ペルソナとターゲットの違いとは? ペルソナとターゲットの事例とそれぞれの重要性を解説

2024/01/25
BtoBマーケティング ペルソナ ターゲット ペルソナとターゲットの違いとは? ペルソナとターゲットの事例とそれぞれの重要性を解説

マーケティングの効果を最大化する鍵は、深い顧客理解とその理解に基づいたパーソナライズされたコミュニケーションといっても過言ではありません。しかしガートナーの調査によれば、企業のデジタルマーケティングを担当するマネージャーのうち63%が「顧客に合わせた体験を提供することに苦労している」と回答しているのです。

「ペルソナ」は顧客理解を深めるための有効なツールです。ただ、その概念を「ターゲット」とどう区別し、実際のマーケティング戦略にどのように適用すべきかについて、多くのマーケティング担当者が混乱しているのではないでしょうか。

この記事では、ペルソナとターゲットの違いを具体的な事例を用いて明確にし、両者がマーケティング戦略においてなぜ重要なのかを詳しく掘り下げます。この内容を理解することで、ペルソナとターゲットの概念をしっかりと把握し、より戦略的にそれらを活用できるようになるでしょう。

ペルソナとターゲットの定義と事例

ペルソナとターゲットは、一見すると似ていながらも、重要な違いがある概念です。まずはペルソナとターゲットの定義と事例を見ていきましょう。

ペルソナの定義と事例

ペルソナとは、自社商品やサービスの顧客像です。半架空の人物像ながらも、ひとりの顧客の姿を思い浮かべられるまで、具体的かつ詳細にプロファイルを設定するのが特徴です。具体的には、下記項目を設定します。

【基本情報】

  • 名前、年齢、性別、職業、地域

【背景】

  • 学歴、職歴、家族構成、収入

【目標と動機】

  • ペルソナが達成しようとしている主要な目標、それを達成しようとする理由

【課題と問題点】

  • ペルソナが直面している問題や困難

【購買行動】

  • 製品やサービスを選ぶ際の決定要因、情報収集の方法

【コミュニケーションの好み】

  • 好まれるコミュニケーションチャネル、情報収集の媒体

理想的な顧客をモデルにしたペルソナの作成が一般的ですが、自社に合わない顧客をモデルにした「ネガティブペルソナ」の作成も同様に重要です。ネガティブペルソナは、自社の製品やサービスに適さない、あるいは望ましくない顧客のこと。これは質の低いリードの創出を避け、営業およびカスタマーサポートの効率を高めるのに役立ちます。

それでは、ペルソナとネガティブペルソナの事例を見てみましょう。

ペルソナの事例

佐藤健太さんは、中規模IT企業で働く熱心なITマネージャーです。限られた予算の中で最適な技術ソリューションを見つけ、チームを率いて業務効率を最大化しています。佐藤さんの日常は、新しいツールの導入を検討したり、プロジェクトの進捗を確認したりと、技術的な課題に取り組むことに集中しています。夕方には将来の技術動向に目を向け、コスト効率の良いイノベーションを探求します。

ネガティブペルソナの事例

高橋一郎さんは小規模IT企業で働くITスタッフです。日々の業務はルーティンワークが中心で、新しい技術やシステムの導入には関心を示しません。予算や権限の制限により変化を望む余地が少なく、日々の業務をこなすことに重点を置いています。企業の将来よりも現状維持を優先する傾向にあります。

佐藤さん(ペルソナ)と高橋さん(ネガティブペルソナ)の主な違いは、仕事への取り組み方と技術に対する姿勢です。佐藤さんは革新的で前向き、チームを率いて新しい技術を積極的に採用しようとします。一方で、高橋さんは変化に消極的で、日々のルーティンワークにとどまり、新しい技術やプロジェクトには関心を示しません。そのため、新たなサービスを導入する確率は低いでしょう。

簡単に言えば、佐藤さんは企業の未来を見据えたイノベーションを推進し、高橋さんは現状維持に傾倒しています。そのため、高橋さんのようなネガティブペルソナ層は、導入しづらいことはもちろん、導入したとしても導入後のフォロー・サポートに多くの労力が割かれてしまう可能性があり、会社全体の生産性を下げてしまう可能性もあります。

このように詳細なペルソナを設定することで、マーケティングや営業など各部門が共通の顧客認識を持って施策を推進し、顧客に一貫した体験を提供できるのです。

ターゲットの定義と事例

ターゲットとは、自社製品やサービスを最も効果的に販売できる特定の顧客セグメントのことです。主に性別、年齢、居住地、興味関心、課題などのデモグラフィックに基づいて作成されます。たとえば、クラウドベースのCRMソフトウェアの販売企業の場合、以下のようなターゲットを作成できるでしょう。

  • セグメント名:進化志向の中堅企業
  • 業界:製造業、IT、小売
  • 企業規模:中堅(従業員数50~500人)
  • 地域:都市部

このターゲットの情報を見て、ひとりの顧客を思い浮かべられるでしょうか。ターゲットは、個々の顧客像ではなく、異なる業界やライフスタイルを持つ顧客群を対象とし、これらの集団が共通して持つニーズや振る舞いに基づいた戦略を展開するためのものです。

ターゲットの設定により、マーケティングメッセージや製品開発がより効果的になるため、顧客セグメント全体へのリーチとエンゲージメントを最大化することが可能となります。

ペルソナとターゲットの違い

マーケティングでは、ペルソナとターゲットは異なる目的で活用される重要な要素です。たとえば、同じ業界や職種に属するITマネージャーの佐藤さんと、営業マネージャーの田中さんを考えてみましょう。彼らは基本的な職業的背景や業界は共通していますが、役割や関心、課題においては大きく異なります。

佐藤さんは技術に精通しており、最新のITソリューションに常に目を光らせています。システムの効率化やセキュリティの向上を求め、複雑な技術的問題を解決することが業務の一部です。一方、田中さんは顧客との関係の構築や顧客満足度の向上に焦点を当てています。営業戦略の開発やクライアントとのコミュニケーションにおいて自信を持ち、積極的な自己表現を行います。

ペルソナとターゲットの違い

(出典:Search Enjine Journal)

このようなキャラクターの違いは、ペルソナとターゲット市場の基本的な区別を示しています。ターゲットは、製品やサービスの潜在的な消費者層を一般的なカテゴリで分類します。ここでは、田中さんと佐藤さんは同じ業界というターゲット市場に含まれます。

対してペルソナは、市場内の特定の個人の特徴を細かく描写したものです。彼らの個性や関心、課題を詳細に分析し、それぞれに合わせたマーケティング戦略を策定します。

つまり、田中さんと佐藤さんが同じ商品やサービスに対して同じ購買動機や行動を示すことはないでしょう。ペルソナは個別の顧客に焦点を当てたパーソナライズされたアプローチを提供し、ターゲット市場は広範囲な顧客層に向けた一般的なアプローチを定義します。効果的なマーケティング戦略を策定するには、ペルソナとターゲット市場を区別して考えることが重要です。

ペルソナとターゲットのマーケティング戦略上の重要性

マーケティングにおいては、ペルソナとターゲットは成功の基盤となります。この2つの概念を巧みに活用することで、リーチ数を最大化しながら、顧客の心をつかむマーケティング活動を展開することが可能です。ここからは、ペルソナとターゲットのマーケティング戦略上の重要性を見ていきましょう。

ペルソナのマーケティング戦略上の重要性

マーケティング戦略におけるペルソナの重要性は以下の通りです。

  • 見込み客の特有の特性を理解できる
  • 施策やコンテンツをニーズに合わせて訴求できる
  • 顧客のロイヤルティや顧客満足度向上にもつながる

ここからは、各理由の詳細を解説します。

見込み客の特有の特性を理解することができる

ペルソナの使用は、見込み客の特有の特性やニーズを深く理解する上で、特にBtoB企業にとって不可欠です。各業界特有の課題や要求を捉えることは、効果的なマーケティング戦略を立案する上での鍵となります。たとえば、クラウド型データ分析ツールを提供する企業を考えてみましょう。

IT業界は、大量のデータを迅速かつ効率的に処理し、インサイトを得るための高度なアルゴリズムやビッグデータ技術を必要としています。そのため、分析の精度や速度、データのセキュリティが重要な購買要因となります。

一方で、営業主体の企業やアナログな業務を行う企業では、データ分析のニーズは基本的なレベルである場合が多いです。主に顧客情報の蓄積や簡単なデータの可視化を求めており、複雑な機能よりもユーザーフレンドリーで直感的な操作性を重視します。こういった企業には、簡単にデータを管理し、基本的な分析ができるツールが選定要因となるでしょう。

各業界の独自のペインポイントやニーズを理解し、それに対応する解決策を提案することで、BtoB企業は見込み客に信頼されるマーケティングを実現できるのです。

施策やコンテンツをニーズに合わせて訴求できる

デジタル化が進む現代において、パーソナライズされた体験への期待は高まっています。マッキンゼーの調査では、消費者の約71%がパーソナライズ体験を求めており、パーソナライゼーションを効果的に実施している企業は、そうでない企業に比べて収益が40%も高いとのことです。

ペルソナの策定により、企業は顧客の業界やビジネスへの深い理解を基に、関連性の高い施策やコンテンツを展開することが可能になります。

また、ペルソナのカスタマージャーニーを構築すれば、見込み客が各ステージで直面する課題や利用する情報収集チャネルを特定し、適切なタイミングで、最も効果的な情報を提供することが可能です。パーソナライズしたアプローチは、顧客一人ひとりのニーズに合わせた関係構築を可能にし、長期的なビジネス関係の構築に貢献します。

顧客のロイヤルティや顧客満足度向上にもつながる

ペルソナを用いたパーソナライズされた体験の提供は、顧客ロイヤルティや満足度を高める重要な手段です。先にご紹介したマッキンゼーの調査によると、消費者の約76%がパーソナライズされたコミュニケーションを重要なブランド選択基準とし、78%がパーソナライズされたコンテンツが再購入の可能性を高めると考えています。これらのデータは、ペルソナベースのアプローチが顧客の期待を満たし、見込み客の購買行動に直接影響を与えることを示しています。

マッキンゼーによるパーソナライズに関する調査

(出典:Mckinsey)

顧客の好みや潜在ニーズを理解し、それに基づいたアプローチを取ることで、顧客は自分のニーズや好みが理解され、尊重されていると感じるため、ブランドロイヤルティや満足度を深めます。ペルソナを活用した戦略は、顧客一人ひとりに合わせたユニークな体験を提供し、企業の持続可能な成長を支える基盤となるでしょう。

ターゲットのマーケティング戦略上の重要性

マーケティング戦略におけるターゲットの重要性は以下の通りです。

  • 自社の市場の可能性やトレンドを把握できる
  • 競合との差別化・ポジショニングを考える基礎になる
  • マーケティングチャネルの最適化ができる

ここからは、各3つの理由を見ていきましょう。

自社の市場の可能性やトレンドを把握することができる

ターゲットの明確化は、市場にあるさまざまなセグメントを把握し、それぞれのニーズや要望を理解するための重要なステップです。これにより、収益性が高いセグメントや新たなビジネスチャンスを特定し、製品開発やマーケティング戦略を効果的に策定できるようになります。

たとえば、新しいプロジェクト管理ツールを市場に投入しようとするソフトウェア開発会社を考えてみましょう。

この企業が建設業界やIT業界の中小企業をターゲット市場として選定した場合、市場調査を通じてこれらのセグメントの具体的なニーズや課題を洗い出します。すると、リソース管理の複雑さや円滑なコミュニケーションができていない、進捗追跡の困難さなどの課題を抱えていると判明するかもしれません。

このターゲット市場におけるニーズに基づいて、直観的なリソース管理やプロジェクト進捗表示などのセグメントに合った機能を開発し、特定業界向けのカスタマイズされたプロモーションや展示会参加などを含むマーケティング戦略を策定します。この例のようにターゲットを選定することで、市場の機会を最大限に活かし、業界のトレンドに合わせた製品を開発することが可能です。

競合との差別化・ポジショニングを考える基礎になる

市場におけるシェアの獲得競争では、競合との差別化とポジショニングが重要な役割を果たします。ターゲット市場の選定は、競合企業の特定と自社の独自性を明確にするための基礎を築くのです。

自社の優位性やポジショニングを考える過程で、マーケティングのフレームワーク、たとえば3C分析(企業、競合、顧客の分析)を活用することで、市場における自社の位置付けを理解し、効果的な戦略を策定することができます。

3c分析の図

ターゲット市場を特定することにより、どの競合企業が直接的なライバルであるかが明確になります。これに基づいて、自社の強み、弱み、そして市場での優位性を深く分析し、独自のポジショニングを確立します。競合と同様のアプローチでは、資金力の面で優位な企業に勝つのは困難です。そのため、競合他社とは異なる強みや特徴を徹底的に分析し、自社の独自性を強調することが重要です。

差別化のポイントを特定したら、顧客との対話を通じてその有効性を検証することが推奨されます。顧客のフィードバックや意見は、市場での自社のポジショニングを精緻化する上で貴重な洞察を提供します。このようにして、ターゲット市場の選定と競合分析を基にした戦略は、企業が市場での独自の立ち位置を確立し、持続可能な成長を達成するための基盤となるのです。

マーケティングチャネルの最適化ができる

ターゲットの明確化は、マーケティングチャネルの選択とその最適化に役立ちます。ターゲットを特定することで、その市場に効率的にリーチし、共感を呼ぶコミュニケーション手法を選ぶことが可能になるためです。

たとえば、30代のビジネスプロフェッショナルをターゲットにした転職サービスのプロモーションを考えてみましょう。

この顧客層はキャリアアップに意欲的で、ソーシャルメディアや業界フォーラムを頻繁に利用していることが分かっています。この情報を活用して、LinkedInの広告、業界団体のウェブサイトでの広告展開、オンラインワークショップやウェビナーへの誘導など、具体的なチャネル戦略を立てることができます。

ターゲット設定により、企業は顧客の行動パターン、好み、頻繁に使用するメディアチャネルを把握し、これらの情報を基にマーケティングチャネルを選定して、リソースを効果的に割り当てます。その結果、マーケティング活動のROI(費用対効果)を最大化し、より効率的かつ効果的なコミュニケーション戦略を実行することが可能です。

このアプローチは、マーケティング資源を最も効果的な方法で活用し、ターゲット市場に最大の影響を与えることを可能にします。

ペルソナとターゲットはどちらを作るべき?両方作るべき?

ここまでペルソナとターゲットの重要性を見てきたところで、「どっちを作るべきなのか? 」と悩まれる方は多いでしょう。結論から言えば、ペルソナとターゲットは目的や用途が異なるため、マーケティング効果を最大化するためには両方作成するべきです。

ペルソナとターゲットはどちらを作るべき?

ペルソナは、特定の顧客群の詳細なプロフィールを作成することで、顧客理解を深め、個別化されたコミュニケーション戦略を設計するために使用されます。パーソナライズしたマーケティングメッセージや製品開発に適していますが、リーチ数の最大化には向いていません。

一方、ターゲットは広範囲の市場セグメントを定義し、それらに対するマーケティング活動の方向性を決定する際に役立ちます。ターゲットはリーチ数の最大化に適しており、広い市場範囲にアプローチする際に有効ですが、個別の顧客理解にはあまり向いていません。

たとえば、ビジネス向けのクラウドソフトウェアベンダーがある場合、まずはターゲット市場として「中規模の製造業企業」を特定し、そのセグメントの特有のニーズや課題に対するマーケティング戦略を立てます。次に、特定のITマネージャー「佐藤さん」というペルソナを作成し、彼の日常の課題や意思決定プロセスに基づいて、カスタマイズされたメッセージや製品開発を行う流れです。。

このように、ターゲット市場は「どこに向けてマーケティングを展開するか」を示し、ペルソナは「どのようにマーケティングを展開するか」の詳細を提供します。両方を組み合わせることで、マーケティング戦略はよりターゲットに適した、効果的で洗練されたものになります。

まとめ

本記事では、ペルソナとターゲットの違いを中心に解説しました。ペルソナの作成は、個々の顧客の詳細なプロファイルを理解することに重点を置いており、特にパーソナライズされたアプローチが求められる場合に重要です。これにより、顧客の特定の悩みやニーズに合わせた製品やサービスを提供することができ、顧客の満足度とロイヤルティを高めることが可能になります。

一方でターゲットの明確化は、市場の広範なセグメントを特定し、そのセグメントの一般的な特性や行動の理解に焦点を当てています。これにより、市場の潜在的な可能性やトレンドを把握し、競合との差別化やポジショニングを考える際の基盤として機能します。

また、最適なマーケティングチャネルを選択し、リソースを効率的に割り当てることができ、マーケティングのROIを向上させることも可能です。

ペルソナとターゲットを組み合わせることで、より深い顧客理解と市場全体に対する効果的なアプローチが可能になり、成功へと導くマーケティング戦略を策定できるようになるでしょう。

著者情報 戸栗 頌平(とぐりしょうへい)

株式会社LEAPT(レプト)の代表。BtoB専業のマーケティング支援会社でのコンサルティング業務、自社マーケティング業務、営業業務などを経て、HubSpot日本法人の立ち上げを一人で行い、後に日本法人第1号社員マーケティング責任者として創業期を牽引。B2Bの中小規模企業のマーケティングに精通。趣味で国外のマーケティングイベント、スポーツイベント、ボランティアなどに参加している。

サービスを詳しく知りたい方はこちら

資料請求