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プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは?フレームワーク例の紹介や実践の手順をわかりやすく解説

貴社では、どのプロダクトに最も経営資源を投下しており、どのプロダクトが安定的収益を上げていて、撤退を検討すべきプロダクトがどれかを把握できているでしょうか?

複数事業を展開する企業においては、経営者やマーケティング担当者は、自社プロダクトの全体像を俯瞰し、相互関係を理解する必要があります。もちろん前提としてマクロ環境、業界内の競合他社の動きまで考慮し、最適なプロダクトマーケティング戦略を描かなければいけません。

そこで役立つのが「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」の考え方です。PPMとは、企業が展開する複数の製品・事業の組み合わせと経営資源配分を最適化するための手法を指します。

プロダクトポートフォリオマネジメントは元来、1970年代にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)社が開発した経営手法として知られています。その後、市場競争の複雑化や企業ニーズの多様化に応えるため、新たなフレームワークが次々と生まれました。

たとえば、米General Electric社とMcKinsey & Company社は、市場の魅力度と自社の競争力をより詳細に分析できる9象限マトリクスを開発し、アンゾフは市場と製品の新規性に着目した成長戦略のマトリクスを提唱しました。

本記事では、プロダクトポートフォリオマネジメントの基本的な考え方やフレームワーク例、実践手順を解説します。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは

「プロダクトポートフォリオマネジメント(Product portfolio management)」とは、企業が複数の製品・サービスを展開する際に「各プロダクトにどの程度のリソースを投下するのか?」を定義するマネジメント手法です。

プロダクトポートフォリオマネジメントは、主に新製品開発、既存製品・サービスのマーケティング戦略などを決める際に活用します。

プロダクトマーケティングマネージャーは、社内の全製品・サービスのプロダクトライフサイクルを管理した上で、「現在のシェア」「収益性」「今後の成長可能性」などを踏まえ、最適なマーケティング予算を配分し、施策を企画します。

しかし、多くの企業は無尽蔵の予算を持つわけではありません。そのため、リターンを得られるプロダクトに優先的に投資しつつも、中長期的な視点を持ち、将来的に事業の柱となるプロダクトには赤字覚悟で投資し続ける必要もあります。

つまり、プロダクトポートフォリオマネジメントは短期的な収益確保と中長期的な成長のバランスを取りつつ、企業の成長戦略を支えるために不可欠な手法なのです。

発展の背景

プロダクトポートフォリオマネジメントのコンセプトは、1970年代に米国系戦略コンサルティングファームのBCGが開発しました。

BCGのフレームワークは、横軸に経験曲線効果に基づく「相対的市場シェア」、縦軸に製品ライフサイクル理論に基づく「市場成長性」を数値指標とする4象限のマトリクスです。

実は「プロダクトポートフォリオマネジメント」という名称は使わないものの、それ以前からプロダクトのポートフォリオに活用できるフレームワークは存在していました。

ただし、世界的なコンサルティングファームであるBCGが提唱した影響は大きく、現代においても「BCGマトリクス(ボストンコンサルティングファームマトリクス)=プロダクトポートフォリオマネジメント」と解釈されるケースは珍しくありません。

また、BCGの提唱以降も、さまざまなプロダクトポートフォリオのフレームワークが開発されています。

冒頭でも述べたように、1970年代には米General Electric社とMcKinsey & Company社が「GEビジネススクリーン」というプロダクトポートフォリオマネジメントを提唱しました。こちらはBCGマトリクスの短所を改良して生まれたフレームワークといわれています。

各プロダクトポートフォリオはそれぞれの視座が異なり、長所と短所があります。プロダクトポートフォリオのフレームワークも目的にあわせて活用したり、複数を組み合わせて活用したりすることが望ましいといえます。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)はなぜ重要なのか?

BtoB SaaS企業においても、成長を続けるためには複数のプロダクトを同時に管理し、適切な優先順位をつけてリソースを配分することが求められます。

2025年現在は、変化が激しく、予測不可能な時代になったといわれていますが、とりわけ生成AIツールの登場はIT業界の開発スピードを加速度的にアップさせました。これからは「AI駆動開発が前提になる」と述べられるほど、各社がシステム開発のプロセスそのものを大幅に効率化しています。

(出典:ネットコマース「AI駆動開発で迫られる事業構造の転換・その準備はできていますか?」)

そのような状況下で持続的に事業を展開していくためには、自社のポートフォリオ戦略を精緻に管理しなければなりません。管理を怠れば、たちまち他社との競争に置いていかれてしまうでしょう。

これを防ぐためには、プロダクトごとの成長性や収益性を客観的に評価し、適切な意思決定を行う「プロダクトポートフォリオマネジメント」が必要です。プロダクトポートフォリオマネジメントを導入することで、以下のような恩恵が得られます。

<プロダクトポートフォリオマネジメントによって得られる恩恵>

  • 新しいアイデアの育成が可能になる
  • 組織全体で知見を共有し、迅速な学習サイクルを構築できる
  • リソースを柔軟に再配分できる
  • リスクを段階的に管理できる
  • 販売・マーケティングプロセスが効率化される
  • 顧客に総合的な価値を提供し、競争力を高められる

このように、プロダクトポートフォリオマネジメントを導入することで、成長性の高い新規プロダクトにリソースを投じ、停滞しているプロダクトの見直しをスムーズに行い、経営リソースの最適化を図ることが可能です。

市場変化が激しいBtoB SaaS業界においては、プロダクトポートフォリオマネジメントによる柔軟なリソース配分とスピーディな意思決定がますます必要になってくるでしょう。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)で役立つフレームワーク例の紹介

ここからは、プロダクトポートフォリオマネジメントの際に用いられる代表的な以下3つのフレームワークを紹介します。

  • ①:BCGマトリクス
  • ②:アンゾフマトリクス
  • ③:GEビジネススクリーン(GE/マッキンゼーマトリクス)
  • ④:Innovation Ambition Matrix

それぞれ個別にみていきましょう。

①:BCGマトリクス

BCGマトリクスは、これまでにも紹介してきたとおり、プロダクトポートフォリオマネジメントを行う際に広く活用されているフレームワークです。「市場成長率」「相対的市場シェア」という2つの軸を組み合わせて、プロダクトの現状を4つの象限に分類し、評価します。

このフレームワークを用いることで、企業はプロダクトを「花形(スター)」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類し、現状の強みや弱点、成長の余地を可視化できます。これにより、収益を生み出すプロダクトへの適切なリソース配分や、将来の市場を見据えた投資判断が可能です。それぞれの概要について個別に解説します。

①-1:花形

「市場成長率:高 シェア:高」に該当するプロダクトです。市場が伸びており、製品・サービスのシェアも高いので、今後も投資することでさらにシェアを確保し収益を上げられる可能性があります。

競合他社にシェアを侵食されないように対策を練ることも必要です。プロダクトライフサイクルで説明すると、市場の成長期にあたります。

①-2:金のなる木

「市場成長率:低 シェア:高」に該当するプロダクトです。市場が成熟期に入っており成長率は低いため、事業の大きな成長は難しいものの、自社プロダクトのシェアが高いことで安定した収益が上げられる事業が該当します。

過度に投資するとキャッシュフローが悪化するので、シェアを維持するのに適切な投資を行い利益を最適化します。できるだけ成熟期を延長して利益を獲得し続け、ここで得たキャッシュを「花形(Star)」「問題児」の象限に相当するプロダクトに投資することになります。

①-3:問題児

「市場成長率:高 シェア:低」に該当するプロダクトです。 市場は大きく伸びているのに、シェアは低いプロダクトです。

ローンチしたタイミングにもよりますが、市場が伸びており、製品・サービスに対する市場の反応もまずまずであれば、赤字先行でも投資して花形に育てていくことを目指します。業界の成長の波にのって、売上げはそれなりに伸びる可能性があります。

しかし、そもそも製品・サービスの競争力が低く、市場からの反応もおもわしくない状況が続いていれば「負け犬」になる可能性を孕んでいます。

プロダクトの営業・マーケティングを担当している当事者たちとしては大化けするという方向で考えて業務にあたり、経営陣はシビアに両方の線を考えるといったところでしょう。

①-4:負け犬

「成長率:低、シェア:低」に該当するプロダクトです。市場の成長率も低く、製品・サービスのシェアが低い状態ですので、このまま事業を続けても収益を上げられる可能性は低く、撤退も検討する必要がある象限。製品ライフサイクルにおける衰退期にあたります。

しかし、企業によっては当初から「このプロダクトは赤字でよい」というプロダクトが存在します。

別の製品・サービスの補完的な位置付けで、もしこの負け犬に相当するプロダクトがないと、他社が自社顧客に入り込む隙ができ、順調な他製品・サービスにマイナスの影響を与える可能性がある場合などです。

現実の企業内では業績の悪い他部署に冷たい傾向があり「あの部署は赤字を垂れ流すだけ」といわれたりもするでしょう。しかし、経営的視点で捉えると必要な負け犬プロダクトもあります。また、顧客目線であれば各社のサービスを組み合わせて活用するより、1社でまとめて提供してくれるとありがたいという側面も存在します。

②:アンゾフマトリクス

アンゾフマトリクスとは、米国の経営学者、事業経営者であるIgor Ansoff(イゴール・アンゾフ)氏が1960年代に提唱したフレームワークです。「アンゾフの成長マトリクス」「事業拡大マトリクス」と呼ばれることもあります。

「市場」と「製品」の2つの軸を組み合わせることで、成長に向けた4つの方向性を示します。これにより、企業は自社の現状を踏まえ、最適な成長戦略を選択するための指針を得ることが可能です。

(出典:経済産業省「アンゾフの成長マトリクス」)

既存市場と新規の市場はビジネスの進め方がかなり異なります。新製品と既存製品の売り方も同様です。今なら当たり前に思える話ですが、アンゾフ以前は、このようにそれぞれを切り分けて考えるフレームワークはありませんでした。

事業家でもあったアンゾフ氏が開発したアンゾフマトリクスは、現場の人間が理解しやすい実践的なフレームワークです。事業を成長させたい経営者、プロダクトマーケティング担当者が戦略をたてるときも有用でしょう。

②-1:市場浸透

第1象限の「市場浸透」は、既存の製品・サービスを既存の市場に深耕させていく活動であり、多くの企業が日々実践している活動にあてはまります。4象限のなかで最もリスクの小さい手法です。

既存市場から売上げを上げていく方法には「既存顧客1社あたりの売上げを増やす」「既存市場内で新規顧客数を増やす」などです。

既存顧客からのリピート受注を増やす(アップセル/クロスセル)手法は、「1:5の法則」で知られるようにコストが新規顧客開拓の5分の1で、収益率が高い方法です。

既存市場でさらなる新規開拓を行う場合も、すでに導入実績のある企業が存在するため、営業活動が行いやすいメリットがあります。

②-2:新製品開発

第2象限の「新製品開発」は、既存市場に新商品を次々と出して成長していく方法です。一例をあげると、米Microsoft社やOracle社、SAP社などの大手オンプレミス事業ベンダーは、IT業界のトレンドがSaaSにシフトした2010年あたりから、SaaSを次々と市場に展開しました。

SaaS業界の顧客層とオンプレミスの顧客層は同じなので、既存顧客、既存市場相手に新規製品であるSaaSを出したかたちです。すでに顧客のニーズも把握しており、既存事業と利益相反するリスク以外は問題のない選択肢だったのでしょう。

当初は米Salesforce社などSaaS専業ベンダーが中心だった業界も、今やシェア上位に大手ベンダーがずらりと並びます。このように既存市場に新規製品を投入する方法は、比較的リスクの小さい手法です。

②-3:新市場開拓

第3象限の「新市場開拓」とは、既存の商品を新市場に出して成長していく考え方です。「国内→海外、一地方→全国展開」と地理的に市場を広げる戦略や、「男性向け→女性向け」「高級品→同じプロダクトの廉価版」「大手企業向け→中堅中小企業向け」といったように、顧客の層を変える方法があります。

市場を広げるにあたって、水平展開して開拓していく手法と、垂直方向に展開していく手法が選択肢となります。

②-4:多角化

新しい市場に新商品を出していく考え方です。

市場に対する知識はあまりなく、実績がない状態で新しい製品・サービスを売り込む難易度は高いのが実情。たとえばSaaS業界のように業界自体が新しく大きく伸びている市場が登場した場合、うまくニーズにマッチすれば大きな成長を遂げられます。

そのような段階では、新しい市場が古くからある業界の場合は、かなり革新的な新製品が必要です。あるいはその市場内のニッチを見つける力が求められます。

要は真似されにくい価値ある製品・サービスでないと厳しいということです。真似されやすい製品・サービスだと、古くから先行している業界上位企業もすぐ対抗製品・サービスを出すため、無効化されるリスクがあります。

最もリスクの高いハイリスクハイリターンの選択肢ですが、はまれば大きく飛躍する可能性が高いため、スタートアップ企業とマッチ度の高い象限でもあります。

③:GEビジネススクリーン(GE/マッキンゼーマトリクス)

これまで紹介してきたプロダクトポートフォリオマネジメントのフレームワークのなかでも、GEビジネススクリーンは特に柔軟な評価が可能な思考法です。このフレームワークは、製品や事業を「業界の魅力度」と「自社の競争力」を軸に分類し、最適なリソース配分や成長戦略を策定するために活用されます。

GEビジネススクリーンの特徴は「2×2」の4象限を用いる他のマトリクスとは異なり「3×3」の9象限で評価を行う点にあります。

この形式によって、製品・サービスをより細かく分類でき、成長が見込まれる事業への積極的な投資や、撤退すべき分野の判断がしやすくなります。また、評価軸の指標は固定ではなく、評価者が「市場成長率」「利益率」「技術優位性」などの要素を選択できるため、企業の目的や状況に合わせた柔軟な活用が可能です。

一方、自ら指標を設定できるため「かえって難しい」という意見もあり、どちらかというとマーケティング中級者以上に適しているかもしれません。また、製品・サービスの種類が多い大企業にとって活用しやすいフレームワークです。

縦軸:「業界の魅力度」に活用する指標

GEスクリーンの縦軸は「業界の魅力度」です。プロダクトの成長可能性は、業界の大きさや成長可能性に比例するものです。また、業界内の競合他社の数、サプライヤー、バイヤーの力など業界の魅力に影響するさまざまな変数があります。

「業界の魅力度」の指標の例には以下があり、それぞれの指標は「高、中、低」に分けられます。

  • マクロ環境(政治、経済、社会、技術)
  • 市場規模と成長率
  • 収益性
  • 競争環境
  • 参入障壁の高さ

横軸:「業界の地位」に活用する指標

GEスクリーンの横軸は「業界の地位」です。企業が業界での競争上の優位性を持っているか評価する指標を活用します。縦軸と同様に、それぞれの指標は「高、中、低」に分けられます。

  • 市場シェア
  • 成長の可能性
  • ブランド認知度
  • ビジネスの利益率
  • 顧客ロイヤルティ
  • 製品・サービスの独自性
  • 自社の強み

④:Innovation Ambition Matrix

Innovation Ambition Matrix(イノベーションアンビションマトリクス)は、戦略コンサルティングファームのMonitor社(現Deloitte)が開発し、Geoff Tuff(ジェフ・タフ)氏とBansi Nagji(バンシ・ナジ)氏による、2012年のHarvard Business Review論文で広く知られるようになったフレームワークです。

このマトリクスは、「どこで戦うか(Where to Play)」と「どのように勝つか(How to Win)」という2つの軸で構成され、イノベーションの取り組みを「Core(中核)」「Adjacent(隣接)」「Transformational(変革)」の3つのレベルに分類します。

(出典:Idea to Value「What is the ambition matrix and how does it work as part of an innovation portfolio?」)

Ambition Matrixの特徴は、個々のプロジェクトを個別に評価するのではなく、イノベーションの取り組み全体を可視化できる点です。たとえば、あるIT企業では「システムの大規模アップグレード」を変革的イノベーションと位置付けていましたが、実際には既存顧客向けの改善に過ぎず、コアイノベーションとして再分類されたケースもあります。

つまり、Ambition Matrixを使えば自社のイノベーションポートフォリオを3つのレベルで評価することで、戦略との整合性を確認し、リソース配分の最適化を図れるのです。

④-1:Core(中核)レベル

Core(中核)レベルとは、既存事業の強化を目指す取り組みで「改良型のイノベーション」ともいえます。既存の顧客向けに現在の製品・サービスを改良していく、漸進的なイノベーションを指します。

リスクは低く、短期的な収益に貢献する取り組みです。多くの企業において、イノベーションポートフォリオの基盤となります。

たとえば、工作機械メーカーが既存製品の精度や生産性を向上させる改良や、産業機器メーカーが既存顧客の要望に応じて製品の使いやすさを改善するといった取り組みです。

④-2:Adjacent(隣接)レベル

既存事業の周辺領域への展開を特徴とするのが、Adjacent(隣接)レベルのイノベーションです。

同じ顧客への新しい提供価値の創造や、既存製品の新規顧客への展開などが含まれ、コア・イノベーションより若干リスクは高まりますが、既存の強みを活かせる領域となります。

Adjacentの例としては「製造装置メーカーが既存の技術を活かして新たな産業分野向けの製品を開発する」「産業用部品メーカーが培った技術を応用して新しい用途の製品を展開したりする」といったケースが該当します。

④-3:Transformational(変革)レベル

企業に大きな変革をもたらす可能性を秘めているのが、Transformational(変革)レベルでのイノベーションで、未開拓の市場に向けた画期的なイノベーションを指します。

リスクは高いものの、大きな成長機会を生む可能性を持っています。成功すれば企業に大きな変革をもたらすでしょう。

例を挙げると、総合電機メーカーが従来の製品販売からサブスクリプション型のサービス事業へ移行したり、素材メーカーが環境技術を活用した新規事業を創出したりするような取り組みが該当します。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)の活用シーン

以上のような分析方法があるプロダクトポートフォリオマネジメントですが、実際の事業活動では次のような場面で活用するのが一般的です。

  • シーン①:事業や製品の評価と分類
  • シーン②:経営資源の配分
  • シーン③:市場環境の変化への対応

それぞれ個別に解説します。

シーン①:事業や製品の評価と分類

プロダクトポートフォリオマネジメントの真価は、複雑な製品群を体系的に整理し、その現状と将来性を客観的に評価できる点にあります。とりわけBtoB市場では、長年にわたる製品開発や企業買収によってポートフォリオが肥大化する傾向が強く、その全体像を把握することすら困難な状況に陥りやすい特徴があります。

この課題に関して、プロダクトポートフォリオマネジメントを活用することで、これらの製品群を可視化し、適切な優先順位を定めることが可能になります。

製品ごとの市場成長率や収益性、競争力などの指標を評価すれば「自社はどのプロダクトに積極投資すべきか」「あるいは、段階的な縮小や撤退を進めるべきか」を判断できるでしょう。

加えて、経済産業省の資料では「投資家サイドも事業ポートフォリオの見直し・組換えに対する期待値は高い」と示されています。

(出典:経済産業省「価値創造経営の推進に向けて」)

外部ステークホルダーとの関係性強化という観点からも、プロダクトポートフォリオマネジメントによる事業ポートフォリオの整理にはメリットがあるのです。

シーン②:経営資源の配分

企業はすべての製品や事業に均等にリソースを投入することはできず、成長が期待できる分野に集中投資し、低収益の領域では慎重な対応が求められます。この際、プロダクトポートフォリオマネジメントは市場成長率や市場シェアといった指標をもとに製品を分類し、どこにリソースを配分するべきかを明確にします。

特に重要なのは、将来的な収益源となる「成長プロダクト」への投資。成長期にある製品は、市場競争が激化するなかでシェア拡大のためのリソース投入は不可欠なものです。

しかし、利益を生むまでに時間がかかる場合も多く、現在の収益源である成熟製品から得たキャッシュフローを活用し、持続的な成長を支える戦略が必要です。

シーン③:市場環境の変化への対応

技術革新のスピードや顧客ニーズの多様化が進む中、従来の製品やサービスでは競争力を維持できなくなることがあります。そのため、市場の動向を継続的にモニタリングし、変化に応じて迅速にプロダクト戦略を見直さなければなりません。

プロダクトポートフォリオマネジメントを導入することで「市場成長率」「競合環境」などのデータをもとに、自社のプロダクトの位置づけを把握し、環境変化に合わせたポートフォリオの再編が可能となります。たとえば、成長が鈍化している市場ではリソースの比重を見直し、拡大傾向にある新市場に対して積極的な投資を行うといった戦略です。

市場環境の変化は企業成長のリスクにもチャンスにもなり得ます。市場変動に迅速かつ柔軟に対応し、成長機会を最大限に活かしましょう。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)の実践手順

プロダクトポートフォリオマネジメントを効果的に運用するためには、体系的なアプローチが求められます。しかし多くの企業では、各部門が独自の判断で製品戦略を立案し、全社的な整合性を欠いているのが実情です。

そういった課題を解消する上では、プロダクトポートフォリオマネジメントは以下の手順で実行する必要があります。

  • 手順1:市場成長率と市場シェアの分析(ポートフォリオの分析)
  • 手順2:各事業の分類(ポートフォリオの最適化)
  • 手順3:経営資源の戦略の策定(ポートフォリオの計画)
  • 手順4:定期的な見直し(ポートフォリオのガバナンス)

各手順について、個別に解説します。

手順1:市場成長率と市場シェアの分析(ポートフォリオの分析)

プロダクトポートフォリオマネジメントの第一歩は、マクロ環境と市場環境の両面から分析を行うことです。

まずマクロ環境分析では、PEST分析(政治・経済・社会・技術)の枠組みを用いて、事業を取り巻く外部環境の変化を把握します。たとえば、規制動向、経済成長率、人口動態、技術革新などが、自社の製品群にどのような影響を与えるかを分析します。

次に市場環境分析では、より詳細な市場データの収集と分析を行います。

  • 市場規模と成長率
  • 市場セグメントごとの特性
  • 主要プレイヤーの市場シェアと動向
  • 新規参入の脅威
  • 顧客ニーズの変化

これらの分析を通じて、各製品の置かれている競争環境と市場ポジションを正確に把握できます。

手順2:各事業の分類(ポートフォリオの最適化)

マクロ環境と市場環境の分析結果を踏まえ、次は自社の製品群を戦略的な視点で分類していきます。この作業では、紹介した4つのフレームワーク(BCGマトリクス、アンゾフマトリクス、GEビジネススクリーン、Innovation Ambition Matrix)の中から、自社の目的に最適なものを選択します。

たとえば、既存事業と新規事業のバランスを検討したい場合は、市場と製品の新規性に着目したアンゾフマトリクスが適しています。一方、各事業の収益性と成長性のバランスを重視する場合は、BCGマトリクスが有効でしょう。

より詳細な分析が必要な場合は、9象限で評価できるGEビジネススクリーンの活用を検討します。また、イノベーションの観点からポートフォリオを評価する場合は、Innovation Ambition Matrixが役立ちます。

重要なのは、選択したフレームワークを用いて、製品間のシナジー効果や補完関係も含めた総合的な評価を行うことです。この分類作業を通じて、投資を強化すべき分野、現状維持が望ましい分野、見直しが必要な分野が明確になり、次のステップとなる経営資源の配分を検討する基盤が整います。

手順3:経営資源の戦略の策定(ポートフォリオの計画)

製品の分類結果を踏まえ、限られた経営資源をどのように配分するかを決定します。Harvard Business Reviewの研究によると、高業績企業の多くは既存製品の改良に70%、隣接市場への展開に20%、変革的な取り組みに10%という比率で投資を配分していることが分かっています。

ただし、この比率は業界特性により大きく異なります。たとえば、テクノロジー企業は次の革新的な製品への投資を重視するため、コア事業への投資比率は低くなる傾向があります。一方、消費財メーカーは漸進的な改良を重視するため、コア事業への投資比率が高くなるでしょう。

また、企業の競争上のポジションによっても、最適な投資配分は変化します。たとえば、業界内で後発の企業は、より多くの資源を変革的なイノベーションに振り向けることで、競争優位の確立を目指すかもしれません。一方、業界リーダーは、既存事業の強化により多くの資源を配分する傾向にあります。

手順4:定期的な見直し(ポートフォリオのガバナンス)

プロダクトポートフォリオマネジメントは一度策定して終わりではありません。市場環境や競争状況は絶えず変化するため、定期的な見直しと軌道修正が不可欠です。

見直しにあたっては、以下の3つの視点が重要となります。

  • 各製品の業績と市場環境の変化
  • 投資配分比率の適切性
  • 全社戦略との整合性

この見直しは、経営陣が主導するレビュー会議として実施されるべきです。そこでは、各事業の現状と課題を客観的に評価し、必要に応じて投資配分の見直しや、場合によっては事業からの撤退判断も含めた議論を行います。

このような継続的なモニタリングと見直しのプロセスを確立することで、環境変化に応じた機動的なポートフォリオ管理が可能となります。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)を使った分析例

市場をリードする企業の優れたプロダクトポートフォリオマネジメントの実践例から、その効果的な運用方法を学ぶことができます。以下、特徴的な2社の事例を紹介します。

  • 事例①:Appleのエコシステム型イノベーション
  • 事例②:Googleのデジタルプラットフォーム戦略

それぞれ個別にみていきましょう。

事例①:Appleのエコシステム型イノベーション

(出典:Apple

Appleはプロダクトポートフォリオマネジメントの観点からみると、「コア事業の強化(既存製品の改良)」「隣接市場への展開(既存技術の新市場への応用)」「新規事業の創出(画期的な新製品の開発)」という3つの成長戦略をバランスよく実行しています。

それは、Apple製品間の相乗効果を最大化するポートフォリオ展開にみられます。

Harvard Business School教授のJoel M. Podolny(ジョエル・M・ポドルニー)とMorten T. Hansen(モートン・T・ハンセン)は、2020年の論文で「同社独自の組織構造がイノベーションを生み出す源泉となっている」と指摘しています。

Appleは1997年のSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏の復帰以降、事業部制から機能別組織へと体制を大きく転換しました。一般的な大企業が採用する事業部制とは異なり、各機能のエキスパートが製品開発を主導する体制を確立。この組織構造により、深い専門知識に基づいた意思決定が可能となっているのです。

(出典:Harvard Business Review「How Apple Is Organized for Innovation」)

このアプローチの効果は、iPhoneのカメラ開発に顕著に表れています。Graham Townsend(グラハム・タウンゼンド)氏率いる600人以上のカメラハードウェアの専門家チームが、ポートレートモードなどの革新的な機能を生み出しています。こうした組織体制は、iPhone、iPad、Apple Watch、AirPodsなど、次々と革新的な製品を生み出すことを可能にしました。

重要なのは、これらの製品が単独で存在するのではなく、相互に連携し合う「エコシステム」を形成している点です。その結果、1997年時点で従業員8000人、売上高70億ドルだった企業規模は、2023年には従業員16万人以上にまで成長を遂げ、第4四半期だけでも895億ドルの売上高を記録するまでになりました。

このように、機能別組織という一見非効率に見える体制を採用しながらも、専門性の深化と部門間協働を両立させることで、持続的なイノベーションを実現しているのです。プロダクトポートフォリオマネジメントの実践において、組織構造をいかに活用するかという点で、多くの示唆を与える事例といえるでしょう。

事例②:三井物産のポートフォリオ経営

(出典:三井物産

三井物産は、持続可能で競争力のある事業ポートフォリオの構築を成長戦略の中核に据えており、2024年インベスターデイでは堀健一社長自身の口からも解説がありました

同社のポートフォリオ経営の特徴は、「成長投資」「ミドルゲーム」「資産リサイクル」という3つの要素を組み合わせた点です。

具体的には、自社が深い知見を持つ事業領域(Own field)とその周辺領域に投資を行い、投資実行から売却までの間に競争力強化や効率化を図り、さらに産業構造の変化を捉えた資産入れ替えを行っています。

(出典:logmi Finance「【QAあり】三井物産、持続可能で競争力ある事業ポートフォリオを構築し、企業価値を向上」)

特に注目すべきは「産業横断的プレミアム」という考え方です。たとえば、クリーンアンモニア事業では化学品とエネルギーの両事業領域の知見を組み合わせることで、新たな価値創造を実現しています。また、エネルギートランジション、モビリティ、ヘルスケア、タンパク質を成長ドライバーと位置付け、新規投資とミドルゲームの両面で強化を図っています。

こうした取り組みの結果、同社は地域分散の効いたグローバルな事業ポートフォリオの構築に成功しました。モビリティ事業では年間1600億円規模の収益力を持つまでに成長し、LNG事業では1970年代からの知見を活かした展開を進めています。

三井物産の事例は、プロダクトポートフォリオマネジメントが必要な企業にとっても学びになる点が大いにあります。投資先の選定基準を明確に定め、複数の事業領域の知見を組み合わせた価値創造を行う。その上で定期的なポートフォリオの見直しを通じて時代の変化に対応することが大切なのです。

まとめ

マーケティングは1日あれば学べる。しかし、使いこなすには一生かかる」とはマーケティングの神様といわれるPhilip Kotler(フィリップ・コトラー)氏の言葉です。

今回紹介したBCGマトリクスやアンゾフマトリクスは、シンプルでわかりやすいためマーケティング初心者でも比較的理解しやすくなっています。マーケティング中級者であれば、GEビジネススクリーンやInnovation Ambition Matrixも理解できるでしょう。

しかし、フレームワークが果たす役割はあくまである角度、視座からの思考の枠組みに過ぎません。

複数のプロダクトポートフォリオで自社プロダクトのラインナップを俯瞰してみたり、プロダクト戦略を考えたりすることによって、自社プロダクトの位置づけ・最適な戦略がみえてくるものです。さらには自社の経営方針に関する理解があってこそ、最適なプロダクトマーケティングが行えます。

経営戦略上、マクロ的な観点から赤字先行でも続けるべきプロダクトは間違いなくあります(資金的に許されるのなら)。一方で、撤退を先延ばししているだけで、早期撤退すべきプロダクトもあるのではないでしょうか。 

この見極めは経営者でも難しいものです。だからこそ、いち社員が放念してよいものでもありません。変化の激しい時代に成長し続けるためにも、自社のプロダクトに対する俯瞰的な視点を持ちましょう。