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コストリーダーシップ戦略とは?マイケルポーター3つの戦略の柱の一つを成功例を交えてわかりやすく解説

マーケターの方は、MichaelPorter(以下ポーター)氏が提唱した5forces分析(5フォース分析)を仕事で聞いたり使ったりすることがあると思います。

ところで、ポーター氏が5froces分析とともに提唱していた3つの基本戦略「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」についてはご存知でしょうか?

コストリーダーシップ戦略とは、競合他社の中で最も低い事業運営コストを実現することによって、競争上の優位性を確立する戦略です。

コストリーダーシップ戦略をとる企業には、Amazon、マクドナルド、ウォルマート、日本ならユニクロなどがあげられます。いずれも徹底したコスト管理のもと手頃な価格で、老若男女、年齢とわず広い層に受け入れられるクオリティの商品を提供し収益を上げています。

本記事では、コストリーダーシップ戦略の概要、メリットとデメリット、コストリーダーシップ戦略を推進する手法、事例などを紹介します。

コストリーダシップ戦略とは?

コストリーダーシップ戦略とは、1980年にハーバード大学教授のポーター氏が、著書『競争の戦略』で提唱した、経営における3つの基本戦略の中の一つです。

ポーター氏は、ビジネスにおける競争の本質は、競合他社に勝つことではなく収益を上げることだとして、以下のように述べています。

「真の競争優位を持つ企業は、競合他社に比べて低いコストで事業を運営しているか、高い価格を貸しているか、その両方だ」

コストリーダーシップ戦略とは、業界で最も低コストで事業運営を行うことで競争優位に立つ戦略です。企業はコストリーダーになると他社よりも低コストで商品・サービスを提供でき、利幅が大きくなり、価格競争に強くなり、規模の経済を追及することで安定した収益を上げられます。

代表的な例が、米国小売り最大手のウォルマート社です。物流管理、コスト削減などを推し進め、EDLP(Everyday Low Price)を掲げ、急速に成長しました。

創業者Sam Walton(サム・ウォルトン)氏の自伝では、「Think Small(小さく考える)」「不屈のケチ精神」で田舎町の商人から巨大企業へウォルマートを成長させた経緯が描かれています。

(出典:Amazon

発展の背景

1970年代までの経営戦略のパラダイムは、市場シェア(規模と大きさ)の追求、経験曲線(ある業務の経験が増すことによってコストが減少する)でした。企業はリソースを市場に適合させることや、値下げ戦略でシェアを拡大し競争力を高めることに重きをおいていました。

このような環境下、ポーター氏は著書の『競争の戦略』で次のようにポジショニングの重要性を説いています。

「競争とは収益を上げることであり、ライバル企業を下すことではなく卓越した価値を生み出すこと」

企業がとるべき3つの基本戦略と、それを実現するための5forces分析バリューチェーン分析を提唱し、大きな反響を呼びました。

以降、約40年以上にわたりポーター氏の3つの基本戦略は、世界中の経営者から支持され活用されています。

コストリーダーシップ戦略と3つの基本戦略

3つの基本戦略とは「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」です。

ポーター氏は「企業が競争優位を獲得する戦略は突きつめるとこの3つになる」と述べています。

  • コストリーダーシップ戦略 :業界で最も低コストな運営体質を構築することで競争上の優位性を確立し、市場のリーダーシップをとる戦略。
  • 差別化戦略:独自の価値(プロダクト、流通、人材、ブランドイメージ)を提案することで他社の商品・サービスと差別化する戦略。
  • 集中戦略 :ニッチ市場の特定の顧客層に対して、カスタマイズされた商品・サービスを提供する戦略。コストリーダーシップ戦略、差別化戦略両方と組み合わせることができる。

※なお、ポーター氏は「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」の両方を追うと、戦略がスタック・イン・ザ・ミドル(どっちつかずになる)に陥りがちだと述べていました。しかし、インターネットの登場以降は、業界によってはハイブリッド経営戦略が可能と述べています。

1.コストリーダーシップ戦略の具体例:ウォルマート

米大手スーパー・ウォルマートはこの戦略の良い例です。ウォルマートのコア戦略は、競争相手よりも低い価格で商品やサービスを提供することです。これにより、ウォルマートは日常的に多くの商品を低価格で販売し、世界最大の小売業者になれました。

ウォルマートは、広範な供給業者ネットワークを構築しており、競争相手よりも低い価格で大量の商品を購入できます。また、ウォルマートの効率的な供給チェーンはコストリーダーシップ戦略をさらに強化します。供給業者から店舗への商品の迅速な配送を保証し、顧客満足度とロイヤルティが向上するのです。

ウォルマートは買い物をより手軽で楽しいものにすることで、顧客に価格以上の価値を提供できました。

2.差別化戦略の具体例:アップル

アップルは差別化戦略を実践する代表的な企業です。アップルの製品が高品質で最新の技術を取り入れていることを示すために、競争相手よりも高価に製品を設定することで、製品の差別化を図っています。

そして、巧妙なマーケティングと流通戦略、消費者にとって刺激的な新商品発表の舞台「WWDC」などを設けることで、消費者の関心を刺激しています。

3.集中戦略の具体例:フェラーリ

フェラーリは高級自動車市場に集中する戦略を取っています。

フェラーリは、一部の裕福な顧客層に焦点を当てて、カスタマイズされた高級車を提供しています。フェラーリの車は高価格であり、そのブランドは製品のラグジュアリーさと高いパフォーマンスを象徴しています。

彼らの製品は一部の顧客にとってだけ価値があり、それは彼らが集中戦略を成功裏に実行している証拠です。高品質を突き詰めた製品と、クオリティの高い顧客体験の提供に重点を置くことで、顧客ロイヤルティ向上に成功していると言えます。

フェラーリは、購入後の独特な顧客体験と個別の顧客サービスを通じて顧客満足度を向上させています。

所有者は、所有者向けの特別イベントへの参加(例えば、世界各地でのレースイベントやフェラーリの歴史を祝うフェスティバル)、所有者専用のWebサイトやアプリの使用、そしてフェラーリのエンジニアやデザイナーから直接フィードバックを得ることが可能です。これら全てが、フェラーリの顧客に特別な体験を提供します。

メルセデスやBMWと比較した場合、フェラーリの強みは以下の通りです。

ブランド価値:フェラーリはその歴史、性能、デザイン、そしてスポーツカーレースでの成功により世界的なブランド価値を確立しています。これは、他の一般的な高級車メーカーよりも、フェラーリをより独特で魅力的なブランドにしています。

限定性:フェラーリはその生産量を制限しており、これにより製品の独占性と価値を維持しています。これは、メルセデスやBMWといった他の高級車メーカーと比較してフェラーリが提供する独自の価値です。

顧客体験:フェラーリの所有者は、専用のサービスとイベントを通じて独特な顧客体験を享受します。これには、所有者のクラブ活動、専用のトラックデイ、フェラーリのエンジニアとの直接の交流などが含まれます。

3つの基本戦略

(参照:saylor.org

低価格戦略との違いとは

コストリーダーシップ戦略と低価格戦略は、よく混同されることがあります。ところが実際には両者は、下記のとおり異なる概念です。

コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略は、企業が業界で最も低コストの運営を目指し、それを競争上の優位性として利用する戦略です。

この戦略を実行するためには、企業は生産、供給チェーン、労働力などの運営コスト全体を最小化する必要があります。これは単に製品やサービスを安くするのではなく、企業の全体的な運営効率を高めることを意味します。その結果として、企業は自社の製品やサービスを競争力のある価格で提供することが可能になる、というわけです。

低価格戦略

低価格戦略は、企業が製品・サービスを、市場における最低価格で提供しようとする戦略です。目的は、競合他社より低い価格で製品・サービスを提供することで市場シェアを獲得・維持することです。

しかし、これは必ずしも製品の製造や運営コストが最低であることを意味しません。低価格戦略は短期的な売上げ向上や市場シェアの拡大には効果的かもしれませんが、長期的な利益性や持続可能性には必ずしも貢献しない場合があります。

したがって、コストリーダーシップ戦略は企業全体の効率と経済性に焦点を当てたものであり、その結果としての低価格はあくまで副産物であると言えるでしょう。それに対して、低価格戦略は直接的に価格競争に焦点を当てたものです。

コストリーダーシップとプライスリーダーシップの違い

コストリーダーシップとは、業界の最も低い事業運営コストで商品・サービスを提供することで、競争上の優位に立つ戦略です。

あくまでコストリーダーシップなので、市場での価格を先導するとは限りません。低価格志向の場合もあれば、平均的な価格で販売し収益確保を狙う場合もあります。

一方、プライスリーダーシップとは、寡占的な業界(少数の企業によって業界が支配されている業界)において、業界全体の製品価格の決定に大きく影響を与えるリーダー企業のことです。

通常、プライスリーダーは最も大きなシェアや流通チャネルを持ち、開発の先頭にも立っています。他社はプライスリーダーの価格設定を参考に自社の価格を設定します。例えばCRM業界は、Microsoft、Oracle、Salesforce、HubSpotなどの寡占化が進んでいるので、いずれかの企業がプライスリーダーになる可能性があります。

(出典:総務省|令和4年版 情報通信白書|データ集(第3章第6節)

ブランドに定評のある企業がプライスリーダーの場合、低価格を武器にする参入企業が増えても値下げ戦略をとらない傾向があります。日本なら、リクルートなどが例にあげられるでしょう。リクルートは人材業界で高いシェアをもち、新規参入者が増えても値下げせず、参入した業界でもトップシェアとなり業界の平均価格を押し上げました。

(出典:【最新版】人材業界の市場規模・業界地図とコロナ以後の動向 - 人材紹介マガジン by agent bank )

このようにコストリーダーシップとプライスリーダーシップは異なる戦略ですが、多くのコストリーダーシップ戦略をとる企業は、プライスリーダーを兼ねる傾向があるのも事実です。

全米の食料品業界の5分の1のシェアを誇るウォルマートやAmazon、マクドナルド、メガネ専門店チェーンの売上高ランキング2位のジンズホールディングスなどはコストリーダーでもあり、プライスリーダーでもあると言えるでしょう。

一方、アパレル業界で世界売上高ランキング1位のZARAはコストリーダーではありますがプライスリーダー志向ではありません。

(出典:ファストフードや飲食店の世界市場シェアの分析

コストリーダーシップを発揮するには?

コストリーダーシップを発揮するには、企業のバリューチェーンの各プロセスにおいて生産性を向上させ、低コスト体質を実現する必要があります。つまり、事業活動全体を通して顧客に提供できる価値を高めるために、業務の効率化を徹底する姿勢が必要です。

具体的には以下の手法があります。

1. 生産規模の拡大 (規模の経済の追及)

事業規模が大きくなり、生産する商品・サービスの量が増えると、原材料の調達時に規模の経済(スケールメリット)が働き、一商品あたりのコスト低減につながります。原価が下がれば、競合他社では提供できない価格で商品・サービスを提供できます。

例:IKEA

IKEAはスウェーデン発の家具メーカーで、世界中に大型店舗を展開している企業です。IKEAのビジネスモデルは、大量生産と自己組み立ての家具を提供することにより、製品価格を抑えています。IKEAのビジネスに影響を与えている大量生産による規模の経済の追求は、以下の3つです。

供給コストの削減:IKEAは大量に商品を購入し、一部の商品は自社で設計・生産。大量の原材料を購入することで、単位あたりの原材料コストを下げることができます。

輸送と物流の効率化:IKEAの家具は分解されてパッケージングされており、その形状は輸送効率を最大化します。これにより、輸送コストを削減可能に。

店舗運営コストの削減:IKEAの店舗は、顧客自身が商品を選び、カートに入れ、レジで会計するというセルフサービス方式。これにより、人件費を削減します。

以上のような規模の経済を追求した結果、IKEAは競争力のある価格で品質の高い家具を提供できます。

2.調達方法の工夫

  • 原材料の直接調達
  • 原材料の共同調達
  • 契約のための競争入札を制定
  • ベンダーとの価格交渉
  • ジャストインタイムの導入等のベンダーマネジメント

例:トヨタ

トヨタ自動車が良い例です。トヨタは供給チェーン管理と調達方法の工夫により、業界での優位性を確立しました。

原材料の直接調達:トヨタは特定の部品供給会社と独占的な関係を持つことで、直接調達を行っています。これにより、原材料の品質管理を徹底し、不必要な中間マージンを削減しています。

ベンダーとの価格交渉:トヨタは一部のサプライヤーと長期的な関係を結び、大量の部品を一括購入することで単価を抑える交渉を行っています。これにより、品質とコストのバランスを保つことが可能です。

ジャストインタイムの導入等のベンダーマネジメント:トヨタは「ジャストインタイム」生産方式を開発しました。これは、部品を厳密に必要な時点で生産ラインに供給する方法で、在庫コストの削減と生産効率の向上に寄与します。

これらの調達方法の工夫が、トヨタが高品質な自動車を競争力のある価格で提供し続ける一因です。

3.全社的な業務効率化

  • IT活用による業務効率化
  • 部署同士の連携強化
  • アウトソーシングの活用(人件費の見直し)
  • 経験曲線(労働者の経験値や工程の効率化)によるコスト低減等

例:Amazon

IT活用による業務効率化:Amazonは初めてオンライン書店としてスタートし、その後、電子機器、家庭用品、食品などさまざまな商品を扱う大手ECサイトに成長しました。膨大な量の商品の在庫管理や出荷処理は自動化され、ITを活用した業務効率化が進められています。

部署同士の連携強化:Amazonでは、データを共有し、意思決定を迅速化するために各部署間のコミュニケーションを強化しています。これにより、マーケティング、在庫管理、顧客サービスなど、全社的な業務効率化を図っています。

アウトソーシングの活用(人件費の見直し):Amazonは物流センターの運営やカスタマーサポートなど、一部の業務を外部企業に委託。これにより、人件費の削減や業務の専門化を進め、全体の業務効率化を実現しています。

経験曲線(労働者の経験値や工程の効率化)によるコスト低減:Amazonは物流センターでロボットを導入するなど、工程の効率化を図っています。また、データ分析を通じて、商品のピッキングやパッキング、配送ルートの最適化など、経験を活用したコスト削減を行っています。

これらの全社的な業務効率化が、Amazonが巨大な商品ラインナップを迅速に顧客に届ける一因です。

4.先進的な技術の導入

デジタル技術が発展・普及していく中で、革新的な技術を導入し、いち早く活用すること(DX:デジタルトランスフォーメーション)は、抜本的なコスト削減につながります。

Amazonのように先進技術に投資し続けることで、コストリーダーであり続けることも可能です。

例:テスラ

テスラは、電気自動車という新たなカテゴリーの自動車を市場に打ち出すとともに、その製造プロセスにも革新的な技術を導入しています。特に注目すべきは、自動車製造における自動化とAIの活用です。

テスラの自動車製造工場では、ロボットとAIによる自動化技術が大規模に導入されており、人間の手を介さずに高品質な自動車を効率的に製造できます。また、AIを活用して生産ラインの最適化を図り、製造コストを低減するとともに、製品の品質を一定に保つことも可能にしています。

さらに、テスラは自社製バッテリーの製造にも注力。電池の製造コストを大幅に削減し、電気自動車の価格を下げることができるとともに、他社が追随することの難しい技術的な優位性を獲得しています。

テスラが電気自動車市場におけるリーダー的な位置を確立し、高いブランド価値を保ち続けている背景には、このような先進的な技術の導入があるのです。

5. 知的財産の活用

特許を取得することで一定の期間、競合他社がその技術を使用できないようにできます。また、特許を取得した技術を後に販売することで、収益を得ることも可能です。

例:ファイザー

製薬業界では、新薬を開発するために非常に大きな研究開発費用が必要であり、新薬の開発に成功した場合でもその成果を保護するためには特許を取得することが重要です。新薬の特許を取得することで、製薬会社は一定期間その新薬を独占的に販売することができ、開発費用を回収し利益を得ることが可能となります。

具体的なケーススタディとしては、製薬大手のファイザー社が開発したED治療薬「バイアグラ」があります。バイアグラは世界初のED治療薬として革新的な製品であり、その特許を取得したことでファイザー社は他社からの模倣を一定期間防ぎ、大きな利益を得ることができました。

また、特許の期限が切れた後も、その製品のブランド力と信頼性を活かして市場で競争優位性を維持することができ、ジェネリック医薬品(後発医薬品)との競争に立ち向かうことができます。これらは知的財産の適切な活用による典型的なビジネス戦略の一例です。

コストリーダーシップになるメリットとデメリット

ここでは、コストリーダーシップになるメリットとデメリットを解説します。

コストリーダーシップになるメリット

価格競争に強い

コストリーダーシップ戦略により、どの競合企業よりも低い事業運営コストを実現した企業は、価格競争に強くなります。コストリーダーが低価格戦略をとるとは限りませんが、仮に他社が低価格戦略で功勢をかけてきたとしても、利益を確保しつつさらに低価格で対抗できます。

よくあるのは、ライバル企業を市場から駆逐するために一定期間、市場最低価格で商品・サービスを提供する戦略です。ライバル企業はコストリーダーの低価格に対抗するために、薄利もしくは赤字で販売せざるを得なくなって消耗し、場合によっては市場から撤退します。

意図していなくても、コストリーダーが市場の最低価格を打ち出すと他社は打撃を受けるでしょう。ウォルマートの規模拡大に伴い、米国の中小小売店の多くが廃業になったと言われます。2006年のロヨラ大学などの調査によると、ある地域ではウォルマートがオープンしてから2年以内に地元の82の店舗が倒産したそうです。

日本では、そこまでのスケールではないものの、大店法撤廃以降のイオンの地方出店により同じような状況が見られます。さらに、近年Amazonがコストリーダーシップを握ってからは、多くの小売店が苦戦を強いられているのはご存知のとおりです。このようにコストリーダーシップ企業は強力な競争優位性を持ちます。

不況に強い

コストリーダー企業は、低コストで商品・サービスを提供できるため、不況になり売上げが多少低迷しても、利益が圧迫される割合が一般企業より少なくなります。業界のどの企業よりも不況に対する耐性があります。

商品展開が柔軟に

コストを低く押さえて商品・サービスを提供できる体制を構築しているため、商品を横展開することが比較的容易です。商品やサービスを横展開する際、その基礎となるのは企業が既に確立している基本的な経営体制や業務プロセスです。これには、製造、供給チェーン管理、マーケティング、販売、カスタマーサポートなどさまざまな要素が含まれます。

企業がコストを低く押さえて商品やサービスを提供できる体制を確立している場合、利点は以下のとおりです。

経済的な規模の利益:製品の製造またはサービスの提供にかかるコストを低く抑えることで、企業は大量生産の利点を活用し、製品の単位あたりのコストをさらに低減できます。これは、新たな製品ラインを導入する際のリスクを軽減し、大規模な製造またはサービス提供を可能にします。

既存インフラの活用:製造、物流、マーケティングなどの既存のインフラストラクチャを活用して新しい製品やサービスを展開することで、これらの新しい製品やサービスに対する追加の設立コストや運用コストを大幅に削減することが可能です。

価格競争力:製品やサービスのコストを低く抑えることで、企業は製品を競争力のある価格で提供することが可能となります。これは新しい市場への進出や新製品の立ち上げを容易にします。

リスク管理:コストを抑えると、新しい製品やサービスが予想外の結果をもたらした場合でも、その影響を最小限に抑えることが可能です。これは新しい製品やサービスの導入に伴うリスクを管理するのに役立ちます。

以上の理由から、コストを低く抑えることは、新しい製品やサービスの横展開を容易にする重要な要素です。

例えば、マクドナルドはケンタッキーフライドチキンに匹敵する美味しいチキンメニューを提供したり、平均的なカフェと同レベルのプレミアムローストコーヒーを提供したりするなど、メニューを拡張しています。デザート類も次々と人気メニューを出し、新たな顧客層を獲得しました。

参入障壁を高くできる

コストリーダーシップ戦略は、新規参入者に対しての障壁になります。業界に強力なコストリーダーが存在すると、新規企業はコストリーダーの価格もしくはそれを下回る価格で顧客を惹きつける商品を提供することは難題です。新規企業は参入を見合わせる可能性が高いでしょう。

仮に参入する場合でも、コストリーダー企業と真向から衝突しない差別化戦略をとることが一般的です。

利益率を追求できる

コストリーダーシップ戦略=低価格戦略ではありません。コストリーダー企業は低コストで商品・サービスを提供できる体制を構築しています。よって、低価格で幅広い層に商品・サービスを展開する戦略、収益重視で業界平均価格で提供する戦略、いずれも実施可能です。価格設定の自由度があり利益率を追及できます。

コストリーダーシップになるデメリット

価格競争の激化

一般に、コストリーダー企業は低価格戦略をとる傾向があります。それに対し、競合他社がよりコストを下げて低価格戦略をとると、果てしない価格競争の始まりです。その結果、業界全体の収益を縮小させることがあります。

市場によっては効果は限定的

コストリーダーシップ戦略が強いのは、同じような品質・機能の商品・サービスを提供している企業に対してです。嗜好品、ブランド品など価格以外が購買動機になる領域ではあまり威力を発揮しません。また、他企業が差別化戦略をとってくる場合、競争優位に立つことは難しくなります(市場内で棲み分けるかたちになります)。

革新的テクノロジーの出現が脅威?

少し前ならインターネット、今なら3Dプリンター、自動運転などの先端テクノロジーは、サプライチェーンの構造を激変させ、これまでの経験曲線を無効にする影響力をもっています。

もちろん、一夜で脅威になるになるわけではありませんが、先端テクノロジーは指数関数的な進化をとげるため(ある時期までは緩やかで、臨界点をこえると急激に変化)、対応が遅れるとコストリーダーシップの座を明け渡さざるを得なくなるでしょう。

(出典:総務省

景気後退期のコストリーダーシップ戦略転換は危険

不景気になったからといって急にコスト・リーダーシップ戦略に切り替えるのは、良い結果につながらないようです。

米国の大学教授らが、2008年の大不況直前の時期以降5278社の上場企業の成績を調べ、ポーター氏の差別化戦略とコストリーダーシップ戦略を採用した企業の成績を比較しました。景気後退期にコストリーダーシップ戦略へ転換することは、売上げが伸びたり、財務が改善する結果につながったりしていないという結果が出ています。

SDGs.ESGの影響

近年は、SDGs、ESGなどが重要視されています。ファストファッション企業、グローバル企業の自然破壊、労働力搾取に対しての目が厳しくなっています。

コストリーダーシップを追求するにあたって、求められるスタンスが変化してきました。環境や人権に配慮した企業が評価される時代です。企業にはさまざまな情報公開も求められているので、これまでコストリーダーシップ戦略のためにとっていた手段のいくつかを見直さざるを得ない局面かと思われます。

昨今、AmazonCEOベソス氏とウォルマート副社長の「最低賃金上げろ」「税金払え」という舌戦が話題になりましたが、ここからは2社が人件費や法規制による経費を低コストにすべくいかに努力してきたかがうかがえます。しかし、これからの時代は2社ともに、社会から企業姿勢をさらに厳しく見られていくでしょう。

コストリーダーシップ戦略の事例

ここでは、コストリーダーシップ戦略の事例としてマクドナルドとAmazonを紹介します。

事例:無料CRMを提供できるHubSpot

(出典:HubSpot

HubSpotは2017年より無料CRMツールを提供しています。無料ですが、SFA(営業支援ツール)やリードジェネレーション機能を搭載しており、見込み客創出〜営業パイプラインの管理〜カスタマーサポートの対応まで可能です。しかも無期限で使用できます。

有料ツールのCRMは、レビュー サイトであるG2の2022年春のレポートでCRMソフトウェア1位です。そのため機能への信頼性は十分であり、スモールビジネス向けのCRM市場において、HubSpotはプライスリーダーになっていると言えるでしょう。

SaaSの主なコストはホスティング費用、人件費、製品に含まれるサードパーティのソフトウェア・データのコストです。モノの調達や配送があるレガシーな産業に比べれば、低コストなビジネスモデルであり、フリーミアム戦略は多くの企業がとっています。

それでも、有料級のサービスを無料で提供できるのは、差別化戦略とコストリーダーシップ戦略を両立できているからだと言えるでしょう。

事例:Salesforce.com

(出典:Salesforce

Salesforceは、効率的なバリューチェーン管理を実現するために、コストリーダーシップ戦略の実行を通じて、市場のリーダーとしての地位を維持。この戦略によりSalesforceは、多くの国で中間層をターゲットにして市場シェアを拡大できます。

一般に中間層の消費者は価格設定を重視しており、この消費者セグメントのニーズに応えるにはコストリーダーシップが最適な戦略です。

Salesforceは、世界中で自社製品を手頃な価格で提供できることに重点を置いています。これが高いブランド認知度と高い売上成長につながり、強力な競争優位性の基盤となっています。

Salesforceの低価格設定は、生産コストの削減やサプライチェーンの効率の最大化によるものです。販売目標を達成し、最も近いライバルによる競争圧力に対抗するために、割引やクーポンを頻繁に提供し、ブランドの人気を高め、消費を促進しています。

事例:マクドナルド

(出典:マクドナルド

マクドナルドは、世界最大のファーストフードレストランチェーンです。マクドナルドはコストリーダーシップ戦略と集中戦略で継続的に事業を発展させています。

マクドナルドは、標準化された混合材料を生産する施設を所有する垂直統合型のビジネスモデルであり、コスト・ミニマムを財務戦略目標としています。店舗でのオペレーションも標準化しており、マニュアル化が徹底しているのが特徴です。

新商品も同様に低コストで生産できる体制を持っています。創業者の自伝を読むと、もともとマクドナルドは1日3食の食事メニューを提供することを目標にしています。

チキン、コーヒー、スイーツなど、老若男女、家族連れからビジネスマンまで幅広く惹きつけるメニュー、進出国の食文化、宗教に配慮したメニューを柔軟に提供できる体制構築は、当初から進められていたのです。

事例:Amazon

(出典:Amazon

Amazonは、オンライン小売市場のコストリーダーシップ企業です。ITインフラへの継続的な投資によりオンライン商取引上の競争優位性を実現しています。

具体的には、高度なコンピューティング技術とネットワーク技術で、購買処理、その他の業務プロセスの自動化を追求し、オペレーションコストを最小限に抑えています。自社で保有する巨大な物流倉庫は、アマゾンロボティクスとよばれる先端商品管理システムで管理。商品を手頃な価格で早く顧客にデリバリーすることが可能です。

事例:エアアジア

(出典:エアアジア

エアアジアは、マレーシアを拠点とした格安航空会社で、業界で初めて低コスト・高効率のビジネスモデルを導入しました。

シンプルな航空路線や航空機、効率的なチケット販売、追加サービスの有料化などを通じて運用コストを削減し、その結果を低価格の航空券として顧客に還元しています。これにより、エアアジアは南東アジアの航空市場で大きな市場シェアを確保し、低価格航空会社 (LCC) のモデルケースとなっています。

事例:アルディ

(出典:ALDI

アルディはドイツ発祥の食料品チェーン店で、コストリーダーシップ戦略の良い例です。

店舗設計の簡素化、限られた商品ラインナップ、包装の省力化、プライベートブランド商品の積極的な取り扱いなどにより、運用コストを大幅に削減しています。その結果、アルディは他のスーパーマーケットよりも大幅に安い価格で商品を提供でき、消費者からの高い評価を得ています。

まとめ

ポーター氏は、「企業は最高を目指す競争ではなく、収益に注目すべき」「価格とコストに集中せよ」と述べています。

「利益=価格-コスト」というシンプルな商売の原則を忘れずに、低コスト化を追及し、不況にも競合との価格競争にも強い企業になりましょう。

コストリーダーシップ戦略は、規模の大きな企業に向いている戦略と言われます。しかし、コストリーダーシップを追及する手法の数々は、どのような規模の企業でも役立ちます。