インターネットが普及し、誰もが手軽に情報収集できるようになったことで、企業の営業方法にも大きな影響が及んでいます。具体的には、昔ながらの「プッシュ型営業」が減り、比較的新しい「プル型営業」の割合が高くなる傾向があります。
とは言いつつも「プル型営業をうまく取り入れられていない」と悩みを抱えるBtoB企業の営業担当者は少なくありません。SaaS企業であれば、マーケティングの熟練経験者が少ないこともあり「プッシュ型やプル型という言葉は聞いたことがあるけれど、よく意味がわかっていない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、BtoB企業やSaaS企業の方向けに、以下について詳しく解説します。
プッシュ型とプル型の両方について理解を深めることで、自社が取るべき営業戦略を考えやすくなるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
プッシュ型営業とプル型営業には、背景にある考え方に違いがあります。具体的な営業例と共に、それぞれの考え方をご紹介します。
またプッシュ型営業とプル型営業はそれぞれ「アウトバウンドマーケティング」「インバウンドマーケティング」と呼ばれることもあります。これらの営業手法については、別記事にて一覧でご紹介しているので、チェックしてみてください。(「営業手法 一覧」への記事への内部リンク)
プッシュ型は「売り手主導」の営業方法です。「製品サービスを販売するために売り手が行動を起こし、買い手がそれに対応する」という考え方で営業が行われます。
英語の「プッシュ(Push)」は「押す」という意味。売り手から積極的に押していくのが、プッシュ型営業のイメージです。以下がプッシュ型営業の代表例です。
BtoB企業やSaaS企業においても、これらの方法で営業を成功させてきた企業は多いでしょう。インターネットの普及前後でほとんどやり方が変わっていないのが、プッシュ型営業の特徴だといえます。
プル型営業は「買い手主導」の営業手法です。「製品サービスを手に入れるために売り手が行動を起こし、買い手がそれに対応する」という考え方です。買い手の行動が起点となっている点が、プル型営業とは異なります。
英語の「プル(Pull)」は「引く」という意味。売り手はその場から動かず、買い手を引っ張ってくるイメージを持つと、プル型営業を理解しやすいでしょう。以下がプル型営業の代表例です。
プル型営業には、SEOの他にもSNS運営や電子コンテンツの配布など、オンラインの施策が多いのが特徴です。そのためプル型営業の手法は、インターネットが普及してきた直近の20年ほどで大きく進化しました。大きな変化がないプッシュ型営業とは対照的です。
現代においては、従来よりもプル型営業の重要性が高まっています。その背景にあるのが「売り手と買い手の力の変化」です。
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aJHlxOu7DLg)
上図は情報収集における、買い手と売り手の主導権の割合を示しています。インターネットが台頭する以前は、買い手が自ら情報を収集する方法に限りがあり、多くの場合で売り手から提供される情報に頼るしかありませんでした。
一方現在では、買い手はインターネットを使って、自社の業務に関連する情報を簡単に集められるようになりました。その結果、買い手の情報収集で拾われる情報を提供できていない企業は「検討のテーブルに乗れないか、乗った時点でほぼ負け戦になっている」ことが明らかになっています。
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aJHlxOu7DLg)
上図は買い手が購入を検討する際に、何に時間を費やしているのかの割合です。全体の27%はオンラインリサーチに費やされています。ベンダーとの打ち合わせに使われる時間は、わずか25%しかありません。
この打ち合わせの時間に滑り込めたとしても、買い手が5社を比較検討しているとすれば、自社に当ててもらえる時間は、わずか5%程度です。それしか時間を費やしてもらえないのでは、買い手がすでに他社から購入する意向を持っていた場合、購買先を自社に変更してもらうのは困難だといえるでしょう。
つまり「打ち合わせからが本番だ」といった気分でいたのでは、完全に出遅れてしまいます。できるだけ早い段階で、買い手にアプローチしておく必要があるのです。こうした状況変化により、買い手のオンラインリサーチの時点でアプローチできる、プル型営業が求められています。
売り手が圧倒的に情報を持っていた時代は終わって、買い手自らが情報を調べる時代になっています。だからこそ差別化が難しいBtoB企業やSaaS企業であっても、買い手のテーブルにどうやっていち早く乗るかを考えなければなりません。
プッシュ型営業とプル型営業は、どちらか一方のみに取り組めばよいわけではなく、バランスが重要です。まずはプッシュ営業について、メリットとデメリットをご紹介します。
プッシュ営業の代表的なメリットを2つご紹介します。
プッシュ型営業は、すぐに成果につなげやすい点がメリットです。売り手の側から買い手の一人ひとりにアプローチしていくため、反応が即座に得られます。またアプローチする人数を売り手が決められるので、受注数をコントロールしやすい点も特徴です。
たとえば「今月中に20件受注を獲得する」といった目標がある場合には、飛び込み営業やテレアポの件数を短期集中で増やすことで、目標達成を目指せます。もし受注のペースが予定より遅い場合は「最後の1週間はさらに営業人員を増やす」といった追加の対応をすれば、すぐに効果が期待できるでしょう。
人員数を調整することで、素早く状況の変化に対応できることは、プル型営業のメリットだといえます。
プッシュ型営業なら、待っていてもつながれない買い手と接点が持てます。自社や製品サービスのことを知らず、まったく興味も持っていない状態の買い手に対してもアプローチできるのです。
買い手の中には「悩みはあるけれど、解決する方法がわからない」という潜在ニーズを抱えている企業も多くあります。潜在ニーズを抱えている企業に対して「自社の製品サービスなら御社の悩みを解決できます」と提案できることは、プッシュ型営業ならではのメリットです。
たとえば「Webセミナーを行うと、毎回必ずトラブルが起きてしまう」という悩みを抱えている企業があるとします。そうした企業に対して「自社がWebセミナーの準備から実施まですべて請け負うので、御社はただカメラの前で話をするだけでいい」というサービスを営業すれば、喜ばれる可能性が高いでしょう。
悩みを持つ企業の担当者は「トラブルが起きないように自社内で改善しなければ」としか考えていないかもしれません。問題に直面して視野が狭くなってしまっている買い手に、まったく新しい選択肢を提示しつつ接点を持てることは、プッシュ営業のメリットです。
また「自社の悩みも解決方法も自覚している」という顕在ニーズを抱える企業よりも、潜在ニーズを抱える企業の方が、数は圧倒的に多いことが一般的です。そのため潜在ニーズを持つ人を営業対象とすることで、受注数を増やしやすい面もあります。
プッシュ営業の代表的なデメリットを2つご紹介します。
買い手が嫌な思いをしやすい点は、プッシュ型営業のデメリットです。飛び込み営業やテレアポでは、一般的に製品サービスの必要性を感じていない買い手に対して営業をするため、迷惑だと感じられてしまうことが少なくありません。
(引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000205.000003149.html)
上図は2021年5月に行われた調査結果です。「営業を受けて嫌な思いをした経験をしたことがあるか」を問う質問に対して、メールや電話での営業では66.0%、訪問営業では42.0%が経験ありと回答しました。嫌な思いをした経験はないと回答した人は、わずか18.0%です。
営業に対して悪い印象を持たれると、自社そのものに対する印象も悪くなってしまいます。プッシュ営業では、買い手が嫌な思いをしないように、十分に注意が必要です。
プッシュ型は、営業パーソンの負担になりやすい面があります。特に飛び込み営業では、買い手に迷惑だと思われて、門前払いのような対応をされることも珍しくありません。買い手の否定的な反応によって営業パーソンが持つマイナスの感情にも、配慮すべきでしょう。
(引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000015335.html)
上図はBtoB営業を行う会社員・会社役員を対象にして、2020年2月に行われたアンケートの結果です。「行っている営業活動のうち辛いと思うものの割合」を尋ねた結果、飛び込み営業が77.6%でトップ、次いでテレアポの47.4%という結果でした。プッシュ型営業では、営業パーソンに精神的な負担がかかっていることが読み取れます。
プッシュ型営業を中心に実施している企業の場合、知らぬ間に自社の営業パーソンに大きな負担を強いている可能性があります。社内でアンケート調査をするなどして実態を把握し、必要であれば「一人あたりの営業件数を減らす」などの対応を取ることを検討するとよいでしょう。
プル型営業についても、メリットとデメリットをご紹介します。プッシュ型との違いを意識すると、プル型営業の特徴を理解しやすくなるでしょう。
プル型営業の代表的なメリットを2つご紹介します。
プル型営業では、インターネットを利用することで、不特定多数の企業に簡単にアプローチできます。一人ひとりにアプローチしていくプッシュ型営業とは、これが大きく異なる点です。
たとえばSEOにより「人材育成 動画」というキーワードで、自社のコンテンツが検索上位に表示されたとします。するとこのキーワードで検索したユーザーのうち、一定割合が自社のコンテンツを閲覧して、自社や製品サービスを知ってくれるでしょう。
「人材育成 動画」と検索する人は毎日いると考えられるので、毎日新しい人がコンテンツにアクセスしてくると見込めます。最初のコンテンツの制作には手間がかかるものの、いったん作ってしまえば、その後はネット上にコンテンツを公開しておくだけで自動的に営業が行われるのです。
またプル型営業であれば、起業前の段階の人にもアプローチできます。起業前の人は積極的に情報収集をしている場合が多いので、インターネット上のコンテンツであれば、効果的なアプローチが可能です。一方プッシュ型営業では、起業前の段階の人を見つけ出して営業することは困難でしょう。
購入につながりやすい見込み客を集められる点も、プル型営業のメリットです。プル型営業で対象とする買い手は、自社に必要な情報を積極的に探しています。すでに顕在ニーズを持っているため、そのニーズを満たす製品サービスの存在を知らせるだけで、すぐに購入に進んでもらいやすいのです。
(コンベックスのメディア「セールスハック」)
事例として、不動産業界に特化した営業自動化システムの販売を行っている「株式会社コンベックス」の取り組みをご紹介しましょう。コンベックスはオウンドメディア「セールスハック」を運営しています。
「セールスハック」ではSEOにより「営業に関する悩みを抱える不動産業界の営業パーソン」が検索しそうなキーワードから、メディア内の記事にアクセスを集めます。そして記事内で、訪れた人を営業ツールに関するガイドブックのダウンロードに誘導しているのです。ダウンロード時に連絡先を入力してもらうことで、見込み客との商談につなげられます。
この例では、検索から記事にアクセスした時点で「不動産業界での営業を改善したい」という訪問者の悩みが明らかです。そのためメディアの訪問者は、営業自動化システムの購入につながりやすいと見込めます。
また事前に記事やガイドブックに触れてもらうことで、打ち合わせを始める段階で、買い手はすでに自社や製品サービスのことを知っている状態です。そのため商談がスムーズに進み、購入までのプロセスが短期間で済む効果も期待できます。
プル型営業にも、よい面だけでなく悪い面もあります。プル型営業の代表的なデメリットを2つご紹介します。
プル型営業では一般的に、成果が得られるまでに時間がかかります。コンテンツを作ってネット上に公開したとしても、SEOによって検索上位に表示されるまでには、多くの場合で数ヵ月以上が必要です。展示会であれば、出展の申し込みから実施までには、数ヵ月ほどかかることが一般的です。
そのためプル型営業は「商談件数を今月中にあと10件上乗せする」といった目標の達成には向いていません。長期的な視点を持って、じっくりと施策に取り組む必要があるのです。
また成果につながるかどうか、予測しにくい面もあります。プル型の手法の中でも、SEOは特にその傾向が顕著です。時間と費用をかけて大量のコンテンツを制作したとしても、検索上位に表示される保証はありません。「期待した成果が得られない」と判断するだけでも、半年ほどの期間は必要になります。
成果が得られるかを見通すことが難しく、また結果を確認するまでにも時間がかかることは、プル型営業のデメリットといえるでしょう。
プル型営業では、プッシュ型営業よりも提案の自由度が低い傾向があります。顕在ニーズを持つ買い手を対象にしているため、すでに相手が求めているものがはっきりしている場合が多いからです。
相手が求めているものを提供する場合には、自社にとって利益率の高い製品サービスを提案しづらいため、利益につなげにくい面があります。
また買い手が課題についてよく理解していない場合は、適当ではない解決策にこだわってしまう可能性があります。その場合は、買い手が求める解決策に問題点があることを丁寧に説明して、最適な提案を勧めることが求められるでしょう。
買い手のこだわりを前提としつつ、商談を進めなければいけないことは、プッシュ型営業のデメリットです。
インターネットの発展に伴って、買い手自らが情報を積極的に探すようになった結果、プル型営業の重要性が増しています。買い手の検討のテーブルに乗るためには、これまでプッシュ型営業ばかりに注力していたBtoB企業やSaaS企業であっても、SEOなどのプル型営業を取り入れるべきです。
ただし、飛び込み営業やテレアポなどのプッシュ型営業の効果がなくなったわけではありません。プッシュ型とプル型の双方に、メリットとデメリットがあります。両方の営業方法を取り入れつつ、自社にとって最善のバランスを探すことが大切です。