対面で会話をすることなく営業を行うのが「リモート営業」です。リモート営業を取り入れたいと考えつつも、何をすべきかわからず、お困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2019年12月時点では「訪問営業が好ましい」と考える買い手が多かったのに、2020年12月時点では逆転し、リモート営業のほうが好まれているという調査結果があります。新型コロナウイルス感染症の流行により、対面での接触が避けられるようになったことが、背景としてあるようです。
これまで訪問営業しか行ってこなかった企業は、売り手が好むリモート営業を取り入れることで、販売のチャンスを増やすことが可能です。そこで本記事では、以下の内容を解説します。
本記事を読むことで、リモート営業を始めるために何をすべきかが明確になり、どのようなツールを導入すべきなのかについても理解を深められます。
ただしツールはあくまでも「手段」に過ぎないので、導入しただけで満足してはいけません。リモート営業を成功させるためには、会社として基盤を整えることが欠かせないのです。基盤を整えるコツも詳しく解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
リモート営業とは、営業担当と見込み客が営業のすべてのプロセスにおいて、同じ場所にいることがないことを指します。(Salesflareより引用)
リモート営業の必要性や注意点を理解し、自社にあてはめて考えるために、以下の3つのポイントを解説します。
(買い手が考える「好ましい営業スタイル」)
日本でリモート営業が必要になった最大の理由は、買い手のニーズが変化したことです。
上図はHubSpot Japan株式会社が行った「日本の営業に関する意識・実態調査2021」における、買い手が考える「好ましい営業スタイル」の結果です。2019年12月時点では、リモート営業が好ましいと考える買い手は21.0%と低い状況でした。しかし、1年後の2020年12月には38.5%にまで増え、訪問営業が好ましいと考える買い手よりも多くなったのです。
このような変化が起きた背景には、新型コロナウイルス感染症の流行があると考えられます。訪問営業を受けることが「感染リスク」と考えられるようになり、買い手が営業担当と対面で話すことを避けるようになったのでしょう。買い手がリモート営業を求めるようになったことで、売り手の企業は対応を迫られるようになりました。
(営業活動にリモートワークを導入している割合)
日本ではリモート営業を導入している企業が増えていますが、課題も見えてきました。
上図は株式会社マツリカが2020年4月に実施した調査の結果のうち、「あなたの所属する組織では、現在、営業活動にリモートワークをどの程度導入していますか」という質問への回答です。
「全ての業務がリモートワーク化」という回答の割合は33.9%であり、「一部の業務がリモートワーク化」と合わせると88.4%にも達します。リモート営業をまったく行っていない企業のほうが、珍しいことがわかります。
(リモート営業の課題)
また、上図は同じ調査による、「リモートワークでの営業活動を行う中で、課題に感じていることは何か」という質問への回答の結果です。経営者、営業組織の管理職では「オンラインでの商談や社内会議での意思疎通」と回答したのが44.4%と最多だったのに対し、営業担当は「案件を進める上で必要な他部署との連携」と回答したのが38.7%で最多でした。
この結果から、経営層と担当者層では感じている課題に違いがあることがわかります。「他部署との連携」は営業担当だけが努力しても、解決しにくい課題です。経営層は担当者層が抱える課題を理解して、会社組織全体としてリモート営業に対応する体制を整えることが大切です。
リモート営業は海外、とくにアメリカで以前から試みられており、現在では普通のことになっています。アメリカは国土が広いため、買い手を訪問すると交通費や宿泊費などのコストの負担が大きいことが、リモート営業が発展した背景としてあります。
(テレワーク導入率)
上図は厚生労働省がまとめた、各国のテレワークの導入率です。日本は従業員100人以上の企業のみを調査対象にしているにも関わらず、2018年の導入率は19.1%にとどまっていました。一方アメリカは85.0%であり、テレワークの導入率が非常に高いことがわかります。各社がテレワークの導入を進めれば、営業もリモートで行うようになるのは自然な流れといえるでしょう。
アメリカではリモート営業を支えるため、社内体制の工夫やツールの開発が長年にわたって進められてきました。そうした工夫やツールを日本企業が取り入れたことで、日本でも海外のように、リモート営業を行いやすくなっている面があります。
効果的なリモート営業を行うためには、社員のメンタリティや会社の基盤を変えることが、第一歩として欠かせません。それをおろそかにしていては、どんなツールを導入したとしても、リモート営業で成果を得るのは難しいでしょう。リモート営業を成功に導くコツを3つ紹介します。
(マーケティングにおける最大の課題)
リモート営業を成功させるためには、十分な数のインバウンドリード(見込み客)を確保することが欠かせません。
上図はHubSpotが「マーケティングにおける最大の課題」を調査した結果です。この結果からは、「多くのアクセスを集めてリードを獲得すること」を課題だと感じている企業の割合が最も高いことがわかります。多くの企業が、まずはリードジェネレーションが必要であることを、各企業が理解しているのです。
自社の製品サービスに興味を持っていない人に対する営業(アウトバウンド営業)を行うのは、精神的に負担が大きくなりがちです。リモートワークで営業を行うと、身近に同僚がいないため孤独感を強めやすく、退職につながってしまう場合もあります。
(退職を検討した営業職の割合)
上図は2021年9月に、営業職を対象に行われた調査結果です。「最近退職を検討したことがありますか? 」という問いに対して、「ある」と回答した人は69.6%という高い割合となりました。その中でも、コロナウイルスの影響があるとした人は42.7%もいます。この結果から、リモート営業が増えたことで、精神的な負担が増えた人が多いと推測できます。退職者を増やさないようにするためにも、アウトバウンド型の営業は、できるだけ避けたほうがよいでしょう。
(おかんの給湯室)
事例として、社食サービスなどを提供する株式会社OKANは、オウンドメディア「おかんの給湯室」を通じてリードを獲得しています。福利厚生に関する記事などを公開して、関心を持った人にお役立ち資料の無料ダウンロードを促し、メールアドレスなどの連絡先を入手しているのです。
資料をダウンロードした人は、企業の福利厚生に関心があるため、OKANのサービスを購入する可能性が高いと見込めます。ニーズが明確な買い手にアプローチするからこそ、効果的なリモート営業を行えます。
もしリードがない状態でリモート営業をしようとすれば、手当たりしだいにメールを送ったり、電話をかけたりするしかありません。しかし、自社や製品サービスに関心を持っていない人にいくら営業を行っても、購入に至る可能性は低いでしょう。リモート営業を成功させるためには、まずは十分な数のリードを獲得し、自社と相性が良い顧客に対して営業を行うことが欠かせません。
デジタルインフラを十分に整えることも、リモート営業を成功させるために必要だといえます。見込み客に関するデータを管理し、関係者全員で共有することが、どのような営業をするかの方針を決めるために必要だからです。
(お役立ち資料の例)
たとえば、「おかんの給湯室」では、複数種類のお役立ち資料が用意されています。どの資料がダウンロードされたのかというデータは、見込み客のニーズを理解するうえで貴重です。例として上図の資料「【2024年問題に備える】運輸・物流業界向け!従業員満足度を向上させるための4つのステップ」をダウンロードした見込み客には、以下のような特徴があると推測できます。
実際に見込み客とやり取りをすれば、さらに具体的な社内の状況や困りごとを把握できます。そうしたデータをデジタル化し、瞬時に共有できる仕組みを整えておくことで、迅速で的確なリモート営業が可能になるのです。もしデジタルインフラが整備されていなければ、担当者は見込み客に関する情報をほとんど持っていない状態で、営業することになりかねません。
リモート営業は、オフィスを訪問して対面で話すよりも、買い手に関する情報を得にくいという特徴があります。だからこそ、得られたデータを管理し、徹底的に活用することが重要です。
また、デジタルツールを利用することで、営業担当が社内の支援を受けやすくなります。具体的には、以下のような種類のツールを活用可能です。
これらを通じて営業担当が他の社員からのサポートを感じられることは、孤独感を感じやすいリモート営業において、大きな意味があるといえます。
リモート営業を成功させるためには、チームビルディングやフォローアップ活動も重要です。
すでに紹介した通り、「リモート営業を行う中で、課題に感じていることは何か」という質問に対し、営業担当の回答が最も多かったのが「案件を進める上で必要な他部署との連携」でした。38.7%の営業担当が課題を感じています。
リモート営業のチームを編成する際には、他部署との調整を進められるメンバーを含めるなどの対策をすべきです。また、リモート営業の担当者が困っていることはないか、上司が継続的にフォローすることも欠かせません。
とくにリモートワークが進んでいる企業では、社員どうしが対面で話す機会が少なくなり、フォローが不足してしまう場合があります。毎週必ず、上司が営業担当と1対1で話す時間を作るなど、定期的なフォローの仕組みを整備するとよいでしょう。
社員のメンタリティや会社の基盤を整えつつ、必要なツールを導入してリモート営業の準備を進めましょう。リモート営業を支えるツールを以下の5つに分類し、順番に解説します。
リモート営業を行ううえで、コミュニケーションツールは欠かせません。社内メンバーとの連絡で使うだけでなく、見込み客とのやり取りに使用する場合もあります。代表的なツールは以下の通りです。
すでに社内で利用しているツールがあれば、それをリモート営業でも使うとよいでしょう。新たに別のツールを導入すると、管理が煩雑になり、営業担当の負担が増えてしまう原因になります。
コミュニケーションツールを有効に使うためには、「ちょっとしたことでも気軽に連絡するのが良い」というメンタリティを、メンバー全員で共有することが大切です。日常的にツールを使って連絡を取り合っておくことで、リモート営業にも活用しやすくなります。
社内情報共有ツールは、チームで一体となってリモート営業に取り組むために必要です。実施すべきタスクを洗い出し、適切な担当者に割り振ることで、効率よく営業を進めやすくなります。代表的なツールを挙げると、以下の通りです。
タスクの進行状況をチーム全体で共有しておけば、取るべき対応が行われていない場合に、すぐに他のメンバーが気づきやすくなります。
ただし、ツールを導入しただけで満足していては、リモート営業の成果にはつながりません。一人ひとりが他のメンバーの情報に気を配り、互いにフォローしあってこそ、社内情報共有ツールを導入した効果が得られます。
マーケティングツールは、リモート営業で個別にアプローチする前のリード獲得の段階で重要です。見込み客にとって有益なコンテンツを、ツールを用いて提供することで、リードの獲得につなげられます。代表的なツールは以下の通りです。
マーケティングツールを用いれば、どの見込み客がどのコンテンツを閲覧したかなど、詳細な情報を得ることが可能です。コンテンツを作ったり公開したりする作業は、営業担当ではなく、別のメンバーが行う企業が多いでしょう。マーケティングツールから得られたデータを営業担当と共有して、リモート営業に生かすことが大切です。
SFA(営業支援システム)と顧客管理ツールを使うことで、見込み客の情報を整理して共有しつつ、効果的なアプローチをしやすくなります。代表的なツールは以下の通りです。
見込み客とのやり取りは、メールや電話、チャットなど、さまざまな媒体にまたがることが多くなります。それらのすべてをSFAや顧客管理ツールを使って一元管理することで、重複や漏れなく連絡できて、買い手からの信頼獲得につながります。
ツールで情報を共有しておけば、いざというときに営業担当以外のメンバーが業務を引き継ぐことも可能です。バックアップの体制を整えておくことで、営業担当の精神的な負担を緩和することにつながるでしょう。
リモート営業において、サポートツールも大きな役割を果たします。リモートでどれだけ快適なサポートを提供できるかが、サービスの継続率に大きく影響するからです。継続率が売上げに直結するサブスクリプション型のSaaSビジネスにおいては、とくにサポートツールの重要度は高いといえます。代表的なサポートツールを挙げると、以下の通りです。
サポートにおいてメンバー間の連携が取れていないと、買い手に何度も同じ説明をさせることになり、信頼を失ってしまう場合があります。サポートツールを用いて、電話やメールなどの複数の媒体でのやり取りをまとめて管理し、買い手の課題を迅速に解決することが大切です。
買い手のニーズが変化していることから、リモート営業の必要性が高まっています。リモート営業を成功させるためには、まずは会社の基盤や組織体質を変えることが必要です。リモート営業を成功に導くコツとして、以下の3つを紹介しました。
これらが前提としてできていなければ、どんなツールを導入したとしても、リモート営業で大きな成果を得ることは難しいことに注意しましょう。具体的なツールについては、以下の5つに分類して紹介しました。
ツールは実際に使ってみないと、自社に合っているかは判断しにくいものです。ほとんどのツールは無料で試すことが可能なので、良さそうなものをいくつかを使ってみたうえで、どれを導入するかを決定するとよいでしょう。