営業プロセスの最適化、見える化は、営業担当者の育成や営業チームの生産性向上など、さまざまなメリットがあります。
例えば、ハーバード ビジネス レビュー (HBR) の調査によると、標準化された営業プロセスを導入している企業は、そうでない企業に比べて収益が最大28% 増加しています。
日本でも「FORCAS.com」が、大手BtoB企業に対して実施してまとめた『営業企画白書2023』において、営業DXにおける重要テーマの第1位に「営業プロセスの効率化」が上がるなど、その重要性は強く認識されています。
しかし、ゼロから営業プロセスを作ろうと思うと、難しさや面倒さを感じる方もいるのではないかと思います。そこで本記事では、営業プロセスの見える化の方法と、営業プロセスのフロー図作成のステップを解説します。
営業プロセスとは、営業リスト作成、アポイント取得、商談、成約などの一連の営業活動のプロセス(工程)を指します。営業プロセスの見える化とは、営業活動を各工程にわけて図示化することであり、一般に5〜8プロセスに分けた図になります。
近年はデジタル営業が普及しており、昔とは異なる営業プロセスを採用する企業が増えてきました。例えば、HubSpotの2022年のレポートでは、今やハイブリッド営業を導入している企業が50%を占め、もはやスタンダードになっています。
多様な営業プロセスが考えられますし、各工程をどの部署が担当するのか、リード獲得までにどのような手法をとるのかなどの最適解は、自社で出していく必要があります。
(出典:HubSpot)
参考までに、BtoBとBtoCの基本的な営業プロセスを解説します。
BtoCの営業プロセスとは保険、不動産、自動車など一般消費者に対して営業するプロセスです。
BtoC営業の場合、見込み客は自分もしくは家族のために商品を購入するため、購入基準に個人の好み、センス、感情などが強く影響します。購入までに要する期間は比較的短く、場合によっては即決となります。
営業の流れとしては、販売店舗に来店するパターン、顧客宅に架電して営業するパターン、HPからの問い合わせから商談に入るパターンなどがあります。
例:BtoC不動産の営業プロセス
BtoB営業は企業に対する営業活動なので、BtoCと比較すると取引額が大きく検討に要する時間は長くなります。つまり、営業プロセスも長くなるのが特徴です。
購入判断基準はあくまでニーズと導入効果が重要視されます。大きい組織だと担当窓口、決裁者、実際の商品の利用者が異なることも多くなり、キーマンが複数存在します。そのため即決はまずなく、アポイントを取得してから成約までに複数回の提案、商談が必要です。
BtoB営業については、以前は営業部主導で行うアウトバウンド営業がメインでした。しかし近年は、マーケティング部門と連携したインバウンド営業もあわせて行うケース、あるいは完全にインバウンド型営業に切り換えるケースも増えています。
例1:BtoBアウトバウンド営業の営業プロセス
例2:BtoBインバウンド営業プロセス
見比べるとわかるように、アポイント取得までの手法は多様ですが、商談以降は同じようなプロセスをたどります。
営業用語には「営業プロセス」「購買プロセス」「商談プロセス」といった似た用語があります。ここでは一般的な定義を説明します。
購買プロセスは見込み客視点での商品購入にいたるまでのプロセスを指します。これは営業プロセスを逆の視点から見たものですが、意識しないと営業する側からなかなか見えない傾向があります。
購買プロセスを理解するには、購買心理のフレームワークを活用するとよいでしょう。
例えば、近年の企業の購買行動は、電通が提唱した以下のAISASモデルにかなり当てはまります。昨今の見込み客は、認知→興味・関心→リサーチ→行動(購入)→シェア(共有、商品評価をネットでレビュー)といった流れで、一般にはネット検索を行います。また、購入後の評価をレビューサイトに書き込むこともあります。
発注担当者の具体的な行動としては、まず課題・ニーズを認識し、社内でニーズがどの程度の強さかヒアリング。その解決のためのサービスを探し、機能や価格、レビューサイトの評判などをもとに数社程度に絞り込み見積もり依頼。最終的に1社に決定して稟議起案し、承認が下りたら発注決定という流れです。
購買プロセス
商談プロセスは、営業プロセスの一部である「商談シーンのみのプロセス」です。
営業プロセスは、一般には営業リスト選定〜アプローチや成約後のフォローまでを含む長い工程ですが、商談プロセスは1時間程度でおわる1回の商談のプロセスです。
言うまでもなく商談のフェーズは営業プロセスの山場。特に重要なので別個にプロセスを作成することが一般的です。
商談プロセスが可視化されていないと、一見同じように商談をしているように見えても、営業担当者によってヒアリングすべきことを聞かずに、的のはずれた提案をしてしまったり、速すぎるタイミングでクロージングしてしまったりします。
理想的な商談プロセスを提示することで、誰もが一定のプロセスにそって商談を進められ、結果的に成約率の向上につながります。また、課題や成果のイメージのすり合わせができるので、受注後のギャップによりクレームをいただくような事態を避けることができるでしょう。
初回商談プロセスの例:
営業プロセスを可視化し、社内全体で共有することで得られるメリットを説明します。
営業プロセスが可視化されていると、基本的な営業活動のプロセスを営業チームのみなが理解することができます。
もちろん、営業は相手あっての仕事なので、完全に図のとおりには進まないこともあります。ただ、ロードマップが提示されていることで、営業担当者は次のステップがわかり必要以上に迷いません。複数の案件を自分でマネジメントすることも容易になります。
営業活動の標準化によるメリット
一般に営業プロセスは優秀な営業担当者のアクションをモデルにして作成するため、そのまま育成ツールとして使えます。
学校しか知らない新卒社員は、企業組織のルール、慣習、時間軸がわからず、しばしば判断を誤ります。営業経験のある転職者でも、以前の業界での営業プロセスをそのまま持ち込んでしまい上手くいかないことがあります。
その業界では発注担当者が一般に検討期間にどのくらいかけるか、ヒアリングでは何を確認すべきかなど、各プロセスで行うべきことが明確に可視化されていることで、新人の仕事のしやすさが変わってきます。
図で可視化されたプロセスのため営業マネージャーも説明がしやすく、指導にかける時間を減らすことができるでしょう。何より、成果を上げている優秀な営業担当者の行動パターンが共有されるので、チーム全体がスキルアップします。
営業プロセスは、顧客の購買プロセスの変化に伴い常に見直す必要があります。漠然と営業していると営業活動の見直しはなかなか難しいのですが、営業プロセスを一度可視化していると、自社の営業活動のどのプロセスに課題が出てきたか把握できるため、速やかに営業プロセスをバージョンアップできます。
課題の例:
営業プロセスをマーケティング部門、カスタマーサクセスチームなどの隣接する部門にも共有しておくことで、社内のコラボレーションがスムーズになります。
特にハイブリッド営業のプロセスは、マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスなどの複数部門が分業して行うので連携が大事です。
社内的にはマーケティング部門が集客してリードを獲得し、選定し、有望リードをセールス部門に引き渡す。営業やインサイドセールスがメールや電話でアポイントを取得し、商談し提案、受注にいたると分業されていますが、お客様から見れば一連のプロセスにすぎません。関連部門すべてが、以下のような全体像を把握しておくべきです。
分業型の営業プロセス
営業プロセスを作成するメリットは数多いものの、現実には、作れていない企業も少なくありません。実際、ウイングアーク1st株式会社の「営業組織の予算達成に関する実態調査2023」を見ると、営業活動を完全可視化できているのは約4割にすぎません。
その理由として「プロセスの定義がされていないこと」「属人化によって一定成果が出ていること」「判断材料となるデータがないこと」などが上位にきています。
(画像出典:ウイングアーク1st株式会社)
そこでここでは、営業プロセスを分析し、各プロセスを定義していくステップを解説します。
まずは、現在の営業活動の棚卸しから始めます。営業担当者をヒアリングし、手法とアポイントにいたる率、初商談〜成約につながるまでの面談回数、成約までの時間などをできる限り数値で把握します。最初はとりあえずできるだけ現場にある営業パターンを書き出しましょう。
オンライン営業主体の企業、対面営業主体の企業、ハイブリッド型で両方のスタイルをとっている企業などいろいろですが、おそらく基本は以下のプロセスであり、これに長さを継ぎ足したり、より細かく工程を分けたりするとパターンが作りやすいでしょう。
成果を上げているプロセスに共通しているところ、商談化、受注につながった手法などを抽出していきます。
例えば以下のように、棚卸した項目の中からどれが効果的か判断して、成果につながりやすい手法を抽出します。
チェック項目の例
Q.現在、効果の出ている営業手法はどれか?
Q.問い合わせ客に連絡するタイミングは?
Q.信頼関係醸成フェーズで有効な手法は?
Q.提案機会を得るまでに得たコンタクト回数は?
できるだけ、成果を上げている営業担当者が有効だと述べる方法をヒアリングし、現場から提案してもらうことがポイントです。意見をもとにピックアップし、有効な営業プロセスを作成していきましょう。何パターンか作っても問題ありません。
抽出した要素をもとに、営業プロセスの流れを構築(再構築)したら、必ずお客様の視点で営業プロセスを見直すことがポイントです。
お客様の時間軸、お客様の心理プロセスに沿うためには、購買心理、購買行動の流れにあわせて営業プロセスを対比させながら、営業プロセスに無理がないかチェックしましょう。
実際に営業プロセスを見える化し営業担当者に活用してもらったら、定期的に効果があるかどうか、役に立っているかの検証を行います。
必要に応じて打ち手の変更をおこなうことも大切です。特に昨今は、顧客の購買行動がかなりデジタル化しています。リモートワークが普及しているため、業界によってはアポイントをストレートにとりづらくなっているケースもあるでしょう。
非効率な部分は代行会社を活用したほうが効率的かもしれません。今後はAIによるテレアポサービスが出てくる可能性もあります。新しいサービス、テクノロジーが登場するに伴い、営業プロセスと担当メンバーも定期的に見直すとよいでしょう。
営業マネージャーが営業プロセスをマネジメントに活用する際のポイントを紹介します。
営業担当者によって強み・弱みがあります。例えば、アポイントの取得が得意な担当者もいれば、アプローチは苦手でも商談で受注を決めることが得意な担当者もいます。ヒアリング力にたけて信頼されやすく、提案力が弱いのに受注が途切れない人もいます。
営業マネージャーは標準的な営業プロセスを踏まえた上で、営業担当者にある程度裁量権を与え、得意な方法で実施してもらうことがポイントです。
また、現場ではときに営業プロセスを調整する必要が発生します。架電しオンライン商談というプロセスを組んでいても、大顧客になりえるリードが直接会いたいという意志を示したのであれば、当然対面しておいたほうがよいでしょう。ただし、営業プロセスを調整した場合は、その変更点を記録するように指導しましょう。
チーム全員が標準化された動きをするため、営業実績をプロセスごとにみると組織全体のボトルネックが把握しやすくなります。組織の課題がある工程を特定し対策すると、部門全体での売上げアップが実現できるでしょう。SFAやCRMで営業プロセスを可視化していれば、計算もすぐできますし、グラフでわかりやすく可視化できます。
営業プロセスを見える化し、それぞれの工程に分けると、営業担当者の行動管理を標準化できるのでKPI設定がしやすくなります。どのプロセスをどの部門が担当するかは企業によりさまざまですが、以下に2パターンの例を紹介します。
アウトバウンド型セールスのKPI
The Model型組織のKPI
※1の段階での関心度合によって、2〜4のいずれかのフェーズに移行
営業プロセスを見える化すると、個々の営業担当者の無駄なプロセスを削減することができます。
例えば、ヒアリング過程でBANT条件(予算、決裁権の有無、ニーズ、導入タイミングの確認)を設定すると、核心に触れない話に終始して情報提供ばかりしすぎるような無駄なプロセスを減らせるかもしれません。
無駄なプロセスの例
無駄な活動をしている営業担当者は一人、二人ではおそらくないため、トータルではかなり効率化されるでしょう。効果的な手法と非効率な手法も把握しやすくなるため、無駄なアプローチ手法を減らし、営業担当者には成果の出やすい営業プロセスに沿って動いてもらいましょう。
営業プロセスはブラックボックスになりがちであり、成績がよい営業担当者とそうでない営業担当者の違いが、なかなか外からわかりづらい傾向がありました。
しかし、長い営業活動も分解してしまえば、多くのプロセスが実はシンプルなタスクです。営業プロセスを可視化し、事例を用意し、メール文などをテンプレート化すれば、それだけで多くの営業担当者は、スムーズに営業活動ができるようになるでしょう。
これまでローパフォーマーだった担当者が実は小さなことでつまづいており、疑問が解けることで大化けする可能性だってあります。少し細かく面倒な作業が必要ですが、この機会にぜひ営業プロセスの可視化に取り組んでいただければ幸いです。