ホールプロダクトモデルとは?プロダクトマーケティング戦略で考えるべきこと

2022/01/12
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SaaSは、どちらかといえば難しい製品・サービスかもしれません。お客様に正しい理解をしてもらえていないとと、できることを勘違いされたり過剰に期待されたりします。残念ながら導入後うまく使いこなせず、失望されることもあるかもしれません。

技術的素養が相当に高く、テクノロジーが大好きなお客様の中には、いち早く導入した上にプロダクトについて改善すべきことを親切にフィードバックしてくださる人もいます。しかしそのような人は2~3%くらいです。

また、そのような方達はいわゆる「イノベーター」タイプの人であることが多く、より高機能な製品・サービスや、真新しい製品・サービスに乗り換えることが多々あります。

プロダクトライフサイクルの「溝(キャズム)」を乗り越え、製品・サービスが売れていくにつれ、「もっとITリテラシーが高ければ……」とベンダーが思うようなお客様が多数派になっていくでしょう。

SaaSなど専門性が高い製品・サービスのマーケティングでは「ホールプロダクト」の観点を持つことが重要です。多くの場合、ベンダーが提供する製品・サービスと顧客が期待することにはかなり「ギャップ」があり、自然に広まるにはあまりに顧客の知識の差がはげしいからです。そのギャップを埋めていかなければなりません。

リリース後も、着々と機能をアップデートして関連するサービスを提供することが求められます。また、他の企業とアライアンスを組んでユーザーがより製品・サービスの購入目的を達成できる製品・サービスにしていく必要があるのです。

その際には『ドリルを買う人が欲しいのは「穴」であるという有名な格言のように、そもそも顧客が製品・サービスを購入する目的が何かを起点に、顧客の期待に応えていくことが大切。本記事では、ハイテク業界のマーケティングに必須な概念「ホールプロダクトモデル」について紹介します。

ホールプロダクトとは?

ホールプロダクトとは(Whole Product)とは、ハイテク・マーケティングにおいて有用なマーケティングの概念のひとつです。

ホールプロダクトモデルの発展と背景

ホールプロダクトモデルは、1983年に米国のハーバード・ビジネス・スクール名誉教授Theodore M. Levitt(以下レヴィット)氏が著書『The Marketing Imagination』で提唱したトータル・プロダクトの概念です。

レヴィット氏の概念は、その後「アップルのマーケティング・グル」と呼ばれるRegis McKenna(レジス・マッケンナ)氏によって「ホール・プロダクト」という名称で再定義され、広く普及していきます。

以下は、1986年に出版された『The Marketing Imagination』の増補版ですが、ホールプロダクトのベースとなる概念、プロダクトライフサイクル、レヴィット氏がマッキンゼー賞を受賞した「マーケティング近視眼」などについても詳しく説明されています。

 

『The marketing imagination』の表紙

(出典:Amazon

ホールプロダクトモデルのコンセプトは非常にわかりやすく、ベンダーが最初に提供する製品・サービスの価値と、顧客が期待する価値(マーケティングを通してイメージしていた期待)とは、ギャップがあるので埋めなければならないという考え方です。

レヴィッド氏は、このギャップを克服するためには、製品・サービスにさまざまな付随するサービス、付属品などを適宜追加し「Whole Product(完全な製品)」にする必要があると説き、以下の図のようにホールプロダクトの完成度を4つのレベルに分けました。

ホールプロダクトの概念図

ホールプロダクトモデルから考えるプロダクト戦略

ここでは、ホールプロダクトモデルの4種類のプロダクトを、SaaSのマーケティング製品の例えを用いながら解説します。

① コアプロダクト(Generic Product)

コアになる製品・サービスであり、一番最初に市場に出すシンプルな初期のセットを指します。

たとえば、マーケティング製品を持つSaaSであれば、顧客が最低限期待する機能が搭載されていることが大前提。契約に「メール配信ができます」「CMSの機能があります」というのであれば、それらを完全に満たしている必要があることがコアプロダクトの意味合いです。

② 期待プロダクト(Expected Product)

初期の顧客が初めて製品・サービスを購入したときにイメージしていたもの。少なくともあれができる、これができる、最低限これはついているだろうと考える製品の基本セットです。MMP(Minimum Marketable Product)とも言われます。

SaaSのマーケティング製品で、メール配信やCMS機能がついていれば、顧客の期待はメール配信からCMSで構築したウェブサイトのどれだけの人が戻ってきているかを分析したいなどの要望が出てきます。場合によっては、その利用の仕方を理解したいなどの要望もあり、導入支援、導入支援ガイド、カスタマーサポート等が必要になります。

このように顧客の行動を考えると、コアプロダクトに追加して必要になるであろうプロダクトが期待プロダクトに当たります。

③ 拡張プロダクト(Augmented Product)

各顧客が製品・サービスを購入する目的を実現するために、提供されるさまざまな製品・サービスが拡張プロダクトに該当します。

同様のSaaSマーケティング製品であれば、他のメール配信ツールやワードプレスなどのCMSを利用している企業もいます。そのような場合、部分的に連携できる機能があったり、持ち合わせていない機能をAPIにて接続したりするなど、さらなる高度な顧客の要望に応えることも必要です。

また、サービスの観点から見れば、他社が提供する連携サービス、代理販売店による追加サービス、業務改善コンサルティング等もこの拡張プロダクトに該当します。

④ 理想プロダクト(Potential Product)

自社の付属品や関連サ―ビスだけでなく、サードパーティの連携サービスなどがかなり増えて、製品・サービスを活用することで、顧客が望んでいた目的を果たせるだけでなく素晴らしい顧客体験を得ることができるプロダクトの状態です。

マーケティング製品のSaaSであれば、守備範囲ではない機能を補完するようなAPI連携によるエコシステムの確立や、場合によっては、PaaSのようにプラットフォーマーのような形になる状態を指しているのかもしれません。

また、良質なユーザーコミュニティなどもあれば、サービスという観点からも影響の範囲は大きくなります。

ホールプロダクト戦略をプロダクトライフサイクルと重ね合わせる

ホールプロダクト戦略は、概念自体は簡単ですが、開発を行いマーケティング活動を起点にMRRを伸ばしていくことは決して簡単ではありません。

まず、製品・サービスを展開するにはライフサイクルがあり、その過程で対象の顧客像のタイプが大きく変わると言われています。ホールプロダクトの考え方を理解するには、このプロダクトライフサイクルの理解も欠かせず、両方を重ね合わせて戦略を進める必要があります。

プロダクトライフサイクルとは?

プロダクトライフサイクル米国の経済学者Raymond Vernon(レイモンド・バーノン)氏が、1966年に提唱した理論です。

元々は、海外輸出製品のライフサイクルを5段階で解説した理論でした。その後、近代マーケティングの世界的権威Philip Kotler(フィリップ・コトラー)氏などによって、現在のより汎用的なマーケティング理論として普及しました。

プロダクトライフサイクル理論(PLC)では、製品・サービスのライフサイクルをには導入期、成長期 、成熟期 、衰退期があるとしています。

  1. 導入期
  2. 成長期
  3. 成熟期
  4. 衰退期

この曲線は業界によって(流行に左右されやすいファッション、されにくい住宅等)カーブが異なります。製品・サービスの寿命も業界によっては1~2年であったり10年であったりとさまざまです。まず、自社製品・サービスのライフサイクルを理解する必要があります。

(参考:thebusinessprofessor.com/

キャズムの図

市場の変化も理解する(イノベータ理論)

プロダクトライフサイクルは、視座を変えれば各時期の顧客層が移り変わっているということでもあります。プロダクトライフサイクルの解説は、米国Everett M. Rogers(エベレット・M・ロジャース)氏のイノベータ理論とあわせて、以下のようによく説明されます。

  1. 導入期:イノベーターがおもに購入
    製品が市場に初めて投入された時点から、徐々に売上げが伸びていく時期。製品・サービスが認知されるための広告・宣伝費も、必要なわりに販売数は少ない先行投資の期間でもあります。

    序盤では、知り合いや口コミで導入や購入が進み、その流れをきっかけに徐々に加速していくでしょう。革新的な製品・サービスであれば当初は必要性を認識してもらう(需要創造)必要があるが、ライバルがいないため顧客の興味は引きやすい状態です。

  2. 成長期:アーリーアダプターがおもに購入
    製品・サービスが売れるようになり利益が出る時期。製品・サービスの認知度も高まり、新規顧客が得やすい期間です。

    また、リピーターからの売上げも増え、スケールメリットが出てくるためコストを減らせます。他社が低価格戦略や違った価値提案を切り口に参入する時期であり、市場の競争が厳しくなりはじめます。

  3. 成熟期:アーリーマジョリティがおもに購入
    製品・サービスが市場に広く普及することで売上げの成長率自体は低下してくる時期。継続した利益を得られる時期だが、市場競争はさらに激化するため脅威は存在します。

    この成熟期をできるだけ長くすることが製品・サービスをロングセラーにすることになり、知名度が高くなっているためマーケティングコストは下がるでしょう。競合他社対策として機能・サービスの多様化が進みます。

  4. 衰退期:ラガードが購入
    製品・サービスの売上げ・利益が減少する時期です。

(参照:sphweb.bumc.bu.eduaffine.aiGlobis

プロダクトライフサイクル

プロダクトライフサイクルの理想的な形はこのようなイメージですが、衰退期からピボットを行ったり、ビジネスモデルが変更されたりすることで、再び導入期に入る場合もあります。

また、SaaSなどのハイテク業界であれば、初期の顧客(イノベーター・アーリーアダプター)とアーリーマジョリティ以降の間にある「キャズム(深い溝)」も意識しなければなりません。

このキャズムを境に、顧客の要求は幅が広がります。言い換えれば顧客の知識、ITリテラシー、積極性が低くなるため、マジョリティは購入したら、できるだけすぐ簡単に活用できる製品・サービスを望んでいるため、ここでマーケティングの方向転換する必要があります。

キャズムを超える企業はわずかと言われており、ここを超えるためにもホールプロダクトを提供していかなければならないのです。

ホールプロダクトモデルと重ねあわせる

このようにホールプロダクトモデルといっても「プロダクトライフサイクル」と「市場の顧客層の変化」にあわせて考えるとよいと感じています。

今、プロダクトライフサイクルのどこにプロダクトはあるのか? 今のマーケティング対象の顧客層はどこかを理解してこそ、ホールプロダクトモデル戦略が機能します。

立ち位置を明確にし、市場を的確にとらえた上で品質を向上させたり、他企業と連携しより活用しやすくインフラを整えたり、マーケティング戦略を考えましょう。ホールプロダクトモデルとキャズム

ホールプロダクトモデルの事例

ここでは、製品・サービス別にホールプロダクトモデルの具体例を記載します。

事例その1:スマートフォン

  • コアプロダクト(基本となる製品やサービス):
    スマートフォン(電話機能・インターネット検索・メール機能)

  • 期待プロダクト:
    充電器、接続ケーブル、取扱い説明書、平均画素のカメラ機能、動画視聴可能な容量
  • 拡張プロダクト:
    超高画素なカメラ機能、電子マネー機、ストレージ容量
  • 理想プロダクト

事例その2 EV(電気自動車)

事例その3 採用管理SaaS

  • コアプロダクト(基本となる製品やサービス):
    採用管理SaaS

  • 期待プロダクト:
    Web会議システム、適性診断サイト、ZoomのAPI連携、採用コンサルティング、採用アウトソーシング、オンプレミスデータ統合

  • 拡張プロダクト:
    エコシステム(人事労務管理、教育支援、人事評価、タレントマネジメントなど隣接SaaSとのAPI連携)、人事コンサルティングサービス

  • 理想プロダクト:
    AIによる人事データ分析支援、組織開発支援、アルムナイSaaS

まとめ

ホールプロダクトモデルを提唱したレヴィット氏は、「近視眼的マーケティング(w:marketing myopia)」という論文で「顧客は商品を買うのではない。その商品が提供するベネフィットを購入しているのだ」と説いています。

前述の氏が自著で広めた格言『ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である』も有名です。ホールプロダクトモデルも、こういった顧客志向の考え方をベースに眺めると腑に落ちるのではないでしょうか。

今の自社製品・サービスはライフサイクルのどこに位置しているでしょうか? 買ってくれているのはイノベーターでしょうか? メインストリームにたどりついているでしょうか? 市場と顧客をよく見つめて、安易に機能勝負にシフトせず、目の前の顧客の期待に応えられるホールプロダクトを目指してマーケティング戦略を進めましょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

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