2024年現在はまさにデジタル社会であり、データを有効活用できるかどうかでマーケティングの成果が大幅に変わります。もちろん、そんなことは百もご承知でしょう。それでもデータに関する業務は地味・面倒なものであり、あらゆる業務の根幹でありながら、ついつい後回しにされがちです。
データベースマーケティングはBtoB SaaSにとっては特に重要であるにも関わらず、昔とは違い企業が収集できるデータが膨大であり、データマネジメントの難易度が高まっているのも悩ましいところでしょう。マーケターとしても、どのデータを選んでどう分析すればよいのか悩む状況のはずです。
実際、データの品質は重要であり、データ分析のリーディングカンパニーDun&Bradstreet社の「第7回年次BtoBマーケティングデータレポート」によると、データ品質への投資を増やしたBtoB企業の100%で全体的なパフォーマンスが向上、約94%が販売・マーケティングのパフォーマンスも向上したそうです。
本記事では、データベースマーケティングの概要に加え、BtoBマーケティングで扱うデータの種類、データ品質管理のポイント、データベースマーケティングで創出できる成果について解説します。
データベースマーケティングとは、顧客や見込み客のデータを一元管理し、顧客ごとに適したマーケティングを行い、売上げ向上につなげる考え方です。
BtoB企業が扱うデータを大別すると、「マスデータ」「トランザクションデータ(取引データ)」「インテントデータ(例:Web上の行動データなど)」があります。マーケティングでは、主に以下の顧客データを収集します。
このようなデータベース上のデータを分析し、マーケティング戦略立案や実行に活かすのがデータベースマーケティングです。
例えば、顧客層ごとあるいは個々の顧客ごとにパーソナライズされたマーケティングを行い、売上げ拡大につなげる。あるいは、新規見込み客の属性データや行動履歴データなどをもとに、適切なチャネルにマーケティングメッセージを届け顧客化を促進するといった施策を行います。
データベースマーケティングは、ダイレクトマーケティングの一種です。考え方自体はシンプルであり、顧客データをもとにビジネスを進める(各お客様が好みそうな商品を提案する、必要そうな情報を提供しコミュニケーションを深める)ものと捉えましょう。
いわば商売の基本であり、古くは日本の越中富山の薬売りなども行っていますし、現在のデータベースマーケティングに活用されているRFM分析も、元は米国の通販会社が生み出した手法です。
(出典:LOTAS TOWN「江戸時代初期に端を発する、『越中富山の薬売り』の歴史と文化をわかりやすく紹介する『広貫堂資料館(こうかんどうしりょうかん)』」)
今の時代でも退職時の顧客リスト持ち出しが騒ぎになるように、顧客データベースとは企業にとって宝、門外不出にしたい売上げの基盤なのです。
データベースマーケティングは、昔はカタログマーケティング、テレマーケティングなどが主体でした。2024年となる現在はSNSマーケティング、メールマーケティングなどデータを収集したり、分析・アプローチしたりする手法が多様化しています。その分データを使いこなす能力によって、成果に差がつきやすくなっているといえるでしょう。
データベースマーケティングと混同されがちな概念として、CRMの取り組みが挙げられます(この場合、ツールではなくマーケティング手法としてのCRMです)。どちらも顧客データを活用するという点では共通していますが、目的や手法には違いがあります。
CRMは「Customer Relationship Management」の略で、顧客との長期的な関係構築を目的としています。顧客一人ひとりの情報を管理し、それぞれに適したアプローチを行うことで、顧客満足度や顧客ロイヤルティを高めることを目指します。売上げ拡大はもちろん重要ですが、それ以上に顧客とのエンゲージメントを重視するのがCRMの特徴です。
簡単にまとめると、データマーケティングとCRMには以下のような違いがあります。
|
目的 |
データの活用方法 |
効果測定の指標例 |
データベース マーケティング |
データベースを活用して、マーケティング施策を立案・実行する。 |
セグメンテーションや施策の立案に活用 |
など |
CRM |
顧客一人ひとりとの関係性を重視し、長期的な関係構築を目指す。 |
個々の顧客に対する最適なアプローチに活用 |
など |
もちろんCRMを実践する上でもデータベースは不可欠です。顧客データの蓄積と分析があってこそ、顧客ごとに最適化されたアプローチが可能になります。その意味で、データベースマーケティングはCRMの基盤をなすものといえるでしょう。両者は相反する概念ではなく、むしろ連携させることでより大きな効果を生み出せるのです。
データベースマーケティングでは、顧客に関するさまざまなデータを収集し、活用することが重要です。これらのデータは、社内外の多様なソースから収集されます。
収集すべきデータの代表例としては、以下のとおりです。
データの種類 |
主な項目 |
属性情報 |
年齢、性別、居住地、所属企業、役職など |
行動履歴 |
Webサイト/アプリの閲覧・利用状況、広告の反応、イベント参加記録など |
購買データ |
購入日時、購入商品、購入金額、購入頻度、直近の購入日、平均購入単価 など |
コミュニケーション記録 |
問い合わせ内容、商品レビュー、キャンペーンの反応、顧客満足度調査の回答など |
外部ソースデータ |
他社サイトでの行動、広告閲覧履歴、デモグラフィックデータなど |
これらのデータを統合・解析することで、個々の顧客像を詳細に把握し、パーソナライズされたマーケティングを展開することができます。ただし、データの収集や活用にあたっては、プライバシー保護や適切な管理体制の構築が必要不可欠です。
以上のような特徴を持つデータマーケティングを行う目的としては、次のものが挙げられます。
次項より、個別にみていきましょう。
データベースマーケティングは、既存顧客のカテゴライズによるセグメンテーションを行う上で、非常に有用です。
顧客にはさまざまな層があります。例えば、パレートの法則(80:20の法則)でいわれるように、多くの会社で売上げの8割を占めるのは2割の既存顧客。このロイヤル顧客(優良顧客)の特定にも活用できます。
RFM分析などを行えば、かなり顧客層を細分化できます。「チャンピオン顧客」「ロイヤル顧客」「リピート顧客」「新規顧客」「休眠顧客」など呼び名は企業によってさまざまですが、自社の戦略にあった分類が可能です。
少し難易度は高いのですが、クラスター分析を活用すれば今まで想定していなかった新しい顧客グループ(市場)を発見できる可能性もあるでしょう。顧客層ごとに異なるマーケティング施策を展開することで、よりマーケティングの成果を上げられます。
データベースマーケティングで高度な顧客セグメンテーションを実施することで、コンバージョン率が最大5倍向上するというデータがあります。
さらに、顧客セグメンテーションを行う際には、デモグラフィック情報だけでなく「購買履歴」「サイト閲覧履歴」「問い合わせ内容」などの行動データを活用することも重要です。これらのデータを組み合わせることで、より詳細で精度の高いセグメンテーションが可能になります。
セグメンテーションは一度行えば終わりではなく、定期的に見直すことが大切です。市場トレンドや顧客ニーズ、行動は常に変化するため、最新のデータに基づいてセグメントを更新し、マーケティング施策に反映させましょう。
データベースマーケティングは、見込み客の創出、つまりリードジェネレーションにも有効です。「メルマガ登録」「ウェビナー参加」「コンテンツダウンロード」などをきっかけに接点ができたリードのデータを蓄積することで、より受注確度の高い顧客獲得を実現できます。
近年のITツールを活用すれば、メルマガの開封状況、よく訪問する自社サイトのページ、デモ視聴などがわかりますので、見込み客の関心度が把握可能。ライトタイミング・ライトコンテンツで情報提供を行えば、自社への興味・関心をさらに持ってもらえ、案件化につなげやすくなります。
MAのリードスコアリングを使いこなせる場合は、以下のように配点を行ってそれを合計し、見込み客の関心度を数値で可視化できます。
リードジェネレーションの成否においても、データの活用が肝になります。例えば「どのチャネルから獲得したリードが案件化しやすいのか」「どのコンテンツに興味を示したリードが高い確率で購入に至るのか」など、データをもとにスコアリングしていくことで、施策を最適化できます。
リードスコアリングは、マーケティング・営業の連携を促進する上でも有用です。スコアリングの基準を部門間で共有し、高スコアのリードから優先的に対応することで、効率的な案件化を実現できるでしょう。
一般的に、お客様は購入する前は業者をそれほど信用せず、あまりにパーソナライズされた提案をされると警戒するものです。しかし購入後は一転して、痒い所に手が届くサービスを期待する傾向があります。
「そんなことも情報共有されていないの?」と怒りを買うことすらあるでしょう。そう考えると、マーケティングやセールスよりも、カスタマーサポートこそがデータベースマーケティングの恩恵を最も受ける領域かもしれません。
カスタマーサポートのレベルの高さは重要で、リテンション率に相当に影響します。2022年のZendesk社のレポートによると、顧客の60%以上は不快な対応を一度経験しただけで他社に乗り換えてしまうそうです。
もちろん、スタッフの品質、優れたシステムも必要ですが、蓄積された良質のデータベースがなければカスタマーサポートの品質は上がりません。
以下は、Zendesk社の別のデータですが、顧客がカスタマーサービスを不満に思うのは「やりとり中の保留時間」が1位です。3位には「何度も同じ情報を繰り返す必要がある」、4位には「エージェントが顧客情報を整理してもっていない」という回答が並んでいます。
(出典:Zendesk「カスタマーサービスに求められる顧客体験とは」)
蓄積された顧客データベースを活用することで、カスタマーサポートの品質を大幅に向上させられます。例えば、顧客の購買履歴や問い合わせ履歴を分析することで、よくある質問や問題点を事前に把握し、迅速かつ的確な対応が可能になるでしょう。
BtoB SaaSであれば、データをAIチャットボットの学習データに活用することで、24時間365日いつでも顧客のニーズに応じた対応ができるようになるため相性がよいでしょう。
蓄積されたデータ群は、既存の商品やサービスの改善、新商品の開発にも活用できます。顧客の購買履歴、サイト閲覧履歴、問い合わせ内容などを分析することで、顧客のニーズや課題を深く理解できます。
例えば、ある商品を購入した顧客が「次にどのような商品を購入する傾向にあるのか」を把握できれば、クロスセルやアップセルの施策に活かせます。また、顧客からの問い合わせや苦情を分析し、商品やサービスの改善ポイントを見つけることも可能。顧客データから新たなニーズや市場を発見できれば、新商品や新サービスの開発につなげることもできるでしょう。
データベースマーケティングを活用することで、顧客視点に立った商品・サービス開発が可能になります。マーケットインの発想で、顧客に本当に必要とされる価値を提供し続けることが、ビジネスの成長につながるのです。
意外と足元が手薄になりがちなのがデータベースマーケティングです。もしかしたらスタート地点に立つ前に、準備をする必要があるかもしれません(その状態でもスタートは切れますが、後で壁にぶつかります)。
データベースマーケティングの手順を細分化すると、以下の8ステップに分けられます。
各手順について詳しく解説します。
最初のステップはデータの定義を決めることです。いい換えれば、自社の「データ収集のルール」「データ入力の基準」の統一です。基本的に、以下の入力ルールは定めておきましょう。
データ入力に関するルール設定は、どのようなツールを使う場合でも必要です。特に、MA(マーケティング・オートメーション)・CRMツールを活用する場合は、データは自動処理となるので、データの入力形式やデータの名称の定義を決めておかないと、データ重複などが起きて結局は非効率になってしまいます。
例えば、日本の企業の役職などは企業によって「課長」「副課長」「所長」「副所長」「補佐」などバラエティに富んでいます。ここも「役員」「ゼネラルマネージャー」「マネージャー相当職」「一般」にカテゴライズすると、ツール類の連携がスムーズです。
目的に合わせて、どのようなデータが必要かを明確にします。BtoB SaaSにおけるデータベースマーケティングで必要なデータとしては、以下のものが挙げられるでしょう。
これらのデータを収集する際には、データの定義と管理方法を決めておくことが重要です。例えば、企業プロファイルデータの「従業員数」を収集する場合、「グループ会社を含めるのか」「本社・支店だけを対象とするのか」を社内で明確にしておく必要があります。
データの持ち方も、ツールの仕様に合わせて検討しましょう。「従業員数」について考えると、「35人」のようにそのままの数値で持つのか、「11~50名」のようなレンジで持つのかによって、管理負担・分析の粒度が変わってきます。
なお、ツールによってはテキスト形式、数値形式、プルダウン形式など、データの入力形式が決まっている場合があります。その際、データ項目の命名規則や、日付・時刻の形式、文字コードなど、データの一貫性を保つためのルールを定めておくことが大切です。
一方、担当者が手動で入力するデータについては、入力フォームの設計や、入力ガイドラインの整備など、データ品質を担保するための仕組みづくりが欠かせません。例えば、プルダウンメニューで選択肢を限定したり、入力例を示したりすることで、入力ミスの確率を低減できるでしょう。
社内ルールを統一したとしても、実際に集めたデータが綺麗に統一されていないことはよくあります。なかには、展示会来場者のメモに近い手書きアンケート情報なども存在するでしょう。そのため、データを使う前には必ずクレンジング(大掃除)が必要です。
データクレンジングでは、抽出したデータを、前項のように決めた定義に基づいて揃えなおしましょう。いわゆる名寄せと呼ばれる作業です。
重複しているデータ、まったく使えないデータを削除することで、「汚いデータ」を無くしていきます。Excelなどを使い自社で行うことも可能ですし、有料データクレンジングツールを活用してもよいでしょう。
見込み客であれ既存顧客であれ、時間の経過とともに購買心理・行動は変化するものです。そのため、行動履歴などをもとに、その変容に合わせデータに階段をつける必要があります。そうすると、現在顧客がどのステージにいるかをすぐ掴めるようになります。
BtoBの場合、衝動買いはほぼなく、購入決定するまでに一定のステップを踏んでいきます。そこでリードライフサイクルに合わせて階段をつけると、届けたいマーケティングメッセージを必要なタイミングで届けることができます。
既存顧客についても、最初はお試しで利用した顧客が「商品・サービスを気に入りリピーター顧客となり、さらにはロイヤルカスタマーになる」など、顧客は段階を踏んでいきます。
自社にとって重要なロイヤル顧客に変化していくことを想定し、階段を設定すると顧客とのリレーションシップマーケティングが実施しやすくなります。
もちろん、企業規模、業種等によってある程度取引額は決まります。しかし、SaaSは少数の既存顧客対象のビジネスではなく、数多くのカスタマーに長期利用してもらうビジネスモデル。多数の既存顧客にアプローチして、それぞれの顧客単価を上げることが大切です(そもそも重点顧客はセールスチームがサポートしてもいるでしょう)。
次に、各階段に合わせたコンテンツを用意します。見込み客、顧客に分けて解説します。
前述の階段にある「トラフィック」「サブスクライバー(リード未満の潜在見込み客)」「リード」「MQL(有望見込み客)」「SQL(営業案件となった有望見込み客)」向けに適したコンテンツを作成しておきましょう。
トラフィック、サブスクライバー(リード未満)、リード |
入門ガイド、チェックリスト、業界レポート、短時間の動画 |
MQL(マーケティング部門の有望見込み客) |
成果事例(業界別、規模別、テーマ別、etc)、ホワイトペーパー |
SQL(営業部門の有望見込み客) |
デモの閲覧、FAQ、見積シミュレーション、フリーミアム紹介頁 |
上記をBtoBのマーケティングファネルに当てはめると、以下のようになります。厳密には、必要なコンテンツは各社によって異なりますが、大切なのは見込み客の変化に合わせてどのステージでもコンテンツが用意されていることです。
一方、既存顧客に対しては「サービスの活用がスムーズに進むサポートコンテンツ」「顧客エンゲージメントを高めるコンテンツ」を送付します。
継続してコンテンツを送ることで、お礼の気持ちやサポートする姿勢を感じてもらうことが大切です。こちらも前述の階段に応じて中身を変えましょう。
ヘビーユーザー向け |
など |
ライトユーザー向け |
など |
活用しきれていないユーザー向け |
など |
次が、作成したコンテンツを適切なリストに対して届けるステップです。見込み客も既存顧客も1人の人間ですので、心理も行動も変容していきます。
リストが少なく、コンテンツもメルマガということであれば、Excelで管理してメール配信ツールを利用してもよいでしょう。
しかし、リストが多く日々変容する行動データやトランザクションデータの経過を手動で追うことは困難ですので、ツールを活用しキャッチアップするのが賢明です。
入力定義やルールが統一されている段階であればMAやCRMを活用し、見込み客・既存顧客に向けて、適切なコンテンツを配信します。一般的に、「MAはマーケティング用」「CRMは既存顧客管理用」「SFAは営業部門が追う見込み客データベース」と区分けできますので、ツールを使えばパイプライン全体をカバーできます。
施策を実行した際には、「データがきちんと蓄積されているか」「定義に沿った形式で入力されているか」を確認することが大切です。データの品質が低いと、せっかくの施策も効果を発揮できません。
蓄積したデータは、可視化することで価値が生まれます。できればグラフやダッシュボードを活用し、顧客の属性や行動パターンを視覚的に把握できるようにしましょう。これにより、課題の発見や施策の改善につなげられます。
データ分析の結果は、経営層を含む関係者と共有することが重要。マーケティング施策の成果を示し、次の打ち手を検討する材料としても活用できるでしょう。
データベースマーケティングは、一度の施策実施で完成するものではありません。データの定期的な確認と、施策の改善を繰り返すことが不可欠です。
例えば、3カ月に1度はデータの入力状況をチェックし、現状の定義では不足していないか、逆に不要なデータが増えていないかを確認します。施策の効果測定を行い、うまくいった点、改善すべき点を洗い出します。
これらの気づきを次の施策に活かしていくことで、データベースマーケティングの精度を高めていくことができるのです。PDCAサイクルを回し、継続的に改善を重ねる必要があります。
データベースマーケティングは、一朝一夕には上手くいきません。しかし、地道にデータを蓄積し活用していくことで、顧客理解が深まり、効果的なマーケティングが実現できます。長期的な視点を持って、取り組んでいきましょう。
データベースマーケティングを行う際には、以下の点に留意しましょう。
それぞれ個別に解説します。
データベースマーケティングの成功には、マーケティング部門だけでなく、営業、カスタマーサポート、商品開発など、顧客と接点を持つ全ての部署の協力が不可欠です。顧客データの収集や活用について、全社的な理解と協力体制を構築することが求められます。
例えば、営業部門には顧客との対話から得られる貴重な情報があります。この情報をデータベースに適切に登録し、マーケティング施策に活用することで、よりターゲットを絞ったアプローチが可能になります。
カスタマーサポートの現場では、顧客の悩みや要望を直接聞くことができます。この「生の声」をデータベース化し、商品開発にフィードバックすることで、顧客ニーズに合った商品やサービスの提供につなげられるでしょう。
このように、顧客データを全社の資産として捉え、部署間で連携しながら活用していく体制づくりが何より大切です。データベースマーケティングの意義や目的を全社で共有し、それぞれの部署で顧客データを意識した行動を促進しましょう。
データベースマーケティングでは、顧客の個人情報を大量に扱うことになります。情報漏洩は、顧客の信頼を失うだけでなく、企業の存続をも脅かす重大なリスクです。そのため、徹底したセキュリティ対策が欠かせません。
まず、データを取り扱うスタッフ全員に、個人情報保護の重要性を教育し、適切な取り扱いを徹底させることが大切です。
データを保管するシステムのセキュリティ対策も必要。クラウドサービスを利用する場合は、信頼できるベンダーを選び、どのようなセキュリティ対策が取られているかを確認しましょう。
自社でシステムを構築する場合は、最新のセキュリティ技術を導入し、定期的な脆弱性診断やアップデートを欠かさないことが求められます。
サイバー攻撃の手口は日々巧妙になっています。一度構築したセキュリティ対策に満足することなく、常に最新の脅威に備える姿勢が求められます。セキュリティ対策は、データベースマーケティングに不可欠な投資だと考えましょう。
大切な顧客データを失うリスクを避けるために、データのバックアップ体制を整えることが重要です。データベースマーケティングに利用するツールが、自動バックアップ機能を備えているかどうかを確認しましょう。
ツールの自動バックアップを過信せず、自社でもデータを定期的にバックアップすることをおすすめします。バックアップデータは、本番環境とは別の場所に保管するのが鉄則です。クラウドストレージの利用も検討に値するでしょう。
将来的にツールを変更する可能性も考慮し、データの出力仕様についても事前に確認しておくことも必要です。CSV形式など、汎用性の高いフォーマットでデータを出力できるかどうかを確かめましょう。
特定のツールに依存したフォーマットでしかデータが出力できない場合、移行の際に手間がかかったり、最悪の場合データが使えなくなったりするリスクがあります。
データは、マーケティング活動の基盤となる重要な資産です。バックアップと出力仕様の確認を怠らず、万が一の事態にも備えておくことが賢明といえるでしょう。
データベースマーケティングツールは数多く存在し、その機能も多岐にわたります。自社に最適なツールを選ぶためには、まず自社が必要とするデータの種類や量、活用方法を明確にすることが重要です。
例えば、BtoCビジネスとBtoBビジネスでは、必要なデータの粒度が異なります。BtoCなら個人の嗜好や行動履歴が重要になりますが、BtoBではむしろ企業の業種や規模、意思決定プロセスなどのデータが必要でしょう。
データ分析に力を入れたいなら、高度な分析機能を備えたツールが適しています。一方、データ活用よりも効率的な収集や管理に重点を置くなら、使いやすさや自動化機能を重視してツールを選ぶのがよいかもしれません。
自社のマーケティング戦略に合わせて、本当に必要な機能を見極めることが肝心です。高機能なツールは魅力的ですが、使いこなせなければ無駄になってしまいます。まずは自社の体制やリソースを考慮し、無理のない範囲で始められるツールを選ぶことが賢明だといえます。
データベースマーケティングを実施する際には、次のツールが役立ちます。
各ツールについて、詳しく解説します。
(出典:Google スプレッドシート)
ご存知かもしれませんが、Excel/Google スプレッドシートは、データベースマーケティングの基本ツールとして活用できます。これらのスプレッドシートソフトは、顧客情報を一元管理し、データ分析やセグメンテーションを行うための機能を備えています。
データベースマーケティングの観点では、以下のような使い方ができます。
ただし、大量のデータを扱う場合や高度な分析を行う際には、Excel/Google スプレッドシートでは処理速度や機能面での制約があります。その場合は、専用のマーケティングツールやBIツールの導入を検討する必要があるでしょう。
とはいえ、中小規模のビジネスにおいては、Excel/Google スプレッドシートは手軽でコストパフォーマンスに優れたツールです。データベースマーケティングの基礎を学ぶ上でも、スプレッドシートを使いこなすスキルは欠かせません。ツールの特性を理解した上で、自社に合った活用方法を見出していくことが肝要でしょう。
(出典:HubSpot)
HubSpotのマーケティングソフトウェアは、CRM、SFA、MAの機能を1つのプラットフォームに集約しているため、顧客データを一元管理できます。これにより、マーケティング、セールス、カスタマーサービスの各部門が連携して、シームレスなカスタマージャーニーを提供することが可能です。
データベースマーケティングの観点では、以下の点で特に優れています。
これらの機能により、効果的なリードナーチャリングやカスタマーリテンションを実現できるでしょう。
(出典:Salseforce)
Salesforceは、クラウド型のCRMプラットフォームとして知られていますが、マーケティングオートメーション、カスタマーサービス、データ分析など、顧客エンゲージメントに関わる多様な機能を提供しています。これらの機能を活用することで、データベースマーケティングを効果的に実践できます。
Salesforceの中核となるのは、セールス、マーケティング、カスタマーサービスの各部門で共有される顧客データベースです。
顧客情報を一元管理し、部門間のデータのズレを解消することで、一貫性のあるカスタマーコミュニケーションを実現できます。顧客の行動履歴やインタラクションデータを自動的に収集・統合し、パーソナライズされたアプローチを行うことも可能です。
ここからは、BtoB領域におけるデータベースマーケティングについて、以下2社の事例を紹介します。
それぞれ個別にみていきましょう。
(出典:株式会社セラク)
IT・SIerとして幅広いサービスを展開する株式会社セラクは、自社の営業活動におけるABM(アカウント・ベースド・マーケティング)戦略の推進を目的に、2023年5月、ユーソナー社のサイドソナーとmソナーを一括導入しました。
セラクでは、以前から別の企業のデータベースサービスと名刺管理サービスを利用していましたが、コストに見合った効果が出ていないことが課題となっていました。ユーソナーのデータベースは、全国の企業を事業拠点単位で網羅しているため、セラクの各拠点が保有する顧客情報と組み合わせることで、拠点間のクロスセル機会の可視化が可能になったそうです。
(出典:ユーソナー株式会社「Salesforce定着支援のプロ、サイドソナーとmソナーを一括導入 動き始めたABM戦略、初年度のROI、目標比180%超 営業組織が「民主化」、AIリストRating2.0も積極活用」)
加えて、営業メンバー全員がデータベースを活用できる環境が整備されたことで、トップダウン的な営業スタイルから脱却し、現場の営業が自律的にアプローチ先を選定する「営業の民主化」が進んだとのこと。ユーソナーの導入効果は、当初のROI目標を180%以上も上回るなど、ABM戦略の大幅な加速につながっています。
同社の事例からは、企業データの粒度を高め、拠点やビジネスラインを越えて統合的に活用することが、ABM戦略の推進力になることがわかります。データベースを営業の現場レベルで自律的に活用できる環境を整備することで、トップダウン型からボトムアップ型のデータ活用へのシフトが可能となり、マーケティングの精度とスピードが向上するといえるでしょう。
(出典:村田製作所)
電子部品メーカーの株式会社村田製作所は、Adobe Marketo Engageを導入し、リードナーチャリングの実現に向けたデータ活用に取り組んでいます。
Adobe Marketo Engageは、自動処理、コンテンツ、リード開発、アカウントベースドマーケティングの機能を備えた、MAプラットフォームです。
導入前、村田製作所はプロモーション活動の分断により顧客の購入プロセスが繋がっていないとの課題を抱えていたとのこと。そこでAdobe Marketo Engageを活用して、データの収集・分析、有望顧客の見極めと営業へのつなぎ、コンテンツの充実とアプローチの最適化を進めることで、この課題の解決を目指しました。
試行錯誤の末、リードナーチャリングが実現し、成果が上がり始めました。現在は、Webパーソナライゼーションの機能を活用し、新規市場や新規ターゲットの認知拡大に注力しています。
この事例から、データベースマーケティングにおける顧客データの一元管理とリードナーチャリングの重要性、コンテンツとアプローチの最適化による効果的なコミュニケーションの実現、新規顧客開拓への有効性がわかります。
データベースマーケティングは、データに基づいて顧客一人ひとりを深く理解し、パーソナライズされた価値提供を行うことが目的です。
近年は収集できるデータ量が膨大になっているため、データベースマーケティングで成果を出すためには、データの品質管理を向上させる必要があります。スタート地点でしっかり社内データの定義や入力ルールを決め、社内のMA、CRMなどのデータも同期させましょう。データの品質を向上すればマーケティング成果にも直結します。
何より、「相手に意味のない内容のコンテンツを必要ないタイミングで送る」「複数の部署からアプローチする」など、してガッカリさせるリスクも減るでしょう。データをセグメンテ―ションし、コンテンツを配信する際は、データの先に生身の感情を持った人間がいることを意識することが大切です。
機械的にアプローチを行うのではなく、望まれているタイミングで、望まれている情報を届けて喜んでもらうために、データを活用するという視点を常に持っていただければと思います。