MRRとは?SaaSマーケティング関係者が知っておくべき成長の指標

2022/09/21
SaaS BtoBマーケティング MRR MRRとは?SaaSマーケティング関係者が知っておくべき成長の指標

SaaS関係者が管理すべき指標ベスト10というものがあるのをご存じでしょうか? NPS、コンバージョンレート、LTV、CAC、リテンションレート、などなど……。ビジネスを評価する指標において、特にSaaS業界では独特な用語が非常にたくさん使用されます。

「MRR」、そしてその親戚である「ARR」も上記のベスト10にランクインする、SaaSビジネスの実力値・成長性を評価する上で非常に重要とされる指標のひとつです。

そこでこの記事では、SaaSマーケティング関係者が知っておくべきMRRの意味や分類、計算方法、MRRで何がわかるのか、そしてMRRを最大化するために何ができるのかを詳しく解説していきます。

MRRとは

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(出典:MetricsCube)

MRRとは、英語の「Monthly Recurring Revenue」を省略した言葉で、企業が毎月決まって得ることができる1カ月分の収益です。日本語では「月次経常収益」と呼ばれます。MRRは毎月「継続して」得られる収益を指しますので、初期費用などのスポット的に発生する費用は含まれません。

MRRがサブスクリプション方式のSaaSビジネスで重要な理由

MRRはSaaS系、特にサブスクリプション型のBtoBビジネスにおいて、事業の実力値や成長性をはかる指標として重視されており、しばしば事業のKPI(Key performance indicator、重要経営指標)として設定されます。

製品やサービスを販売した時点で取引が完了する一般的なビジネスとは対照的に、サブスクリプション型ビジネスは顧客との継続的な契約(サブスクリプション)を積み重ねていくことで成長します。

つまり、MRRが安定して高いもしくは成長している事業は、それだけ多くのサブスクリプション顧客を安定的に保持している、または次々と新規顧客を獲得しているということですから、事業の信頼性や成長性が高いという証明にもつながります。

このためMRRは、SaaS企業が自社の経営状況を評価する指標としてはもちろん、投資家がSaaS系のスタートアップ企業に投資する際にも貴重な判断材料となります。サブスクリプション方式をとるSaaS企業にとっては、自社の資金調達をはかる上でもMRRを高く保つことは大きな意味をもつのです。

MRRとARRの違い

MRRと同時によく聞くものに「ARR」があります。ARRとは、「Annualy Recurring Revenue」の頭文字をとったもので「年間計上収益」、つまり企業が毎年決まって得ることができる1年分の収益のことです。

MRRは毎月継続発生する収益、ARRは毎年継続発生する収益を指しますので、シンプルに言ってしまうと「ARRとはMRRの12カ月分」となります。

月単位、年単位と評価する期間が異なるだけで、事業の成長性を測る指標である点は同じであるMRRとARR、どのように使い分ける必要があるのでしょうか?

厳密には、どちらか一方のみ使うということはしません。上記の通り「ARR = MRR × 12カ月」ですので、ARRを算出するためには先にMRRを算出する必要がありますし、MRRを算出したのであればARRはそれを12倍すれば求められます。

しかし、最終的に事業の実力値や成長性を評価するKPIとしてどちらの指標に重きを置くかは、ビジネスモデルによって違いが出てくる点です。

MRRは、契約期間が月単位であるなど比較的短いビジネスモデル、もしくは長期の契約期間であっても事業を始めたばかりであるなど、契約数や解約数が月ごとに大きく変動しやすい場合にKPIとして効果を発揮しやすくなります。

SaaS事業で例をあげると、音楽・動画配信などのBtoCビジネス、BtoBであればChatworkやSlackなど月単位の契約が多いものなどが契約数・解約数の上下が毎月一定数発生しやすいビジネスとして考えられます。

またSaaS以外でも、ひげ剃りに代表される「レイザー&ブレードビジネス」と呼ばれるビジネスモデルも、MRRがKPIとして効果を発揮しやすい分野のひとつです。

これは、本体の製品を購入後に替え刃などのオプションを継続して購入してもらうビジネスのことをいい、似たようなビジネスモデルはプリンターとインクカートリッジ、ゲーム機とゲームソフトなどで見られます。

対してARRは、サブスクリプション型のSaaSビジネスの中でも、特に最小の契約期間が1年〜複数年など長く、また事業としてある程度安定したビジネスにおいてKPIとして効果を発揮しやすくなります。このようなビジネスでは契約数や解約数が月ごとでは大きく変動しにくいため、1年を通した長期的な観点で評価する方が、事業のパフォーマンスをはかる上で重要となりやすいのです。

注意する点として、ARRはある月のMRRを12倍した数値であるため、月ごとの契約数・解約数の変動値が大きいビジネスでは、基準にする月をどの月にするかによって、算出されるARRの数値が大きくなりすぎてしまうため、ARRがKPIとして機能しにくくなる可能性があります。自社のビジネスの形態や成長の度合いなどに合わせて、どちらを評価指数として設定するか検討しましょう。

ARRについては当ブログのこちらの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

MRRの種類とは

MRRを算出・分析する前に、理解しておきたいのがMRRの種類です。MRRは「New MRR」「Expansion MRR」「Contraction MRR」「Churned MRR」「Reactivation MRR」の5種類に分類されます。それぞれのMRRの種類を理解・分析することで、最終的なMRRの値に加えその月にどのような変化があったのかを細かく知ることができます。

MRR example

(出典:SaaSOptics)

New MRR

新規顧客獲得によって増収した分のMRRを「New MRR」といいます。事業を開始したばかりの時期はできるだけ多くの顧客の獲得が先決となるため、New MRRが特に重要な指標となります。

例:

月額30,000円のプランで100人の新規顧客を獲得した場合

New MRR = 30,000円 × 100人 = 3,000,000円

Expansion MRR

「Expansion MRR」とは、前月よりも取引額が増加した既存顧客から得られるMRRのことをいいます。サービスを上位プランにアップグレードしてもらう(アップセル)、関連サービスやオプションプランを契約してもらう(クロスセル)などが考えられるでしょう。

Expansion MRRが高くなることは、それだけロイヤルティの高い顧客を得られているということを意味しており、事業が健全に成長しているという指針になります。

例:

10人の既存顧客が月額30,000円のプランから月額40,000円のプランにアップグレードした場合

Expansion MRR = (40,000円 - 30,000円) × 10人 = 100,000円

Contraction MRR

Expansion MRRとは反対に、前月よりも取引額が減少した既存顧客から得られるMRRのことを「Contraction MRR」といいます。下位プランへのダウングレードやオプションプランの解約などが考えられます。

事業を健全に成長させていくためには、Contraction MRRをできるだけ小さく抑える必要があるでしょう。

例:

10人の既存顧客が月額50,000円のプランから月額40,000円のプランにダウングレードした場合

Contraction MRR = (50,000円 - 40,000円) × 10人 = 100,000円

Churned MRR

当月にサービスを解約・退会した顧客から得られるMRRのことを「Churned MRR」といいます。当然ですが、解約が発生すると当月のMRRには痛手となります。できるだけChurned MRRを低く抑えることがビジネスを健全に保つために必要となるでしょう。

例:

月額50,000円のプランを5人の顧客が解約した場合

Churned MRR = 50,000 × 5人 = 250,000円

Reactivation MRR

「Reactivation MRR」とは、以前に解約したもしくは休眠状態であった顧客が再度契約を復活させた場合に得られるMRRをいいます。

ただReactivation MRRは、New MRRとみなす、Expansion MRRとみなすなどされるケースが多く、実際のMRRの計算では「Reactivation MRR」として含まれないことが一般的です。(当記事でも後述する計算方法では除外しています。)

例:以前サービスを解約した5人の顧客が月額30,000円のプランを再度契約した場合

Reactivation MRR = 30,000円 × 5人 = 150,000円

MRRの計算方法とは

MRRの算出には、主に以下の2種類の計算方法が用いられます。

4種類のMRRを利用し当月MRRを算出する

Calculating True MRR

(出典:LeadMine)

前月のMRRに、前述した4つのMRRを加えて計算するのが一般的です。各MRRを別々に管理することで、当月にどのような変化が起きたのかが可視化されます。

月額利用料から当月MRRを算出する

mrr-formula

(出典:baremetrics.com)

当月の月額利用料に契約中の顧客数を掛けても、当月のMRRを算出することができます。できるだけシンプルにMRRを計算したい場合や、MRRの分析をこれから開始する場合には、こちらの計算式を使用します(4種類のMRRを利用する計算式ではまず「前月のMRR」が必要となるため)。

MRRと関係の深い指標

ARPU

ARPU(Average Revenue Per User)」とは、1顧客あたりの平均収益のことをいいます。そのまま「アープ」と読むのが一般的で、主にSaaS業界や通信業界のような利用者数が売上げ増減に大きく影響する業界で有用とされる経営指標です。

ARPUの計算式 (1)

ARPUはMRRや後述するLTVとも深い関係を持ちます。特にサービス体系が標準化されているSaaS業界においては、ARPUと顧客の増加状況をみると売上げ予測を立てやすく、ARPUを向上させることはMRRも比例して高め、LTVも向上する可能性が高まることにつながります。

また前述した計算式の「平均月額利用料」はそのままARPUに言い換えることができるため、下記の計算式の通り、ARPUはMRRを構成する要素のひとつとしても捉えることができます。

ARPUの計算式 (1)

(出典:CFI)

ARPUについては当ブログのこちらの記事でも解説していますので、あわせてご一読ください。

LTV

How to Calculate Customer Lifetime Value-Mar-08-2022-04-29-26-37-PM

LTVとは、「Lifetime value(ライフタイムバリュー)」「顧客生涯価値」というマーケティング用語を省略したもので、ある顧客が自社との取引開始から終了までに、どれだけの利益をもたらすかを表す指標です。

LTVとMRRは、どちらも企業が将来的に得られる利益を予測する指標であるということ、また評価することで事業の戦略や方針の決定に役立つという点が共通しています。

異なる点としては、LTVには自社にとって価値の高い優良な顧客を割り出す、という目的があることです。

自社の抱える既存顧客のうち、自社により多くの利益をもたらす可能性がある顧客はどの企業か? 営業やマーケティングのリソースを優先的に割き、顧客維持または拡販を積極的にはかるべき顧客はどこか? など、営業やマーケティングの戦略立てに使われることが多いのがLTVです。

対してMRRは、自社の実力値や成長性の数値化、ビジネスモデルの成否の評価、収益の予測など、自社の事業そのものの現状を評価するのに使われることが一般的です(後述します)。

LTVについては、当ブログのこちらの記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

MRRで何がわかるのか?

MRRは、サブスクリプションベースのSaaS企業のビジネスを評価する上で最も重要な指標のひとつであるとされています。そのため前述の通り、MRRはSaaS企業が自社の経営状況を評価するのはもちろんのこと、投資家がどのSaaSビジネスに投資を行うかを決定する上でも貴重な判断材料です。

ここでは特に投資家の目線から、MRRでSaaSビジネスの何がわかるのかを紹介します。

1. 企業の実力値や成長性

数カ月単位でのMRRの変動値やその安定性を見ることで、その企業の実力値や成長性を推し量ることができます。

たとえば、MRRの変動が安定的に右肩上がりとなっている企業は、事業における経営判断が継続的に好転的な成果を生み出していることを示しています。これは投資家にとってみれば企業の信頼性を評価する上での重要な判断材料となります。

2. ビジネスモデルの成否

投資家が投資先企業を検討するときに参考にする情報のひとつに、企業の総収益(Total revenue)があります。ところが総収益は1年間で企業が得た金額の全てを指すため、サブスクリプションビジネス以外で得た収益も含まれています。

その点、MRRはサブスクリプションビジネスで企業が安定的に得る収益のみを評価する指標です。MRRを評価することは、その企業のサブスクリプションビジネスが成功しているか否かを判断する直接的かつ信頼のおける判断材料となるのです。

3. 企業の収益予測

企業の総収益には一時的・例外的に得た収益も含まれるため、それだけを見てもその企業が次年度も同様の収益を得られるかどうかを判断するのは難しい側面があります。

企業が現在サブスクリプションビジネスによって安定的に得ている収益を表すMRRは、企業の今後の収益を予測する上で信頼性の高い「ベースライン」と考えることができます。投資家にとってもMRRが安定している企業は、次年度の収益予測が立てやすい優良企業となり得るのです。

MRRを最大化する方法

SaaS企業がMRRを最大化させていく方法は、MRRの計算式に含まれる各要素をみるとわかりやすいです。

新規顧客数を増加させる

MRRを高める要因のひとつは「New MRRを高める」こと、つまり新規顧客の獲得です。

事業を開始したばかりの事業は特にですが、顧客のニーズに合わせたマーケティング施策を打ち出し、より多くのサブスクリプション契約を獲得できれば、New MRRが大きくなりますので、結果的に当月のMRRの数値も向上します。

アップセル・クロスセルを増加させる

「Expansion MRRを高める」こと、つまりアップセル・クロスセルを駆使して既存顧客からの収益をアップさせることもMRRを向上させる要因のひとつです。

既存顧客へのアップセル・クロスセルは、新規顧客の獲得と比べてマーケティングや営業にかかるコストが低く抑えられるのもメリットです。そのため、うまく運用できれば新規顧客獲得に劣らない効率的なMRR向上が望める可能性も秘めています。

既存顧客のダウングレードや解約を防止する

「Contraction MRRとChurned MRRを低く保つ」こと、つまり既存顧客のダウングレードや解約を防止することも、マイナスを抑えるという意味で結果的な当月MRRの向上に直結します。

既存顧客によるダウングレードや解約を抑制するためには、サービスプランの内容や料金の継続的な改善などの施策のほか、アフターケア・カスタマーサービスの品質向上も顧客維持率(リテンションレート)を高く保つ上で重要となります。

顧客維持率についてはこちらの記事でも紹介していますのでぜひご一読ください。

まとめ

MRRはサブスクリプション方式をとるSaaSビジネスにおいて、自社ビジネスの実力値や成長性をはかる指標としてだけでなく、投資家からの信頼を勝ち取るための「通信簿」の側面をも持ち合わせています。

しかし、ただ無闇に測定しているだけでは意味がありません。紹介した5種類(もしくは4種類)の各MRRの要素を個別に分析し、それぞれに対して継続的に改善策を講じることで効果的にビジネスの成長につなげることができます。

本記事で紹介した内容をもとにMRRを活用し、自社ビジネスの発展に少しでも役立てていただければ幸いです。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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