2019年に発売された『THE MODEL』において、著者である福田 康隆氏がセールスフォース・ドットコムの日本法人で実践した、分業型の営業組織戦略が世に紹介されてから、それを模した「THE MODEL型」と呼ばれる営業組織は、SaaS企業を中心に一気に認知度が高まりました。
しかしまだまだ新しい概念であるため、日本全体で見るとその内容や重要性を正しく理解できている企業数は少ないと言えるでしょう。特にTHE MODEL型のプロセスの中でも「インサイドセールス」は聞き馴染みがなく、「何それ? 結局テレアポと一緒でしょ? 」と考えている方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、インサイドセールスとテレアポを分ける明確な違いや、インサイドセールスの分類、また営業組織の中でインサイドセールスが効率的に機能するためのポイントについて解説していきます。
テレアポとは、「テレフォンアポインター」の略です。日本におけるテレアポは多くの場合、企業のコールセンターに所属し、リストに沿って見込み客に直接電話をかけ(アウトバウンド)、自社のプロダクトの購入を促す仕事を指します。逆に顧客からの電話を受ける(インバウンド)のコールセンター業務を「テレオペ」と区別し、その両方を総称して「テレマーケティング」と呼ぶこともあります。
アメリカでは「Telephone Appointer」という名称はあまり使われておらず、単に「Telemarketing」といった呼び方が一般的です。しかしコールセンター業務をインバウンド(受信)とアウトバウンド(発信)に分ける考えは日本と同じで、「Telemarketing」は基本的に日本と同じくマーケティングや新規開拓営業を目的としたアウトバウンド型のコールセンター業務を指す傾向にあります。
(画像出典:AMEYO)
インサイドセールスがテレアポとしばしば混同されてしまうのは、両者の見た目上の業務内容が非常に似ているのが大きな理由のひとつでしょう。例えば、どちらも電話やメールなどのオンラインツールを駆使し見込み客(リード)へのコンタクトを行いますし、その背景には自社のプロダクトの購入を促したいといった、営業的な側面があるという点も両者で共通するポイントです。
また、インサイドセールスの概念自体が日本では比較的新しいもので、昔から広くイメージが定着しているテレアポと比べると、その仕事内容を明確にイメージできる方が少ないというのも理由として考えられます。
テレアポは日本では1980年代ごろから普及していますが、インサイドセールスについてはほんの数年の歴史しかありません。そもそも知らない方がまだまだ多いというのが、テレアポと混同されやすい理由として大きいでしょう。
テレアポとインサイドセールスの違いとして大きなもののひとつが、それぞれの派生元です。前述した通りテレアポがコールセンターから派生しているのに対し、インサイドセールスは営業から派生した職業です。
特に日本においてのインサイドセールスは、THE MODEL型の分業型営業組織の中のひとつのプロセスとして捉えられています。マーケティングが創出したリードを引き継ぎ、リードの評価・選別・育成を行なったのち、受注見込みの高いホットリードのみをフィールドセールスに引き継ぐという役割です。
テレアポは、営業部隊が行う商談のアポイントを取るための別部隊です。その一方でインサイドセールスは、営業部隊のプロセスのうちリードへのファーストコンタクトを行う部分を細分化した分隊と考えると違いが理解しやすいかもしれません。
また、テレアポは前述の通りコールセンターからの派生であることから、徹底したマニュアルとスクリプトに沿ってコールを行うことが多く、配置される人材も営業としてのキャリアを積んでいないケースが多々あります。
対してインサイドセールスは、あくまでも営業組織の1プロセスとして認識されており、採用段階から営業経験のある人材が配置されるケースが多いことも、テレアポとの大きな違いのひとつです。
テレアポとインサイドセールスは、その目的とターゲットも異なっています。テレアポは例外はあるものの、基本的にはBtoC、つまり一般消費者層をターゲットとしたビジネスで用いられることが多く、その目的は自社プロダクト購入の紹介もしくはアポイントの獲得です。
対してインサイドセールスは主にBtoBビジネスで使用されることが多く、商談のアポイントを獲得しフィールドセールスに案件を引き継ぐことを最終目的とするものの、その過程におけるリードの評価・選別(リードクオリフィケーション)、育成(リードナーチャリング)がより重要視されます。
いかに一回のコールでアポイントが獲得できるかを重要視するテレアポに対して、いかにリードを見込みの高い状態まで選りすぐり、フィールドセールスに引き継ぐかが重要となるのが、インサイドセールスの違いと言えるでしょう。
テレアポにおける評価指数(KPI)には大抵、コール件数、アポイントの獲得件数、1時間ごとの成約率などが用いられます。基本的にはコールをこなした件数と、アポイントもしくは受注に繋がった件数がシンプルに成果として評価されるようです。
対してインサイドセールスのKPIは業務の複雑さも相まって、テレアポほどシンプルなKPIで成果を測ることが難しく、企業や業界によって設定するKPIは異なる傾向がみられます。米HubSpotが挙げるインサイドセールスのKPI例の中には、上記のテレアポのKPIはもちろん、リード情報の獲得量や質、リード評価の正確性、新たな機会創出の有無などさまざまな評価指標が挙げられています。
ひとつのリードに対するコンタクト期間の長さや質も、テレアポとインサイドセールスで大きく異なります。
テレアポは基本的に1リードに対して短期的な「Do-or-Die(一回のコールでアポイントが取れるか否か)」形式にアプローチを行い、アポイントが取れなかったら次のリードへと目まぐるしく移っていくのが一般的です。
その一方でインサイドセールスは、ひとつひとつのリードに対して長期的かつ定期的にコンタクトを取り、じっくりとリードの購買意欲を「育成」していくスタイルが一般的です。
長期的なコミュニケーションを通し、リードが抱える課題や決裁権のあるキーパーソンなどとの商談を有利に進めるための情報を引き出し、フィールドセールスに引き継ぐリードをより見込みの高いものにするといった、営業プロセス全体を見通した長期的な目線でのアプローチが必要となる点は、テレアポと大きく違うところでしょう。
テレアポと似ているようで大きく異なるインサイドセールス。実際に企業で採用されているのは、どのような形態なのでしょうか?
アメリカの企業向け営業コンサル会社であるRichardson Sales Performance社のJames Touchstone氏は、インサイドセールスはそのリードへのアプローチ方法から4つに分類され、多くの企業におけるインサイドセールスはこれら4つのうちどれかかをミックスしたものだと提唱しています。
ここではTouchstone氏の理論に則りインサイドセールスの4分類について解説します。
インサイドセールスの1つ目の分類である「テレプロスペクティング(Teleprospecting)」は、コールやメールなどによるリードへのファーストコンタクトから、見込みの高いリードの選別に重きを置いたスタイルです。
マーケティングなどの前工程部署から引き継いだ、数多くのリードリストに対して順にアプローチを行い、その中からフィールドセールスなどの次工程に引き継ぐことができるホットリードを「選出する」ことに特化しているのが、このテレプロスペクティングです。
比較的短期間でリード選別を行うため「Do-or-Die」のテレアポと混合しがちですが、テレプロスペクティブには営業プロセスにおいて、そのリードが自社もしくは自社のプロダクトにフィットするかどうかを早期に見極めるという役割がある点で、テレアポ(Telemarketing)とは明確に差別化されています。
(画像出典:HubSpot)
2つ目の分類「インバウンド対応」では「カスタマージャーニー」と呼ばれるリードの購買プロセスに沿った活動が重視されます。
カスタマージャーニーは、以下の3段階に分かれます。
1)認知段階(Awareness of a problem):リードが自身の抱える課題を認知しており、その問題や原因についてのリサーチを行っている段階
2)検討段階(Consideration of various solutions):リードが課題の原因を特定しており、それに対する解決策やアプローチ方法を、リサーチによりいくつかピックアップしている段階
3)決定段階(Decision on a specific solutuon):リードが数ある解決策の中から自社が採用する解決策を絞り込んでおり、その解決策を提供するサプライヤーやプロダクトを検討しながら最終的にプロダクトの購入を決定する段階
インバウンド対応では、このようなリードの自発的なリサーチによる自社への問い合わせに対する対応を通し、最終的に自社のプロダクトを解決策として選んでもらえるよう、リードを誘導していくことが主な役割となります。
問い合わせを行ってくるリードは、既にカスタマージャーニーにおける検討〜決定段階にあるケースがほとんどです。購入意欲が高いホットリードであることが多く、このようなリードに対しては、自社のプロダクトの魅力を押し付けるように伝えるのではなく、リードのニーズや課題を聞き出しそれに対する解決策(ソルーション)の提供に努めることが効果的とされます。
3つ目の分類「ショートソリューションセールス」は前述した2つ、インバウンドとアウトバウンド業務の両方を行います。
短期的なサイクルでリードの選別を行うテレプロスペクティブの側面と、リードからの自発的なコールに対して解決策を提供するインバウンド対応の側面を併せ持つため、ショートソリューションセールもその名の通り、ひとつのリードに対するコンタクト期間は比較的短期的となります。
(画像出典:HubSpot)
4つ目の分類であるインサイドソリューションセールスは、インサイドセールスの業務の中でもアウトバウンドに特化しており、より長期的な目線で受注に向けたリードへのコンタクトを行います。
インサイドソリューションセールスの責任範囲は、リード評価・選別に加え、リードが抱える課題やキーパーソンなどの受注見込みを高める情報の取得、定期的なコミュニケーションを通し購買意欲を徐々に高めるリードの育成(リード・ナーチャリング)、実際の商談のアポイント獲得から、フィールドセールスへの案件引き継ぎまで幅広い活動が期待されます。
ソリューションセールスと呼ばれる営業戦略の6つのステップにおいて、初めと終わりの数ステップはそれぞれマーケティングとフィールドセールスに任せるケースが多いものの、中間のオンラインでできる活動を幅広く行うという点で、より難易度の高いインサイドセールスの型と言えるでしょう。
インサイドセールスがその効果を最大限発揮するには、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか? ここでは、実際にインサイドセールスが効果的に機能するためのポイントについて解説します。
(画像出典:Oberlo)
インサイドセールスの大きな役割には、リード評価・選別(リードクオリフィケーション)とリード育成(リードナーチャリング)が含まれます。しかし扱う顧客データがしっかりと管理されていなければ、リードの評価・選別も育成も正確に行うことが困難になるのは想像に難くありません。
リードセグメンテーション(Lead Segmentation)は、共通の属性や特徴を持つリードを同じグループ(セグメント)に分ける作業です。リードをセグメントごとに分類しておくことで、それぞれのセグメントごとに最適な評価指標の設定や効率の良いアプローチの方法・タイミングを選択することができるでしょう。以下はリードセグメンテーションで一般的に扱われる変数です。
データクレンジング(Data Cleansing)は、データベースの中から誤りや重複、異質なデータを洗い出し取り除く作業のことを指します。
Gartner社によるリサーチでは、アメリカの平均的な企業は不正確なデータにより年間約1,500万円ほどの損益を被っていたというデータも出ているため、インサイドセールスが最大効率で機能するためにも、取得した顧客データが正確かつ整合性のある状態で管理されていることの重要性は当然高くなるでしょう。
以下は、インサイドセールスにおける顧客データ管理で誤りが起きやすいポイントの一例です。
THE MODEL型の分業型営業組織では、インサイドセールスは分業された営業プロセスの一部分を担います。
簡潔に流れを解説すると、マーケティングが創出したリードをインサイドセールスが引き継ぎ、評価選別・育成を行なったのちホットリードとなった案件をフィールドセールスに引き継ぎます。フィールドセールスはホットリードに対して商談のクロージングを行い、そして受注した顧客に対してのアフターケアやアップセル・クロスセルはカスタマーサクセスが行います。
それぞれの営業プロセスの責任範囲は企業によりさまざまですが、一般的にマーケティングはインサイドセールスの前工程を担う部隊です。
工場のベルトコンベアーに例えるなら、マーケティングが創出するリードが不足していたり不完全なものであったりすると、インサイドセールスはそもそも仕事ができないことがわかります。そのためインサイドセールスも積極的にマーケティングと綿密に連携をとり、マーケティングから引き継ぐリード(MQL)をどのように判定するかを検討することが重要です。
インサイドセールスは、営業とマーケティングの橋渡しの役割も担うという意識を持ち、マーケティング戦略におけるデマンドジェネレーション(顧客を創造する一連のマーケティングアプローチ)やリードジェネレーション(見込み客創出)に対する深い理解も自ずと必要となるプロセスと言えるでしょう。
インサイドセールスは、アメリカにおいてはテレアポと同じく1980年代から受け入れられていた概念ですが、日本においては前述の通りまだまだ新しく、理解が進んでいない分野といえます。
しかしアメリカでは、既に急成長を遂げている企業の37%がインサイドセールスを重要視した営業戦略を取り入れているというデータも出ている通り、日本企業にとっても今後インサイドセールスが無視できないものとなっていくことは想像に難くありません。
「テレアポと同じ」というイメージを早く捨て、インサイドセールスの重要性を今一度再検討することが、日本においても企業が成長を遂げるひとつのキーポイントとなるかもしれませんね。