製品・サービスも人間のように寿命があり、ライフサイクルがあります。大型の建築物のように長く生き続けるものもあれば、あっという間にライフサイクルの途中で消えてしまう製品・サービスもあります。
企業としては、自社の製品・サービスができるだけ大きく成長して長く生き続けて欲しいものです。人間の生死はあくまで自然の摂理ですが、ビジネスの場合は製品・サービスのライフサイクルによって変わりゆく顧客層、それによって必要になる経営戦略(マーケティング施策含む)を実施することで、寿命を延ばすことが可能です。
本記事では、米国の経済学者Raymond Vernon(以下、レイモンド・バーノン)氏が提唱した「プロダクトライフサイクル」について解説します。
プロダクトライフサイクル理論とは、米国の経済学者レイモンド・バーノン氏が1966年に提唱した、国際市場における輸出製品のライフサイクルについての理論です。
プロダクトライフサイクル理論はレイモンド・バーノン氏が、1966年に提唱した理論です。元々のバーノン氏の理論は、輸出製品のライフサイクルは「序章」「成長」「Maturity(成熟)」「飽和」「衰退」の5段階をたどるという内容でした。
その後バーノン氏の理論は、Philip Kotler(フィリップ・コトラー)氏などにより一般的な業界にも応用できる4段階のプロダクトライフサイクル理論(PLC)として確立され、幅広い業界に普及していきます。
現在のPLC理論では、プロダクトライフサイクルのステージは以下の4段階です。
導入期以前に「開発期」を入れたり、成熟期の後に「飽和期」を入れたりして5段階とする場合もありますが、本記事では4段階の定義で解説します。
なお、プロダクトライフサイクルは以下を前提としています。
プロダクトライフサイクルを理解する意味として、以下4点が挙げられます。
製品の成熟度を理解することで、現在や未来の事業展開の方向性をイメージしやすくなります。
例えば、導入期であればこれから製品を市場に浸透していく必要があるので、まずは感度の高い顧客層に露出をしていかなくてはいけません。そのため事業の方向性としては、マーケティングに大規模な投資をおこなうことや、広報やプレスリリースなどを通して、認知してもらうことが重要になります。
また、導入期であれば製品としても未完成・未成熟なことが多くありますので、今後どのような機能や価値を展開して行くべきか、どのような要素が成長期・成熟期に他社と差別化ができている状況に持っていけるかを、この段階で考えておくことも大事です。
現在のプロダクトライフサイクルの段階がわかることで、どの顧客層がターゲットになってくるのかが絞り込めます。ターゲットがわかることで、そのターゲットに対してどのような訴求を打ち出すのか、どのようなチャネルでコミュニケーションをするのかのイメージがついてきます。
自社製品の市場におけるポジショニングを正確に把握し、「誰に向けて、どのようなメッセージで、どんなチャネルを通じて宣伝するのがベストか? 」と的を絞り込むことで、買い手に向けて効果的に、より的を射たアプローチができるでしょう。
マーケティング戦略は、市場における製品の成功を大きく左右します。市場のニーズや競争状況を理解し、それに基づいてプロモーションやセールスの投資規模を決定することで、市場における製品寿命を伸ばすことを期待できるでしょう。また、製品のライフサイクルを理解し、衰退時期を予測することで、不要な投資を避け、ビジネスのリスクを低減することもできます。
プロダクトライフサイクルを深く理解することは、企業が市場との関係性を強化するうえでも重要です。「自社製品が現状、いかにターゲット市場に受け入れられているのか」を深く理解することで、企業は市場動向や、顧客ニーズを正確に把握することができます。これにより、製品・サービスの改善点を見つけ、それに応じた施策を実施することが可能です。
また、市場とのコミュニケーションを強化し、顧客からのフィードバックを直接受け取ることで、顧客との関係を深化させることができます。このような取り組みは、顧客からの信頼を獲得し、長期的なビジネスの成功にとって不可欠だと言えるでしょう。
プロダクトライフサイクルを考慮することは、経営資源の最適な配分にも寄与します。企業は、製品の各段階に応じて資源を効果的に割り当てることで、最大のリターンを期待できるのです。
例えば、製品が導入期や成長期にある場合、市場での認知を拡大するためにマーケティングやセールス活動に資源を集中的に投入することが考えられます。一方で成熟期には、認知拡大を目的とした広告にコストを掛けるよりも、CRM施策に力を入れて顧客ロイヤリティの強化に焦点を当てると効果的でしょう。
プロダクトライフサイクルの「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階において、売上げと利益を図で説明すると以下のようになります。
導入期とは、プロダクトが市場に投入された時点(販売開始時点)から少しづつ売れ出し、市場に認知されていく時期です。
当然マーケティング、広告宣伝費用、営業活動費用などの先行投資がかさみますので、収益的には赤字もしくはわずかな利益しか出ない時期です。革新的なプロダクトであれば、これまでにない製品・サービスの価値自体を認識してもらうまでに時間がかかります。
今のAI系、RPA、ちょっと前までのSaaSのように、聞いたことはあるけど何ができるのか? 何の役に立つのか? がピンとこない製品・サービスという位置づけであり、導入するのはイノベータ―と呼ばれる新しい物好きな層が中心です。
新しいツールがあると、導入リスクや未知な機能からくる不安などを感じることなく、我先にと飛びつく人たちがおり、この導入機の初期にはそういった人たちを多く見かけることができます。
革新的な製品・サービスであれば、当初はライバル企業が多くないためイノベーター層へのセールス自体は比較的容易です。この段階では、製品の品質が完璧でないことが多く、ソフトウェアであればバグがあったり、機械系製品であれば不具合があったりと、トラブルが多い時期でもあります。
イノベータ層はそこを織り込み済みで導入するケースが多く、ここでフィードバックを得てさらに製品・サービスを改良していきます。
(特徴)
成長期とは、プロダクトが市場で受け入れられて多くの顧客が使い始める時期です。最近の例ならZoom、Slackなどがあてはまるでしょう。多くの人が使っていますが、まだまだ潜在顧客層がかなりいる時期です。
一般には損益分岐点を超え利益を得られる期間を指しますが、SaaS企業のようにビジネスモデル上赤字が長期間先行するビジネスモデルは、売上げが急速に伸びている時期、顧客数が伸びている時期という見方でよいと思います。
成長期は顧客からのリピートオーダーがあり、かつ新規顧客が評判をききつけ導入してくれるようになります。ブランドが確立し始めた時期です。一方、競合他社が数多く参入してくる時期でもあります。後発企業は低価格戦略でくることも多く、価格競争、差別化による競争など市場競争が激化します。
(特徴)
成熟期とは、プロダクトが市場のかなりの割合に広がっている時期です。例えば、私たちの誰もが使っているといっていいほど認知度の高い、Gmail等をはじめとするGoogleの製品・サービス、MicrosoftのOffice365(ワード、エクセル等)、SNSならFacebookがあてはまるでしょう。
広く普及したため成長率が低下してくる時期ですが、ブランドが確立されていれば安定的に利益を上げられます。この時期の営業活動では「知っているが、使わない」という製品・サービスの長短を見極めた、アンチ見込み客が多くなります。
成熟期にシェアNo.1まで到達していない場合は、競合他社製品・サービスが増えているため価格競争に巻き込まれやすくなります。
市場から撤退する製品・サービスも増える時期です。ただし、どの業界でもNo.1の製品・サービスがあわない顧客も一定層存在するため、2番手、3番手戦略(同じような機能だが低価格、一部機能が卓越している等)で手堅く利益を上げる企業も出てきます。
各社の営業戦略は、他社の切り替えを促すことが中心となります。
(特徴)
があり、機能が多様化する
衰退期とは、プロダクトの売上げが低下し利益も減っていく時期です。プロダクトの拡販を目指すよりも、コストを最適化し利益を維持すべき時期といえます。これまで培ったブランド力によってあまり宣伝しなくてもある程度の売上げ維持が可能です。ただし市場から支持されなくなる時期なので、代理店などの販売ネットワークの協力が得られにくくなります。
(特徴)
このように企業は、プロダクトライフサイクルの各段階にあわせたマーケティング戦略をとることが求められます。
プロダクトライフサイクルから分析すべき点には以下があります。
まず、自社の製品・サービスがプロダクトライフサイクルのどの位置に存在しているかを理解します。例えば、導入期なのに市場に広告宣伝費も投下せず営業していれば、その製品・サービスは市場に知られることすらないかもしれません(導入すらされない可能性)。赤字前提で先行投資することが必要です。
ある程度、製品・サービスが市場に導入されてきたら、成長期を目指す必要があります。成長期に突入するには、これまでと異なる顧客層に向けたマーケティング戦略をとらなければなりません。
プロダクトライフサイクルの各段階の顧客層にあわせたマーケティングはもちろん、機能の追加など戦略を最適化していく必要があります。そもそもステージの特定は簡単ではありませんが、一般的なパターンはあります。
プロダクトライフサイクルの4段階には、導入期、成長期、成熟期、そして衰退期があり、それぞれ異なる顧客層が存在します。
例えば、導入期の製品は新しい技術やアイディアを好むイノベーターやアーリーアダプターをターゲットとする場合が多いと言えます。一方、成熟期の製品は一般的な大衆や遅れて製品を採用する層にアピールすることが求められるでしょう。
ペルソナ設定については、「イノベーター理論(普及理論)」の5種類の層、すなわちイノベーター、アーリーアダプター、初期多数派、後期多数派、そして遅滞層を参考にしてみてください。これらの層は、製品やサービスを採用するタイミングや動機に応じて分類されています。
しかし、ペルソナの設定は単にこれらの層を識別するだけでは不十分です。ペルソナは、具体的な業界、職種、課題、情報収集源、価値観、購買動機などの詳細な情報をもとに設定しましょう。
例えば、アーリーアダプターでも、IT業界の若手エンジニアと、医療業界の中堅管理職では、製品に求める価値や情報収集の方法が大きく異なると想定されます。このように、ペルソナを細かく特定し、マーケティング部門全体で共通の認識を持つことで、ターゲットに合った効果的な施策を実行できるでしょう。
(出典:BtoBペルソナの作り方とその実例をわかりやすく解説 )
最近では、SNSで目新しい情報が急速に拡散されることなどによって、新しいブランドや製品が急速に人気を集めるケースも多いと言えます。
例えば、家庭用掃除ロボット「ルンバ」や、誰でも無料で利用できる生成AIサービス「ChatGPT」などもその一例でしょう。革新的な技術を搭載した製品・サービスがSNSで紹介されると、その情報は瞬時に拡散され、多くの人々の関心を引きつけます。
そのため、自社がターゲットとしている市場が、どのようなスピードで変化しているかを考慮し、それに応じてマーケティングや、ポジショニングの戦略を柔軟にピボットさせることが重要です。
市場の動向を常に監視し、消費者のニーズや競合他社の動きに迅速に対応することで、製品の成功を確保できるでしょう。
製品ポートフォリオ(自社が市場に投入している一連の製品、および製品ラインを指す)の評価は、企業の製品群のパフォーマンスを把握し、戦略的な意思決定を助ける鍵です。製品ポートフォリオの評価を通じて、企業は持続的な成長と成功を目指すことができます。具体的に評価を実施すべき場面としては、以下が考えられるでしょう。
また、製品ポートフォリオ評価は、マーケティング施策の成果を明確にするうえでも不可欠です。各製品のマーケティング施策の強みや課題を他製品と比べて特定し、その知見をもとに次の戦略を策定することが可能になります。
プロダクトライフサイクルの各段階において、適切なマーケティング戦略を採用することが、製品の成功を左右します。各段階で具体的に取るべきアクションについて解説します。
導入期は、製品が新しく市場に登場した初期段階を指します。この時点では、製品の認知度は低く、市場の反応も不確かです。主な目的は、製品の存在を広く知らせることです。そのためマーケティング戦略においては、まだ製品について知らない顧客層に、広告などを通じて製品・サービスのことを知ってもらうことが重要になります。
【重要なポイント】
製品が市場での認知を増やし、販売数が増加する段階です。しかし、成功の兆しを見せると、競合他社も市場に参入してきます。そのため、製品について知っているものの、まだ買ったことがない人に対して価値提案を行うことによって購入してもらう必要があります。
【重要なポイント】
市場が飽和し、新規顧客の獲得が難しくなる段階です。ここでは既存の顧客を維持し、ロイヤリティを高めることが重要です。そのため、既に製品を購入したことがある人に対して、自社との信頼関係を構築し、製品を利用し続けてもらうことが大事になります。そのためには、製品・サービスのブラッシュアップが必要です。
【重要なポイント】
市場の需要が減少し、製品の終焉が見えてくる段階。この段階では、最終的な利益を最大化するための戦略が必要です。製品・サービスの終了が現実味を帯びて、どのような対処をするのかが求められます。対策としては、製品自体をリニューアルし新しい価値提案を行うか、これまでとは違った顧客層を開拓するなどが考えられます。
【重要なポイント】
プロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)は、製造業などにおいて、製品のアイディア発案から、廃棄までの全過程を効率的に管理するための手法です。この管理手法は、製品のライフサイクル、すなわち製品が市場に導入されてから成熟し、最終的に市場から退場するまでの各段階を考慮しています。
(出典:PLMとは: PLMソリューション | NEC )
PLMの主な特徴は、以下のとおりです。
PLMを導入するメリットとして、主に以下4点が挙げられます。
プロダクトライフサイクルを理解することで、「製品が市場でどのように進化するか? 」について理解を深めることができ、PLMを通じてそのライフサイクルを具体的に管理・最適化する方法を学ぶことができます。
したがって、プロダクトライフサイクルの理解とPLMの導入は、製品の成功を最大化するために相互に関連しており、これらの両方を総合的に理解することが非常に重要だと言えます。
ここでは、具体的な製品・サービスを出してプロダクトライフサイクルを説明します。
Slackは急成長したSaaSユニコーン企業です。IT業界の人なら誰もが知っているビジネスチャットかもしれません。しかし、SlackはIT業界外の人にはまだまだ浸透していません。名前は知っていても使っていない人は多く、使っても使いづらいと感じる層がまだまだ存在するので、プロダクトライフサイクルでいえば、ようやく成長期に入ったと見ることができます。
Slackはまさしく成長期であり、深い溝(キャズム)の谷を越えたばかりではないかと思います。初期のイノベーター、アーリーアダプターのようなITスキルのある層にはひととおり行き渡ったため、次はアーリーマジョリティ層に普及する戦略をとらなければいけないタイミングです。成長期の特徴である競合企業の増加、それも泣く子も黙るMicrosoftのTeamsが登場します。
多くの企業がMicrosoftのOffice365 Businessを使用しており、追加料金不要でSlackと同等の機能を使えるため、Slackを導入する大きな理由がありません。ユーザー数であっというまにteamsに抜かれてしまいました。
しかし、2021年にSlackとセールスフォース社が合併(傘下に入るかたち)したことにより、Slack顧客層も一気に広がることになったため、成長期への移行はスムーズに進んでいると思われます。
Facebookのユーザー数は10億人を超えています。日本でも活用はしていないがとりあえずアカウントを持っているという人はたくさんいます。ユーザーには、ビジネスに有効活用できる、世界中に知り合いができるという魅力から積極的にFacebookを使う人もいれば、特別必要ではないが人間関係のネットワークができているため、使わなくてもそうそう退会できない(説明するのが面倒)という方も多いようです。
後発で出てきた数々のSNSの盛況具合をみると、成熟期が続いているものの、国によっては衰退期とみることもできます。
しかし、膨大な個人情報を持っているSNSなので広告媒体としてはいまだ有力です。また、政治的な情報操作が疑われるほどその影響力は強く、企業がライバル視するどころか各国の政府が脅威を感じるほどです。いわゆるGAFAについては「もし軍隊でも持たれたら……」という懸念すら聞かれます。
Facebookは2021年に社名を「Meta」に変更し、メタバースを軸にすると方針を打ち出しました。SNSのFacebook自体は衰退期にさしかかっているとしても、入手した膨大な個人情報、数々の新しい機能に対するユーザーの反応、機械学習で得た知見などをもとに新しいビジネスの柱をいくつも打ち立てています。衰退期の戦略としてはお手本です。
Word、エクセル、PowerPointなどが、ビジネスの基本スキルと認識されてかなりの期間が経ちます。ビジネスマンなら、どんなにITスキルが低い人材でも、大半はエクセルくらいは触ったことがあるでしょう。市場の広範囲に普及している成熟期に入っていたと言える製品・サービスです。
しかし正直なところ、Word、エクセルなどを「すごく好き、便利」と思っているユーザーばかりでなく、「使いにくい、重い……」「なぜ、こんな余計なお世話機能が……」「アップデートして使いづらいくなる」など、ストレスを感じる層も多いのではないかと思います。
そこそこ使いこなせる人も、どうしてもWord、エクセルでなければというわけでもなく、Windowsとセットになっていたり、単に他の企業が使っているので使えないと仕事に支障があったりするなどの理由で使っているケースも多いのではないでしょうか? 正直、ペインはそこそこあるプロダクトであることはたしかです。
昨今はGoogleドキュメント、GoogleスプレッドシートがあればWord、エクセルの代わりになりますし、クラウドシステムならは軽くて速くてエクセルよりよい、と思う人も増えていたわけです。もしかしたらオフィス製品は衰退期に入りかけていたのかもしれません。
しかし、MicrosoftOfficeはビジネス環境の変化にあわせて、比較的早くライセンス方式からサブスクリプションモデルにシフトしました。
DX化のトレンドにうまく乗り、今度は低価格という武器で、それまでWord、エクセルを敬遠していた層を取り込み(数万円のライセンス費用なんて高いというペインを解決し)、ユーザー層を拡大し業績を大きく伸ばします。成熟期から成長期にピボットして成功した例といえるでしょう。
(出典:HubSpot )
HubSpotは2006年頃にインバウンドマーケティングという革新的なコンセプトを市場に導入し、従来のアウトバウンドマーケティング手法に代わる新しいアプローチとして、コンテンツマーケティングの重要性を強調しました。
HubSpotは製品ユーザーの疑問を解決できる教育的なコンテンツを豊富に提供し、インバウンドマーケティングの価値を広めることで市場に急速に浸透していきました。
現在、HubSpotはその市場での地位を確立し、成長期と成熟期の中間に位置していると考えられます。継続的に新しい機能やサービスを追加することで、彼らは市場でのリーダーシップを強化し続けています。
プロダクトライフサイクルは、あくまで製品・サービスのライフサイクルを大枠でとらえるもので、それだけでマーケティング戦略が成功するわけではありません。しかし、どこに自分たちがいるかを認識していないと、マーケティングの実行面に問題がなくても、大きな失策をおかしがちです。ここでは、プロダクトライフサイクルが特に役立つシーンを解説します。
キャズムとは、米国のマッキンゼー&カンパニーのパートナーコンサルタントGeoffrey Moore(以下、ジェフリー・ムーア)氏が1998年に提唱した理論です。
ジェフリー・ムーア氏は、ハイテク業界においては革新的なアイデアや技術が社会に普及する際の、初期の採用者(購入者)と後期の採用者は層が大きく異なり、その間に深い溝(キャズム)があるため、キャズム以前と以降はマーケティング戦略を大きく変えるべきだと主張しました。
アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間が「キャズム」
このキャズム理論は、現在はハイテク業界のみならず多くの業界で参考にされています。プロダクトライフサイクルに照らし合わせれば、ちょうど導入期と成長期の間がキャズムに相当するでしょう。
導入期と成長期では顧客の層が変化します。初期の知識が豊富で好奇心旺盛な顧客層に製品・サービスが行き渡り、同じように宣伝や営業活動をしていても効果が出なくなってきたときには、成長期に適した戦略を目指すべきかもしれません。
キャズムを超えるハードルは決して低くありません。ジェフリー・ムーア氏は多くの企業がここで頓挫するので、キャズムを超える段階にきたらアーリーマジョリティ層に向けたマーケティング戦略をとるべきだと主張しています。
営業活動がゆきづまったときに顧客の層が変化したことに気付かないと、同じ層に向けてのマーケティング・営業活動にさらに力を入れてしまいがちです。しかしプロダクトライフサイクルを認識していると、新たな層に向けた展開が必要な時期と判断することができるでしょう。
成長期では市場の拡大が中心だった一方、成熟期に移行すると、成果を維持しつつさらに市場を拡大する戦略が求められます。競合製品・サービスとの違いを明確にすることも大切です。この時期にはCRM施策の強化や、顧客の要望に合わせた製品・サービスを提供することが効果的でしょう。
市場の成長が鈍くなる成熟期では、新しい顧客を獲得するための方法や、製品の新しい使い方を提案することも考慮すべきです。例として、iPhoneが2007年の初代モデルから端末の大きさやカメラの機能、顔認識など、数々の変更を加えてきたことが挙げられます。
また、新しい市場や地域への進出を考えることで、さらなる顧客層を獲得する可能性が広がります。成熟期の間に得た顧客の意見や、長い間築き上げてきた顧客との関係を活かして、次のステップや新しいビジネスの方向性を探ることもできます。
衰退期は避けられない段階ですが、それが製品の終わりを意味するわけではありません。適切な戦略を用いることで、この期間中の利益を維持、または増加させることも可能です。具体的には、次の項目について検討するとよいでしょう。
コスト削減の取り組み
衰退期には売上げが減少するため、コスト削減が必要です。生産の効率化や不要な経費のカットなど、さまざまな方法でコストを最適化しましょう。
ニッチ市場への再配置
特定の市場ニーズに合わせた製品のカスタマイズや、特定の顧客層向けのマーケティングを強化することで、新しい顧客層を獲得するチャンスが生まれます。
製品のアップグレードや再ブランディング
製品の新機能の追加やデザインの一新、ブランドイメージの変更などを通じて、製品の魅力を再度高め、市場での競争力を取り戻すことができます。
顧客との関係の深化
衰退期には競合が市場を去ることも多いので、残った企業の価値は上がります。この機会に顧客との関係を強化し、長期的な利益を確保しましょう。
製品・サービスを開発した人から「プロダクトはわが子のようなもの」という声をよく聞きます。最近なら、小惑星探査機はやぶさを開発したエンジニアの方の「はやぶさ、そうまでして君は」という言葉が記憶に新しいところです。
製品・サービスにもライフサイクルがあるという概念は、物には心があるという考えが存在する日本ではわかりやすい考え方かもしれません。ぜひ、子どもが成長していくにつれ必要なサポートすることが変わるように、プロダクトの導入期、成長期、成熟期、衰退期とそれぞれの時期にあわせた金額投資、マーケティング施策などを実施していただければと思います。
特に成長期には製品開発、マーケティングを創意工夫し、できる限り大きく飛躍し、成熟期はできるだけ多くの果実を手にしましょう。衰退期にはそれまで得た知見を新しいビジネスに生かせないか検討してみてください。
まずは、自社の製品・サービスのプロダクトライフサイクルが導入期、成長期、成熟期、衰退期のどこに位置するか確認してみましょう。