マーケティングでは顧客理解が重要……マーケターならおそらく耳にタコができるほど聞いている言葉でしょう。しかし、「あなたのお客様は誰ですか? 」「お客様になりそうな人たちはどこにいますか? 」と聞かれても、市場の変化があまりに速い時代、明確に答えるのはなかなか難しいものです。
Gartnerの最近の調査によると、B2Bバイヤーが購入プロセス上で見込みのあるサプライヤーとの面談に費やす時間はわずか17%。大半の工程がベンダーから見えないオンラインサーチにシフトしています。しかも、必ずしも直線的な経路をたどるのではなく、同時に発生したりループしたりします。
見込み客がどのチャネルで自社を知り、何の情報をもとに自社を信頼するようになり、どのタイミングで購入をしようと思うのか? マーケターは、こういったことをある程度予測できなければ成果の出るマーケティング施策をたてられません。
そこで役立つのが、ペルソナとカスタマージャーニーの作成です。本記事では、カスタマージャーニーの基本、作成する効果、国内と海外のカスタマージャーニーのサンプル事例をわかりやすく解説します。
カスタマージャーニーとは、顧客の動きを旅に例え、行動や思考、感情を時系列に見える化したものです。
人が何かを購入する際には、ある一定の心理パターンがあります。カスタマージャーニーはこのような顧客の購買心理を踏まえて、彼らがどのような購買活動を行って自社のプロダクトに出会うかを、タッチポイントを明確にしながら可視化していきます。
(出典:Photo 143478699© Vaeenma | Dreamstime.com)
そのカスタマージャーニーを図で表したものを、正確には「CJM(カスタマージャーニーマップ)」と呼びます。以下は弊社のCJMの例ですが、ほかにもさまざまなデザインが活用されています。
カスタマージャーニーと似た概念にエクスペリエンスマップがありますが、両者は多少異なる点があります。
カスタマージャーニーは、ペルソナ1人ずつのジャーニーを描くフレームワークです。一方でエクスペリエンスマップは、顧客を1モデルに決めず顧客全体にとっての購買ストーリーを可視化します。
また、カスタマージャーニーは自社の1製品にペルソナが出会うシナリオ。エクスペリエンスマップは、ペルソナが自社と競合他社とも接点をもちながら、購買活動を進めていくシナリオを描きます。
これは、活用シーンにあわせてカスタマージャーニーがエクスペリエンスマップ、サービスブループリントに枝分かれ・進化してきたためです。とはいえ、厳密なルールがあるわけではありません。同じ目的に活用されることや、カスタマージャーニーとエクスペリエンスマップを合体させたようなアレンジをして使われることもよくあります。
初心者マーケターは、マーケティングプロモーションならカスタマージャーニー、UX、CX向上ならエクスペリエンスマップと使い分けたほうがよいでしょう。それぞれ適切な作りこみ具合があるからです。
例えば、以下はLittle Springs Designs(リトル スプリングス デザインズ) の Erik Berkman(エリック バークマン)氏が作成したStarbucksの「エクスペリエンスマップ」。タッチポイントやインタラクション(顧客とのやりとり)が詳細に可視化されています。
カスタマージャーニーの作成が重要である理由として、大きく以下2つのポイントが挙げられます。
カスタマージャーニーを明確に描き出すことで、ペルソナが製品・サービスと接触する重要なタッチポイントを特定しやすくなります。
タッチポイントとは具体的に、Webサイトの訪問、製品の購入、アフターサービスの利用などが含まれます。そして、ペルソナが直面する可能性のあるストレスや問題点(Webサイト訪問時、あるいは、製品操作上のストレスなど)、いわゆる「ボトルネック」を特定することも可能です。
顧客体験の中で優れている点や、課題点を明確にすることは、顧客体験のさらなるブラッシュアップに寄与します。その結果、マーケティング施策実行の成果が高まり、施策の投資収益率(ROI)向上にもつながると言えるでしょう。
カスタマージャーニーの作成と共有によって、社内のさまざまな部署どうしのコラボレーションが促進されます。
たとえばマーケティング、セールス、カスタマーサポートなど、カスタマージャーニーに基づいて、ユーザーと直接関わる各部署が連携を図ることで「いま、ユーザーはどんな心理状態か? 何をストレスや困難に感じているのだろうか。満足度を高めるために、会社としてどのようなアクションを取るのがベストか? 」というふうに、顧客理解に対する共通認識を持ちながら、打ち手の的確さを高めていけるでしょう。
例として「カスタマージャーニーをCS(カスタマーサポート)チームにも共有した場合」を具体的に考えてみましょう。サポート対応を行う人が、カスタマージャーニーを理解しておくことで、顧客が感じている課題をより迅速に理解して解決するのに役立ちます。
顧客が製品購入後に直面する、よくある問題点などを事前に特定できていれば、あらかじめメール対応のテンプレートを準備できるなど、顧客からの問い合わせにスピーディーに対応できるでしょう。ユーザーに望まれるアプローチを的確に実行できれば、顧客満足度向上につながると言えます。
弊社(LEAPT)では、GoogleSlideを活用してカスタマージャーニーマップを作成しています。フォーマットは、購買プロセスの時系列に沿った「直線型」を採用。作成・理解ともに容易で、業界を問わず共通して活用できる点がメリットです。
(出典:カスタマージャーニーとは?カスタマージャーニーの意味とマップの作り方をステップで解説)
横軸にプロットしている項目
縦軸にプロットしている項目
上記の項目を横軸・縦軸にそれぞれプロットしておき、ペルソナが
について考察を深めていきます。
カスタマージャーニーでは、ペルソナの「課題」や「考え」を書き出した事例が多いですが、LEAPTでは縦軸に「ペルソナの次の段階へのモチベーション」も置いております。
BtoBビジネスにおける購買プロセスは、toCと比べて検討期間が長くなりがちです。「製品に一目ぼれしたから」といった直感的な意思決定が下されるシチュエーションは多くありません。
たとえばSaaS導入の場合では、情報収集担当者が、製品・サービスやベンダーに対して信頼感を持ち、導入に向けて自身の上長を説得できなければ、なかなか成約・導入には至りません。
よって、BtoBではペルソナの「課題」や「考え」だけを書き出すのではなく、「どうすれば、ペルソナは次の段階へ進みたくなるだろうか? 」を深掘りすることが重要です。だからこそLEAPTのカスタマージャーニーでは「ペルソナの次の段階へのモチベーション」を考えるようにしています。
ここでは、弊社で作成した異なるペルソナ5名のカスタマージャーニーを解説します。Google Slidesで作ったシンプルなフォーマットを活用しています。
ペルソナ:人事総務で福利厚生を担当する森沢真紀子さん。従業員エンゲージメント向上が課題。
カスタマージャーニー:
中小企業の人事総務で福利厚生を担当する森沢さんは、常々従業員には潜在的に評価・給与・待遇・福利厚生へ不満があり、そのため従業員エンゲージメントが上がらないという課題を感じていました(気付き)。
森沢さんは、福利厚生のあり方を変えて会社へのエンゲージメントを少しでも高めたいと考えます。そこでまず、どのような福利厚生サービスが好ましいか、従業員からヒアリングを実施。総務向けのメディアや周囲の口コミなどから、社内の食事環境が従業の満足度、エンゲージメントに影響することを知ります(認知)。
森沢さんは、オフィスの食環境を改善できるサービスについて情報を集めます。ネットの口コミ、福利厚生関係の取引業者、自分の人脈などから広く意見を収集。
次に、導入が簡単で美味しく健康にもよい食事をオフィスに提供するベンダーを何社かピックアップし、各ベンダーのWebサイトの事例を確認。特にエンゲージメントが向上した事例があるかをチェックし、これはと思うベンダーに資料請求しました。情報がそろい上司たちの賛同を得られたら稟議書を起案する予定です(検討)。
ペルソナ:日系飲食サービス企業の人材開発部課長である田中雄二さん。よりよい研修の導入、評価制度の構築を模索しています。
カスタマージャーニー:
田中さんは、従業員のスキル向上、そしてスキルを評価に結び付けることで社員のモチベーション向上、離職率低下につなげられないか知りたいという思いがありました。
まず店長や店舗スタッフからもヒアリング調査を実施。すると現場もスキルが可視化されなければ、正しい評価は不可能と思っていることがわかりました。また、研修業務による残業増加は負担になることがわかりました(気付き)。
田中さんは、さらに社内の部下たちや日経、ダイヤモンドなどのビジネス雑誌、新聞、セミナー、ネット検索などで幅広い情報を収集。他社の課題解決の例をくまなく調べ始めたところ、社員のスキルアップ研修への投資と評価制度への反映は、離職率低下の課題解決になりえるとわかりました(認知)。
田中さんは、現場の負担にならないよう、一般的な研修ではなく、社員がスキマ時間に自主的に学べるデジタルツールに絞りベンダー検討を開始。その中でオンライン上でマニュアルが共有可能で、定量的に学習度合い・スキルが評価可能なサービスを提供する企業のサービスを選定しました(検討)。
ペルソナ:日系の中堅企業のマーケティング部長の遠藤順さん。部下たちのデジタルマーケティングのスキル不足が課題。
カスタマージャーニー:
遠藤さんは最近、営業と設定したMQLの数字の達成が難しくなってきたことに頭を悩ませています。まず、マーケティングの数値指標をチェックしてボトルネックを特定し、チームで改善を試みますが、大きな効果が上がらず抜本的改善が必要だと考えるようになります(気付き)。
社内の人材だけではボトルネックを改善することが難しいこともわかったため、SNSづてに過去の仕事関係者にあたったり業界メディアをリサーチしたりし、ボトルネック箇所の改善に卓越した能力を持つマーケティング支援会社の存在を知りました。そこで人づてに縁をつないでもらい、いったん話をする機会を持つなど、具体的な情報を集めます(認知)。
遠藤さんは、包括的な視点からマーケティング支援をしてくれ、社員や自分たちのチームの成長を考えてくれる会社を選びたいと思い、業界仲間に紹介を依頼したり、SNSやウェビナーで情報収集したりしました。また、支援会社の各担当者からも話を聞き、その中で解決までのアプローチを論理的、定量的に説明してくれた1社を検討しています(検討)。
ペルソナ:法務マネージャーで株主総会を担当する佐々木恵さん。コロナ禍での株主総会をどう運用するかが課題。
カスタマージャーニー:
佐々木さんは、株主総会を担当していますが、コロナ禍になったため運営の在り方や招集通知の案内の内容などを変更する必要が出てきていました。
新しいやり方で株主に満足してもらえる運営ができるか不安もあったため、運営方法について役員やチームメンバーに意見を仰ぐのに加え、法務系メディア、株主コミュニティなどで情報収集。そこで、コロナ禍では株主総会のオンライン化が進んでいることを知ります(気付き)。
しかし、年配の株主や役員に対してどうアプローチすればよいかという課題もあるので、他社のIRページや株主総会ページ、メディアで情報収集を進め、実際に他社の株主総会に参加し、満足度をたしかめました。すると、自社と同規模で同じ株主属性を持つ企業もオンライン株主総会を開催しており、評判も悪くないと判明しました(認知)。
佐々木さんは、オンライン株主総会で、配信切れや株主が参加できない場合の対応に過不足がないように、安心安全な開催を行いたいと考え、各ベンダーの事例ページを読み込みます。信託銀行やグループ企業の総会運営担当者からも情報収集し、自社と近い業種や規模の運用事例が豊富なベンダーに絞り込み、起案予定です(検討)。
ペルソナ:飲食チェーンのフランチャイズ本部に勤務する春日 康二さん。最近の顧客単価減少が課題。
カスタマージャーニー:
春日さんは、最近の店舗の顧客単価減少について上司から改善するように依頼されており、接客レベルの向上、サービスの標準化、研修業務の負担などいろいろな方法を模索しています。現場に業務負担になっていることや、単価向上をさまたげる課題をヒアリング。
同業他社の顧客単価アップ事例について、業界メディアやWeb、社内人脈にリサーチしたところ、顧客単価向上には接客レベルの全体的な向上が不可欠だと知ります(気付き)。
チェーン店全体の接客レベル向上のために、サービスレベルを標準化する方法はないかと考え、研修サービス(リモート研修含む)をリサーチ。同業他社の事例を探そうと考え、業界情報誌、展示会、ネット検索などでリサ―チするなか、本社が管理するオンライン研修でノウハウ共有を行い、サービス標準化に成功している企業があると知ります(認知)。
そこで、オンラインで高品質な研修ができるサービスを探します。小売り現場はITリテラシーが高くないスタッフもいるので、リテラシーレベルも重視しました。
Googleで「サービス名+事例」「サービス名+評判」で検索し、ベンダーから資料もとりよせ、展示会で新しいサービスもチェック。その中で自社のスタッフのレベルとちょうどマッチしており、評判もよく、信頼性の高いサービスをピックアップし選定予定です(検討)。
ここでは、カスタマージャーニーの海外事例のサンプルを紹介します。前述のとおりデザインはさまざま。中にはエクスペリエンスマップが含まれているものもあります。
(出典:www.woopra.com)
アメリカの所得税申告書作成用のソフトウェア パッケージTurbo Tax のカスタマージャーニーです。TurboTax チームは「Personal Pro」というプランを発売する際に、上記のカスタマー ジャーニー マップを作成しました。
カスタマー ジャーニーは、ペルソナがWeb サイトにアクセスした時点からスタートします。
ペルソナが疑問にぶつかって問い合わせ、その問い合わせに対する回答が「意味がわからない、回答になっていない……」と感じたり、電話やファクスをしようと思っても方法がわからずにイライラしたり。紆余曲折をへながら、最終的に申告書類をプリントアウトするところまでが、リアルな女性のセリフと表情のイラストで表現されています。
ペルソナに共感でき、ジャーニーのボトルネックを改善しなけれならないという気持ちを起こさせるカスタマージャーニーです。
(出典:digital.gov)
USA.govという米国連邦政府のポータルサイトのカスタマージャーニーです。
ペルソナは「政府からの財政援助」を探すLindaという女性。Google検索からはじまり、Webサイトの各コンテンツで情報を得ていくストーリーが可視化されています。
なぜ検索から始まっているかというと、顧客がUSA.govを訪れる理由、窓口に電話する理由の常に上位に「検索」があるからだそうです。
USA.govでは、導線を作成したあと各ステップを1枚の紙に印刷し紙に貼り付けて、みなでジャーニーを探りながら、さらにさまざまな要素を付箋などで追加。
4回のセッションを行った結果、チャネル、コンテンツ、デバイスのギャップなどのペインポイントが明確になりました。合計110のアイディアが生まれ、改善策を検討。従業員との共感や理解を深めることにも役立ちました。
EV自動車メーカーの(米)tesla(テスラ)が、追い上げてくる中国メーカーのHuawe(ファーウェイ)に対応して、製品デザインをアップデートするとき、UXデザイナーBelal Al Shawwa(ベラル アル シャウワ)氏がプロジェクトの依頼を受けました。そのときに作成したのがカスタマージャーニーです。車はテスラ モデル 3 。
スマートフォンが中心になるデジタルの世界で、クルマの体験を見直す必要がありました。EV 車の完全なカスタマー ジャーニーを描く必要があり、まず顧客理解のために、個性もクルマ経験も異なる4人にユーザーインタビューを実施。すると、新たなペルソナを発見したため、ペルソナを追加し、「as is 」「to be」の2つのカスタマージャーニーを作成。
「as is」のジャーニーでは、ペルソナが朝、車に乗ってナビでトラフィックを確認し、ボスから電話を受けて、渋滞にはまるなど、直面する問題点を可視化するシナリオ。
それをもとに、あるべきカスタマージャーニーのストーリーとして、ユーザーのすべてのペインポイントに対応しようとしたのが上図の「to be」のカスタマージャーニー。このジャーニーをもとにテスラモデル3の新ダッシュボードをデザインしました。
(出典:Freshdesk.Blog)
ヘルプデスクSaaSを提供するインド企業Freshdesk(フレッシュデスク)社が紹介しているB2B SaaSのカスタマージャーニーです。
プロダクトジャーニーとは「製品内のユーザーとのインタラクションのブループリント」に相当しますが、上部にはカスタマージャーニーもしっかり描かれているので参考になります。
横軸に「Awareness(気付き)」「 Considarenation(検討)」「 Desision(決定)」「Value realization (価値を実現)」「Retention(リテンション)」とあり、SaaS関係者ならよくわかる流れです。
縦軸はCognitive state(認知状態)を表しており、「Opportuinities(機会)」「Barriers(バリア)」「Touchpoints(タッチポイント)」「Teams(チーム)」「Metric and KPIs(指標とKPI)」とペルソナの問題点、ハードルが示されています。
BtoBSaaSのカスタマーの動きは、他業界に比べれば比較的似ています。このような定型パターンをアレンジして活用するとよいでしょう。
(出典:7 Interesting Real-Life Customer Journey Map Examples | Woopra )
世界最大手の音楽ストリーミングサービス「Spotify」が作成したカスタマージャーニーの事例です。
同社ではカスタマージャーニーを、音楽の外部共有機能(たとえばメッセージアプリのWhatsAppなど、他社のアプリを通じて友達に特定の楽曲をシェアすること)を顧客体験にいかに組み込むべきか、考察を深めるために作成しました。
カスタマージャーニーマップに、ユーザーがSpotifyをスマートフォンで開き、気に入った曲を友人に共有し、共有相手が曲を聴取してどのような思考を抱くか、という一連のプロセスをマッピング。各フェーズにおいてユーザーが何を考え、どのようなアクションを起こし、その結果どう思ったかについて考察して、記載しています。
Spotifyはこのジャーニーマップを使用して、ユーザーのペインを特定し、音楽の共有体験をよりスムーズに改善しました。
縦軸にプロットされた項目 “TOUGHTS(思考)”“TOUCHPOINTS(接点)”“ACTORS(演者、ここでは「体験に関わる人物」といった意味合いで使われている)”に注目です。“TOUGHTS(思考)”では、想定されるユーザーの思考を具体的なセリフに落とし込み、ポジティブな思考/ネガティブな思考の両方を考察しています。
また“TOUCHPOINTS(接点)”では、「このフェーズでは、具体的にこのようなアプリを音楽の共有に使うだろう」とプロダクト名を指定し、“ACTORS(体験に関わる人物)”では、「Spotifyを利用する各フェーズで関わる人物(数や、関係性)」も細かく描き出しています。
カスタマージャーニーとは、できるだけペルソナが体験するシチュエーションを具体的に絞り込み、鮮明に書き出すことが、体験向上のために重要であることを示しています。
世界最大手コーヒーチェーンのスターバックス シンガポールでは、同社専用の電子決済アプリ(アメリカでは好評であるものの、シンガポールではそれほど高評価を得られていなかった)の評判を向上させるため、カスタマージャーニーを作成し、ペルソナが抱えるペインについて深く考察を行いました。
ペルソナが「スターバックスに行こう」と考えた後、「どのタイミングで、どのようなわずらわしさを感じるか?」が具体的に書き出されている点がポイントです。
たとえば「来店したけれど、混雑して待ち時間が長くなるのは嫌だ」「決済手段はクレジットカードや、スターバックスのプリペイドカードなど複数考えられる。しかしそれぞれに、ちょっとした煩わしさがある」など、できる限りペルソナの行動・思考に寄り添って深掘りし、細やかに記載。
「来店してくれた人が、スターバックスの店内でより快適な体験をするには、具体的にどのようなペインを解消しなくてはならないか」が明文化され、カスタマージャーニーマップ上にプロットされています。
カスタマージャーニーに関して考察を重ねた結果、彼らはオムニチャネル化(複数の販売チャネルを統合する手法)をさらに進めることが重要だと気づきました。
具体的には「アプリへのログインをもっと簡単にする」「来店前にモバイルアプリから、空いている店舗を選べるようにする」「支払いをもっと簡単にする」といった改善を実行し、顧客体験を改善することです。
そこで彼らは、アプリを再設計することにしました。顧客が手軽にアプリにログインして特典を獲得し、来店したいタイミングで目的の店舗にアクセスできるようにし、よりスムーズな支払いを可能に。つまり、「アクセシビリティ」(利便性やアクセスの容易さ)の改善が、課題解決の鍵であることが明らかになったのです。
また、スターバックス シンガポールはこの取り組みから、顧客ニーズを汲んだうえで、顧客にとっての新たな価値を創造することが、結果的にビジネスの成果を高める、と学びました。
カスタマージャーニー作成の際、具体的にどのように取り掛かったらよいか、ステップに沿って解説します。
前項までの部分で紹介したさまざまな企業事例も参考にしながら、自社のペルソナに合わせてカスタマージャーニーを実際に作成してみましょう。
まず、ペルソナを必ず作成しましょう。
ペルソナは「理想の顧客像」を具体的に描いたものです。アプローチしたいユーザー層を明確にし、それに合わせてコンテンツを企画するなど、適切なマーケティング施策を考えるうえでの基盤となります。
また、BtoBビジネスでは「アンチペルソナ」についても考えておきましょう。「ターゲットとしないユーザー像」の特徴を示すものです。これを決めておくことで、効果の低いマーケティング活動を回避できるでしょう。
ペルソナ作成のステップ
(出典:BtoBペルソナの作り方とその実例をわかりやすく解説 )
次に、カスタマージャーニーの「横軸」「縦軸」に、それぞれどのような項目をプロットするべきかについて考えてみましょう。
横軸
ペルソナの購買プロセスを、時系列で考えてみましょう。
具体的にペルソナとの間で、どのようなタッチポイントが存在しているか、洗い出しをして可視化します。
(例)「認知」→「比較検討」→「購入」→「体験」など
(出典:カスタマージャーニーとは?カスタマージャーニーの意味とマップの作り方をステップで解説 )
縦軸
ペルソナが自社と接触して以降、各タッチポイントでどのような思考を抱くか、考えてみましょう。ペルソナの感情の変化を可視化するための枠組みを作ります。
(例)
特にBtoB SaaSの分野では、購買に至るまでのユーザーの行動パターンが業界間で似通っている傾向も。そのため、本記事で示している基本的なカスタマージャーニー作成の枠組みをもとに、洞察を深めていくとスムーズでしょう。
「横軸」「縦軸」が定まったら、ペルソナの行動・思考に関連する情報をできる限り集めましょう。
イメージが難しい場合は、過去に自社の顧客から得た、製品・サービスに対する意見、あるいは、自社で収集してきた顧客データなどを活用するのがおすすめです。実際に、自社の顧客から得た一次情報であるという観点からです。
などの情報を集めて、顧客や見込み客が何を考えているのか理解しましょう。
「顧客が何を考えているのか」について考えを整理したら、カスタマージャーニーマップに書き込んでいきましょう。
具体的に書き込む際のコツ
(例:認知の段階で考えていること/比較検討段階のボトルネック/購買時の懸念点/体験時の不満点 など)
カスタマージャーニーには、さまざまな作成方法やデザインがあります。これには、元々のカスタマージャーニーが目的に合わせアレンジされ、進化してきた背景があります。また、企業のビジネスモデルは多様であり、顧客ごとにジャーニーも違うので、良い悪いはなくむしろ完全に同じカスタマージャーニーマップに仕上がらないほうが自然といえるでしょう。
業界別、ビジネスモデル別にさまざまなテンプレートが公開されているので、使いやすいテンプレートを使用して問題ありません。
Webで公開されている事例は、立派な美しいカスタマージャーニーが大半です(だからこそメディアやBlogもとりあげます)。カスタマージャーニー作成は時間をかけようと思えばいくらでもかかりますし、作りこみもいくらでも細かくできます。
「目的に合わせて適切なカスタマージャーニーを作ろう」「過不足ないテンプレートを選ぼう」という意識を持つことがポイントです。実務的にはExcelでも十分なケースも多いので、「今回、何を目的にカスタマージャーニーを作成するのか? 」ということを思い出して気軽に作ってみましょう。