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マスターデータとは?マスターデータの例の紹介やマスターデータ管理(MDM)の概要についても解説

BtoBマーケティングにおいて、データはあらゆる判断や決定の基盤だといえます。データが適切に管理されていなければ、見込み客や顧客の製品サービスに対する興味具合は不明です。そのままでは効果的な施策を行えない上に、顧客との信頼関係を築くことができずに、損失に繋がりかねません。

例えば、2007年の解説記事では、あるプロジェクトにおいて「サプライチェーンにおけるデータが不正確であることによる損失は毎年400億ドル」と紹介されています。デジタル化によって取得できるデータ量が増加している現在では、その管理方法がますます重要な課題になっているのです。

そこでこの記事では、BtoBマーケティングにおけるデータ管理に役立つ「マスターデータ」について解説します。マスターデータを理解して使いこなせば、効率の良いデータ管理がしやすくなります。効果的なマーケティングや営業を行うことで、売上げや利益の向上につながるでしょう。ぜひ最後までお読みください。

マスターデータとは

マスターデータは、企業の事業活動で繰り返し運用する情報をまとめた「大元のデータ」のことです。例えば、BtoB SaaS企業において顧客企業の正式名称や本社住所、主要連絡先、契約プラン、利用開始日などが該当します。

また、自社が提供するSaaSの製品名やバージョン、機能一覧、価格体系なども重要なマスターデータです。

マスターデータは、マーケティング活動時のターゲット選定などに活用されるだけでなく、営業担当者が顧客との商談で使用する。あるいはカスタマーサポートチームが問い合わせ対応時に参照するなど、全社的に使用することになります。

つまり、マスターデータは複数の部門やシステムで共有されるため、統合されたデータベースで管理されるものです。

マスターデータの考え方

なぜマスターデータを用いるかといえば、ひとえに「データ活用の効率性」が大きく向上するからです。例えば、社員の名前は企業が持つデータベースのさまざまな場所に登場します。それらのデータベースにいちいち社員の個人情報をすべて入力していたのでは、管理が大変になるでしょう。

しかも、データの更新が必要になった際には、すべてのデータベースで書き換えが必要となり、ミスが増える原因になりかねません。

また、さまざまなシステムやデータベースに分散していると、データが共有されないまま孤立してしまうことがあります。これをデータの「サイロ化」と呼びます。経営資源であるデータが活用されない状態となり、企業にとって大きな損失につながるのです。

しかし、マスターデータを用意しておけば、こうした問題に対処できます。社員のマスターデータを用意しておけば、各データベースごとに社員に関する情報を入力する必要はありません。一括管理されたマスターデータを、各データベースから参照すれば済むからです。変更が必要な際には、マスターデータだけを書き換えるだけで問題ありません。

また、マスターデータに情報を集中させることで、一覧で確認しやすくなるメリットもあります。マーケティングの施策を考える際などに、複数の情報を組み合わせて分析することも容易です。このように保有するデータが埋もれず、活用される機会が多くなると期待できます。

データマネージメントを進めるために、マスターデータの考え方を理解して活用することは、欠かせないものなのです。

マスターデータと関係する他のデータとの違い

マスターデータはBtoB SaaSにとってもあらゆる業務のベースとなり、最も信頼できる情報源として機能します。

(出典:HubSpot「Master Data: What Is It & Why Does It Matter for Businesses?」)

マスターデータの特徴をより深く理解するには、他のデータタイプと比較することが効果的です。

以下では、マスターデータと関連する2つの重要データである「トランザクションデータ」「分析データ」について詳しくみていきます。これらの違いを把握することで、マスターデータの重要性と、企業のデータ戦略における役割がより明確になるでしょう。

マスターデータとトランザクションデータの違い

トランザクションデータとは、業務に伴って発生したできごとの詳細を記録したデータです。なお、英語の「trasaction」は「取引」という意味です。トランザクションデータの例としては、以下のものが挙げられます。

データ項目

定義

注文ID

各取引を一意に識別する番号

注文日時

取引が発生した日付と時刻

顧客ID

注文した顧客を識別する番号(マスターデータを参照)

製品ID

購入された製品を識別する番号(マスターデータを参照)

数量

購入された製品の数量

単価

製品の単価

合計金額

注文の総額

支払い方法

使用された支払い方法(クレジットカード、銀行振込など)

支払い方法

使用された支払い方法(クレジットカード、銀行振込など)

配送先住所

製品の配送先住所

注文ステータス

注文の現在の状態(処理中、発送済み、完了など)

トランザクションデータは、実際のビジネス取引を記録するもので、マスターデータを参照しながら生成されます。例えば顧客IDと製品IDは、それぞれ顧客マスターデータと製品マスターデータを参照しています。

トランザクションデータには、以下のような特徴があります。

  • どんどん増えていく
  • 時系列に記録する
  • 追加・変更の機会が多い

トランザクションデータは「蓄積」されていくものであり、一度入力されたデータは書き換えられないことが一般的です。一方で、マスターデータの場合は、そもそも変更される機会が少なく、変更された場合もデータを書き換えて「更新」されます。

トランザクションデータは、マスターデータと結びつけて利用します。例えば購入情報を記録する場合、購入者について細かく記載する必要はありません。

「アカウント名」さえ記載しておけば、上図のようにマスターデータにある「名前」「住所」「電話番号」などの情報を参照できるからです。トランザクションデータには、購入された「商品」や「金額」など、マスターデータにはない情報を記録するだけで済みます。

マスターデータとトランザクションデータは、一体で考えることが重要です。データをどちらに記載するかを整理しておくことで、無駄がなく使いやすいデータベースを構築できるでしょう。

マスターデータと分析データの違い

分析データは、マスターデータやトランザクションデータを基に生成される動的な情報です。BtoB SaaS企業において、分析データでは以下のような項目を取り扱うのが一般的です。

分類

顧客利用状況

  • ログイン頻度
  • 機能別の使用率
  • ユーザー数の推移

契約関連指標

カスタマーサクセス指標

  • ネットプロモータースコア(NPS)
  • カスタマーサポート対応時間
  • 各種機能の採用率

マーケティング効果

分析データは、マスターデータを基に計算・集計されることが多く、ビジネスの動向や成果を把握するために使用されます。例えば、「顧客企業(マスターデータ)ごとの月間利用時間(分析データ)を算出し、ヘビーユーザーを特定してアップセルの機会を見出す」といった活用が考えられます。

マスターデータが「何があるか」を示すのに対し、分析データが示すのは「何が起きているか」です。BtoB SaaS企業にとって、両者を適切に管理し活用することが、データを起点とした事業展開に繋がります。

マスターデータは長期的に一貫性を保つ必要がありますが、分析データは常に最新の傾向を反映できるよう、柔軟性を持たせることが重要です。また、分析データの信頼性はマスターデータの質に大きく依存するため、マスターデータの管理を疎かにすると、分析データの精度も低下してしまいます。

マスターデータへの理解が必要な理由

BtoB SaaS企業にとって、マスターデータへの理解と適切な管理は、データを軸としたマーケティング活動が主流になりつつある現代で、競争優位性を保持するための重要な要素です。

マスターデータは、顧客、製品、取引先など、ビジネスの核となる情報を一元管理することで、企業全体のデータ品質を向上させ、迅速かつ正確な意思決定を可能にします。

特に、顧客データの統合と活用は、カスタマージャーニー全体を通じた一貫性のあるサービス提供を実現します。これにより、営業、マーケティング、カスタマーサクセスなど、各部門が同じ情報を基に連携し、顧客満足度の向上とライフタイムバリューの最大化を図れるでしょう。

2024年現在は、データガバナンスの観点からもマスターデータの重要性は高まっているといえます。EUのGDPRに代表されるようなデータ関連の規制に対応しつつ、データの有効活用を進めるためには、大元となるマスターデータを軸とした管理体制が不可欠です。

マスターデータの例

ここからは、BtoB SaaSのマーケティング担当者が扱う機会が多いマスターデータの例を、3つ紹介します。

  • 例①:見込み客データ
  • 例②:企業データ
  • 例③:製品データ

それぞれ、個別にみていきましょう。

例①:見込み客データ

見込み客データとは、潜在的な顧客に関する情報です。BtoB SaaS企業では、リード獲得からの営業活動や、マーケティングキャンペーンのターゲティングに活用されます。具体的な例は以下のとおりです。

データ項目

定義

氏名

見込み客の氏名(姓名)

メールアドレス

見込み客の連絡用メールアドレス

電話番号

見込み客の連絡用電話番号

会社名

見込み客が所属する会社の名称

部署

見込み客が所属する部署名

役職

見込み客の会社内での役職

リード獲得日時

見込み客情報を取得した日時

(YYYY/MM/DD HH:MM形式)

獲得場所

見込み客情報を取得した場所

(例:展示会、自社サイトなど)

獲得きっかけ

見込み客情報を取得するきっかけとなった行動

(例:資料ダウンロードなど)

見込み客データをマスターデータとして整えることは、効果的な営業戦略の構築と実行において極めて重要です。特に、「獲得きっかけ」や「リード獲得日時」といった情報は、見込み客の「興味関心」「案件化の可能性」を把握する上で貴重な指標といえます。

例えば、特定の課題解決に関するeBookをダウンロードした見込み客に対しては、その課題にフォーカスしたアプローチが効果的です。

例えば、「DX推進ガイド」というeBookをダウンロードした見込み客に対しては、DXを推進したいというニーズが垣間見えます。そのため、自社製品がどのように業務プロセスのデジタル化や効率化を実現するか、具体的な導入事例や機能を挙げて説明するのが効果的です。

また、直近のイベントで情報を取得した見込み客には、当該イベントの内容や見込み客が示した興味関心に合わせたフォローアップが有効。アンケートなどで課題をヒアリングしておけば「コスト削減に関心を示した見込み客には、自社製品導入による具体的なROI(投資対効果)の事例を提示する」など、より効果的な営業活動が可能になります。

下図は、SaaSの統合プラットフォーム「HubSpot」におけるCRMの操作画面です。

(出典:HubSpot

このように、見込み客がカスタマージャーニーにおけるどの段階にいるのかをひと目で把握できるようにしておくと、自社の関係者全員が共通認識を持てます。営業・マーケティングをはじめとして、部門間の垣根を超えて「購入」の段階に近い見込み客に優先して対応することで、購買のチャンスを逃しにくくなるでしょう。

例②:企業データ

企業データとは、取引先企業に関する基本情報です。BtoB SaaSの事業活動では、顧客管理、請求処理、サポート対応など、さまざまな業務プロセスで活用されます。例を挙げると、以下のとおりです。

データ項目

定義

会社名

取引先企業の正式名称

所在地

取引先企業の本社または主要拠点の所在地

電話番号

取引先企業の代表電話番号

メールアドレス

取引先企業の代表メールアドレス

窓口となる部署

取引の主な窓口となる部署名

担当者名

取引の主な窓口となる担当者の氏名

企業データをマスターデータとして整備することで、顧客企業に関する情報を一元管理し、組織全体で迅速かつ正確に共有できるようになります。

例えば、取引先企業の社屋移転情報が更新された場合、そのデータは即座にすべての関連部署やシステムに反映されます。これにより、営業部門は訪問計画の変更を、物流部門は納品先の更新を、経理部門は請求書の送付先変更を、それぞれ迅速かつ正確に行うことが可能です。

ただし、過度に標準化されたデータモデルを採用すると、業界やその企業特有の重要な情報を適切に管理できない場合もあります。

例えば、製造業向けSaaSでは生産ラインや設備情報、金融業向けSaaSではコンプライアンス関連の詳細情報など、業界特有のフィールドを追加できる柔軟なデータモデル設計が必要になる可能性も考えられます。

例③:製品データ

製品データは、自社が提供するSaaSソリューションに関する情報を指します。BtoB SaaSでは、製品の販売、カスタマイズ、アップデート管理、価格設定などの場面で活用されます。具体例は以下のとおりです。

データ項目

定義

名称

製品の正式名称

型式番号

製品を一意に識別する番号またはコード

価格

製品の販売価格(税抜または税込を明記)

スペック

製品の主要な仕様や特徴を示す情報

BtoB SaaS企業において、製品データをマスターデータとして整備することで、製品情報の一元管理と効果的な活用が可能になります。特に複数製品やプランを提供する場合、正確で最新の製品情報を組織全体で共有できることは大切です。

製品データを整備しておくことで、営業チームは顧客のニーズに合わせて適切な製品を素早く提案でき、クロスセルやアップセルの機会も的確に捉えることが可能。製品の機能や価格の変更をリアルタイムで反映できるため、顧客に常に最新の情報を提供できます。

マスターデータ管理(MDM)とは?

一方で、闇雲にマスターデータを適切に管理しようとすると、膨大な時間とリソースが必要となり、かつ人的ミスのリスクも高まります。そこで有効なのが、マスターデータ管理(MDM)の導入による体系的な体制構築です。

MDMは、企業の核となる情報を統合し、一元管理するプロセスと技術を指します。BtoB SaaS企業においては、複数のシステムやチャネルで生成・利用されるデータを統合し、「単一の信頼できる情報源」を作り出すことが主な目的です。

(出典:link「Master Data Management」)

MDMでは、異なるソースからのデータを一箇所に集約し、共通のフォーマットや定義を適用してデータの一貫性を確保します。

「重複データの削除」「データ不整合の修正」を行うことで、データ品質を維持・向上させることが可能です。また、適切な権限管理によりデータのセキュリティを確保しつつ、データの変更履歴を追跡することで負担の少ない運用ができます。

マスターデータ管理(MDM)の導入が果たす意義

では、BtoB SaaS企業にとってMDMはどのような恩恵があるのでしょうか。

まず、MDMは複数のアプリケーション間でデータのエラーと冗長性を大幅に減少させます。異なるチームが同じ情報を別々に入力することで生じるデータの不一致を、MDMを照合・結合することで解消するのです。

MDMを構築する際には、事前に社内にサイロ化したデータを統合するために、データクレンジングを行うことになります。そのため、重複データの排除、不正確な情報の修正、欠損データの補完が可能です。

クレンジングされた「綺麗なデータ」を管理することで、より信頼性の高い顧客プロファイルが構築され、精度の高いセグメンテーションや的確なターゲティングが実現するでしょう。

マスターデータを営業・マーケティングで使うシーン

ここからは、BtoBの営業・マーケティング活動においてマスターデータを使用するシーンをみていきましょう。代表的なものを挙げると、以下のとおりです。

  • マーケティングツールの基盤としてデータを活用する
  • 営業・マーケティング間の会話の土台としてデータを活用する
  • マーケティング活動の土台としてデータを活用する

それぞれ個別に解説します。

マーケティングツールの基盤としてデータを活用する

マスターデータは、マーケティングツールを利用する上でのベースデータとなります。マーケティングにおいて複数のツールを併用している場合、データのサイロ化が起こりやすく、データが別々のツールに分散して全体像が見えにくくなると、適切な判断がしにくくなってしまいます。

データを扱いやすくするには、使用するマーケティングツールを1つにまとめましょう。幅広い用途に対応できるツールを導入すると、データ管理の手間を減らせます。

例えば「HubSpot」は、マーケティングや営業、カスタマーサービス、CMS(コンテンツ管理システム)などの機能を提供する統合型のCRMプラットフォームです。機能別にソフトウェアが分かれており、自社に必要なものを選んで組み合わせて使えます。

(出典:HubSpot

  • Marketing Hub
  • Sales Hub
  • Service Hub
  • CMS Hub
  • Operations Hub

マーケティングツールを選定する際には、機能や価格ばかりに目が向きがちです。「データを他のツールと共有しやすいか」という視点も持っておくことで、扱いにくいツールを選んでしまう失敗を避けやすくなるでしょう。

営業・マーケティング間の会話の土台としてデータを活用する

マスターデータは、営業・マーケティング間の会話の土台になるという面もあります。買い手にアプローチする上で、マーケティング担当者と営業チームの連携は欠かせません。

マーケティングの段階で得た情報を共有することで、営業チームは買い手に合わせたきめ細かな対応が可能になります。「何に興味を持っているのか」「何を重視しているのか」を事前に把握しておくことで、買い手が求める情報をピンポイントで提供できるため、部門間連携もとりやすくなるでしょう。

例えば、見込み客データ管理において、リード獲得の方法や獲得したコンテンツの種類は営業にとっても非常に重要な情報です。例えば、特定のテーマに関するeBookや白書をダウンロードした見込み客は、そのテーマに関心があると推測できます。

これらの情報をマスターデータとして適切に管理することで、マーケティングチームは顧客のニーズや関心事を的確に把握し、そのインサイトを営業チームに効果的に引き継ぐことができます。営業担当者は、この情報を基に、より効果的なアプローチを行うことが可能になるでしょう。

マーケティング活動の土台としてデータを活用する

マスターデータは、マーケティング活動の土台となるものです。実行する施策やその対象を決める際には、必ず事前に確認して判断材料としましょう。ペルソナやカスタマージャーニーの段階によって、適切な施策は変わってきます。

例えば、20人以上の利用者がいる企業を対象として、SaaSのタスク管理ツールの料金割引キャンペーンを行うとします。この場合、現在の利用者数に応じて、買い手の企業に以下の行動を促すとよいでしょう。

  • 0人:20人以上での新規契約
  • 1〜20人:キャンペーン対象となるため利用者の追加
  • 20人以上:割引適用の手続き

「どの企業にどうアプローチするか」を決める際の基盤となるのが、「利用者数」のマスターデータです。もし利用者数が正しく管理されていなければ、適切な対応ができなくなってしまいます。企業ごとに促す行動を間違えてしまえば、買い手からの信頼を失ってしまいかねません。

マスターデータが正確に管理されていなければ、マーケティング活動に支障が出ます。だからこそマーケティング担当者は、マスターデータに気を配っておく必要があるのです。

マスターデータを整備しないと生じる問題

では、マスターデータを整備しなければどのような問題が生じるのでしょうか。影響度の大きなものを挙げると、以下のものが考えられます。

  • 問題①:データが違うツールで、違う定義で管理されてしまう
  • 問題②:データの正確性が失われてしまう
  • 問題③:事業活動の効率が落ちる

それぞれについて、詳しくみていきましょう。

問題①:データが違うツールで、違う定義で管理されてしまう

多くのBtoB SaaS企業では、業務の効率化や専門性の向上を目的として、複数のツールを併用しています。例えば、CRM、会計ソフトウェア、プロジェクト管理ツール、マーケティング自動化ツールなどを使用することが一般的です。

しかし、マスターデータが適切に整備されていない場合、これらのツール間でデータの不一致が生じ、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。

まず、顧客データの管理において問題が発生しやすくなります。CRMツールでは「株式会社テクノロジー」と登録されている顧客が、会計ソフトウェアでは「テクノロジー株式会社」として登録されているかもしれません。このような表記の違いは、一見些細に思えますが、データの統合や分析を行う際に大きな障害となるのです。

同じ顧客に対して異なる名称が使用されることで、重複データが作成されたり、顧客の全体像を把握することが困難になったりします。

このようなデータの不一致は、日々の業務効率を低下させるだけでなく、長期的には重大な問題を引き起こす可能性があります。例えば、正確な顧客分析ができないことでターゲティングの精度が落ち、マーケティング施策の効果が低下する可能性があるでしょう。

問題②:データの正確性が失われてしまう

データの正確性は、BtoB SaaS企業の運営において極めて重要です。正確なデータは適切な意思決定、効果的な顧客サービス、そして効率的な業務運営の基盤となります。しかし、マスターデータの管理が不適切な場合、時間の経過とともにデータの正確性が失われていく可能性が高くなります。

まず発生するのが「重複データ」の問題です。例えば、同じ顧客企業が「株式会社ABC」と「ABC株式会社」として別々に登録されてしまうケースがあります。これにより、同一顧客の情報が分散し、どちらが最新で正確な情報なのかを判断しづらくなるのです。

データの鮮度の問題も無視できません。BtoB SaaS企業では、顧客の利用状況や契約状態が頻繁に変化します。具体的には、ユーザー数の増減、契約プランの変更、新機能の利用開始などがあります。これらの変更を適時に反映しないと、顧客の現状を正確に把握できず、適切なサポートやアップセルの機会を逃しかねません。

問題③:事業活動の効率が落ちる

マスターデータの不適切な管理は、事業活動の効率を低下させ、最終的には企業の成長と競争力に大きな影響を及ぼします。正確な顧客データや利用状況データがないと、新機能のベータテストや新製品の展開が遅れる可能性があるのです。

例えば、特定の業種や規模の顧客をターゲットにした新機能をリリースするとします。この際、適切なベータテスト対象を選定できないことで、開発サイクルが長期化し、市場投入が遅れる恐れがあります。

不正確なデータに基づいて意思決定を行うと、人材や予算などのリソース配分も非効率です。つまりは、実際のニーズとかけ離れた製品開発に資源を投入したり、重要度の低い顧客セグメントに過剰な営業リソースを割り当てたりする可能性があるということです。

遅々とした事業展開は、競合他社に先行されるリスクも高めます。結果的に、自社の成長機会を逃す結果に繋がりかねません。

マスターデータの管理は全社で取り組む

このような問題を解決するためには、マスターデータを全社的に管理しなければなりません。なぜなら、マスターデータは企業全体で共有され、複数の部門や担当者が意思決定に活用するため、一部門だけの取り組みでは不十分だからです。

実務面では、前述したマスターデータ管理(MDM)システムの導入が有効。加えて、定期的にデータの正確さと一貫性をチェックし、必要に応じて修正する仕組みを設けることで、常に信頼できる高品質なデータを保つことができます。

これらの取り組みを支えるのは、従業員の理解と協力です。全従業員にマスターデータ管理の重要性を理解させ、正しいデータ取扱いを教育することで、組織全体でデータ品質の向上に取り組む文化を醸成できます。

全社的なアプローチにより、データの一貫性が確保され、正確な情報に基づいた意思決定が可能です。結果として、顧客満足度の向上、業務効率の改善、そして持続的な成長を実現できます。

まとめ

マスターデータは、企業が持つ複数のデータベースで共有される、基本的な情報です。見込み客や企業、製品など、分類ごとに一括して管理しておくことで、重要なデータを有効活用しやすくなります。

BtoBマーケティングでは、買い手に製品の購入まで進んでもらうために、営業チームとの連携が欠かせません。買い手の状況やニーズをマスターデータとして整理して、営業チームと共有することで、的確な施策を素早く行えるようになります。

ただし、マスターデータだけが整備の対象ではありません。トランザクションデータや分析データなど、ほかのタイプのデータも適切に管理し、全社的なデータガバナンスを確立することが、データ駆動型の組織の確立には求められるでしょう。