近年はオンライン上にメディア、SNSがあふれています。メディアの種類だけでなく動画、ARの活用、音声など体感できる新しい手法も増えました。一方、展示会、看板広告、CMなどもオンラインと相互補完的になりつつあり、企業と顧客の接点(タッチポイント)が非常に多様になっています。
増え続ける顧客接点(タッチポイント)を前に、マーケティング企画をどう組み立てるべきか? どのタッチポイントが重要なのか? と悩むマーケティング担当者も増えているのではないでしょうか?
そこで本記事では、タッチポイントの種類、タッチポイントを強化する方法を解説します。限られた予算のなかで最適なタッチポイントを設計していきましょう。
タッチポイントとは、直訳すると「接点」という意味ですが、マーケティング領域では「企業と顧客、見込み客が接触する直接的、関節的な顧客接点(場、機会)」を意味します。
以下のように、さまざまな「タッチポイント(顧客接点)」があります。
例:WEB、広告、販促物、イベント、企業のオフィスや店舗、人材、テレビ、ラジオCM、新聞、雑誌広告、ビルボード、メディア記事、SNS、口コミサイト、人の評判、新しい機能(新技術)、他
マーケティングにおいてタッチポイント(顧客接点)とは、見込み客と出会う接点、既存顧客とコミュニケーションを深める機会、場です。マーケティングの目的ごと、ひいては事業成長のために戦略的に活用していく必要があります。
タッチポイントには企業がコントロールできる広告、CM、人材などのタッチポイントもあれば、メディアの取材記事など多少は影響力を及ぼせるタッチポイント、まったくコントロールできないSNS上での評判、口コミなどの自然発生的なタッチポイントもあります。
マーケティング担当者は、1と2にフォーカスしてタッチポイントを設計します。
タッチポイントを設計するアプローチには、複数の方法があります。ここでは、3つの種類を紹介します。
ブランドとのタッチポイントは、見込み客がブランドと出会い、ブランドを理解し、購入し愛用する過程でのタッチポイントです。企業目線では、適切なタッチポイントで適切なメッセ―ジを発信することで、望ましいブランドイメージを形成していく考え方に立ちます。
タッチポイントの種類を簡易的に分類するために、購入前(気づきや認知の段階)、購入中(検討や導入の段階)、購入後(利用中)のステージでわけて考えます。
購入前は、ブランドを知ってもらう、ブランドイメージを形成する、第一想起されるブランドになるなどが目的です。購入中とは、ブランドを評価した見込み客が実際に購入する段階 。購入後は、顧客によりブランドをよく知りリピーター、ロイヤルカスタマーになってもらうフェーズ、それぞれのフェーズごとに適したタッチポイントを設定します。
購入前のタッチポイント:
購入中:
購入後
なお、ブランドと見込み客、顧客とのタッチポイントを考える際は、購入前〜購入後にいたるまで一貫したブランドメッセージを伝えることが重要です。
2022年の米国SaaSの統計でも、SaaSの顧客が価格以外にも注目して購入を決定しており、「すべてのタッチポイントで一貫したブランディングを刷り込んでいるブランド」が、より多くの顧客を引きつけるというデータが出ています。
カスタマ―エクスペリエンスとしてのタッチポイントとは、見込み客の「顧客体験(カスタマ―エクスペリエンス、略してCX)」をいかに高めて、購買につなげるかという観点で捉えるタッチポイントです。
見込み客がブランドを初めて知ったときから、情報を自らリサーチして商品を体験、購入し、実際に活用してブランドへの推奨に至るまでを、できるだけ解像度を高くとらえて重要なポイントで適切なメッセージを届けます。
そのためには、まずカスタマージャーニーを作成し、タッチポイントで見込み客の行動をマッピングします。業種、商品・サービスによってカスタマージャーニーは異なります。例えば以下は、BtoBの担当者がSaaSを検討すると仮定した場合の流れです。
BtoB担当者カスタマージャーニーの例(オンライン完結の場合)
上記はざっくりとした流れで、実際には営業マンと面談するなど紆余曲折もあるわけですが、それでも多くの人は最初に検索したり、Webに訪れて事例を見たりといった行動のパターンをたどります。それをカスタマージャーニーマップに書き込んでいきます(ツールは後で紹介)。
カスタマ―エクスペリエンスとしてのタッチポイントは、見込み客の行動の解像度を高くし、多くの見込み客がアクセスするポイントで、適切なプロモーションを行い顧客体験(CX)を向上させ、購買につなげることを目指します。
購買プロセスにおけるタッチポイントは、AIDMA(アイドマ)、AISUS(アイサス)、SIPS(シップス)などのフレームワークで示される人の購買心理、購買行動パターンに沿って考えます。
ここでは、AISUSを例に解説します。AISUSは、ネット社会やSNS社会において、人が以下の購買心理・行動をたどることを説明しているフレームワークです。
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各フェーズに適したタッチポイントを設計し、商品購入から購入後の高評価の拡散までをしていただけるようにメッセージを配信します。
このように顧客の変容にあわせて適切なタッチポイントを配置し、適切なメッセージを発信することは非常に重要です。
リアルな買い物と同じように、例えばちょっと関心を持ったくらいのステージで多すぎる情報、専門的すぎる情報をもらうと、人はしばしば関心がうすれます。唐突なクロージングも好まれません。
2022の米国のSaaSの統計でも、「無料デモなどで顧客に自ら学んでもらい、最初のタッチポイントで積極的に売り込もうとしない企業が最も成功している」傾向が出ています。
ここでは、BtoB SaaS企業を例にタッチポイントを増やすための設計の手順を解説します。
まずタッチポイントを増やす前作業として、現在のマーケティングプロセス、タッチポイントの課題箇所を見つけることが大切です。以下のような課題はないでしょうか?
その他、手薄なところ、ノーマークなところ、不要なところを把握します。課題箇所こそが成果につながるタッチポイントです。
課題箇所は数値で判断することがベストです。CRM、NPSなどを活用していない場合、出せない数値もあるかと思いますが、できるかぎりデータで判断しましょう。また、この時点では思いつくかぎりの課題をリストアップします。
ちなみにこちらは、米国SaaS企業のリードジェネレーションに限定したデータですが、見込み客を生み出すために力を入れているのが、1位がリードの質と量、2位がCVR、3位がリードのボリューム、4位がマーケティング成果の分析能力の改善、5位がマーケティングと営業の連携となっています。
裏を返せば、これができていないことがありがちな課題なので、あわせて参考にしてください。
(出典:FinancesOnline.com)
本格的にタッチポイントを設計するためには、顧客(見込み客)の課題を深く理解する必要があるので、ペルソナを作成します。顧客インタビューとセットで作成するとよいでしょう。
自社の何名かのロイヤルティ顧客に自社を知ったきっかけ、どのようにリサーチしたか、最初の課題は何だったかなどを聞き出します。その上で、自社のセールスチーム、カスタマーサポートチームの意見も聞きながら作成しましょう。
ペルソナは、手書きでチームメンバーと打ち合わせながら作成してもよいですし、最近はサクサクと自動で作れるペルソナ作成ツールも増えています。以下はHubSpotのツールですが、簡単な質問に回答するだけで脳内にいるペルソナが2次元に出てきます。まず試してみましょう。
(出典:HubSpot)
ペルソナを作成したら、カスタマージャーニーを作成し、見込み客がどのような場所で情報収集するか、タッチポイントを押さえます(顧客インタビューの際の情報をマッピング、不明点はペルソナの行動特性から仮説をたてます)。
カスタマージャーニー作成方法については、Web上で無料テンプレートが多数公開されています。また、海外無料ツールで便利なものも結構あります。以下のFlowmappは、美しいフローチャートのテンプレートが豊富にありスムーズに作成可能。自由に作成も可能なおすすめのツールです(Chrome拡張機能で翻訳ツール追加すれば日本語入力可)。
次に見込み客に、どのような形式で情報を届けるかの方針を決めます。BtoBの打ち手には例えば、以下があります。
どの形式がベストかは業種によっても異なるでしょう。参考までに、こちらは米国の2020年のBtoBマーケティングのコンテンツタイプのトレンドです(1位、SNS、2位:ブログ、3位:メールマガジン)。
(出典:B2B Content Marketing Trends to Watch in 2020 - Convince & Convert)
トレンド上位=他社の多くが使っている=一定の成果が出ているという解釈ができますが、すでにレッドオーシャンになっている面もあるので、ある程度ペルソナが好みそうでかつ新しいトレンドのタッチポイントも、バランスよく組み入れるのがコツです。競合が少ない段階で始めると、ソートリーダーになれる可能性が高まります。
何よりすべてに予算を投下できないケースが多いと思うので、パレートの法則(80対20 の法則方足)にのっとり、自社にとって最も重要で最も効果が出そうな2割(前述の課題箇所など)のタッチポイントにしぼるなど優先順位をつけます。
カスタマージャーニー上の重要なタッチポイントで、見込み客に提供する役立つコンテンツを制作します。メールマガジン、ブログ単独でもよいのですが、そこで惹きつけて、以下のようなコンテンツを見てもらうとより興味関心を高めてくれるでしょう。
シンプルにWebサイトに多様な事例を掲載し、それをSNSやメールで告知するだけでもそれなりの効果は期待できます。BtoBの鉄板コンテンツはなんだかんだいっても事例です。
ポイントは、購買心理に沿ったコンテンツがそれぞれ配置されていることです。課題を感じ始めた人向けには短くわかりやすいガイドや事例、初心者向けウェビナー。検討段階の人向けに詳細な事例といった感じで、何種類か設置するとよいでしょう。
メールマガジンなどでコンテンツを告知する際も、ファネルの「興味・関心層」「比較検討段階」「購買検討中」をセグメントして、適切なコンテンツを案内する必要があります。
ここでは、タッチポイントを運用管理する方法を解説します。タッチポイントを設計しても一回で100点満点の出来にはなりませんし、次々と新たなタッチポイントが登場してきます。運用しながらタッチポイントを見直し、強化していきましょう。
まず、最初にKPI設定を行います。タッチポイントを強化するためのKPIは広告のインプレッションなどではなく、コンバージョン(CVR)を重視します。オンラインでは集客は比較的容易ですが、すれ違っただけの人も多いため、ビジネスグロースに直結しないことがあるからです。
BtoB SaaSのタッチポイントのKPI例
現在のタッチポイントが適切か分析するためには、CRMなどを活用し、KPIの数値の推移をみていきます。リアルのタッチポイントについても、近年はWebと連動させることである程度計測が可能なので、自社が管理できる範囲でできるだけ計測しましょう。
紙媒体の広告、ポスター、DMなども、QRコードでWEBアクセスに流入を促すことで、ある程度効果の測定が可能です。自社ウェブサイトでの接点を増加させます。
既存顧客に対しては、NPS、顧客満足度調査などで定期的なサーベイを行いましょう。ただし、こちらはあまり頻繁だと顧客の負担になるため、質問のタイミングと量には配慮しましょう。
KPIの変化を見て、タッチポイントを見直します。成果の出ていないタッチポイントについては、コンテンツの問題かタッチポイント自体が重要でないのか分析し、改善します。
中長期的視点に立ったうえで、成功しているタッチポイントは継続し、今後も成果につながらないと判明したタッチポイントは減らし、新たなトレンドで自社にマッチする可能性が高いタッチポイントも順次取り入れます。
ただし、広告などは比較的すぐ判断できても、オウンドメディアなどコンテンツの蓄積がものをいうものは、ある程度のスパンで判断しましょう。
タッチポイントを最適化し続けることは、好ましいブランドイメージを構築し、マーケティングROI(費用対効果)を高めることにつながります。
マーケティング領域には多種多様なタッチポイントがあります。しかも、近年はさらにタッチポイントが増え続けています。そのため、マーケティング目的ごとに適切なタッチポイントを選び、プロモーションを展開していく意識が必要です。
購入前、購入中、購入後とわけてシンプルにタッチポイントを設計するか? カスタマ―エクスペリエンス(CX)に沿って設計するか? AISUSにそって設計するか? などは、単にタッチポイントを捉える角度と解像度の違い。活用しやすいフレームワークを選ぶ感覚で選んで問題ありません。
大事なのは、まず自社の課題となっているタッチポイントを特定してそこを強化すること。その上で不足しているタッチポイントを増やすことを意識しましょう。