BtoB企業が知っておくべきパートナーリレーションシップマネージメント(PRM)という考え

2022/03/11
パートナーリレーションシップマネージメント PRM BtoB企業が知っておくべきパートナーリレーションシップマネージメント(PRM)という考え

起業家あるいはスタートアップ企業の社員なら、自社製品・サービスを世界中の国々のユーザーに使ってもらいたい、何かの領域で世界No.1に、少なくとも日本No.1になりたいといった野望を持つのは自然なことかと思います。

たとえ周りから嘲笑されようとも「そこそこでいい」なんて思っていたら、あっさり淘汰されるのがベンチャーの世界。目標はできるだけ大きく持ちましょう。

とはいえ素晴らしい製品・サービスがあっても、少人数のスタートアップ組織がそれを世の中に拡販していくには、売る仕組みづくりが必要不可欠です。営業員不足を補う方法として、以前にチャネルマーケティングの記事を書きました。

今回は、パートナーリレーションシップマネジメント(PRM)という概念およびPRMソフトウェアについて紹介します。米国では、PRMソフトウェアの市場規模が2010年代後半から急成長し始めています。これまでのSFAやCRMなどのセールステック類と同じように、おそらく近いうちに日本にもトレンドはくるでしょう。

ツールの導入はさておき、自社と協力してくれる、自社を応援してくれるパートナー企業を増やすことは非常に重要です。パートナーの種類、パートナーリレーションシップマネジメントという概念、PRMソフトウェアの存在を知って、2022年以降の自社の売る布陣をどう組み立てていくかのヒントにしていただければ幸いです。

パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)とは?

パートナーリレーションシップマネジメント(PRM)とは、ビジネス領域では企業が自社製品・サービスを販売するパートナー(企業・個人)をマネジメントすることを指します。英文字のPartner relationship managementを略してPRMとも呼びます。

パートナーリレーションシップマネジメントは、非常に広い意味を持つ言葉であり、チャネルパートナーの構築、パートナーとの信頼関係醸成、サポートや育成、管理、パートナーリレーションシップマネジメントに活用するRPMソフトウェアまでを含んだ概念です。文脈によっては、単にソフトウェアのPRMを指します。

(言葉の意味)

  • パートナー(Partner):自社製品・サービスを販売する代理店、個人等
  • リレーションシップ(Relationship):信頼関係、結びつき
  • マネジメント(Management):運用する、管理する、実行するの意味

パートナーリレーションシップマネジメントの目的は、ベンダーが販売パートナーとの信頼関係を良好に保ち、販売パートナーの力を最大限に活かして自社製品・サービスを拡販していくことです。

発展と必要な理由

BtoB領域では、昔からパートナーリレーションシップマネジメントは行われてきました。多くの企業は自社の営業部門だけでなく代理店営業部門を持ち、外部のパートナー企業と提携しています。

しかし、近年はさらにパートナーリレーションシップマネジメントが重要視されつつあります。理由のひとつにビジネスのデジタル化、テクノロジーの進化があります。

営業活動を科学的に再現性のある活動にするという試みが2000年ごろから行われ、多くの企業が自社の営業活動マネジメントにCRMやSFAを導入したのはご存知のとおりです。直接販売にこの2つのソフトウェアが活用されたように、実はその後パートナー企業のマネジメントにも活用できるPRM(ITツール)が登場していました

しかし、CRM、SFAといったツールも、初期のころは導入企業が使いこなせないことも多く、顧客満足度があまり高くない状態でした。直接販売よりさらに関係性の難しいPRMが浸透する土壌は、できていなかったと言えるでしょう。

CRM、SFAの顧客満足度が徐々に高くなる2010年代半ばから、PRMを提供するベンダーも増えていきます。2017年には米国セールスフォース社がPRMをリリースします。CRMトップベンダーが提供することで、PRMはかなり知られるようになりました。

以下は、米国の市場調査会社Grandview research社によるPRMソフトウェアのPRMの市場調査です。2018年から着実に伸び始め、2021年から2028年にかけて16.2%の複合年間成長率(CAGR)で拡大すると予想されています。この他にも、多くのレポートでPRM市場の成長が予測されています。

米国PRM市場予測レポート

(出典:grandviewresearch.com/

パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)とCRMの違い

CRMとPRMはよく似ています。

CRM(Custome relationship management:顧客管理システム)とは、広義では顧客との信頼関係を良好に保ち続けることで、売上げを最大化していくマネジメント手法のことです。狭義ではITツール(ソフトウェア)のCRM(顧客の発注時期、内容、頻度、売上げ金額、問い合わせ内容等の管理システム)を指します。

CRMとPRMの違いを簡単に言うと、直接販売を想定したマネジメント手法か、もしくは間接販売を想定したマネジメント手法かという点です。

  • CRM=顧客とのリレーションシップを基盤に売上げを最大化するマネジメント手法(狭義ではITツールのCRM)
  • PRM=パートナー企業との信頼関係を強化し売上げを最大化するマネジメント手法(狭義ではITツールのPRM)

ITツールについて限定して言えば、そもそもPRMはCRMやSFAをもとにしてできたシステムなのです。

ITツールのCRMは、営業スタッフが情報を入力します。CRMには既存顧客との取引情報がすべて蓄積されています。情報が可視化、資産化されているので、もし担当営業スタッフが退職しても新任の営業はCRMにアクセスすればスムーズに業務を引き継ぐことが可能です。

また、CRMのデータをもとに顧客の動向を分析し、よりよい提案に結びつけたり、営業スタッフの教育に活かしたりすることができます。

ITツールのPRMは、パートナー企業の営業社員が入力します。PRMにも、CRM同様に顧客情報、取引情報が蓄積され、同じように営業活動の可視化、顧客への最適な提案に生かせるのが特徴です。ベンダーは、PRMのデータをもとに、パートナー企業の営業サポート、教育などが行えます。

パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)で期待できる効果

パートナーリレーションシップマネジメント(PRM)は、昔も今も重要です。何より、外部パートナーが多ければ多いほど、協力してくれればくれるほど、ベンダーの売上げは上がります。

昨今はビジネスがデジタル化し、インターネット上にさまざまなメディアが登場しています。顧客の動きは複雑化し、読みづらくなっています。自社だけでネット上のあらゆる見込み客にリーチすることはおそらく難しく、よりパートナー企業の存在感は増しています。

ソフトウェアのPRMについても、SaaS業界のようにビジネスのすべてがオンラインで完結する業界では非常に有用です。PRMを活用することで、ベンダー側は数多くのパートナーの営業活動を把握でき、顧客の状況をつかみパートナーを適切にサポートできます。

パートナー企業に対してタイミングのよい情報提供、営業サポート、トレーニングが可能になるため、エンゲージメントの醸成や売上向上につながることが期待できます。

  • 販売チャネルの増加による売上アップ
  • 自社では拠点を設けられないエリアへのセールス
  • 見込み客・顧客に対するきめ細やかなサポート
  • 収益率向上(自社営業マンのように固定給は発生しないため)
  • パートナー企業のアイデア、フィードバック
  • 自社営業スタッフが少なくても企業としての営業力は向上

パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)で注意すべきこと

ここでは、パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)で注意すべきことを解説します。

まず、パートナーリレーションシップマネジメントは、あくまでベンダー側からの概念です。パートナー企業は独立した法人なので、ベンダー側に必要以上に指図されることは、基本的に好まないと思ったほうがよいかもしれません。

自社製品・サービスの営業に協力してもらえるかは、パートナー企業の意思が大きく左右します。それ以前にベンダーとパートナーの相性もあります。まず、自社にあうパートナー企業かどうかを見極めて、営業活動に関するポリシー、体制、使用ツールについて同意してもらった段階でパートナー契約を結ぶ必要があるでしょう。

IT業界では、ベンダー側が自社ランディングページなどで獲得したリードを、パートナー企業に振り分けるケースが増えています。その場合は、PRMソフトウェアの導入も賛同してもらいやすいでしょう。

一方、ゼロからの新規開拓の大半をパートナー企業の営業力に依存する場合、情報共有を申し出てもパートナー企業は営業ノウハウの流出を危惧するかもしれません。

パートナーリレーションシップマネジメントにおいては、営業に関する考え方や互いがのぞむWinWinのあり方、企業文化の相性などを総合的に判断してパートナーを選ぶ必要があります。契約後は、常に「リレーションシップの構築」に主眼をおき、自社の営業スタッフを支援する同じレベルの熱意・姿勢でコミュニケーションをとることが大切です。

(注意点)

  • 自社と価値観のあうパートナー企業を探す
  • 契約に際してはパートナー企業のメリットをわかりやすく明示する
  • 営業活動の進捗報告他、契約後のコミュニケ―ションのとり方をお互い納得の上で契約書を交わす
  • PRMソフトウェアを活用する場合、パートナー企業が活用しているCRM、SFAなどと連携できるか確認する
  • 契約後は、管理するではなく、支援する姿勢で向き合う

パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)ソフトウェアの例

近年のPRMソフトウェアは、リード段に対するパートナー企業の活動、KPI設定、価格設定、割引の追跡などさまざまな機能があります。ここでは、代表的な2社のPRMソフトウェアを紹介します。

ソフトウェア1:Salesforce Partner Relationship Management

SalesforceのPRMソフトウェア

提供企業:Salesforce.com, Inc.

概要:CRMトップベンダーのセールスフォース社が提供するPRMは、ディストリビューター、リセラー、ブローカーなどの間接販売チームとのリレーションシップを強化します。チャネルパートナーのパフォーマンスをクラウド上で確認できるため、コラボレーションが向上し適切なパートナー支援が行えます。

自社の世界領域での全商談の 3 分の 1 をチャネルパートナーが販売しているセールスフォース社のノウハウが活かされたPRMソフトウェアです。

価格:$ 10 /ログインまたは$ 25 /メンバー 米ドル/月*

特徴:

  • パートナー募集のプロセスを効率化
  • パートナーのオンボーディングを簡素化
  • LMS(学習管理システム)を活用したパートナーのトレーニング
  • パートナーとの販促素材を簡単に共同作成
  • リードの自動配布
  • パートナーの見積もりプロセスを効率化

サポート体制:

基本プランでは、カスタマーサポートコミュニティ、ウェビナーなどイベントへの参加等が可能。高価格なプランでは追加サポート機能として、パートナー企業への24時間年中無休のサポート、専門家によるコーチングセッションなどが提供されます。

ソフトウェア2:PartnerStack

Partner StackのRPMソフトウェア

提供企業:PartnerStack Inc.

概要:PartnerStackは2015年にリリースされたSaaS向けのPRMプラットフォームであり、パートナー企業の採用、リソース管理、取引の管理、紹介の追跡、紹介に対する支払いまで対応しています。導入するとPartnerStackマーケットプレイスで、800,000以上のアフィリエイト、紹介、リセラーのパートナーにプログラムを宣伝してくれるなど、パートナー採用面でのサポートも強力です。

価格:マーケティングチャネル、紹介チャネル、リセラーチャネル、マルチチャンネル

の4種類の価格プランあり(詳細な価格はフォームで問い合わせ要)。

主な機能:

  • PartnerStack内のパートナーリンク、リード、取引を追跡
  • 顧客ロイヤルティプログラムを製品に直接組み込む
  • 独自の報酬構造とコンテンツを備えたパートナーグループを作成
  • カスタムフォームとメールフローを使用しパートナーのオンボーディングを自動化
  • パートナーへの支払いを自動化

PartnerStackはITツールのレビューサイトG2において何年にもわたり数々の賞を受賞しており、好意的なレビューが数多く寄せられています。

まとめ

マネジメントという言葉は、そもそも日本語で「管理」と訳されたため誤解を招いたとよく言われます。CRMを「顧客管理システム」、パートナーリレーションシップマネジメント(PRM)を「パートナー企業管理システム」と訳すと、たしかに非常に上から目線な冷たい感じがあります。

日本語に適切な言葉がないというのもありますが、本来の「マネジメント(management)」の意味は、目的に対してどうにか何とかしていく、成し遂げること。そう考えると泥臭い行動や人間的な感情のやりとりも含めて、努力するイメージがわくのではないでしょうか?

パートナーリレーションシップマネジメントも管理ではなく、自社および外部パートナーの信頼関係を重視して、互いの目標を達成するために何とかしていくと捉えていただければと思います。顧客だけでなく、社員だけでなく、パートナー企業の面々からも応援されるような信頼関係を構築できる企業を目指しましょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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