製品企画の仕事は華やかでクリエイティブなイメージがありますが、実際は発想だけではなく緻密な分析・検証が必要な、頭脳も感性も駆使する極めて難易度の高い仕事です。
「こんなサービスがあったらすごい」と素晴らしいアイデアを思いついても、他企業がすでに類似サービスをリリースしていたり、開発コストが見合わず量産できなかったりすることは珍しくありません。
無事に発売までこぎつけても思うようにヒットしないこともあれば、最初は大人気でも強力なライバル製品が登場するなど、次々と課題は発生してくるでしょう。
しかし、このような難易度の高い任務を成功させるのが企画・マーケティング部門のミッションです。変化する市場ニーズを巧みに捉え、競合他社の動きを見据える必要があります。膨大な情報と脈絡なく浮かぶ自分のアイデアを整理整頓し、仮説・検証を繰り返して成功するまでトライし続けなければなりません。
その上で役立つフレームワークのひとつとして「4C」が挙げられます。4Cは顧客視点で自社製品・サービスについて検討するための分析方法で、「顧客中心主義」が重要視される2024年現在においても未だ重要度の高いフレームワークです。本記事では、商品・サービス企画のための4C について解説します。
※本動画はAIによる音声になります。
また、内容は本ブログ記事の要約になります。詳細の情報は以下のブログ記事内をご覧ください。
4Cとは、見込み客が製品を購入する際に影響を与える、以下の4つの要素を顧客視点で分析するフレームワークで、「Customer Value(顧客価値)」「Cost(コスト)」「Convenien(利便性)」「Communication(コミュニケーション)」の4つのCから成り立ちます。
企業視点ではなく顧客にとっての「価値」「便利さ」「最適なコスト」「快適なコミュニケーション」を捉えましょう。4C分析を行うと、企業のお仕着せではない顧客が真に求める製品・サービスを企画しやすくなります。
4Cは、1993年に米国のRobert Lauterborn(以下、ロバート・ラウターボーン)氏によって提唱されました。
4Cが登場する前までは、1960年代に提唱された「4P分析」が基本フレームワークとして主に活用されていました。4Pも売り手・買い手双方の視点で戦略を考えるフレームワークですが、どちらかといえば企業視点が強いのが特徴です。
これに対し4Cは、顧客二ーズが多様化した1990年代、インターネットの普及に伴い4Pから派生したかたちで登場します。簡単にいえば4Pの要素を顧客視点で捉えなおすフレームワークです。
この変化は、市場や消費者の行動パターン、消費者自身の進化によって、4Pの理論が時代にそぐわなくなりました。4Pは企業中心の理論であり、消費者中心ではないとの理由から、4Cは生まれたのです。
実際、ロバート・ラウターボーン氏は「従来の4Pはもはや意味を持たず、現代のマーケターにとって有用なものではない」と主張しています。
(出典:Consuunt「4C Marketing Model」)
2024年現在はインターネットがさらに発展し、買い手が自身の課題解決のために情報を探すようになりました。スペックなどの情報提供ではなく、課題解決のためのソリューションを売り手が提供する必要性が高まったことを考えれば、プロダクトアウト的な思考の強い4Pから4Cへフレームワークが変化したこともうなずけます。
ここからは、4Cを構成する4つの要素について、BtoB SaaS目線で解説します。
「Customer Value(顧客価値)」とは、顧客にとっての自社製品・サービスのメリットです。
例えば、高度な技術力を持つ企業が「この機器には世界最高精度の◯◯を搭載している」「この価格でこんな多彩な機能がある」などと売り出しても、顧客がそこまでの機能を必要としていなければ単にオーバースペックとなり、価値をあまり感じないでしょう。
この考え方はモノがない時代には通じましたが、モノが溢れ、さらにはインターネットを使って買い手が自分の求める情報へ自由にアクセスできるようになった現在では通じません。
BtoB SaaSの場合、提供する「ソフトウェアやサービスが顧客企業の業務効率化や生産性向上にどのように寄与するか」が重要です。単に機能や性能を訴求するだけでなく、顧客企業が抱える課題を解決し、ビジネスの成長に繋がる価値提供を行いましょう。
<マーケティングでの検討要素>
顧客にとっての「Cost(コスト/費用)」とは、製品・サービスの価格だけではありません。購入後の維持・メンテナンスのコスト、オプションサービスの費用、別途発生するコンサルティング料金なども対象です。BtoBであれば、サービスを使用することで増える社員の作業時間もコストとなるでしょう。
価格の決め方には、開発コストや製造原価をベースに設定したり、競合他社の価格プランを参考に設定したりするなどの方法がありますが、4Cでは顧客にとっての価値をベースに価格設定を行います。
価値ベースの価格設定は、製造業のように長期間の研究や莫大な開発投資をする業界では難しい面もあります。一方で、SaaSビジネスの場合は、サプライチェーンや原価のような考えがなく、経費の多くが人件費なため価値本位の価格設定がしやすいといえます。
SaaS企業の場合、サブスクリプションモデルが主流であり、顧客企業の規模や利用人数、利用期間などに応じた柔軟な料金プランを用意するのが一般的。初期費用を抑えた従量課金制や、無料トライアル期間など、見込み客が導入しやすい価格体系を工夫することが大切です。
<マーケティングでの検討要素>
「Convenience」という単語は広い意味を持ちますが、4Cでは顧客の「製品・サービスの購入のしやすさ」「情報の入手のしやすさ」を指します。
例えば商品をどこで買えるかです。販売チャネルが多ければ顧客は手軽に購入できます。オンラインの場合、インターネット上での情報の得やすさ、Webサイトの視認性、購入ステップのわかりやすさ、デリバリー・支払い方法の選択肢の多さなどです。
顧客企業のニーズに合わせて、柔軟なサービス提供体制を整えることも大切です。「電話やメールでのサポート対応」「カスタマイズ可能な機能」「スムーズなデータ移行」など、顧客の利便性を高めるためのさまざまな工夫を心がけましょう。
<マーケティングでの検討要素>
4Cにおけるコミュニケーションとは、営業担当者、サービス・サポート部門の窓口、展示会・セミナー・ウェビナーなどのイベント、自社Webサイトでのチャット、SNS上での交流など、さまざまな顧客との交流を指します。
近年はSNSが増えたことにより、企業から一方通行のメッセージを発信するだけではなく、顧客の声を拾いやすくなっているため、ますますコミュニケーションの重要性は増しています。
BtoB SaaSの場合、製品やサービスの特性上、顧客との長期的な関係性が非常に重要です。単に製品を販売するだけでなく、顧客の課題解決に継続的に貢献し、パートナーとしての信頼を獲得することが求められます。カスタマーサクセスの体制も構築し、顧客と長期的な関係を築きましょう。
<マーケティングでの検討要素>
BtoB SaaS企業が自社のマーケティング活動で4Cを活用する意義としては、以下のものが挙げられます。
それぞれ個別にみていきましょう。
BtoB SaaS企業にとって、顧客視点でマーケティングを捉えることは非常に重要です。4Cフレームワークを活用することで、自社の製品やサービスが顧客にとってどのような価値を提供しているのかを明確にできます。
顧客が求めているのは単なる機能ではなく、その製品やサービスを使うことで得られるベネフィット。例えば、4Cの「Customer Value(顧客価値)」の観点から自社の製品・サービスを見直すことで、顧客が求める価値を提供できているかを検証可能です。
これはまさにマーケットイン型のソリューション開発であり、「自社が作りたいもの」ではなく、「市場で求められている」製品・サービスを作り上げられます。
4Cフレームワークを活用することで、マーケティングコストやリソースの最適化が図れますので、的確なターゲティングが可能となり、無駄なマーケティング活動を削減できます。
顧客のニーズに合わない製品・サービスの訴求や、興味・関心の低い層へのアプローチに投じていたコストを、より有望な見込み客の獲得に振り向けられるようになるでしょう。
具体的には、以下のようなコストとリソースの最適化が期待できます。
Michael Porter(マイケル・ポーター)氏は、競合他社と比較して低い事業運営コストを実現することで競争優位性を確保するコストリーダーシップ戦略を提唱しました。これはBtoB SaaSにとっても有用で、価格競争に対して安定感のある事業体制を構築できます。
4Cフレームワークを活用することで、SaaS企業は顧客起点の視点から自社の強みを明確にし、競合他社との差別化を図ることができます。
4Cとは顧客視点の分析だと述べましたが、それは裏を返せば「競合他社がまだ顧客に対して提供できていない要素」を分析する手法だともいえます。
顧客のニーズや課題を深く理解することで、自社の製品やサービスが、競合他社と比べてどのような点で優れているのかを明らかにできます。例えば、SaaS製品なら「顧客の利便性を高める独自の機能」「競合他社にはない柔軟な価格体系」「業界特化型のサポート体制」など、自社ならではの強みを特定し、アピール可能になります。
4Cフレームワークに基づいたデータ分析により、競合他社が見落としているニッチな顧客セグメントや、未充足のニーズを発見することもできます。そうした「市場の隙間」を狙って、差別化された製品やサービスを提供することで、競争優位性を確立できるでしょう。
ただし差別化のためには、自社の強みを活かしつつ、顧客のニーズに合わせて柔軟に対応していく姿勢が重要です。画一的なアプローチではなく、常に顧客の声に耳を傾け、変化し続ける市場の要求に適応しましょう。
ここからは、4Cと混同されがちな4Pの概要と、2つのフレームワークの違いについてみていきましょう。
マーケティングの4Pは、1960年代に提唱されたフレームワークで、「マーケティングミックス」とも呼ばれます。
4Pは「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Place(流通)」の4要素から構成されており、各要素を最適化することで、効果的なマーケティング戦略を立てられます。
それぞれの要素について、簡単に解説します。
「Product(製品)」とは、企業が提供する製品やサービスを指し、「製品の品質」「デザイン」「機能」「パッケージング」などが含まれます。
BtoB SaaS企業の場合、提供するソフトウェアやサービスが、顧客企業の業務効率化や生産性向上にどのように寄与するかが重要な設計ポイントです。
単に機能や性能を訴求するだけでなく、顧客企業が抱える課題を解決し、ビジネスの成果につなげることができる価値を明確に伝える必要があります。
「Price(価格)」は製品やサービスの「価格設定」を指します。価格は、製品の品質、競合他社の価格、顧客の支払い能力などを考慮して決定するもので、売上げや利益に直結するため、慎重に行う必要があります。
SaaSビジネスの場合、価格設定の際には、「LTV(顧客生涯価値)」「CAC(顧客獲得単価)」の比率を意識することが重要です。価格を低く設定しすぎると、CACに対してLTVが十分に高くならず、収益性が悪化する可能性があります。一方、価格を高く設定しすぎると、顧客の獲得が困難になり、事業の成長性が損なわれるかもしれません。
「Promotion(プロモーション)」は製品やサービスを顧客に知ってもらい、購入を促進するための広報活動のことです。
SaaS企業のプロモーションでは、コンテンツマーケティングが特に重要。自社ブログやホワイトペーパー、ウェビナーなどを通じて、顧客企業の抱える課題やその解決方法に関する有益な情報を提供することで、自社の専門性を示し、ロイヤルティを醸成できます。
展示会やセミナーへの参加、パートナー企業との連携など、オフラインでのプロモーション活動も効果的です。
「Place(流通)」は、自社製品・サービスを顧客に届けるための流通チャネルを指します。
SaaS企業の場合、主な流通チャネルはインターネットです。自社のWebサイトを中心に、顧客企業が製品やサービスの情報を入手し、契約・利用できる環境を整備することが求められます。
パートナー企業との協業により、販売網を拡大する手段もあります。クラウドベースのサービスであるため、グローバル展開も比較的容易であり、海外市場への進出も視野に入れた流通戦略も検討できるでしょう。
4Cと4Pの主な違いは、「顧客視か、企業視点か」です。4Cは徹底的に顧客の視点に立って思考するのに対し、4Pは売り手・買い手双方の視点で戦略を考えるフレームワークであり、どちらかというと企業視点が強いプロダクトアウト的思考が特徴といえます。
ただし、4Cと4Pは相互に関連しており、どちらか一方だけを考慮するのではなく、両方のバランスを取ることが重要です。4Cの視点を取り入れることで、顧客志向のマーケティング戦略を立てる一方で、4Pの視点を取り入れ、企業の利益や成長を図るといった形で、それぞれを最適化させることが求められます。
4Cだけに頼ると、顧客の細かすぎる要望を取り入れすぎてしまい採算の取れないビジネスになるリスクがあります。そのため、4Pの視点も取り入れたマーケティング戦略を策定しましょう。
ここからは、4Cと4Pがどのように関わるのかをみていきましょう。4つのCとPは、それぞれ次のように連動します。
以下より、詳しく解説します。
4Cの「Consumer(消費者)」と4Pの「Product(製品)」は密接に関連しています。4Pの視点では、製品の特徴や品質に重点が置かれますが、4Cの観点では、その製品が消費者にとってどのような価値を提供するかが重要となります。
つまり、製品自体の機能や性能ではなく、それを使用することで得られる消費者のベネフィットに焦点を当てるのです。企業は、ターゲットとする消費者のニーズや課題を深く理解し、それに対する最適なソリューションを提供することが求められます。
加えて、プロダクトライフサイクルも考慮する必要があります。導入期、成長期、成熟期、衰退期のどの段階にあるかによって、消費者のニーズや製品に求める価値は変化します。それぞれの段階に応じて製品戦略を柔軟に調整していくことが重要です。
BtoB SaaSの場合、提供するソフトウェアやサービスが、顧客企業の業務効率化や生産性向上にどのように寄与するかも重要ポイントでしょう。単に機能や性能を訴求するだけでなく、「顧客企業が抱える課題を解決し、顧客企業の成長に貢献できるのか?」という問いを忘れてはいけません。
企業の設定する価格は、顧客にとってコストです。顧客が喜んで払おうと思えるように、4Cでは顧客価値ベースで価格を設定します。その理由は、価格の高い低いはペルソナが製品・サービスにどれほど価値を感じるかで決まるからです。
そのため、以下の点を議論して決めていきます。
一方で、顧客にとってのコストは、単に金銭的な支出だけでなく、製品の導入や運用にかかる手間や時間も含まれます。これらの見えないコストを最小限に抑えることで、顧客が感じる総コストを低減し、製品の価値を高めることが可能です。
実際、価値ベースの価格設定にすることで、顧客が製品やサービスの知覚価値に応じて支払えるため、より好まれる選択肢になるとの報告もあります。
しかし、だからといって「高く設定してはいけない」ということではありません。顧客は理由のない値上げ、後付けの理屈の値上げに納得しないことも多いので、低すぎる価格設定は、自社の成長タイミングで思わぬ足かせになるでしょう。
価格設定の際には、競合他社の価格帯や業界標準も考慮しながら、自社のフェーズや立ち位置に合わせて設定することが重要です。安易な価格競争に陥ることなく、顧客に提供する価値に見合った適正な価格を設定することが求められます。
「ペルソナとどこで接点を持つか? 」について、オフライン・オンラインそれぞれのチャネルを決めて、マーケティング施策を決めていきます。
例えばペルソナが40~50代であれば役職についているケースが多いでしょう。自ら情報を探しにいく時間は少ないため、従来型の営業活動のほうが出会える可能性は高くなるかもしれません。なお、その世代が好んで使用するSNSはFacebookです。
デジタルネイティブ以降の世代ならウェビナーに気軽に参加してくれるなど、ペルソナを起点で顧客と出会える場所、顧客が製品・サービスの情報を得やすいチャネルを考えます。
SaaS製品の導入における、意思決定者と実際のユーザー(従業員)の考え方の違いにも留意が必要です。一般的に、両者の考えは以下のように異なります。
<意思決定者(経営者や管理職など)が重視するポイント>
など
<実際のユーザー(従業員)が重視するポイント>
など
両者のニーズや重視するポイントが異なるため、それぞれに適したアプローチを取ることを意識しましょう。
コミュニケーション、プロモーションのあり方を決めていきます。顧客がよく使うチャネル上で、顧客の購買心理の変容(興味関心→比較検討→問い合わせ)に合わせた製品・サービスのプロモーションを行なっていきます。
業種によってはSNSやコミュニティを介したコミュニケーションで、当初から製品・サービスについてのアイデアを募集して協同で開発してもよいでしょう。ただし、コミュニケーションでは売り手・買い手がギブアンドテイクの関係でなければなりません。
BtoB SaaSの場合、製品やサービスの特性上、顧客との長期的な関係性が非常に大切です。単に製品を販売するだけでなく、顧客の課題解決に継続的に貢献し、パートナーとしての信頼を獲得することが求められます。そのためには、顧客とのコミュニケーションを密に取り、ニーズや課題を的確に把握する必要があります。
導入後の顧客サポートやオンボーディングに向けた取り組み、顧客定着率やアップセル・クロスセルに大きな影響を与えます。顧客の利便性を高め、製品を継続的に活用してもらうためのさまざまな施策が求められます。
4Cを自社のマーケティング戦略に組み込む際には、以下の4ステップを踏みましょう。
次項より、詳しく解説します。
まず、何のために4C分析を行うかを明確にします。「新製品を開発するため」「既存製品をもっと売るため」「新たな顧客層をとりこむため」などの目的をしっかり捉えるのが大切です。
活用できるリソースの整理も行います。一般に大手企業はリソースが豊富ですので、先に活かしたい技術があることが多く、すでに顧客を多数抱えているため、プロダクトアウトの戦略もとれます。
ベンチャー企業はリソ―スがないため、先に市場を徹底的リサーチしてからコンセプトを考えるマーケットインの戦略をとりましょう。
昨今のコロナウイルスによる市場の激変を経験した方は実感したと思いますが、ビジネスは、顧客ニーズだけを気にしていれば大丈夫とは限りません。政治、経済、社会、技術の影響は甚大なので、最初にマクロな分析を行いましょう。
市場には競合企業もいるため、資金力、人材力、技術力の差などを考慮して、相手と戦うか住み分けるかを決める必要があります。
自社の立ち位置を把握するために業界分析も行いましょう。外部環境分析についてはこちらの記事をご覧ください。
例えばコロナウイルスで打撃を受けた業界でも、当分ダメだと思考停止するのは早計です。各社がビジネスモデルの変革を進め、業界の勢力図が変化しているかもしれません。何か新たなニッチ市場がうまれている可能性もあります。
外部環境分析を定期的に行うことで、業界内外のライバル企業より先にチャンスをみつけやすくなるでしょう。
誰に向けて製品・サービスを届けるのかターゲット層を絞りこみ、ペルソナ(理想的な半架空の顧客プロファイル)を設定しましょう。
以下の方法などでターゲットとする顧客のニーズを調査します。ニーズの多い領域で、なおかつ自社が製品・サービスを提供して、顧客から高く支持される可能性の高い市場を把握します。
ターゲット層が決まったら、さらに対象をしぼりこみ、その製品・サービスのペルソナを設定します。ペルソナは業界、企業規模、性別、年代、業界、職種、役職、個性などできるだけ詳細に設定しましょう。
ペルソナを設定する理由は、誰に向けた製品・サービスかをはっきりさせるためです。対象がぼやけてしまうと、「顧客にとっての価値」「適正価格」「好まれるコミュニケーションのあり方」を決められず、誰に向けて売っているかよくわからない製品・サービスになってしまいます。
この段階にきてから、ようやく4C 分析と4P分析を行います。
この時点で、市場ニーズがあるとわかっている上に、自社が価値を提供できる顧客層を把握できており、ペルソナまで設定した状態が理想です。
売る側の論理と買う側の希望の落としどころを探るために、4Cと4Pの各項目をテンプレートに書き込み比較してみましょう。
例えば、後発で電子契約システムを販売するベンチャー企業が、自社サービスを売り手・買い手双方の視点(4Pと4C)で捉えると以下のように分析でき、自社の強味や改善点が明確になります。
ここからは、BtoB SaaS企業にとっても役立つ4C分析の活用例について、実在する企業のグロースの過程を題材にしてみていきましょう。
それぞれ詳しく解説します。
(出典:Dropbox)
「Dropbox」は、2007年にAndrew W. Houston(ドリュー・ヒューストン)氏とArash Ferdowsi(アラッシュ・フェルドシ)によって創業されました。当初、彼らはITに詳しい友人や家族を対象に、クラウドストレージサービスのプロトタイプを共有していました。 クラウドストレージサービスの先駆者として、フリーミアムモデルを採用しています。
これは、4Cの「Customer Value(顧客価値)」に当たる要素といえ、ドリュー・ヒューストン氏はサービスを開始した理由について「私自身が欲しかったから」と述べています。
同社は、ユーザーに無料で基本的なストレージサービスを提供することで、顧客はリスクなしにサービスの価値を体験できます。その後、追加機能が必要になるにつれて有料プランへの移行を促すことで、顧客の獲得と維持を実現しました。
リファラルプログラムを通じて、ユーザーが友人を紹介することで追加の無料ストレージスペースを獲得できる仕組みを導入しています。このプログラムは、口コミによる製品の普及に大きく貢献し、Dropboxの急速な成長を支えました。実際、2008年のローンチから1年足らずで、ユーザー数は100万人に達しています。
「顧客に提供する価値」を起点にサービスを整え、「無料かつシンプルなインターフェースによる間口の広さ」「リファラルプログラムによる拡散力」でグロースした同社は、BtoB SaaSにおける4Cの好例といえます。
4Cの要素 |
Dropboxの戦略 |
Customer Value (顧客価値) |
フリーミアムモデルによる無料の基本ストレージサービス提供。 |
Cost (コスト) |
初期の無料提供と、リファラルプログラムによる追加の無料ストレージスペース獲得。 |
Convenience (利便性) |
シンプルで直感的なユーザーインターフェースとクラウドベースのサービス。 |
Communication (コミュニケーション) |
リファラルプログラムによるユーザー間コミュニケーションの促進と口コミの活用。 |
(出典:Slack)
ビジネスチャットツールとして名高い「Slack」は、2013年にStewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)氏によって設立されました。もともとはゲーム開発会社のStoicallyの社内コミュニケーションツールとして開発されたものでした。
このツールを、企業向けのチームコミュニケーションを一元化し効率化するプラットフォームとして開発したことで、現在の大成功に至ります。
チームの生産性向上とプロジェクト管理の容易さが、Slackの主な「Customer Value(顧客価値)」といえます。2013年のベータテストからわずか1週間で1万6000人がユーザー登録し、正式なローンチ後も急速に成長を続けたのがご存じのとおりです。
SlackもDropboxと同じく、基本的な機能を無料で提供し、より多くの統合や高度な機能を求めるチーム向けに段階的な料金プランを設定することで、各組織のニーズと予算に応じた選択肢を用意しています。
さらに、クロスプラットフォーム対応と高い互換性により、どのデバイスからでもアクセス可能で、ユーザーにとっての利便性を大幅に向上させました。SlackではAPIも公開されており、サードパーティ製アプリとの統合を促進することで、ユーザーにとっての価値を高め、エコシステムを構築しています。
Slackは、ユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、それを製品の改善に活かしています。こうした企業とユーザー間の継続的なコミュニケーションが、Slackのユーザーエンゲージメントを高め、ロイヤルティの向上に貢献していると推察できます。
4Cの要素 |
Slackの戦略 |
Customer Value (顧客価値) |
チームコミュニケーションの一元化と効率化によるチームの生産性向上。 |
Cost (コスト) |
基本機能の無料提供と、ニーズに応じた段階的な料金プラン。 |
Convenience (利便性) |
クロスプラットフォーム対応と高い互換性によるアクセスの容易さ。 |
Communication (コミュニケーション) |
ユーザーからのフィードバックの積極的な収集と製品改善への反映。 |
顧客がどれだけ常に「満足」しているかが、企業が成功する鍵です。多くの企業の寿命は、約10年といわれています。
スタートアップの場合、このような市場の変化の激しい環境で勝負するのなら、顧客視点を念頭に置いていないと生き残れないといっても過言ではありません。
4Cの「顧客価値」「コスト」「利便性」「コミュニケーション」の中で、現状適当に決めている要素はないでしょうか。ときに企業目線が強くなりすぎたり、過度に顧客の要望だけを重視しすぎていたりと、自分たちの首を絞めている要素についてはどうでしょう。
4Cと4P分析をセットで行うことで、顧客のニーズを反映した顧客が喜んで料金を支払い、かつ自社が利益をあげられるような製品・サービスを開発するのが大切です。
ただし、意識しないと企業目線になりやすいのはたしかです。今はSNS時代で4CのC(コミュニケーション)が容易ですので、できるだけ顧客の意見・アイデアを取り入れることを意識し続けてください。