レプトのBtoBマーケティングのブログ|株式会社LEAPT(レプト)

マスマーケティングとは?マスマーケティングのメリット・デメリットや企業成功事例をわかりやすく解説

マスマーケティングとは、テレビ、雑誌、新聞などのマスメディアを通して、多数の人々を対象に行うマーケティング手法です。

2024年現在はインターネットの登場から四半世紀がすぎており、オールドメディアの存在価値は低下しているといわれています。しかし、いまだマスメディアの影響力は大きく、Webと連携するなどマスマーケティングの手法自体も進化しつつもあります。

実際に、BtoB企業でもマスマーケティングを行うケースは多々あり、適切な戦略を描くことができれば、有用なマーケティング手法となり得ます。

そこで、本記事ではマスマーケティングとは何か、代表的な手法と事例に加え、具体的な実施手順を紹介します。

マスマーケティングとは

マスマーケティングとは、多くの人々や、広い市場全体に対してアプローチするマーケティング手法を指します。「単なるマス」「マスメディア」も踏まえてそれぞれの定義を整理すると、以下のとおりです。

  • マス:市場全体、大多数の消費者、特定の業界全体、または広範囲の企業群
  • マスマーケティング:多数の人に対して行うマーケティング
  • マスメディア:テレビ、新聞・雑誌・看板など大多数の人が目にするメディア

テレビCMでは、コンビニやビール、スナック菓子、洗剤あるいは保険などのCMをよく見かけると思います。そのように、普通に生活している人なら誰もにニーズがあったり、多くの人が価値を感じたりするような商品・サービスの宣伝に、マスマーケティングは非常に有効です。

BtoB市場の場合ですと、マスマーケティングを活用する代表的なビジネス例としては以下があります。

  • 人材サービス事業(例:リクルート、マンパワーグループ)
  • オフィス機器メーカー(例:キヤノン、リコー)
  • 物流・運送会社(例:ヤマト運輸、日本通運)
  • ビジネスコンサルティング企業(例:アクセンチュア、デロイト)
  • 通信インフラ企業(例:NTT、KDDI)

上記のような業界は幅広い業種や規模の企業をターゲットとしているため、マスマーケティングを通じて広範囲にブランド認知を高め、信頼性を構築する戦略が有効です。

ただしBtoB市場では、このようなマスマーケティングと並行して、より詳細な製品情報や専門的なサービス内容を伝えるため、顧客ごとにパーソナライズされたコミュニケーション戦略も併せて展開することが一般的です。

発展の背景

マスマーケティングの発展は、マスメディアの発展と歩みを供にしてきました。以下に、歴史上のトピックを記載します。



2000年代にインターネットが普及するまではマスマーケティングが主流で、特にBtoCの大手消費財メーカーは、製品を市場全体に宣伝し大量に販売するために、マスマーケティングを活用してきました。

2000年以降、世界的にインターネットが普及し、SNSなどの新しいメディアが登場してからは、ニッチマーケティングが注目され、現在の2024年に至ります。マスメディアもネット番組やオンラインメディアを出すなどWeb連携を強化しており、徐々に進化しています。

マスマーケティングとダイレクトマーケティングの違い

マスマーケティングと混同されがちなダイレクトマーケティングとは、特定の個人や企業を対象に、直接的かつパーソナライズされたアプローチを行うマーケティング手法です。これら2つの手法は補完的な関係にあり、それぞれの特徴を理解することが重要です。

マスマーケティングとダイレクトマーケティングの違いをまとめると、以下のとおりです。

 

マスマーケティング

ダイレクトマーケティング

対象

広範囲の潜在顧客

特定の個人や企業

メッセージ

汎用的なもの

パーソナライズされたもの

主な媒体

TV、ラジオ、新聞、屋外広告

Eメール、DM、テレマーケティング

KPI

ブランド認知度、市場シェア

開封率、コンバージョン率

反応までの速度

低い

高い

コスト構造

初期投資が高額

比較的低コストで開始可能

特に意識すべきなのがターゲティングの精度です。マスマーケティングは広範囲にメッセージを届けるため、潜在顧客の裾野を広げるのに適しています。一方、ダイレクトマーケティングは特定のペルソナに焦点を当て、より高い確率で見込み客を獲得することが可能です。

両者は、メッセージのカスタマイズ性も大きく異なります。マスマーケティングは一般的なメッセージを発信するのに対し、ダイレクトマーケティングは受け手の特性や行動履歴に基づいて内容をカスタマイズできます。これにより、より高い反応率を見込めるのです。

マスマーケティングがなぜ重要なのか

BtoB SaaS企業の多くは、事業の初期段階ではWebマーケティングを中心に展開します。これは、コスト効率がよく、ターゲティングの精度も高いためです。しかし事業が成長し、急激な拡大が必要となる段階に達すると、マスマーケティングの重要性が増してきます。

特に、Webマーケティング経由の顧客獲得が鈍化し、潜在層へのリーチ拡大が求められる時期には、マスマーケティングが効果的です。この段階では、指名検索数の増加が事業成長の鍵となり、ブランド認知度の向上が重要になります。

SaaS型ビジネスの特性上、ARR(年間経常収益)の拡大が成長の要です。しかしWebマーケティングだけでは、リーチできる母数が頭打ちとなり、CAC(顧客獲得コスト)が高騰するケースが多々あります。

したがって、「Webマーケティングを一定段階まで実施し、そこからさらに大きなグロースが必要」「特に認知度の高い競合他社が存在する」などの場合、テレビCMなどのマスマーケティングの導入を検討するのが適切です。これによりブランド認知度を高め、新たな成長の機会を創出し、LTV/CAC比率の改善を図れるでしょう。

マスマーケティングの手法

メジャーなマスマーケティングの手法としては、次の4つが挙げられるでしょう。

  • 手法1:新聞・雑誌広告
  • 手法2:テレビ広告(CM)
  • 手法3:ビルボード (屋外広告)
  • 手法4:ラジオ

以下より、それぞれ個別に解説します。

手法1:新聞・雑誌広告

紙媒体とは新聞や雑誌です。インターネットはもちろん、テレビやラジオもなかった時代、紙媒体は消費者に向けてメッセージを発するための中心的なメディアでした。企業は新聞広告や雑誌広告を、積極的に活用していました。

中でも新聞は、コンテンツが政治経済から娯楽、本日のテレビ番組までと幅広く、かつ新聞配達という手法で毎日家庭に届きます。このことから、購読者にとっては社会の情報を入手する最適な手段であり、広告出稿企業にとってはマスにアプローチする有効なメディアでした。

雑誌は、週刊誌、女性誌、スポーツ紙、ファッション誌などのさまざまな種類があり、新聞よりは層を絞り込んで広告でアプローチできるため、マスマーケティングとはいえフォーカスした広告戦略を展開できます。

手法2:テレビ広告(CM)

テレビCMは、新聞や雑誌よりさらに多くの人にメッセージを届けられるマーケティング手法です。日本では、東京オリンピックの頃には約9割の家庭に白黒テレビがゆきわたっていました。

最近でこそテレビ離れが進んでいますが、テレビのある家庭ではテレビをつけっぱなしにしていることが多く、人々は生活の中で受動的にテレビCMを目にしていた時代です。

特にニュース番組、天気予報、人気ゴールデンタイムのドラマなどのテレビCMはより多くの人の目に触れます。かつては、それこそ全国民にメッセージを届けられるメディアという位置にあったのでしょう。

テレビ広告は視聴率が出るため、活用する企業側も自社ブランドの認知拡大を見込めます。また、コンテンツ制作者や配信者であるテレビ局・制作会社は、視聴率を重視し、面白い、多くの人を惹きつける番組を作る努力をするものです。

CMは、昔は効果測定を正確に行えない点がネックでしたが、近年は「瞬間指名検索数」から広告効果を可視化できるSaaSなども登場するなど、Webと連携することで成果が見えやすくなっています。

手法3:ビルボード (屋外広告)

屋外広告とは、交通量の多いエリアで見かける看板広告や、ビルの壁面などにかかっている広告、交通広告など、屋外を行き来する人たちを対象に露出する広告です。交通量や近辺の駅の乗降客数などによって価格が異なります(例:看板広告、広告塔、ポスター、交通広告、ビルの壁面広告など)。

屋外広告は、例えば地場企業や飲食店にとっては、顧客層である地元の消費者に訴求でき知名度、信頼性の向上につながるメリットがあります。都心の中心部のように1日に相当数の人が行き交う場所のビルの看板広告は、1日で大量の人の目に触れるため、効率的なマスマーケティングの手段です。

手法4:ラジオ

ラジオは、BtoB企業にとっても効果的なマスマーケティングのチャネルとなり得ます。特に、通勤時間帯や業務中にラジオを聴くビジネスパーソンへのリーチが期待できるでしょう。ビジネス向けの専門番組や経済ニュースなどにCMを出稿することで、意思決定者や専門家層に効果的にアプローチできる点が特徴です。

ラジオの強みは、リスナーの習慣的な聴取行動により、同じメッセージを繰り返し届けられること。これにより、ブランドの記憶定着を促進できます。また、テレビCMと比較して制作費用や放送料金が低コストなため、中小規模のBtoB企業でも取り組みやすい手法です。

具体的な活用例としては、人材サービス企業が朝の通勤時間帯に求人情報を流したり、オフィス機器メーカーがビジネス向け情報番組内でプロダクトプレイスメントを行ったりすることが挙げられます。

さらに、テレビの番組という点で派生させると、ビジネスコンサルティング企業が経済ニュース番組内で短いコメント枠を持ち、専門性をアピールするなどの方法もあります。

例えば、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」は、テレビ東京系列で放送されている経済報道番組で、さまざまなビジネスコンサルタントや経済専門家が短いコメントを提供することがあります。この番組では、特定の経済トピックに対して専門家の見解が紹介されることが多く、ビジネスコンサルティング企業の専門家が出演することもあります。

(出典:株式会社マージングポイント「『テレビ東京WBS』にコメンテーターとして出演:『7割経済を生き抜く企業経営』」)

ただし、音声のみの媒体であることを考慮し、明確で印象的なメッセージングや独特のジングルの使用が重要です。また、他のマーケティングチャネルとの連携を図り、統合的なキャンペーンの一部としてラジオを位置づけることで、より効果的な結果を得ることができるでしょう。

BtoB企業にとってのマスマーケティングのメリット

ここからは、マスマーケティングのメリットを紹介していきます。BtoB SaaSにとってのメリットを挙げるなら、以下のものが考えられるでしょう。

  • メリット1:ブランド認知度が向上する
  • メリット2:幅広い顧客へリーチできる
  • メリット3:人材採用にも好影響がある

それぞれ個別に解説します。 

メリット1:ブランド認知度が向上する

マスマーケティングは、一度に多くの人にメッセージを届け、露出を最大化させられます。特にテレビは多くの家庭にあるため、企業名やプロダクトの認知率の向上に有効です。

多くの潜在顧客企業に自社を認知させる非常に有効な手段であり、企業の生産性向上や業務効率化を支援するSaaSソリューションを提供する企業であれば、リード獲得の拡大だけでなく業界内でのポジショニング確立にも適しています。

例えば、総務省の「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、40代から上の世代はまだまだテレビを視聴していることがわかります。

(出典:総務省の「令和4年度情情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」)

40代以上向けの製品を提供している。あるいは、そういった世代に部長クラス以上や経営者も多いため認知を拡大したいという場合は、有用な選択肢といえるでしょう。

メリット2:幅広い顧客へリーチできる

マスコミュニケーションは、一度に市場全体、幅広い層にリーチすることができます。メッセージを受け取る母数が大きいため、見込み客層が「CTO」「IT部門長」「経営者」などのいちカテゴリーであっても、何割かが興味を持てば、一定の数に訴求可能です。また、当初イメージしていたターゲット群と違う層が反応することなどもあり得ます。

ビジネス向けの専門メディアやイベントは最近でこそオンライン化が進んでいますが、いまだ多くのビジネスパーソンが情報収集の手段として活用しています。企業の意思決定者は、受動的スタンスでもこれらのメディアを通してメッセージを受け取るため、幅広い業種や企業規模に自社のソリューションをアピールすることができます。

例えば、多様なマーケティングチャネルを活用しているSky株式会社は、マスマーケティングを活用している企業です。同社製品のSKYSEA Client Viewについて、俳優の藤原竜也さんが起用された新幹線広告やCMを目にした方も多いのではないでしょうか。

(出典:Sky株式会社

Skyは広告やCMでは製品の具体的な訴求を行わず、抽象的なメッセージを発信するに留まっています。これについて、筆者は以前SNSで「商談時に想起してもらうことが目的である」と言及されているのをみかけました(ちなみに、新幹線は企業の意思決定者にも多くリーチできます)。

実際、狭い広告面積や短いCM時間では訴求が難しいBtoBソリューションなので、有効な手段といえるでしょう。

メリット3:人材採用にも好影響がある

BtoB SaaS企業にとって、マスマーケティングは優秀な人材の採用に大きな好影響を与えます。新聞・雑誌広告、テレビCM、ビルボード、ラジオなどの伝統的なマスメディアでの露出は、企業ブランドの認知度を向上させ、優秀な人材からの応募を増やすのに効果的です。

例えば、経済紙や業界専門誌での広告掲載は、業界の専門家やキャリア志向の高い人材の注目を集めます。テレビCMや大規模な屋外広告は、企業の規模や安定性をアピールし、特に新卒採用において効果を発揮します。また、ラジオCMを通じて企業文化や価値観を伝えることで、自社の理念に共感する人材を惹きつけることができるでしょう。

さらに、業界誌での技術記事広告やイノベーション関連の特集CMは、エンジニアやプロダクトマネージャーなどの専門職に対して、自社の技術力やイノベーティブな側面をアピールする機会となります。

BtoB企業にとってのマスマーケティングのデメリット

一方で、BtoB SaaS企業がマスマーケティングを行うことには、以下のようなデメリットがあります。

  • デメリット1:価値観の多様化に対応しきれない
  • デメリット2:高い予算が必要である
  • デメリット3:BtoBには向いていない業種も多い
  • デメリット4:効果予測が難しい
  • デメリット5:競争が激しくなってしまう可能性がある

次項より、詳しく解説します。

デメリット1:価値観の多様化に対応しきれない

社会が近代化するにつれ、人々は生活に必要なプロダクトを入手できてしまいます。基本的なITインフラが整備された先進国の企業からは、特定の業界や規模に特化したソリューションや、独自の課題を解決するカスタマイズ性の高いサービスが求められるようになっているのが現状です。

こうした状況下では、マスマーケティングによる画一的なメッセージでは、個々の企業のニーズを適切に捉えることが難しくなります。

例えば、LinkedInやSalesforceなどのB2Bプラットフォームは、機械学習を活用して「〇〇業界の企業は△△のソリューションを導入している」といった洞察を提供し、よりターゲットを絞ったマーケティングが可能です。また、企業のウェブサイト閲覧履歴やホワイトペーパーのダウンロード状況などから、企業の関心事や導入検討段階を推測することも可能になっています。

こうしたデータ駆動型のアプローチは、個々の企業のニーズにより適合したマーケティングを可能にするため、マスマーケティングよりも効果的に映る場合が多いでしょう。

デメリット2:高い予算が必要である

テレビCM、新聞広告、駅看板などはかなり高額です。継続的に活用できるのは資金力のある企業のみになります。CMを出せる会社=大手企業というイメージは多くの人にあるように、中堅・中小企業はもちろん、スタートアップ企業などは手が出せないといったほうが正しいかもしれません。

特にBtoBの場合、予算を投じても顧客獲得に直接的な効果はすぐ出ない業種が多いため、マスマーケティングの優先順位は低くなりがちです。

例えば、日本のBtoBの勝ち組である日本電産株式会社が、初めてCMをしたのは創業から40年以上もたった2016年。同じく日本有数の高収益企業、最強の営業会社といわれるキーエンス社も広告宣伝をしないポリシーです。

デメリット3:BtoBには向いていない業種も多い

マスマーケティングは、BtoB企業がリード獲得、売上げ向上が目的だと、コストパフォーマンスがよくありません。そもそも、BtoBの多くはマスにアピールしても意味がなく、あまりマスマーケティングに力を入れてこなかった歴史があります。

もっとも、BtoBでもリクルート、ビズリーチ、楽天などのように「クライアント=企業/エンドユーザー=消費者」の業種で、市場が広範な場合には適しています。ユーザー層にアピールできる点に加え、どの企業にも人材採用ニーズはあるため、リーチしたい層の厚みがあるからです。

加えて、価格帯も重要な要素です。月額数万円程度の比較的安価なSaaSと、年間契約額が数千万円を超えるエンタープライズ向けSaaSでは、マーケティング戦略が大きく異なります。

デメリット4:効果予測が難しい

マスマーケティングは、まだ効果測定が難しいところが課題です。前述のようにテレビCMや看板の効果測定ツールなどは登場しつつありますが、あくまでWebとの連動で調べているため、高年齢層への影響はなんともいえません。

さらに、広告にせよCMにせよ、効果のあるなしはコンテンツのクオリティにもかかってきます。どのようなコンセプト、制作スタッフかでも成果は変わります。

もちろん、オンライン上のニッチマーケティングもコンテンツ作りは大変ですが、予算はマスマーケティングに比べればはるかに小さく、オンラインという特性上修正も容易です。

前述のSkyのように、BtoB向けのテレビCMや業界誌広告の効果は、直接的なリード獲得よりもブランド認知度の向上や業界内でのポジショニング強化といった、定量化が難しい目標を描くことも珍しくありません。

これに対し、デジタルマーケティングはクリック率やコンバージョン率など、より具体的な指標で効果を測定しやすいため、マスマーケティングを実施するにあたって社内合意も取りづらくなるでしょう。

デメリット5:競争が激しくなってしまう可能性がある

BtoB SaaS市場でのマスマーケティングは、競合他社との差別化を困難にする可能性があります。BtoB製品は往々にしてニーズが細分化されており、仕様も複雑です。

例えば、製造業向けのERPソフトウェアや金融機関向けのリスク管理システムなどは、業界特有の要件や法規制対応が求められます。こうした複雑な製品特性や細かなベネフィットを、テレビCMや新聞広告などのマス広告で十分に伝えることは極めて困難でしょう。

結果として、マスマーケティングでは製品の表面的な特徴や一般的なメリットしか伝えられず、真の差別化ポイントや顧客にとって重要な細部が伝わりにくくなります。これは、潜在顧客の関心を引きつけ、詳細な製品比較や導入検討のフェーズに進むことを難しくする要因となり得ます。

マスマーケティングの企業成功事例

ここでは、最近のマスマーケティングの事例を紹介します。

事例①:株式会社ブイキューブ

BtoB企業は、顧客が一般消費者ではないため、BtoC企業に比べればテレビCMへの露出は少ない傾向があります。それでもある程度見込み客の層が広く、ブランディングが必要なタイミングならCMは非常に有効です。

例えば、Web会議システムを提供している株式会社ブイキューブはコロナ禍にテレビCMSを打ち出しています。

(出典:株式会社ブイキューブ公式チャンネル「【TVCM】Web会議で業務効率化:宮崎電子機器様篇|株式会社ブイキューブ」)

2020年3月に始まったコロナパンデミックにより、日本の企業が急遽テレワークを導入しなければならなくなったのはご存知のとおりです。

当時もZoomなど無料ツールをはじめ、さまざまなツールがありましたが、すでに活用していた一部の先進的な企業以外は、何を選べばよいか見えづらい状態でした。そのタイミングで上記CMを出したのがブイキューブです。

ある程度の規模のBtoB企業にとっては、通信の問題、セキュリティの問題、何より失敗しないことが大事であり、「無料」はそれほどセールスポイントではありません。

「失敗せずに顧客との会議を進めたい」「社内のオフィシャルな会議を進めたい」「役員が登場する場面でミスなどとんでもない」といった失敗を避けたいビジネスマンにとって、自身と似た課題を抱えるユーザーがベネフィットについて語る宣伝方法は非常にタイムリーでした。

事例②:「クロス新宿ビジョン」のサイネージ広告

下記の猫は3D(3次元画像)です。この巨大3D猫は、2021年にJR新宿駅の「クロス新宿ビジョン」に登場し、日本だけでなく海外からも話題を集めたサイネージ広告(デジタル看板)です。

X(旧Twitter)で拡散され、登場から3日間で動画再生数は500万件を超えました。2022年には違う猫バージョンや、NIKEの3D広告も登場しています。

(出典:PR Times「『巨大猫』3D動画が世界に拡散された『クロス新宿ビジョン』。先端の表現手法を駆使する新ビジョンが、7月12日(月)より本放映をスタート。」)

屋外広告の手法の中で、サイネージ電子看板は近年注目されている新しい手法です。アメリカ中国韓国などでも、ダイナミックで近未来的な事例がでています。


屋外広告は昔からある手法ですが、デジタル技術の進歩により、むしろ今は注目されやすく拡散されやすい手法です。3Dサイネージはまだ出始めたばかりなので、今後さらに進化していくでしょう。

なお、トラディショナルな看板も、いまだマスに訴える有効な手段。SaaSのトップベンダーSalesforce社も有効活用しています。

(出典:PR Times「Salesforce、大谷翔平選手出演の広告シリーズ4作目『次の世界へ。大切なこと篇』を1月28日から展開」)

事例③:「としまえん」の最後の新聞広告

2020年8月30日の朝日新聞朝刊に掲載された「としまえん」の最後の新聞広告は、シンプルながら強いメッセージ性で大きな話題を呼びました。博報堂のクリエイティブチームが手掛けたこの広告は、94年の歴史に幕を閉じる遊園地の「ありがとう」を、独特の方法で表現しています。

(出典:広告朝日「としまえんらしい“かっこいい終わり方”、新聞広告だからできた自然と語りたくなる余白」)

最後の広告は「あしたのジョー」をもってきました。「Thanks」というキャッチコピーのみ、あとは余白だけという広告は、多くの人にささり話題になりました。多くの人に愛されただけでなく「市場最低の遊園地」ほか、ユーモア溢れたテレビCMや広告をたくさん出してきたとしまんえん。最後の広告もやはり、素晴らしいクオリティでした。

この広告の特徴は、情報を最小限に抑え、受け手の想像力を刺激する「余白」の効果を最大限に活用したことです。これにより、見る人それぞれが自由に思い出を語り、SNS上で自然な口コミが生まれました。

事例④:コカ・コーラ・カンパニー

コカ・コーラは「いつでも、どこでも、だれにでも」というキャッチフレーズに象徴されるように、全消費者を対象としたマスマーケティングを展開しています。しかし、その戦略の真髄は意外にも「たまにしか飲まないライトユーザー」を重視している点にあります。

コカ・コーラの購入者分析によると「年間0〜2本しか飲まない人が過半数を占めているといわれています。これらのライトユーザーこそが、実は最も重要な顧客層なのです。

コカ・コーラ社はテレビCMや広告に多額の投資を行い、ブランド認知度を高めることで、これらのライトユーザーの購買を促進しています。また、オリンピックの公式飲料に認定されるなど、世界規模でのブランド露出も積極的に行っています。

(出典:コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社「熊本市内のシンボル看板 復活へ!」)

このように、特定のターゲットを絞り込むのではなく、幅広い消費者層に向けたマスマーケティングを展開することで、コカ・コーラ社は長期的なブランド価値の向上と安定した売上げを実現しているのです。

マスマーケティングの実践のステップ

BtoB SaaS企業がマスマーケティングを実践する場合、具体的な手順は、以下の6ステップに分けられます。

  • STEP1:目標と目的を明確にする
  • STEP2:ペルソナと競合の分析をする
  • STEP3:予算を検討する
  • STEP4:最適なチャネルを選択する
  • STEP5:どのようなコンテンツを訴求するのかを考える
  • STEP6:分析と改善をする

各手順について、個別に解説します。

STEP1:目標と目的を明確にする

BtoB SaaS企業にとって、マスマーケティングの目標設定は戦略の要となります。一般的なBtoCとは異なり、直接的な売上げ増加だけでなく、ブランド認知度の向上や業界内でのポジショニング確立など、より長期的な視点での目標設定が重要。特に新規参入や新製品リリース時には、潜在顧客のデータベース拡大を目的としたリード獲得に注力することも有効です。

また、カスタマーサクセスを通じてアップセルやクロスセルの機会を創出することも、SaaS企業の成長戦略として欠かせません。具体的な数値目標を設定することで、施策の効果測定がしやすくなります。例えば、「6カ月以内にブランド認知度を20%向上させる」や「年間のMQL(マーケティング適格リード)を30%増加させる」といった具体的な指標を設定しましょう。

STEP2:ペルソナと競合の分析をする

BtoB SaaS企業のペルソナ分析では、単に企業規模や業種だけでなく、より詳細な要素を考慮する必要があります。意思決定者の役職(CTO、CIO、部門長など)や、企業の技術採用サイクル(イノベーター、アーリーアダプター、マジョリティなど)を理解することが重要です。

また、ターゲット企業が現在抱えている課題や痛点、さらには予算規模と決定プロセスまで把握できれば、より効果的なマーケティング戦略を立てられるでしょう。

競合分析においては、直接的な競合だけでなく、代替ソリューション(例:自社開発、アウトソーシングなど)や潜在的な新規参入者(大手テック企業の新規サービスなど)も視野に入れることが大切。競合のマーケティング戦略、使用チャネル、メッセージング、ポジショニングなどを分析することで、自社の差別化ポイントを明確にできます。

STEP3:予算を検討する

BtoB SaaS企業のマスマーケティング予算は、企業の成長段階や年間経常収益(ARR)に応じて柔軟に設定します。

一般的にARRの5-15%程度をマーケティング予算に充てることが多いですが、顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランスを考慮しながら決定することが重要です。また、業界標準や競合他社の推定マーケティング支出なども参考にしつつ、自社の状況に合わせて最適な予算を設定しましょう。

業界標準や競合他社の推定マーケティング支出も参考にしますが、自社の独自性を失わないよう注意が必要です。

予算配分では、テレビCMや屋外広告などのマスメディアに全て投下するのではなく、デジタルマーケティングとの相乗効果を考慮しましょう。例えば、テレビCMに40%、屋外広告に20%、デジタル広告に15%、イベントスポンサーシップに15%、PR活動に10%といった配分が考えられます。

STEP4:最適なチャネルを選択する

BtoB SaaS企業向けのマスマーケティングチャネルは多岐にわたります。業界専門メディアや、日本経済新聞Forbesなどのビジネス向け一般メディアは、ターゲット層へのリーチに効果的です。テレビCMは主にブランディング目的で使用され、SalesforceやSlackのようなメジャーなSaaS企業がスーパーボウルCMを出稿した例もあります。

屋外広告は、主要ビジネス街や空港など、ビジネスパーソンの目に触れやすい場所を選んで展開することで効果を発揮します。また、業界カンファレンスや展示会などのイベントスポンサーシップも、直接的なリード獲得の機会として重要でしょう。

STEP5:どのようなコンテンツを訴求するのかを考える

BtoB SaaS向けのコンテンツ戦略では、問題解決型アプローチが効果的です。顧客の抱える課題に対する具体的なソリューションを提示することで、自社製品の価値を明確に伝えられます。また、成功した導入事例を詳細に解説し、ROIを明確に示すケーススタディも有効です。

業界のトレンドや未来像について独自の見解を発信するリーダーシップ的コンテンツは、自社ブランドの信頼性向上に貢献します。

製品機能の説明では、複雑な機能をわかりやすく説明し、競合との差別化ポイントを強調することが重要。特に機密データを扱うSaaSの場合、セキュリティと信頼性に関する取り組みをアピールすることも忘れずに行いましょう。

STEP6:分析と改善をする

マスマーケティングでは莫大な広告費用が必要になるので、さまざまなKPIを定期的に測定し、継続的な改善につなげることが重要です。

ブランド認知度は調査会社を利用して定期的に測定し、ウェブサイトトラフィックは特にマーケティング活動後の変化に着目します。リード獲得数、特にMQL(マーケティング適格リード)の数と質は重要な指標です。

商談化率、特にマスマーケティングを通じて獲得したリードの商談化率を追跡することで、マーケティング活動の質を評価できます。

CAC(顧客獲得コスト)はチャネル別に分析し、最も効率的なチャネルを特定します。また、契約期間やNPS(顧客推奨度)の変化を追跡することで、マスマーケティングが顧客満足度に与える影響も把握可能です。

マスマーケティングは現在では使えない?

デジタル時代の到来により、マスマーケティングの有効性について疑問を投げかける声も少なくありません。確かに、ソーシャルメディアやデジタル広告の台頭により、よりターゲットを絞ったマーケティングが可能になりました。しかし、マスマーケティングが完全に時代遅れになったと結論づけるのは早計です。

実際のところ、マスマーケティングは現在でも多くの場面で有効に機能します。例えば、新しいブランドや製品の認知度を高める際には、依然として強力なツールとなります。また、幅広い層に一度にリーチできるという特性は、特定の業界や製品カテゴリーにおいては非常に重要です。

ただし、マスマーケティングの活用方法は、以前とは異なるアプローチが求められています。現代のマスマーケティングは、デジタルマーケティングと融合し、より洗練された形で展開されることが多いようです。例えば、テレビCMとソーシャルメディアキャンペーンを連動させるなど、複数のチャネルを統合的に活用する戦略が効果を発揮しています。

重要なのは、マスマーケティングを単独の戦略として捉えるのではなく、総合的なマーケティング戦略の一部として位置づけることです。ペルソナやターゲット顧客の特性、製品やサービスの性質、そして企業の目標に応じて、最適なマーケティングミックスを構築することが求められます。

例えば、BtoB SaaS企業の場合、業界全体への認知度向上にはマスマーケティングを活用しつつ、具体的な見込み客へのアプローチにはターゲティング広告やコンテンツマーケティングを用いるなど、バランスの取れたアプローチが効果的でしょう。

結論として、マスマーケティングは決して「使えない」わけではありません。むしろ、適切に活用すれば現在でも非常に強力なツールとなり得ます。ただし、その効果を最大化するためには、ペルソナやターゲット顧客の特性を深く理解し、それに合わせて最適なマーケティング手段を選択することが重要です。

まとめ

マスマーケティングは、テレビCM、新聞、雑誌、屋外広告などの4マスメディアを主に活用して、幅広い層を対象に行うマーケティング手法です。ネット広告市場が急成長し、インターネット上にメディアが多くなる中、古くからの雑誌の多くが廃刊となり、新聞も厳しいといわれつつあります。

確かに、顧客とのタッチポイントがオンライン化している2024年現在は、「まずはWebマーケティングに注力する」という選択が効率的です。一方で、「これから大きく自社ブランドの認知拡大を図りたい」「新製品が広範なターゲット層のニーズを満たすものである」というケースでは、マスマーケティングは有用な選択肢となります。

Amazonが買収したワシントンポストは、ネット戦略に力を入れた結果、デジタル版の購読者は300万人に増加、記者の人数も580人から1000人超えになるなど発展したというニュースも出ています。主要マスメディアも、オンラインと融合し始め進化しつつあります。古い手法とレッテルをはらずに、常に「有効活用できないか」という視点を持ち続けましょう。