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Vertical(バーティカル)SaaSとHorizontal(ホリゾンタル)SaaSって?マーケティング視点で、ざっくり何が違うのか

世界的なDXの推進、パンデミックによるビジネス環境の激変を背景に、日本でもSaaS業界の知名度が上がってきました。

もともと成長業界でしたが2020年以降、とくにBtoB SaaSはこの環境変化がむしろ追い風になり成長しています。HubSpotやSalesforceが「働き甲斐のある会社ランキング上位」に登場していることもあり、一般の人にも認知されつつあります。

成長業界のBtoB SaaS市場への新規参入を検討する企業や転職を考える人も少なくないでしょう。しかし、少し調べるとSaaS、PaaS、IaaS、LTV、コンバージョンなどやたらと横文字やカタカナの専門用語が多くわかりづらいと感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は基本知識として、SaaSの2つのビジネスモデル、Vertical(バーティカル)SaaSとHorizontal(ホリゾンタル)SaaSの違いについて解説します。

SaaSに限らずVertical(バーティカル)とHorizontal(ホリゾンタル)の考えはどのビジネスにも存在する

SaaS(Software as a Service)とは、インターネット上で提供されるソフトウェアサービスのことです。ユーザーは、必要なソフトを月単位で利用でき、自社でソフトウエア開発せずともBtoB企業に必要な各種業務システムを活用できます。

 

(画像出典:総務省

 

垂直統合型と水平型の違い

SaaSのビジネスモデルには、Vertical(バーティカル)とHorizontal(ホリゾンタル)があります。この2つの用語は直訳するとそれぞれ以下の意味であり、ビジネスモデルの説明によく使われます(文脈によって多少意味合いは変化します)。

  • Vertical=縦、垂直方向
  • Horizontal=横、水平方向

SaaS業界では、「Vertical(バーティカル)=業界特化型」、「Horizontal(ホリゾンタル)=業界横断型」と現状解釈されています。Salesforce、Zendesk、HubSpotなどは、業界を問わずソリューションを横展開していくHorizontal(ホリゾンタル)型。Vertical(バーティカル)型は日本では建築・建設業界の現場効率化に特化したANDPADが知られています。

メディア業界でも、同じようにスポーツ、ビジネスなどある領域に特化したメディアは、バーティカルメディアと呼ばれ、総合メディアと対比されます。Vertical(バーティカル)Horizontal(ホリゾンタル) という用語は使いませんが、業界・専門特化型と総合ビジネス型はどの業界にも存在します。

なお、より一般的なVertical(バーティカル)の意味として製造~販売まで自前で行うことをVertical(垂直統合型)、企画開発は自社、製造をアウトソーシングするビジネスモデルを Fabless(ファブレス)と呼びます。

トヨタ、日産などは垂直統合ピラミッド型。Apple、キーエンスなどは Fabless(ファブレス)です。意外やテスラは工場も持つデジタル版垂直統合型。ちなみに日本の自動車勢は、アップルから水平分業型への移行を迫られている状況です。

Vertical(バーティカル)saasの海外事例

具体的なイメージを持って頂きたいため、ここでは、Vertical(バーティカル) SaaS(業界特化型)で成功を収めている海外のSaaS企業を紹介します。

Veeva

(画像出典:Veeva Systems

 

提供企業:Veeva Systems Inc.

対象業界と特徴:Veeva は2007年に設立されたVertical(バーティカル)SaaS企業。製薬、医療機器、コンシューマーヘルスなどのライフサイエンス業界に特化した「コンテンツ管理」「顧客管理」「顧客リファレンスデータ」「顧客マスター」「コマーシャルデータハウス領域」のクラウドサービスを提供しています。

MR(製薬業界の営業担当)が、営業活動時にドクターに最適なコンテンツを提供できるように支援する「Veeva CRM」や、臨床試験データマネジメントと臨床試験オペレーションを統合した「Veeva Vault Clinical Suiteは」ほか、多種多彩なプラットフォームを提供しています。

Textura

(画像出典:Oracle

 

提供企業:Textura Corporation(現在はOracle Corporation)

対象業界と特徴:Texturaは、建設やエンジニアリング業界に特化した契約支払い関連クラウドサービスです。Texturaは業界の慣行に対応しプロジェクトの工程に連動した支払いが可能であり、Texturaを介することで開発者、請負業者、下請け業者のリスクを軽減しながらプロジェクトを予定通り、予算内に進められます。

また、スケジュール(SoV)に連動した請求書ドキュメントが自動生成されるため、一連の請求業務が迅速化されるとともに、支払いサイクルが短縮されキャッシュフローを改善する効果があります。Textura Corporationは2004年設立のSaaSですが、2016年にOracleに買収され、現在はOracleグループです。

Guidewire

(画像出典:Guidewire

 

提供企業:Guidewire Software Inc.

対象業界と特徴:Guidewireは、2001年設立のVertical(バーティカル)SaaS企業。損害保険業界に特化し、損害保険基幹業務システム、データと分析、損害保険会社と保険契約者、代理店をつなぎ課題や機会に対応できるプラットフォームを提供しています。スタートアップ企業からメットライフ保険、チューリッヒ保険などの大企業まで世界の多くの保険会社がGuidewireを導入しています。

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSの海外事例

ここでは、Horizontal(ホリゾンタル)SaaS(業界横断型)の海外SaaS企業を紹介します。まずは筆者の前職であるHubSpotから(笑)。

HubSpot

 

提供企業:HubSpot, Inc.

特徴:HubSpotは、2006年に設立された米国のSaaS企業で、マーケティング、営業、カスタマーサービス、ウェブサイト管理のプラットフォームを提供しています。

当初は、SMB市場でインバウンドマーケティングの提唱とマーケティング製品の提供に軸足をおいていました。昨今は完全無料のCRMを提供し、Marketing Hub EnterpriseとSales Hub Enterprise、Service Hub、CMS Hub、さらにはOperational Hubと、機能を大幅に拡張するなどエンタープライズ市場にも注力しています。

Salesforce

(画像出典:Salesforce

 

提供企業:Salesforce.com, inc.

特徴:Salesforceは、1999年に創業された米国のSaaS企業であり、2021年時点で世界No.1のCRMプラットフォーム提供企業です。営業領域ではエンタープライズ企業がメインの市場。営業領域を軸にサービス、マーケティング、コミュニティ領域のプラットフォームも提供しています。

また、Tableauや、slackなどのエコシステムを拡張する企業を積極的に買収しするなども極めて特徴的です。

Zendesk

(画像出典:Zendesk

 

提供企業: Zendesk, Inc.

特徴:Zendeskは、2007年にデンマークで創業された(現在は米国本社)、カスタマーサポート領域に特化しているSaaS企業です。Zendeskと呼ばれるクラウド型カスタマーサービスプラットフォームを製品として提供しています。

メール、チャットなどからの問い合わせを一元管理できアフターサポート機能も充実しているため、カスタマーサービス業務が劇的にスムーズになると好評で高いシェアを保有しています。

Hotizontal(ホリゾンタル)とVertical(バーティカル)は、マーケティング視線ではそもそも何が違うのか?

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSとVertical(バーティカル)SaaSのマーケティングにおける違いをマクロな視点から解説します(細かい施策の違いについては別の機会でご紹介できればと思います)。

市場のサイズ

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSは、あらゆる業界へ展開するため対象とする市場は大規模。Slack、Office365、ネットフリックスをイメージしていただければわかりますが、ワールドワイドに展開し急速に普及していきました。

しかし、圧倒的にHorizontal(ホリゾンタル)SaaSが多い印象を受けるものの、実は米国ではこの10年でVertical(バーティカル)SaaSの市場規模が3倍以上に拡大しています。2020年時点では、おおよそ6:4の比率です。SaaSが普及するにつれ特定の業界ニーズを包括的に解決するVertical(バーティカル)SaaSを支持する企業も増えつつあります。

 

(参照:Finances online

 

Vertical(バーティカル)SaaSは業界に特化するため、市場規模もその業界の大きさに依存します。

大きい市場もあればニッチな市場もありますが、前述のTexturaやVeevaのように建設業界、医療業界といった基幹産業かつ独自の慣行や複雑な規制がある業界に特化したソリューションを提供できれば、大きな収益を上げやすくなります。先進国とは異なるビジネスの進め方、独特の法規制がある新興国に特化することも同様です。

また、市場のサイズや特殊性はプライシングモデルにも影響を与えます。たとえば、Horizontal(ホリゾンタル)SaaSのHubSpotは、バーティカル(Vertical)SaaSのVeevaと同様にCRMを提供していますが完全無料。一方Veevaは有償。しかもWebサイト上に価格を表示せず、顧客に合わせて値段をカスタマイズする方法をとっています。

これは、バーティカル(Vertical)SaaSの場合、ツールのカスタム度合いや特化が顧客によって変わることに自社が対応することを前提として事業を行っている可能性があるからです。

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSは、Vertical(バーティカル)とは真逆で、対象となる業界が多すぎるためそういったことには対応できない故に、デフォルト機能をそのまま使ってもらう前提(もしくはユーザー自らカスタム)、API連携で補うetc、そのため価格を抑えられます。

広大な市場のHorizontal(ホリゾンタル)SaaSを狙うか、多少マーケットサイズは限定されるものの業界に特化したVertical(バーティカル)SaaSでオンリーワンの存在となり一社あたりの付加価値の高いサービスを提供していくか悩ましいところです。

いずれにせよSaaS市場自体が世界規模で2023年までに107億米ドル以上に成長する(英語)と予測されており(国内市場も2024年1兆1,200億円規模まで拡大すると予測)、まだまだ急成長業界であることは間違いありません。

Horizontal(ホリゾンタル)SaaS、Vertical(バーティカル)SaaSどちらであっても、業界の成長が強力な追い風になることはたしかでしょう。

 

※BSS:ビジネスマネジメントシステム 、OSS:オペレーションサポートシステム
(参照:Analysys Mason

 

競合の多さと強さ

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSは市場が大きいので、当然参入企業が増え、競合企業数も多くなりがちです。また、すでに現在のSaaSトップベンダーにはマイクロソフト、Salesforce、SAP、Oracleなどの大企業が並びます。

しかも、圧倒的な資金力で積極的にベンチャー、スタートアップを買収しており、ますます強者となっていく様相です。

 

(出典:「2020/2021 Market Share & Data Analysis」- Finances online

 

前述のとおり、SaaS市場自体がまだまだ成長中なので、ホリゾンタルSaaS市場内のニッチな領域でシェアを獲得する余地は十分にあります。ただし、この5社を超えてNo.1になるのはなかなか困難でしょう。

一方、Vertical(バーティカル)SaaSは、業界に特化するため競合企業数が限定的です。業界固有の規格や要件に準拠しなければならず、業界についての深い知見がなければやすやすと参入できないため競合企業の脅威は低めです。何よりも歴史が浅いため、Horizontal(ホリゾンタル)SaaS市場に比べプレーヤーがまだ少数です。

たとえば、VeevaのC-Level(経営層)は医療系の知見を持っている人たちで固められており、非常に強固な立ち位置を作っていることがうかがえます。他社が手をつけていない市場に早期参入し、シェアを獲得すれば他社に太刀打ちできないポジションを築けることがわかります。

逆にいえば、Veevaのように複雑な業界に対して最適なソリューションを提供する企業がすでにシェアを獲得したあとでは、それを覆すのはHorizontal(ホリゾンタル)SaaS市場より困難になるかもしれません。

課題への温度感が異なり、施策の有効度合いが全く異なる

Horizontal(ホリゾンタル)SaaSは、幅広い業界に向けてマーケティング施策を実施する必要があります。マーケティングコストは増大しますが対象市場が大きいため、リードの獲得は比較的容易です。

広く網をかけるスタイルなので、見込み客以外の層も大量にリードジェネレーション行い、そこから見込み客を絞り込んで成約につなげるまでに一定の期間を要します。

一方、Vertical(バーティカル)SaaSは、ニッチな市場でマーケティングを行うため、リード数の獲得はHorizontal(ホリゾンタル)SaaSに比べ難しくなりますが、チャネルが限定されるためマーケティングは効率的になります。業界の知見が豊富であればピンポイントで見込み客に訴求でき、費用対効果の良いマーケティング施策を実施できるでしょう。

マーケティング施策を選択する際に、Vertical(バーティカル)SaaSがHorizontal(ホリゾンタル)SaaSと同じような施策を踏もうとするのをたまに見受けます。

前述したように、幅広くリードジェネレーションをする必要があるHorizontal(ホリゾンタル)SaaSは、ペルソナがデジタルチャネルを多用する場合、オウンドメディアという有効施策を打つことが可能です。

しかしながら、Vertical(バーティカル)SaaSの場合は、ペルソナがデジタルチャネルを活用する場合でも検索内容が専門的すぎる場合が多く、検索クエリが少なめであることがほとんどです。

そのため、Horizontal(ホリゾンタル)SaaSで行われるようなリードジェネレーションありきのオウンドメディア運用はできず、どちらかというと事例紹介やユーザー向けの情報を発信する場になる方が自然です。

まとめ

SaaS業界は、この20年で急成長してきましたが、多くのアナリストはまだまだ成長すると予測しています。すでに強力なSaaSベンダーが存在する巨大市場のHorizontal(ホリゾンタル)SaaS、ニッチで参入障壁は高くとも、早期にシェアを獲得すれば大きな果実を得られる可能性があるVertical(バーティカル)SaaS、いずれもチャンスに満ちています。

どの市場でも参入のタイミングは非常に重要になるでしょう。また、Horizontal(ホリゾンタル)SaaS、Vertical(バーティカル)SaaSの違いを理解し、適したマーケティング施策を行っていくことが大切です。