リターゲティング広告は、自社サイトに訪問履歴のあるユーザーに広告を配信する手法です。Web広告からのコンバージョンを増やすための有力な手段として、多くの企業に活用されています。
広告で獲得した新規ユーザーがコンバージョンまで到達する割合は、0.5〜3%程度しかないというデータがあります。1回だけの接触では購入などにつながらない場合が多いため、ユーザーに再訪問を促す施策が必要なのです。
本記事では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者に向けて、リターゲティング広告について以下の内容を解説します。
リターゲティング広告の基本や、効果的に運用するための考え方を詳しくお伝えします。ぜひ最後までお読みください。
(リターゲティングの仕組み)
リターゲティングとは、自社サイトに訪問したことのあるユーザーに広告を配信し、再訪問を促す手法です。
せっかく自社サイトに集客できても、なかなか購入や問い合わせに至らないという悩みは、多くのBtoB企業やSaaS企業に共通しています。Webサイトの設計に問題がある可能性もありますが、そもそも新規訪問ユーザーがコンバージョンに至る割合は低いことを前提に、マーケティング戦略を考えるべきです。
ユーザーがサイトの1ページだけを閲覧して離脱する割合である「直帰率」は、平均で58.18%というデータがあります。半数以上のユーザーは、最初に訪れたページしか見ていないのです。
コンバージョン率は、検索広告で1%台〜10%弱、GDN(Googleのディスプレイ広告)で0%台〜3%程度と、業界ごとのデータが示されています。こうしたデータが示す通り、広告のクリックがコンバージョンにつながらないケースが多いのは、ある程度は仕方がないのです。
そこでコンバージョン率を上げるための手段として有効なのが、リターゲティング広告です。
自社サイトに訪問履歴のあるユーザーは、製品サービスに関心があると想定されます。そうしたユーザーに絞って広告を配信することで、コンバージョン率の向上が期待できるのです。
過去にWebサイトから離脱したユーザーの中には、「購入を検討していたが他のサイトを見ているうちに忘れてしまった」という人もいるでしょう。リターゲティング広告によって、そういったユーザーに製品サービスのことを思い出してもらえます。
広告のROIやROASを高めるためにも効果的なので、すでにWeb広告を出稿しているBtoB企業やSaaS企業であれば、リターゲティング広告の活用はおすすめです。
リターゲティング広告は、主に以下の媒体で利用できます。
媒体によって名称が異なりますが、目的や用途は同様です。
インターネット黎明期においては、以下のような種類のWeb広告が主流でした。
インターネットの発達とともに、見込みの高いユーザーにより効率よく広告を配信するため、広告技術も進化していきました。そして「ユーザーの行動を分析してターゲティング」するという、行動ターゲティングの概念が2005年ごろから提唱され始めたのです。
ユーザーの行動や興味関心に連動した広告配信は、「人」をベースとしたターゲティング手法「オーディエンスターゲティング」と呼ばれます。2008年、リーマンショックで金融エンジニアがWeb業界へ流れ、アドテクが盛んになったことも追い風となり、ターゲティングの技術が発展していきました。
GDNでは2010年、YDAでは2013年にリターゲティング広告サービスを開始しています。「人」に対してピンポイントで広告を配信する手法の効果が認められ、発達していったのです。
リターゲティング広告の掲載場所や見え方は、媒体によって異なります。以下の媒体について、どのように広告が表示されるかを紹介します。
(Yahoo! JAPANに表示された広告)
ポータルサイトの代表例は、Yahoo! JAPANです。上図のように、トップ画面右上に大きく広告(赤枠で囲った部分)が表示されています。
(Yahoo! JAPANニュースに表示された広告)
Yahoo! JAPANのサービスサイトであるYahoo! JAPANニュースにも、上図のように画面中に広告が表示されます。このような広告枠に、リターゲティング広告の配信が可能です。
(教えて!gooに表示された広告)
上図はGDNの掲載パートナーである「教えて!goo」に表示された広告の例です。このように、Webサイト内にある広告枠に対して、リターゲティング広告を配信できます。
(YouTubeに表示された広告)
上図はYouTube内の広告枠です。動画一覧の上部と動画内に、広告が表示されています。
このように、リターゲティング広告はWeb上のさまざまな場所に掲載できます。リターゲティング広告の効果を高めるためには、自社の見込み客がよく訪れるサイトに広告を出稿することが大切です。
(Facebookに表示された広告)
上図はFacebookに表示された広告の例です。タイムラインと連絡先一覧の上部に、広告が配置されています。リターゲティング広告は、SNS内のこうした広告枠にも配信可能です。
(Twitterタイムライン上に表示された広告)
(おすすめユーザー一覧に表示されたプロモアカウント)
(トレンド一覧に表示されたプロモトレンド)
Twitterのリターゲティング広告の配信先には、以下の3種類があります。
それぞれが上図の広告枠に対応します。「Promoted」と表記されているコンテンツが広告です。
SNS内の広告は、ユーザーの投稿と同じ形式で配信されるため、広告だと意識されにくい点が特徴です。BtoB企業やSaaS企業にとっても効果的な媒体ですので、広告の出稿先の選択肢として検討してみるとよいでしょう。
(HubSpotのFacebook広告)
たとえば、マーケティングツールをSaaSで提供するHubSpotは、無料でツールを使えることをFacebook広告で訴求しています。CRMに関心を持つマーケティング担当者がこの広告を見て、「無料ならとりあえず試してみようか」と反応してもらえることを期待できます。
ターゲットとするユーザーが思わず目をとめる広告として、参考になる事例です。
(リターゲティング広告の仕組み)
リターゲティング広告の仕組みは、以下の2段階で説明できます。
まず自社サイトに、リターゲティングのためのタグ(グローバルサイトタグ)を設置しておきます。これにより、訪問したユーザーをCookieで特定して、リスト化できるようになるのです。
その後、作成したユーザーリストを使用することで、リターゲティング広告を配信できます。
また、リターゲティング広告の配信方法は以下の2種類です。
スタティックリターゲティングは、自社サイトに訪問履歴のあるユーザーに、あらかじめ設定した広告を配信する手法です。取り扱う製品サービスの種類が少ないBtoB企業やSaaS企業であれば、この手法が扱いやすいでしょう。
一方ダイナミックリターゲティングでは、機械学習によって最適な広告クリエイティブを選んで配信します。システム開発やSaaS製品のサブスクリプションプランなど、ユーザーに合わせて多種多様なサービスを訴求したい場合におすすめです。
(Criteo公式ホームページ)
ダイナミックリターゲティング広告を配信するツールの例として、Criteoが挙げられます。CriteoはGoogleとYahoo!の両方と連携できるため、非常に多くのサイトに広告を配信できる点が特徴です。
こうしたツールを用いることで、リターゲティング広告の出稿が簡単になります。Web広告の管理に使える工数が限られている企業であれば、手間を減らすためにツールを導入することもおすすめです。
リターゲティング広告の効果を高めるためには、マーケティング活動全体の戦略を考えておくべきです。BtoB企業やSaaS企業が意識すべき、リターゲティング広告の立ち位置を解説します。
リターゲティング広告は、購買意欲の高いユーザーにアプローチする手段として使いましょう。
このようなユーザーに広告を見せることで、購入のきっかけを作れます。
広告のクリエイティブは、認知を目的としたものではなく、コンバージョンを後押しするような内容を意識しましょう。
SaaSであれば「今だけ3カ月間無料」など、お得さを感じてもらうキャンペーンを訴求すると効果的です。自社サービスのライフタイムバリュー(LTV)が高い場合は、短期的な利益を犠牲にしてでも新規顧客の獲得に注力することで、長期的な利益につながりやすくなります。
リターゲティング広告は、見込み客との関係を維持するための手段としても使えます。見込み客に広告を見てもらうことで、自社のことを思い出してもらえるからです。
BtoBでは購入の際の検討期間が長くなる傾向があります。そのため、他社の情報を調べているうちに、自社の存在を忘れられてしまうことがよく起こるのです。
見込み客との関係を深めていくためには、自社のことを覚えておいてもらうことが欠かせません。
(SATORIの広告クリエイティブ)
マーケティングオートメーションツール「SATORI」を提供するSATORI株式会社は、事例集のダウンロードを広告クリエイティブで訴求しています。
このようなクリエイティブをリターゲティング広告で出稿すれば、過去に自社サイトを訪れたユーザーに、再びSATORIに興味を向けてもらえるでしょう。また、事例集のダウンロードを促すことで、リードの獲得にもつなげられます。
このように、リードの獲得に至っていない見込み客にアプローチする手段として、リターゲティング広告を活用できます。
リターゲティング広告の配信には、訪問履歴のあるユーザーのリストが必要です。利用を決めてすぐに使い始められるわけではないことは、知っておきましょう。
リターゲティング広告の利用を検討しているのであれば、早めにユーザーリストの準備を進めておくべきです。
また、広告の配信にはプラットフォームごとに条件があります。GDNとYDAでは、それぞれ以下の通りです。
十分な数のリストがないと、これらの条件を満たせない場合があるので、注意が必要です。
Webマーケティングに注力し始めたばかりのBtoB企業やSaaS企業では、すぐにリターゲティング広告を出稿するのは難しいといえます。その場合は、まずはWeb広告などで自社サイトの訪問者を集め、ユーザーリストを作ることから始めましょう。
リターゲティング広告にはデメリットも存在します。効果的な運用をするために、デメリットを把握しておきましょう。
リターゲティング広告は、ブランドイメージを低下させる恐れがあります。自分が過去に見たページに関する広告が表示されることで、「監視されているようで不快」と感じるユーザーもいるからです。
GDNやYDAには、広告を非表示にできる機能があり、以下のような項目から理由を選択できます。
リターゲティング広告が何度も表示されて不快に感じたユーザーであれば、「繰り返し表示される」の項目を選択するでしょう。
広告を非表示にされることを防ぐには、配信頻度を抑えることが有効です。また、何度も同じクリエイティブが表示されることを避けるため、定期的にクリエイティブを入れ替えることも効果的です。
リターゲティング広告は、新規顧客の開拓には向いていません。そもそも、すでに自社と接点を持った見込み客に対して配信する広告だからです。
広告には認知拡大を目的とした施策が多いですが、リターゲティング広告はそれらとは別物であることを理解しておきましょう。
BtoB企業やSaaS企業が新規顧客を獲得したい場合は、他の営業手法を検討すべきです。
知名度がまだ低いBtoB企業やSaaS企業であれば、SNSの活用がおすすめです。見込み客にとって役立つ情報を継続して発信することで、多くのユーザーにアプローチできます。
リターゲティング広告はコントロールが難しく、運用には知識やノウハウが求められます。運用者自身でユーザーリストなどを設計する必要がありますが、どのような設定にすべきかわからなくなりがちです。
これらを適切に設計しなければ、リターゲティング広告を出稿しても成果につながりにくいでしょう。Web広告に慣れていない場合は、最初のうちは試行錯誤が必要となります。
マーケティング予算に余裕がある場合は、ノウハウを持つ代理店に広告運用を外注するのもよいでしょう。
リターゲティング広告を配信できる代表的なプラットフォームを紹介します。利用者層や配信方法の違いを把握したうえで、自社に最適な媒体を選びましょう。
Google広告では、リターゲティング広告は以下の媒体で配信されます。
(Googleの利用者層)
Googleの利用者層の割合は、20代〜30代男性が50%台、女性ユーザーは年代問わず30%台です。特に検索広告を利用する場合は、こうしたユーザー層の傾向を意識しておきましょう。
広告のターゲットが若年男性である場合は、Google広告の利用が適しているといえます。
Yahoo!広告では、リターゲティング広告は以下の媒体で配信されます。Yahoo!のサイト外でも、広告が表示されることを押さえておきましょう。
(Yahoo! JAPANの利用者層)
スマートフォンからYahoo!JAPANを利用しているユーザーは、主婦や経営者のユーザーが多い傾向があります。
BtoB企業やSaaS企業の場合、意思決定者である経営者に広告を見てもらうことが有効です。経営者に直接アピールするために、リターゲティング広告を出稿する場合は、YDAの利用を検討するとよいでしょう。
FacebookやTwitterといったSNSでも、リターゲティング広告を配信できます。配信先はそれぞれ以下の通りです。
(SNSの利用者層)
利用者層については、Facebook・Twitterともに男女比の偏りは少ないですが、年齢層に違いがあります。Twitterは10代〜20代、Facebookは30代〜40代の割合が多いのが特徴です。
好まれるコンテンツの傾向は、SNSによって違いがあります。アカウントを運用しつつ、自社と相性が良いプラットフォームを見極めましょう。
GDNを例として、リターゲティング広告を出稿する際の具体的な手順を解説します。YDAやSNS広告でも同様の操作が必要となるので、参考にしてみてください。
最初に、GDNのオーディエンスマネージャーでグローバルサイトタグを発行し、自社サイトに設置します。訪問者の情報を取得するために、この操作が必要です。
Googleタグマネージャーを利用する場合の手順を紹介します。
次に、リターゲティング広告の配信対象を決めるオーディエンスリストを作成します。
自社サイトを訪れたユーザーを対象とする場合の手順は、以下の通りです。
最後に、オーディエンスリストを広告キャンペーンで使う設定をします。手順は以下の通りです。
なおTwitterの場合は、「カスタムオーディエンス」を設定することで、リターゲティング広告を出稿できます。
これらの中から使用したいオーディエンスの種類を選び、設定を行いましょう。
リターゲティング広告は、Web広告のコンバージョン率や費用対効果の向上が期待できる手法です。
自社に関心を持ったユーザーに絞って広告を配信することで、効率よくコンバージョンへと導けます。
リターゲティング広告は、GoogleやYahoo!、SNSなどのプラットフォームを通じて配信します。利用者層の傾向や特徴を把握したうえで、自社に合った媒体を選び、リターゲティング広告を活用しましょう。