CMや広告のキラーコンテンツは「美女、子供、動物」だそうです。もっとも、感情や本能、イメージが購買に影響しやすいBtoCの世界で主に言えることでしょう。
BtoBのキラーコンテンツは何でしょうか? 事例、ホワイトペーパー、いろいろコンテンツはあるものの、事例以外に絶対これ!と言い切りにくいのは、専門性が高いBtoBゆえかもしれません。
実際に難しくて、筆者もいろいろな企業さんのオウンドメディア運営を支援していますが、数多くコンテンツを用意してもヒットするのは1割という印象です(著者がメジャーな人の場合をのぞけば)。ごく一部のキラーコンテンツだけが成果(CVR)をけん引しています。
今回は、BtoBビジネスでのキラーコンテンツとは何か? リードを増やし、売上げ向上につながるキラーコンテンツの重要性、作り方のコツ、活用方法などを解説します。
キラーコンテンツとは「必殺コンテンツ」「決め手となるコンテンツ」という意味です。
BtoBマーケティングでのキラーコンテンツは、見込み客に「役立ちそうだから、資料請求してみよう」「購入してみよう」という心理変容やコンバージョンを引き起こすコンテンツを指します。
昨今、コンテンツの品質はさらに重要になりました。今の世はコンテンツだらけで、オンライン上のメディアは増える一方です。企業も個人もオリジナルのメディアを持ち、多彩なコンテンツを提供しています。
動画をスキップする人、ググるのではなくSNS検索をする人が増えました。「トップ5%の社員が検索にかける時間は5分」と言われ「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉も出てきました。そうしないと増え続ける情報をさばけないからであり、人がリサーチにかける時間はどんどん短くなり、コンテンツを見る見ないの判断は素早くなります。
このような環境では、ありきたりのジェネリックな情報はすっ飛ばされてしまいます。BtoBの担当者は、勤務中リサーチだけに時間をかけられないので、なおさらでしょう。
マーケティング担当者は、これまでよりもコンテンツのクオリティを上げることが重要です。見込み客の気持ちが動くようなキラーコンテンツの作成を目指す姿勢が必要になっています。
キラーコンテンツと正反対に位置するのが、ジェネリックコンテンツです。多くの人に読み飛ばされてしまうような、読んでも記憶に残らない凡庸なコンテンツです。
例:
みなさんも、いざ自分で仕事用になにか調べようとすると、案外役立つコンテンツが少ないのに気づくかと思います。最近のGoogleなど検索結果の1ページを見ると、似た見出しのサイトがならびます。
ホワイトペーパ―も同じ状況で、調査によると7割ががっかりしています(わざわざダウンロードしているので、がっかり感もひとしおなのです)。このような平均的なコンテンツでは、今の見込み客には響かなくなっています。
キラーコンテンツとは、内容、コピー、デザインのすべてのバランスが絶妙に調和するときに出てくるため、100%にすることは無理なものの、目指していれば一定の確率で生まれてきます。
特別に予算がかかったり、ものすごいクリエイターを確保しなければいけなかったり、というわけではありません。ただ、考えるタスク、調べるタスクが必要であり、一定の時間とエネルギーが必要です。
ここでは、まずはBtoB企業がキラーコンテンツを作る重要ポイントを解説します(後半で仕事を楽にするハッキングツールも紹介します)。
まず、ペルソナ作成をしているかしていないかでコンテンツのクオリティが違ってきますので、この工程は飛ばさないようにしましょう。
BtoBビジネスで作るペルソナは、BtoCよりも把握する項目はシンプルです。担当者の役職や事業規模、業種、所属部門、情報収集方法、SaaSの場合はITリテラシーなど。
BtoBのペルソナが探しているのは課題の答え、役立つ情報です。
ペルソナを理解するには、まず一般的な業界の担当者の課題を検索します。例えば「〇〇担当者 課題」とリサーチすると、採用担当者、マーケター、SaaS購入担当者などそれぞれの統計が結構でてきます。課題にもトレンドがあるのでつかみましょう。
その上で、セールス、カスタマー部門からヒアリングをします。できれば顧客インタビューを実施するとよりよいでしょう。このようにして得た情報をシートにまとめます。完成したペルソナシートは以下のような感じです。
(出典:HubSpot)
※HubSpotの2012年ごろのペルソナの1人「マーケティングのマリー」は、日常業務として幅広いマーケティング活動を行っているためソフトウェアに求めることは高機能より汎用性。素早く幅広いマーケティング活動を展開できる実用的なツールを大切にしている、という設定。
次に、ペルソナがどのような心理で購買を進めるかを掘り下げ、カスタマージャーニーマップにまとめます。一般に、BtoB担当者の大まかな流れは、以下のような感じです。
日頃の情報収集→課題が浮上→リサーチ→比較・検討→数社に相談→無料デモ・トライアル→社内稟議→契約→導入準備→利用開始→活用→更新
ステージ設定をして、時間軸に沿ってどんなキーワードで検索するのか? どんなメディアを見るのか? どんなイベントにいくのか? 社内資料としてどんなものがあれば有効かなどを推測し、役立つコンテンツを提供する必要があります。
以下は、2018年に米国のB2Bマーケティング担当者に対して行った調査です。見込み客の購買活動の初期、中期、後期で、それぞれ役立ったコンテンツのフォーマット(形式)は以下のように変化しています。
(出典:B2B CONTENT MARKETING 2019 - Contentmarketing institute、MarketingProfs)
ペルソナとカスタマージャーニーを踏まえて、価値あるコンテンツの内容を決めます。注意点としては、ブログ、セミナー、動画など先に形式にとらわれないことです。形式がどれであれ中身がスカスカなら効果はあまりありません。
また、マンパワーの問題も出てきます。内容がよければ、Webサイトのコンテンツを充実させるだけでもそれなりの効果は出るものです。
ペルソナの認知段階と検討段階に分けて決めていくとよいでしょう。
認知段階のコンテンツ例:
検討段階のコンテンツ例
キラーコンテンツは貴重なので、キラーコンテンツが生まれたらひとつの形式にとどめずいろいろなシーンで使いまわしましょう。ここでは、キラーコンテンツの使い方を解説します。
デジタルマーケティングのメディアには、トリプルメディアと言われる3メディアがあり、それぞれに強みが違います。
キラーコンテンツを多くの人に届けるために、認知に強いペイドメディアで多くの人を惹きつけ、オウンドメディアで深く理解してもらったり、アーンドメディアで拡散してもらったりすることが大切です。
CRMなどに入っているデータには、休眠してしまった見込み客、既存顧客がかなり含まれています。このような層への再アプローチにキラーコンテンツは適しています。
いったん自社に興味をもったのに、メールマガジンを送ってもまったく反応しなくなった、ウェビナーも2回目はこないなどの見込み客には、ニーズがなくなった人ももちろんいますが、単純に見る価値がない企業のコンテンツと思われている可能性があります。
そのような見込み客、顧客にありきたりのコンテンツを届けても効果は期待できないため、ぜひキラーコンテンツを届けてみましょう。
キラーコンテンツは、できるだけフォーマットを変えて積極活用することがポイントです。オフラインの資料をオンラインで、オンラインで活用していた資料を印刷して配布するなど有効活用しましょう。
フォーマットを変えても成果につながる可能性が高いだけでなく、コンテンツ作成に使う費用と時間を節約できるメリットがあるからです。
活用例
BtoBで検討すべきキラーコンテンツの例を紹介します。
コーマーケティングとは、共同で行うマーケティングです。他社と共同でイベント(ウェビナー、セミナー)などを行ったり、広告やブログ記事を対談形式にしたりする方法があります。
同じ市場、同じペルソナを持っていても商品がまったく競合しない場合、お互い見込み客層を広げる効果があり、会場費ほかコストも削減できます。見る側(読む側)にとっても新鮮で、発見や示唆のあるコンテンツになるでしょう。
メリット:
ウェビナーの場合、最近はウェビナーの共催マッチングコミュニティもあるので、協力企業を探しやすくなっています。
(出典:Bizibl)
概要:
オンラインイベント・プラットフォームBizibl社と、ミーティングアプリ、無料ビジネスチャットを提供するParque社の共催セミナー『データで見る!オンライン時代における顧客関係値の築き方』です。
対象は営業体制の構築、営業DXに興味がある層。2社はまったく競合しない商材を扱っています。このような関係のイベントはお互いにメリットがあるでしょう。
SaaSのような形がない商品を扱う業界では、世界観を伝えるための自社イベントはとても重要です。日本だと単独イベントで数万人規模のイベントはまだ見受けられませんが、海外ではコロナ以前のセールスフォース、HubSpotなど大型イベントが有名です。
日本のカンファレンスの場合だと、スポンサーシップ(お金)がかなり大きな力をしめ、理念に沿った協賛パートナーという視点に立てず世界観が崩れることもあります。その点、自社イベントなら自由に企画を立てられるメリットがあります。
以下は、日本の会計SaaSを提供するfreee社の、ユーザー向けではなくアドバイザー向けイベントです。会計事務所、税理士事務所などと共にスモールビジネス業界の未来を考えるテーマで開かれたものですが、公開動画からも熱気が伝わります。
例:【日本最大級】freee Advisor Day 2022 -Digest Movie-【会計イベント】
(出典:YouTube)
freee社はイベント動画をYouTubeで公開するだけでなく、Web上では登壇資料とアーカイブ動画をダウンロード提供しています。見込み客向けのイベントではありませんが、このような業界について真剣に考えるイベントレポートは、見込み客の関心を引き、信頼度向上や見込み客の知識アップにもつながると考えられます。
前述の米国のアンケート調査でも、日本の複数の調査でも、検討時点でBtoB担当者が求めているものは比較的シンプルで「製品仕様」や「事例」です。
以下は、2017年に株式会社メディックスが「直近1年以内に自社のIT製品やサービス導入に関与した方」に行った調査結果です。
検討する上で興味のあるコンテンツとして「製品特長」「価格」「仕様」と同様に約6割の人が「導入事例」と回答しています。
(出典:株式会社メディックス)
ITコミュニケーションズ社で行った調査でも同じような結果です。
とはいえ機能ページ、価格ページなどを充実させるのは比較的簡単でも、事例を作るには相手の承諾が必要です。
信頼関係が相当強い場合は別として、何らかのメリット(特典、自社で事例としてアップすることで相手も宣伝になるなど)がないと依頼しづらいため、躊躇するケースも少なくないと思います。幸い、最近は導入事例の依頼方法テンプレートなどもWeb上にあるので、活用されるとよいでしょう。
以下は、事例作成の参考になるテレビ会議システムのトップベンダーブイキューブ社のWebサイトです。
(出典:株式会社ブイキューブ)
導入事例ページには「目的・課題から探す」「業種から探す」「用サービスから探す」「企業名から探す」と4つのインデックスがあり、業種や企業規模がさまざまな事例が大量に掲載されています。事例が豊富なゆえに圧倒的な説得力があり、サービスに対する安心感があります。
比較表は、ライバル企業の公開資料をもとに作成します。レビューサイトの評価、受賞の有無なども比較して掲載できればよりよいでしょう。あまり情報を公開しないライバル企業の場合、以下のMonday.com社のようにシンプルな表にするのもおすすめです。
(出典:Monday.com)
最後に、コンテンツ作成に伴うめんどくさいタスクを簡易化してくれ、かつ自社のリードジェネレーションにつながるツールを2つ紹介します。
(出典:HubSpot)
簡単な操作でEメール用の署名を無料で作成できます。作成した署名は、HubSpot、Gmail、Outlook、Apple Mail、Yahoo!メールなどに反映できます。書式やデザインなど、目的別にテンプレートが数多くあるのでおすすめです。
(出典:HubSpot)
HubSpot社の「Make My Persona」は、7ステップでペルソナを作成できます。アカウント登録は不要で無料です(ダウンロードしたい場合は登録要)。ペルソナ作成の基本を学ぶのにうってつけです。
ペルソナ作成は考えすぎると迷子になります。ハックツ―ル、前述のような統計、現場担当者の意見を有効活用してまとめる、という意識でいることがおすすめです。
どんなに素晴らしい商品・サービスを提供していても、Webサイト、オウンドメディアの記事やホワイトペーパーが浅い内容だと、きっと機能もだめだろうと連想されてしまいます。
コンテンツのクオリティは一定以上の品質を目指す必要があるのです。
ペルソナのニーズに沿って価値ある情報を届けようという姿勢があれば、必ずキラーコンテンツは生まれます。そもそもBtoBの場合、必要以上にコンテンツを華美にかっこよくする必要はありません。
なぜSNSは人気なのでしょうか? 情報発信しているのは普通の人たちですが、個人の本当の意見、リアルな情報があふれてるからです。同じように、実は社内で当たり前だと思っている情報も、見込み客にとって、まったく知らなかった価値ある情報ということは少なくないのです。
鉄板コンテンツである事例を豊富に用意しつつ、ブログ記事などでは業界のレアな情報、ノウハウを盛り込んでキラーコンテンツを増やしていきましょう。