BtoBマーケティング部門に携わる方々は、KPI設定は得意でしょうか? 当社はいろいろなマーケティングのご相談をいただくのですが、KPI設計のご質問をいただくことがかなりあります。
マーケティングのKPI設定は実はそれほど難しくありません。しかし、KPIの情報がたくさんあふれているからこそ、かえって間違った設定(自社のレベルに合わない等)をしてしまうケースが増えていると感じます。
KPIは目標まで迷わず到達できるようにするための目印。無理にハイレベルにする必要も複雑にする必要もありません(高スキルの方は別ですが)。わかりやすく明快で、自分たちが正しい方向を向ける指標、あくまで目標を達成するためのKPIを設定しましょう。
今回は、BtoBマーケティング部門のKPI管理の基本について解説します。
KPIとは、Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略語です。
直訳するとKPIは「目標を達成するための鍵となる指標」です。「中間目標」「プロセス目標」「中間指標」と表現されますがいずれも間違いではありません。
KPIはあくまで指標、もしくは中間チェックのための目標です。当然、目標の大きさや本人のスキルによって最適なKPIは異なります。ただ、KPIを達成すればKGIが達成できる設定をしなければならないことは共通しています(KPI設定方法は後半解説)。
KPIとは中間目標(中間指標)
KGI とは、Key Goal Indicator(重要目標達成指標)の略語で、目標、ゴールのことです。
企業は営利組織なので一般的なKGIは以下のような金額、件数です。
年間売上げ〇〇〇円
年間売上げ〇〇円、前年〇%アップ、新規獲得数
リード創出〇〇件、収益貢献〇%
新卒採用数〇人、人件費のコスト削減
企業全体の数値目標(KGI)があり、それを達成するために各部署に目標として割り振られた数字(KPI)が各部門のKGIです。数値目標を設定できない間接部門も存在しますが、マーケティング、営業など定量的に成果が計測できる部門では設定されます。
KGIとKPIの構図
(企業理念を前提とした)売上げ目標を達成するためにKPIが設定され、それが部署ごとのKGIになり、そのためのKPIがさらに現場にブレイクダウンされていく構図です。
KGIとKPIだけでなく、近年は「KSF(重要成功要因)」を設定する企業も増えてきました。KSFについては設定しなくても問題はありませんが、設定するとKPIの設定がよりたしかになるメリットがあるでしょう。
KSFとは一般に業界特有の成功要因と言われます。自社の強みや弱みと外部環境(景気、業界慣行等)を踏まえて設定します。簡単に言えば「戦略の方向性を表し、KPIの設定を正しく行うための指針」です。
KSFも、KGIが何かによって、また業界や自社の立ち位置によってさまざまです。単純にKGIが売上げ拡大なら、SaaS業界のマーケティングのKSFには以下が考えられます。KSFは、数値でも数値でなくても大丈夫です。
KSFは景気、業界のトレンドはもちろん、企業のステージ、現在のマーケティング部門の力量によって変化します(コロナ前とコロナ禍の成功要因が違うように)。要は「現時点(今の景気、業界のトレンド)でもっとも自社が成功する要因」と理解すればよいでしょう。
KGI、KSF、KPIの概念図の例
KPIの設定方法は、KGI→KFS→KPIの順番です。
ここでは、マーケティング部門のデマンドジェネレーション(案件創出)をKGIとする例を解説します。
KGI、KPIの設定の際には、あいまいな設定をしないように、必ず目標設定の基本「SMARTの法則」を理解しましょう。目標や指標は、わかりやすく、現実的で、当人が達成可能なレベルで、数字で計測できて、いつまでが期限か明確なことが大切です。
SMARTの法則の5指標
MQL創出数、リード創出数などはSaaS企業のマーケティング部門でよく設定されるKGIです。このKGIの数値は営業部門と折衝して決めます。
営業部の売上げ目標から逆算して、「営業部門に引き渡すリードの数と質」を合意し、この数字がマーケティング部門のKGIになります。なぜなら、リードは数が少なくても問題ですが、あまり過剰に引き渡しても営業現場が対応できなくなりますし、リードの質に合意していないと後々リードの質が良い悪いといった意見の食い違いが起きるからです。
営業部門と折衝して決めたマーケティング部門のKGIを、各マーケティング施策、担当者ごとにブレイクダウンします。
たとえば、以下の図のようにマーケティング部門が創出する商談数(MQL)から逆算して、各施策のKGI(目標数値)を振り分けます。担当者も設定します。
ここでは、KSFを「リードの質の向上」と仮定して説明します。
デジタルマーケティングではリードの数を集めることは比較的簡単ですが、大雑把に施策を組み立てるとまったく顧客になる可能性のない訪問者が増えます。集める数の割にリードが増えない、リードの質がよくないという現象を防ぐことは重要です。
前提として、誰にメッセージを届けるかをマーケティングチーム全員が認識するために「ペルソナ」と「カスタマージャーニー」作成は必ず行いましょう。その上で、ペルソナがよく使うチャネルを選択します。
具体的には、これまでの実績からコンバージョン率の高いチャネルは継続します。また、これまで実績がなくてもペルソナの特性、カスタマージャーニーのタッチポイントに特定のSNS、メディアがあるのなら追加し、有望なリードと出会えるチャネルを増やします。
さらに、チャネルごとの(KPI)を設定します。
施策別KPI例:
次に各チャネル(マーケティング施策)のKPIを、さらにブレイクダウンします。ここは、各担当者が最終目標を達成するために、日々のマーケティング業務で何を指標とするか可視化するためです。
1次KPIを分解して、2次KPI、3次KPI、4次KPIと細かく設定していきます。
分解例
KPIがブレイクダウンされたら、そのKPIを達成するために、具体的に行動プランを立てます。マーケティング施策はすぐ成果が見えるものではないので、この行動目標は非常に重要です。例えば、オウンドメディア担当者の行動指標を以下のように設定します(中級者向けです)。
例:
ここでは、2022年に共著で出版した書籍『現場のプロが教える! BtoBマーケティングの基礎知識』の内容をもとに、案件創出をKGIとするマーケティング部門のKPIの参考例を抜粋して紹介します。
(出典:Amazon)
※前項で、ペルソナ、カスタマージャーニーについて触れているのでここでは割愛します。
リードライフサイクルとは、最初は匿名だった訪問者がメールアドレスなどの個人情報を提供してリードとなり、さらにMQL(有望な見込み客)になる一連のプロセスです。
「匿名コンタクト」→「リード」→「MQL」→「SQL」→「顧客」というサイクルです。
リードサイクルの中で、マーケティング部門が担当する前半3ステージでKPIを設定します。
以下の図のように1次KPIだけでなく、前述のようにブレイクダウンし、リードのステージごとに1次、2次、3次KPIと設定し、KPIを構造的に把握することがポイントです。
このように構造化した上で、担当者のスキルによって程よいKPを設定しましょう。初心者にいきなり一次KPIをふっても、何をどうしていいか悩んでしまうことがほとんどです。
KPIとはあくまでも目標達成のための指標。目標もKPIも、仕事をする人間の力量からかけ離れていては無意味です(多くの場合本人のスキルよりも企業のブランド力、予算が影響します)。
初心者なら、当面上記の図の3次KPIが適当でしょう。ブログ記事の更新、メールマガジンを月に何回か発行する等です。そんな簡単なことと思うかもしれませんが、マーケターは他の仕事を兼務しているのが常なので、このKPIがないと途中で挫折したり更新頻度が少なくなったりすることはよくあります。まず、数をやるきることをKPIにしましょう。
ある程度のスキルがついている中級者であれば、以下の1次KPIを設定してもよいかと思います。
マーケティング上級者になると、営業に引き渡された後の契約数、収益までをKPIにするケースもあります。ただ、かなり営業とマーケティング部門の連携がスムーズで、マーケティング部門が成熟している段階でのKPIです。
KPIは個人だけでなく、チャネルにも設定する必要があります。これはマーケターが何をするべきか、よりわかりやすくするのに役立ちます。また、担当者の経験が浅いと、自分の得意領域の業務のみにフォーカスしがちだからです。
それでトータルのKPIを達成したとしても、他のチャネルからのリード獲得のチャンスを逃してしまうのは損失。チャネル別獲得目標は必ず作りましょう。
以下は、企業ブログのチャネル別KPIの割合の設定例です。このようなルールがあることで、マーケティングを全体最適にとらえる習慣がついていくでしょう。
KPIはあくまで指標。どのような切り口で設定するかは目標であるKGI、そして自分たちの現在位置によってさまざまです。
KPIはKGIに紐づけされている必要があるので、最初の段階でマーケティング部門の管理職がKGI、KFS、KPIを構造化し、チャネルごとに1次KPI~N次KPIまで設定することが基本です。その上で担当者のスキルに合わせて、1次KPI、2次KPI、3次KPI、N次KPIの中から、適切なKPIを担当者に割り振りましょう。
KGI(目標)からブレイクダウンしたKPIであれば、4次KPIに相当する「ブログ更新数」、「SNS投稿数」であっても目標達成に向かって着実に進んでいることは間違いありません。