最近は、インターネット上に企業のオウンドメディアがかなり増えました。こちらの記事でも紹介しましたが、成果を上げている企業もあれば、成果が出る前に残念ながら放置...もしくは閉鎖してしまう企業もあります。
企業がメディアを持つ意義はさまざまです。最たるものは、軌道にのれば半永久的なトラフィック獲得、さらにはリード獲得が可能なところでしょう。
しかし、BtoBのマーケティング担当者としては「ニッチで専門的な業界のメディアで、集客が可能か……」「そもそも、当社の見込み客はブログなどで心が動く層か……」「今のようにオウンドメディアが乱立しているときに、後発で出すのは悪手では?」など、さまざまな思いがよぎると思います。
「何かこれという方法はないでしょうか?」と悩んでいる方のために、今回はオウンドメディアの一形態「キュレーションメディア」について考察します。
一時ブームになり、その後のDeNA問題ですっかり下火になったかのように見えるキュレーションメディア。しかし実は、近年結構運営する企業が増えており、そのモデル自体がBtoBに適している面があります。
本記事では、BtoB企業がキュレーションメディアを運営するメリットだけでなく、リスクや考えられる問題点を考察していきます。
キュレーション(curation)とは「収集、整理、公開」という意味です。IT用語では「人手で情報やコンテンツを収集・整理し、それによって新たな価値や意味を付与して共有すること」という意味を持っています。
「キュレーションメディア」とは、簡単に言うと「インターネット上のさまざまな情報を収集し、自社の方針のもと取捨選択、編集して配信するメディア」のことを指します。
オウンドメディアとの違いですが、そもそもオウンドメディアは、「Own=所有する」という意味なので、広義で解釈するとキュレーションメディアはオウンドメディアの一種です。
ただし、オウンドメディア=企業ブログと解釈する場合(現状そう捉えている人が多い)、「オウンドメディア=自社企画のコンテンツを発信するメディア」「キュレーションメディア=他社サイトの情報を収集・編集して発信するメディア」です(自社オリジナル記事も何割か作成するのが最近のトレンド)。
キュレ―ションメディアは「キュレーションサイト」「キュレーションアプリ」と呼ばれることもあります。説明してもわかりづらいと思いますので、代表的なキュレーションメディアを紹介します。
まず、多くのビジネスマンが読んだことがあるはずの「NewsPicks」。国内外90以上のメディアの経済ニュースを配信しています。何かをリサーチしているとNewsPicksの記事がGoogle上位にくることも多いですよね。
NewsPicksは、いわゆる「ニュース特化型のキュレーションメディア」です。記事に著名人や有識者(プロピッカーと呼ばれる専門家の方々)がコメントを投稿するのが特徴で「意識高い系メディア」ともいわれています。
たしかに、錚々たるメンバーのコメントの内容は濃く、読むと啓発されるようなメディアです。会員ユーザー数は約641万人もいます。
一方、ビジネスや趣味など、ある領域に特化したキュレ―ションメディアもあります。
たとえば、スタートアップに関するニュースに特化したキュレーションメディアが「スタートアップタイムズ」。運営しているのは転職サイトなどを運営するディップ株式会社です。
「スタートアップタイムズ」は、国内の約3万件以上のスタートアップ関連ニュースを掲載しています。ソースは企業のプレスリリースや経営者インタビュー。掲載料は無料です。
なんとサイト上の取材フォームに回答するだけで、RPAロボットが自動で記事を作成する仕組みももっています(RPAは自社開発)。もちろん、編集部が最終的にチェックして掲載する流れです。さらに、独自取材記事もあります。
上記2メディアはニュース系ですが、ほかにもファッション系あり、フード系あり、男性向け、女性向けありと、多種多彩なジャンルのキュレ―ションメディアがあります。
インターネット上の情報は、増え続ける一方です。しかも、正しい情報、間違った情報、フェイクニュースなどが混在しており、最近Google検索してもなかなか必要な情報にたどりつきにくくなっています。忙しい現代人は、一つひとつの裏をとる時間もありません。
キュレーションメディアは、情報をメディアの方向性にもとづき収集・選別・編集して配信するメディアです。そのため、ユーザーは知りたいテーマについて効率よく情報収集できます。
また、スマートフォンで情報収集する人が多数派の時代、コンパクトに情報がまとめられ網羅性・一覧性に優れるキュレーションメディアは見やすさ、読みやすさという点でも優れています。
ユーザーにとって知りたいことに、すぐ簡潔に答えてくれるキュレーションメディアは、いわばコンシェルジュ的役割を果たしているのかもしれません。
総務省の公表する「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、「キュレーションサービス 」を利用する人は全体の約16%です。
(出典:総務省)
さらに、令和2年度の同調査では(キュレーションメディアという表記から「スマートニュース、グノシー、NewsPicksなどのニュースアプリ」という表記に変わったようですが)、利用率は19.3%になっており、堅調に増えていることが分かります。
キュレーションメディアの収益を上げる仕組みには以下があります。
収益モデルでもっとも一般的なのは広告です。ただ、上記を組み合わせるケースも多く、前述のNewsPicksは以下のように何種類もの課金パターンを設定しています。
広告料金
会員費
収益を上げることに成功したキュレーションメディアの代表格ですね。
一方、一般のBtoB企業の場合、自社でメディアを持つ目的の多くは、広告収入よりも見込み客企業からの問い合わせ獲得、リードジェネレーションなどにあることが多いでしょう。
前述のスタートアップタイムズには広告料金のページはありません。しかし、運営元のディップ社はRPAコンサルティング事業を実施していますし、AIスタートアップへの投資事業も行っています。
おそらく、スタートアップに特化したメディア(しかも自社開発のRPAを活用してメディアを運営することにより)、自社サービスの見込み客発掘や有望な投資先の発見につなげる意図ではないか、と推測します。
ここでは、一般的なキュレーションメディアのメリットと、ありがちな運営上の問題点を解説します。
キュレーションメディアは、低コストで運用が可能です。
まず、一般的なオウンドメディアの集客・プロモーションコストの相場ですが、以下のとおり10万円以下が中心です。
(出典:オウンドメディア白書2020(集客・プロモーション編)- 株式会社宣伝会議)
キュレーションメディアだと、おそらく、さらに低コストになります。
なぜなら、キュレーションメディアは自社でコンテンツを制作するのではなく、基本的に他社が制作したニュース、情報などのコンテンツを収集・編集・配信するメディアだからです。
当然、制作コストが格段に抑えられます。取材に出かけることもないですし、要約・編集はしますが、そもそも記事制作と要約ではかかる労力が全然違います。一部オリジナル記事があるとしても、大半の記事が外部リソースであれば時間、経費を大幅に軽減できるでしょう。
もちろん、どんなメディアでも予算をかけようと思えば青天井になり、抑えようと思えば相当に抑えられます。
たとえば、ニュース系のキュレーションメディアなら、PRTIMESなどのプレスリリースや主要メディアをソースとして、要約作業をクラウドソーシングなどに外注すれば、低コストで時間もかけずにニュース風の記事が大量作成可能です(品質良し悪しは別として)。
しかも、提携先が多ければ記事の「ネタ」に困りません。自社オウンドメディアの継続が難しい理由の多くに「ネタ不足」があります。この点もキュレーションメディアが運営しやすい理由のひとつです。
キュレーションメディアは、他社のコンテンツを収集し掲載します。自社だけで100記事をアップするのには時間がかかりますが、キュレーションというスタイルをとることで記事をハイペースで増やせます。
常に新しい情報が更新されるため、検索エンジンの評価も高くなり、検索上位に上がりやすくなります。一般的なオウンドメディアより情報更新頻度が高いため、トラフィックが集めやすくなるのです。
ネットメディア全般にいえることですが、取材経費、人件費をかけず記事の検証、法的チェックなど一般の紙媒体が行うような手順を簡略化し、作業を外部に丸投げして運営していると問題が起きやすいのも事実です。
数年前のDeNA事件も、メディアの素人が素人フリーランスに記事を依頼し、適当なチェック体制で運営していたことが元凶です。
DeNA事件は著作権侵害、パクリも問題でしたが、「健康」という間違った情報がときに命にもかかわるテーマで、正しくない情報を配信してしまったことが致命的でした。炎上し、最終的にサイト閉鎖という結末になりました。
最近のキュレーションメディアは、この事件の教訓を踏まえて慎重に運用しているようです。しかし、運営元が自社メディアのテーマに思い入れと責任を持って編集しなければ、このようなことは今後も起こりえるでしょう。
メリットはあるものの、決して安易に取り組んではいけないキュレーションメディア。一般BtoB企業は、果たしてキュレーションメディアを持つべきでしょうか。
結局は、キュレーションメディアを持つ目的が明確か? その目的の手段としてキュレ―ションメディアが適切かによります。
など、目的がはっきりしていればメディアの位置が定まり、運営した後も成功か失敗かの評価を下すことができます。何となくスタートしてしまうと費用対効果の基準すらないため、続けている意味があるのかという感じになりがちです。
実際、専門領域に特化して成功しているBtoBのキュレーションメディアもあります。
EnergyShift(エネルギーシフト)は、エネルギーと気候変動関連のニュースを配信しているキュレーションメディアです。
運営会社は株式会社afterFit。チーム紹介ページの地に足がついた感などは、いかにもBtoBらしく、安心感を覚える人も多いのではないでしょうか。
afterFit社の事業内容は、グリーン電力小売り事業、コーポレートPPA、脱炭素メディア運営等。電力自由化に伴い、さまざまな企業がエネルギー業界に参入し、ものすごい価格競争が繰り広げられているのはご存知のとおりですが、同社は2016年創業以来急成長しています。
もちろん、確固たる企業理念があってのことですが、このメディアが業界内外でのプレゼンスを高めていることがうかがえます。リード獲得への導線も自然ですね。
以下は、2019年に株式会社ベーシックが行ったオウンドメディアに関する調査結果です。運営者がオウンドメディアに期待する1位はリード獲得。2位がブランディング、3位が認知拡大です。
キュレーションメディア単独の調査はないのですが、市場の教育や啓蒙の度合いが強いと考えられるものの、最終的な目的は概ね同じでしょう。
(出典:PRTIMES)
キュレーションメディアをきっかけに自社事業を知ってもらい、信頼度がアップし問い合わせ、売上げにつながれば、製品・サービスの単価が高い企業であれば運営コスト、人件費などあっさりペイできる可能性はあります。
前述のディップのように、自社メディアと投資事業をリンクさせ、有望な投資先が発見でき投資に成功すれば、メディア運営費用などとは比較にならない大きなリターンがあるでしょう。
ポイントは、オンライン上の見込み客層のボリューム、製品・サービスの価格帯。まずは、見込み客のペルソナ次第というところです。
また、自社の成長フェーズもポイントです。PMF(プロダクトマーケティングフィット)以前に持つと、労力の割に成果に結びつきません。メディアに手を出すよりも、BtoBの鉄板コンテンツの導入事例、セミナー、ウェビナー情報などを自社サイトに拡充すべきです。
最後に、運営できる人材がいるかどうかも重要です。今はキュレーションメディア運営用のツールも登場しており記事収集面、SEO施策の労力はかなり軽減できますが、AIを活用してもメディアにオリジナリティは必要です。
noteにも書きましたが、担当者にはWebの基本知識、SEOやCMSの知識、スプレッドシートの関数の知識ほか幅広い知識が求められ、残念ながらそういう人材は希少です。
比較的簡単に立ち上げることができ、運用コストもあまりかからないキュレーションメディアですが、何となく始めて結果が出る甘い世界でもありません。この3項目にYESと言える段階になってから考えても遅くないでしょう。
キュレーションメディアは情報の網羅性、視認性が高く、スマートフォンでも読みやすいため、今の時代にぴったりのメディアです。自社以外の情報を収集して編集するため、毎回ネタを探したり、取材してコンテンツを制作したりする労力もかかりません。
しかし、だからこそ一部のキュレーションメディアが問題を起こしたり、多くのキュレーションメディアがユーザーを増やせずクローズしてきました。簡単に情報を集めておまとめ風のサイトを作っても早晩ユーザーにあきられてしまうからです。
他社の制作したコンテンツを扱うキュレーションメディアだからこそ、メディアのテーマや編集方針に対する思い入れの強さ、メディアとしての「矜持」が必要です。キュレーションメディアを立ち上げるときは、本気で挑戦しましょう。