BtoBビジネスにおいて、相手企業に製品やサービスを購入してもらうためには、さまざまなハードルを乗り越えなければならないケースが多々あります。
せっかく商談につなげたのに、相手の社内事情により商談がひっくり返ってしまう、ビジネスリレーションシップに押し負けてしまい検討のテーブルから取り除かれてしまう...…そのように、何カ月もかけて営業活動を行ったのに、相手の予期せぬ事情で白紙に戻ってしまっては、それまでの苦労が水の泡です。
買い手も売り手も商談に対して無限に時間を費やせるわけもなく、SaaSなどの企業であれば後発企業が生まれやすい環境にあるため、営業活動は時間との戦いとも言えるでしょう。
高い確度の案件に費やす時間を最大限にし、低い確度の案件に費やす時間を最小限に抑えるためには、あらかじめ見込み客(リード)の評価と選別を行いアプローチを絞ることが、商談を勝ち取るポイントのひとつになります。
この記事ではリードの評価・選別に効果的となる「BANT」と呼ばれるフレームワークについて重要なポイントを説明した上で、インサイドセールスがBANTを重要視すべき理由について紹介します。
BANTとは、営業を効率的に行う上でそれぞれの案件がどれくらい有望であるかを、4つの要素から分析するフレームワークです。BANTで扱われる要素は以下の4つです。
(画像提供:Sales Odyssey)
元々は営業のヒアリングテクニックのひとつです。ヒアリング時に各項目ごとの情報を聞き出し評価することで、案件の受注確度や優先度を判定し、営業活動を効率的に進めるための手法でした。
しかしデジタルセールス及び分業型営業が発展した昨今では、リードの優先順位付けは個々の営業員がテクニックとして覚えておくべきものというよりも、営業チーム全体の目標を効率よく達成するために必須です。見込みの高い案件(ホットリード)を選別・注力するための指標やフレームワークとして注目されています。
後述しますが、BANTはリードを優先度別に素早く選別するのに役立ちます。デジタルセールスにおけるインサイドセールスでは、多くのリードを正確に選別し、優先度の高い案件を次工程に引き継ぐことが重要な役割のひとつです。リード選別システムとしてのBANTの利用検討の重要性は、今後一層高まることが予想されます。
BANTは1950年代、米コンピュータ大手企業のIBMによって営業員の個々のパフォーマンスを安定化させるために考案されました。
当時は後述するセールス方法論としての側面が強かったようですが、BANTはその後現在に至るまで、同社のビジネスガイドラインである「Business Agility Solution Identification Guide」に含まれています。また、IBM以外の世界中の企業がこのフレームワークをこぞって模倣したことも、BANTの効果の大きさを物語っています。
後述するデジタルセールスの分業型営業体制が浸透してからは、「見込み客の選別」が、個々の営業員の売上げ向上のための「テクニック」から、営業プロセスで必要不可欠な「工程」へと認識変化してきています。BANTリード選別を正確に素早く行えるという「指標」としての側面が一層重要視されることが予想されるでしょう。
ここでは、BANTの構成要素を説明した上で、それらがなぜ重要であるのか、またインサイドセールスがリードへのアプローチを通して、どのようにしてそれらの情報を得ればよいのかを各要素別に説明します。
買い手が製品・サービスの購入を検討する上で、自社に十分な予算があるか否かが重要な要素になることは言うまでもないでしょう。
どんなに製品・サービスが魅力的でも、その価格が予算内に収まらないのであれば、企業として購入を決断することは難しいものです。
リードの確度を早期に選別するためにも、その企業が提案する製品やサービスにどれだけの予算を投じられるのか、現行で別の製品やサービスを使っている場合はどれだけのコストがかかっているのか、また希望価格のレンジはどれくらいなのかを聞き出すのは、できるだけ早期に行った方がよいでしょう。
BtoBビジネスにおいて、コンタクトを取っている人物が直接、製品・サービスの購入を決定する人物であるとは限りません。
コンタクト先の人物の上司に決裁権がある場合もあれば、全く別の部署が最終決断を行う可能性だって考えられます。時には関連会社など、別の企業が購入意思を決定するケースも考えられるでしょう。
リードの確度を高くするためには、コンタクトを取っている相手に決裁権があるか否かを確認するのは重要な要素と言えます。もしも、コンタクト相手に決定権が全くないのなら、決定権のある人物に取り繋いでもらうか、そのリードへのコンタクトの優先順位を下げることも検討すべきです。
また企業によっては、製品の購入までに複雑な決裁プロセスを通さなければいけないケースも考えられます。決裁権を持つ人物だけでなく、その企業がどのような購買の決裁プロセスを持っているかも把握しておきたいところです。
製品・サービスを購入するだけの十分な予算があり、決裁権を持つ担当者の情報を得られたとしても、その企業がその製品・サービスを必要としていなかったら、実際に購入に至る可能性は限りなく低いと考えるのが自然でしょう。
BANTにおける次の確認事項は、リードの需要、言い換えれば企業が抱える課題を明確化することです。相手の課題が分かれば、自社の製品・サービスがそれを解決するのに適切であるか否かを判断しやすいので、リードの優先度を判定する重要な材料となるでしょう。
また、課題がはっきりしていても、相手企業にそれを解決しようとする意思がなければ、やはり購入確度は低くなることが予想されます。
コミュニケーションの中から企業が抱える課題を正確に読み取って、自社の製品・サービスでそれらを解決できるような提案につなげることは、インサイドセールスの腕の見せ所かもしれません。
BANTの最後の構成要素はタイミング、つまり実際に製品・サービスの導入が可能な時期、もしくは導入するまでにかかる期間です。
いくら十分な予算、スムーズな意思決定、明確な需要の3つが揃っていても、製品・サービスの購入予定が何年も先なのでは、リードの優先度は低いと考えるのが自然です。
緊急度が高い案件から優先的に引き継ぐことで、フィールドセールスも効率よくクロージングが行えるでしょうし、納期遅れによる案件の取りこぼしも防げます。
またリードが希望する導入時期に加え、導入における社内プロセスにかかる時間なども把握しておくと、優先度の選別がより正確になるでしょう。
導入時期は企業の年次予算や決裁プロセスと関係していることも多いため、それらの情報を引き出している最中に同時に見えてくることもあるかもしれません。
デジタルセールスの分業型営業体制におけるインサイドセールスの重要な役割のひとつは、大量のリードを正確に選別し、ホットリードのみを次工程であるフィールドセールスへできるだけ多く引き渡すことです。
このリード選別が不正確だと、フィールドセールスは確度の低いリードに対して限られた時間を費やしてしまうことになり、結果、受注(クロージング)の確率が低下してしまいかねません。
BANTではリードの予算・決裁権・需要・導入時期など受注に直結する情報に則ってリードの評価を行いますので、担当者がコンタクトの印象などをもとに闇雲に行う判定に比べて高い正確性が期待できるでしょう。
前述のIBM社内ガイドラインには、「3-4項目のBANT情報を満たすリードを『認定済』とする(リード認定基準は各部署間で都度相談のこと)」という記述があります。
BtoB SaaS企業においてもBANTによるリード評価を行う際は、IBM社のように企業内でどの程度のBANT情報を集めたリードを「ホットリード」と認定するかを事前に決めておくことが大事です。各担当者の個々の判断や判定スキルによるばらつきを抑え、リード判定に正確性を担保できるでしょう。
また、BANTによるリード評価は「素早い」というメリットがあります。あらかじめ4つの要素別に判定条件を決めておけば、評価結果はすぐに確認できるでしょうから、BANTの採用によってリード選別にかける時間を大幅カットできるかもしれません。
日本における分業型営業体制の教本とも言える『THE MODEL』の著者である福田康隆氏は、同書の中でインサイドセールスの特徴について次のように述べています。
「そもそもインサイドセールスの仕事は時間が限定される。リードにコンタクトするのに、早朝や深夜に連絡するわけにはいかないからだ。」「どれだけ業務効率を上げられるかが成果に直結するのがインサイドセールスなのだ。」 『THE MODEL / 福田康隆』
リード評価及び選別は大事ですが、それに時間をかけるあまりコンタクト数が減ってしまっては、次工程に引き渡せるリードの総数が少なくなってしまいかねません。インサイドセールスの時間効率を最大化するために、正確かつ素早いリード選別が可能なBANTの採用を検討してみる価値は高いと考えます。
セールス方法論(Sales Methodology)とは、「営業活動においての哲学や戦術、テクニックをフレームワークやガイドラインとしてまとめたもの」を指します。
例えばアメリカで有名なセールス方法論として、SNAPセリングやSPIN話法などがあります。
SNAPセリングは、「Simple(シンプルな説明)」「Invaluable(ユニークな存在)」「Aligned(相手と揃った足並み)」「Priorities(相手の優先事項)」の4つを念頭において営業活動を行い、見込み客と目線を揃え受注率を高めるという営業テクニックです。
SPIN話法は、「Situation(状況)」「Problem(問題)」「Implication(示唆)」「Need-payoff(解決)」という4つの種類の質問を使用することで、見込み客と強固な信頼関係を築くというヒアリングテクニックです。
確かに発展してきた経緯を見ると、BANTも元々はこれらと同じく営業テクニックとして広まったものだと言えるでしょう。
しかし後述するTHE MODEL型の営業分業体制が広がったことにより、BANTが得意とする「リードの評価・選別」は、営業個人が「意識した方がよいテクニック」から、「専門職が必須で行うべき工程」へと認識が変わってきている傾向にあります。
(画像出典:Ironpaper)
著書『The MODEL』の中で福田氏は、リードの評価について次のように述べています。
「工場の製造工程で言えば「検品」と似た意味合いを持つ。」「一定の基準を満たしたものだけを次工程に引き渡し、全体としての作業効率を高めるという手法だ。」『THE MODEL / 福田康隆』
リードの評価・選別という現代の営業モデルでは、必須となる工程での情報を扱うBANTフレームワークは、もはや営業テクニックというよりも、その後の営業プロセスを左右する「指標」と言えるものに変化してきている、という見方が必要かもしれません。
BANT情報を聞き出すタイミングを正しく理解するには、まず昨今一般的になりつつあるデジタルセールスの体系、特に『THE MODEL』に紹介される営業分業型の体制を理解しておくとわかりやすいです。
ここではまず、THE MODEL型と呼ばれる分業型の営業体制を説明したのち、BANT情報がどのフェーズで確認できるかを紹介します。
THE MODEL型と呼ばれる営業分業体制では、営業のプロセスは大きく4つに分けられます。
ブランドや製品・サービスを認知させリードを獲得する「マーケティング」、獲得したリードへコンタクトを行い育成と選別を行う「インサイドセールス」、選別されたホットリードへ提案を行いクロージングを目指す「フィールドセールス」、そして受注後のアフターケアやアップセル・クロスセルの提案を行う「カスタマーサクセス」です。
従来では営業各個人が各案件に対して、全てもしくはその大半のプロセスを一人で担うのが一般的でした。しかしTHE MODEL型では、各プロセスに専門のプロフェッショナルを配置し、営業チーム全体が一丸となってリードを共有しながら商談を進めていくのが特徴です。
リードはその育成段階によってさらに細かく、MQL、SAL、SQL、に分けられます。
(画像出典:marqeu)
実際のところ、どの段階のリードでどの程度のBANT情報が必要となるかは企業によってまちまちのようです。場合によってはMQLの判定段階で多くのBANT情報が集まっているケースもあれば、ビジネスや業界の種類によってはSQL後もBANT情報を集めるのが大変なケースもあるでしょう。
>とはいえ分業型営業体制で、リードに対して最初に直接のコンタクトを取るのはインサイドセールスですから、各プロセスの中でBANT情報の取得を一番期待されるポジションとなるのは想像に難くありません。できるだけ多くのSQL(=ホットリード)をフィールドセールスに引き継ぐためにも、インサイドセールスにおけるBANTの重要性は必然的に高くなると考えられます。
ただし気をつけていただきたいのが、THE MODEL型では通用しないビジネスモデルや顧客像も存在することを理解することがまず先、ということです。自社のビジネスモデルがTHE MODEL型にはめ込むことができるか、そのことを理解した上でBANT情報をTHE MODELに当てはめるかどうかを判断するようにしてください。
ここからは、BANT情報を取得するうえで理解しておくべき流れについて、具体的に解説します。
見込み客の予算を把握する際には、単に「この解決策に対して、どのくらいの予算範囲を想定されていますか?」と直接的に金額を尋ねるというよりは、いくつかの角度からヒアリングを試みることが有効だといえます。その理由は、打ち合わせの段階ではまだ、予算を明確に決めていない見込み客がいる場合もあるためです。
そこでまずは、プロジェクトの規模や、見込み客が求める目標(定量的に追跡可能な目標)を確認することが重要だといえるでしょう。「このプロジェクトで、具体的にどのような目標を達成したいとお考えですか?」などと尋ねることで、プロジェクト規模や複雑さを理解し、予算の大枠の推測につなげられます。
また、「この課題に対して、現在どのくらいのコストがかかっていますか?」と尋ねてみるのもよいでしょう。見込み客の現在の支出状況を理解できます。そして、「この問題を解決することで、どのくらいの利益が見込めますか?」と質問し、解決策の価値の強調(投資対効果を意識してもらうこと)につなげます。
「価格」という要素が、意思決定に与える影響について確認することも重要です。「価格は意思決定にどの程度影響しますか?」と尋ねることで、具体的な金額感を引き出すことができるでしょう。
決裁者・利害関係者を特定することも、重要なポイントです。BtoBビジネスでは、一人の意思で製品・サービスの導入が決定されるのではなく、複数の社内関係者(例:やりとり中の担当者の上司や他部署の担当者、経営層など)が関わります。よって、単に最終決定権者を見つけるだけでなく、購買に関わる全ての重要な人物を把握することが目的です。
まず、「通常、このような購入の意思決定プロセスはどのように進められますか?」と質問することで、組織内の意思決定の流れを理解します。これにより、複数の部門や役職者の関与が必要かどうかを把握できます。
また、「この決定に関与する他の方はいらっしゃいますか?」と直接的に尋ねることで、まだ把握していない利害関係者(例:実際に製品に触れて毎日操作するエンドユーザーや協力会社など)を特定する機会を作ります。
単に製品・サービスの必要性を確認するだけでなく、見込み客のビジネス全体のなかで、課題がどのように位置づけられているかを理解することが重要です。つまり、いま議論しているソリューションが見込み客にとってどれぐらいの重要度で、早急に解決したいのか、それとも、長期的な目標なのかどうかを確認しましょう。
たとえば、「いま、直面している最大の課題は何ですか?」と尋ね、顧客の優先事項を把握します。次に、「その課題は、ビジネスを進めていくうえで、どのような影響を与えていますか?」と質問し、問題の規模や緊急性を理解します。
さらに、「この問題を解決することで、どのような具体的な成果を期待していますか?」と尋ねることで、顧客の目標や期待値を明確にします。これにより、提案する製品・サービスがどの程度顧客のニーズに合致するかを評価できます。
また、「現在、この問題にどのように対処していますか?」と質問することで、既存の解決策や競合製品の使用状況を把握できます。これは、自社製品・サービスの差別化ポイントを見出す上で重要な情報となるでしょう。
そのうえで、「この問題が解決されない場合、長期的にどのような影響がありますか?」と尋ねることで、問題の重要性と緊急性を再確認します。
このように複数の角度からヒアリングを試みることで、見込み客にとっての製品・サービスの価値をより明確に示すことができるでしょう。
取引に関する時間軸や期限の把握も、販売プロセスにおける重要な要素です。見込み客の購買意欲の緊急性や、実際の導入までの時間軸を理解することが目的です。
まず、「この問題をいつまでに解決したいとお考えですか?」と直接的に尋ね、見込み客が期待している時間枠を把握します。これにより、販売サイクルの長さを予測し、適切なフォローアップの頻度を決定できます。
次に、「なぜその時期までに解決する必要があるのでしょうか?」と質問することで、背景にある理由や外部要因を理解します。これは、見込み客にとっての優先度合いを把握する上で重要です。
さらに、「現在の状況が続いた場合、3カ月後、6カ月後、1年後にどのような影響がありますか?」などと尋ねてみることで、問題の緊急性と重要性を評価します。これにより、見込み客に行動(=購買)の必要性を認識させることもできます。
最後に、「過去に似たようなプロジェクトを実施した際、どのくらいの期間がかかりましたか?」と尋ねることで、見込み客の体験(社内におけるプロジェクト進行の実態)に基づいた現実的なタイムラインも把握できるでしょう。
BANT情報を取得したあとの、見込み客に対するフォローアップは、製品・サービスの導入度合いに応じて戦略的に行うことが重要です。
前項で説明した顧客の期待する時間軸を把握したら、その情報を基に短期的な導入を希望している顧客には頻繁に連絡を取り、提案内容や導入プロセスについてさらに詳しい情報を提供します。
また、中期的な検討の場合は、月1回程度の定期的なフォローアップで業界動向や新機能の情報などを共有し、見込み客との間に築いた関係性を維持します。
そして、長期的な導入を考えている見込み客に対しては、たとえば四半期ごとに連絡するなど、見込み客にとっての長期的な目標に合わせた情報提供(例:ウェビナー参加案内などをして、業界の最新動向や、最新ソリューションに対してじっくりと理解を深めてもらうなど)を行います。
BANTで得た情報を活用して、適切なフォローを行うことで、潜在的な案件を成約へと導く可能性が高まるでしょう。
社内で、BANT情報を聞き出すためのトークスクリプトや定番の質問集を用意しておくとよいでしょう。
営業担当者が「BANTは、営業活動の上で重要な情報だ」と日ごろから認識し、「営業プロセスにおいて、必ず聞き出してくるべき事項」と理解するうえで役立ちます。またその結果として、見込み客に関する詳細な情報をどれだけ収集・蓄積できるか、成果が左右されるでしょう。
ここからは、BANT情報を聞き出すために有効な質問例を紹介します。適宜組み合わせて、BANTを聞き出すトークスクリプト作成の参考にしてみてください。
まず、予算(Budget)を聞き出すうえでの質問例です。
【予算を把握するために有効な質問例】 「この課題に対して、現在どのくらいのコストをかけていますか?」 「同様のソリューションに、どのくらいの予算を割り当てていますか?」 「この問題を解決することで、どのくらいの利益が見込めますか?」 「予算の決定プロセスはどのようになっていますか?」 |
これらの質問は、単に金額を尋ねるだけでなく、見込み客の現在の支出状況、投資対効果の認識、予算決定プロセスを理解するうえで役立ちます。
直接的な金額の質問を避けつつ、予算に関する包括的な情報を得ることができ、顧客との信頼関係を構築しながら、会話の中で必要な情報を引き出すことができるでしょう。
次に、決裁権(Authority)を把握する際の質問例です。
【決裁権を把握するために有効な質問例】 「このプロジェクトの最終決定者はどなたですか?」 「購入の承認プロセスはどのようになっていますか?」 「他に意思決定に関わる方はいらっしゃいますか?」 「過去の類似プロジェクトでは、どなたが主導的な役割を果たしましたか?」 |
これらの質問は、単に決裁者を特定するだけでなく、組織内の意思決定プロセスや影響力のある関係者を理解するうえで役立ちます。
最終決定者、そして、他に意思決定に関与する人を知ることで、適切な人物にアプローチできるようになり、より有効な販売戦略(誰に、どんな情報提供して関心度合いを高めてもらうか、など)を立てることができるでしょう。
また、承認までのプロセスや、過去のパターンを把握することで、購買までの期間の長さや、必要な手続きを予測できます。
そして、需要(Needs)を把握するための質問例です。
【需要を把握するために有効な質問例】 「現在、どのような課題に直面されていますか?」 「その課題が解決されないと、どのような影響がありますか?」 「理想的な解決策はどのようなものだとお考えですか?」 「現在の方法で対応できていない部分はどこですか?」 |
これらの質問は、見込み客が抱える問題や課題を深く理解し、提案するソリューションの価値を明確にするために役立ちます。
まず、現在の課題を聞くことで、見込み客が直面している具体的な問題点を把握できるでしょう。
次に、その課題の影響を尋ねることで、問題の重要性や緊急性を理解でき、ソリューションの必要性を見込み客自身に認識させることにもつながります。
そして、理想的な解決策を聞くことで、見込み客のニーズや期待を明確にし、こちらから提案する内容をそれに合わせて調整できます。また、現在の方法の不足点を尋ねることで、自社のソリューションの強みを効果的にアピールする機会も見出せるでしょう。
導入時期(Timeframe)を把握するための質問例です。
【導入時期を把握するために有効な質問例】 「この問題をいつまでに解決したいとお考えですか?」 「導入までにクリアしなければならない事項はありますか?」 「なぜその時期までに導入する必要があるのでしょうか?」 「もし導入が遅れた場合、どのような影響がありますか?」 |
これらの質問は、見込み客の製品・サービス導入に関する緊急性や、具体的な時間枠を理解するために役立ちます。
まず、具体的な期限を尋ねることで、購買検討にかかる期間の長さを予測し、適切なフォローアップの頻度を決定できます。
次に、導入プロセスの詳細を聞くことで、潜在的な障害や、遅延に影響しそうな要因を特定し、それらに対処する準備ができるでしょう。また、導入時期の理由を尋ねることで、見込み客にとっての優先順位を理解できます。
さらに、導入遅延による影響も聞いておくことで、現在の議論(ソリューションを導入すべきか否か)の緊急性や重要性を意識してもらい、顧客に行動の必要性を認識させることにつながります。
ここからは、顧客見極めのフレームワークは、BANT以外にもいくつか挙げられることについて紹介します。
BANTの要素を再構成した新たなフレームワークや、より複雑な要素も含めて考慮できるものなどが挙げられます。
BANTを顧客見極めのフレームワークの基本として理解したうえで、自社のビジネスに最適な他のフレームワークも活用してみるとよいでしょう。
MEDDICは、複雑な企業間取引に適した顧客見極めフレームワークです。
Metrics(指標)、Economic Buyer(経済的購買者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(痛みの特定)、Champion(支持者)の頭文字を取っています。
(出典:16 Proven Sales Methodologies for Successful Teams - Highspot)
このフレームワークは、長期的で複雑な販売サイクルを持つ製品・サービス(例:高額製品など)に特に有効で、顧客組織の詳細な理解と、キーパーソンとの関係構築を重視します。
営業チームが顧客のニーズと購買プロセスを深く理解し、よりよい営業戦略を立てるうえで役立つでしょう。
CHAMPは、顧客中心のアプローチを重視する顧客見極めフレームワークです。
Challenges(課題)、Authority(権限)、Money(予算)、Prioritization(優先順位)の頭文字を取っています。
(出典:Revving Up Your Sales Growth: The Sales ChAMP Framework for Small Businesses)
このフレームワークは、見込み客が直面している具体的な課題を理解することから始まり、その後で意思決定者、予算、そしてプロジェクトの優先度を確認します。
CHAMPの特徴は、顧客の課題を最初に理解することで、より顧客中心のアプローチを可能にする点です。営業チームは、顧客のニーズに合わせた提案をしやすくなり、単なる製品販売ではなく、価値提供に焦点を当てることができます。
ANUMは、BANTの要素を再構成し、優先順位を変更したフレームワークです。
Authority(権限)、Need(ニーズ)、Urgency(緊急性)、Money(予算)の頭文字を取っています。
(出典:ANUM Sales Qualification: All You Need To Know!)
このフレームワークの特徴は、意思決定者の特定を最優先事項としている点です。これは、適切な人物と対話することが成約への近道であるという考えに基づいています。
次に、顧客のニーズと緊急性を理解することで、提案の価値と必要性を明確にします。
そして、予算は最後に考慮される要素です。これは、ソリューションの価値を見込み客が理解してくれたら、予算は後からついてくる(必要なソリューションだと理解されれば、予算は自ずと捻出される)という考えに基づいています。
FAINTは、より現代的な購買行動に適応したフレームワークです。
Funds(資金)、Authority(権限)、Interest(関心)、Need(ニーズ)、Timing(タイミング)の頭文字を取っています。
(出典:A Breakdown of the FAINT Sales Framework | Copper)
このフレームワークの特徴は、「予算」ではなく「資金」に焦点を当てている点です。これは、多くの企業が事前に固定された予算を持たず、価値のある提案があれば資金を調達する傾向があるという現実を反映しています。
また、「関心」を重要な要素として含めることで、顧客の積極的な関与を評価します。
FAINTは、「資金」と「決裁者」に焦点を当ててから、「ビジネスにとって価値のある提案があれば、予算を捻出する」といった考え方を持った見込み客を抽出するうえで役立ちます。
GPCTBA/C&Iは、HubSpotが考案した、非常に詳細な顧客見極めフレームワークです。
Goals(目標)、Plans(計画)、Challenges(課題)、Timeline(タイムライン)、Budget(予算)、Authority(権限)、Negative Consequences(負の結果)、Positive Implications(正の影響)の頭文字を取っています。
(出典:How to Choose a Lead Qualification Framework? 7 Examples To Pick From)
このフレームワークでは見込み客の課題、タイムライン、予算、意思決定者を特定した後、提案されたソリューションの採用または不採用がもたらす結果を評価する点が、大きな特徴だといえます。
「負の結果」と「正の影響」を打ち合わせの段階で見込み客自身に想定してもらいます。そのことで、こちらから提案するソリューションの価値を、より明確に示すことにつながるのです。
元々IBMで提唱され、営業のテクニックとして広まったBANT。長いときを経ても未だに多くの企業で使用されていることがその効果と確実性を証明しています。
またTHE MODEL型に代表されるデジタルセールスの体制下では、正確かつ素早いリード評価・及び選別を行える側面が再注目されています。
自社が抱えるリードを効率よく選別し、営業プロセスのスムーズな進行または全体売上げUPを図れるBANT、一度検討をしてみてはいかがでしょうか?