購買意欲と色の関係とは?色彩心理学に基づくカラーマーケティングと色の効果を解説

2024/06/20
BtoBマーケティング 購買意欲 購買意欲と色の関係とは?色彩心理学に基づくカラーマーケティングと色の効果を解説

突然ですが、目を閉じて「フェラーリ」の車を思い浮かべてみてください。さて、あなたの頭に浮かんだ車は何色だったでしょうか?

まぶたの裏に、目の覚めるような赤いボディが浮かんだ方が大半ではないでしょうか? 同時に「Rosso corsa(ロッソコルサ)」というワードが浮かんだあなたは、かなりの自動車好きかもしれません。

「Rossa corsa」はイタリア語で「レーシングレッド」という意味があり、これはレース業界におけるイタリアのナショナルカラーを表します。フェラーリの赤いカラーリングにはもともと「イタリアを代表する自動車メーカー」という意味が込められているのです。

もちろん、フェラーリの車には黄色や緑といったさまざまなカラーが存在します。しかしフェラーリを購入したいと考える人の大半は、やはり「赤いフェラーリが欲しい」と強く願っているはず。1990年代に購入されたフェラーリ車の85%以上は赤いカラーリングだったというのがその証拠です。

このフェラーリの例が示す通り、色が私たち人間の購入意欲に与える影響は大きく、それはBtoBマーケティングの領域においても同じです。

本記事では、購入意欲と色の関係性について、マーケティング担当者が知っておくべき点を解説します。

購入意欲と色の関係

色は人間の潜在意識に働きかけ、感情や行動に大きな影響を与えます。マーケティングにおいては、効果的な色使いが商品やブランドの成功を左右する極めて重要な要素なのです。

購入意欲と色の関係

(出典:Digital Synopsis

実際に私たちが何かしらの製品を購入する際、その意思決定の93%は製品のビジュアルに、さらに84.7%は製品の色によって後押しされていると言われています。また、色は特定のブランドを認知する上でも顧客の心理に大きく(80%も)影響します。

このように、色は顧客の購入意欲をくすぐるだけでなく、企業が自社ブランドのイメージをコントロールする上でも、非常に影響度の高い重要な要因となり得るのです。

この項では、色が人間に与える影響を探求する学問「色彩心理学」、そしてそれをマーケティングに活用する「カラーマーケティング」をご紹介します。

色彩心理学とは

色彩心理学は、色が人々の心理的、感情的、生理的、そして文化的な反応をどのように引き起こすかを探求する心理学の分野です。色彩心理学が学問として確立されたのは、比較的最近のことですが、色の影響は古代から認識されています。

古代エジプトでは、壁を特定の色に塗った部屋に患者を寝かせることで、たとえば青は痛み、オレンジは疲労、紫は皮膚といった具合に、その患者のさまざまな健康上の問題を取り除くことができると信じられていました。これと同様に、色を使用した治療法は古代ギリシャやインド、中国と世界中で行われています。

ゲーテの色彩論

(出典:Wikipedia

その後1810年、Johann Wolfgang von Goethe(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)が『色彩論』を発表し、色が人間の感情に与える影響を詳細に探りました。彼は色を「光と闇の相互作用」と捉え、色が人々の内面的感受性や情緒にどう影響するかを解析したのです。たとえば赤色は活動的な情熱を、青色は受動的な冷静さをそれぞれ象徴しているとゲーテは述べました。

Johann Wolfgang von Goethe『色彩論』

(出典:The Colour Works Foundation

同じく色彩の心理的側面に着目したスイスの心理学者、Carl Gustav Jung(カール・グスタフ・ユング)は、色が無意識の感情や思考、記憶に深く関連していると考え、色を活用して患者の心理状態を解明する方法を開発しました。ユングのアートセラピーでは、患者が選んだ色を分析することで、抑圧された感情や心理的な問題を明らかにする試みが行われました。

20世紀に入ると、色彩心理学はさらに進化し、マーケティングや広告の分野で積極的に応用されるようになりました。アメリカの心理学者マックス・ルシャーは、色が人々の感情や行動に与える効果を詳しく研究し、「カラー心理テスト」を通じてその知見を体系化しました。このように、色彩心理学は多岐にわたる分野でその価値が認識され、利用されているのです。

カラーマーケティングとは

カラーマーケティングとは、色を戦略的に利用して、効果的に顧客の購買意欲の醸成やブランディングをするマーケティング手法です。マックス・ルシャーのような心理学者は、色の選択がどのようにして人々の心理状態や感情に作用するかを明らかにし、これがマーケティングに応用されました。

また、近年はインターネットの登場とデジタルマーケティングの台頭により、色の重要性はさらに増しています。ウェブデザインやウェブ広告において、色はユーザーの注意を引き、クリック率を高めるための重要な要素です。

slackのCTA

(出典:Slack

たとえば上記画像の黄色枠はSlackのCTAボタンですが、このボタンの色が薄紫や青色だった場合、視認性が大幅に低下し、クリック率の低下を招くでしょう。この例のように、オンライン環境においては、色の使用が直接的にユーザー体験やエンゲージメントに影響を与え、コンバージョン率を高める効果があります。

カラーマーケティングは単なる色の選択以上のものであり、ブランド戦略、ユーザー心理、文化的要素を組み合わせた複雑なプロセスです。購入の34.5%が色によって影響される、ということが判明した研究もあるほどです。

適切な色の使用は、ブランドの認知度を高めるだけでなく、顧客の購買意欲や満足度を向上させるためにも大きな役割を果たします。

購買意欲を高めるためになぜ色彩心理学が重要なのか

購買意欲を高めるために色彩心理学が重要な理由は、人間の心理や感情に色が与える影響を理解し、それをマーケティング活動に活かすことができるためです。色彩心理学を活用すれば、適切な色の選択や組み合わせによって、顧客の購買意欲を高めたり、製品サービスをより魅力的に見せたりできます。

ファストチェーン店の赤のロゴ

(出典:delish

たとえば、マクドナルドやバーガーキング、ケンタッキーなどのファストフードチェーン店のロゴに赤が使用されている理由は、赤には心拍数や食欲を高める効果があるためです。このようにロゴや製品サービスなどに適切な色を使用することで、印象を高めたり、購買意欲を刺激したりできます。

さらに、色彩心理学を活用することで、ターゲットとする顧客層に合わせた効果的な色の選択が可能です。たとえば、若い世代には明るい色やポップな色が効果的であり、高齢者には落ち着いた色や柔らかい色が好まれ、BtoBにおいては信頼性を高める色が効果的な傾向にあります。

色が人にもたらす影響

色が人にもたらす影響は主に、心理的・感情的・生理的・文化的の4つです。これらの影響を理解することで、色彩心理学をマーケティングに応用できるようになります。ここからは、色が人にもたらす4つの影響を見ていきましょう。

心理的影響

色の心理的影響は、製品やサービスに対する顧客の認識に深く作用し、マーケティング戦略において重要な役割を果たします。

たとえば、暗い色は安定感や信頼感を与えるために用いられることが多く、高級車や高価なジュエリーなどのプレミアム製品のマーケティングに効果的です。これらの色は、製品の価値を高め、ターゲット顧客に対して品質と信頼性の高さを伝えるために選ばれます。

色を戦略的に利用することで、特定の感情やイメージを喚起し、顧客の購買行動に強く影響を与えることができます。

感情的影響

各色は異なる感情や反応を引き起こす能力を持っており、これを理解し利用することがマーケティングにおいて効果的です。

たとえば、赤色は情熱、エネルギー、緊急感を象徴し、顧客の行動を刺激する効果があります。そのため、セールキャンペーンや「今すぐの行動」を促す広告に使用されることが多いです。一方で、青色は冷静さや安心感を与えるため、銀行や保険会社などの信頼を必要とするサービスのブランディングに適しています。

このように各色が持つ感情的な影響を理解し、適切に利用することで、ブランドや製品の魅力を高められます。

生理的影響

色は人々の感情だけでなく、身体的な反応にも作用します。たとえば、赤色は人々の心拍数を上げ、血圧を高める効果があり、エネルギーを感じさせる色として知られています。このため飲食業界では、食欲を刺激し消費者の購買意欲を高める目的で赤色がよく使われます。

青色は逆にリラクゼーションを促進し、心を落ち着かせる効果があるとされます。これは、安眠を助ける製品やストレス軽減を目的とした製品での使用に適しています。さらに、青色は体温をやや下げる作用があるため、暑い地域や季節の製品デザインに取り入れることで、涼しげな印象を与えることができます。

文化的影響

異なる文化では色に対する認識が大きく異なるため、これを理解し適切に取り入れることがグローバルマーケティング成功への鍵となります。

たとえば、白色は多くの西洋文化では純潔や清潔感を象徴し、結婚式のドレスなどに用いられますが、一部のアジア文化では喪の色とされ、葬儀で着用されることが一般的です。

赤色は中国や多くの東アジア文化では繁栄や幸運を表し、お祝いごとや贈り物に好まれますが、南アフリカでは悲しみや喪を象徴する色として用いられることがあります。

これらの例からわかるように、色の選択は単に視覚的な魅力だけでなく、文化的な意味合いにも大きく影響します。そのため、国際市場でのブランディングやマーケティングを行う際には、対象地域の文化に適した色使いをすることが重要です。

購入意欲に影響を与える代表的な色とその特徴

購入意欲に影響を与える代表的な色とその特徴

(出典:Oberlo

それでは実際に、各色とそれらが人間の購入心理に与える影響について、実際にその色が使用されているブランドロゴを実例に挙げながら見ていきましょう。

青色

青色

(出典:HubSpot

青色を見たものに与えるのは「信用」「論理的」「頼り甲斐」といった安心感です。同時に「気高さ」「気品」を与え、ブランドとしての「格」を感じさせる影響もあります。

また青色は「一番好きな色」として挙げられる比率が世界的に高く、非常に人気の色です。そのためブランドのテーマカラーとして採用される比率も最も高くなっています。「ユニコーン企業」と呼ばれる、評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップのトップ50企業のうち、20%もの企業が青色を自社のメインカラーとしているほどです。

一方で、青色は一定の「冷たさ」を感じさせる色でもあり、無感情さや無愛想さといった印象を与える効果もあります。これは暗く濃い青であればあるほど顕著で、逆に明るく薄いトーンだと社会的なイメージを与えます。

そのためFacebookやTwitterなど、ソーシャルコミュニティをテーマとしたブランドでは後者の薄めのトーンが好まれる傾向にあるようです。

赤色

赤色

(出典:HubSpot

赤色は色彩心理学の中でも非常に強力な色として知られています。人は赤色を目にすることで「興奮」「情熱」「エネルギー」「パワー」「不屈」といった感情が湧きあがります。

また「血」の色である赤は人体に身体的な影響を強く及ぼす色としても知られています。たとえば心拍数の上昇、血管内の血流上昇、体温の上昇などが赤色を見たときの人体の反応として知られています。しかし、その中でもなかなか知られていない作用のひとつが「ハングリー」、つまり見た人を「空腹」にさせる作用です。

コカコーラ、マクドナルド、KFCなどは赤色がもつこの「空腹作用」をうまく自社のロゴに含めています。特にマクドナルドは後述する「幸福感」の黄色もロゴに含み、さらには同色のマスコットキャラクターを置くことで、子供世代を中心に見事に顧客の心を掴んでいる例と言えるでしょう。

マクドナルド

(出典:Digital Synopsis

一方で赤は、見る人に「痛み」「危険」「攻撃性」といった、マイナスのイメージを与えてしまうこともあります。マーケティングで使用する際にはブランドが含むコンテンツの意味合いなどによって注意して使用する必要があります。

緑色

緑色

(出典:HubSpot

森林や草原といったイメージから分かる通り、緑色は見る人に「自然」「フレッシュ」「健康」といった「穏やかさ」をイメージさせ、リラックスさせる効果があります。また、木々が空に向かって伸びていくように「希望」「成長」「可能性」といった「期待感」も緑色を見ることで得られます。

アメリカのナチュラル&オーガニックフードマーケットとして有名な、ホールフーズ・マーケットのロゴが緑を基調としたデザインとなっているのを中心に、特に新鮮さをテーマとしやすい食品関係の企業で多く採用されるカラーです。

Digital Synopsis

(出典:Digital Synopsis

訪れる顧客に、落ち着いてコーヒーを楽しむ時間と場所を提供するスターバックスのロゴは、緑色を基調としたデザインです。茶色などのアクセント色や人魚のロゴデザインも相まって、より「自然」を連想させる落ち着いたデザインを徹底しています。

紫色

紫色

(出典:HubSpot

紫色は主に「上品」「威厳」「富」といったイメージを連想させるカラーです。紫は世界各国で王族が使用する色としても有名です。イギリスでかつてエリザベス1世が皇族以外に紫色の使用を禁じたのは有名な話ですし、日本においてもかつて聖徳太子が官吏の身分を色で表すために制定した「冠位十二階」でも紫は最上位の色とされていました。

タイ国際航空はタイ王国を代表する航空会社であり、その株主のほとんどは王室か政府関係が占める企業ですが、同企業のテーマカラーも紫であり、その格式の高さをブランドカラーで表しています。

また、グリーティングカードで有名なアメリカのホールマークは、ロゴマークが紫色なだけでなく、その社名「Hallmark(金細工職人が品質の認証として自身の製品に刻むサイン)」からも、徹底して「品質」を自社のテーマとしてアピールしていることがわかります。

橙色(オレンジ)・黄色

橙色(オレンジ)・黄色

(出典:HubSpot

橙色(オレンジ)が持っているのは「友好性」「暖かさ」「自信」を見た人に与え、その人を奮い立たせるような効果です。青色と異なり、かなりフレンドリーな印象を持たせる色なため、相手に「会社っぽい」というイメージを植え付けにくいという効果もあります。そのため、BtoCのブランドロゴに使用されるケースが多いです。

日本のマネーフォワードは、個人向けの家計簿アプリ「Money Forward ME」はオレンジ、法人や個人事業主を対象とした「Money Forward クラウド」はブルーをそれぞれブランドカラーとしています。フレンドリーな前者とビジネスライクな後者という具合に、わかりやすくはっきりと分けている例です。

マネーフォワード

(出典:マネーフォワード

黄色

(出典:HubSpot

黄色もオレンジと似ており、「暖かさ」や「幸福感」といったイメージを見る人に与えます。また「イノベーション」「創造性」「楽観」といった印象を与える効果もあります。

しかし、特に明るく濃いトーンの黄色からは「警告」「危険」といった印象が感じ取られてしまうこともあるため、赤色と同じく使用する際には注意が必要です。

赤色の項でも説明したマクドナルドは、黄色の「幸福感」を見る人の食欲につなげているよい例と言えるでしょう。

マーケティングで色を活用するシーン

それでは、どのように色をマーケティングに活用すればよいのでしょうか。ここからは、マーケティングで色を活用する主なシーンを具体例と共にご紹介します。

企業/プロダクトロゴ

企業ロゴやプロダクトロゴは、ブランドイメージを形成する重要な要素です。2006年の研究によれば、ブランド・プロダクトロゴに適切な色を選ぶことで、ブランドに即時の価値をもたらすとのこと。機能的な製品には機能的な色が、感覚的・社会的な製品には感覚的・社会的な色が適切であるとされています。

Appleのロゴ

(出典:Wikipedia

たとえばAppleのロゴは、シンプルながらも認識しやすいりんごの形をしており、元々は虹色でしたが、現在はモノクロームまたはシルバーを使用しています。この色の変化は、製品の洗練された技術とミニマリズムを表現しており、シンプルかつ高級感あるテクノロジー製品のイメージと合致しています。

適切な色を選ぶことで、その製品の機能的または感覚的特性を強調し、顧客の認識を形成する助けとなります。色選びはただ単に見た目をよくするだけでなく、ブランドの価値を伝え、顧客に対して強い印象を与える戦略的な決定であることが重要です。

ウェブサイト

色はウェブサイトの視認性を高めるだけでなく、ブランドアイデンティティを強化し、ユーザーに特定のメッセージを伝える役割も担います。まずウェブサイトにはブランドカラーを反映するべきです。各タッチポイントで統一した色を使用することで、顧客にブランドを覚えてもらいやすくなります。

また、ウェブサイトにおいては購入や問い合わせなどのCTAボタンの色も考慮しなければいけません。業界では、赤色のボタンVS緑色のCTAボタン論争がありますが、大事なのはCTAが目立つ色を使用することです。

赤色のほうがコンバージョン率が高くなるという事例は多々ありますが、ウェブサイトデザインが赤を基調としている場合、赤のCTAボタンは目立たないため、コンバージョン率の低下へとつながるでしょう。大事なのはコントラストです。

HubSpot公式サイト

(出典:HubSpot

上記画像はHubSpotの公式サイト。CTAボタンには、目立つオレンジ色が使用されています。そして、このオレンジ色は同社のロゴカラーでもあり、効果的にブランドを反映させられている例です。

ウェブサイトはインターネット上における企業の顔だからこそ、ブランドを意識した色使い、訪問者に気づいてもらえるCTAカラーを設置することが重要となります。

名刺

名刺のデザインにおいて色の選択は、プロフェッショナルな印象を与えるだけでなく、個人や企業のブランドアイデンティティを強く反映します。受け手に与える第一印象は重要であり、一般的にはブランドカラーを使用するのが無難でしょう。

SmartHRの名刺

(出典:SmartHR Design System

また、あまりにも主張が強すぎる色は避けた方が賢明です。名刺は読みやすさが何より重要なので、背景と文字の色のコントラストを適切に保ち、見やすいデザインにしましょう。

広告

ニールセンの調査によると、感情に訴える広告は、短期的にも長期的にも、理性的に訴える広告の2倍の効果があるそうです。それでは、感情に訴える広告とはどのようなものでしょうか。感情に訴える広告のポイントはいくつかありますが、やはり効果的な色使いは欠かせないでしょう。

数ある感情の中でも、2021年の研究では快楽(愛情深い、友好的、感謝している)や覚醒(活動的、興味を持っている、興奮している、楽しんでいる)といった感情が、ブランドおよび広告に対する顧客態度に影響を与えることが明らかになりました。つまり、ピンクやオレンジ(快楽に関する色)、赤や黄色(覚醒に関する色)などが効果的に顧客の感情に訴えられると考えられます。

ただし、これはあくまでも参考であり、実際には目的や製品によって色を使い分ける必要があります。たとえば、セールや特別なイベントを宣伝する際には赤色を使用し、緊急感や興奮を引き起こす効果を狙う。安心感や信頼性をアピールする場合は、青色や緑色を使用するといった具合です。

Googleクラウドのディスプレイ広告

(出典:Optimizilla

上記画像の赤枠はGoogle Cloudのディスプレイ広告です。広告のデザインには、青色と黒色の背が用いられており、技術的な信頼性と専門性を強調しています。また、黒背景に青色のフォントを用いることで、コントラストが高まり、ユーザーの視認性が高まっているのも特徴です。

資料コンテンツ(営業資料/eBookなど)

営業資料やeBookなどの資料コンテンツは、比較検討段階における顧客との重要な接点となるため、自社の想起率を高めるためにも、ブランドや製品カラーを反映した色をメインに使用するとよいでしょう。そのうえで、顧客の興味を維持しながら資料を最後まで読んでもらうために、コントラストのある色を使用し、情報を視覚的に強調します。

freeeの資料コンテンツ

(出典:freee

クラウド会計ソフトウェアを提供するfreeeは、ブランドカラーである青を基調に、資料を作成しています。背景を白、テキストカラーを青にすることで、テキストの視認性を高めながら、BtoB企業における重要な購買要因である信頼感を醸成できています。

男女の性別と年代ごとに異なる購買意欲を掻き立てると言われる色

さて、ここまでは色が人間の心理に与える一般的な効果についてお話をしてきました。

とはいえ、同じ色を見た人全員が全く同じ反応をするかというと、もちろんそうではありません。男性・女性によって、同じ色を見ても好意的に受け取る確率は変わりますし、年齢の違いによっても色の好みは変化するものです。

ここからは性別と年代ごとに異なる、好まれる色やその傾向についてお話しします。

年代別に好まれる色

まず、わかりやすくするため全体的な色の好みの傾向について下図に表します。

年代別に好まれる色

(出典:Scott Design Inc.

前述した通り、「一番好きな色」として挙げられるのは世界的に見ても青色が圧倒的に多く、続いて緑、紫、赤がランクインしていることがわかります。逆に「嫌いな色」では茶色が圧倒的ですが、注目すべきは今回紹介した黄色、オレンジが2位・3位に入っていることでしょう。

このデータを年代別に区分けしたものが下図となります。

年代別に区分けしたもの

(出典:Scott Design Inc.

全体的にみると好感度の高い青色ですが、ある一定の年齢層においては赤など他の色の好感度が逆転していることがわかります。ブランドカラーを青にしたからといって、全ての層のターゲットに刺さりやすいかというと、決してそうは言い切れないのです。

反対に、嫌いな色についても年齢によってその構成や順位、割合に違いが見られます。特に、ブランドロゴによく使用される黄色やオレンジといったカラーは、36〜50歳、51〜69歳の層において茶色を凌いでしまうというのも驚きのデータです。

男女の性別ごとに好まれる色

続いては、上記の色のデータを男女の性別ごとに振り分けたデータを見てみましょう。

男女の性別ごとに好まれる色

(出典:Scott Design Inc.

上図を見たところ、男女の色の好みの傾向としてはおおよそ同じであることがわかります。

一点違うところを挙げるとするならば、紫色と赤色の順位の違いでしょう。紫は「気品高い」という印象の反面、少々フェミニンで女性らしいイメージを与えることがあります。男性に向けたブランドアプローチに使う際には、使い方を間違えると上手く効果が得られない可能性があることを認識しておきましょう。

有名企業のロゴから見る購買意欲を掻き立てる意図

最後に、国内の有名SaaS企業のブランドロゴを例に各社がどのような意図でブランドカラーを選択しているかを考察していきましょう。

有名企業のロゴから見る購買意欲を掻き立てる意図

青:Freee、Cloudsign、Salesforce

Freee株式会社は、法人・個人向けの会計処理をはじめとした事務管理を支援するクラウドサービスを提供するSaaS企業です。

会計処理やその他の事務管理は、企業ビジネスを支える根幹となるシステムであるため、使用するソフトウェアは当然信用にたるものである必要があります。かつ数字やデータを取り扱うものですから、論理的であることも必要です。

そのため同社が「ロジカル」かつ「信用」を連想させる「ビジネス的」な色である青色をブランドカラーに採用しているのは、まさに効果的であると言えるでしょう。

電子契約サービスを提供するクラウドサイン、営業支援ツールのSalesforceも、ビジネスにおいての高い信頼度やロジカルなデータ管理が求められるため、同様に青色のロゴが自社のブランドイメージを引き立てていると言えます。

赤:UZABASE、Chatwork、Motivation cloud

株式会社ユーザベースは、ソーシャル経済メディアの「NewsPicks」などを提供している企業です。

ユーザベースのウェブサイトでは「経済情報の力で誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」という目標が大体的に取り上げられており、同社の経済メディアに対する熱い情熱が感じ取れます。ブランドロゴのカラーに赤を選んでいるのは、この熱いメッセージを全面的に押し出すためであると容易に想像ができます。

データベースをもとに組織改善のコンサルを提供するモチベーションクラウドも同じく、全面的に自社の熱量を押し出すためのカラーチョイスと考えられます。特に同社については社名に「モチベーション」の言葉が入っている通り、ウェブサイトの内容も熱量が高いです。

中小企業向けにビジネスチャットツールを提供するChatworkも、チャットコミュニケーションを通じた「エネルギー」を表すのに赤を使用していると予想ができます。アクセントカラーとして「洗練」を印象させる黒色を入れているのもメッセージ性が高く面白いポイントです。

緑:backlog、Info Mart、Asteria

backlogは株式会社ヌーラボが提供するプロジェクト管理ツールのブランド、Info Martはインフォマート株式会社が提供するBtoBプラットフォームツールです。

異なるツールを提供する2社ですが、どちらにも共通しているのが、ウェブサイト上で大体的に「安心」をうたっているということです。複雑になりがちなプロジェクト管理やBtoBのデジタル化ですが、ひとつのツールを使うことで楽に、安心して業務を行うことができる、というのが両社のコンセプト。だからこそ「安心」を連想させやすい緑をブランドカラーに選んでいるのでしょう。

アステリア株式会社は、企業内の多種多様なコンピュータやデバイスの間を接続するツールを提供する企業ですが、2018年にそれまで青を基調としていたロゴを緑を基調としたものに変更しています。

ロゴカラーを緑に変えた背景には、同社がウェブサイト上で掲げる「発想と挑戦、世界的視野、幸せの連鎖」というコンセプトの通り、「成長への期待」を含んでいるのかもしれません。

紫:hokan, SSCV

株式会社hokanは、見込み顧客の発見から契約成立までを一貫して支援する営業支援ツールを提供している企業です。同社がウェブサイトで掲げるコンセプトは「適正な営業支援と組織の強固な監査体制を実現」です。

また、SSCVは株式会社日立物流が提供する輸送事業をアップデートするデジタルプラットフォームであり、SSCVは「Smart & Safety & Connected Vehicle」の略となっています。

「厳格性」「安全性」の言葉が表す通り、どちらも自社サービスの高い品質を全面的に押し出しているため、「品質」や「品格」を連想させる紫のブランドカラーは非常にマッチしたものと言えるでしょう。

橙・黄:Money forward、カオナビ、ラクス

オレンジと黄色はどちらも「友好性」や「楽観」といった印象を、見る人に与える色です。

マネーフォワードは前の項で触れたとおり、ブランドカラーでサービスの差別化を行っています。「ビジネス性」をコンセプトとした法人向けサービスの青と対極させ、「手軽さ」を売りにする自社の個人向けの家計簿アプリにはオレンジを採用しました。

加えて、クラウド人材システムを提供する株式会社カオナビ、企業向けに「働く人を楽にする」サービスの提供を行う株式会社ラクスも、自社のブランドにオレンジカラーを採用している企業です。

これらの企業に共通しているのは、サービスのメインコンセプトとして「手軽さ」「楽さ」を押し出していることです。各社のウェブサイトを一目見ればわかりますが、どのサービスもトップページの目立つ場所にユーザーフレンドリーをうたっています。

購買意欲を高めるための色の活用で気をつけるべきこと

色で購買意欲を高めるためには、いくつかの注意点に留意しなければいけません。以下では、それらの注意点をご紹介します。

ブランディングとの一貫性を保つ

ブランドカラーという言葉があるように、色はブランドのアイデンティティを表す重要な要素です。マクドナルドといえば赤色、HubSpotといえばオレンジ色、freeeといえば青色といった具合に顧客にブランドカラーを覚えてもらうためには、顧客とのあらゆる接点でブランドカラーの一貫性を保たなければいけません。

優れたブランディング戦略を有する企業は、ウェブサイト、広告、マーケティング資料、名刺など、あらゆるチャネルでブランドカラーを適切に活用しています。こうした一貫性のあるアプローチにより、顧客に対して統一されたブランドイメージを提示し、自社ブランドの認知度を高められるのです。

実際、ある大学の調査によれば、ブランドカラーを一貫して使用することで、ブランドの想起率が最大80%も向上するとの結果が出ています。つまり、ブランドメッセージと合致した色彩を戦略的に選択し、すべてのタッチポイントで徹底して展開することが、顧客にブランドを強く印象付けるための鍵となるのです。

色彩理論・色彩心理学の基礎を学ぶ

色彩理論や色彩心理学の基本的な知識を身につけることで、色の効果や意味を理解し、適切な色の選択ができるようになります。ここでは、基本的な項目を見ていきましょう。

CMYK / RGBカラーモデル

印刷物やデジタル媒体では、用途に応じてCMYKカラーモデルとRGBカラーモデルを適切に使い分ける必要があります。

CMYK _ RGBカラーモデル

(出典:Plum Grove

CMYKは「Cyan(シアン)」「Magenta(マゼンタ)」「Yellow(イエロー)」「Key(ブラック)」の4つのインクを基本とする減法混色であり、主に印刷物で活用されます。

一方のRGBカラーモデルは、「Red(赤)」「Green(緑)」「Blue(青)」の3色を基本とする加法混色方式で、デジタルデバイスのディスプレイに最適化されています。

たとえば、営業カタログをウェブサイトに掲載する場合、印刷物用にCMYKで設計された色をデジタル媒体のRGBに適切に変換しなければ、本来の色が正しく再現されません。このように、媒体の特性に合わせてカラーモデルを使い分けることが重要になります。

カラーホイール / カラーピッカー

カラーホイール(色相環)とカラーピッカーは、効果的な色の選択と配色計画をするうえで役に立つツールです。

カラーホイール

(出典:Adobe(以下同様))

まずカラーホイールは色の視覚的な表現で、色相(基本色)、彩度(色の鮮やかさ)、明度(色の明るさ)の3つの基本的な色の特性を示します。色同士の関係を理解するのに役立ち、色の調和やコントラストを作る際のガイドとして機能します。

カラーホイールを利用する上で押さえておくべきポイントは以下の通りです。

  • 相補色:色相環上で直接対面する色同士は強いコントラストを生み出し、目を引くビジュアルを作成するのに役立ちます。
  • 三角配色:色相環上で等間隔に位置する3色を用いると、バランスの取れたデザインが可能になります。
  • 類似色:色相環で隣り合う色を選ぶと、自然で落ち着いた雰囲気のデザインが作れます。
  • 分割相補色:一つの色とその相補色の隣の色を組み合わせると、斬新ながらも調和のとれたデザインが得られます。

たとえば、相補色を利用して目立つCTAの色を作成する、分割相補色でSNS広告用にユニークなビジュアルを作成するなどの利用が考えられます。

カラーピッカー

(出典:HTML Color Codes

カラーピッカーは、デジタルグラフィックソフトウェアやウェブデザインツールに組み込まれている機能で、色相、彩度、明度を調整し、目的の色を正確に設定できます。

暖色と寒色

暖色は、カラーホイール上で赤、オレンジ、黄色を含む範囲の色です。このグループの色は、感情を高め、注意を引く効果があります。特に赤は強い刺激を与える色で、CTAや広告など行動を促す際によく使用されます。黄色は楽観的で友好的な感情を喚起し、オレンジは創造性と若々しさを象徴します。

暖色

たとえば、CTAボタンや重要なナビゲーション要素に暖色を使用することで、これらの要素を目立たせ、ユーザーのクリックを促すことが可能です。またウェブサイト全体に温かみを加えることもでき、訪問者に安心感を与えられます。

寒色

対して寒色とは、色相環上で青、緑、紫の範囲にある色を指します。これらの色は冷たいものや水、氷、冷気を連想させるため、「寒色」と呼ばれます。寒色は視覚的にも心理的にも「冷やかさ」や「落ち着き」を提供し、穏やかさ、プロフェッショナリズム、信頼感を喚起します。

マッキンゼーのウェブサイト

(出典:マッキンゼー・アンド・カンパニー

たとえばマッキンゼーやガートナー、アビームコンサルティングなど著名なコンサルティング企業はロゴに青を使用していますが、これはプロフェッショナル性や信頼性を醸成するためでしょう。

単色 / 補色 / 類似色

色の使い方にはさまざまな方法があり、単色(モノクローマティック)、補色、類似色といった配色スキームが一般的です。

まず単色配色スキームは、1つの基本色を用いてその色の異なるトーン(明度を変えた色)、シェード(黒を加えた色)、ティント(白を加えた色)を組み合わせる方法です。色の調和が取れており、視覚的な一貫性が高く、安定感を与えられます。

また、シンプルで洗練されたデザインを作り出せるのも特徴です。たとえば、ラグジュアリーブランドが高級感を演出するために単一の色を用いることがあります。

単色配色スキーム

補色配色スキームは、赤と緑、青とオレンジのように色相環上で直接対面する色同士を使用する方法です。補色を使えば、高いコントラストを生み出せるため、視認性を大きく高められます。ウェブサイトや広告のCTA作成時の参考にするとよいでしょう。補色配色スキーム

類似色配色スキームは、オレンジと赤オレンジのように色相環上で隣接する色を組み合わせる方法です。類似色は自然で落ち着いた印象を与え、視覚的に分かりやすい組み合わせとなります。また、調和により安心感を醸成できるため、ウェブサイトの作成時に参考にするとよいでしょう。

類似色配色スキーム

お客様に向けてカラーテストをおこなう

色は顧客に大きな影響を与えますが、個人差もあるため、どの色が最適かを正確に予測するのは難しいことがあります。そこでA/Bテストが有効な手段となります。

A/Bテストとは、ウェブサイトのボタンなどで2つの異なる色を使い、どちらが顧客に好まれるかを評価する方法です。同じレイアウトとコンテンツで色だけを変えることで、色の影響を正確に測定できます。クリック率や滞在時間などのデータを収集し、どの色が行動を促進するかを分析しましょう。

この分析結果を活用して、CTAボタンや製品デザインを最適化することが重要です。

他のブランドから学ぶ

他のブランドがどのように色を活用しているかを学ぶことも重要です。優れたデザインを持つブランドのウェブサイト、ランディングページ、広告などを定期的に確認し、効果的な色の使い方を分析することをおすすめします。

特にユーザーインターフェースにおける色使いから、自社のウェブサイトや広告への応用可能性を探ります。CTAボタンの色はもちろん、グラデーションやアクセントカラーの活用例、それらがコンバージョン率にどう影響するかにも注目してみてください。

実際に名刺管理ソフトウェアを提供するSansan株式会社の公式サイトを分析してみましょう。

Sansanの公式サイト

(出典:Sansan

Sansan株式会社の公式サイトでは、信頼性や専門性を連想させる青を基調とした単色配色が上手く使われています。背景に非常に淡い青を用いてコンテンツの可視性を高め、CTAボタンは背景色と対比の効いた青で目立つようなデザインです。全体として青のグラデーションを効果的に活用し、ブランドカラーの一貫性が保たれています。

このようにして競合他社の優れた事例から学び、真似できる点は自社のブランディングに取り入れることが重要です。他社の色使いを分析し、課題や改善点を見つけ出すことで、自社のブランディング戦略の強化につなげられるでしょう。

色覚異常にも考慮した色を検討する

色覚異常を持つ人も多く存在するため、色の選択においては色覚異常の影響を考慮する必要があります。日本眼科医会によれば、日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人が色彩異常を持っているとのことです。

色覚異常のユーザーも情報を適切に受け取れるように、色覚異常を考慮したデザインをするのが望ましいです。下記画像は、色覚異常を持つ人が区別しにくい色の組み合わせです。

見分けにくい色の組み合わせ例

(出典:日本眼科医会

また、色だけに頼らない工夫も重要です。たとえば、重要な情報やアクションの呼びかけ(例えば、エラーメッセージやCTAボタン)には、色だけでなくテキストラベルやアイコン、形状など、複数の手段を用いて伝達することが重要です。これにより、色覚異常のユーザーでも情報を容易に理解できます。

色以外の要素も考慮する

色は重要な要素ですが、他の要素も重要です。筆者が支援した企業でよく見られたのが、行間(行の高さ)と文字間(文字の間隔)が詰まっていて、テキストの読みやすさが低下していること。ナビゲーションが分かりにくく、ユーザーが重要な情報に円滑にたどり着けないというものです。

コンテンツの品質やデザインのレイアウト、文言なども購買意欲を高めるために重要です。これらの要素を組み合わせて、ユーザーにとって分かりやすく魅力的なサイトや広告を作成しましょう。

まとめ

人間がさまざまな色に対して抱く印象や感情、身体的反応は無意識的なものであり、自身の意思ではコントロールしているものではありません。その分、企業ロゴなどのカラーが与えるブランドイメージも顧客の潜在意識に刷り込まれるものとなりやすく、非常に大きな効果が期待できるマーケティングのアプローチです。

色彩のマーケティングへの応用は、その点で以前に当ブログで紹介した「ニューロマーケティング」に通ずるものがあると言えます。

今回の記事では、各色の心理的特性を年代別・性別ごとに区分してざっくりと紹介いたしました。顧客区分をもっと細かく分けペルソナごとのデータを作り上げていくことで、自社がターゲットとする層にもっとも刺さりやすい色は何か、など深掘りしていくことも可能です。

先々のペルソナごとのリサーチを念頭においた上で、自社ブランドカラー選択の第一歩として本記事で紹介した統計データが参考となれば幸いです。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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