2021年、企業がWeb広告にかけた費用は、前年に比べ121.4%と急速に増加しています。
Web広告の運用を始めるにあたって、ディスプレイ広告とリスティング広告のどちらから始めるべきか、迷っている方も多いのではないでしょうか。ディスプレイ広告は、画像や動画など視認性の高い広告でユーザーにアプローチでき、訴求力が強いのが魅力です。
ディスプレイ広告は、購入までの検討期間が長くなることが多いBtoBやSaaSの製品サービスの訴求に適しています。繰り返しユーザーに広告を目にしてもらったり、過去に自社サイトを訪れたユーザーに絞って広告を表示したりしやすいからです。
そこで本記事では、BtoB企業やSaaS企業のマーケティング担当者向けに、ディスプレイ広告の基礎について事例を交えながら解説します。
ディスプレイ広告を利用することで、見込み客に自社を知ってもらい、購入へとつなげるきっかけを作れます。本記事を通して、売上げアップを実現するために何をすべきか、基本的な考え方を理解できるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
ディスプレイ広告とは、ポータルサイトやWebメディアの広告枠に表示される広告のことです。掲載するメディアのコンテンツと関連性の高い広告を配信できるので、「コンテンツ連動型広告」とも呼ばれます。
Yahoo!やgooなどのポータルサイトにアクセスすると、トップページにディスプレイ広告が大きく表示されていることが確認できるでしょう。
上図は、Yahoo! JAPAN天気・災害に表示されたディスプレイ広告の例です(赤枠で囲った部分)。「LINE広告」や「楽楽労務」(労務管理システム)の広告が掲載されていることからもわかるように、多くのBtoB企業やSaaS企業がディスプレイ広告を活用しています。
ディスプレイ広告では、以下のフォーマットを利用可能です。
Webサイトの目立つ箇所に大きく広告が表示されるので、ブランドの認知拡大や集客効果を期待できます。
ディスプレイ広告の発展の背景には、Web広告の配信先が「広告枠」から「人」に変化したことがあります。
インターネット黎明期のWeb広告は、Webメディアの広告枠を購入する「純広告」という形式が主流でした。アフィリエイト広告やメール広告なども存在しましたが、いずれも枠に広告を表示させるだけである点は共通していました。掲載メディアの内容やユーザーの興味関心は、広告とは必ずしも結びついていなかったのです。
そこでより効果的な広告を配信するために、「ユーザーに合わせて見せる広告を変える」手法が生まれてきました。
2002年、Googleは検索連動型広告(リスティング広告)のサービスを開始。ユーザーの検索キーワードに応じて広告が表示されるようになりました。
コンテンツ連動型広告のサービスが開始されたのは、2003年です。掲載メディアの内容に関連した広告を、ディスプレイ広告として配信できるようになりました。
より効果的な広告配信を目指して、現在もWeb広告は進化を続けています。
(Googleのリスティング広告)
リスティング広告は、GoogleやYahoo!などの検索画面に表示されるテキスト広告です。ユーザーが検索したキーワードに応じて広告が表示されます。
画像や動画を使えるディスプレイ広告とは形式が異なるだけでなく、対象ユーザーにも違いがあるので、詳しく解説します。
ディスプレイ広告は、潜在層へのアプローチに適した広告です。潜在層とは、自分がほしいものを明確に自覚していないユーザーのことです。
年齢・性別や興味のある分野などに関して、ターゲットとなる属性の潜在層に広告を配信することで、自社の認知を広げられます。
対してリスティング広告は、ほしいものを自覚している顕在層に向けて出稿するのに適した広告です。検索キーワードに応じて広告が表示されるため、もともと関心や購買意欲のあるユーザーに対して、効果的に訴求を行えます。
実際、ディスプレイ広告のクリック率は0.5〜1%程度なのに対して、リスティング広告では2〜6%程度だという、WorldStreamによる調査結果が公開されています。欲求がはっきりしている顕在層のほうが、潜在層よりも広告への反応率は高いといえるでしょう。
ディスプレイ広告は、リスティング広告よりも配信サイトを限定しやすい点が特徴です。
ディスプレイ広告では、自社の見込み客となりうるユーザーがよく利用しているサイトを絞り込み、広告を配信できます。
(ダイヤモンド・オンラインのディスプレイ広告)
たとえば、ビジネス関係の情報サイトであるダイヤモンド・オンラインは、企業の経営層など自社の管理システムの決定権を持っているユーザーも、数多く閲覧していると推測されます。このサイトに対して、上図のようにSaaSの名刺管理サービスである「Sansan」が、広告を配信しています。
こうしたディスプレイ広告によって、決定権を持つユーザーに関心を持ってもらえることが期待できます。ディスプレイ広告なら、配信サイトを限定したうえで広告を出稿できるのです。
(Sansanのリスティング広告)
一方リスティング広告は、GoogleやYahoo!の検索結果に表示されます。ディスプレイ広告とは異なり、特定のサイトへの配信はできません。
ディスプレイ広告では、リスティング広告よりも効果的なリターゲティングが可能です。リターゲティングとは、自社サイトに訪問履歴のあるユーザーに広告を配信し、再訪問を促す手法です。
ディスプレイ広告でリターゲティングを活用することで、「購入を検討していたことを忘れていたが、広告を見て思い出した」という効果を期待できます。すでに自社のことを知って関心を持っているユーザーに絞って広告を表示させることで、効率よくコンバージョンを促せるのです。
他社と料金や機能を比較される機会が多いSaaSの場合は、ユーザーが検討するうちに自社のことを忘れてしまうことが、起こりやすいといえます。その対策として、リターゲティングの活用がおすすめです。
リスティング広告でもリターゲティングは可能ですが、ユーザーが特定のキーワードで検索しない限り、広告は表示されません。リターゲティングを行うのであれば、ディスプレイ広告のほうが適しています。
ディスプレイ広告の特徴と、具体的な活用事例を紹介します。
(日本通運のディスプレイ広告)
ディスプレイ広告は、視覚に訴えられることが大きな特徴です。文字だけの広告に比べて目立ちやすいため、ユーザーに注意を向けてもらいやすいでしょう。
たとえば、企業間物流を手掛ける日本通運は、Yahoo!JAPANのトップページにディスプレイ広告を配信しています。画面両側と上部の広告枠に、大きく広告が表示されており、アクセスしたユーザーに強い印象を残すことが可能です。
(Sansanのディスプレイ動画広告)
ディスプレイ広告のクリエイティブを工夫することで、企業ブランディングに役立ちます。
Yahoo!JAPANに表示された上図のSansanの動画広告は、ディスプレイ広告をブランディングに役立てた好例です。この動画では、「インボイス制度の対応に迫られて焦る担当者」のストーリーを配信しています。
この広告によって、「Sansanは企業内における課題解決のプロである」という企業ブランドをアピールしています。ブランディングをしておくことで、その場ですぐにサービスの契約に至らなかったとしても、後で必要になった際に思い出してもらえる確率が高まるのです。
また、人には何度も接触したものに好感を持ちやすいという心理があるため、繰り返し広告に接してもらうこと自体にも意味があります。
ディスプレイ広告には、詳細なターゲティングができるというメリットがあります。見込み客の属性に応じて活用することで、広告の費用対効果(ROIやROAS)を高めやすくなるでしょう。
ターゲティングには大きく分けて「オーディエンス(人)」と「プレースメント(配信面)」の2種類があります。それぞれの主な設定は以下の通りです。
<オーディエンスターゲティング>
<プレースメントターゲティング>
(CrowdLogのディスプレイ広告)
上図は、ITやテクノロジー関連のニュースサイト「ITmediaNEWS」に、SaaSの工数管理サービスである「CrowdLog」の広告が表示されている例です。サービスに関心を持つユーザーが多いと見込まれるサイトに、広告が配信されているといえます。
このように配信面のターゲティングを行うことで、成約につながる可能性の高い見込み客に、効率よくアプローチできるのです。
ディスプレイ広告の2大配信メディアは、GoogleとYahoo!です。Googleのディスプレイ広告はGDN、Yahoo!のディスプレイ広告はYDAという略称で呼ばれています。
GDN(Googleディスプレイネットワーク)では、以下のサイトで広告の配信が可能です。
<GDNの主な広告配信サイト>
GDNは、配信サイトの数が非常に多いところが特徴です。食べログなどの大手メディアだけでなく、Googleアドセンスを利用しているブログなども含めると、200万以上ものサイトに広告を配信できます。
BtoBやSaaSのサービスをローンチしたばかりの場合、まずは認知を拡大させることが大切です。GDNを利用して広範囲に広告を配信することが、有効になるケースは多いでしょう。
YDA(Yahoo!ディスプレイ広告)では、以下のサイトに広告を配信できます。
<YDAの主な広告配信サイト>
YDAでは、大手法人メディアを中心に広告が配信されます。配信サイトを企業メディアにのみに絞り込みたい場合には、YDAの利用がおすすめです。
ディスプレイ広告の種類は、以下の3つです。それぞれの特徴と活用事例を解説します。
(LINE広告のバナー広告)
バナー広告とは、サイトの広告枠に表示される画像広告のことです。広告枠に合わせて、さまざまな形やサイズのバナー広告を配信できます。
上図の例は、goo地図に表示された「LINE広告」のバナー広告です。この広告では、サービスそのものをアピールするのではなく、無料のオンラインセミナーに誘導しています。このように、バナー広告はイベントやセールの告知など、さまざまな使い方が可能です。
また「レスポンシブバナー広告」を利用すると、ユーザーの利用デバイスや広告枠のサイズに合わせて、バナー画像のサイズやレイアウトが自動で調節されます。サイズごとに異なるバナーを作成せずに済むので、おすすめの広告形式です。
(ラクスのテキスト広告)
テキスト広告は、文字のみで構成されている広告です。広告は以下の要素で構成されています。
テキスト広告はバナー広告ほど目立ちませんが、「広告っぽさがない」「ユーザーが広告と気づかずにクリックする」といったメリットがあります。たとえば、上図の株式会社ラクスの「楽楽勤怠」のテキスト広告は、他のテキストコンテンツと並んでおり、よく見なければ広告だと気づかないでしょう。
バナー広告が頻繁に表示されると、不快に感じるユーザーもいます。バナー広告とテキスト広告をバランス良く併用するのがおすすめです。
また、テキスト広告はバナー広告よりもクリエイティブの準備が容易です。費用をかけて画像や動画を用意する前に、テキスト広告を運用してみるのもよいでしょう。
(Yahoo!JAPANの動画広告)
動画広告は、製品サービスの特徴や魅力などを動画で表現した広告です。映像に加えてナレーションや音楽などの聴覚情報も利用して、ユーザーに訴求できます。
Yahoo!JAPANのトップページでは、上図で赤枠で囲った部分に、動画広告が表示されています。ページにアクセスすると自動的に動画が再生されるため、思わず目をとめるユーザーは多いでしょう。
動画広告はバナー広告やテキスト広告よりも、多くの情報を伝えられるのが特徴です。BtoB企業やSaaS企業であれば、自社の強みを端的に整理してアピールすることで、ユーザーに興味を持ってもらうきっかけを作れます。
ディスプレイ広告の効果を高めるために、押さえておきたい運用のポイントを解説します。広告を配信した後の振り返りを行うことで、より大きな成果を得られるようになるでしょう。
ディスプレイ広告の効果を高めるには、広告配信の目的を明確にすることが大切です。
広告の目的が「認知拡大」なのか「コンバージョン」なのかによって、運営方針を変える必要があります。特に以下の項目は成果に大きな影響を与えるため、方針に合わせて設定しましょう。
また、目的に合わせてKPIを決めることも重要です。たとえば、SaaS企業が認知拡大を目的にディスプレイ広告を運用するのであれば、以下のような数字がKPIに適しています。
認知拡大が目的なのであれば、広告経由の新規契約数ばかりを気にすると、運用方針と合わなくなってしまいます。
自社サービスの認知が広まることで、長期的な契約数の増加につながる場合があります。ディスプレイ広告による効果は、短期的には判断しにくいことを意識しておきましょう。
ディスプレイ広告の運用では、クリエイティブごとの成果を把握することも重要です。どのクリエイティブがどれだけ広告のクリックやコンバージョンにつながったのかを整理し、社内で共有しましょう。
成果につながっているクリエイティブをさらに改善しつつ、反応が悪いクリエイティブの出稿は取りやめることで、広告全体の質を高めていけます。
たとえ成果が得られているクリエイティブであっても、同じものを長期間使用していると、効果が薄くなる傾向があります。定期的に成果を確認し、反応が悪くなってきたら、早めにクリエイティブを入れ替えるのがおすすめです。
ディスプレイ広告では、掲載サイトを絞り込んで広告を配信できます。ターゲットユーザーに効率よく訴求するため、自社の製品サービスと関連性が高いメディアに広告を配信するようにしましょう。
配信スケジュールを適切に設定することも重要です。
たとえば、経営層が多い50〜60代のユーザーが平日にインターネットを利用する時間帯は、12時前後と22時前後だというデータがあります。これらの時間帯にディスプレイ広告を出稿することで、経営層に直接アプローチできる確率が上がると考えられます。
基幹システム(EPR)などの高額のSaaSの契約では、経営層の決済が必要となる場合が多いでしょう。ディスプレイ広告で経営層に自社サービスを認知してもらうことは、契約獲得のために大きな効果を発揮する可能性があるといえます。
ターゲットユーザーに合わせた配信面と配信スケジュールを選択することで、広告の効果を高めることを目指しましょう。
ディスプレイ広告は、画像や動画を使った広告を配信できるため、ユーザーへの訴求力が強いのが特徴です。
ブランディングや認知拡大を目的として、潜在層にアプローチする際に利用すると、効果を発揮しやすくなります。リターゲティングを利用することで、自社に関心のあるユーザーに広告を表示し、コンバージョンを促すことも可能です。
ディスプレイ広告にはさまざまな種類があり、配信サイトも多岐にわたります。まずは広告運用の目的を明確にしたうえで、自社に合ったディスプレイ広告の活用法を検討するとよいでしょう。