見込み客はどのタイミングでこの商品を買おうと決断するのか? これは、常にマーケティング担当者の関心事ではないかと思います。
2011年、Googleは「ZMOT(真実の瞬間)」という消費者のメンタルモデルを提唱しました。これは、インターネットにより人々の購買行動が大きく変わったため、多くの消費者がオンライン上のリサーチ段階で、すでに何を買うか意志を決めていくという理論です。
もっとも、現代のマーケティング担当者なら日々の仕事で実感しているファクトでしょう。
今や購買行動の60〜70%がオンラインで行われるようになったBtoB領域でも、ZMOTは重要な概念になっています。
本記事では、BtoBマーケティング担当者が押さえておくべきZMOTの意味、ほかの3種類の「MOT(真実の瞬間)」との関係性、ZMOTをマーケティングに活用する際のポイントについて解説します。
ZMOT(ズィーモット)とは「Zero moment of truth(真実の瞬間)」という言葉の略語です。2011年にGoogleの当時の営業担当副社長であるJim Lecinski(ジム レシニスキー)氏が提唱した理論であり「インターネット時代の消費者のメンタルモデルのひとつ」として知られています。
インターネットの登場以降、人々はプロダクトやサービスに関する情報を大量に入手できるようになり、何かを買うときの心理・行動プロセスは大きく変化しました。ZMOTとは、「見込み客はオンラインやオフラインのリサーチの段階で、すでに何を買おうかという意思形成を固めていく」という理論です。
(参考:thinkwithgoogle.com)
GoogleはShopper Sciencesと共に2011年に行った調査をもとに、ZMOTを明らかにしました。調査によるとZMOTへのシフトは業界によって異なり、例えば、小売業では消費者の88%が最終的な意思決定をする前にZMOTの時間を過ごし、購入前に平均10.4件のニュースメディアや情報源を参照します。
また、消費者向けの他の市場でもZMOTが浸透していることがわかりました。業界ごとの影響度合いは以下の図のとおり。
「Automotive(自動車)業界」は18.2件の情報源を参照し、ZMOTの占める割合が97%。「旅行」は99%、「保険」は94%、「健康・美容・パーソナルケア 商品」がもっとも低く63%ですが、ほとんどの業界でZMOTの影響は増しています。
(出典:ZMOT WINNING THE ZERO MOMENT OF TRUTH - Google)
この調査は一般消費者対象でしたが、GoogleはZMOTはあらゆる業界、BtoBでもBtoCでも、そして教育などの領域でも機能すると提唱しています。
提唱者のレシニスキー氏は動画にて「Zero moment of truthを信じ、Zero moment of truthを中心にマーケティングプログラムを最適化し構築するマーケターは、市場において競争優位に立つことができる」と明言しています。
実は、GoogleがZMOTを提唱する以前から、マーケティング領域には「MOT=真実の瞬間(Moment of Truth)」という理論が存在しました。
MOTとは「ブランドや製品、サービスに対する顧客の印象が形成されたり変化したりする瞬間」を指します。MOTという概念は、スカンジナビア航空のCEOであるJan Carlzon(ヤン カルゾン)氏が1987年に出版した本『Moments of Truth』で紹介されました。
カルゾン氏は、スカンジナビア航空では1人の顧客がスタッフと関わる時間は15秒しかなく、この15秒で顧客のサービスへの評価が決まることから「最初の15秒=真実の瞬間」と呼び、フロントラインに権限を委譲する組織改革を実行し、業績低下に陥っていた同社を見事復活させました。
その後、プロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)社によって、新たな3つのMOT(真実の瞬間)が提唱され、さらに2011年にGoogleがZMOTを提唱した流れです。
以下、マーケティングメンタルモデルとして確立している4つのMOTを具体的に解説します。
(参考:www.engati.com)
FMOTとは「First Moment of Truth(最初の真実の瞬間)」の略語で、P&G社のCEOであるAlan Lafley( アラン ラフリー)氏によって提唱されました。同社はFMOTを「消費者が他の競合他社の提供品よりも製品を選ぶ瞬間」と説明しています。FMOTは、消費者が製品に出会って最初の3〜7秒以内に発生するとしています。
SMOTとは「Second moment of truth(第2の真実の瞬間)」の略語で、同じくP&G社のラフリー氏が提唱したメンタルモデルです。顧客が製品を購入しイメージどおりの品質を体験したときを指します。SMOTは最初に使った瞬間だけでなく、使用過程で複数回出現します。
TMOTとは「Third Moment of truth(第3の真実の瞬間)」の略語です。こちらは、2006年にP&G社のPete Blackshaw(ピート ブラックショウ)氏によって提唱されました。
顧客が製品、サービスに対してフィードバックやリアクションを行うこと。より具体的に言うと顧客がブランド推奨者となり、口コミやソーシャルメディアを通じて拡散していく瞬間です。
ZMOTと合わせて4つの「真実の瞬間(MOT)」が存在します。
以下の図のようにZMOTになりうるソースを見ると、ほぼマーケティング部門の担当領域と重なります。ZMOTという概念が生まれ重要になった時代=マーケティングがこれまで以上に顧客の購買活動に影響を与えられる時代だと言えるでしょう。
(出典:The Zero Moment of Truth Macro Study)
ここでは、ZMOTの概念をBtoBマーケティングのプロモーションに活かすポイントを解説します。
近年のBtoB購買担当者はオムニチャネルでビジネスを進めています。マーケターのほとんどは、見込み客の購買スタイルや購入後の行動パターンが大きく変化したことを理解しているでしょう。
しかし、変化に即したマーケティング活動を行うためには、変化を極力数値で押さえ、経営層ないし社内の理解を得る必要も出てきます。以下のようなデータをしっかり押さえておきましょう。
(参考:https://99firms.com/blog/BtoB-marketing-statistics/#gref)
顧客はかなりの割合をオンラインシフトしており、モバイル活用、動画活用も進んでいます。ZMOTの重要性に変わりはありませんが、ZMOTのソースは時代とともに常に変化しますので、データから変化をしっかり捉えることがポイントです。
2017年のGoogleとボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によるとBtoBの主要企業において、モバイルが収益の平均40%以上を牽引または影響を与えていることがわかりました。BtoB検索クエリの50%はスマートフォンで行われており、BCGは2020年までに70%に拡大すると予想しました。
今は、スマホに表示されにくい、あるいはスマホで見づらいサイトは、購買候補に入る確率が著しく低下するでしょう。モバイルに対応したサイトデザインにすることは基本。ユーザーはPC、タブレット、スマートフォンなど複数のデバイスを活用するので、それぞれのデバイスに適切に表示されるように設定する必要があります。
魅力的なコンテンツとは、BtoB領域においては「見込み客が探している質問に応えるコンテンツを用意すること」です。例えば、Googleの強調スニペットに表示されるようになれば、多くの見込み客に見つけてもらえることができるでしょう。
購買プロセス中はさまざまな疑問が出てきます。見込み客が何を知りたいのかを理解し、適切なコンテンツを作るためにはカスタマージャーニーを作成し、アーリーステージ、ミドルステージ、レイターステージそれぞれでの見込み客の疑問を掘り下げることがポイントです。
自分が何かを購入したときを思い返してみましょう。もっとも参考にするのはレビューサイトの星の数やコメントではないでしょうか? 素晴らしい広告もパッケージも、メーカーのメッセージも、実際に購入した人の意見に比べれば弱い影響力しかありません。
Googleは2011年、以下の図を「the-new-mental-model-of-marketing(新しいマーケティングのメンタルモデル」として紹介しました。
図の、緑の文字の英訳は以下のとおり。これはSMOT(商品を体験した際の真実の瞬間)が、新しい人のZMOTを形成するソースになるということです
もちろん、SMOTがTMOT(ユーザーが感想や評価をフィードバックする真実の瞬間)につながり、新たなZMOTのソースになるということでもあるでしょう。
このメンタルモデルにもとづき、顧客に自社プロダクトの感想をレビューするような推奨者になってもらうマーケティングが推奨されています。
辛口のレビューもあるかもしれませんが、ポジティブなレビューとネガティブなレビューが混在した評価こそ信憑性があります。その結果、現時点で最適な見込み客を惹きつけるでしょう。
(参考:thinkwithgoogle.com 、mckinsey.com、99firms.com)
ZMOTとは、Googleが2011年に提唱した、消費者が商品やサービスを購入する前に、情報収集を行い購買の意思形成を行うという理論のことです。
ZMOTは、2011年にGoogleが提唱している内容なので、多くのマーケターにとっては今さら感があるかもしれません。しかし、ZMOTを形成するソースは毎年のように変化しているため、ZMOTを意識したマーケティングを実行するのはなかなか大変です。
ZMOTは「真実の瞬間」とありますが、実際には長期のプロセスがあってそのコンテンツに至り、トリガーとなります。
見込み客のカスタマージャーニー(購買心理・行動)にそってエビデンスのあるような役立つコンテンツを線で提供し続けていく、かつどのようなデバイスからも快適に読めるようなデザインにしていく、この2つがポイントです。
ZMOT、FMOT、SMOT、TMOTの4つの 真実の瞬間(MOT)。見込み客の感情が大きく動くポイントを改めて理解して、マーケティング施策を組み立てましょう。