マーケティングは人によって捉え方がかなり異なる用語です。もちろん、業界や企業、グループによって定義が異なるビジネス用語などはたくさんありますが、マーケティングほど文脈によって定義がばらついている用語は少ないでしょう。
マーケティングは、日本ではプロモーション(広告・宣伝)という意味で使われることが多くみられますが、発祥の国米国ではかなり広範な概念です。
海外からの言葉が日本独自の解釈になることはよくあり、日本と米国では組織マネジメントの在り方も異なるので、そこに是非はありません。
しかし、昨今のデジタル化を機にマーケティングに力をいれ始めた企業の中には、米国の定義に近いマーケティングの捉え方をする企業も多く、定義が一層ばらついている状況です。
マーケターは、マーケティングの定義が交流する人によってかなり違うと理解しておくと業務がスムーズです。そのために自分自身は、マーケティングの全体像を理解しておきましょう。
マーケティングとは、一言で言えば「売る仕組みを作ること」です。しかし、この一センテンスが含む領域は膨大です。米国のマーケティング専門家組織American Marketing Associationの定義は、以下のとおりです。
「マーケティングは、価値あるプロダクトを提供するための活動・仕組み。すなわち顧客・クライアント・パートナー・社会全体にとって価値あるものを創造し伝え届けるための様々な活動・プロセスです」 出典::AMA(American Marketing Association)
つまり、事業戦略〜実行レベルまでを包含するのがマーケティングです。マーケティングという用語が生まれた米国でも定義はいくつかありますが、現状ではこの定義を欧米での汎用的なマーケティングの解釈と理解してよいでしょう。
マーケティングという概念は、19世紀末〜20世紀にかけて誕生したと言われます。
と言っても、Philip Kotler(フィリップ・コトラー)氏がマーケティングの元祖はアダムとイブをそそのかした蛇と述べたように、マーケティングという概念がない昔から世界各地でマーケティング的なことは実践されてきました。紀元前の時代から製品に簡単な石の印章をつけるなど、今のブランディングに通ずることもされています。
1900年代に、米国の有名大学においてマーケティングという学問領域が成立して以降は、マーケティングの研究が加速度的に進みます。いわゆる近代マーケティングの時代に突入し、多士済々の偉人たちによっていろいろな観点からマーケティングが研究され、さまざまな理論、フレームワークが広まりました。
ただし、マーケティングは実学なので、ビジネス環境が変化すればまた新たな課題が登場し、その解決のために新たな環境下での新たなアプローチが登場します。前述のAMAのマーケティングの定義も、これまで何回か再定義されていますし、今後も拡張されるでしょう。
プロモーションとは広告宣伝、ダイレクトマーケティング、販売促進、人的販売、販促活動全般を指す用語です。プロモーションは、広大なマーケティングの後半の一プロセスです。
プロモーションの主な目的を大別すると以下3つです。
プロモーションには多彩な手法があり、適切なプロモーション手法を組み合わせることによって、売上げの増加、プロダクトの認知、ブランディングなどを可能にします。マーケティングプロセスの中でも重要な領域です。
ここでは、マーケティングプロセスを大枠でとらえてみましょう。R-STP-MM-I-Cという 、米国の経済学者のフィリップ・コトラー氏によって紹介されたマーケティングプロセスがあります。
以下のマーケティング用語を組み合わせた用語です。
戦略プロセスと戦術プロセスで構成されており、RとSTPが戦略プロセスにあたります。
戦略とは、どの市場でどのような商品・サービスを売っていくか決めるフェーズです。
戦略プロセスにあたるR、 STPの意味は以下のとおりです。
リサーチは、プロセスの最初に行うステップです。成長性の高い市場を選んで、良いポジションどりをするためには、企業をとりまく環境や自社のリサーチが必要です。マクロ環境、ミクロ環境を分析します。
マクロ環境の要素
世界で起きる紛争、コロナパンデミック、気候変動、世界人口の爆発的増加、資源の枯渇、AIなど破壊的なテクノロジーの出現は、世界を大きく変貌させます。それこそ今いる業界が消滅するような変化もありえます。マクロ環境を分析し、大きな脅威を避けたり、大きなチャンスがある市場を知ったりすることは基本かつ重要です。
ミクロ環境の要素
ミクロ環境とは、いわゆる業界分析です。ライバル企業だけでなく、供給業者、新規参入者、自社の相対的強みなどを、多角的に分析します。
おすすめのフレームワーク:PEST分析、5Forces、3C分析、SWOT分析
STP分析はフィリップ・コトラー氏によって提唱された有望な市場を特定し、独自のポジションを築き、自社製品を差別化するためのフレームワークです。
外部環境を分析した上で、STP分析をします。メガトレンドにのった市場をさらに細分化して、自社が勝てる市場を選びましょう。3つの観点から市場と自社を見ることで、自社が取るべき戦略を決めやすくなります。
例えば、SaaS市場が有望 →人事領域のSaaS市場 →採用領域のSaaS市場に絞る →外国人採用saas 、シニア特化SaaS、エリート層の採用SaaSはどうかといった具合に、自社が勝てそうな市場を絞っていきます。
(出典:Oxford College of Marketing)
戦略(どの市場で展開していくか)が決まったら、「どのように製品・サービスを作って、どのように販売するか」という戦術を考えます。
戦術プロセスにあたるのが以下、MM-I-Cの3工程です。
MM(マーケティングミックス)とは、マーケティング戦略の成果を最大限をあげるために、複数の観点から施策を考え計画していくプロセスです。
最も有名なのが1960年にアメリカのマーケティング学者であるEdmund Jerome McCarthy(エドモンド・ジェローム・マッカーシー)氏が提唱した「4P」です。その他、6P、7P、8P、4Cなどがあります。
最も汎用的な4Pの構成要素
プロモーションはここで登場する、マーケティングプロセスの一要素という位置づけになります。
Implementationとは実行という意味です。例えるなら実際のPDCAのアクション。どのような施策を、どのようなスケジュールで進めるか、それぞれの目標設定、KPI設定、そして実行など、やりきるプロセスです。
コントロールとは、施策を実施後のプロセスです。達成できた目標、達成できなかった目標を仕分けし、それぞれの要因を分析し評価します。良い成果を出せた施策、プロセスは今後も継続します。
達成できなかった目標については、目標設定の妥当性、施策の妥当性、KPIの妥当性も検証します。今回の方法以外に達成できるアプローチがあれば検討するのが大事です。反省点をもとに、次回のマーケティング戦略構築の際に、よりよい結果が出せるようにマーケティング施策を進化させていきます。
このように、プロモーションとはマーケティングの後半工程のプロセス。市場もきまり、経営戦略も方向性が決まったあとで、顧客に知ってもらうための手段は何か? どのようなメッセージ(宣伝)を送るかを展開していくフェーズです。
具体的には、以下はプロモーション活動にあたります。
プロモーションとは、いわば戦術に相当する領域であり、マーケティング目標達成のために予算、セールス、販売員などを割り振り、それぞれの施策の目標をたてていきます。目的に応じていろいろなプロモーションを展開し、最終的には売上げ拡大につなげるフェーズです。
華やかで目立つ領域であるだけでなく、最終的な成果を出すための重要なパートでもあります。なお、SaaS業界で行われているデマンドジェネレーション(需要拡大)もプロモーションの一種です。
マーケティング目標を達成するためのプロモーションには、さまざまな手法があります。目的に応じ最適な組み合わせを考え、予算を配分し、プランニングするのがマーケターの腕の見せどころです。
代表的なプロモーション手法には以下があります。
広告とは、有料のオンライン、オフラインの外部メディアで、自社もしくは商品・サービスを告知することです。
広告の種類:テレビCM、ラジオCM、新聞広告、雑誌広告、ビルボード、ポスター、モバイル アプリ、動画、Web ページ、バナー広告、ディスプレイ広告、記事広告、SNS広告、メール、他。
ちなみに株式会社電通の調べによると、日本の広告費は、すでにテレビ、新聞、雑誌、ラジオなどの4媒体よりインターネット広告費が多くなっています。2021年の内訳は以下のとおりです。
ダイレクトマーケティングとは「中間業者を介さずに、企業がお客様に直接アプローチするマーケティング手法」です。代理店が入らないので中間マージンは発生せず、利益率が高いという特徴があります。
ダイレクト マーケティングの種類:
ダイレクトメール、オウンドメディア、自社Webサイト、テレマーケティング、メールマーケティング、SNSマーケティングなどがあります。
ダイレクトマーケティングの肝は顧客データベースです。顧客層の年代、特性、好み、予算などを把握できるので、適切なアプローチが可能です。
また、顧客と直接コミュニケーションをとることで信頼関係を築きやすく、長期的な取引ができ売上げの基盤を固められます。
SaaS業界でよく行われるデマンドジェネレーション(需要拡大)も、プロモーションの一種です。さまざまなプロモ―ションによって見込み客に自社を知ってもらい、情報をさらに提供し、需要を喚起します。
現在はデジタル化、またリアルとデジタルの融合が進み、リード創出が可視化できます。一連のプロモーションから、デマンドジェネレーションを図にすると以下のとおりです。
デマンドジェネレーション
なお、2021年度の米国統計では、B2Bマーケッターの約10人に3人(31%)が、デマンドジェネレーションで20%以上の収益増を目指しています。多くのマーケティングチームが、デマンドジェネレーションにより創出した機会と、創出収益に対するノルマを強化するほど進んでいます。
一昔前、YKKの吉田社長が米国に留学した際に、フィリップ・コトラー氏から「日本には米国以上にマーケティングの実践がある」と言われたエピソードがあります。
経営学者のPeter Drucker(ピーター・ドラッカー)氏に「マーケティングは三井家によって発明された」と言わしめたほど、江戸時代にマーケティング的なことが実践されていたようでもあります。
もちろん古い話であり、現在の日本がマーケティング後進国であることはたしかでしょう。そもそもマーケティングという部署が存在しない企業のほうが多いかもしれません。
しかし、実際はトヨタしかりキーエンスしかり、今でもマーケティング強者は存在します。また、多くの企業でいわゆるマーケティング業務は、経営企画、営業企画、営業本部などのセクションで担われてきており、マーケティングの地力のある企業は多いはずです。
日本企業のプロモーション(広告宣伝、販促活動)のレベルは非常に高いと言われますので(デジタル広告の品質はのぞく)、マーケティングの枠組みを大きく捉えなおすことで、マーケティング力を強化することは十分可能でしょう。
たとえば、営業部門と連携してプロモーション手法を拡張し、デマンドジェネレーションに着手するなど、領域を拡大していくことは比較的スムーズかと思います。