SaaS関係者が管理すべき指標ベスト10というものがあるのをご存じでしょうか? NPS、コンバージョンレート、LTV、CAC、リテンションレート、などなど……。ビジネスを評価する指標において、特にSaaS業界では独特な用語が非常にたくさん使用されます。
「MRR」、そしてその親戚である「ARR」も上記のベスト10にランクインする、SaaSビジネスの実力値・成長性を評価する上で非常に重要とされる指標のひとつです。
そこでこの記事では、SaaSマーケティング関係者が知っておくべきMRRの意味や分類、計算方法、MRRで何がわかるのか、そしてMRRを最大化するために何ができるのかを詳しく解説していきます。
MRRとは、英語の「Monthly Recurring Revenue」を省略した言葉で、企業が毎月決まって得ることができる1カ月分の収益です。日本語では「月次経常収益」と呼ばれます。MRRは毎月「継続して」得られる収益を指しますので、初期費用などのスポット的に発生する費用は含まれません。
(出典:MetricsCube)
MRRはSaaS系、特にサブスクリプション型のBtoBビジネスにおいて、事業の実力値や成長性をはかる指標として重視されており、しばしば事業のKPI(Key performance indicator、重要経営指標)として設定されます。
製品やサービスを販売した時点で取引が完了する一般的なビジネスとは対照的に、サブスクリプション型ビジネスは顧客との継続的な契約(サブスクリプション)を積み重ねていくことで成長します。
つまり、MRRが安定して高いもしくは成長している事業は、それだけ多くのサブスクリプション顧客を安定的に保持している、または次々と新規顧客を獲得しているということです。そのため、事業の信頼性や成長性が高いという証明にもつながります。
このためMRRは、SaaS企業が自社の経営状況を評価する指標としてはもちろん、投資家がSaaS系のスタートアップ企業に投資する際にも貴重な判断材料となります。サブスクリプション方式をとるSaaS企業にとっては、自社の資金調達をはかる上でも、MRRを高く保つことは大きな意味をもつのです。
MRRの定期的な追跡によってわかることを、もう少し詳しく見ていきましょう。
MRRによって、現在の財務状況を把握可能です。月単位で収益を測定することで、ビジネスの成長や衰退を素早く捉えることができるからです。具体的にMRRを詳細に計算することで(詳細な計算方法は後述します)、たとえば次のような動きを読み取ることが可能です。
ビジネスのどの部分が好調で、どの部分に課題があるかを把握できるのです。
BtoB SaaSビジネスの成長を評価するうえで、「年間目標」が存在するのはもちろんですが、「月単位」で評価を行っている企業が多いはずです。
世界で25万社以上が利用するCRM・SFAツールで知られるZoho社のブログでも「サブスクリプションビジネスの成長を評価するためには年単位では長すぎて、1週間では短すぎる。よって月単位での評価が妥当」と述べられています。MRRは短期的な(月単位の)業績評価に適していて、年間目標に向けた進捗状況を確認できます。
MRRは、SaaSビジネスの将来の収益予測にも有用です。定期的に得られる売上げを基に、将来の売上げを高い精度で予測することができます。
たとえば、長期的にMRRの追跡に取り組んできたため、「今後の予測を立てるうえで、過去の成長率も加味できる」状況を整えられているとします。すると、次のような予測を立てることができます。
<例> ・前月MRR=1000万円 ・売上げの増加率=毎月一貫して5%程度(※これまでの評価に基づく) ⇒翌月のMRR予測値=1050万円 |
このような予測を立てておくことで、営業チームやマーケティングチームは見込み可能な売上額を把握し、目標達成に必要な戦略(例:「もっとリードを獲得する必要がある」「もっと商談数を増やす必要がある」など)を立てることができます。また、経営陣は将来の事業展開や投資判断を、より確かな根拠に基づいて行うことが可能になるでしょう。
MRRは、SaaSビジネスの予算管理とコスト配分の最適化を図るうえでも、重要な指標となります。
毎月の安定した収益見込みを把握することで、ビジネスに投資可能なリソース(特に予算面)を正確に評価できます。
たとえば、MRRが増加傾向にある場合、事業拡大のための予算を増やすことが可能かもしれません(新規顧客獲得キャンペーンを実行する、営業部門に新たなメンバーを採用するなど)。一方、MRRが減少している場合は、コストの見直し・削減や業務プロセスの効率化を検討する必要があるでしょう。
このように、MRRは単なる収益指標というだけではなく、ビジネス全体の健全性(予算とコストのバランスを適切に管理できているか?)を評価し、意思決定を下すための重要な指標にもなるのです。
MRRと同時によく聞くものに「ARR」があります。ARRとは、「Annualy Recurring Revenue」の頭文字をとったもので「年間計上収益」、つまり企業が毎年決まって得ることができる1年分の収益のことです。
MRRは毎月継続発生する収益、ARRは毎年継続発生する収益を指しますので、シンプルに言ってしまうと「ARRとはMRRの12カ月分」となります。
月単位、年単位と評価する期間が異なるだけで、事業の成長性を測る指標である点は同じであるMRRとARRは、どのように使い分ける必要があるのでしょうか?
厳密には、どちらか一方のみ使うということはしません。上記の通り「ARR = MRR × 12カ月」ですので、ARRを算出するためには先にMRRを算出する必要がありますし、MRRを算出したのであればARRはそれを12倍すれば求められます。
しかし、最終的に事業の実力値や成長性を評価するKPIとしてどちらの指標に重きを置くかは、ビジネスモデルによって違いが出てくる点です。
MRRは、契約期間が月単位であるなど比較的短いビジネスモデル、もしくは長期の契約期間であっても事業を始めたばかりであるなど、契約数や解約数が月ごとに大きく変動しやすい場合にKPIとして効果を発揮しやすくなります。
SaaS事業で例をあげると、音楽・動画配信などのBtoCビジネス、BtoBであればChatworkやSlackなど月単位の契約が多いものなどが契約数・解約数の上下が毎月一定数発生しやすいビジネスとして考えられます。
またSaaS以外でも、ひげ剃りに代表される「レイザー&ブレードビジネス」と呼ばれるビジネスモデルも、MRRがKPIとして効果を発揮しやすい分野のひとつです。
これは、本体の製品を購入後に替え刃などのオプションを継続して購入してもらうビジネスのことをいい、似たようなビジネスモデルはプリンターとインクカートリッジ、ゲーム機とゲームソフトなどで見られます。
対してARRは、サブスクリプション型のSaaSビジネスの中でも、特に最小の契約期間が1年〜複数年など長く、また事業としてある程度安定したビジネスにおいてKPIとして効果を発揮しやすくなります。
このようなビジネスでは、契約数や解約数が月ごとでは大きく変動しにくいため、1年を通した長期的な観点で評価する方が、事業のパフォーマンスをはかる上で重要となりやすいのです。
注意する点として、ARRはある月のMRRを12倍した数値であるため、月ごとの契約数・解約数の変動値が大きいビジネスでは、基準にする月をどの月にするかによって、算出されるARRの数値が大きくなりすぎてしまうため、ARRがKPIとして機能しにくくなる可能性があります。
自社のビジネスの形態や成長の度合いなどに合わせて、どちらを評価指数として設定するか検討しましょう。
ARRについては当ブログのこちらの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
MRRを算出・分析する前に、理解しておきたいのがMRRの種類です。MRRは「New MRR」「Expansion MRR」「Contraction MRR」「Churned MRR」「Reactivation MRR」の5種類に分類されます。それぞれのMRRの種類を理解・分析することで、最終的なMRRの値に加えその月にどのような変化があったのかを細かく知ることができます。
(出典:SaaSOptics)
新規顧客獲得によって増収した分のMRRを「New MRR」といいます。事業を開始したばかりの時期はできるだけ多くの顧客の獲得が先決となるため、New MRRが特に重要な指標となります。
例:
月額3万円のプランで100人の新規顧客を獲得した場合
New MRR = 3万円 × 100人 = 300万円
「Expansion MRR」とは、前月よりも取引額が増加した既存顧客から得られるMRRのことをいいます。サービスを上位プランにアップグレードしてもらう(アップセル)、関連サービスやオプションプランを契約してもらう(クロスセル)などが考えられるでしょう。
Expansion MRRが高くなることは、それだけロイヤルティの高い顧客を得られているということを意味しており、事業が健全に成長しているという指針になります。
例:
10人の既存顧客が月額3万円のプランから月額4万円のプランにアップグレードした場合
>Expansion MRR = (4万円 - 3万円) × 10人 = 10万円
Expansion MRRとは反対に、前月よりも取引額が減少した既存顧客から失われたMRRのことを「Contraction MRR」といいます。下位プランへのダウングレードやオプションプランの解約などが考えられます。
事業を健全に成長させていくためには、Contraction MRRをできるだけ小さく抑える必要があるでしょう。
例:
10人の既存顧客が月額5万円のプランから月額4万円のプランにダウングレードした場合
Contraction MRR = (5万円 - 4万円) × 10人 = 10万円
当月にサービスを解約・退会した顧客から失われたMRRのことを「Churned MRR」といいます。当然ですが、解約が発生すると当月のMRRには痛手となります。できるだけChurned MRRを低く抑えることがビジネスを健全に保つために必要となるでしょう。
例:
月額5万円のプランを5人の顧客が解約した場合
Churned MRR = 5万円 × 5人 = 25万円
「Reactivation MRR」とは、以前に解約したもしくは休眠状態であった顧客が再度契約を復活させた場合に得られるMRRをいいます。
ただReactivation MRRは、New MRRとみなす、Expansion MRRとみなすなどされるケースが多く、実際のMRRの計算では「Reactivation MRR」として含まれないことが一般的です。(当記事でも後述する計算方法では除外しています。)
例:以前サービスを解約した5人の顧客が月額3万円のプランを再度契約した場合
Reactivation MRR = 3万円 × 5人 = 15万円
MRRの算出には、主に以下の2種類の計算方法が用いられます。
(出典:LeadMine)
前月のMRRに、前述した4つのMRRを加えて計算するのが一般的です。各MRRを別々に管理することで、当月にどのような変化が起きたのかが可視化されます。
なぜ4種類のMRRを利用して算出する必要があるのか、もう少しわかりやすく見てみましょう。
上図の各要素をわかりやすく解説します。
前月のMRR |
前月時点で確保できていた収益 |
|
New MRR |
+ |
新規顧客獲得で増えた収益 |
Expansion MRR |
+ |
前月よりも取引額が増加した既存顧客からの収益 |
Contraction MRR |
ー |
前月よりも取引額が減少した既存顧客による減益 |
Churned MRR |
ー |
当月にサービスを解約・退会した顧客による減益 |
それでは、これらの要素を具体例に当てはめて、実際にMRRを計算してみましょう。
<例> ・前月のMRR=30万円 ・New MRR=300万円 ・Expansion MRR=10万円 ・Contraction MRR =10万円 ・Churned MRR = 25万円 ⇒ (当月MRR) = 30万円+30万円+10万円-10万円- 25万円 = 35万円 |
このように計算することができます。
(出典:baremetrics.com)
当月の月額利用料に契約中の顧客数を掛けても、当月のMRRを算出することができます。できるだけシンプルにMRRを計算したい場合や、MRRの分析をこれから開始する場合には、こちらの計算式を使用します(4種類のMRRを利用する計算式ではまず「前月のMRR」が必要となるため)。
たとえば、あなたの会社のBtoB SaaSが3つの利用プランを提供していて、現状で100人の顧客を獲得できているとしましょう。この場合、次のように計算することができます。
総収益:130万円 |
ここから、平均月額利用料(=客単価)を割り出してみましょう。
130万円 ÷ 100人 = 1万3000円 |
この平均月額利用料を、上図で示す計算式に当てはめれば、MRRを算出できます。
100人 × 1万3000円 = 130万円 |
「ARPU(Average Revenue Per User)」とは、1顧客あたりの平均収益のことをいいます。そのまま「アープ」と読むのが一般的で、主にSaaS業界や通信業界のような利用者数が売上げ増減に大きく影響する業界で有用とされる経営指標です。
ARPUはMRRや後述するLTVとも深い関係を持ちます。特にサービス体系が標準化されているSaaS業界においては、ARPUと顧客の増加状況をみると売上げ予測を立てやすく、ARPUを向上させることはMRRも比例して高め、LTVも向上する可能性が高まることにつながるでしょう。
また前述した計算式の「平均月額利用料」はそのままARPUに言い換えることができるため、下記の計算式の通り、ARPUはMRRを構成する要素のひとつとしても捉えることができます。
(出典:CFI)
ARPUについては当ブログのこちらの記事でも解説していますので、あわせてご一読ください。
LTVとは、「Lifetime value(ライフタイムバリュー)」「顧客生涯価値」というマーケティング用語を省略したもので、ある顧客が自社との取引開始から終了までに、どれだけの利益をもたらすかを表す指標です。
LTVとMRRは、どちらも企業が将来的に得られる利益を予測する指標であるということ、また評価することで事業の戦略や方針の決定に役立つという点が共通しています。
異なる点としては、LTVには自社にとって価値の高い優良な顧客を割り出す、という目的があることです。
自社の抱える既存顧客のうち、自社により多くの利益をもたらす可能性がある顧客はどの企業か? 営業やマーケティングのリソースを優先的に割き、顧客維持または拡販を積極的にはかるべき顧客はどこか? など、営業やマーケティングの戦略立てに使われることが多いのがLTVです。
対してMRRは、自社の実力値や成長性の数値化、ビジネスモデルの成否の評価、収益の予測など、自社の事業そのものの現状を評価するのに使われることが一般的です(後述します)。
LTVについては、当ブログのこちらの記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
Churn Rate(チャーンレート、解約率)は、SaaSビジネスにおいてMRRと密接に関連する重要な指標です。Churn Rateとは、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示し、通常は月次または年次で計算されます。
この指標は以下の式で求められます。
(出典:SaaSの解約率(チャーンレート)とは?解約率の計算式と平均・目安について解説)
Churn RateがMRRと深く関係している理由は、顧客の解約が直接的にMRRの減少につながるからです。たとえば、高いChurn Rateは新規顧客獲得によるMRRの増加を相殺し、事業の成長を妨げる可能性があります。
このため、Churn Rateを把握することは、収益予測や顧客生涯価値(LTV)の計算において非常に重要です。具体的には、Churn Rateがわかることで将来のMRRをより正確に予測できるほか、顧客の平均利用期間を推定しLTVを算出する際にも不可欠なデータとなります。
低いChurn Rateは顧客満足度の高さを示し、安定したMRRの成長につながります。Churn Rateの分析によって、MRRを維持・向上させるための具体的な施策を検討することが可能です。
MRRは、サブスクリプションベースのSaaS企業のビジネスを評価する上で最も重要な指標のひとつであるとされています。そのため前述の通り、MRRはSaaS企業が自社の経営状況を評価するのはもちろんのこと、投資家がどのSaaSビジネスに投資を行うかを決定する上でも貴重な判断材料です。
ここでは特に投資家の目線から、MRRでSaaSビジネスの何がわかるのかを紹介します。
数カ月単位でのMRRの変動値やその安定性を見ることで、その企業の実力値や成長性を推し量ることができます。
たとえば、MRRの変動が安定的に右肩上がりとなっている企業は、事業における経営判断が継続的に好転的な成果を生み出していることを示しています。これは投資家にとってみれば企業の信頼性を評価する上での重要な判断材料となるでしょう。
投資家が投資先企業を検討するときに参考にする情報のひとつに、企業の総収益(Total revenue)があります。ところが総収益は1年間で企業が得た金額の全てを指すため、サブスクリプションビジネス以外で得た収益も含まれています。
その点、MRRはサブスクリプションビジネスで企業が安定的に得る収益のみを評価する指標です。MRRを評価することは、その企業のサブスクリプションビジネスが成功しているか否かを判断する直接的かつ信頼のおける判断材料となるのです。
企業の総収益には一時的・例外的に得た収益も含まれるため、それだけを見てもその企業が次年度も同様の収益を得られるかどうかを判断するのは難しい側面があります。
企業が現在サブスクリプションビジネスによって安定的に得ている収益を表すMRRは、企業の今後の収益を予測する上で信頼性の高い「ベースライン」と考えることができます。投資家にとってもMRRが安定している企業は、次年度の収益予測が立てやすい優良企業となり得るのです。
SaaS企業がMRRを最大化させていく方法は、MRRの計算式に含まれる各要素をみるとわかりやすいです。
MRRを高める要因のひとつは「New MRRを高める」こと、つまり新規顧客の獲得です。
事業を開始したばかりの事業は特にですが、顧客のニーズに合わせたマーケティング施策を打ち出し、より多くのサブスクリプション契約を獲得できれば、New MRRが大きくなりますので、結果的に当月のMRRの数値も向上します。
「Expansion MRRを高める」こと、つまりアップセル・クロスセルを駆使して既存顧客からの収益をアップさせることもMRRを向上させる要因のひとつです。
既存顧客へのアップセル・クロスセルは、新規顧客の獲得と比べてマーケティングや営業にかかるコストが低く抑えられるのもメリットです。そのため、うまく運用できれば新規顧客獲得に劣らない効率的なMRR向上が望める可能性も秘めています。
「Contraction MRRとChurned MRRを低く保つ」こと、つまり既存顧客のダウングレードや解約を防止することも、マイナスを抑えるという意味で結果的な当月MRRの向上に直結します。
既存顧客によるダウングレードや解約を抑制するためには、サービスプランの内容や料金の継続的な改善などの施策のほか、アフターケア・カスタマーサービスの品質向上も顧客維持率(リテンションレート)を高く保つ上で重要です。
顧客一件あたりの契約単価を上げることも重要です。営業チームは、可能な限り高い単価で契約を獲得するよう努めることが推奨されます。目先の受注獲得だけを考えた安易な値引きや割引を避け、製品・サービスの価値を十分に説明し、定価での契約を目指すべきです。
また、相手方企業のニーズに合わせて追加機能やサービスを提案し、より高単価の契約獲得を目指しましょう。基本プランに加えて有償の手厚いサポートサービスや、データ分析機能を追加することで、単価を上げられる場合が考えられます。
適切な価格戦略も不可欠です。必要以上に低価格にせず、製品・サービスの価値に見合った料金設定をしましょう。たとえば、月5000円のプランを月7500円に引き上げるだけで、MRR増加につながると考えられます。
これはBtoBではなくBtoCの例にはなりますが、生活に身近なサービスでいうと「Amazonプライム」の会費は、数年に一度見直しが行われ、一度の値上げ幅は少ないものの段階的に会費は上昇しています。(2007年に年額3,900円、2019年に4,900円、2023年に5,900円)
この値上げによってAmazonのMRRがどうなったか、というデータは公にはなっていないものの、「アメリカだけでもプライム会員1億8000万人を達成、過去最高値(2024年5月)」というニュースもありました。
つまり「便利」「必要」とユーザーが十分に実感できて、製品・サービスの価値に見合った価格設定ができていれば、「値上げしたら顧客が離反する」とは単純には言い切れないと考えられます。
なおBtoB SaaSの価格戦略については、次のような手法も考えられるでしょう。
MRRはビジネスの収益性を示す重要な指標だと述べてきましたが、実態を正確に反映しない場合も考えられます。以下、留意点を紹介します。
サブスクリプションビジネスを長く続けていると、「顧客ごとに契約期間が違う」という状況が数多く生じてきます。そこで、その違いを考慮することが必要です。具体的には、年間契約や複数年契約を結んでいる顧客の場合、「契約総額を契約月数で割って月額換算」しなければなりません。これにより、MRRが実際の収益状況により近づきます。
そして、一時的な収益についても注意が必要です。たとえば、「初月無料」といったキャンペーンや「1年間10%オフ」といった割引を適用した場合には、実際の収益状況を正確に評価するために「割引後の価格」で計上してください。
これらの要素を無視してMRRを算出すると、ビジネスの実態とかけ離れた数値になる恐れがあるため、MRRを分析する際には、顧客ごとの事情も併せて評価することが重要です。
MRRを計算する際に注意すべき重要なポイントは、サブスクリプション収益以外の収益源を除外することです。
たとえば、次のような収益はMRR計算に含めるべきではありません。
考え方のポイントは、「定期的に繰り返し発生しない収益源は、MRRの対象外」ということです。収益に対する期待値が過大評価されてしまうからです。
ただし、たとえサブスクリプション収益が少なくても、それ以外の収益が安定している場合、企業の財務状況は健全である場合もあります。そのため、MRRだけでなく、総合的な収益分析を行うこと(サブスクリプション以外の収益源も含めた全体像を把握する)が重要です。
MRRの計算において、顧客ごとに請求タイミングが異なる場合は特に注意が必要です。
サブスクリプションビジネスでは、顧客によって契約開始日や支払いサイクルが異なることがよくあります。そのような状況下でMRRを正確に把握するためには、実際の請求日や入金日ではなく、サービス提供月を基準に収益を計上することが重要です。
たとえば、ある顧客が3月15日に契約を開始し、3カ月分の料金を前払いした場合、その収益を3月から5月にかけて均等に分配して計上します。同様に、年間契約の顧客の場合も、年間の総額を12で割って毎月のMRRに計上します。また、月の途中で契約が開始または終了した場合は、日割り計算を行うことで、より正確なMRRを算出可能です。
これにより、実際の現金の動きとは異なりますが、サービスの提供実態に即した収益認識が可能となります。
MRRはサブスクリプション方式をとるSaaSビジネスにおいて、自社ビジネスの実力値や成長性をはかる指標としてだけでなく、投資家からの信頼を勝ち取るための「通信簿」の側面をも持ち合わせています。
しかし、ただ無闇に測定しているだけでは意味がありません。紹介した5種類(もしくは4種類)の各MRRの要素を個別に分析し、それぞれに対して継続的に改善策を講じることで効果的にビジネスの成長につなげることができます。
本記事で紹介した内容をもとにMRRを活用し、自社ビジネスの発展に少しでも役立てていただければ幸いです。