スタートアップやベンチャー企業を率いている方、あるいは働いている方なら、大きな挑戦をしたい気持ちをもっている方がほとんでしょう。しかし、いざ事業に参画すると人も金もモノもたりません。イメージとは違い、ないないづくしで苦しいのがスタートアップの実態かと思います。なにしろ挑戦するにもリソースが必要です。
だからこそ、企業を成長させるために賢いアライアンス戦略が不可欠。素晴らしい商品を持っていてもそれを広める力が足りないときには、営業が得意な企業と手を組んでみましょう。もし、革新的なアイデアを持っているなら、組織力のある大企業と連携してそのアイデアをさらに大きなものに育ててみるのもひとつの方法です。
この記事では、ビジネスアライアンスの種類と特徴、ビジネスアライアンスのメリット・デメリット、アライアンス成功のための鍵を紹介します。
アライアンスは英語で「同盟」「連携」という意味です。ビジネスアライアンスは、企業同士の業務提携や戦略的同盟という意味であり、ひらたく説明すると企業同士が協力して事業を行う経営手法です。
アライアンスは互いにメリットがある組み合わせです。元請け・下請けのような上下関係ではなく、企業同士がイコールパートナーという形で事業を行います。
強みを活かして新しい機会を探したり、リスクを分け合ったりすることが目的です。企業同士が協力し合うことで、一社で取り組むよりも大きなテーマ、難しいミッションに挑戦できます。
やや古いデータですが、2015年にNTTデータ経営研究所が国内1206社に調査した「企業のイノベーション・企業間アライアンスに関する動向調査」を見ると、約41%の企業がアライアンスを実行しています。
アライアンスの目的には、以下のように短期的な売上げ増加につながる内容が上位にあげられています。
アライアンス目的の上位
結果については 「全てあるいは多くのケースで期待以上の成果が得られた」と回答した企業が32.7%。成功率3割というところでしょうか。しかし、54.8%の企業が「一部のケースで期待以上の成果が得られた」と回答するなど、比較的成果をポジティブに捉えています。
(出典:「企業のイノベーション・企業間アライアンスに関する動向調査」-NTTデータ経営研究所)
アライアンスパートナーとは、同じ目標に向かって業務提携の契約を交わした相手企業のことです。アライアンスには目的があるため、アライアンスパートナーの種類も多様です。
以下のような領域のアライアンスパートナーが存在します。
アライアンス営業は、自社とパートナー企業が協力してお互いに営業活動することです。お互いに営業しあうケースもあれば、営業部門をもたない企業が他社にアライアンス営業を委託するケースもあります。
商品を提供する側は、セールスパートナーの営業活動の支援をするために、プロダクトを販売するノウハウのトレーニング、商談同席、セミナーやキャンペーンの企画などを実施します。
アライアンス営業は市場拡大に適しており、パートナー企業がすでにその市場で基盤を築いている場合、その顧客網に商品を拡販できます。また、アライアンスパートナーを介して新規市場の特性や顧客のニーズを迅速に理解できるでしょう。
ビジネスアライアンスとM&Aは、企業間の関係性、独立性に違いがあります。
M&Aは、ひとつの企業が別の企業を買ったり(Acquisition)、二つの会社がひとつになったりする(Merge)ことです。買収では、買われた企業は買った企業の一部になります。合併は二つの会社が一緒になって全く新しい会社を作ること。それぞれの会社がなくなって新しい企業に生まれ変わります。合併の場合、力の強い企業が主体の組織になります。
一方、ビジネスアライアンスはそれぞれの会社が独立したまま、合意にもとづいて協力関係を築くことが可能です。一般に特定のプロジェクトや目的のために、期間を決めて力を合わせます。相手企業の株式を所有する必要のない業務提携がもっとも多い形態です。
資本提携をする場合もありますが、アライアンスの場合は対等な関係性を目指し株を持ち合ったり、共同出資して合弁会社を設立したりします。また、合弁企業を作った場合も元の2社は存続したままです。
M&Aは「2社が合体してひとつの会社になること」であり、アライアンスは「協力する関係性」であることが違いです。
アライアンスの種類ごとの特徴について詳しく見ていきましょう。アライアンスの種類を大別すると「業務提携」「資本提携」「技術提携」があります。
業務提携は、特定のプロジェクトや業務分野で協力するための合意です。比較的簡単に始めることができる柔軟さがあり、短期間に集中した協力関係を築けます。
たとえば、A社とB社が特定の製品の共同開発やマーケティングに協力することに合意します。失敗した場合でも、損失は限定的です。さまざまな業界、領域で実施しやすく、特に迅速な市場対応や技術開発が求められる場合に効果的です。
資本提携は、企業間で株式や出資を交換することで、経済的な結びつきを強化する方法です。お互いに相手の株式を購入するケースと、一方の企業のみが出資するケースがあります。
資本提携は、両社がより深い結びつきを必要とする場合や、長期的な協力関係を築く意思がある場合に適しています。業務提携よりも時間とリソースを要することが多いものの、提携の安定性や深さが重要視される場面で好まれます。ジョイントベンチャーという形態で独立した新会社を設立して、特定の事業目的を目指すこともあります。
技術提携とは、企業が技術的な知識やスキルを共有するために行うパートナーシップのことです。異なる企業間のアイデアや技術の交流がイノベーションを促進するので、新たな製品の開発、改善、市場競争力の向上につながります。主な形態は以下の通りです。
企業が共同で研究開発を行うこと。各企業は研究開発コストを分担し互いの専門知識やリソースを共有します。異なる背景を持つ企業間の協力により新しい発見を生み出します。新しい技術や製品開発において、それぞれの企業が異なる専門分野を担当します。
一方の企業がもう一方の企業に特定の技術、特許技術やソフトウェアの使用権を提供すること。ライセンスを受けた企業は特定の技術を使用して製品を製造したり、サービスを提供したりすることができます。
2社以上の企業が互いに技術を交換すること。企業は自社では持っていない技術を得ることで新しいビジネスチャンスを探求することができます。SaaSなら、APIの統合や共同でのプラットフォーム開発などが該当します。
(出典:総務省)
ビジネスアライアンスによって成長した企業の話と同じ程度に、アライアンスに失敗した話は珍しくありません。大規模な提携になるほど大きなメリットがある一方、失敗すると事業存続にかかわるデメリットが生じることもあります。
ビジネスアライアンスは、新製品の開発、マーケットシェアの拡大、コスト削減などのさまざまな効果があります。
アライアンスによってお互いの顧客基盤を共有することで、新たな市場へのアクセスができます。特に異業種の企業と提携すれば、これまでの市場とはまったく異なる顧客層へのリーチが可能です。
わかりやすい例では、初めて進出する海外の国であれば、現地の有力企業とアライアンスを組むと、その国の人たちから信頼を得られ事業が軌道にのる確率が高まります。
例:
ビジネスアライアンスによりお互いが知識や技術、資源を共有し合うことができます。
たとえば、ベンチャー企業は大企業と組むと、資金、人材、技術、流通網などの豊富な資源にアクセスできるため、製品開発や市場拡大を加速できるでしょう。また、大企業から経営戦略、法規制対応などの知識を学べます。
大企業側は、ベンチャー企業と組むと革新的なアイデアや最先端技術を活用し自社の製品やサービスを革新し、競争力を維持することが可能です。また、ベンチャー企業は柔軟性とスピード、アジャイルな運営から、新たな事業モデルや市場のトレンドへ迅速に対応する方法を学ぶことができます。
このように企業同士が、互いの持つリソースを活かすことで相乗効果が生まれます。
他社のリソースを活用できるため、商品開発も市場拡大も一から自社でその領域を立ち上げて軌道にのせるより、はるかにスピーディに行え、短期間での収益を上げられます。
特にセールス領域に顕著です。提携するとその月からパートナーの営業ネットワークを利用することができるため、新しい市場に迅速に商品を展開し、営業による収益化を早めることが期待できます。
双方が、相手企業の製品やサービスを自社顧客に販売する「クロスセリング」を行う場合、お互いが信頼関係を構築している既存顧客に対して営業するため、2社とも収益が上がりやすくなります。
パートナーのリソースを活用できるため、自社での研究開発コスト、営業コスト、調達コストなどを削減できます。
研究開発を共同で行えばかかる莫大な投資コストを互いに分担できます。セールスパートナ―と提携することで、営業担当者の人件費や販売促進、プロモーションを極力おさえたかたちで、営業網を広げることが可能です。
サプライチェーンパートナーシップを結び、他企業と共同で原材料の同じ企業から調達を行えば、注文量に応じてサプライヤーに大幅な割引をしてもらえるため、どの企業もコストを節約できます。物流センターや配送システムを共有することにより、配送コストを削減し、効率的な商品の流通を実現することも可能です。
新規プロジェクトの確率は10%程度だと言われます。既存市場でなく新市場に進出する際はさらに難易度が高くなるでしょう。
そのエリア、その市場に精通している企業とアライアンスを組むことで、このリスクを軽減できます。また、技術開発や研究というのも成功率が低い世界です。アライアンスを通じて多様な知見を結集させることで、失敗のリスクを下げることになります。
ビジネスアライアンスは、自社だけで事業に取り組むときに必ず発生する試行錯誤のプロセス、犯しがちなミス、成功までの工程に起きる苦難、トラブルをある程度ショートカットできるメリットがあります。
仮に失敗してもプロジェクトのコストとリスクを共有しているため、単独で負うよりもリスクを減少させることが可能です。
アライアンスを組む企業のブランドが、自社のブランド認知にポジティブな影響を与えます。
たとえば、知名度の高い大企業とのアライアンスは、無名企業のブランドイメージを高めます。一方で、大企業もベンチャーやスタートアップと提携することで、保守的ではないイノベーティブでダイナミックな印象を社会に与えることができるでしょう。
環境に配慮した製品を開発している企業と提携することで、環境に優しい企業というブランドイメージが強化されます。
そのため、提携する際は相手の技術力や販売力だけでなく社会的評価、保有しているイメージもリサーチすることが大切です。
ビジネスアライアンスは上手くいかないこともあります。企業のカルチャーの違いから対立が生まれることもありますし、事業が成功してもトラブルが起きることもあるでしょう。相手に取り込まれてしまうことすらあります。
企業のカルチャーやモチベーションが違う、対等ではないどちらかが優位にたっているなどの理由で、プロジェクトがスムーズにいかないこともあります。
参加企業間で優位性が異なると、モチベーションのバランスが崩れることがあります。暗黙の世界で上下関係があり、どちらかが動かされている意識になりやすいからです。
また、アライアンスから得られる利益が片方の企業に偏っている場合、もう一方の企業のモチベーションやコミットメントが低下しがちです。
モチベーションの表出方法が違うことから、誤解を招くこともあるでしょう。企業文化によってコミュニケーションのスタイルは異なります。たとえば、アグレッシブな感情を表出しやすいカルチャーの企業が、クールな感情表現が好まれるカルチャーの企業と組むと、相手の反応をモチベーションがないと誤解しやすいかもしれません。
企業の組織構造、コミュニケーションのスタイルや意思決定のプロセスは意外に異なります。裁量権の幅も企業それぞれでしょうし、組織の判断のスピードも異なるものです。
言葉の定義の違いもよくあり、同じ用語でも異なる意味を持つことがあります。これらが誤解を招き、コミュニケーションの障害となることがあるのです。
提携して初めて気づくようなことも多く、スタートしてから互いを理解するまで時間がかかります。誤解や対立を引き起こすこともあるでしょう。
たとえば技術開発においては、専門技術の流出リスクがあります。先行している企業、特に独自の技術や市場を確立している場合、アライアンスをきっかけにその独自性が薄れることが懸念されます。
通常の取引でもよくあることですが、内製化という名目で取引企業から得た知見をもとに自社サービスを作ってしまうケースもあるかもしれません。オープンイノベーションのリスクとしてもよく指摘される点です。
営業についても同様です。理想的な営業組織のあり方、マネジメント、営業トークなどは技術開発の世界よりも真似しやすい面があります。
アライアンスは一定期間の協力体制なので、競合になる可能性が低い企業とアライアンスを組むことが理想でしょう。
何かトラブルが起きて顧客に不満が生じると、両パートナーとも評判が失墜するリスクにさらされます。たとえば、ビッグモーター事件は取引先の保険会社にもマイナスのイメージを与えました。
同業の中古車販売店「ガリバー」を運営しているIDOMにいたっては、「資本提携や業務提携の事実は一切ない」とコメントを発表する必要に迫られたほどです。このように不祥事を起こす企業と提携すると、それまで培ったブランドイメージを低下させるリスクがあります。
アライアンスにおいては、お互いの強みを生かしあえるパートナー選びが重要です。そのため、自社の強みと弱みをまず明確にしましょう。そのうえで自社の弱みを補完できる候補企業を探します。
アライアンスパートナーを見つける方法には、自社のHPでの告知や既存のビジネスコネクションから広げる方法と、以下のように外部のチャネルを利用して募集する方法があります。
どのようなアプローチであっても、自社のビジョンを強く打ち出すことが大切です。役割的な部分が相互補完的なことは大前提。そのうえでビジネスに対する考え方が近くないと、パートナーシップはうまくいきません。
前述のNTT経営研究所のレポートでも、どのような相手とアライアンスを組むことが成功要因かという問いに、成功している企業は「アライアンスの目的が一致している」 「自社にない優れた経営資源を保有している」「ビジョンが似ている」と回答する傾向があります。失敗要因も「目的の不一致」が1位です。
アライアンスパートナーに提示する条件をまとめます。アライアンス形態によって多様ですが、何をいつまでに依頼して、どのような成果を出してほしいか基本の軸を検討することが必要です。
アライアンスパートナーに求める目標、期待値を摺り合わせます。ここは、非常に重要なステップです。雇用関係とは異なり、アライアンスではどのくらい動いてもらえるかは相手の意志や優先順位によって決まるところが多くなります。
相手先企業も、初めて組む企業とは慎重にビジネスを運ぼうとする傾向があります。
ここをあいまいにせず、きちんと言語化してお互いが合意しないと、アライアンスがスタートしても、ゆっくりしかことが運ばず期待はずれの結果に終わりかねません。
目的に合意したら、アライアンスパートナーと以下の内容をまとめましょう。
アライアンスがスタートしたら適切な頻度でコミュニケーションをとりながら、進捗を確認し定期的に成果を検証し、PDCAを回していきます。
ここでは技術提携の例、業務提携の例、資本提携の例を紹介します。
(出典:https://www.salesforce.com/jp/campaign/apple/)
米Salesforceは米Appleと連携し、モバイルビジネスアプリケーションの開発で戦略提携しました。
もともと、Appleの創業者 スティーブ・ジョブス氏は、セールスフォースのCEO マーク・ベニオフのメンターだったとのことなので、アライアンスにいたるアプローチは経営者同士の交流からスタートしていることになります。
BtoB SaaS市場でトップシェアと開発エコシステムを持つSalesforceと、BtoC市場で圧倒的なブランドを持ち同じく開発エコシステムを持つAppleのアライアンスは、購買者の異なる新市場に互いがアプローチできるメリットがある例として参考になります。
(出典:伊藤忠商事)
2024年3月、伊藤忠商事とボストンコンサルティングがDX支援を手がける合弁会社を設立しました。これは、近年のDX支援というドル箱ニーズに対し、商社と世界的コンサルティングファームがタッグを組んだかたちです。
新聞記事にもアクセンチュアへの対抗策と書かれているように、昨今の国内コンサルティング業界においては、これまでBIG5にも入らないいわば中堅ポジションであったアクセンチュアが台頭し、大型のプロジェクトを次々と受託しています。
これは、DX領域の実行支援までできるアクセンチュアの強みが、戦略系コンサルファームよりも日本の企業から支持されているからでしょう。
今後、経営コンサルティングにおいてもデジタルが必ず絡んでくるため、大手といえども戦略系だけで勝負すると、日本のようにITリテラシーが高くない企業が多い市場での受注は難しくなることは想像に固くありません。
ここで、グループ企業に伊藤忠テクノロジーソリューションなどのIT企業を持つ総合商社とアライアンスすることは、ボストンコンサルティンググループのブランド認知を高めるでしょう。伊藤忠商事にとっても、自社顧客に世界的な戦略ファームの知見を提供できることはメリットです。
(出典:GoPro)
2016年にアクションムービーカメラGoProとエナジードリンクメーカーのRed Bullが複数年の独占グローバルパートナーシップを締結しました。アライアンスには、コンテンツ制作、配信、クロスプロモーション、製品イノベーションなどが含まれます。
Red Bullが提供する世界各地でのイベントでは、 GoPro カメラのみが使用されるようになり、良好なパートナーシップが現在も続いています。
Red Bull と GoPro は、イベントを提供する企業とスポーツイベントを楽しむ人が使うツールを提供する企業という、同じ市場の近い立ち位置にあり、それぞれの企業が熱狂的なファンを持っていました。
GoproのCEOが「両企業は世界にインスピレーションを与え、人々により素晴らしい人生を送って欲しいというヴィジョンを共有しています」と語っているように、ヴィジョンが共通していることもアライアンスの成功に大きく影響しているでしょう。
ビジネスアライアンスといっても、小規模な業務提携からお互いに出資して会社を作るようなアライアンスまで規模も形態もさまざまです。どんな企業であっても、自社の組織力を踏まえて適切なアライアンスパートナーを探すことは可能です。
もちろん、アライアンスにはリスクも伴います。「だまされた」「ぱくられた」「利益をもっていかれた」などの話は珍しくありません。もちろん本当にそのような場合もありますが、多くは事前のコミュニケーション不足が要因です。
しっかりリサーチして自社と目的が一致するパートナー企業を探し、契約前にお互いの役割や期待値を明確にして、決めるべきことを決めればそのようなリスクを軽減できます。
自社だけで行うよりリスクが低く、うまくいけば相乗効果による大きなリターンがあるのがビジネスアライアンス。自社が伸びるチャンスを逃さないためにも、真剣にアライアンス戦略に取り組むことをおすすめします。