「エンゲージメント」と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?
プロポーズをする際に恋人に送る「エンゲージメントリング」でしょうか? もしくは、戦闘機のパイロットが空戦開始時に発する「Engage!」と言うセリフが浮かんだあなたは、かなりコアな映画ファン(もしくはミリタリーファン)かもしれません。
今回の記事では、マーケティングにおける「エンゲージメント」および、それを活用した「エンゲージメントマーケティング」と呼ばれる手法について解説します。「エンゲージメント」の意味や重要とされる理由、実際にエンゲージメントを高めるための手法、実例などを確認していきましょう。
ぜひ最後まで読んで自社の戦略立てにご活用ください。
エンゲージメント(Engagement)は、直訳すると「(強い意志を持って)何かしらの行動を起こすこと」という意味です。そのため「エンゲージする」という動詞は前述したとおり、たとえば誰かと結婚することを決める際や、(戦争などで)戦闘にこれから参加する、というような強い意思表明をする際によく使用されます。
また「エンゲージメント」は、このような誰かの「強い意志や意欲」そのものを表す名詞としても使用されます。たとえば「彼はこのプロジェクトに対して強いエンゲージメントを持ち合わせている」という言葉は、プロジェクトに対する参加意欲が高く、強いコミットメントを持っている人物であるという意味です。
ビジネスの文脈では、最近「従業員エンゲージメント」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。「従業員エンゲージメント」とは、従業員の業務へのコミットメント度合いを指す言葉です。
たとえば物流会社「FedEx」は従業員エンゲージメント向上を重視し、スタッフ教育や労働環境整備に投資をしています。その取り組みを通して、多様な人材が平等に活躍でき、働きがいのある職場を実現している会社として注目されています。
(出典:Life at FedEx )
エンゲージメントマーケティング(Engagement marketing)では、顧客の「強い意志や意欲」を意図的にかき立てます。そして顧客の自発的な興味や購入意欲を、自然と自社のブランドや製品に向けることに重きを置いたマーケティングアプローチです。
エンゲージメントマーケティングでは、顧客を自社のPRを受け取るだけの「受動的な存在」として捉えるのではありません。顧客が率先して自社の製品開発やマーケティングのキャンペーンなどに参加・干渉できるようにしたうえで、顧客が自ら「能動的に」ブランドとの関係性(ブランドロイヤルティ)を深めていくようなアプローチを行います。
たとえば、スターバックスコーヒーやナイキがその一例です。
スターバックスコーヒーには「リワードプログラム」があり、顧客は購入ごとに「Star(ポイント)」を貯めることができ、やがてドリンクやフード、グッズなどと交換できます。来店・購入回数が増えれば増えるほど顧客は報酬を獲得できるので、リピート利用の動機になります。
そしてナイキは、顧客の健康習慣(ランニングや筋トレ、ヨガなど)をサポートする「Nike Run Club」「Nike Training Club」といった複数の無料アプリを提供しています。これは、誰でも(ナイキのシューズやウェアを一度も買ったことのない人でも)スマートフォンに無料でインストールして、ずっと無料で使い続けることが可能です。
運動をサポートする実用的なコンテンツ(ランニングの音声ガイドや、筋トレ動画など)を多数提供しているので、「日頃から運動に興味のある人が、自然とナイキと接点を持つようになる」と考えられます。
繰り返しナイキのアプリでトレーニングに励んでいると、「ずっと無料でトレーニングのノウハウを提供しているなんて、ナイキはスポーツをする人に寄り添ってくれるブランドだな」「今度シューズやウェアを買うときは、ナイキにしようかな」などと、自然と想起されやすくなるでしょう。
スポーツにまつわるノウハウの無料提供を通じて顧客と日頃から多く関わる状態を作り、ブランド関与度を高めていくアプローチを取った一例だといえます。
顧客が企業やブランドに対して抱く強い「熱意」や「つながり」のことを「顧客エンゲージメント(Customer engagement)」といいます。
ブランドへのエンゲージメントが高い顧客は、単に製品を購入する可能性が高くなるばかりでなく、その高いブランドロイヤルティから周りに製品を勧めるなど、結果的に自ら率先してマーケティング活動を行なってくれる可能性も高くなります。
このように顧客エンゲージメントを考慮することは、それだけで企業のマーケティング効果を何倍にも引き上げる重要なポイントです。
さらに近年においては、顧客の購買行動の複雑化や、買い手の購買力の増加、製品・サービスの解約の簡易化が、マーケティングにおけるエンゲージメントの重要性を高めています。
近年マーケティングにおけるエンゲージメントの重要性を高めている要因のひとつが、顧客の購買行動の複雑化です。
インターネットが現在ほど発展していなかったほんの15年ほど前、顧客(買い手)の購買行動はほぼ一本道、かつ企業(売り手)の提供する情報の上に成り立っていました。インターネット普及前の買い手の購買行動を表した下図と併せて見ていきましょう。
(出典:『Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011)』)
まず、売り手が発する広告やPRなどが「Stimulus(刺激)」となり、買い手の購入意欲を煽ります。テレビのCMで最新のカメラを見て「カメラいいな。買おう。」となる姿を想像するとイメージしやすいかと思います。
次に、買い手は売り手が用意した選択肢の中から、自分に最も合う製品を選択します。この、買い手が売り手の価値判断をする瞬間のことを「Moment of Truth(MoT、真実の瞬間)」といい、上図の2つ目の、製品を選択し購入する段階は「第1の瞬間(First Moment of Truth、FMoT)」です。
製品を購入した後にもMoTが発生します。この段階は「第2の瞬間(Second Moment of Truth、SMOT)」と呼ばれ、買い手が実際に購入した製品を使用(経験)する段階です。購入時の印象と比べて製品が期待以上であったのか、期待はずれだったのかを買い手が実際に経験することで、今後もそのブランドの製品を買うか否か、買い手のブランドロイヤルティが決定する瞬間でもあります。
ではインターネットが普及した現在、買い手の購買行動はどのように変化したのでしょうか? 下図と併せて解説します。
(出典:『Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011)』)
インターネットにより情報の共有が容易になった現在。買い手は実際に製品を手に取り自分で比較する(FMoT)前に、ネット上に大量に存在するクチコミやレビュー情報から製品やブランドに対するおおよその価値判断を行うことが可能です。
この、FMoT前に買い手が入手可能となった事前情報のことを「第0の瞬間(Zero Moment of Truth、ZMoT)」といいます。ZMoTは言い換えれば、他の誰かがすでに経験したSMoTであり、拡散される情報先は、ネット記事やブログ、X(旧Twitter)、youtube、……など数えればキリがありません。
自社ブランドに対する顧客エンゲージメントはどのチャネルで発生しているのか? 買い手の購買行動が複雑化しているなか、企業のマーケターは以前にも増して注意深く分析する必要があるでしょう。
インターネットの発展による情報入手の簡易化で、買い手の購買力が高まっていることもエンゲージメントの重要性を高める要因のひとつです。
前述したZMoTを含め、企業から提供される情報を受け取るよりも前に、買い手が自ら得られる事前情報の量は増えています。
下図はTrustRadius社がテック系BtoBバイヤーの製品の購買意思決定時に参考にする情報のソースについて、2020年にリサーチしたものです。売り手による製品デモやセールスPRにならび、ユーザーレビューやウェブサイトなど買い手の自発的なリサーチが上位に食い込んでいることがわかります。
(出典:TrustRadius)
BtoBビジネスにおいてはすでに、「売り手の営業担当者が買い手から引合い連絡を受ける以前ですでに買い手の購入意志の57%は固まっている」(『The Invisible Sale』より)というのが通説です。さらには「BtoBバイヤーが売り手の営業担当と接する時間は購買行動全体のうちたった17%に過ぎない」(Gartner)というデータもあります。
顧客の購買行動は、以前は「売り手が提供するものの中から買い手が選んで買う」といった売り手主体のものでした。現代では「買い手が望んで情報収集しているものに合わせて売り手が製品を提供する」といった顧客主体のものに変化してきていると言え、購買における売り手と買い手の力のバランスに変化が起きています。
これは、顧客のエンゲージメントについても顧客自らの情報収集によるものの比重が大きくなっていることを示すため、企業のマーケターもこれまでと意識を変えて対応していくことが求められるでしょう。
BtoBビジネスの中でも特にSaaSのビジネスモデルは、「一度買ってもらったらゴール」というものではありません。成約した人に長く快適に継続利用してもらい、契約更新につなげ、さらにはオプションサービスも利用してもらうことを促して、顧客単価上昇を図ることが重要です。
たとえばビジネスチャットのSlackの例で考えてみましょう。「仕事の関係者とチャットをする」という基本機能の利用だけなら、ユーザーはまず無料から使い始められます。
しかし、やりとりする人数が増えるなどにより、チャット履歴を無制限に遡りたい、他のさまざまなシステムと連携させて使いたいといった、「より便利に使いたい」意向が高まってくると、有料プランに移行したり、アドオンを追加したりする必要が出てきます。
ツール提供側の立場では「無料プランから有料プランへ移行した顧客を獲得」ということになりますが、顧客との関係を保持するには「割高なお金を払ってでも、長く利用し続けたい」と思ってもらわなくてはなりません。
具体的には、「ユーザーが毎日ストレスなく使い続けられるよう、基本機能やUIを絶えずアップデートし続ける」「ユーザーが使い方に困っても、すぐ疑問を解決できるよう、チュートリアルやFAQを充実させる」「ユーザーニーズに合った便利な新機能(AIを活用したプラグインなど)を追加リリースする」といった取り組みを通じて顧客の離反を防ぎ、ブランドロイヤルティを高めるよう努める必要があります。
エンゲージメントの高い顧客、つまり、あなたの会社やブランド・商品・サービスを信頼して「これからも使い続けたい」と好意的な感情を持ってくれる顧客を一人でも多く増やす取り組みが重要です。なぜなら、単なる「購入者」ではなく「支持者」は、長く製品・サービスを愛用してくれるだけにとどまらず、他者推奨してくれる可能性が高いからです。
先述したとおり、BtoBの購買プロセスでは、購入の意思決定までに「レビューやクチコミ(評判)」がチェックされます。たとえばSNSや、ITツールのレビューサイトなどでSaaSの使い勝手や評判を読んで商談前に参考にする人は多いはずですが、「信頼している同業者から、オフラインで特定の製品の評判を聞く」場面があったとしたら、ネット上でレビューを読むよりも、さらに印象に残りやすいはずです。
信頼している人から特定のSaaSについて「あの製品便利ですよ、具体的に業務のこんな場面で助かっています」「この業界に合っていると思います」などとオフラインで好意的な評判を聞く機会があったとしたら、「へぇ、試してみたいな」といった印象を抱きやすいのではないでしょうか?
あなたの会社が提供する製品・サービスも「既存顧客が自ら、好意的な宣伝・クチコミをしてくれる状態」を作れているとしたら、予算を投じて広告施策やさまざまなPR施策を行うよりも、「前々から関心・好意的な印象を抱いている新規顧客」を獲得できる可能性が高まります。クチコミによって、成約に近く、獲得単価も低い見込み客を引き寄せることができるのです。
よって、購入者を支持者に変えて、長く使ってもらうだけではなく、他者推奨意向の高い顧客を一人でも多く増やすことが大切だと言えるのです。
企業のマーケティングにおいて顧客のエンゲージメントの重要性は高まっています。しかし、顧客エンゲージメントを高めるためには実際にどのような手法が考えられるでしょうか?
ここでは、顧客エンゲージメントを高めるために企業がとれるマーケティング施策について、いくつか例を挙げながら紹介していきます。
コミュニティマーケティング(Community marketing)とは、企業とユーザーが相互に交流できるコミュニティを新たに作ること。もしくは既存のコミュニティを利用し、コミュニティ内で企業対ユーザーあるいはユーザー対ユーザーのブランド体験の共有を促し、顧客エンゲージメントを高めるマーケティング手法のことです。
前述した通り、ブランド体験の共有(ZMoT)は、近年の顧客行動あるいは顧客エンゲージメントにおいてとても大きな比重を占めるものです。そして、ユーザーが自由に体験の共有を行えるコミュニティを用意してあげることには2つの利点があります。
1つめは、ユーザーがブランドへのエンゲージメントを高めやすくなること。2つめは、さまざまなチャネルに拡散される可能性のあるSMoTをコミュニティ内にコントロールした上で最大化できることです。
コミュニティを設置できる場所はさまざまあります。以下にいくつかSaaS企業の実例を挙げていきましょう。
また企業の規模にもよりますが、既存のコミュニティ企業を買収するというのも近年大手SaaS企業にみられるトレンドです。
このように、SaaS企業にとってコミュニティは、顧客エンゲージメントを高めるための貴重なアセットであり、大手企業ほどその重要性に着目し早期に手を打っていることがわかります。
前項では企業とユーザーがソーシャルメディア、GitHubなどオンライン上で相互につながり、日頃から対話を深めている事例を紹介しましたが、コミュニティの活動はオフラインでも展開可能です。
Adobeがその一例です。同社は「Photoshop」「Illustrator」などのクリエイティブツール、「Marketo Engage」といったマーケティング関連ツールの提供などで知られますが、製品別ユーザーコミュニティをオンライン上に構築するだけでなく、ときにはオフラインにユーザーを集め、クリエイティブやマーケティングのノウハウについて学べるイベントやワークショップ、ユーザーミーティングなどを開催しています。
(出典:Adobe Premiere Pro ユーザーグループ ミーティング 2024 レポート )
普段、仕事で使っているツールの愛用者と提供元企業が一同に会することは、内容次第でユーザーに深く印象付けられるでしょう。たとえば、「他の参加者から知識を得ることで、仕事の新たなアイデアやインスピレーションが湧いた」「ビジネスに関する新たなつながりを築くことができた」などポジティブな体験ができれば、ユーザーの中に「有意義なイベント」として記憶に刻まれます。
メリットを提供してくれた企業側に対しても、その後長期的に好印象を抱く可能性が高まります。結果的にユーザーエンゲージメント、ブランドロイヤルティの向上につながるといえるでしょう。
SNSは近年著しい成長を見せており、エンゲージメントマーケティングにおいても目が離せない領域となっています。
顧客の情報入手のソースは非常に多岐にわたり、複雑化していることは前述しましたが、その情報入手のソースの大きな割合を占めているのがSNSです。
(出典:Hootsuite)
事実としてHootSuiteが発表したデータでは、インターネットユーザーの約半分(43.3%)がブランドリサーチの手段としてSNSを挙げており、これはブランドや製品のウェブサイト訪問を上回っています。
またSNSではユーザー・企業間でタイムリーな相互コミュニケーションを取りやすいため、前述したコミュニティマーケティングを展開する場所としても最適です。
SNSを駆使しているSaaS企業の事例として、HubSpotがあります。Hubspotは自社のコミュニティのひとつをLinkedin上に設置し、業界のトレンドとなり得る情報やリサーチ記事、リーダーシップに関するトレーニング記事などをコンスタントにアップしています。
(出典:everyonesocial)
これらの記事にはユーザーから毎回100件以上のコメントが寄せられ、ユーザー同士が自らの意見交換を行ったり、各コメントに対してHubSpotチームからのスピーディな返答があったりと、セミナー的なコミュニティが形成されています。
グループウェア「Notion」も、さまざまなソーシャルメディアを積極的に活用しています。たとえばFacebook、LinkedIn、X(旧Twitter)、さらには数年前に流行った音声SNS・Clubhouseのアカウントも今なお継続して運営しているようです。
「ビジネス向けのTips」「テンプレート集」など、発信する主旨によってアカウントを複数使い分け、「中国語」「アラビア語」「スペイン語」など言語別でもアカウントが分かれていると見られます。世界中のユーザーにできるだけ多くリーチを図り、Notionの魅力や使い方を伝え、理解してもらって実際に製品を試してほしい(新規ユーザーを獲得したい)という目的だと考えられます。
(出典:Notion Community)
メールマーケティングで顧客エンゲージメントを高めるためには、パーソナライズされた商品の提案が重要です。
自分自身に関連性の低い製品の提案やプロモーション内容を目にしても、「クリックしてその先の情報を見てみよう」という気持ちにはなりにくいものです。よって、顧客の行動データとMAツールなどを活用して、個々の顧客に合わせた製品の提案を提供することが求められています。
たとえばNetflixは、顧客の視聴履歴や閲覧履歴に基づいてカスタマイズされた提案(次に見るべき作品をメールで案内するなど)を行っています。
顧客は自分自身の興味に沿った情報を受け取ることができるので、次に視聴したい作品とスムーズに出会うことができるでしょう。関心を持ってメールをクリックし、提案内容を受け入れたらまたNetflixを視聴する……このような流れをできるだけ長く継続させることで、Netflixにとっては「顧客のブランド関与度が高い」状態が生まれます。
つまりパーソナライズされたアプローチを行うことは、顧客との関係を深め、ブランドに対する信頼・満足度向上につながります。
コンテンツマーケティングは、顧客にとって価値のある情報を提供することで、エンゲージメントを高める手法です。
たとえば、eBook・ホワイトペーパーやセミナー・ウェビナー、オウンドメディアなど、さまざまなコンテンツを通じて、顧客との関係を築きます。質の高いコンテンツは、顧客の問題解決につながり、ブランドに対する信頼感を醸成します。また、SEO対策としても有効であり、検索エンジン経由での集客力を高めます。
eBookやホワイトペーパーは、専門的で深い知識を提供するコンテンツマーケティングの一環として有効です。たとえば、業界の最新トレンドや技術解説、具体的なケーススタディなどを盛り込むことで、読者にとって有益な情報源となります。
以下は、HubSpotが無料で提供しているeBookの一例です。「eBookやホワイトペーパー、自社で作ろうとするときは、どのような手順で作れば良い?」「テンプレートがあると助かる」と情報を検索しているユーザーを引き寄せ、関心を持ったユーザーが勤務先の連絡先などを登録すると無料で資料をダウンロードできます。
(出典:HubSpot)
ebookやホワイトペーパーの提供は、リードジェネレーションにも有効です。ダウンロードの際にメールアドレスなどの情報を提供してもらうことで、見込み客を獲得できます。また、ブランドの専門性をアピールする手段としても活用可能です。読者にとって信頼できる情報源となることで、ブランドの権威性を高めることができます。
さらにこれらのコンテンツは、顧客との長期的な関係構築にも寄与します。定期的に最新情報を盛り込んだeBookやホワイトペーパーを提供することで、接点を持ち続けることができるため、継続的なエンゲージメントを維持できるでしょう。顧客のロイヤルティを向上させることも可能です。
セミナーやウェビナーは、リアルタイムで顧客と直接コミュニケーションを取ることができる手法です。専門知識や最新の情報を提供する場として利用され、顧客の関心を引き付けます。たとえば、新製品の発表や技術的なトレーニング、業界のトレンドに関するディスカッションなどが考えられるでしょう。
(出典:マーケティングにおける「データを見る理由」と「人材育成」について ~組織観点から見た「データ人材」育成とその理由~)
特に、ウェビナーという手法は、地理的な制約を超えて広範なオーディエンスにアプローチできます。参加者が、質問・意見をリアルタイムで行うことができる仕組み(チャット機能など)を用意すれば、双方向のコミュニケーションが促進されます。また、セミナーやウェビナーの録画を後日アーカイブ配信することで、当日は参加できなかった顧客にも価値あるコンテンツを提供できます。
(出典:一人マーケターのためのSEOとUXの最適化講座 ~KPI達成につなげる考え方のポイント~ - 博報堂アイ・スタジオ)
オウンドメディアは、企業自身が所有するWebサイトやブログを通じてコンテンツを発信する手法です。質の高いコンテンツを定期的に更新することで、顧客の興味を引きつけ、長期的な関係を築くことが可能です。
たとえば、BtoBマーケティングに特化した専門知識など、顧客にとって有益な情報を提供します。ターゲットオーディエンスのニーズを理解し、それに応じたコンテンツを提供することが重要です。顧客の関心を引きつけ、エンゲージメントを高めるための一貫した戦略が求められます。
また、SNSを活用してコンテンツの拡散を図ることで、より多くの顧客にリーチし、エンゲージメントを高めることができます。
(出典:BtoBマーケティングによるリード獲得の打ち手が見つかるメディア|One Tip)
オウンドメディアはSEO対策としても有効です。自社のコンテンツが検索エンジンで上位表示されるようになれば、オーガニック検索からのトラフィックを増加させることができます。ブランドの認知度が向上し、潜在顧客の獲得をより後押しできるでしょう。
ポッドキャストを活用したマーケティングアプローチも、顧客エンゲージメントを高める手法として有効です。
ウェブサイトやSNS、動画コンテンツなどでの「視覚」によるリサーチは、集中して文字を読んだり映像を見たりと、どうしてもユーザーの時間を拘束してしまいがちです。しかし、ポッドキャストのような「聴覚」による音の情報は、たとえば車を運転しながらでも散歩をしながらでも、イヤホンなどを使えば入手することができます。
そのため忙しくて時間に余裕がない、または別の作業と並行して情報をインプットしたいといった買い手にとって、ポッドキャストによる音のリサーチは十分選択肢になり得るのです。
(出典:Hootsuite)
また、上図はHootsuiteによるリサーチですが、25〜34才のミレニアル世代の約4人に1人は、少なくとも週に一度はポッドキャストを聞いていることがわかります。
ミレニアル世代の割合はアメリカでは労働人口の35%を占めており、すでにテック系BtoBバイヤーの約60%を占めるといわれています。彼らがよく利用するチャネルに向けてマーケティングアプローチをかけるのは道理といえるでしょう。
自社でポッドキャストのチャンネルを設立するのもひとつの手ですが、既にあるSaaS系のチャンネルにゲスト出演するというのも有効かもしれません。
(出典:Spotify)
たとえば、SaaStrというSaaS専門チャンネルには、NotionのCPDやBoastの共同創立者、AtlassianのCROなど、そうそうたるメンツがゲスト出演しホストと議論を繰り広げており、リスナーには彼らのブランドや取り組みなどが深く印象づいていると予想ができます。
また、最近はビジネスに特化した動画メディア「PIVOT」なども知られるようになりました。動画コンテンツもまた前述のポッドキャスト同様、「忙しいビジネスパーソンで、ながら聴きでインプットをしたい」といったニーズに合う手法だといえます。
(出典:PIVOT)
「PIVOT」はBtoB企業の認知を高めるなどの目的で、タイアップ動画の制作にも応えられるようです。自社で認知獲得やサービス理解のための動画を制作する手もありますが、集客力の高いメディアとタイアップして、視聴者獲得の最大化を目指す、というのもよいかもしれません。
エンゲージメント率を高めるために、企業のマーケターが意識すべき重要なポイントについていくつか紹介します。
エンゲージメントマーケティングを効率よく実施するには、顧客の購買行動を深く理解し分析することが大切です。そして顧客の購買行動を理解するためには、今回紹介した内容のほかに「ペルソナ」と「カスタマージャーニー」についても正しく理解しておく必要があります。
ペルソナとは、製品やサービスのターゲットの代表として企業が設定する架空の顧客像のことです。さまざまな媒体(チャネル)から情報入手が可能となった現代では、顧客は自身の環境や嗜好などにあわせて情報の入手元を自由に選択します。そんななか、幅広い層に向けたアプローチを一様に行っても高いエンゲージメント効果は期待できません。
(出典:ペルソナとは? ビジネスを成功に導くペルソナの設定例とその項目を解説)
チャネルごとのターゲットにピンポイントに刺さるアプローチをするため、具体的な顧客の人物像(ペルソナ)を設定することは、エンゲージメントマーケティングを行う上でも避けては通れないでしょう。
また、設定した各ペルソナがどのような行動や思考、感情や体験を経て自社の製品購入にいたるのかをマッピングしたカスタマージャーニーを把握することも、顧客の購買行動の理解に直結する重要な要素のひとつです。
(出典:カスタマージャーニーとは?カスタマージャーニーの意味とマップの作り方をステップで解説)
エンゲージメントマーケティングの成功には、顧客を中心に据えたアプローチが不可欠です。
まず、対象顧客を深く理解するために、属性データの収集や顧客行動の分析を行い、好みや課題を特定します。このとき、CRMツールが役立つでしょう。顧客のニーズを把握し、パーソナライズされた体験を企画・提供する上で重要です。
次に、パーソナライゼーションとセグメンテーションの重要性が挙げられます。顧客を属性、好み、行動などに基づいてセグメント化し、それぞれのセグメントに適したマーケティングキャンペーンを展開します。たとえば、パーソナライズされたメールやWebコンテンツの出し分けなどが有効です。「顧客一人ひとりに対して、できる限り関連性の高い情報を提供する」という視点が重要だといえます。
さらに、インタラクティブコンテンツの活用も有効です。クイズ、投票、アンケートなどの形式を取り入れることで、顧客の注目を引き、積極的な参加を促し、「能動的に参加した」と、より強い印象を残すことができます。
以下はその一例で、「インタラクティブ動画」というコンテンツです。「インタラクティブ動画」は、動画再生中に画面内をタップ、クリックすることで再生内容が変わり、視聴者が抱える課題に合った解決策を提案することができます。
(出典:動画ギャラリー| インタラクティブ動画制作プラットフォーム「MIL(ミル)」)
あらゆる情報がWeb上に溢れている現代の環境を踏まえて、訴求したいことを企業側から一方的に伝えるだけではなく、「顧客の視点で印象に残るアプローチとはどんなものか?」と常に戦略的に考える必要があります。
エンゲージメントマーケティングを成功させるためには、顧客に自発的にブランドとのつながりを持とうと思ってもらうことが重要です。そのためには顧客にとって魅力的な質の高いコンテンツを提供する必要があります。
先に挙げたHubSpotのSNS事例のように、業界のトレンドや最新のリサーチなど、ターゲットとする顧客が興味を持っているであろう情報を提供したり、ときには疑問を投げかけることで顧客同士の意見交換を促したりと、コンテンツに対する顧客の関与を促すような工夫が必要でしょう。
またコンテンツの内容のほかにも、「リッチコンテンツ」と呼ばれる音声や音楽、動画やアニメーションを活用した動的なコンテンツを盛り込むこともひとつの選択肢です。
リッチコンテンツを使用することで、コンテンツがより顧客の印象に残る、直感的にわかりやすいものとなる、また顧客の感情に訴えやすいものになるなど、顧客のコンテンツへの関与をより強く訴求できる可能性があります。
リッチコンテンツについては当ブログのこちらの記事でも紹介しておりますので、ぜひ併せてご一読ください。
また、昨今ではBtoBマーケティングにおいて、ユーザー生成コンテンツ(User Generated Contents=UGC)の活用も重要になってきています。SaaS製品の比較検討段階でSNSのクチコミなどをチェックして購買の判断材料にしようとする人が増え、UGCの影響度も高まっているからです。
たとえば、以下はSaaSに関するUGCの一例で、TikTokで「#googlesheets」とハッシュタグ検索を行った結果です。世界中で膨大な人々がGoogleSpreadsheetの使い勝手やTipsを動画で発信していることがわかります。動画を見て「こんなに簡単に計算が完了するのか」などと理解できれば、Spreadsheetを新たにユーザー登録して、使ってみようとする人が増えるでしょう。
この例のように、あなたの会社の製品・サービスに関してSNS上で使い勝手・活用法についてユーザーから数多くのクチコミ発信をしてもらうことができれば、新規ユーザーにリーチ・獲得できる可能性が高まるといえます。
(出典:TikTok)
エンゲージメントマーケティングでは、見込み客に対して一貫したメッセージを伝えることが非常に重要です。つまり、見込み客が欲しい情報を適切なタイミングで提供することが求められます。媒体によってメッセージが変わってしまうと、見込み客の信頼を損ねたり、混乱を招いたりする恐れがあり、新規顧客の獲得に影響を及ぼすためです。
よって、どの媒体を通じてもブランドとして一貫性のある訴求を行い、統一された顧客体験を提供することが重要です。Webサイト、ソーシャルメディア、メールマガジン、広告など、全てのチャネルで同じブランドメッセージを発信し、顧客に信頼感を与えることが重要です。
どのマーケティング施策を実施する際にも言えることですが、実施する上で何を目標とするのか? 何をもって成功度合いを測るのか? といった定量的目標および評価指標の設定はとても重要です。
このような定量的目標は「KGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)」、評価指標は「KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)」とそれぞれ呼ばれます。
KGIやKPIという名前が分かったところで、定量的な目標および評価指標を設定するのは簡単なことではありません。どうしても難しいという場合には「SMARTの法則」を使ってみることをお勧めします。
(出典:Toolshero)
SMARTの法則とは、
の目標設定における5つの成功因子の頭文字をとった法則で、定量的で達成可能、かつ具体性のあるゴールおよび評価指数を設定することに長けたフレームワークです。
KGI・KPIについては当ブログのこちらの記事で、SMARTの法則についてはこちらの記事でそれぞれ紹介しています。ぜひご一読ください。
SNSとGA4における「エンゲージメント」は、それぞれ異なる視点からユーザーの関与を測定する概念です。ここでは、両者の違いを説明します。
SNSにおけるエンゲージメントは、ユーザーがSNS上でブランドやコンテンツとどのように関わっているかを測定する重要な指標です。
具体的には、投稿に対する「いいね」「コメント」「シェア」といったアクションが含まれ、
を示します。
SNSでのエンゲージメントを高めるためには、質が高く一貫性のあるコンテンツ(BtoB SaaSであれば、ターゲットユーザーのビジネス上の課題解決に繋がり、常にブレずにあらゆるチャネルでそのようなコンテンツを提供し続けること)が重要なのはもちろん、ユーザーとの対話を積極的に行うことも有効です。
コメントに返信したり、ユーザーがシェアした投稿に反応したりすることで、ユーザーと企業が双方向につながる状態が形成され、ユーザーとの関係を強化できます。
GA4におけるエンゲージメントは、Webサイトやアプリ内でユーザーがどのように行動しているかを示す重要な指標です。GA4は従来のGoogle Analytics(アクセス解析ツール)から進化し、ユーザー中心のデータ分析を可能にするプラットフォームです。
エンゲージメント指標としては、
などがあります。
GA4を活用することで、Webサイトやアプリのどの部分がユーザーにとって魅力的であるかを特定し、コンテンツや機能の改善に役立てることができます。
たとえば、特定のページでエンゲージメントが高い場合、そのページの内容やデザインを他のページにも応用することで、全体のエンゲージメントを向上させることにつながります。また、エンゲージメント指標をモニタリングすることで、マーケティング施策の効果を評価し、戦略の継続、あるいは再考などにも役立てることができます。
ここからは、BtoBでエンゲージメントマーケティングに成功した事例を2つ紹介します。
ZapierはアメリカのSaaS企業で、さまざまなWebアプリケーションを連携させる自動化プラットフォームを提供しています。Zapierのミッションは「誰でも自動化を使えるようにすること」で、7000以上のアプリを統合してデータの移動を自動化することで、多くの企業が日常業務を効率化する手助けをしています。
Zapierのエンゲージメントマーケティング成功の鍵は、ソーシャルメディアを通じた積極的なコミュニケーションとコンテンツ提供にあります。たとえばInstagramでは、顧客の成功事例や製品の使い方、そしてチュートリアルなどを共有することで、フォロワーとの信頼関係を構築しています。
(出典:Zapier (@zapier) • Instagram photos and videos)
さらに、Zapierはブログやウェビナーなどの多様なコンテンツを活用してユーザー教育を行い、価値提供を行っています。ユーザーは製品を有効に活用できるようになり、エンゲージメントが向上するでしょう。
Zapierの事例は、ソーシャルメディアと多様なコンテンツマーケティング手法を組み合わせ、顧客エンゲージメントを高めている成功例だといえます。顧客が求める適切なコンテンツ提供を通じて関係を深め、信頼感と満足度を向上させることが、エンゲージメントマーケティングの成果を最大化するための重要な要素だといえるでしょう。
AWS(Amazon Web Services)は、Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスです。サーバー、ストレージ、データベース、機械学習など多岐にわたるサービスを提供しています。ユーザーは自社でハードウェアを管理する必要がなく、スケーラブルで柔軟なインフラ環境を利用できます。
(出典:AWS)
AWSはエンゲージメントマーケティングの一環として、ユーザーコミュニティの形成とナレッジ共有に注力しています。たとえば、「AWS re:Post」というプラットフォームを通じて、ユーザーは質問や経験を共有し、他のユーザーからのフィードバックを得ることが可能です。よくある質問やトラブルシューティングガイドを提供し、ユーザーが迅速に問題を解決できるよう支援しています。
(出典:AWS re:Post)
さらに、AWSはコミュニティグループを通じてユーザー同士の交流を促進しています。ユーザーは最新の技術情報を共有し合い、ネットワーキングを深めることができます。たとえば、日本では「AWSユーザーグループ(JAWS-UG)」が活発に活動しており、定期的に勉強会やイベントを開催しています。
(出典:JAWS-UG)
AWSはオンラインプラットフォームとコミュニティ活動を通じてユーザーのエンゲージメントを高め、信頼性と満足度を向上させていると伺えます。ユーザーはAWSのサービスを最大限に活用できるようになり、長期的な顧客関係が築かれているといえるでしょう。
BtoBの購買における売り手と買い手の力関係の変化により、買い手の選択肢はもはや売り手が提供する情報のみにとどまりません。それどころか、買い手はインターネットを通じて自由に情報を入手することが可能です。むしろ売り手には自身の意思決定の最後の「答え合わせ」しか望んでいない、というのがデータが示す現代の購買行動です。
だからこそ、今回紹介したエンゲージメントマーケティングのように、顧客の購買行動の初期の環境から寄り添い、顧客に自社ブランドを「自発的に」リサーチしてもらうような取り組みが大切になってきます。
しかしこれはエンゲージメントマーケティングだけでなく、当ブログでこれまで紹介してきた他の現代的なデジタルマーケティングの多くに共通することです。
〇〇マーケティング、△△マーケティング、とそれぞれを全く違うものと捉えるのではなく、さまざまな角度からBtoBのマーケティングを見つめる視点として捉えていただき、当ブログの他の記事の情報と併せて、自社に最適なマーケティングアプローチを見つける手助けとしていただけたら幸いです。