3C分析は、マーケティング担当者だけでなく、一般ビジネスマンも知っておくべき基本フレームワークのひとつと言われます。顧客、競合、自社の3つを分析するだけのシンプルなフレームワークでわかりやすいため、営業戦略、マーケティング戦略などを立てる際に気軽に活用できます。
しかし、3C分析はシンプルで本質的なフレームワークだからこそ、ビジネススキルやマーケティング知見が少ない人が活用すると、浅い分析でおわることも少なくありません。
そこで本記事では3C分析の内容と、実際に3C分析を進める際に活用するおすすめテンプレート(実行フレームワーク)をあわせて紹介します。
3C分析とは、企業が経営戦略、マーケティング戦略などをたてる際に、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の観点から、市場環境や自社の競争優位性を分析するフレームワークです。
3C分析は、元マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長で、現在はビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)学長の大前研一氏が提唱したフレームワークです。3Cは日本で長年活用されているだけでなく、海外MBAでも教えられている優れたフレームワークです。
BBT大学学長の大前研一氏
(出典:BBT大学)
3C分析は、大前研一氏が1983年に出した「事業戦略の本質」という論文で登場したと言われます。さらに遡ると、大前氏がマッキンゼー社在籍中の1975年に書いた『企業参謀』でも、3Cという名称は出ないものの市場、競合、自社を分析する重要性が解説されています。
この本は日本でベストセラーになり、1982年に翻訳版『The Mind of the Strategist』が出ると、ちょうど日本企業が世界を席捲していたころでもあったため、海外でも大きな注目を浴びました。
マイケル・ポーター氏から「大前の本は日本を代表する戦略家の 1 人の心への魅力的な窓であり、戦略的思考を改善する方法についてのアイデアに満ちている」と評価されたほどです。
しかし、時代は変わり2010年代になると、大前氏は3Cについて重要な要素であることは変わりないとしつつも「顧客や市場、競合を簡単に定義できる時代ではないため(中略)旧来の戦略論ではもはや生き残れない」と述べています。
もちろん、これはほかの多くの戦略フレームワークにも言えることであり、わざわざ公表するのは氏の誠実さと言えるでしょう。したがって、3Cも他戦略フレームワーク同様に、単独ではなく他のフレームワークと組み合わせて柔軟に活用することが望ましいと言えます。
3C分析の構成要素はたった3つ、「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」です。「顧客」「競合」で外部環境を分析し、「自社」で内部環境を分析します。そして、これらの3要素はそれぞれお互いに作用します。
3C分析におけるCustomerは「市場」と「顧客」を包括した意味です。市場は常に変化します。新規参入の際はもちろん既存事業の市場であっても、今後どのくらい市場が成長するか(つまり、売上げの上限)を把握するのが大切です。また、顧客の現在および今後起きるであろうニーズ、課題を明確にします。
(分析項目)
(問い直しのための質問例)
競合分析とは、ライバル企業にその市場において勝ち目があるか? どの程度シェアを奪えるのかなどを分析することです。目的は競合企業の力を正しく把握し、勝てるところで勝ち、勝ちにくいところは避ける戦略を立てることです。
分析の際は売上高、シェアなどの数字で極力定量的に把握します。さらに、ブランドイメージ調査、顧客の意見や現場の営業スタッフなどの定性的な意見も参考にしましょう。
(分析項目)
(問い直しのための質問例)
Company(自社)の分析とは、自社の強みと弱みを把握する分析です。いわゆる経営資源(人、モノ、金)を以下のように定性的・定量的に把握します。
(分析項目)
(問い直しのための質問例)
このように3つの要素をできるだけ定量的に把握し、データを比較したり、俯瞰して見たりすることで市場の状況、自社の市場でのポジション、優位性を把握します。その結果を、自社の強みを生かせる営業戦略、マーケティング戦略などに利用します。
ここでは3C分析の方法と、3C分析と組み合わせるおすすめのテンプレート(フレームワーク)を紹介します。
前述のとおりインターネット登場以前の戦略フレームワークは、ビジネス環境が変わりすぎているので、分析の目的にあわせて必要な別のフレームワークを組み合わせて活用しましょう。その結果、3C分析をより掘り下げることができます。
まず、Cusotomer(顧客)を分析する際に活用するテンプレートを紹介します。
ペルソナとは、自社の理想的な半架空の顧客プロファイルです。顧客はどのような企業に勤めていて、日々何を成し遂げたいと思い、何に困って解決したいと考えているか? 求めている予算規模や商品・サービスに求めている機能は何かなどを可視化します。作り方は、紙のテンプレートでもペルソナ作成ツールでもどちらでも大丈夫です。
ペルソナを作成することで、明確なマーケティングコンセプトを立て、届けたい人にマーケティングメッセージを届けられます。
HubSpotのペルソナ例:
カスタマージャーニーとは、見込み客が自社商品・サービスを購入するまでの購買行動パターンを可視化したものです。顧客が何かしらのビジネス課題に気づいたあと、どのようなリサーチをし(何で検索し)、どのような事例に心を動かし、どのようにベンダーを絞り込んでいくかをマップにまとめることで、計画的なマーケティングプランを設計できます。
新規事業戦略あるいは既存事業の市場を見直すために3C分析を行う際は、市場のセグメンテーションも必須です。市場を地理、人口統計、企業統計などあらゆる角度から分析し、自社商品・サービスが拡販できる新しい有望な市場を再定義します。
セグメンテーション用テンプレートにはいろいろな種類がありますが、BtoBであれば業界、エリア(国、都市、地域)、企業規模(売上高・従業員数)などをセグメントするファーモグラフィック・セグメンテーションが活用しやすいでしょう。
(出典:Wiglafjournal.com)
ここでは競合企業分析の際に、組み合わせて活用するとよいテンプレートを紹介します。
SWOT分析とは企業の「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」を分析するフレームワークです。自社分析にも、他社分析にも有用です。以下のことがわかります。
3Cと組み合わせることで、市場でライバル企業が今後どのような戦略をとるかが見えやすくなるので、自社の戦略をどう立案するかに役立ちます。
5Forces(ファイブフォース)分析とは、業界分析とも言われる市場の競争要因分析フレームワークです。以下の5つの要素で多角的に分析することで、市場のポテンシャル、収益構造をより正しく把握できるようになります。
ここでは、自社の強み・弱み、市場で自社がどのように展開していけばよいかを把握するフレームワークを紹介します。
前述の競合分析に有効なフレームワークとして紹介したSWOT分析で、今度は自社の強み・弱み、機会・脅威を分析します。
前述のCompetitor(競合企業)分析で活用した5Forces分析で、自社の業界内の立ち位置も分析します。
BCGマトリクスとは、事業の成長性を相対的市場シェアと市場成長率の2指標で、4象限に分類するフレームワークです。各事業の今後の利益を出せる可能性がわかります。
3C分析とBCGマトリクスを組み合わせることで、自社が集中的にリソースを投下すべき事業、撤退したほうがいい事業、売上げは伸びていないものの忍耐強く続けるべき事業などを、大局的かつ現実的に判断しやすくなるでしょう。
アンゾフマトリクスとは、既存市場と新規市場、既存プロダクトと新プロダクトのかけあわせで、戦略を4種類に分類するフレームワークです。
3C分析で自社の商品力、カルチャーなどの強み、他社の強さも把握した上でアンゾフマトリクスで戦略を考えると、どの戦略が現時点でもっとも成功する可能性が高いか見えてくるでしょう。
(出典:経済産業省)
マーケティングの世界では、毎年いろいろな概念、フレームワークが登場しては消えていきます。その中で、1980年代に生まれた3C分析が50年近くもの間、世界中で活用されているのは素晴らしいことです。
大前氏は、3Cのベースとなる内容を書いていた『企業参謀』について後年、「ビジネスを知らない人間がどうやってビジネスを学んだかをかいた入門書」であり、実は経営者向けではなかったと裏話をしています。
おそらく、現役のコンサルタントが書いた基本の内容だからこそ、半世紀たった現在も多くの人に活用されているのかもしれません。顧客を理解し、ライバル企業と自社の力量を理解してビジネスに挑むというスポーツのようなわかりやすい構図は、たしかに新人ビジネスマンでもとっつきやすくかつ本質的です。
経営、マーケティング領域では分析すべきことが膨大にあります。そのため、いつのまにか細部の情報に気を取られて判断に迷うことも起きがちです。そのようなときこそ、ぜひシンプルで本質的な3C分析で、戦略のアウトラインを描き直してみましょう。