ビジネスの成功は、どの市場にフォーカスするかで成否がわかれるといっても過言ではありません。特に近年は、生活水準の向上や市場の成熟により、これまでのような「作れば売れる」ような環境ではなくなってきています。
顧客の価値観やより細かいニーズに対して、どのようにニーズに応えていくかを考えることが、事業成長の重要な要素になります。そのためには、いかに市場をセグメンテーションして、自社の価値を「誰に」届けるのかを明確に絞り込むことが必要です。
とはいえ、市場をセグメンテーションするのは難しい取り組みです。対象が大きいと、製品・サービスのコンセプトはあいまいになり、競合他社の商品がひしめく市場で目を引くことすら難しくなるでしょう。その一方であまりにもセグメントしすぎると、市場が小さくなりすぎ、売上げは限定的となります。
本記事ではセグメンテーションの手法や、混同されがちなペルソナとの違いを解説します。どのような手法があるかを理解すれば、目的に応じて見込み企業を絞り込めるようになり、マーケティング戦略の効果をより高められるでしょう。
セグメンテーション(Segmentation)とは、直訳すると「区分、分割」という意味です。マーケティングの領域では、市場(顧客)を共通する特徴で分類・細分化する手法を指します。
多くの事業の場合、自社の製品・サービスをどのようなお客様が主に活用いただけるか、というイメージはあるのではないでしょうか。例えばBtoCの場合は、年齢や性別、エリアなど、BtoBの場合は、業種や役職、企業規模などでアプローチしたいお客様の共通点があるかと思います。
セグメンテーションは、製品・サービスを開発するときやマーケティング戦略をたてるときに、対象とする市場(顧客層)を明確に設定するために行われます。
「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」というそれぞれの言葉について、違いや関係性を端的に説明してほしいと投げかけられても、答えに窮してしまう人もいるかもしれません。答えは、以下のとおりです。
まず「セグメンテーション」では、これから自社が参入しようとする市場を細かく分けて考えます。次に「ターゲティング」で、細分化した市場の中から、自社がどこを狙うのかを検討します。最後に「ポジショニング」で、競合企業の製品・サービスを確認します。そして、自社が消費者からどのように位置づけられたいのかを明確にします。
目的: 市場を異なるセグメントまたはグループに分割する。
方法:顧客のニーズ、年代、居住地域、生活様式などの変数に基づいて市場を分割する。
例:「20代/30代/40代」
「首都圏在住/東北地方在住/関西地方在住」
「ファミリー層/単身者層/DINKs」
といった軸で市場を分割し、顧客のグループを作る。
目的:セグメンテーションの後、特定の市場セグメントを選択する。
方法:企業の強みと市場の機会を評価し、最も魅力的なセグメントを選択します。
例:「首都圏在住の30代DINKs」を対象とした製品やサービスを提供する。
目的:選択した市場セグメントで製品またはサービスの独自の位置を確立する。
方法:製品の特長、利点、および差別化を強調して、競合他社との違いを明確にします。
例:フィンテック企業「株式会社OsidOri」が提供するスマホ向け家計簿アプリ「OsidOri(オシドリ)」。共働き夫婦が「パートナーとの共有口座を互いに可視化しながら管理できる家計簿アプリ」という製品コンセプトで、他の家計簿アプリとの違いを際立たせている。
(出典:STP Marketing Model for PowerPoint and Google Slides - PresentationGO )
セグメンテーションの目的を知ると、ペルソナと似ていてわかりにくいと感じるかもしれません。この2つはマーケティング戦略上で、顧客を理解する共通の目的をもっているため、よく混同されて使われてしまいがちです。ここで、用語の意味を押さえておきましょう。
マーケティング戦略を行う初期で市場をセグメンテーションすることで、対象とする見込み客企業層の市場規模、全体的な傾向 、予算感を予測しやすくなります。セグメンテーションした結果、どのセグメントに力を入れるべきかどうかも判断できるのです。
(出典:Tutor2u.net)
一方でペルソナは、架空とはいえ個人のプロファイルであり、顧客の解像度がまったく異なります。ペルソナは、顧客の感情や行動パターンをリアリティをもって推測するのに役立つツールです。マーケティングのチャネル選択、コンテンツ作成など具体的な施策の効果を高めます。
ペルソナ例:マーケティングのマリー
(出典:HubSpot)
この2つを併用することで、企業がどのような顧客にマーケティング施策を行うべきか、また顧客の関心を引いた後、どのような顧客の要望やニーズに応えるのがベストなのかイメージを描きやすくなります。
ペルソナがあることで、マーケティング部門のスタッフ間で顧客像が統一できるため、施策に一貫性も生まれます。
なぜセグメンテーションが重要なのでしょうか? セグメントを定義することで、自社の製品ポートフォリオの中から、特定の顧客に向けてアピールすべき製品・サービスを的確に絞り込むことができます。
たとえば家庭用洗剤などを取り扱っている消費財メーカーを例に挙げてみます。
上記2つのセグメントに対して訴求すべき製品が、それぞれ全く異なる可能性もあるでしょう。商品の販促を目的としたキャンペーンを企画するにしても、どんなサイトの雰囲気で、どんなイメージキャラクターを起用して、どんなコピーでメッセージを打ち出すか、といった細かい点まで大きく変わってくるはずです。
つまり、セグメントのニーズや特性に基づいて、訴求軸やプロモーション活動のあり方もまったく違ってくる可能性があるのです。
市場を細分化することで、企業は顧客について知ることができます。セグメンテーションによって顧客のニーズや要望をより深く理解できるため、製品を購入する可能性が高い顧客層に合わせて、マーケティング施策の内容も最適化できるでしょう。
市場をセグメンテーションする手法は、以下の5種類が代表的です。
デモグラフィック・セグメンテーション とは、人口統計学的な分類手法です。性別、年齢、収入、教育レベル、職業上の地位などで分類します。
例えば、ある製品サービスの特徴を「男性、日本人、ミドルマネジメント、年収1000万円以上」と条件づけることによって、顧客になりうる潜在層を絞り込めます。
Psychographic(サイコグラフィック)とは、心理的属性を指します。サイコグラフィック・セグメンテーションとは、顧客のパーソナリティ、心理的傾向、価値観、趣味嗜好によってセグメンテーションすることです。
昨今は、SNS上などで多くの人が自分の価値観、趣味や所属しているコミュニティを公開しているため、ある程度の把握が可能です。また、自社の顧客にアンケート調査を行いセグメンテーションしてもよいでしょう。
顧客の心理傾向を押さえたマーケティングプロモーションは、相手に「まるで私のために生まれたような商品」と感じてもらえる可能性が高まります。
ジオグラフィック・セグメンテーションとは、地理的要因でのセグメンテーションです。都市部か地方都市か過疎地かによって顧客の傾向はまったく異なります。
日本国内でも北海道と沖縄はまったく違う気候、ライフスタイルです。世界に目を向ければ先進国と新興国ではニーズのある製品・サービスがかなり違うでしょう。
地理的要因は、国、都市など大きくセグメンテーションするのも可能です。最近はスマートフォンの位置情報をもとにしたデジタル広告出稿も可能なように、エリアを細かくセグメンテーションして、マーケティングに活かすこともできます。
(出典:Your Free Templates)
ビヘイビア(行動)セグメンテーションとは、顧客の購買行動や製品・サービスへのエンゲージメント(愛着・思い入れ)などを示す行動を指します。
たとえば、リピート状況、Webサイト上の行動、顧客アンケート調査、NPSの結果などからセグメンテーションできます。
ファーモグラフィック・セグメンテーションとは、企業統計に基づくセグメンテーションであり、B2B企業にとって重要な分類方法です。主に以下の指標でセグメンテーションします。
(出典:Wiglafjournal.com)
ファーモグラフィック・セグメンテーションという名称を知らなくても、多くの企業が上記のような分類をある程度して営業・マーケティング施策を実施していると思います。
ただ、何となく分類するよりもフレームワークなどを活用してセグメンテーションすると、より適切な見込み客層の特定ができるでしょう。特に、セールスサイクルなどは見落とされがちなセグメンテーションなので留意しましょう。
セグメンテーションを実行する際の具体的なやり方を、ステップに沿って解説します。
まず、自社が狙いたい市場を明確に定義しましょう。具体的には、市場調査を行って、顧客に関する情報を収集します。次に、最も近い競合他社のデータを詳細に調査し、市場における競合他社のポジショニングを理解します。自社がその市場を狙うことで、マーケットシェアをどの程度獲得できるかの検討が可能です。
自社の事業課題と、市場機会を客観的に分析できる「SWOT分析」の実行もおすすめ。SWOT分析により、自社の強み、弱み、機会、そして脅威を把握し、どのように事業を前進させていくべきか戦略を練ります。
セグメンテーションを行うにあたって「どのような切り口があるのか」を把握することは重要です。なぜなら、セグメンテーションの成功・失敗は、どのような軸で切り分けるかで決まってくるからです。
セグメンテーションの軸を検討するにあたって分析・参考にするべきものは、既存顧客とペルソナになります。そもそも既存顧客は、既にニーズがあり活用していただいているので、どのようなお客様層で活用できているのかを分析することで、活用いただける層の共通点を見つけることができます。
また、ペルソナに関しても、理想的な顧客層がどのような像なのかをイメージしながら軸を検討していくことができます。ペルソナを作成するにあたっても、どのような属性なのか、どのような課題を抱えているのかを検討していきますので、その情報を参考にして考えることもおすすめです。
「人口動態変数」「心理的変数」「地理的変数」といった各変数に沿って、顧客を特定のグループに分割しましょう。この分割により、各グループの特性やニーズを深く理解することができ、それに基づいて製品・サービスを最適化できるでしょう。
なお、セグメンテーションを行う際にはツールを活用して作業をおこなうことで効率化できます。具体的にはHubSpotのようなマーケティングツールを活用することでセグメントができ、特定のセグメントに向けたメールでのアプローチまで可能です。
セグメントの軸を決定した後には、それぞれのセグメントの評価を行ってその有効性を確かめましょう。この評価により、セグメントが自社のビジネスの目標と整合しているかどうかを確認できます。最も利益をもたらす可能性のあるセグメントに焦点を当て、リソースを効果的に配分することができるでしょう。
セグメントを評価する際には、具体的に次のような項目をチェックしてみましょう。
評価項目 |
ポイント |
メリット |
①定量的に測定可能か? |
数値によって測定可能な変数に基づいている。 (例) 実際の購買データをもとに分析可能なセグメント。 |
マーケティング施策の効果を正確に測定し、最適化することが可能。 |
②企業側から容易にアプローチできるか? |
企業が効果的にアプローチできるセグメントであること。 (例)「オフライン広告をよく見る顧客層」「オンライン広告をよく見る顧客層 」など |
セグメントごとに最適なコミュニケーションチャネルを通じて効果的にメッセージを届けることができる。 |
③購買力はあるか? |
購買力のあるセグメントであること。 (例) 「高価格帯の製品・サービスの価値を理解し、購入する意欲がある顧客層」など |
企業にとって価値のある顧客層をターゲットにすることができる。 |
④安定性・持続可能性はあるか? |
長期間安定してビジネスを展開できるセグメントであること。 (例)市場やトレンドの変化が起きても、引き続き利用できる顧客層。 |
ビジネスの持続可能性を確保できる。 |
⑤他のセグメントとまとめられるか? |
購買行動が似ている、異なる特性の顧客層を1つのセグメントとして扱うことができるセグメントであるか。 (例) 「ペット愛好者」と「環境意識の高い人」を1つの顧客層とまとめる。 |
マーケティングリソースを効率的に活用し、効果を最大化することができる。 |
最後に、施策の実行と改善の段階では、選択したセグメントに対してターゲティング戦略を実施します。施策の結果を分析し、必要に応じて改善を行うことで、セグメンテーション戦略の効果を最大化することができます。
セグメンテーションは、マーケティング戦略の効果を大幅に向上させることができます。以下は、セグメンテーションがどのようにビジネスに影響を与えるかを示す2つの事例です。
(出典:TouchBistro)
Touch Bistroは、レストラン向けのPOS SaaSを提供しています。当初、同社のセグメンテーション戦略は最適ではなかったため、成果が出ていませんでした。しかし、セグメンテーション戦略を「レストランオーナー」から「レストランスタッフ」へ見直した結果、Facebook広告を通じて問い合わせ獲得のボリュームと品質が向上しました。この事例は、適切なセグメンテーションがどれだけ重要かを示しています。
(出典:Mailchimp )
メール配信ツール「MailChimp」は、マーケティングキャンペーンの分析を行って「セグメント化されたマーケティング活動」と「セグメント化されていないマーケティング活動」の結果を比較しました。
1800万件を超えるeメールを分析した結果、「セグメント化されたマーケティングキャンペーン」のCTRは、「セグメント化されていないキャンペーン」に比べて2倍であることが確認できました。
また「セグメント化されたキャンペーン」では、購読解除率が9.5%低く、開封率が15.1%高くなりました。
セグメンテーションを行う際には、効果的な結果を得るためにいくつかの重要な点に注意する必要があります。
セグメントを細かくしすぎると、ターゲットとする顧客層が狭まりすぎ、マーケティングの効果が薄れる可能性があります。適切なバランスでセグメントを設定し、十分な規模の顧客層を確保することが重要です。収益に影響を与える十分な大きさのセグメントを作成しましょう。
セグメンテーションでは大量の顧客データを扱うため、MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)システムの活用が有効です。これらのシステムを使用することで、データの管理と分析が容易になります。ただし、データの整理と入力の徹底が必要です。
セグメンテーションの軸の選定は、業界やビジネスモデルによって変わります。自社の製品・サービスの購入につながるセグメントを見極め、有意な変数に注目してセグメンテーションを行うことが重要です。購買行動を起こさないセグメントに注力すると、リソースの無駄につながる可能性があります。
セグメンテーションはマーケティングの初期工程に位置し、その後のマーケティング施策の方向性を決める重要な役割を持ちます。
自社製品・サービスを買ってくれそうな顧客がどのような市場に多いかは、あいまいなイメージではなく、さまざまな統計データや意識調査に基づきセグメンテーションすることによってわかってきます。
いろいろな切り口でセグメンテーションして、有望な市場を見つけましょう。