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トラクションとは? スタートアップビジネスでトラクションが重要な理由と具体的な獲得チャネルを紹介

スタートアップにおける「トラクション」とは、現状の財務状況と今後の成長性を示し、投資家が投資先を選ぶ際の有力な基準を指します。

スタートアップにとって、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから支援を受けられるかどうかは、事業成長に向けたひとつの関門です。事業の成功可能性や、自社が投資に値する企業であることを簡潔・明確に伝えなければなりません。

そのために、スタートアップ企業の経営者は、投資家へのピッチ(プレゼンテーション)内に、「トラクション」の現状や、今後の行方のアウトラインをしっかりと盛り込むことが重要です。

本記事では、BtoBスタートアップ企業が知っておくべきトラクションについて、重要性から指標例、トラクションを獲得する手法、トラクション確立後の注意点まで詳しく解説します。投資家に向けたピッチを作成中の方や、ピッチ大会参加に向けて準備を進めている方は、ぜひ参考にしてください。

トラクションとは?

トラクション(traction)とは、直訳すると「牽引する力」という意味です。

Traction= 「引っぱること、牽引(けんいん)、牽引力、(道路に対するタイヤ・滑車に対するロープなどの)静止摩擦、交通輸送、収縮、(骨折治療などの)牽引」(出典:Weblio

ビジネス英語では、get  tractionでプロジェクトなどがどんどん進行している様子、gain tractionでビジネスが勢いにのっている、支持されていることなどを表します。

スタートアップ企業にとってのトラクションの意味

ただスタートアップの世界では、トラクションは「牽引力」という意味だけでなく「事業成長の可能性を示す初期の実績」という意味合いでも用いられます。

米国では投資家への説明資料(ピッチ)に、トラクションが盛り込まれることは一般的であり、テンプレートの必須項目といってもよいでしょう。

(出典:Slide members -Traction Template

例えば、SaaSスタートアップの初期実績としてのトラクションには、以下があります。

  • トラクション例:顧客数、成長率、MRR ARR CAC LTV CS 、etc

スタートアップ企業は、実績豊富とまではいかない段階で投資家に説明することも多いので、必ずしも明確な指標というわけではなく「成長の兆し」「可能性を示す初期指標」という解釈まで含まれます。

トラクションが重要な理由としては、以下のCB INSIGTSのデータでわかるように、マーケットニーズがないことがスタートアップがうまくいかない要因になっているからです。

(出典:Entrepreneur「Infographic: The 20 Most Common Reasons Startups Fail and How to Avoid Them」)

トラクションは、その製品・サービスのニーズが市場にあるかどうかを示す指標。投資家が投資先企業を選ぶときの有力な基準になります。もちろん起業家にとっても、Go to marketに移行するために必ず意識すべき重要事項です。

スタートアップがトラクションを意識する重要性

スタートアップにとって、トラクションは単なる流行りのビジネス用語ではなく、ビジネスの成功と持続可能性を測るための重要な指標です。トラクションは、新しい顧客を引き付け、一貫した成長を示すことに大きく関連します。

つまり、スタートアップにとってトラクションは会社の将来を築く基盤であり、自社のビジネスモデルの価値を証明し、市場内で際立った存在へと成長するために欠かせない要素です。

ここでは、スタートアップがトラクションを意識すべき重要性を5つの視点からみていきましょう。

収益性の評価

(出典:medium

スタートアップにおいて収益性の評価は、市場での製品やサービスの受容度、ビジネスモデルの実効性、そして企業の持続可能性を示す重要な指標です。収益性は、顧客が製品やサービスに対して実際に支払う意欲があるかどうかを反映し、ビジネスモデルの実効性を証明します。

つまり、収益性が高いということは、それだけ顧客が製品やサービスに価値を見出し、それに対して金銭的な支払いを行っていることを意味します。安定した収益の増加や高い利益率は、市場における製品やサービスの需要が高いことを証明し、成功可能性を示せるため、投資家やパートナーからの信頼を得るための鍵となります。

収益性の高いスタートアップは、市場での競争力を示し、長期的な成功への道を歩んでいるといえるでしょう。収益性の向上は、スタートアップが市場での地位を確立し、成長を続けるための基盤を築くことに直結します。

自社のビジネスの価値の証明と改善

トラクションは、スタートアップが自社のビジネスの価値を証明し、継続的にその価値を高める上で極めて重要です。市場における製品の必要性と効果を明確に示すことは、自社や自社の製品・サービスの存在意義を高めることに繋がります。

製品やサービスの価値を証明することは、市場での競争力を強化し、新たな顧客層を開拓する効果もあります。例えば、ユーザーフィードバックを活用して製品を改善し、顧客満足度を高めることは、市場でのブランド認知度を高め、製品の差別化を図ることができるでしょう。

このように、製品やサービスの価値を継続的に向上させることで、スタートアップは市場での地位を確立し、ビジネスの成長機会を拡大できます。したがって、市場の変化に対応し、常に顧客のニーズに合わせた製品開発を行うことは、ビジネスの持続的な成長に欠かせません。

投資家からの信頼

スタートアップやユニコーン企業にとって、投資家からの信頼を獲得することは、ビジネス成長と成功のために必要不可欠です。とりわけ投資家は、事業の収益性、市場での成長、製品の革新性など、あらゆる側面からビジネスを評価します。

その際、明確なビジネスモデルと実績のある市場適合性を示すことは、投資家にとって魅力的な投資先と映るでしょう。その中でもトラクションの指標、特にユーザー数やアクティブユーザー数、収益率などは、ビジネスが堅調に成長していることを示す重要な指標となります。これらの指標が高ければ、投資家はビジネスの将来性を高く評価するため、資金調達やパートナーシップの獲得に成功する可能性が高まります。

したがって、投資家からの信頼を得るために、ピッチ内にトラクションの現状や、今後の行方のアウトラインをしっかりと盛り込むことが重要です。その結果、資金調達やネットワーク拡大、そしてビジネスのスケールアップにつながるでしょう。

(出典:medium

競争力の強化

市場内で競争力を強化することも、スタートアップの成功において重要な要素です。競争力の強化とは、市場での独自の地位を築き、競合他社と差別化を図ることに他なりません。どのように競争力を高めるかといえば、革新的な製品・サービスの開発、効果的なマーケティング戦略、顧客との強固な関係構築による市場内でのシェア拡大などが挙げられます。

例えば、ユニークな製品特性や優れた顧客サービスは、「顧客ロイヤルティ」を高め、リピート率やLTV(顧客生涯価値)の向上につながるでしょう。また、マーケットシェアの拡大は、トラクションの要素としても重要であり、競合他社との比較や市場成長率とバランスによって評価されます。このように、競争力が高いスタートアップは、市場の変動に対応しやすく、長期的に安定した事業成長を遂げる可能性が高いといえるでしょう。

優秀な人材の採用

優秀な人材の採用は、スタートアップの成長とイノベーションを推進する上で非常に重要です。新しいアイデアや専門的スキル・実績、豊富な経験を持つ人材は、ビジネスのさまざまな側面を強化するため、製品開発やマーケティング戦略、顧客サービスの向上といったあらゆる面で貢献します。

一方、労働人口の減少や価値観の多様化により、多くの業界で人材採用難がさけばれる中、大手企業ほど資金力を持たないスタートアップが優秀な人材を獲得することは容易ではありません。

(出典:高齢化の推移と将来推計(総務省)

そのためにもトラクションを意識的に高めることで、市場内での競争優位性を示したり、将来的な成功可能性を求職者に向けて効果的に伝えたりすることが可能です。そのためにも、ネットワーキングやコミュニティ活動を通じて、関連する業界や市場での存在感を高めておくことが大切です。

優秀な人材を安定的に確保し続けることは、競争の激しい市場内でスタートアップが成功するための基盤となるでしょう。

トラクションを測定する指標例

スタートアップにおけるトラクションの測定は、その成長と市場での受容度を評価する上で重要です。トラクションを測定するためには、収益性、製品価値の向上、革新的な技術力、ユーザーエンゲージメントなど、さまざまな指標が考慮されます。

これらの指標は、スタートアップが市場でどのように受け入れられているか、どの程度の成長を遂げているかを示すため、投資家やステークホルダーにとって重要な情報源です。続いて、それぞれの指標を詳しくみていきましょう。

収益性

収益性は、ビジネスが成功しているかどうかを示す基本的かつ重要な指標です。これは、スタートアップが市場での製品やサービスに対する実際の需要を捉え、それに対してどの程度応えられているかが反映されます。

例えば、収益性が増加している場合は、市場での製品の受容度が高いことを示し、投資家やステークホルダーに対してビジネスモデルの実効性や成長性を証明することが可能です。具体的には、収益の伸び、粗利益などの財務指標を通じて収益性を評価できます。

製品価値や改善、革新的な技術力

製品価値の改善と革新的な技術力の向上は、トラクションを測定する上で重要な指標です。これらは、スタートアップ企業がいかに市場や顧客のニーズに応え、継続的・安定的に製品やサービスを改善し、革新的な技術を有しているかを示します。

技術力や商品価値を高めるには一朝一夕ではいきませんが、顧客のフィードバックをもとに課題を特定したり、時代にあった最先端の技術を導入したりすることが大切です。特に、テクノロジーの活用によってイノベーションが引き起こされ、これまでになかった新しい製品やサービスが誕生することもあります。

逆にいえば、どんなに優れた製品・サービスであっても、継続的に製品価値の向上に努めなければ、「コモディティ化」が起きてしまい、瞬く間に市場内での競争力が弱まってしまうでしょう。したがって、製品価値の向上や技術革新に挑むことは市場での競争力を保つことにもつながります。

ユーザーエンゲージメント

ユーザーエンゲージメントは、顧客が製品やサービスにどれだけ関与しているかを示す重要な指標です。この指標は、ウェブサイトの訪問数、SNS(ソーシャルメディア)でのフォロワー数といったように、オンラインでの活動などを通じて測定されます。

例えば、「登録ユーザー数」「アクティブユーザー数」など、ユーザーがプラットフォーム上で費やす平均時間(日次または月次)の指標が含まれます。つまり、ユーザーエンゲージメントが高いということは、スタートアップがユーザーに対して製品の使用を継続するよう促す魅力的な価値を提供できていることを意味します。

高いエンゲージメントレベルは、顧客が製品に深い関心を持ち、積極的に関与していることを示すため、市場での製品の受容度とブランドの認知度を反映するなど、ビジネスの成長に直結する重要な指標となるでしょう。

メディアでの露出・存在感

テレビや雑誌、インターネットなど、メディアでの露出および存在感は、スタートアップのトラクションを測定する上で重要な指標です。なぜなら、メディアに取り上げられることによって自分たちのビジネスが広く知られるようになり、社会的な関心や企業のとしての信頼度を高める効果が期待できるからです。

例えば、パンのサブスクサービス「パンスク」を展開する株式会社パンフォーユーでは、創業時から広報PRに取り組んだ結果、認知度獲得につながりました。

また、ポジティブなメディアカバレッジ(各メディアが特定のトピックに対して報道すること)やソーシャルメディアでの活発な議論は、ブランドの認知度を高め、新しい顧客や投資家の関心を引くことにもつながります。

市場への浸透や認知の獲得は、スタートアップの価値がターゲット層の共感を呼んでいることを示すため、強いトラクションの兆しといえるでしょう。このように、メディアでの露出と存在感が高いスタートアップは、市場での信頼性と影響力を確立しているため、さらなるビジネスの成長が促進されやすくなります。

パートナーシップの構築

パートナーシップの構築も、スタートアップのトラクションを測定する上で欠かせない指標です。パートナーシップとは、自社が他の企業や組織と協力関係を築き、市場での立場を強化している状態を示します。特に、業界リーダーや影響力のある企業とパートナーシップを結ぶことで、企業としての信頼性と市場での地位が飛躍的に高まります。

例えば、「NP掛け払い」サービスを展開する株式会社ネットプロテクションズは、広告費の4分割・後払いサービスを手掛ける株式会社バンカブルと戦略的パートナーシップを構築し、BtoBの決済代行市場におけるシェアを拡大および、事業成長スピードを加速させることに成功しました。

このように、強力なパートナーシップを持つスタートアップは、リソースの共有、知識の交換、そして市場での競争力が強化できるため、ビジネスの成長をより加速させることができます。

(出典:株式会社ネットプロテクションズ

トラクションをまとめた参考書籍

もっとも経営者の立場としては「初期の実績が重要なことは百も承知 。トラクションを獲得するまでが大変なんだ」というところかと思います。

では、トラクションを獲得するためには具体的に何をすればよいでしょうか?

まず、トラクションを得るための手法についてまとめた書籍を紹介します。今のところ日本で出ているトラクション関連の本はこの2冊だけです。

それぞれトラクションの定義はやや異なり、1冊は「トラクション=牽引力」、もう1冊は「トラクション=初期の顧客数」という視点で書かれています。いずれも事業をスケールさせるノウハウが詰まった良書でレビューも高評価です。

『TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーション』

(出典:Amazon

  • 著者:全世界で13万社以上の企業が導入しているEOS(Entrepreneurial Operating System)の開発者Gino Wickman(ジーノ・ウィックマン)氏。
  • 内容:事業をトラクションさせる(牽引する)ために、経営に欠かせない「ビジョン」「データ」「プロセス」「トラクション」「課題」「人」の6つのモジュールと、ビジネスの課題を解決する20のツールで構成されるEOSを紹介。EOSは米国で「大企業はMBA、中小企業の経営戦略はEOS」といわれる実績のあるメソッド。ビジョン・トラクションシートなどのツール説明をしながら、中小企業がイノベーションを起こすステップをわかりやすく解説しています。

参照:『TRACTION トラクション ビジネスの手綱を握り直す 中小企業のシンプルイノベーション』

『トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』

(出典:Amazon

  • 著者:「あなたを追跡しない検索エンジンDuckDuckGo(ダックダックゴー)」の創業者Gabriel Weinberg(ガブリエル・ワインバーグ)氏、スタートアップの大成功と失敗の両方を経験した成長コンサルタントのJustin Mares(ジャスティン・メアーズ)氏の共著。
  • 内容:「トラクション推進力を得るために十分な顧客)」という視点で、トラクションを獲得するためのフレームワークと19の顧客獲得チャネルを紹介しています。トラクションを獲得するためにどのチャネルで何をすればよいかが事例つきで紹介されています。
    「モノづくりとトラクション(顧客を掴む)の重要度は50%ずつと考える」「どのチャネルに対しても、まずは等しく可能性を考える」など、スタートアップ企業に役立つアドバイスが満載です。

参照:『トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル

トラクションを生むためのチャネル19個を紹介

以下より、書籍『トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』に紹介されているチャネルについて、日本市場向けの内容を含みつつ解説します。

1.バイラルマーケティング

バイラルマーケティング(Viral marketing)」とは「Viral=ウィルス」のように評判が速く拡散する仕掛けを事前に組み込むマーケティング手法です。一見、自然発生的に大ヒットしたかのように見えるプロダクトも、実はバイラル・マーケティングの成功だったケースは珍しくありません。

もともとは、Hotmailがメール下部に「P.S. Hotmailで無料電子メールを入手しよう」というメッセージを入れ、送信者の意図に関わらずhotmailが使われると自動的に宣伝される仕組みを採用したことが由来です。

バイラルマーケティングの目的は、過度に宣伝することなく自社の認知を拡大し、ユーザーから信頼と支持を得ることです。バイラルマーケティングは、良質なコンテンツを投稿してユーザーからの反応や拡散を待ちます。「宣伝っぽさ」のないコンテンツのシェアが広まることで、ユーザーからの信頼が自然と高まっていくのです。

  • How toコンテンツ
  • 分量が適度に多いコンテンツ
  • トレンドに乗っている
  • あからさまに宣伝であることがわかる

バイラルマーケティングは2種類に分けられます。商品自体に仕組みを埋め込む手法を「一次的バイラルマーケティング」と呼び、「紹介キャンペーン」のように口コミとインセンティブを活用して拡散させる手法を「二次的バイラルマーケティング」といいます。

成功例:AmazonDropbox(英語)Hotmail、など

一次的バイラルマーケティングの事例として、中Good Morning Technologies(早安科技)社が運営するモバイルアプリ「画音(ファーイン)」が挙げられます。画音は、テキストではなくビデオメッセージという手法でコミュニケーションを取るアプリであり、WeChatの育て親と言われるGenie氏がリリースしました。

(出典:画音

画音の特徴は「アプリは、友達が4人以上いないと使えない」ということです。これによりバイラルを起こし、ベンダー側はコストをかけずにユーザーが増えていきやすい仕組みを形成しています。

二次的バイラルマーケティングの事例としては、各種企業のSNSでのキャンペーン活動が代表的です。

例えば、無印良品のTwitterアカウントは「 #◯◯ をつけたSNS投稿を、実店舗で提示すると特別なプレゼント」といったキャンペーンを行い、認知を拡大。2023年4月現在は、フォロワー数80万人超えの巨大アカウントになっています。

ただし、二次的バイラルマーケティングの場合、インセンティブ目当ての利用者が増え、予定よりコストがかかりすぎて失敗する可能性も多いにあります。バイラルマーケティングについてより知りたい人は、こちらの本もおすすめです。

2.PR

PRとはパブリック・リレーションズ( Public Relations)の略で、対外的な広報業務のことを指します。具体的には各メディアに自社の事業について定期的に発信して、良好な関係性を保ち、記事としてとりあげてもらったり、自社を理解してもらったりすることでフェアな報道がされることを目指します。

パブリック・リレーションズの定義は、以下のとおりです。

『広報・パブリックリレーションズは、「関係性の構築・維持のマネジメント」である。企業・行政機関など、さまざまな社会的組織がステークホルダー(利害関係者)と双方向のコミュニケーションを行い、組織内に情報をフィードバックして自己修正を図りつつ、よい関係を構築し、継続していくマネジメント』

上記では広報とPRが分けられていますが、両者に大きな違いはありません。海外で発祥したPRという概念が戦後日本に導入されてから、日本では「PR=広告宣伝」といった解釈がされてきました。

しかし本来、「パブリック・リレーションズ(PR)」という言葉には幅広い意味があり、広告宣伝だけでなく、個人や組織が情報を管理・発信し、社会的認知に影響を与える活動も指しています。

つまり広告とは違い、有料で何かを掲載するのではなく、消費者や社会全般に有益な情報を発することでメディアに無償で記事にとりあげてもらう活動であるといえるでしょう。

例えば、ドイツビールなどを販売するハイネケン・ジャパン株式会社は、コロナ禍ならではのPRで大きな反響を獲得しました。

(出典:HUFFPOST「ハイネケンが店のシャッターを宣伝媒体に コロナ禍の飲食店支援」)

同社は、緊急事態宣言によるロックダウンで多くの飲食店が営業停止の苦境に立たされた際、各飲食店のシャッターに自社の広告を掲載。営業できずに困っている飲食店に「広告掲載料」を支払う取り組みを実施しました。

この「シャッターの広告」はさまざまなメディアに取り上げられ、ハイネケン自身は結果的に大幅な認知拡大を果たしました。

メディアで取り上げられることで、企業の知名度アップ、信頼度アップにつながります。オンラインのメディア、無料プレスリリースサイトなどを活用すれば、同時に後述するSEO対策にもなるでしょう。

3.規格外

規格外とは、常識的な発想を超えた型破りの事業活動、宣伝方法を指します。『トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』では、以下のような内容が紹介されています。

  • will it blend? Blendtec社がブレンダーでゴルフボールとかiPhoneを次々破壊する動画 
  • zappos社 規格外で感動するほどに親身なカスタマーサポート

日本の場合、攻撃的なパフォーマンスを受け入れる土壌はあまりないため、Zappos社のけた外れに親切な接客やカスタマーサポートあたりが見習いやすいかもしれません。

Zapposについて語られる際、頻繁に取り上げられるのが「コールセンタースタッフのサービスの質」です。同社は、自分たちのことを「たまたま靴を売ることになったサービス企業」と語っているように、Zapposの中心にあるのはあくまで「サービス」であると捉えており、それがサービスの質の高さに現れています。

同社は、1999年の創業から2009年にAmazonに買収されるまでの10年間で、評価額12億ドルにまで事業を成長させています。突き抜けた価値の提供がトラクション獲得に貢献することは疑いの余地がないでしょう。 

4.SEM

SEM(サーチ エンジン マーケティング)とは、インターネットで検索エンジンを活用するユーザーに対してのマーケティングです。

検索キーワードに応じて広告を表示させる「検索連動型広告」、流入したユーザーのコンバージョン率を上げるための「ランディングページ最適化 (LPO)」、アクセス解析にもとづく改善などのマーケティングなどを指します。

検索連動型広告とは、ユーザーがGoogleなどの検索エンジンで、あるキーワードで検索した際、検索キーワードに連動して表示される広告のことです。

検索連動型広告は「モチベーションの高いユーザーにのみ広告を配信できる」「短期間で成果が見えやすい」などのメリットがあります。顧客の絶対数が少ないスタートアップにとっても、短期で多くのリードを獲得する上では有効な手段といえます。

LPOとは「ランディングページ最適化(Landing Page Optimization)」の略。Web広告などを経由してランディングページに訪問したユーザーの離脱率を下げつつ、コンバージョン率を上げるためにクリエイティブの質を向上させていく取り組みです。

LPOはクリエイティブの良し悪しを判断するための知見が求められるものの、コンバージョン率を大きく向上させるためには必要な施策といえます。

例えば、株式会社Kaizen Platformが公開している「楽天証券」のLPO事例をみてみましょう。ランディングページのファーストビューにおいて「条件なし、誰でも運営管理手数料が0円」というポイントをインパクトのある動画で訴求することで、申込完了率を120%アップさせることに成功しています。

(出典:Kaizen Platform「LPOとは?CVR改善施策や成功事例、有効なツールを解説」)

これらに加え、後述するGoogleなどの検索エンジンで上位に入るための「検索エンジン最適化 (SEO)」も、SEM施策のひとつです。SEMを行う際には、各施策を組み合わせつつ「今、自社が注力するべき戦略」を見極めることを意識しましょう。

スタートアップがトラクションを獲得することを目指す場合、足元の売上げにつながりやすい検索連動型広告からはじめ、LPOも適宜組み合わせるのが効果的です。

5.ソーシャル/ディスプレイ広告

ソーシャル(SNS)広告とは、SNSへの投稿をもとに自動的に生成される広告です。各SNSのユーザーは個人情報を詳細に登録しているケースが多いので、年代、性別、エリア、学歴、興味ある分野などでセグメントして広告を配信できます。SNS広告は、拡散されると大量のトラフィックを自社サイトに誘導することが可能です。

例を上げると、クラフトビールの製造・販売を行う株式会社ヤッホーブルーイングは、LINEの公式アカウントを開設して情報を発信するだけでなく、LINE広告(友だち追加広告)を定期的に配信することで、顧客獲得につなげています。

(出典:LINE for Business「潜在顧客からファンへ――ヤッホーブルーイングが考える友だちの価値とは」)

当初はペルソナに近いユーザーを対象に広告を配信していたものの、「より幅広いユーザー層を増やすため類似配信の比率を調整する」「LINE公式アカウントのデータをLINE広告の配信に活用するクロスターゲティングを行う」といった取り組みを実施しました。

結果的に、メッセージ配信をきっかけにWebサイトを訪問するユーザーも増加したと報告されています。

対して、ディスプレイ広告とは、検索エンジンのバナー広告のことであり、検索キーワードに対応して表示することが可能。サイズが比較的大きく、多くの人の目にとまりやすいでしょう。

価格が高そうな印象がありますが、広告表示は無料で、クリックされた料金だけ課金される成果報酬型であり意外にリーズナブルです。写真や動画、GIFなどさまざまな形式があります。

ディスプレイ広告は潜在層が主なターゲットであり、「視覚に訴えられる」「詳細なターゲティングができる」などがメリットです。

(株式会社シャノンのディスプレイ広告)

上図は「ITmediaNEWS」に掲載されている株式会社シャノンのディスプレイ広告の事例です。MA(マーケティング・オートメーション)ツールなどを提供する同社の広告は、「ITに関心が高い層」が多いと見込まれるサイトに配信することで、問い合わせの期待値アップにつながっているといえるでしょう。

6.オフライン広告

オフライン広告とは、新聞や紙媒体(一般誌、業界誌)の広告、駅貼りポスター、電車の中吊り広告、チラシ、看板広告などオンライン広告以外の広告のことです。

オンライン広告と違って効果測定が難しい面はありますが、多くの人が目にするため幅広い層に自社の製品・サービスを知ってもらえます。BtoBであれば業界新聞、業界誌への広告は読者層が絞られているため、効率的に見込み客、顧客に訴求できるでしょう。

デジタルが発展した昨今は「オフラインの広告に投資するメリットはあまりないのではないか」と感じるかもしれません。しかし、デジタルのメルマガ配信にプラスして、紙のDMも送付すると反応率がよくなるというデータがあります。

(出典:MarkeZine「紙メディアは意外にも若年層に有効 3つの実証実験で明らかになったDMの効果を発表」)

特に、業界誌への広告掲載や、自社の顧客リストへのDM送付などは、その後の問い合わせにもつながりやすいでしょう。

7.SEO

SEO(Search Engine Optimization)とは「検索エンジン最適化」のことです。具体的には、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、特定のキーワードで検索されたときに検索上位に表示されるためのマーケティングです。

各検索エンジンには独自のアルゴリズムで自動的に表示順位が決まる仕組みがあります。また、ユーザーに有益なサイトを上位表示するために、アルゴリズムを定期的にアップデートします。

SEOは、検索エンジンのアルゴリズムの仕組みを理解した上で「サジェスト」「関連キーワード」「共起語」などを参考に見込み客の入力するキーワードを想定し、その解答になる有益なコンテンツを作成することが基本です。

キーワード選定時に重要な取り組みとして「ペルソナ」設定が挙げられます。

ペルソナとは、企業が製品やサービスのターゲットとする代表的な顧客像のこと。SEOではペルソナを設定した上で、各ペルソナが満足するキーワードをマッピングし、コンテンツを作成していく必要があります。

(ペルソナに対応したキーワードマップの例)

キーワードマッピングを行う際に重要なのは、あくまで「ペルソナの課題に寄り添ったコンテンツ作成」を意識すること。これについては、Google側も「Googleが掲げる10の事実」として、基本的な考えを表明しています。

Googleが掲げる10の事実

SEOは「検索エンジンに評価してもらうための施策」と誤解されるケースも少なくありません。しかし、長期的な取り組みになることは覚悟しつつ「ペルソナに価値を提供した先でしか利益は生まれない」と認識しておきましょう。

8.コンテンツマーケティング

コンテンツマーケティングとは、見込み客にとって価値ある有益なコンテンツを継続的に作成し、興味関心を持ってもらい、ブランディングやリードジェネレーションにつなげていくマーケティング手法です。

コンテンツは本来、制作物全般を指す言葉ですが、日本ではコンテンツマーケティング=オウンドメディアと解釈されることが一般的です。米国で行われた調査では、コンテンツマーケティングに取り組む企業は「BtoC企業が70%、BtoB企業が79%」と、BtoB企業の方が多く取り組んでいることがわかります。

特に、BtoBのアプローチ対象は「特定業界の、特定企業の、特定部門の購買担当者or経営者……」というごく僅かな人たち。見込み客ではない人のほうが圧倒的多数なので、ピンポイントで訴求する必要があります。

例えば、BtoBはコンテンツマーケティングで作成するコンテンツ例としては、デジタルに限定すると以下が挙げられるでしょう。

  • ウェブサイトコンテンツ
  • ソーシャルメディアコンテンツ
  • 記事コンテンツ(ブログコンテンツ)
  • 漫画コンテンツ
  • 広告コンテンツ
  • インフォグラフィックコンテンツ(図や表やイラストなど、情報を視覚的に表現したコンテンツ)
  • 音声コンテンツ
  • スライドコンテンツ
  • インタラクティブ・コンテンツ

など

コンテンツマーケティングは成果が出るまで時間がかかるのも事実。しかし、軌道にのると無料コンテンツが24時間365日インターネット上で情報を発信するため、有料広告よりもコストパフォーマンスに優れた見込み客獲得手法になります。

さらに、Web経由でリードを獲得するだけでなく、営業が商談時の資料として使う……、といった活用方法も可能。例えば、SaaS系企業なら自社サービスの「導入事例」などがよい例です。

(出典:ShareWith

上図は、野村インベスター・リレーションズ株式会社が提供するクラウドCMS「ShareWith」の導入事例ページです。こういった顧客の属性・ニーズごとの事例コンテンツを用意しておけば、Web経由でのリード獲得だけでなく、営業にとっても活用しやすい「資料」であるといえます。

9.メールマーケティング

メールマーケティングとは、メールで継続的に顧客や見込み客に情報を配信することで、既存顧客のリテンション、アップセル、クロスセル、新規見込み客の獲得につなげるマーケティング手法です。

メールマーケティングは単独でも有用ですが、他マーケティング施策(イベント告知、オウンドメディアの新記事案内等)と組み合わせて活用できる使い勝手のよい手法です。何よりテキスト主体の媒体なので低コストで運用でき、ROI(費用対効果)に優れています。

メールを使った施策でより高い反応率を獲得するためには、まず何より「件名」「FV内へのCTA設置」に注力するのが効果的。これについては、株式会社WACULが行った調査から、メールマーケティングにおけるベストプラクティスであるとわかっています。

さらに同社の別の調査では、「メールを送りすぎても配信解除率には影響しない」とのことです。

(出典:株式会社WACUL「『メール送りすぎ?』という遠慮は不要。メールマーケティングの実態調査」)

差出人名にサービス名や自社名を含めれば、純粋想起の獲得も狙っていけます。純粋想起とは「スマートフォンと聞いて思い浮かぶブランドは?」といったオープンクエスチョンを投げた際に、ユーザーが特定のブランド・企業を思い浮かべることをいいます。

物売りによる対価ではなく、自社サービスを利用してもらってはじめて利益が生じるBtoB・SaaS系企業にとっては、特に重要な要素です。

10.エンジニアリングの活用

エンジニアのリソースを使って顧客を獲得するマーケティング手法です。成功している企業は、Webサイトにマイクロサイトを構築する。あるいはWebサイトに埋め込む単機能のアプリウィジェットを開発することで、無料ツールの作成などを行い、毎月多数のリードを獲得しています。

BtoBにおいてエンジニアリングを活用したコンテンツを作成すれば、見込み顧客に「役立ちそうだから、資料請求してみよう」と思わせるキラーコンテンツになり得るでしょう。

一例をあげると、マーケティングに役立つソフトウェアを多数提供するHubSpotは、エンジニアリングを活用したグロースハックツールを無料提供しています。

(出典:HubSpot

同ツールは、簡単な操作でEメール用の署名を作成しつつ、HubSpot、Gmail、Outlook、Apple Mail、Yahoo!メールなどに反映できるというもの。書式やデザインなど、目的別にテンプレートが数多くあるため利便性が高く、トラクション獲得に寄与する可能性が高いといえるでしょう。

11.ブログ広告

ブログ広告とは、インターネット上にあるさまざまな企業や個人のブログに広告を掲載することです。

少し古いデータですが2007年の米国テクノラティ社の調査では、世界のブログ数は約7000万件以上、しかも日本が最多です。その後のインターネット速度の向上、スマートフォンの普及を考慮すると、日本でのブログ広告活用は2021年の今も有効だと考えられます。

広告を出す手法には以下があります。

・アフィリエイト(ASP)※後述

Googleアドセンス

(出典:総務省

例えば、ブロガーの松本 博樹氏が運営する「ノマド的節約術」は推定月間PV数が372万PVともいわれており、企業による広告出稿もみられます。

(出典:ノマド的節約術

自社製品・サービスと親和性の高いトピックを扱っているブログに広告出稿すれば、トラクション獲得につながる可能性が高まります。

12.ビジネス開発(パートナーシップ構築)

ビジネス開発とは、自社のリソースだけでなく、外部企業とのパートナーシップを構築し、お互いに利益をもたらす戦略的関係を構築しながら事業を伸ばすことです。

スタートアップの場合、一般に「人、モノ、金」のリソースが不足しています。そのため、自社の技術を補完するような技術を持つ企業、販路を確保するために営業を任せられる企業と提携し、互いに補完し合い、それぞれの強みをより活かせるパートナーシップ形成が理想的です。

SaaS企業にとっては「API連携」が代表的なビジネス開発の事例といえるでしょう。例えば、業務の自動化を支援するエンタープライズiPaaS「ActRecipe」を提供するアクトレシピ株式会社は、2023年4月18日にOpenAIが提供する「Chat GPT」のAPI連携に対応したことを発表しました。

(出典:PR Times「ChatGPTとノーコードでAPI連携!iPaaS「ActRecipe」がChatGPTのAPI連携に対応」)

この連携により、ActRecipeの利用者は、目視で確認しなければならない業務の一次処理をChatGPTで自動で行うことができるようになり、さらに利便性が向上しました。自社サービスの苦手とする部分を、別のサービスとの連携を通じて補った好例といえるでしょう。

13.営業

営業とは、製品・サービスを見込み客や顧客に販売する活動です。昔からある「御用聞き営業」に始まり「企画営業」「ソリューション営業」「インサイト営業」など、営業の呼称が分岐しているように、業界や製品サービスの種類によって営業スタイルはさまざまです。

BtoB営業の場合、複雑な課題に対して解決策を提案する営業スタイルが多く、成約まで半年~3年かかることは珍しくありません。

さらに、近年のBtoB領域では福田 康隆氏の著作『THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』でも紹介された「分業制」の営業体制を採る企業も少なくありません。

(出典:Amazon

本書で紹介されているように、「マーケティング→インサイドセールス→営業」の流れで営業プロセスを分割すれば、確かに高度なリード管理を行うことが可能。人的リソースの乏しいスタートアップでも「インサイドセールスだけは外注する」という企業も存在しています。

しかし、営業プロセスを分割すれば、同時に「各部門がそれぞれ異なった顧客接点・情報を抱える」という問題も生じます。そのため、自社の営業活動でトラクションを形成しようと思えば、部門間の連携と顧客情報の共有が不可欠になってくる……、という点についても把握しておきましょう。

14.アフィリエイトプログラム

アフィリエイトプログラムとは、インターネット上にある各種サイトやブログ、SNS、YouTube、メールマガジンなどの運営者と提携し、成果報酬型で広告を掲載する手法を指します。いわゆるチャネルマーケティングのひとつです。

アフィリエイトプログラムには、以下の課金モデルがあります。

  • クリック課金(広告をクリックしたときだけ課金)
  • インプレッション型(ブログに表示された回数に対して課金)
  • 成果報酬型(購入金額の何%かのマージン、資料請求1件につき手数料支払い等)

アフィリエイトプログラムは、一般にアフィリエイト サービス プロバイダ企業(ASP)を通して広告を配信します。ASP企業によって初期費用、月額費用、得意領域が違うので、自社に合うASPを選択することがポイントです。

近年は、アフィリエイトで収益を得るために中身の薄いブログが乱立したために、「アフィリエイト」という言葉に対してネガティブな印象を抱く方もいるかもしれません。しかし、実際は大手企業にも活用される有用なチャネルマーケティングの手法です。

アフィリエイトにより自社の信頼を失墜させないためには、商材選びも重要。以下は法人対象のMicrosoftのアフィリエイトプログラムです。

(出典:Microsoft 365

同プログラムでは、Microsoft 365 製品の販売が成立すると、大きな手数料を得られます。 世界有数の企業であるマイクロソフト社と提携すれば、自社メディアの信頼性向上も期待できるでしょう。

15.アプリストア、SNS

アプリストアやSNSへの自社製品の掲載もトラクション獲得を図る上では有効な施策で、特にSaaS系企業に向いています。GAFAと呼ばれるプラットフォームは、桁違いのユーザー数を保有しています。Facebookなどは日本の人口をはるかに超えるユーザー数です。

App Store、Google Playなどのオンラインアプリストアを活用すれば、自社アプリケーションを世界のユーザーに普及させることができます。メガプラットフォームの活用はユーザーに自社製品・サービスを知ってもらえる早道です。

トラクション ―スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル」では、エバーノートがApp Storeから数百万人の顧客を獲得したことが紹介されています。

アプリストアの事例としては、HubSpotのアプリマーケットプレイスが代表的です。

(出典:HubSpotアプリマーケットプレイス

同マーケットプレイスへの掲載にはHubSpotの開発チームによる審査をクリアする必要があるものの、2020年初頭にはHubSpotユーザーによるアプリマーケットプレイス掲載アプリとの連携数が100万を超えたとあるように、自社サービスを掲載することの恩恵は非常に大きいといえます。

16.展示会

展示会とは、会場に多くの企業の製品・サービスが一同に展示されるイベントで、イベントマーケティング手法のひとつ。出展企業の一般的な目的は以下のとおりです。

  • 新製品・サービスの紹介
  • 商談機会の創出
  • 企業の認知度の向上

大規模なリアルの展示会は、訪問者にとってみれば1日で各社の新製品・サービスを効率よく見てまわり、試して、資料収集もできる便利な場です。企業も、1日で多数の見込み客情報(名刺等)を獲得できます。

会場内に商談スペースが設けられることも多く、目的がはっきりした企業同士がフランクに出会える貴重な場です。コロナ禍以降はリアル・オンライン融合型の展示会も増えるなど、展示会チャネルはより多様になっています。

展示会の具体例として挙げられるのは、「メタバース」や「デジタルツイン」など、生活や社会を革新していく技術として昨今注目が集まるXR技術(VR・AR・MR技術の総称)に特化した展示会「XR総合展」です。

(出典:XR総合展

同展示会は、製造業や建設業、不動産、医療、エンタメなど幅広い業界で活用できるXR製品・サービスが集まる……、というコンセプトのイベント。こういった規模感の大きな展示会に出展できれば、スタートアップでも1日足らずで大手企業の名刺を多数獲得できる可能性があります。

17.オフラインイベント

オフラインイベントとは前述の展示会をはじめ、リアルで行われる見本市、カンファレンス、セミナー、業界・会社関係なく同じ職種の人が集まるMeet up(ミートアップ)などがあります。

外部のイベントは、テーマによって見込み客層がある程度想定できるので、効率よいマーケティングができます。また、広告宣伝を運営企業に任せられる点がメリットです。Salesforce、Google、Workdayなど、米国で注目のSaaS企業のファウンダーやエグゼクティブ、ベンチャーキャピタルが参加するカンファレンス「SaaStr Annual」はオフラインイベントの好例として挙げられます。

同カンファレンスでは、自社事業におけるARR(年次経常収益)を1億ドルに成長させるための実用的なアドバイスやラーニングなどを受けることが可能。SaaS企業にとって、参加する意義が大いにあるオフラインイベントといえるでしょう。

18.講演

スタートアップにとって、CEOや幹部社員の講演は認知度を上げる手っ取り早い手法のひとつです。なぜなら、講演料が無料であっても、多くの人に自社の社名、事業内容を知ってもらえるからです。

さらに、アライアンスを組める企業と出会える、就職希望者と出会える、見込み客と出会える、既存顧客とのリレーションシップを形成できる、投資家に自社を知ってもらえるなど、さまざまなメリットがあります。

リアルな講演は、良くも悪くもオンラインの動画より感情を動かし、来場者に強い印象を与えます。昨今は聴衆に強い印象を与える講演であればSNSで評判が拡散されますので、1日だけの講演であっても、昔より宣伝効果が持続するでしょう。

講演を行う際には、緊急性の高いトレンドの話題をフックにして集客する……、という手段もあります。例えば、2023年3月、4月はOpenAIの「Chat GPT」が話題になり、同年4月25日には日本マイクロソフトの佐藤亮太パブリックセンター事業本部長による「AI新時代の衝撃とチャンス」という講演が開催されました。

およそ150人が参加したという同講演では、Chat GPTのビジネス利用への可能性などについて述べられたとのことです。

このように、トレンドに乗った講演はファクトチェックや準備、集客が大変であるものの、質の高い内容にできれば自社のトラクション獲得に貢献するでしょう。むしろ、意思決定の早さが強みであるスタートアップに向いた戦略といえるかもしれません。

19.コミュニティ構築

製品・サービスのユーザーコミュニティを立ち上げる。あるいは、自然発生的にできたユーザーコミュニティを支援することもトラクションを得る有効な手法です。

ユーザーコミュニティには、顧客エンゲージメントの向上、ユーザー同士で教えあうことによるカスタマーサポート的な側面、ユーザーコミュニティからの意見を既存の製品・サービスの改良や新規事業に活かせるなどのメリットがあります。

ユーザーにとっても、例えばSaaSのように専門知識が必要なサービスは、活用の段階で疑問がわくことも多いでしょう。その一方でユーザー同士なら、企業には直接聞きづらいことでも気軽に聞きやすい点が魅力です。

AmazonのAWS SalesforceHubSpotZendeskなど、短期間で大きく急成長したSaaS企業は、ユーザーコミュニティを支援し続け、顧客との信頼関係を強固にし、ユーザーの意見を事業に活かしながら成長してきたことは間違いありません。

例えば、AmazonのAWSコミュニティ「JAWS-UG」は、AWSユーザーによって運営される集まりであり、ユーザー同士による勉強会やイベントが開催されています。

(出典:JAWS-UG

スタートアップでも、こういったコミュニティを作り上げることで、顧客とのリレーション(関係性)を深めつつ、顧客から得たフィードバックを基にして自社商材をさらにブラッシュアップしていけるでしょう。

トラクションを確立できた際に気を付けること

スタートアップ起業家はトラクションを確立したからといって油断は禁物です。トラクションを確立した後はいくつかの重要な課題に直面することがあります。

具体的には、持続的な成長の維持、ユーザーからの期待の管理、競争の激化などが挙げられ、これらの課題に対処することは、スタートアップが長期的な成功を達成するために不可欠です。ここでは、トラクションを確立できた際に気をつけるべきことを3つ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

持続的な成長へのプレッシャー

トラクションを確立したスタートアップは、成長を維持し続けるという周囲からの期待と圧力に直面します。このプレッシャーに対処するためには、革新的な思考を維持し、市場の変化に敏感である必要があります。例えば、継続的な製品改善や新しい市場への進出など、成長を促進するための戦略を常に模索し続けることが大切です。

また、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れたり、製品やサービスを顧客のニーズに合わせて進化させたりすることも、持続的な成長を実現する上で欠かせません。さらに、適切な人材の確保と育成、効率的な運営体制の構築、そして財務健全性の維持が不可欠です。

このように、トラクションを確立した後は外部からの期待も大きくなりますが、一方で適度なプレッシャーは組織としての成熟と発展を促す機会でもあります。持続可能な成長への道は平坦ではありませんが、適切な戦略と経営のもとで乗り越えることができます。

ユーザーからの期待マネジメント

トラクションを確立したスタートアップは、成長するにつれてより多くのユーザーが参加するようになるため、さまざまな期待の声が寄せられるようになります。さらに顧客のニーズと期待は、スタートアップの成長段階や市場の変化によって進化し続けるため、複雑化は避けられません。

したがって、顧客満足度を維持し顧客ロイヤルティを高めるためには、ユーザーからの期待を理解し、適切にマネジメントすることが重要です。例えば、顧客フィードバックの収集と分析、カスタマーサポートの強化、そして製品の継続的な改善は、ユーザーの期待を適切に管理し、顧客ロイヤルティを高める鍵となるでしょう。

また、スタートアップがトラクションを獲得した際、顧客が製品やサービスに実際にお金を支払うことは、その価値を市場が認めている証拠となります。つまり顧客が満足し、製品に対価を払う意欲がある場合、市場内で価値提供ができていると評価できるでしょう。

競争の激化

トラクションを確立したスタートアップは、市場での注目度が高まるにつれて、競争が激化するという現実に直面することになります。なぜなら、スタートアップが成功を収めることで、新たな競合が市場に参入するほか、既存の競合は自社製品やサービスを改善したり、新機能や技術を導入したりすることで、市場での優位性を高めようとするからです。

この結果、製品やサービスがコモディティ化したり、価格競争に陥ったりなど、市場内で目立つことが難しくなる可能性があります。こうした状況下では、差別化された製品提供、効果的なブランディング、革新的なビジネスモデルを通じて、競争優位性を明確に示すことが求められるでしょう。

また、トラクションがあっても、その成長が持続可能か、競合他社との差別化が十分にできているかなど、「本質的な優位性」を見極め、必要に応じて戦略を調整することが重要です。このように、市場の変化を見極め、競争優位性を保ち続けることは、スタートアップが長期的に成功を収めるための重要な課題となります。

まとめ

スタートアップ企業にいる人なら、トラクションという言葉は耳慣れなくとも、初期の実績が重要なことも、トラクションを得るための手法も知っていることのほうが多いかと思います。

ただし、「知っていること」と「実行して成果を上げること」はまったく別物です。そもそも、実行するためのメソッドは、あまり世の中に出回っていません。そういった意味でご紹介した2冊は、ノウハウや具体的に何を優先してすべきかが書かれているおすすめの書籍です。

今一度、自社がトラクションを生むための手法を見直し、試してみましょう。意外なチャネルが、御社の事業を牽引してくれる可能性があります。