マーケティングに費用をかけているものの、十分に成果が得られず、不満を感じている企業は少なくありません。実際、BtoB企業を対象に行われた調査では、費用対効果に満足している割合は、いずれのマーケティング施策でも50%を下回っています。
マーケティングの費用対効果を高めるために知っておくべきなのが「1:5の法則」です。新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客向けの施策にも注力することで、より大きな成果を得られる可能性があります。
本記事では、マーケティング担当者が知っておくべき、以下の内容を解説します。
本記事を読むことで1:5の法則をどのように活用すべきかがわかり、マーケティング施策をどのように改善していくかを考える指針になるでしょう。効率よくマーケティングを行えれば、自社の利益率を高めることにつながります。ぜひ最後までお読みください。
1:5の法則とは、新規のお客様を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかるという法則。(マーケティング用語集より引用)
事業を拡大していくために、新規顧客を獲得する必要があることは、多くの企業が理解しています。しかし、コストを下げた状態で事業拡大をしていくには、低コストで利益につなげられる既存顧客との関係を維持することが大切です。
1:5の法則はFred Reichheld(以下フレッド・ライクヘルド)氏が発見しました。フレッド・ライクヘルド氏は、調査対象のロイヤルティを測定する指標であるNPSを広めた人物としても有名です。
1:5の法則の重要性が認識された背景には、多くの企業がマーケティングで思うように成果を出せていない現状があり、費用をかけているわりに、効果につながっていないと感じる企業が少なくない背景があります。
(費用対効果に満足している施策)
上図は2021年2月にBtoB企業を対象に行われた、マーケティングに関する調査結果です。費用対効果に満足している施策の上位は、以下の通りです。
ただし、これらでさえ満足している割合は50%を下回っています。全体として、マーケティング施策に満足している企業は少ないことが明らかです。なお上位の施策は、いずれも新規顧客だけでなく既存顧客も対象とするものである点が共通しています。
主に新規顧客獲得のために行われる以下の施策は、さらに満足されている割合が低い結果となりました。
新規顧客を獲得することの困難さが意識され、既存顧客に目を向ける企業が増えたことが、1:5の法則が注目されるようになった要因だと考えることができます。
同時に、新規顧客の獲得のコストが高いことを示す1:5の法則は、事業の新規立ち上げの難しさを表している面もあります。新規の事業では既存顧客が存在せず、新規顧客を獲得するしか方法がないからです。
また、1:5の法則は先行者利益の根拠としても考えられます。ある市場でひとたびシェアを獲得すれば、新規に参入してきた企業が顧客を獲得する5分の1のコストで、既存顧客を維持できるためです。
このように、1:5の法則を理解しておくことで、事業におけるさまざまな現象への理解を深められます。
マーケティングの成果を高めるには、1:5の法則を理解したうえで、新規顧客の獲得と既存顧客の維持にバランスよく注力することが大切です。
費用対効果に優れているからといって、既存顧客向けの施策ばかりになってしまえば、SaaSなどではとくに重要視される新規顧客数が減って、長期的には売上げ増大スピードが減少してしまうでしょう。これはサブスクリプション型ビジネスにはより強く言えることかもしれません。
新規顧客獲得のための「アクイジションマーケティング」と、既存顧客価値を最大化するための「リレーションシップマーケティング」について、順番に解説します。
新規顧客を獲得するためには、「アクイジションマーケティング」を取り入れましょう。
アクイジションマーケティングは、顧客の転換を図り、新規の安定したビジネスを獲得するための戦略です。強力なプロセスを導入することで、顧客が組織内を流れていき、忠実な収益源となることを確実にできます。(rockcontentより引用)
アクイジションマーケティングで行う営業手法は、以下の2つに分類されます。
これらを自社の状況に応じて組み合わせることで、効率よく新規顧客を獲得できるでしょう。
アウトバウンド型は、企業から見込み客にアプローチする手法です。具体例は以下の通りです。
アウトバウンド型の営業手法のメリットは、自社の製品サービスを知らない見込み客にも、認知を広げられることです。新規事業を立ち上げたばかりなど、まだ認知を得られていないタイミングでは、とくに重要だといえます。ただし、アウトバウンド型の営業手法は人手を必要とする場合が多く、コストが高くなりやすい点には注意が必要です。
(行っている営業活動のうち辛いと思う割合)
上図は2020年2月に、BtoB営業を行う会社員・会社役員を対象に行われたアンケートの結果です。「行っている営業活動のうち辛いと思うものの割合」は、飛び込み営業が77.6%でトップ、次いでテレアポの47.4%でした。アウトバウンド型の営業手法は、このように担当者に精神的負担を与える場合があります。施策を行う際には、担当者の負担が大きくなりすぎないように配慮しましょう。
インバウンド型は、見込み客側から企業にアプローチすることを促す手法です。具体例は以下の通りです。
インバウンド型の営業が対象とする見込み客は、自社の製品サービスに興味を持っている場合が少なくありません。WebサイトやSNSなどを通して、すでにさまざまな情報に触れていることが多いのです。興味を持っている人を対象として営業を行うため、購入につながる割合が比較的高い傾向があります。
また、作ったコンテンツを大勢の見込み客に届けることで、ひとり当たりにかかるコストを抑えやすい点も、インバウンド型のメリットです。コストを抑えて効率よくアクイジションマーケティングを行うためには、インバウンド型の営業手法を積極的に取り入れるのがおすすめです。
リレーションシップマーケティングとは、顧客とより有意義な関係を築き、長期的な満足とブランドロイヤルティを確保するためのマーケティング戦略です。(HubSpotより引用)
既存顧客の価値を最大化するためには、リレーションシップマーケティングを通じて、長期的な関係を築いていくことが欠かせません。以下のリレーションシップマーケティングの代表的な施策について、事例を交えて解説します。
コミュニティマネージメントとは、さまざまなタイプの交流を通じて、企業の顧客、従業員、パートナーの間に本物のコミュニティを構築するプロセスです。(HubSpotより引用)
既存顧客が「コミュニティに所属している」という意識を持つことで、自社の製品サービスを継続して購入してくれやすくなります。コミュニティに所属する人には、いつでも製品の最新情報やセールのお知らせなどを届けられるため、売上げを伸ばしやすくなる点もメリットです。
(Salesforce)
たとえば、SaaSのCRM(顧客関係管理)システムを提供しているSalesforceは、コミュニティマネージメントを実施しています。運営する「Salesforce Trailblazer Community」には、以下の関係者が所属しています。
90カ国以上に 1,300を超えるグループが存在しており、メンバーは企業の所在地や目的に応じて、グループに参加が可能です。コミュニティでは他の利用者がSalesforceをどのように活用しているのか、投稿を見て学べます。また、Salesforcの使い方などに不明点があれば、質問を書き込むことで、他のコミュニティメンバーから回答をもらえるのです。
コミュニティメンバーどうしでつながりができると、仲間意識が生まれて、他のツールに乗り換えようとあまり考えなくなると見込めます。結果として、既存顧客に長期契約を促せます。サブスクリプション型SaaSの売上げを伸ばすうえで、コミュニティマネージメントは効果的な施策です。
データベースマーケティングは、企業が以下のような顧客データを収集する手法です。
これらの情報は、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供するためや、個人情報や購買情報を保管するために使用されます。(HubSpotより引用)
企業は製品サービスの提供を通して、既存顧客がどんなことで困っているのか、継続的に情報を集められます。その情報をもとに顧客に新たな提案をすることで、売上げアップのチャンスを作りつつ、より良い関係を構築できるのです。
(ブイキューブ)
SaaSを提供するブイキューブを例に考えてみましょう。ブイキューブでは、以下の用途で使えるさまざまなSaaSツールを提供しています。
これらのツールの利用者が「最近はWeb会議が増えてきたけれど、落ち着いて会議ができる場所がない」という悩みを抱えていたとします。その情報を得た担当者は、データベースに顧客の悩みを保存しておくことが大切です。
ブイキューブはサブスクリプションで利用できる個別ブース「テレキューブ」も提供しています。テレキューブの営業担当者が、データベースの情報から「会議場所の悩みを抱える既存顧客」の存在に気づけば、効果的なアプローチができます。
悩みを解決できるテレキューブをピンポイントで提案できるうえ、すでに別のツールで顧客との信頼関係ができているため、契約に至りやすいといえるでしょう。
データベースマーケティングを行うためには、顧客に関する情報の管理が必要です。取得した情報はデータベースに保管し、他部署も含めて社内全体で活用できるようにしておきましょう。
OnetoOneマーケティングは、ブランドや企業が一人ひとりの消費者と、本当に親密で高度に個別化された関係を築こうとする手法です。(rockcontentより引用)
OnetoOneマーケティングでは、顧客が「自分ひとりのために対応してくれている」と感じることで、自社に対するロイヤルティが高まる効果が見込めます。SaaSにおいては、一人ひとりに合わせたサポートがとくに重要だといえます。サポートの良し悪しによって、顧客のサービスへの満足度は大きく変わるからです。
(BetterCloud)
サポートを成功させている良い例が、SaaSの人事管理プラットフォーム「BetterCloud」です。BetterCloudのサポートシステムは、顧客の利用状況を把握し、エラーが起きたらそれを検知します。そして、顧客が問い合わせをするのを待たずに連絡し、エラーが起こって困っていないかを確認するのです。
ほとんどのSaaSツールでは、エラーが起こった場合、問い合わせをするなどの行動を利用者が起こす必要があります。しかし、問い合わせは面倒だと感じる利用者は多いため、自力でエラーを解決しようとして苦労したり、問題を放置してしまったりします。そして結果として、サービスへの満足度が下がってしまうのです。
BetterCloudのサポートでは、利用者はほとんど何もしなくても、エラーの解決策がわかります。結果として、1,000件を超えるサポートのすべてで、利用者から良い反応を得られました。
OnetoOneマーケティングの一環として充実した個別サポートを行うことで、顧客と良い関係を築け、長期的な契約につながりやすくなります。長期的な契約が売上げに直結するSaaS企業には、とくにおすすめの施策です。
1:5の法則は、「新規顧客を獲得するには既存顧客を維持する5倍のコストがかかる」という法則です。企業は既存顧客向けの施策に注力することで、利益率を高められる可能性があります。とはいえ、新規顧客の獲得も欠かせません。
これら2つの手法を組み合わせて、バランス良くマーケティングを行うことが大切です。自社が行っている施策を確認し、どちらかに偏っている場合は、もう一方の施策を取り入れるとよいでしょう。