買い手が自社に対して愛着や信頼感をどれほど持っているかを測定する方法として、ネットプロモータースコア(NPS)アンケートがあります。世界18カ国・地域を対象とした調査結果もあるなど、NPSは他社と比較して自社の立ち位置を把握しやすい点が特徴です。
カスタマーフェースの職業、特にマーケティングに関わっている方でカスタマーマーケティングやプロダクトマーケティングを担当している方であれば、顧客の満足度や信頼感を算出するのにNPSを利用しようとする方もいらっしゃるはずです。
海外由来の数値計算方法ということで、NPSの計算方法がわからないためにスコア算出ができない、できたとしても本当にその数値が信頼に値するのかわからないなどと、不安に思っている方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、NPSについて以下の内容を解説します。
- NPSの計算方法
- 仮想の数字を使った計算例
- NPSが低い場合の対処方法
自社のNPSを高めることは、ロイヤルティが高い買い手を増やすことを意味し、長期的な売上げを伸ばすことにつながります。NPSを算出して改善を行っていくために、本記事をお役立てください。
NPSとは
ネットプロモータースコア(NPS)は、顧客ロイヤルティと満足度を測る指標であり、自社の製品サービスを他者にすすめる可能性を0~10の数字で顧客に尋ねることで算出されます。(Hotjarより引用)
NPSを算出する際に用いられるのは、「この企業(製品サービスやブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか」という単純な質問です。この質問に対する回答を集めて計算するだけで、調査対象が企業やブランドなどに対して、どれほどの愛着や信頼感を持っているかを測定できます。
たとえば、プロダクトマーケティングの方が製品の新機能をベータ版としてリリースし、特定の顧客群にNPSをとって満足度を測る。また、カスタマーマーケティングの担当の方がコミュニティに対して、自社の製品やサービスに対しての満足度を測る、このような場合がマーケティング担当者がNPSに関わる機会として多いです。
測定が難しいと考えられていたロイヤルティの高さを、具体的な数値として算出できる指標であることから、NPSは多くの企業に利用されています。なお別記事では、NPSと顧客満足度との違いなども詳しく解説しています。ぜひあわせてお読みください。
NPSアンケートの計算方程式と仕組み
(NPSの計算方法)
NPSを算出する際には、まず「この企業を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか」というアンケートに対して、調査対象に0〜10の11段階で回答してもらいます。その回答に応じて、調査対象を以下の3種類に分類します。
この分類をした後、NPSを算出する計算方程式は以下の通りです。
NPS(%) = 推奨者の割合 − 批判者の割合
このようにNPSの計算方法は難しくないため、表計算ソフトを使って行うことが可能です。
(SurveyMonkey)
企業がNPSを算出する際には、「SurveyMonkey」などのツールがよく利用されます。アンケートの作成や集計を簡単に行えるので、NPSを算出する機会が多いのであれば、導入を検討してみるとよいでしょう。
このような海外のツールは、マーケティング担当者が利用しているマーケティングツール(MarTech)との相性が良く、ネイティブ連携をしている場合が多くあります。
たとえば、HubSpotとSurveyMonkeyはネイティブ連携をしており、マーケティングオートメーションと組み合わせて利用するなどが可能なため、日常のマーケティング業務に組み込むことなども比較的簡単にできます。
NPSアンケートの計算方法を例を用いて解説
NPSの計算は、慣れるまでは難しいと感じる方も少なくないようです。そこでNPSアンケートの計算方法を、例を用いて解説します。
以下の3つのパターンについて、1000人にアンケートを行った際の架空の回答者数を用いてNPSを算出するので、参考にしてください。
- 推奨者が多い
- 批判者が多い
- 中心付近が多い
例1:推奨者が多い
- 0:10人
- 1:20人
- 2:40人
- 3:50人
- 4:60人
- 5:70人
- 6:90人
- 7:130人
- 8:160人
- 9:180人
- 10:190人
「10」と回答した人が最も多く、数字が小さくなるほど、だんだんと回答者が少なくなっていった事例です。この場合、推奨者と批判者の割合は、それぞれ以下の通りに計算されます。
- 推奨者:(180 + 190) ÷ 1000 = 37(%)
- 批判者:(10 + 20 + 40 + 50 + 60 + 70 + 90) ÷ 1000 = 34(%)
よって、NPSを計算すると以下の通りです。
NPS = 37 − 34 = 3(%)
「この企業(製品サービスやブランド)を友人や同僚に勧める」という人が最も多いにもかかわらず、NPSの値はかろうじてプラスになる程度です。「意外と低い」と感じる方が多いのではないでしょうか。
例2:批判者が多い
- 0:190人
- 1:180人
- 2:160人
- 3:130人
- 4:90人
- 5:70人
- 6:60人
- 7:50人
- 8:40人
- 9:20人
- 10:10人
「0」と回答した人が最も多く、数字が大きくなるほど、だんだんと回答者が少なくなっていった事例です。この場合、推奨者と批判者の割合は、それぞれ以下の通りに計算されます。
- 推奨者:(20 + 10) ÷ 1000 = 3(%)
- 批判者:(190 + 180 + 160 + 130 + 90 + 70 + 60) ÷ 1000 = 88(%)
よって、NPSを計算すると以下の通りです。
NPS = 3 − 88 = -85(%)
「この企業を友人や同僚に勧める」という人が少ないため、NPSの値は大きなマイナスとなります。
例3:中心付近が多い
- 0:20人
- 1:50人
- 2:70人
- 3:100人
- 4:160人
- 5:200人
- 6:170人
- 7:110人
- 8:70人>
- 9:30人
- 10:20人
11段階の中心である「5」と回答した人が最も多く、中心から遠ざかるほど、だんだんと回答者が少なくなっていった事例です。この場合、推奨者と批判者の割合は、それぞれ以下の通りに計算されます。
- 推奨者:(30 + 20) ÷ 1000 = 5(%)
- 批判者:(20 + 50 + 70 + 100 + 160 + 200 + 170) ÷ 1000 = 77(%)
よって、NPSを計算すると以下の通りです。
NPS = 5 − 77 = -72(%)
中心付近の人が多いため、NPSの値は0付近になると思われた方がいらっしゃるかもしれません。しかし実際のNPSの値は、大きなマイナスとなりました。中心付近の「4〜6」と回答した人は「批判者」に分類されるため、数が多いとNPSを低くする要因となるのです。
(中心付近に集まる傾向)
実は日本では、この事例のように回答が中心付近に集まる傾向があると言われています。こうした傾向は、日本ではNPSの値が国際的に見て低いという調査結果に反映されています。
自社のNPSを算出した結果、大きくマイナスな値となると、ショックを受けてしまうかもしれません。しかし、日本のNPSの傾向を知っておくことで、過剰な反応をすることを防げるでしょう。冷静に結果を分析して、改善に生かすことが大切です。
NPSが低かった時の対処方法とは
算出したNPSが低かった場合は、「この企業(製品サービスやブランド)を友人や同僚に勧める」という人を増やすために対処するとよいでしょう。自社に高いロイヤルティを持つ人が増えれば、長期的な利益につながると考えられるからです。具体的な対処方法を3つ紹介します。
- 記述式のフィードバックに対応する
- 時系列での比較を重視する
- NPSの向上を目指す方針を社内で共有する
記述式のフィードバックに対応する
NPSアンケートでは、自由記述式の質問もあわせて行うと効果的です。0〜10の数値の回答だけではわからない、調査対象の不満やニーズを把握できます。具体的なフィードバックにひとつずつ対応することで、NPSの値を高めていけるでしょう。
たとえば、SaaS企業が買い手に対して行うアンケートであれば、「操作方法がわかりにくい」「問い合わせへの回答が遅い」といったフィードバックが考えられます。こうした声を集めて分類すると、買い手がとくに不満を感じている部分が見えてきます。分類の例は以下の通りです。
- 価格
- 機能の豊富さ
- 操作のわかりやすさ
- カスタマーサポート
不満が多い部分を特定し、優先順位を付けて対応を進めましょう。限られた社内リソースを有効に活用して、効率よくNPSを高める意識を持つことが大切です。
マーケティング担当者がフィードバックを取りまとめた場合、その内容を関係する担当者に伝え、対策を促すことが欠かせません。せっかく集めたフィードバックを無駄にしないように、情報共有の体制を整えておきましょう。
時系列での比較を重視する
NPSを改善する際には、自社の値を時系列で比較することを重視すべきです。定期的にNPSアンケートを行い、スコアを改善できているのであれば、正しい対処ができていると考えられます。その対処を継続することで、調査対象のロイヤルティを高めていけるでしょう。
NPSはグローバルで統一された基準で計算されるため、他社との比較が容易であるという特徴があります。また、業界や業種ごとの平均値も算出できるので、比較を行って「自社のNPSがどの程度なのか把握したい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
(業界別の平均NPS)
上図は業界別の平均NPSの調査結果です。「デパート、専門店」が58%で最も高く、「インターネットサービス」が2%で最も低いことが読み取れます。
自社のNPSがこうした平均値よりも低い場合、不安や焦りを感じてしまうでしょう。しかし、NPSアンケートの結果はさまざまな要因の影響を受けるものであるため、他社や業界平均の値はあまり気にしないほうがよいといえます。
たとえば、NPSアンケートを「対面で行う」か「インターネットで行う」かによって、回答は影響を受けると考えられます。対面の場合、自分の回答が見られることを意識して、調査対象は良いスコアを選ぶかもしれないのです。
また、NPSは回答があったアンケートから算出される数値であるため、回答率も重要です。わざわざアンケートに協力してくれる人は、自社に好意的である可能性が高いため、回答率が高いほどNPSは高くなりやすいといえます。
他社や業界平均については、NPSが算出された背景にある状況は、正確に把握できない場合が多いでしょう。そのため、NPSの値を信用しすぎないことが大切なのです。
一方、自社のNPSについては、アンケートを行った状況や回答率など、詳細な状況がわかります。毎回同じ状況で、定期的にアンケートを行うことも容易です。NPSは自社の時系列の変化が重要であり、他社との比較結果は、参考にする程度にとどめることをおすすめします。
NPSの向上を目指す方針を社内で共有する
NPSの向上を目指すのであれば、その方針を社内で広く共有することが大切です。一部の人たちだけで対処しようとしても、調査対象の体験を一貫性を持って改善できないため、成果にはつながりにくいでしょう。
以下の役職のすべての人が、NPSの重要性を認識し、改善に向けて行動することが重要です。
SaaS企業であれば、実際に買い手と接するのは、営業やカスタマーサポートなどの一般役職の社員である場合が多いでしょう。こうした社員がNPSの向上を意識することは、もちろん欠かせません。
それだけでなく、経営層や管理職もNPSの改善のために大きな役割を果たします。一般役職の社員の評価を行ったり、働く環境を整えたりするのは、経営層や管理職の仕事だからです。
「NPSのことはマーケティング担当者の仕事」という意識が社内にあると危険です。中心になるのがマーケティング部門だとしても、他部門の協力が得られなければ、実行できる施策にも限りがあります。
NPSを改善するためには、社員全員で取り組む体制を整える必要があります。調査対象とどう接するかを見直すのと同時に、社内の意識改革にも取り組むとよいでしょう。
まとめ
NPSアンケートでは、「この企業(製品サービスやブランド)を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか」と調査対象に質問し、0〜10の11段階で回答してもらいます。その回答に応じて、調査対象を以下の3種類に分類します。
この分類をした後、NPSを計算する式は以下の通りです。
NPS(%) = 推奨者の割合 − 批判者の割合
NPSは調査対象が企業やブランドなどに対して、どれほどの愛着や信頼感を持っているかを測定できる指標です。自社の売上げを長期的に伸ばすために、NPSを改善することが役立つでしょう。