多くのBtoB企業が競争の激しい市場で差別化を図るために、ユーザーエンゲージメント(ユーザーが企業やブランドに関わり、関心を持つ度合いを示す指標)に注力しています。ユーザーエンゲージメントのカギを握るのが「アクティブユーザー」です。特に、Googleが提供する解析ツール「GA4」の完全移行により、アクティブユーザーを耳にする機会が増えました。
一方で、Webマーケティングに慣れていない方からは「その特徴や重要性についての理解が曖昧」という声をよくお聞きします。アクティブユーザーの特徴やユニークユーザーとの違いなどを理解しなければ、適切な分析や改善策の立案につなげるのは難しく、結果的に顧客との長期的な関係性を築くのが困難になります。
そこで本記事では、アクティブユーザーの特徴やユニークユーザーとの違い、アクティブユーザーを知るメリットから増やす方法まで幅広く解説します。
本記事を読めば、アクティブユーザーを増やす重要性を理解したうえで、具体的に何をすべきかがわかるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
アクティブユーザーとは、特定の期間にWebサイトやアプリなどを利用しているユーザーのことです。「Webサイトにアクセスしてコンテンツを閲覧する」「アプリを起動する」などの行動をしたユーザーが計測対象となります。簡単に言い換えれば、「日常的に自社と接点のあるユーザー」ともいえます。
アクティブユーザーは「AU(Active User)」と略されることが多く、計測する期間によって以下の種類に分けられます。
ユーザーがどれくらいの頻度で自社サービスに接することが望ましいかは、Webサイトやアプリによって異なるため、用途や目的に応じて注目するアクティブユーザーを変えるべきです。たとえばSNSアプリであれば、毎日起動することが望ましいため、DAUに注目することに意味があります。
一方、旅行予約サイトであれば、毎日のアクセスは期待しにくいです。月に1度利用されていれば十分満足できる場合が多いため、MAUを重視するとよいでしょう。
アクティブユーザーは、1日や1カ月といった「期間」とセットで考える指標であることが重要なポイントです。
アクティブユーザーと混同しやすい指標として、「ユニークユーザー」があります。
ユニークユーザーは「UU(Unique User)」と略され、特定の時間内に一度以上Webサイトやアプリへ訪問したユーザーのことです。
同じユーザーが何度アクセスしても、重複してカウントしないという特徴があります。たとえば1日に同じユーザーが3回Webサイトにアクセスした場合、ユニークユーザー数は1人、セッション数(アクセス回数)は3回となります。
一方、アクティブユーザーは単にアクセスしただけではなく、実際にコンテンツを閲覧するなどのエンゲージメント行動をするユーザーのことです。たとえば、別タブでウェブサイトを開いたとしても、実際にコンテンツを閲覧しなければアクティブユーザーとはみなされません。対して、数秒間でもコンテンツを閲覧すれば、アクティブユーザーとしてカウントされます。
まとめると、ユニークユーザーはWebサイトやアプリなどのアクセス者数を示す「集客」の指標であり、アクティブユーザーは実際にWebサイトやアプリを使うユーザー数を示す「エンゲージメント」の指標です。
それでは、なぜBtoB企業やSaaS企業がアクティブユーザーを把握するべきなのでしょうか。企業にとって、アクティブユーザーを把握することは大きな意味があります。そのメリットは以下の4つです。
ここからは、各メリットの詳細を見ていきましょう。
定期的にWebサイトを訪れたり、アプリを利用したりするリピーターを増やすことは、業界・業種によらず重要です。アクティブユーザーを知ることで、リピーターがどれだけいるかを大まかに把握できます。
もしリピーターが多く、ユーザーの定着率が高ければ、アクティブユーザー数はどんどん増え、Webサイトやアプリにとって、望ましい状態だといえます。
一方、広告などで集客に注力しているにも関わらず、アクティブユーザー数がほぼ一定かむしろ減っているのであれば、リピーターが少ないと判断できます。この場合、リピーターを増やすための施策を考えて、実行すべきでしょう。
アクティブユーザー数を見ることで、リピーターの数を把握し、効果的な対策へとつなげられます。
アクティブユーザーを他の指標と組み合わせれば、現状をより正確に把握できます。
BtoB企業やSaaS企業では、Webサイトに関して「ページビュー(PV)数」や「セッション数」を重視してチェックしている場合が多いでしょう。たしかに、これらも重要な指標ではあります。
しかし、PV数やセッション数は、1人のユーザーが何度もWebサイトにアクセスすることで、どんどん増えていく数字です。こうした値だけチェックしていると、Webサイトの現状を勘違いしてしまう可能性があります。
たとえば「PV数が順調に増えている」と喜んでいても、実際は限られたユーザーが何度もアクセスしているだけかもしれません。この場合、もっと幅広いユーザーに見てもらえるように改善が必要でしょう。
PV数やセッション数だけでなく、重複が除かれた数字であるアクティブユーザー数も合わせて確認することで、サイトの現状をより正確に把握できます。
アプリがダウンロードされたり、アカウントが作成されたりしても、その後に放置されることはよくあります。放置を防ぐための施策の効果を確認できることが、アクティブユーザーを把握するメリットです。
たとえばMeta社のSNS「Threads」はリリースから5日で1億人を突破し、ピーク時には約4400万人のアクティブユーザーがいました。しかし、リリースから約1カ月後にはアクティブユーザー数が約800万人まで減少し、ユーザーが定着する施策が必要な状態です。
アプリはダウンロードされるだけでなく、定期的に起動してもらってこそ、大きな効果が見込めます。
アプリの起動を促すには、お得な情報を届けたり割引クーポンを配布したりして、見込み客がアプリをチェックしたくなる工夫をすべきです。そして、そうした施策に効果があったかどうかは、アプリのアクティブユーザー数の変化で確認できます。
もしアクティブユーザーが従来より増えたのであれば、実行した施策を継続するのがよいでしょう。一方、アクティブユーザー数に変化がないか減った場合には、施策を中止して別のことを試した方がよいと判断できます。
アクティブユーザーを知ることは、マーケティングにおける次の行動方針を決めるために役立つのです。
アクティブユーザーの動きをみれば、見込み客が行動を起こす時期やインサイトなどが分かります。たとえばターゲットが人事関連業界に属しているのならば、3月や4月に入社・退社関連のコンテンツへのアクセスが多くなるかもしれません。
実際にアクティブユーザー数の増加を確認できたら、見込み客は積極的に情報収集しているということなので、リード獲得施策に注力するなどに活かせるでしょう。
ここからは、Googleが提供するアクセス解析ツール「GA4」でのアクティブユーザーの調べ方をご紹介します。なお旧モデルの「UA」では総ユーザー数に焦点が当てられていたのに対し、現行のGA4ではアクティブユーザーを中心に置いているため、UAよりもアクティブユーザー数が多くなる傾向にあります。
それではGA4でのアクティブユーザーの調べ方を見ていきましょう。GA4では、エンゲージメントレポートでアクティブユーザーのデータを確認できます。
GA4にアクセスしたら、左側のサイドバーにある「レポート」タブをクリック
「ライフサイクル」 > 「エンゲージメント」の順にクリックして、エンゲージメントの概要タブを開きます。
すると、様々なレポートのスナップショットが表示されます。ここでは、アクティブユーザーを見る際に重要な2つのレポートをご紹介します。
「ユーザーのアクティビティの推移」は、エンゲージメントの概要をスクロールすることで発見できるレポートで、以下3つのアクティブユーザーの推移を示します。
「ユーザーのアクティビティの推移」を見れば、簡単に特定の期間中に訪問したアクティブユーザーを確認できます。また、アクティブユーザー数を時系列で比較することで、サイトやアプリの維持率の把握や、ユーザーがサイトに再訪問する頻度の確認も可能です。
たとえば、数週間前に新たなマーケティングキャンペーンを開始したとします。ユーザーのアクティビティの推移を確認し、7日間や30日間のアクティブユーザーが増加していれば、何らかの効果があったと分かります。
このレポートを見れば、ユーザーをどれだけ維持できているか一目で把握できるため、定期的に確認するようにしましょう。
「ユーザーのアクティビティの推移」の隣にあるのが「ユーザーのロイヤリティ」です。これは、長期間と短期間におけるアクティブユーザーのエンゲージメントを比較したグラフで、以下の比率で構成されます。
チャートにカーソルを合わせると、日付に基づいたデータが表示されます。比率が高いほどエンゲージメント率と定着率が高く、ユーザーがサイトやアプリに定期的に戻ってきていることを意味します。
BtoB企業やSaaS企業がアクティブユーザーを増やす主な方法は以下の通りです。
それぞれの方法についてみていきましょう。
コンテンツマーケティングとは、見込み客にとって有益な情報を継続的に提供することで自社のファンになってもらい、製品サービスの販売につなげる手法です。
Webサイトやアプリで定期的にほしい情報が更新されていれば、見込み客はWebサイトを訪れたりアプリを起動したりして、熱心にチェックしてくれるでしょう。
(ベーシックのオウンドメディア「ferret」)
たとえば、マーケティング支援を行っている株式会社ベーシックは、オウンドメディア「ferret」を運営しています。
マーケターにとって役立つ記事を頻繁に投稿することで、「毎日欠かさずferretをチェックする」というアクティブユーザーを獲得しています。
(Webマーケティングツール「ferrert One」)
自社に関連したコンテンツに興味を持つアクティブユーザーは、製品サービスの購入につながりやすいことも重要なポイントです。ベーシックは、Webマーケティングツール「ferret One」を提供しています。
毎日ferretをチェックするマーケターの一部は、マーケティングツールの導入にも興味を持つと見込まれるので、「ferret One」との相性は非常によいです。自社の製品サービスに合わせたコンテンツを作成するうえで、参考になる事例だといえるでしょう。
新たにオウンドメディアを立ち上げなくても、自社の公式サイトを頻繁に更新して有益な情報を提供するだけで、コンテンツマーケティングは可能です。まずはできることから着手することをおすすめします。
SEO(Search Enjine Optimization:検索エンジン最適化)とは、GoogleやYahoo!の検索エンジンの結果画面に、自社サイトを上位表示させる施策のことです。BACKLINKOが400万件以上のGoogle検索結果を調査した結果によれば、1位記事の平均クリック率は27.6%とのこと。
たとえば月間検索ボリューム1万回のキーワードで1位を獲得できれば、2760回のオーガニック流入を見込めるわけです。
SEOの効果は即時的なものではありませんが、長期的に持続すると成果をもたらします。WACUL株式会社の調査では、コンテンツ本数の増加に伴い訪問数も増加すると判明。ユーザーにとって有益で質の高いコンテンツ制作を続ければ、継続的にアクティブユーザーを獲得できるでしょう。
データベースマーケティングとは、買い手の個人情報や購買履歴などのあらゆるデータを活用して、一人ひとりに合わせて最適なアプローチをする手法です。買い手との長期的な関係を維持するために用いられます。
蓄積したデータに基づいて買い手を分類することで、アクティブユーザーを増やすための効果的な施策を考えられます。
たとえば、アプリの使用状況を分析すれば「最近アプリを起動していないユーザー」の特定が可能です。さらに購入履歴のデータから、そのユーザーが興味を持ちそうな製品サービスも予測できます。
こうしたデータに基づいて、新製品の情報や割引クーポンなどをスマートフォンのプッシュ通知で送れば、高い確率でユーザーに関心を持ってもらえるでしょう。通知をきっかけにしてユーザーがアプリを起動すれば、自社との関係が復活するのです。
顧客データを保有しているにもかかわらず、有効活用できていないBtoB企業は多いのではないでしょうか。データを整理して活用することで、大きな成果につながる可能性があります。
アクティブユーザーを増やすためには、PRや広報活動に注力することも有効です。
見込み客は日々、大量の情報に接しています。そのため、せっかく自社に興味を持ってくれたとしても、すぐに忘れられてしまうものなのです。
PRや広報活動によって自社のことを思い出してもらうことで、Webサイトへの再訪問やアプリの起動などの行動につなげられるでしょう。
FacebookやX(旧Twitter)、Instagram、YouTubeなどのSNSを運用すれば、自社を認知していないターゲットと接点を構築し、興味関心を持ってもらい、自社サイトに訪問してもらえるようになります。
ブランドの公式SNSを開設するほか、サービスを売りにしているBtoB企業においては従業員が情報発信をし、ブランドの認知度向上につなげているケースは多々あります。そのよい例は、株式会社才流やベイジ株式会社です。特に両社の代表は、X上で多くのフォロワーを抱えています。
各従業員が有益な情報発信やオウンドメディアのコンテンツをシェアしており、従業員がブランド認知の入り口となっていると考えられます。
リスティング広告やディスプレイ広告、SNS広告などのWeb広告もアクティブユーザーを増やすのに有効な施策です。Web広告の特徴のひとつに、高精度のターゲティングがあります。ユーザー属性や興味関心、行動などを指定したうえで広告配信できるため、自社と関連性の高いユーザーに効率よくリーチすることが可能です。
数あるWeb広告の中でもリスティング広告は、悩みや課題が明確になっている「顕在層」にリーチできるため、短期間でのアクティブユーザー数の増加を見込めます。また、Web広告は1日当たり1000円以下などの少ない予算でも出稿可能なため、予算の限られた企業でも取り組みやすいです。
一方、広告を配信し続ける限り、当然ながら広告費が発生するというデメリットがあります。Web広告にだけ依存するのではなく、SEOやオウンドメディアなどの中長期的な施策も併用する必要があります。
マス広告とは、テレビや新聞、雑誌などのマスメディアに出稿する広告です。昨今、BtoB企業でもマス広告に注力する企業が増えています。マス広告のメリットは、あらゆる層にアプローチできる圧倒的なリーチ力でしょう。そのため、迅速なスケーラビリティが必要な成長中のサービスの認知拡大に向いています。
たとえば、名刺管理ツールを提供するSanSanは、2013年よりテレビCMの放映に取り組んでいます。Sansanといえば「それ、早く言ってよ〜」のCMを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。2007年創業のSansanが事業フェーズの早い段階でテレビCMの放映を開始したことで、迅速に認知の獲得をし、アクティブユーザー数の増加につながったと考えられます。
マス広告のデメリットは、多額の投資が必要なことです。テレビ離れやWeb広告の普及などを踏まえると、単にリーチ獲得を目的にするのではなく、リーチ獲得をして何を達成したいのかという目標を明確にしたうえで、マス広告は使用するべきでしょう。
BtoB企業において、セミナーやイベントへの露出は重要な集客施策となっています。アクティブユーザー数の増加が目的ならば、潜在顧客を対象にしたノウハウ・最新トレンド紹介やゲストスピーカーとしての登壇、共催などが有効です。
セミナーやイベント開催において、最も重要なのはテーマ設定。WACUL株式会社がBtoBオンラインイベントの参加者を対象にした調査によれば、ほぼ全員(99.4%)が「業務に役立つノウハウや事例を知るため」にオンラインイベントへ参加したことがあると回答しており、役立つ情報・目新しい情報を見込み客に提供することが大切です。
(出典:WACUL株式会社)
また、セミナーやイベントは直接顧客と対話できる貴重なチャネルです。Merkleの調査では、BtoB企業の成功には「信頼」「安全性」「優れた顧客体験」が不可欠であると判明しました。セミナーやイベントなどへ露出すれば、顧客と直接対話をし、効果的に信頼関係を築けるでしょう。
アクティブユーザーとは、製品やサービスを日常的に使うユーザーであり、顧客と長期的な関係を築くうえでの重要な要因です。アクティブユーザーが高いエンゲージメントを持ち、製品サービスを頻繁に利用すれば、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上やアップセル/クロスセルの増加へとつながるでしょう。
まずはSEOやWeb広告、セミナーの開催などをして、アクティブユーザーを増やしましょう。それからアクティブユーザーのデータを分析し、パーソナライズ化した顧客体験やサポート、ニーズに合わせたアップデートなどを提供して、顧客のロイヤルティを高めます。そうすることで、顧客と長期的な関係性を築け、競争の激しい市場においても継続的な成長を実現できるでしょう。