市場はチャンスに満ち溢れています。平均より勘の良いビジネスマンなら「今なら〇〇がチャンス」「今なら〇〇領域に進出すべき」と想像がつくことは多いでしょう。しかし、多くの場合「それが自社に可能か……」という思いがよぎり、というか判断ができず、そのままになりがちです。
手をこまねいているうちに足の速い会社が果敢に進出し、ときに未完成なサービスをたたかれながらも挑戦し、なんだかんだ先行者利益を得ていきます。あるいは必ず2、3番手あたりに登場し後からシェアをかっさらう企業もいます。
現実には、後追い企業のほうがメジャーになっているケースが多く、オハイオ州立大学のOded Shenkar(オデッド・シェンカー)氏のHBR記事よると、なんとイノベーションで生み出される価値のほぼ 98% は模倣者によって獲得されているそうです。また、近年模倣のスピードが増していることを指摘しています。
たとえば、現代のSNSの原型は「Six degress」でありFacebookは後追いです。Amazonも世界発のECでもオンライン書店でもありません。この2社はイノベーターというよりアーリーアダプター的です。スマートフォンを最初に開発したのもAppleではなくIBMです。「人がやらないことをやる」がモットーのソニー、「まねをした時点で世界一はあり得ない」と言うホンダのような企業は格好良いのですが、それで成功できるのはかなり少数でしょう。
どちらが良い悪いではなく、彼らは自分たちの強み、能力(発想力、企業DNA、技術力、資金力、営業力など)をよくわかって意志決定しているのです。経営幹部の方、マーケターの方は、自社を可能性を含めてよく理解しているでしょうか?
意外と自分のことは見えないのと同じで、自社のことは客観的に捉えられないものです。外部から見れば明らかな個性も、中にいれば「当たり前」だからです。
そこで、本記事では内部環境分析(自社の環境分析)の方法、フレームワークを紹介します。自分たちをしっかり分析して、可能性を広げましょう。
内部環境分析とは、自社を構成するリソース(人、物、カネ、情報、カルチャー、ノウハウ)をすべて分析することです。会社を構成する要素には以下のように物理的な要素だけでなく、社風に代表される目に見えない資産もあります。
内部環境の構成要素
このような有形無形の要素がそれぞれ違うバランスで組み合わさって、企業独自の強みを形成します。1社としてまったく同じ割合の企業は存在しません。
まず、「環境分析」とは競争のセオリー「敵を知り己を知れば100戦危うからず」そのものの話です。企業をとりまく環境を知ると同時に、自分たちをよく知っておかなければなりません。
企業の環境分析を「外部環境(マクロ環境とミクロ環境)」と「内部環境」に分ける場合、「内部環境分析(自社分析)」は以下のコアの部分です。
これまでの記事で、外部環境分析フレームワーク(PEST分析、5forces分析、STP分析など)はよく紹介してきましたが、世界、市場、業界、顧客を分析するのと同じくらい自社を分析することは重要です。
どのようなチャンスや脅威に際しても、自社の力量を正確にわかっていなければ正しい判断ができないからです。
内部環境分析(自社分析)のメリット
内部環境分析を実施するさまざまなフレームワークが存在します。フレームワークはあくまでツール、手段なので、活用する目的、戦略によって適切なものを選択しましょう。
ここでは、主に経営・マーケティング戦略に使う内部環境分析の考え方、フレームワークを紹介します。
GAPアナリシス(分析)とは、現在の状態と望ましい将来の状態のギャップを分析するフレームワークです。GAP(ギャップ)とは、理想と現実の差です。
一般に企業は常に成長を目指し、経営層はあらゆることに理想を持っています。企業の成長とともに理想は高くなるので、常に企業内にはギャップが存在すると言えるでしょう。
ギャップの例:
なお、GAP分析はあくまでGAPを把握するフレームワークであり、具体的な成功の施策のためのフレームワークではありません。しかし、まずは現状を把握し、目標としている地点までのギャップを正確に把握しなければ目標までの正しいプロセスが描けないので、最初にGAP分析をすることは重要です。
具体的にギャップを解消するためには、施策を決めてKPIを設定しなければなりません。以下のように段階的にギャップを埋めていくプランを立てる必要があります。
GAPを埋めるアクションプラン:
SWOT分析とは、内部環境分析と外部環境分析を同時に行えるフレームワークですが、今回は合わせて紹介します。
SWOT分析は、企業のStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)を分析して、掛け合わせて考えるフレームワークです。それぞれの頭文字をとってSWOT(スウォット)分析と呼ばれます。
正式に1960年代にハーバード・ビジネス・スクールフレームワークとして成立する前から、各地で使われていたと言われる古いフレームワークであり、言いかえればそれだけ活用しやすく有効と言えるでしょう。
SWOTの4項目を分析することで、自社の強みをもとに機会に乗じて成長することや、脅威に際して撤退すべきかを決断できます。自社の戦略の検証や分析もできますし、他社分析にも活かせます。
VRIOフレームワークとは、自社のリソースを「経済価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(In-imitability)」「組織(Organization)」の4つの視点で分析、競争優位性を分析するフレームワークです。
以下の図のようにVRIOフレームワークの、V(価値)、R(希少性)、I(模倣困難性)、O(組織)の項目が他社より優れているかどうかマッピングすると、競争優位のレベルが判断できます。
4項目の質問(〇✖もしくはYES・NOで回答):
例:記入済の例
判断の方法:
VRIO分析によって、自社の市場競争上の優位性が強固か脆弱かが判断できます。また、どの弱みを重点的に改善すべきかがわかります。ただし、ライバル企業が出るなど市場の状況が変われば当然変化はありますので、VRIO分析は定期的に実施しましょう。
(出典:iEduNote.com)
「ストラテジーアナリシス(戦略分析)」とは、自社の戦略がどれだけうまく実装できているか、また結果としてうまく実行されたかを評価するプロセスです。戦略分析は、戦略が終わってから行うのではなく四半期、半年に1回など途中に分析します。
途中評価プロセス:
予想外の事象が発生したり、戦略がスムーズにいかなかったりすることも当然あります。その場合、戦略の基盤の見直し(SWOT他活用している枠組み)→組織のパフォーマンスの測定→是正措置の実施という手順で、変更していきます。
戦略の事後検証:
実は、企業で立てる戦略ないしプロジェクトの多くは失敗します。新規事業、新規プロジェクトなど成功率10%と言われるほどです。もちろんそこで切り替えて新たな戦略で出直すことはよいことです。
同時に、うまくいかなかった戦略を徹底的に分析して原因を把握し、ナレッジとして蓄積することも重要です。成功した戦略にも改善点はあり、失敗した戦略にも有効だったことがあるので、今後の戦略の成功可能性を高めることにつながります。
(参考:iEduNote.com、Strategy Evaluation Process: Comprehensive Guide + Examples-cascade
最後に、マーケティング戦略のプロセスを図解すると、内部環境分析は外部環境分析の後に行う分析です。全体像の中での位置も把握しておきましょう(なお、必ずこのフレームワークということではなく、目的に応じ使いやすいフレームワークで問題ありません)。
自社の分析は意外と客観的に判断できないものです。そもそも分析せずに、過少に評価したり過大に評価したりしていることがあります。新しいことを始めるのにも決断ができず、遅れに遅れて、他社がみなやってる段階で追随する例も少なくありません。
日本人は不安が強く、自己肯定感もかなり海外より低いらしいので、自分たちで自社を分析すると辛口になるかもしれません。顧客満足度調査、レビューサイトの評価、NPSの他社比較など客観的指標を集め、まず自社の相対的な強みを自分たちで認識する必要があるでしょう。
また、よく転職するとマーケターであれ、営業であれ、転職して初めて古巣の長所が見えるケースがあります。組織体制、仕事の進め方、判断の仕方、スピード感など独自のビジネスプロセス、持っているフィロソフィーなどの強みは、中にいると本当によく見えないものです。そして、こここそが模倣困難な領域でもあります。
外部環境の変化に乗じて成功するためにも、SWOT分析、GAP分析、VRIOなどで自社の内部環境を分析して強み、現在のポジションを把握して意志決定しましょう。また、強みを意識して常に磨き上げていくことが重要です。