企業活動の目的を一言で言うならば、それは競合他社を上回り、市場シェアを拡大することです。では、ターゲット市場で「勝者」となるためには、どのようにして自社の内部資源を最大限に活用し、外部の市場機会を的確に捉えればよいのでしょうか。その鍵となるのが、内部環境分析と外部環境分析です。
内部環境分析は、企業が持つ資源や能力を評価し、強みや弱みを明確にする手法。一方、外部環境分析は、競合や市場の動向、経済状況など、企業を取り巻く外部要因を把握するための手法です。この2つの分析を通じて、自社のポジションを理解し、戦略を立てることが可能になります。
しかし、内部・外部環境分析を行う際、多くのフレームワークが存在するため、どれを使えばよいか迷うこともあるでしょう。たとえば、PEST分析は政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの視点から外部環境を分析する方法です。他にも、SWOT分析やファイブフォース分析など、さまざまな手法があります。
本記事では、内部環境分析と外部環境分析の違いを詳しく解説し、具体的なフレームワークとその実施手順を紹介します。さらに、実際の企業事例を交えながら、どのように分析を行い、戦略を策定するかをわかりやすく説明します。
内部環境分析とは、自社の強みと弱みを明確化するためのプロセスです。財務状況、企業文化、人的リソース、技術力など、多岐にわたる要素を対象としています。たとえば、ある製造業の企業が内部環境分析を実施し、技術力の高さが競争優位の源泉であることを再認識したとします。この強みをもとに、同社は高付加価値製品の開発に注力し、市場での地位を強化することができるでしょう。
一方で、内部環境分析により弱みも浮き彫りになります。人材育成やデジタルマーケティングの遅れなどを認識すれば、適切な対策を行えます。弱みが成功を妨げることを防げるので、持続的成長を可能にできるのです。
ハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター(Michael Porter)教授は、「戦略の本質は、何をしないかを選択することだ」と述べています。この言葉は、企業がリソースを最も効果的に活用するために、集中すべき領域と避けるべき領域を明確にする重要性を示唆しています。内部環境分析は、この戦略的選択を支える基盤です。
内部環境分析を実施することで、自社の全体像を把握できます。競争力を強化するための示唆を得て、持続的な成長を実現できるのです。
外部環境分析は、競合や政治、経済、市場などの自社を取り巻く外部要因を評価し、機会や脅威を明らかにするプロセスを指します。外部環境分析の目的は、企業が直接コントロールできない外部要因を評価し、リスクを最小限に抑え、成長の機会を最大限に活用することです。
たとえば、アメリカは自動車の二酸化炭素の排出量の基準を2027年から段階的に厳しくすることを発表しました。この規制により、アメリカでビジネス展開をする自動車メーカーはEV(電気自動車)へのシフトを迫られています。これに対応するために、自動車メーカーは技術開発や生産ラインの見直し、サプライチェーンの再構築など多岐にわたる対策を講じる必要があるでしょう。
自社でコントロールできない外部環境を分析することで、市場の変化に迅速に気づき、リスクを最小限に抑え、成長の機会を最大化することが可能です。
内部環境分析と外部環境分析は、それぞれ異なる焦点と目的を持っています。どちらの分析も、企業が直面する内部と外部の課題や機会を包括的に理解するために必要です。以下に、内部環境分析と外部環境分析の主な違いを表でまとめました。
内部環境分析は、自社の強みや弱みを明らかにし、競争優位性を築くための戦略を策定することが目的です。外部環境分析は、自社にとっての機会と脅威を明らかにし、変化に迅速に対応できる体制を構築することが目的です。これらの分析は、企業が直面する内部と外部の課題や機会を包括的に理解するために必要であり、相互補完的な役割を果たします。
企業が持続的に成長し、競争力を維持するためには、内部環境分析と外部環境分析の両方が重要です。以下に、それぞれの分析が重要である具体的な理由を説明します。
効果的な戦略立案には、自社の強みと弱みを把握しなければいけません。強みは自社が市場で競争優位を築くための基盤となり、弱みは改善すべき課題として認識されます。
たとえば、ある企業が強みとして高度な技術力を持っている場合、その技術力を活用して新製品を開発する戦略が考えられます。一方で、マーケティング力を弱みとしている場合、マーケティングの経験者を採用したり、自社でできそうな範囲から展示会やイベントに出展して露出したりなど、その強化策を講じることで競争力を向上させられるでしょう。
このように、内部環境分析により自社の資源や能力を最適に活用し、競争力を高めるためのヒントを得られます。
新規参入企業の脅威、競争の激化、法規制の変化など、市場を取り巻く環境は常に変化しています。これらの変化を見極め、リスクとチャンスを理解することで、適切な対策を講じられるようになります。
たとえば2020年代には、OpenAIをはじめとする企業が高精度の生成AIを開発し、GoogleやMicrosoftなどの大企業も次々とAI製品を発表しました。この流れに伴い、HubSpotやSlackといったAIを専門に開発しない企業も、自社のソフトウェアにAI機能を搭載するようになったのです。
しかし、生成AIの急速な進展には倫理的な課題や規制の必要性も伴います。たとえば、生成AIの悪用を防ぐためのガイドラインや法律が求められています。AI開発企業はこれらのガイドラインや法規制の動向に注目し、適切な準備を行わなければ、競争力を失う可能性があるでしょう。
企業内部の強みや弱みを詳細に分析することで、自社のリソースを最大限に活用できる分野を見つけられます。また、外部環境の分析を通じて、市場のトレンドや顧客ニーズの変化を捉えることが可能です。
たとえば、テクノロジー企業が内部分析を行い、自社の技術開発力が強みであると判断した場合、その強みを生かして新製品の開発を推進できます。また、外部環境の分析により、IoT市場が急成長していることを察知すれば、この分野に進出する絶好の機会となるでしょう。
さらに、売上データや市場シェアの統計(定量的データ)、顧客のフィードバックや市場の声(定性的な洞察)を組み合わせることで、新たなニーズや未開拓の市場を発見し、対応する戦略を策定できます。
内部環境と外部環境の分析を通じて得られる示唆は、成長戦略にとって極めて重要です。
内部環境分析と外部環境分析を行うことで、データに基づいた意思決定ができるようになります。たとえば、3C分析(Company、Customer、Competitorの3つの視点から分析を行う手法)を実施すれば、市場調査や競合分析を通じて得られたデータを活用し、製品開発やマーケティング戦略、リソース配分などの重要な意思決定を正確に行うことが可能です。
信頼できるデータをもとにした分析は、迅速かつ正確な意思決定を行い、市場での競争力を維持・強化するために役立ちます。
内部環境分析と外部環境分析は、社内リソースの最適化にも役立ちます。従業員のスキルを評価し、適材適所に配置することで、業務効率の向上を見込めます。また、多くの潜在顧客がいながらも競合の参入が少ないチャネルを特定すれば、そこにマーケティング費用を注力することで、費用対効果の高い施策を推進できるでしょう。
社内リソースの限られた企業では、いかに人材や予算を最適化できるかが成功のカギです。内部環境分析と外部環境分析をすることで、限られたリソースで効果を最大化する戦略の立案を行えます。
内部環境分析と外部環境分析を効果的に行うためには、適切なフレームワークを使用することが重要です。以下に、代表的なフレームワークを紹介し、それぞれの特徴と用途について詳しく説明します。
VRIO分析は、自社のリソースや能力が持続的な競争優位性を持つかどうかを評価するためのフレームワークです。VRIOは、Value(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織の整備)の4つの要素から構成されます。
VRIO分析の最大のメリットは、競争上の優位性を発見できることです。自社が強みと思っていても、実際は競争優位性にならないことがあるかもしれません。たとえば、自社の強みは技術力と認識していても、容易に模倣できる場合、技術力が真の強みになることはないでしょう。
VRIO分析を実施する際は、Value(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織の整備)の順番で分析することが重要です。すなわち、まずはその強みに価値があるかどうかを判断し、答えがイエスならば希少性、模倣困難性、組織の整備の順に進みます。すべての項目を満たすものこそが真の強みであり、マーケティングメッセージや商談などで打ち出すメッセージです。
McKinsey 7Sは、1980年代にマッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントであるTom Peters(トム・ピーターズ)氏とRobert Waterman(ロバート・ウォーターマン)氏によって開発されました。このフレームワークは、企業の効率的な運営や変革を支援するために設計されており、7つの要素を体系的に分析します。
(出典:McKinsey)
McKinsey 7Sがダイアグラムの形となっている理由は、各要素が互いに依存し合っており、一つの要素の変化が他の要素にも影響を及ぼすためです。このフレームワークを使うことで、自社の強みや改善点を把握できます。
たとえば、製造業が他国への進出を目指す(戦略)場合、次のように他の要素も連動して変化しなければ、成功は難しいでしょう。
このように、7つの要素は相互に影響し合っているため、一つの要素を変更する際には、他の要素にも注意を払い、必要に応じて調整を行うことが重要です。
コアコンピテンシー分析は、自社独自の強みや競争優位性を特定するためのフレームワークです。
1970年代から1980年代にかけて、多くの企業は多角化戦略を追求し、複数の市場や業界でのプレゼンスを強化しようとしていました。しかし、これにより一部の企業は資源の分散や競争力の低下に直面することになったのです。この時期、企業が持つ特定の強みを活かし、それに集中する戦略の重要性が認識され始めました。
1990年、C.K. Prahalad(C.K.プラハラッド)とGary Hamel(ゲイリー・ハメル)は「The Core Competence of the Corporation」という論文をハーバード・ビジネス・レビューに発表しました。この論文で彼らは、企業が競争優位を持続的に築くためには、「コアコンピテンシー」と呼ばれる、他社が模倣できない、かつ顧客に利益を与える独自のスキルや技術に集中することが重要であると論じました。
両氏はコアコンピテンシーを次のように定義します。
コアコンピテンシーを特定するためには、内部分析だけではなく、競合分析や市場分析も実施しなければいけません。たとえば、ホンダの場合はエンジン技術がコアコンピテンシーであり、これを活かして自動車やバイク、発電機など幅広い製品を提供しています。
技術革新や市場の変化に対応するためには、自社の強みをしっかりと認識し、それを最大限に活用する戦略が求められます。コアコンピテンシーを理解しておけば、変化の激しい現代においても、競争優位性を維持できるでしょう。
OCAT(Organizational Capacity Assessment Tool、組織能力評価ツール)は、非営利組織が自身の運営能力を評価し、向上させるために使用するツールです。このフレームワークの開発は、1990年代から2000年代初頭にかけて、多くの非営利組織が成長し、複雑化する中で組織能力の向上が重要な課題となったことに端を発します。特に、資金提供者やドナーは、提供する資金が効果的に使われているかどうかを確認するために、受け入れ組織の能力を評価する必要があります。
2001年、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、非営利組織のパフォーマンスを評価するためのフレームワークとして、OCATを開発しました。OCATは、組織の多面的な能力を評価するための包括的なツールです。具体的には以下のような要素を評価します。
(出典:Candit)
現在、OCATは非営利組織の能力評価の標準ツールとして広く使われています。特に、資金提供者やパートナーシップを組む企業は、受け入れ組織の信頼性と効率性を評価するためにOCATを利用することが多いです。また、自己評価の結果をもとに、組織内部の改善だけでなく、外部の支援やコンサルティングサービスを受ける際の基礎資料としても活用されています。
PEST分析は、外部環境の4つの主要な要素(政治、経済、社会、技術)を評価するためのフレームワークです。
PEST分析の基盤となったのは、Francis J. Aguilar(フランシス・J・アギラー)氏が1967年に発表した著書『Scanning the Business Environment』です。当時、企業がグローバル市場で競争する中で、外部環境の影響を評価する必要性が高まっていました。特に、マーケティングと戦略の分野で外部要因の影響を体系的に分析する手法が求められていたのです。
PEST分析により、企業は外部環境の変化を予測し、それに適応するための戦略を立てることができます。
SWOT分析は、企業の内部環境(強みと弱み)と外部環境(機会と脅威)を評価するためのフレームワークです。
SWOT分析は、スタンフォード大学の研究者であるAlbert S. Humphrey(アルバート・ハンフリー)氏が1960年代から1970年代にかけて行った研究プロジェクトの成果として知られています。
外部環境分析の定番のフレームワークとして幅広く知られながらも、効果的に活用できている企業は少ないようです。その理由として、コロンビア大学シカゴ校准教授のLaurence Minsky(ローレンス・ミンスキー)氏とドミニカン大学マーケティング学部教授兼大学院プログラムディレクターのDavid Aron(デイビッド・アーロン)氏は、分析の順番に問題があると指摘します。
両氏は、 企業は内部の強みと弱みに集中しすぎて、外部環境の機会と脅威を十分に考慮していないと述べるのです。「内向き」から「外向き」への転換、つまりまず外部の機会と脅威を評価し、それに基づいて内部の強みと弱みを分析することで、外部の機会を最大限に活用できる戦略を立案できます。
クロスSWOT分析は、SWOT分析の結果をもとに、強みと機会、弱みと脅威を組み合わせて具体的な戦略を立案する手法です。
クロスSWOT分析により、具体的な実行計画を策定できます。たとえば、あるIT企業が新しいソフトウェア製品を市場に投入し、クラウドサービス分野でのシェア拡大を目指しているとしましょう。まずは、SWOT分析をして以下の結果を得ます。
この分析結果をもとに、クロスSWOT分析に落とし込んだ結果が以下の通りです。
このように、内部と外部の要因を組み合わせて総合的に評価することで、実行可能な戦略を導き出すのに役立ちます。
3C分析は、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点から市場を分析するフレームワークです。日本の経営コンサルタントである大前研一氏によって提唱され、自社を取り巻く環境を包括的に評価し、効果的な戦略を策定するための基本ツールとして広く使用されています。
3C分析のメリットは、必要な情報を漏れなく収集できることです。たとえば、マーケティング戦略の立案をする際、自社の強みと弱みだけを考慮しては、全体像を把握できず、最適な戦略を策定することが困難になります。しかし、3C分析を用いることで、顧客のニーズや競合他社の動向も含めた包括的な視点から戦略を立案することができます。顧客、競合、自社を理解することを目的とした3C分析は、あらゆるビジネス活動の基本となるでしょう。
ファイブフォース分析は、業界の競争環境を評価するためのフレームワークです。ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・ポーター氏が提唱しました。ファイブフォース分析では、以下5つの要素を分析します。
(出典: SEMRUSH)
ファイブフォース分析を行うことで、業界の収益性と自社の競争優位性を明確にできます。特に、新規事業の参入を検討する場合や既存事業の戦略の見直しをする際に有効です。
内部環境分析と外部環境分析は、戦略策定や見直しの初期段階で行うべき重要なステップです。自社内外を取り巻く現在の環境を適切に把握しなければ、目標設定やそれを実現するための効果的な戦略立案は行えません。内部・外部環境分析を行うことで、自社の競争優位性や強化すべきチャネル、将来的なリスクとその対策などを特定できるのです。
特に以下のケースに該当する場合、初めに内部分析と外部分析を実施しましょう。
新しい市場に進出する際、内部環境分析を通じて自社の強みを活かせるポイントを明確にし、外部環境分析を通じてターゲット市場の特性や競争環境を把握します。
政治的な変動や経済危機など、社会情勢が大きく変化している場合、外部環境分析をすることで、新たなチャンスの発見やリスクの回避を行えます。
新製品の開発や既存製品ラインの拡充を計画している場合、内部環境分析で自社のリソースや技術力を評価し、外部環境分析で市場のニーズや競合状況を把握します。
中長期的な事業計画を策定・見直す際、内部環境分析で現在の業績やリソースを評価し、外部環境分析で市場トレンドや競争環境を理解します。
技術革新や規制の変更など、業界環境が変化している場合、迅速に対応するために内部環境分析と外部環境分析を行います。
内部分析と外部分析を効果的に実行するためには、体系的なアプローチが必要です。以下のステップに従うことで、詳細で信頼性のある分析を行い、戦略的な意思決定に役立つ示唆を得られます。
最初に、分析の目標と目的を明確に定めることが重要です。何を達成したいのか、どのような情報が必要なのかを具体的に検討しましょう。たとえば、新製品の開発を計画する場合、ターゲットとなる市場の特性や競争環境を理解するための情報が必要です。また、自社の内部環境を評価して、強みと弱みを特定することも目標のひとつです。目的が明確であれば、分析の方向性が定まり、効果的なデータ収集と評価が可能になります。
目標と目的が定まったら、分析に必要なフレームワークを選定します。各フレームワークの主な用途を表にまとめたので、ぜひ参考にしてください。
たとえば、新規事業の実行が目的なら、VRIO分析やコアコンピテンシー分析で自社の競争優位性を明確にし、ファイブフォース分析でターゲット市場の競争環境を分析するとよいでしょう。一方、既存事業の拡大ならSWOT分析や3C分析で自社の強みと弱みを評価しながら、市場の新たなニーズに対応する機会を見つけ、競合他社の強みや新規参入の脅威も同時に評価します。
選定したフレームワークに基づき、必要なデータを収集します。データ収集で重要なポイントは、可能な限り信頼性の高い情報を漏れなく集めることです。そのためには、各フレームワークで必用となる主なデータとその収集元を事前に理解しておくとよいでしょう。
これらがすべてのデータではありませんが、まずは上記表をもとにデータ収集に取り組んでみてください。分析を進めていく中で、さらに必要なデータが判明するかもしれません。
収集したデータをフレームワークに落とし込み、具体的な分析を行います。たとえばSWOT分析を用いる場合、内部環境のデータを基に強みと弱みを特定し、外部環境のデータを基に機会と脅威を評価します。この過程で、データを体系的に整理し、視覚的にわかりやすい形で作成することが重要です。これにより、上層部やステークホルダーが分析結果を容易に理解し、戦略的意思決定に活用できるようになります。
最後に、分析結果に基づいて具体的な戦略を策定し、実行に移します。たとえば、内部分析で特定した強みを活かし、外部分析で見つけた市場機会を追求する戦略を立案する。弱みを克服するための改善策や、脅威に対処するためのリスク管理戦略も策定するなどです。
策定した戦略は、具体的なアクションプランに落とし込み、担当者や期限を明確にすることで、実行可能な形に整えます。その後、実行段階で定期的に進捗をモニタリングし、必要に応じて戦略を見直すことが重要です。
ここでは、具体的な分析イメージを持てるように、実際の企業を例に内部環境分析と外部環境分析をしてみたいと思います。
(出典:HubSpot)
HubSpotは、CRM(顧客関係管理)システムを提供する企業です。HubSpotを例にSWOT分析、3C分析、ファイブフォース分析をしてみましょう。
【SWOT分析】
項目 |
内容 |
Strengths(強み) |
統合プラットフォーム(マーケティング、セールス、カスタマーサービスの一体化) 豊富な教育リソース(HubSpot Academyなど) 高いブランド認知度 |
Weaknesses(弱み) |
カスタマイズの限界 |
Opportunities(機会) |
AIと自動化の導入 新市場への拡大 パートナーシップの強化 |
Threats(脅威) |
競争の激化 強力な競合の存在 (Salesforce、Marketo) データセキュリティのリスク 経済変動による影響 |
【3C分析】
項目 |
内容 |
Company(自社) |
統合プラットフォーム 使いやすさと豊富な教育リソース 中小企業から大企業まで幅広く利用される |
Customers(顧客) |
中小企業および成長企業 マーケティングとセールスを自動化し、効率化するソリューションを求める 使いやすさを重視 |
Competitors(競合) |
Salesforce、Marketo(Adobe)、Pardot, Zoho CRMなど 機能の豊富さ、カスタマイズ性、価格設定で差別化を図る競合企業 |
【ファイブフォース分析】
項目 |
内容 |
競争業者間の敵対関係 |
強力な競合企業が存在 価格競争や製品差別化が進む |
新規参入者の脅威 |
新技術と低コストクラウドサービスの普及により新規参入者が増加 HubSpotのブランド認知度と顧客基盤が新規参入者に対する障壁に |
代替製品の脅威 |
他のマーケティングツールやCRMソフトウェア(Mailchimp, Zoho CRMなど)が代替製品として存在 |
供給者の交渉力 |
物理的な供給者の交渉力は低いが、技術インフラやデータセンターサービスプロバイダーの価格引き上げリスクが存在 |
買い手の交渉力 |
市場には多くの選択肢がある 大企業はボリュームディスカウントや特別なカスタマイズを要求することがある |
【分析例】
HubSpotは統合CRMプラットフォームとして、マーケティング、セールス、カスタマーサービスを一体化し、使いやすさと豊富な教育リソースによって幅広いユーザー層に支持されています。
特に中小企業および成長企業に対して、マーケティングとセールスの自動化ソリューションを提供することで、業務効率化やさらなる成長に貢献しているのです。一方で、カスタマイズの限界や強力な競合の存在などの弱点も抱えており、競争の激化やデータセキュリティのリスクにも直面しています。
新技術の普及や低コストクラウドサービスの台頭により、新規参入者が増加しつつありますが、HubSpotの高いブランド認知度と既存顧客基盤が参入障壁となっています。
これらの分析結果より、まずはAI技術の導入及び強化をすることで、既存の強みを拡大できるでしょう。また、競合のSalesforceやMarketoは高度なカスタマイズ性を備えた高額のソフトウェアという点を踏まえると、カスタマイズ性の拡充をして大企業のシェアも狙う、または現状の通り中小企業を中心にシェアを狙い、中小企業市場シェアでナンバーワンを狙うなどの戦略も考えられます。
また、もし中小企業のシェア拡大を狙うのなら、たとえば特定の業界に特化した機能開発やマーケティング戦略、パートナーシップの提携なども考えられます。
(出典:freee株式会社)
freee株式会社は、クラウド会計ソフトウェアおよび関連サービスを提供する企業です。同社は、中小企業や個人事業主を主なターゲットにし、経理・会計業務の効率化を図るためのクラウドベースのソリューションを提供しています。
【SWOT分析】
項目 |
内容 |
Strengths(強み) |
クラウド会計ソフトのリーディングカンパニー 使いやすいインターフェース 多機能かつ一体化されたプラットフォーム 高いブランド認知度 |
Weaknesses(弱み) |
中小企業向け製品のイメージが強い サポート体制の課題 |
Opportunities(機会) |
中小企業のデジタルトランスフォーメーションの進展 大企業市場への拡大 他のクラウドサービスとの連携強化 |
Threats(脅威) |
競合の増加(マネーフォワード、弥生など) データセキュリティのリスク 景気悪化による中小企業のIT投資削減 |
【3C分析】
項目 |
内容 |
Company(自社) |
クラウド会計ソフトとバックオフィス業務の一体化プラットフォーム 使いやすいインターフェースと高いブランド認知度 |
Customers(顧客) |
中小企業および個人事業主 会計業務の効率化とバックオフィスのデジタル化を求める顧客 使いやすさとサポートを重視 |
Competitors(競合) |
マネーフォワード 弥生株式会社 クラウド会計やバックオフィスソフトウェアを提供する他のSaaS企業 |
【ファイブフォース分析】
項目 |
内容 |
競争業者間の敵対関係 |
マネーフォワードや弥生などの強力な競合 価格競争と製品差別化が進む |
新規参入者の脅威 |
クラウド技術の普及と低コストSaaSサービスの増加により新規参入者が増加 Freeeの高いブランド認知度が参入障壁になる |
代替製品の脅威 |
既存のオンプレミス会計ソフトやエクセルなどの代替品 他のクラウド会計ソフトの存在 |
供給者の交渉力 |
ソフトウェアやクラウドインフラのプロバイダーに依存 一部の技術プロバイダーの価格引き上げリスクがある |
買い手の交渉力 |
中小企業および個人事業主の多様な選択肢 価格や機能面での比較が容易であり、顧客の交渉力が高い |
【分析例】
Freee株式会社はクラウド会計ソフト市場でのリーダーシップを持っていますが、主に中小企業および個人事業主の顧客が多いです。政府が副業を推進しているため、今後もメインターゲットである個人事業主は増えるでしょう。同社は抜群の知名度を誇っている点を踏まえると、メインターゲット層は順調に獲得できると思われます。そのため、今後は大企業を獲得する戦略が有効となるかもしれません。
また、顧客レビューを分析すると、カスタマーサポートを改善点に挙げているユーザーがいくつか見られます。そのため、メールや電話での問い合わせ時間の短縮、ナレッジベースの充実化などに取り組む施策も考えられます。
内部分析と外部分析は、目と耳のようなものです。内部分析は目となり、企業内部の詳細を明確に見ます。外部分析は耳となり、市場の声や競合の動向を聞き取ります。どちらも使うことで、周囲の状況を完全に理解し、最適な措置を講じられるようになるのです。
内部分析と外部分析は、互いに補完し合う関係にあります。内部分析だけでは企業の内部環境しか理解できず、外部環境の変化に対応できない可能性があります。同様に、外部分析だけでは市場や競合の動向を把握することはできても、企業の内部リソースや能力がその戦略を支えるかどうかを判断することはできません。
両方の分析を組み合わせることで、企業は全体的な視点から状況を把握し、内部の強みを活かしつつ外部の機会を最大限に活用し、脅威を最小限に抑える戦略を策定することが可能になります。
内部環境分析と外部環境分析は、企業戦略の基盤を形成する重要な手法です。
内部環境分析では、自社の強みや弱点を明確にし、どのリソースや能力を活用すべきかを判断します。一方、外部環境分析では、市場の動向や競合の戦略を把握し、機会と脅威を特定できます。
この2つの分析は相互補完的であり、どちらか一方に偏ることなく両方を行うことで、多角的な視点から状況を把握し、効果的な戦略を策定することが可能です。自社の強みを最大限に活かし、市場の機会を効果的に捉え、競争優位性を確保するためにも、定期的に内部分析と外部分析を実施しましょう。