アメリカにおける携帯電話の普及率は2020年において97%を超え、スマートフォンの普及率も85%に達しており、わずか35%だった2011年から10年足らずで、今やビジネスのマストアイテムと化しています。
日本においても同じく、街のあちこちで携帯端末を使いSNSを利用している人を多く見かけるようになり、ビジネスを展開する企業にとってもSNSの活用の重要性が増してきています。
とはいえ、自社に合ったSNSの活用方法が見出せず、SNSの優先度を低いままとしている企業もまだまだ多いのではないでしょうか?
そこでこの記事ではSNSの市場規模、職種別のSNS使用の特徴を解説した上で、BtoB企業がSNS活用を重要視すべき理由について述べていきます。最後にBotB企業のSNS活用の成功事例も紹介しますので、自社のマーケティング活動に取り入れられる点があればぜひお役立てください。
まずはSNS市場の規模感を統計で見て、その重要性を考察していきましょう。
世界的統計調査会社であるStatista社による統計では、2020年1月時点でのSNSユーザー数は全世界で360億人以上で、2025年には441億人に達すると言われており、いかにSNSが市場として急速に発展しているかがわかります。
また平均的なユーザーが1日のうちSNSを使用している時間は2020年時点で147分、2015年に比べ30分(25%)増加。1日の生活におけるSNSの重要性は日に日に増しています。
(出典:Hootsuite)
主に使用されるSNSプラットフォームについては米Hootsuite社が統計をとっており、2022年1月時点でFacebookとYouTubeがダントツの1位2位です。ただ、ユーザー数ではFacebookが29億人、YouTubeが25億人と、1位2位でも差があります。
(出典:Insider Intelligence)
プラットフォームごとの成長率でみると、TikTokはアメリカで2019-20年でユーザー数を87.1%、2020-21年でも18.3%増加させ、トータル787百人に達しており、今後も急成長が見込まれるプラットフォームとなっています。
どのデータを見てもSNS市場が近年急成長を遂げていることは明らかで、SNSを活用したマーケティング手法はBtoC・BtoBに関わらず今後大きなトレンドとなっていくことでしょう。
次に、各職業や企業ごとのSNS使用の特徴について解説していきます。
SaaSなどのBtoBプロダクトを提供する場合には、BtoBマーケターが主なターゲットとなり得ます。
Statista社のリサーチによると、SNSマーケティングを実施しているBtoB企業のマーケターのうち、93%がFacebookを、また78%がInstagramを使用しているとされています。これは、単純に多くのマーケターがFacebookやInstagramに大きな期待を寄せているという点はもちろん、彼ら自身がそれらのプラットフォームを見ている時間も長い、ということを同時に意味しています。
BtoBマーケターをターゲットとする場合、彼らがマーケティング施策を打ち出す可能性の高いFacebookやInstagramを中心にこちらもマーケティングを仕掛ける、といった戦略も考えられるかもしれません。
BtoBビジネスにおいては、相手企業の購買担当者がキーパーソンになるケースは多いでしょう。ここではBtoBバイヤーを世代別に細分化し、SNS使用の特徴を解説します。
ミレニアル世代とは、1981-1996年に生まれた世代のことで「Y世代」とも呼ばれます。幼少期から青年期にIT革命を経験しており、以前のX世代に比べ格段にデジタルに親しみがあるのが特徴です。
ビジネステクノロジーの分析を行う米TrustRadius社によると、すでにミレニアル世代はアメリカの労働人口の35%、テック系BtoBバイヤーの約60%を占めている、といわれています。
欧州最大のマーケティングサイトであるThe Drumによると、ミレニアル世代のBtoBバイヤーのうち85%はSNSでプロダクトリサーチを行っており、そのソースはFacebookとLinkedinが多くを占めているようです。
Z世代とは、1996-2015年に生まれた世代のことで、物心ついた時にはすでに周りにIT技術が普及していた、生まれながらのデジタルネイティブであるという特徴があります。
Z世代はミレニアル世代の次の世代ですが、すでにアメリカでは労働人口の25%を占めています。その消費力も凄まじく、McKinsey&Company社によるとZ世代の消費力はアメリカ単体で約3,500億ドル、全世界では全体の40%にも昇るといいます。
SNSへの依存度もミレニアル世代より高く、World Economic ForumによるとZ世代の1日の平均SNS使用時間は2時間55分で、ミレニアル世代の2時間38分より15%長いとされています。
ミレニアル世代、Z世代ともにすでにBtoBバイヤーの多くを占めており、SNSが彼らの購買における意思決定において、重要なポジションにあることは明らかです。既存の世代がどんどん世代交代していくにつれて、これらの世代に対するSNS施策の重要度も比例して高くなっていくと考えるのが自然でしょう。
ここまでは全体的なSNS人口の統計をもとに、SNS活用の重要性について述べてきました。ここからはBtoB企業がSNSを活用することのメリットや、効果に焦点を当てて解説していきます。
BtoB企業がSNSを活用することのメリットのひとつは、SNSでの施策がカスタマージャーニーでの認知段階の潜在顧客を取り込むのに相性が良い、という点です。
カスタマージャーニー(マップ)とは、潜在顧客が自社の製品を購入するに至るまでの体験や軌跡を道筋立てて考察したものをいいます。
潜在顧客がどのような問題に直面し、どのように製品を検討し、どのように購入を決断するのかを正しく理解することで、企業が打ち出すべき施策や戦略の方針を決めるのに役立ちます。カスタマージャーニーについては、こちらの記事でも紹介していますので、ぜひ一読ください。
(出典:HubSpot)
カスタマージャーニーには企業形態や扱う製品によってさまざまな形がありますが、HubSpotでは基本的な形として、「Awareness:認知」「Consideration:検討」「Decision:決定」の3段階のステップに分類する方法を紹介しています。
HubSpotの別の記事によると、企業のSNS活用が最も効果を発揮するのが、このうち「認知段階」です。認知段階にいる人々の約54%がSNSを通して問題解決のための製品を探しており、27%がそれまで知らなかった新商品をSNSでの広告を通じて認知している、というデータも示されています。
潜在顧客が自社製品の購入に至るまでのカスタマージャーニーを正確に把握し、その導線上のSNSに自社製品に関するコンテンツをうまく配置することができれば、自社製品の認知拡大に大きな効果が期待できそうです。
BtoB企業がSNS活用に期待できる効果のふたつ目は、企業認知(ブランディング)に繋がる、という点です。先述の製品認知拡大と似ているのですが、前者は製品に対する中期的なリード獲得という側面を強く持つのに対し、こちらは長期的な企業やブランドのイメージ確立という側面を強く持ちます。
(出典:The Branding Journal)
例えば、上の図は全て飲料水のブランドですが、各ブランドに対して抱くイメージは微妙に異なっているのではないでしょうか?
あくまで一例ですが、「evianは健康重視」「Perrierは爽快感がありお洒落」「Fijiは天然水でミネラル豊富」などなど……、ブランドが消費者に与えるイメージはさまざまですが、その多くは企業のブランドイメージ戦略に基づくものであるケースが多々あります。
このように「〇〇といえば◆◆」のようなポジション獲得による指名検索の増加も、BtoB企業がSNSに望める効果のひとつです。
(出典:Hootsuite)
Hootsuiteでは、インターネットユーザーの約4人に1人(27.6%)が新しく企業やブランドを認知したきっかけとして、SNS上の広告を挙げています。特筆すべきは、SNSの数値が企業やプロダクトのウェブサイト訪問を上回っている点です。
このデータ単体で判断すると、企業サイトのコンテンツを充実させるより、SNSを活用した方がブランド認知の期待値が高くなるのでは? とも取れます。もちろん一概には言えませんが、これまでSNSに注目していなかった企業も、今後自社ウェブサイトと同等もしくはそれ以上にSNS施策を重要視すべき理由のひとつにはなりそうです。
注意すべきは、前述した製品の認知拡大を行うコンテンツと、ここで解説した企業ブランディングはSNSに投稿する際にアカウントを分けた方がよいという点です。
両者の目的が異なること、また日本では特に会社名と製品名が異なるケースが多いことが主な理由です。例として、SNSに投稿するコンテンツは、前者はオウンドメディアのアカウント、後者は企業(ブランド)のアカウントとすると、内容がちぐはぐになりにくく、一貫したブランディングができるでしょう。
SNSプラットフォームを使用したマーケティングの強みのひとつに、オフラインやウェブサイトを活用した施策と違い、SNSプラットフォーム上にはすでに多くの人が滞留している、という点があります。
(出典:Hootsuite)
自社ウェブサイトを新設して一からアクセスを稼ぐのとは違い、著名なSNSプラットフォームは既に膨大な量のユーザーを抱えており、常に誰かがアクセスしている状態が保たれています。
Hootsuiteのリサーチによると、一般的なAndroidユーザーは1カ月平均で23.7時間をYoutubeに、19.6時間をFacebookに、そして19.6時間をTikTokに費やしているそうです。睡眠時間を差し引いたら、1カ月のおよそ1/4、約1週間は何かしらのSNSを見て過ごしていることになります。
極端ですが、自社サイトを1週間眺めてくれる顧客がいるだろうか? と考えるとその凄さが際立つのではないでしょうか?
また、SNSではプラットフォーマー側がマネタイズのために、さまざまな仕掛けや改善を絶え間なく行なっていることも重要な点のひとつです。Youtube Shorts AdsやInstagram Stories Adsなど最近トレンドとなっているショート動画を活用した広告もその例と言えます。こうしたプラットフォーマー側が打ち出す仕掛けも、BtoB企業としては利用しない手はありません。
ここからは実際にSNSをうまく活用しているBtoB企業の事例を、海外と国内の事例に分けて紹介していきます。どのような企業が、どのような目的で、どのようなSNSを使用し、またなぜそのSNSを使用しているのか? といった点に焦点を当てて見ていきましょう。
SNSを駆使しているBtoBブランドで、HubSpotの事例は欠かせないでしょう。
HubSpotはLinkedinなどを中心に、業界のトレンドとなり得る情報やリサーチ、リーダーシップに関するトレーニング記事などをコンスタントにアップしています。BtoB企業のマーケターや営業向けのトレンド情報のシェアやアドバイスを中心に行うことで、それらの業界知識の引用元としての信用度を上げ、いわば「必読書」的な地位を勝ち取っていると言えます。
BtoBマーケティングで大きな効果が期待できるとされ、多くのマーケターが使用するLinkedinを主なプラットフォームのひとつに選んでいるのも、マーケターをターゲットとしているHubSpotならではの非常に理に適った戦略と言えます。
(出典:everyonesocial)
また、各投稿で図のように読者に疑問点や議題を投げかけるといったアプローチも特徴的です。これにより読者はコメントで自らの意見交換を行うようになり、さらにそのコメントにはHubSpotからの返答がスピーディに返されます。
そのため、各記事でHubSpotを中心とした「寺子屋」のようなセミナー的コミュニティが出来上がり、これもHubSpotの「ビジネス必読書」的なブランド認知を広めるのに一役買っているポイントのひとつでしょう。
宿泊施設やレストラン、観光名所の体験談や口コミ、価格比較を提供するTripAdvisorも、SNSをうまく活用している企業のひとつです。
TripAdvisorは自社のTwitterアカウントを所有しており、そのフォロワー数は2022年4月現在で約300万人にものぼるメジャーアカウントです。Twitter上ではお得な宿泊情報など主に宿泊者向け(BtoC)の発信を行なっていますが、それにより宿泊者のみならずホテルオーナー側(BtoB)の同時獲得をも図っているので、事例として紹介いたします。
(出典:Twitter)
ホテルオーナー側もTripAdvisorに特集してもらうことで注目が集められるため、図のように自らTripAdvisorの投稿を拡散し接触機会を増やしていく中で、TripAdvisorのビジネスプランへの登録を検討させるのが狙いでしょう。
さらにニクいのが、SNS上で公開される画像のほとんどに自社のロゴと「Certificate of Excellence(エクセレンス認証)」の文字が刻まれている点です。これにより画像が拡散されればされるほどTripAdvisorの「上質なサービスとホスピタリティを提供」というブランドイメージが同時に育っていくといった仕組みが出来上がっています。
(出典:Twitter)
またTripAdvisorはTwitter上で、自社のサステナビリティ活動についても投稿を重ねています。上図のような昨今のウクライナ情勢に対する募金活動の投稿は、Twitterを活用した健全なブランドイメージの獲得に大きく貢献する成功例と言えるでしょう。
NEC(日本電気株式会社)は国内、住友グループの大手電機メーカーです。1899年から続く老舗メーカーですが、SNSをうまく活用し自社のPRを行なっています。
(出典:Facebook)
NECはFacebookに自社の公式アカウントを所有しており、Facebookのフィード機能を利用しビジネス層向けに自社の広報や展示会・キャンペーンの告知、自社が誇る高い技術力のPRや社員のインタビュー記事などを発信しています。
フォロワー数は2022年4月時点で10万人以上と、BtoB企業アカウントとしてはかなり多くの読者を獲得しているアカウントです。前述の通り、ビジネスシーンでの利用者が多いFacebookをプラットフォームに選んでいるのもポイントでしょう。
他事例と同じくFacebook上への投稿は、基本的に自社オウンドメディアへの流入経路となっていますが、異なるのは誘導先のメディアで取り扱われるトピックの規模感です。
一個人が抱えるビジネスの悩みを解決する、というよりは「安全な都市〜明日とその先の未来を見据えて〜」や「地域循環共生圏とは?〜環境省・事務次官に聞く、ローカルSDGsの挑戦〜」といった圧倒的なスケールのトピックを、各界の著名人や専門家を集め議論するといった記事が目立ちます。
NECほどの大企業だからこそ成せる力技ですが、フォロワー数が示す通りブランドの信用度は非常に高く、NECの企業理念に賛同し同じくビジネスの更に先を見据えた、おそらくは企業上層部の潜在顧客を多く取り込むことに成功しています。
SNS市場は今やすでに莫大な規模にまで発展を遂げており、世代ごとのユーザー数や使用率の統計を見ても、今後数年のうちに市場規模を更に拡大していくことは容易に想像がつくかと思います。
各SNSプラットフォーマーも急速に規模を拡大させており、その力を利用した自社の製品認知の拡大、企業ブランディングなどBtoB企業が享受できる恩恵の規模も今や無視できないものとなっています。
SNSはちょっとよく分からない……と二の足を踏んで市場の変化に乗り遅れることがないよう、自社のSNS活用の優先度についてこの機会に改めて見直してみてはいかがでしょうか?