GEビジネススクリーンとは?市場参入を試みる前に戦略的に考えておくべきこと

2022/01/31
BtoBマーケティング GEビジネススクリーン GEビジネススクリーンとは?市場参入を試みる前に戦略的に考えておくべきこと

日本の企業はマーケティング、マネジメントなどさまざまな領域で米国企業の影響を受けてきました。世界最大のアメリカの総合メーカーゼネラルエレクトリック(以下、GE)社のJack Welch(ジャック・ウェルチ)氏もその一人ではないでしょうか?

世界で「ナンバー1、ナンバー2」になれる事業のみに集中してきたGE社の姿勢は、事業の選択と集中を行う際の判断に、多くの示唆を与えてくれます。

今回は、そのGE社が1970年代に戦略コンサルティングファームマッキンゼー&カンパニーと共同で開発したGEビジネススクリーンについて解説します。「9ボックスマトリクス」のほうがピンとくる方も多いかもしれません。GEビジネススクリーンは「BCGマトリクス」とともに世界中の多くの企業で有用されているフレームワークです。

既存事業の今後の方針を決める際や、新たな市場参入を試みる前に、その市場での自社の可能性を改めて戦略的に捉ることができるでしょう。

GEビジネススクリーンとは?

GEのビジネススクリーン(GEマトリクス)とは、世界最大級のコングロマリット企業ゼネラルエレクトリックス(GE)社と、米国系戦略コンサルティングファームのマッキンゼーアンドカンパニー社によって開発された、ポートフォリオマネジメントツールです。

このGEビジネススクリーンは「業界の魅力」と「ビジネスユニットの競争力」という2つ指標をそれぞれ「高、中、低」に分類し掛け合わせることで、9象限に対象ビジネスユニットを分類できます。そのため「9ボックスマトリックス」とも呼ばれます。

GEビジネススクリーンは、巨大企業、事業部の多い企業が、各ビジネスユニットの戦略性を理解し、投資に優先順位を付ける際に役立つ体系的なアプローチツールです。GEビジネススクリーンの図

発展の背景

GEビジネススクリーンの誕生には、1970年代の米国の経済低迷のなか、GE社が事業の選択と集中を迫られていた背景があります。

GE社は、当時多様なビジネスユニット(事業)を抱えており、プロダクトポートフォリオマネジメントに苦慮していました。厳しい経営環境のなかGE社はボストンコンサルティンググループによって提案されたSBU)とプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を中心に経営刷新をはかります。

さらにGE社は、1970年にマッキンゼーアンドカンパニーと契約しました。ビジネスユニット(事業)の大規模で複雑なポートフォリオの管理についてコンサルティングを受け、PPMを改良しGEビジネス・スクリーン開発をマッキンゼー社に依頼します。

マッキンゼー社は、GE社がそれまで活用していたポートフォリオマネジメントよりも、柔軟かつ現実的で包括性のある9ボックスのフレームワークとして設計したのがGEビジネススクリーンです。

プロダクトポーフォリオマネージメント(BCGマトリクス)との違い

GEはマッキンゼー社との契約の前に、ボストンコンサルティンググループと契約しており、PPM(BCGマトリクス)をもとにビジネスユニットを評価していました。GEビジネススクリーンは、このBSGの課題をふまえて開発されたものです。

BCGマトリクスとGEビジネススクリーンは「どのユニットに資源を優先して配分するかを評価する」という、プロダクトポートフォリオマネジメントのコンセプトは同じですが、GEビジネススクリーンのほうが柔軟でさまざまな経営シーンで活用できます。

BCGは縦軸に市場成長率を、横軸に自社の相対的マーケットシェアをとり、4象限に各事業をプロットする明快でわかりやすいフレームワークです。

しかし、業界内のポジションを相対的マーケットシェアのみで捉えており、企業のコアコンピタンスを考慮されていない、業界のポテンシャルを成長率だけでとらえており収益性が考慮されていないなどの課題があります。

GEビジネススクリーンは縦軸、横軸の指標を自在に設定できるため、分析の目的に応じて最適なポートフォリオを描くことができます。そのため、BCGほどシンプルではありませんが、より高度な成長戦略フレームワークだと言えるでしょう。

また、合わせて大企業向け、もしくは複数事業を持っている企業に向いているフレームワークと言うことができます。しかしながら、このフレームワークを独自に変化させ、SaaS企業であればツールの機能を分解し、顧客に対して価値を出している機能を探すなどにも応用できることを覚えておくとよいでしょう。

BCGマトリクスとGEビジネススクリーン

(参考:https://thinkinsights.net

GEビジネススクリーン2つの軸

ここでは、GEビジネススクリーンの縦軸に使用する「業界の魅力度」、横軸に使用する「業界の地位」の項目を紹介します。

業界の魅力度(INDUSTRY ATTRACTIVNESS)

企業の成長可能性は、業界の成長可能性に比例しています。また、ライバル企業が多い企業より少ない企業のほうが魅力的です。ビジネスを評価するときは、長期的な成長の可能性、業界の規模、業界の収益性、参入障壁なども重要なポイントです。

業界の魅力を決める要因は数多くありますが、指標としては以下が活用できます。基本的に企業によって異なるため、分析担当者が指標を選択する必要があります。

  • 市場規模と成長率
  • 収益性
  • 競争環境
  • マクロ環境(PEST)
  • 参入障壁や撤退障壁
  • インフレへの対応他

業界での地位(COMPETETIVE)

業界内の競合他社と比較して、どのように運賃がかかるかを考慮してください。企業が業界での競争上の優位性を評価するのに役立ついくつかの要因は次のとおりです。

  • 市場シェア
  • 市場シェアの成長可能性
  • ブランド認知度
  • ビジネスの利益率
  • 顧客ロイヤルティ
  • プロダクトの独自性
  • 自社の強み弱み

この縦軸の指標、横軸の指標から、分析の目的にあわせ最適な指標をピックアップします。さらにそれぞれ高、中、低に分類されます。3×3で9象限にビジネスユニットが分類されることになります。

GEビジネススクリーンから得られる戦略的施策

GEビジネススクリーンは、実際にどのような戦略に活用できるでしょうか? 代表的な施策は以下があります。

1. 投資/成長戦略

どのビジネスユニットに投資すべきかを選択できます。ジャックウェルチ氏が率いていた当時の「世界でNo.1かNo.2になる事業以外捨てる」という戦略をとることもできれば、ある程度の成長性が見込めるユニットに継続して投資し続ける選択ができます。

2. 選択性/収益戦略

ホールド戦略とも呼ばれます。魅力的な業界では低~中程度の競争力のあるユニットです。魅力の少ない業界でも非常に高い競争力のある地位にあるユニットは、安定した収益を上げることも多く、事業継続は経営判断となるでしょう。ホールドする事業であり、より競争力を高めたり、魅力的な市場に進出したりする選択ができます。

3. 収穫/ダイブ戦略

GEビジネススクリーンによって魅力のない業界におり、自社の競争力も低い象限にあてはまる場合、戦略的対応として事業売却があります。売却によりキャッシュを収穫し、自社の強みを生かせるユニットに投資できます。

(参考:https://thinkinsights.net

GEビジネススクリーンの使い方

GEビジネススクリーンの活用ステップを解説します。

ステップ1:各ビジネスユニットの業界の魅力を判断する(縦軸)

縦軸の指標を決定します。業界の魅力や業界での地位も自社独自で設定し、数値で割り当てる必要があります。

業界の魅力:1~5

重要度:0.01~1.0

合計スコアを計算します。合計スコアにより、各ビジネスユニットの業界の魅力を比較できます。

ステップ2.各ビジネスユニットの競争力を判断する(横軸)

横軸の指標を決定し、こちらも自社が項目を選択します。さらに、1と同様数値で割り当てます。

業界の魅力:1~5

重要度:0.01~1.0

合計スコアを計算します。合計スコアにより、各ビジネスユニットの業界での競争力を比較できます。

ステップ3.ビジネスユニットをマトリックスにプロットする

すべてのビジネスユニットのスコアをマトリクスにプロットします。どの象限に位置するかで、投資すべきか、ホールドすべきか、収穫(売却)すべきかが俯瞰できます。GEビジネススクリーンの図

プロットする際に、収益性に円のサイズを比例させるとよりわかりやすくなるでしょう。

GEビジネススクリーンの活用図

https://strategicmanagementinsight.com/tools/ge-mckinsey-matrix/

ステップ4:各ビジネスユニットの将来の方向性を特定する

他のプロダクトポートフォリオマネジメントツールと同じように、GEスクリーンも現状の自社の各ビジネスユニットの状況を俯瞰し、戦略を立てるためのスタートラインを提供するものです。

すべてのビジネスユニットをプロットしたうえで、全社的な事業戦略、個々のビジネスユニットの戦略構築に着手してください。

まとめ

GEビジネススクリーンは、プロダクトポートフォリオマネジメントツールの中でも複雑で高度な部類です。しかし使いこなせれば、より現実的な打ち手を考えるのに役立つ、自社ビジネスユニットの俯瞰図を見せてくれます。

ちょっと敷居が高いかもしれませんが、BCGマトリクスで分析してみて、GEビジネススクリーンでも分析してみましょう。最初から精密に分析しようと思わず、自分なりの重要と思う指標で、まずはマッピングしてみてください。

正式に市場参入する際は、コンサルティング会社に委託してもよいでしょう。しかし数値のウエイト付けなど、フレームワークの活用方法を教授してもらえることはできても、自業界、自社の強み・弱みを理解しているのは事業会社の人材です。

どの基準が重要であるかの選択眼を、実は自分たちが最ももっていることを理解していただき、そこに外部ブレーンの力を借りるスタンスがより望ましいと言えます。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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