローチを行う手法です。前述の電話営業と重なる部分が多いですが、その効果をリサーチすると、あまり高い効果は期待できない印象を得ます。

例えば、Gartner社のリサーチでは、セールスEメールのうち開かれるのはわずか23.9%だという数字が発表されていますし、アメリカのメジャー旅行検索サービス提供会社である米Kayak社のマーケティングチームは、コンタクトフォームへの営業は「嫌われる」として抑止しています。

McKinsey_メール営業

(画像出典:McKinsey&Company)

  • 和訳
    • US customer-acquisition growth by channel, % of customers acquired

((米)チャンネル毎の顧客獲得数の推移;顧客獲得の割合)

一方で、米コンサル企業のMcKinsey&Company社は、メールによる顧客獲得効果はFacebookやTwitterなどのSNSを活用した施策に比べると高いというデータを発表しています。ただ、こちらは営業施策だけでなく、メールを用いたマーケティング施策も含めた数値となっているため注意が必要です。

以上のデータからメールやコンタクトフォームを活用する問い合わせ営業の施策は、第一線とは言わずともサブ的な立ち位置での活用を検討するのがよいかもしれません。

BtoB企業が新規開拓で考えるべき打ち手:マーケティング部門編

お次は、マーケティング部門に絞りBtoB企業が新規見込み客開拓のために打ち出せる施策例とその効果について、こちらもデータをもとに解説していきます。

展示会

展示会への出展は、新規の見込み客を獲得するためにインターネット以前から用いられてきたマーケティング手法です。

デジタルマーケティングが普及している現代においても、展示会への出典の効果は依然高いと見られ、世界最大の統計調査データプラットフォームである独Statista社による統計には、米Fortune 500の会社の14%は展示会により5:1ものROI(Return on Investment)を得ているというデータもあり、これは展示会のコスト1ドル毎に5ドルの利益が発生していることになります。

EventTrack2016_展示会効果

(画像出典:『Event Track 2016』)

展示会に特化した情報誌であるEvent Marketer誌と、マーケティングエージェンシーであるMosaic社が共同出版した『Event Track 2016』では、展示会参加者のうちおよそ74%が企業のブースに訪問したことで、その企業のプロダクトの購買意欲が高まったと答えたと発表されており、新規見込み客開拓の面においても展示会への出展は高い効果が得られることが予想できます。

セミナー/ウェビナー

BtoBマーケターが打ち出せる新規開拓の施策としては、セミナーやウェビナーの開催も有効な一案です。ウェビナーとは、オンライン(Web)上で行うセミナーのことで、ZoomやTeamsなどオンラインミーティングツールが発達したことで近年急速に注目を浴びています。

例として米Hubspot社によると、米オンラインミーティングプラットフォームのひとつであるON24上では2020年4月単体で1万9,292回ものウェビナーが開催されたとのことです。これはざっと計算しても1日あたり640回も開催されたことになり、米市場においてもウェビナーの注目度が高いことが計り知れます。

ON24_ウェビナー効果

(画像出典:『ON24 Webinar Benchmarks Report 2019』)

  • 和訳
    • Benefits of webinars reported by responders:(ウェビナーの効果:利用者の声
      • 76% Reach more leads(新規見込み客獲得)
      • 75% Extend brand(ブランドリーチに成功)
      • 69% Scale marketing efforts(マーケティングの意欲拡大)
      • 58% Look more professional(プロフェッショナルな演出)
      • 49% Reach targeted accounts
  •  

(ターゲット企業へのコンタクト成功)

またON24が発行する『ON24 Webinar Benchmarks Report 2019』では、利用者のマーケターのうち76%がウェビナーによって新規見込み客の獲得に成功、75%がブランドリーチに成功、49%がターゲット企業へのコンタクトに成功していると発表されており、新規見込み客獲得におけるウェビナーの効果には高い期待が持てるでしょう。

SNS

新規見込み客獲得を目指すBtoBマーケターにとっては、近年急速にユーザーが増加しているソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用したマーケティングも視野に入れるべき施策となるでしょう。

Statista社は2020年における全世界のSNSユーザー数は36億人に達したと発表しており、同時に2025年までにこの数字は44億人に達すると予想しているため、今後伸びてくる分野であると予想がつきます。

hootsuite-report_SNS効果

(画像出典:Hootsuite)

ソーシャルメディア管理システムのHootsuiteがマーケター向けに行ったリサーチでは、企業がソーシャルメディアを通したマーケティングに最も期待する成果は「新規顧客の獲得」が73%でトップでした(Hubspot)。このことからも企業のマーケターが新規見込み客を獲得する上で、SNSを含むソーシャルメディアに対する期待値は非常に高いことがわかります。

その他のマーケティング施策

新規見込み客を獲得する上で、マーケティング部門が取れる施策はまだまだたくさんあります。全てを紹介・解説するとキリがありませんので、下記に施策例の一部とその概要を紹介します。

  • DM:ダイレクトマーケティング(もしくはダイレクトメール)。ターゲットに合わせたマーケティングを直接(メールなどで)行う。
  • オンライン広告:ウェブ上での広告戦略。リスティング広告やSNS広告など。
  • オフライン広告:テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などオフライン上での広告戦略。
  • PR・広報活動:自社やブランドの認知度を高める施策。プレスリリースの配信や自社ブログ・SNS発信なども含まれる。
  • トリプルメディア:買い手が接触するメディアを「ペイド(paid)・アーンド(earned)・オウンド(owned) メディア」の3つに分けたマーケティング戦略。
  • ウェブサイトの最適化:自社サイトをブランドに沿ったコンテンツ内容、閲覧ストレスの軽減などさまざまな観点から見直す。
  • SEO対策:検索エンジンによる特定のキーワード検索で表示順位が高くなるように自社サイトを最適化する。
  • チャネルマーケティング:チャネル(流入経路)ごとの集客力を見極め、最適な集客方法を打ち出すマーケティング戦略。
  • コンテンツマーケティング:ターゲットに向けてコンテンツを発信することにより、ブランドやプロダクトの認知度・信頼度を高める。
  • バイラルマーケティング:インターネットやSNS上のクチコミを利用し、ブランドやプロダクトの情報が不特定多数に広まるように仕向けるマーケティング手法。
  • ……etc.

まとめ

BtoB企業が新規取引先開拓で打ち出せる施策は、営業に比べマーケティングの打ち手がかなり多いことが、今回ご紹介したリサーチによっても明らかになったのではないでしょうか。

ご紹介した施策を含め、営業が打てる手はどうしても顧客と1体1の環境を作り出すものが多く、その分営業員毎の費用対効果や時間対効果を最大限引き出すことが難しい印象を受けます。対して1対多数の状況を作り出せるマーケティングの打ち手は、数・効率共に期待度が高いことがわかり、その利用価値は決して無視できません。

営業を活用した新規取引先開拓施策に取り組んでいるが、なかなか期待する成果が出ないという方は、一度マーケティング部門の活用も視野に入れた検討をしてみてはいかがでしょうか?

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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