4P(マーケティングミックス)は、基本フレームワークであり考え方はシンプルなフレームワークなため、多くのシーンで活用できます。
しかし、マーケティング戦略の目的、商品・サービスの市場でのポジション、企業の強み・弱みによって、活用パターンがさまざまであるからこそ、理屈はわかってもいまひとつ実務に落とし込みづらいと感じるマーケターの方もいるかもしれません。
そこで、本記事ではマーケティング4Pの分析事例と考察を8社紹介します。近いフェーズにある、近い課題を抱えている、ここは真似できるという視点で読んでいただければ幸いです。
「4P(マーケティングミックス)」とは、1960年に米国の経済学者Edmund McCarthy(エドモンド マッカーシー)氏が提唱したフレームワークです。
経営戦略やマーケティングの戦略を立てるときに、「プロダクト(Product)」「プライス(Price)」「プレース(Place)」「プロモーション(Promotion)」という重要な4つの要素を組み合わせて考えて戦略を決めるためのフレームワークであり、各単語の頭文字をとって略称で「4P」と呼ばれます。
簡単に言えば、4つのPのバランスを見ながら各Pを決めるということです。4つのPの意味を解説します。
Product(プロダクト)とは、企業が提供する製品やサービスを指します。何を世に提供するのか? ということは、一般には事業スタート時真っ先に考えるテーマであり、4Pにおいて最も重要な要素です。
具体的には、どのようなコンセプトの商品にするか、どんな機能を目玉にするか、どの程度の品質にするか、デザインをどうするか、パッケージをどうするか、保証をどのくらいつけるかなどを決めます。
プライスとは価格のことです。4Pを使ったプライス設定は、ほかの3つのPである機能や品質とのバランス、進出するプレース、かかるプロモーション費用なども考慮して決めます。
また、支払い方法(現金、クレジット、デジタル通貨)や、割引率、代理店へのマージン率なども決めます。
なお、価格戦略はいくつかの手法があり、業態や市場状況によって適した価格設定は違います。高価格路線か低価格路線かなどはその企業のブランディングも影響するので、自社哲学を4Pの前提として理解しているとよいでしょう。
プレース(場所)とは、市場の範囲やそれまでの流通の場を意味します。例えば、店舗や営業所、販売店(あるいは代理店)など製品・サービスを拡販できる流通チャネルのことです。
また、4Pのプレースにはどこで商品を見つけて入手できるかという利便性も含まれます。インターネット登場以降は、リアルとオンラインとの連携のスムーズさなどもプレースの範疇です。
プロモーションとは、宣伝、広告、直販、ダイレクトメール、イベントなど顧客にアプローチする手法のことです。営業活動も含まれます。プロダクトのターゲット市場にあわせて、適切なチャネルを選定し、さまざまな手法で見込み客や顧客とコミュニケーションをとることです。
ここでは、BtoC企業3社とBtoB企業4社を4P分析してみます。
スターバックスは世界最大のコーヒーチェーン店であり、コーヒーチェーンのトップブランドです。
Product(製品):
スターバックスのプロダクトのコアはコーヒー。「スペシャリティコーヒー」という高品質でコストも高いアラビカ種のコーヒー豆を使い、味で差別化しています。
そのほか、ティー、ブレッド、ぺティストリー、スムージー、サンドイッチ、パスタ、各種グッズなど多岐にわたる商品を展開していますが、いずれも顧客が満足する品質を提供しています。
何よりスターバックスのプロダクトの特徴は「サードプレース(第3の場所)」というコンセプトが示すように、店舗の雰囲気、店舗での体験が含まれていることです。
高級ホテル、高級レストランのようにサービス産業では空間そのもの、雰囲気がサービスに含まれますが、コーヒーチェーン業界でこのような高品質なサービスを提供できているのがスターバックスの強みです。
あまり内情は公開されていませんが、出身者の書籍によると社内に46のルールが存在し、カスタマー エクスペリエンス コンサルティング会社の分析では綿密な顧客体験が設計されています。
Price(価格):
スターバックスはプレミアム価格戦略(一般的な製品より高品質、ブランド価値がある商品に対して高めの価格を設定する)をとっています。
例えば、コーヒーはショートで350円。フラペチーノは450〜800円弱と高め。日本では女子高生が気軽に買える価格ではありますが、新興国では労働者の日給ほどの価格になる場合もあります。それでも先進国同様に若者に人気です。これはプロダクトの品質と顧客体験が、価格と釣り合っていることを意味します。
実はスターバックスも一度だけ値下げをしたことがあるそうですが、マイナスの影響が大きくそれ以降は一貫して値引きなし、高価格路線です。
Promotion(プロモーション):
テレビCMや派手な広告を打たず、店を起点としたプロモーションが中心です。店舗デザイン、内装、カップ、紙袋、ロゴなどのクリエイティブに力を入れています。
エリア依存のビジネスでテイクアウトの多いコーヒー店。店舗やパッケージデザインがそのままプロモーションの役割を果たします。そんな中、スターバックスは店舗デザインを進化させ続け、効果をあげているのです。
デジタル領域ではSNSマーケティングに力をいれています。また、Starbucks Rewards、Mobile Order & Pay、Starbucks Deliversなどで利便性を向上させています。
Place(流通):
スターバックスはアメリカ、中国をメインの市場とし、2022年時点で世界 84 カ国 34630 店舗を展開。ライセンス店舗がポートフォリオの50%以上を占めます。そして2025年末に4万5000店舗、2030年には5万5000店舗に到達すると公表しています。
(出典:株式会社良品計画)
無印商品(海外では「MUJI」)は、西友のプライベートブランドとして生まれた日本発の世界で愛されるグローバルブランドです。
Product(製品):
日用品、衣料品、食料品、家具ほか約7000品目と多彩なラインナップを扱っていますが、いずれもシンプルで機能的なデザインと、価格の割に高品質なところが特徴です。
無印良品とは「しるしの無い良い品」という意味です。最初に形が不揃いの「われシイタケ」を発売したころから、素材にこだわり、紙の原料パルプを漂白しないままのベージュ色を活用するなど工程のムダをはぶき、包装を簡素にしたプロダクトを展開しています。
今でいうエシカルブランド、サステナブルブランドの元祖であり、商品開発についてはシンプルに美しい暮らしを願う顧客との共創をかかげ、年8000件以上寄せられる要望を企画に活かし続けています。
Price(価格):
「わけあって、安い。」をキャッチコピーにしてスタートしたころから、常に合理的な安さを追及してきました。現在は格安ファッションの登場により安さが目立たなくなりましたが、品質の割に価格は低めに設定されています。
無印良品の価格と品質のバランスについては、こちらの「GUさんとの比較動画」がとてもわかりやすいです。見た目がほぼ同じリュックでも2社の思想の違いが細部に表れています。
2022年以降は円安などの影響で値上げに踏み切りましたが、同時に新しい低価格商品を導入。9月には500円以下の商品に絞った新業態「無印良品 500」をオープンするなど、消費者の財布に配慮した価格ラインナップを展開しました。
2023年8月期上期は「10年で利益率が1番低い」という結果になったものの増収しています。
Promotion(プロモーション):
無印良品のプロモーションは、プロダクトをうたわないところが特徴です。「感じ良い暮らしと社会」へ向けてグローバルに貢献するという思想のもと、あくまでシンプルなライフスタイルを志向する層に訴求するプロモーションを実施しています。
デジタル領域では、専用アプリ「MUJI passport」でレビューを書くとポイントがたまり、レビューの内容が研究所に連携されさらに商品開発にいかされるという、SNS社会に適したプロモーションが行われています。
Place(流通):
2022年8月時点で、国内532店舗、海外604店舗と海外のほうが店舗数が多くなっています。専用アプリ「MUJI passport」も2020年時点で世界累計6978万回ダウンロードされており、オムニチャネルのハブとして各国の顧客の利便性を向上させています。
(出典:無印良品)
(出典:Panasonic)
近年は、可愛らしいロボットや役に立たないロボット市場が広がっています。2023年に5月にパナソニックから発売されたコミュニケーションロボット「NICOBO(ニコボ)」は、クラウドファンディング「Makuake」で目標320体の販売を6.5時間で達成した人気ぶりで、国内外から注目を集めました。
Product(製品):
NICOBOは人の顔や表情が分かり、2歳児程度の聞く・話すができるコミュニケーションロボットです。NICOBOはこれまでのコミュニケーションロボットに比べると際立った可愛さが特徴。
アイボ、ロボホン、弱いロボットの先行Muu、あわわ、ロミィなども一定の層を惹きつける可愛さがありますが、NICOBOは多くの一般人の「欲しい」を誘発する優れたデザイン。また、ロボットぽくなく一般家庭のインテリアと調和する色合い、サイズです。
その可愛さを支えるのは最新テクノロジー。ユーザーにとって役立つ機能はないものの、NICOBOにはカメラと顔認識・感情技術、独自開発のエモーショナルエンジンが搭載されています。
Price(価格):
NICOBOの値段は、6万500円+月額1100円。12カ月以内に解約すると中途解約金1万1000円。任意のケアプランが月額550円です。この価格は、コミュニケーションロボット市場ではかなり安めの価格(ロボホン14万5200円〜、アイボ月8900円×48回払い)です。
とはいえ、何もできないロボットに6万円を出せるのは、現状いわゆるアーリーアダプター層までであり、一般家庭に広く行き渡る価格ではないでしょう。家庭用ロボット市場は、2027年には219億4000万米ドルに達すると予測されるビッグ市場。さまざまなロボットの在り方が想定できるなか、テストマーケティング的な意味合いのプロダクトであり価格設定だと考えます。
Promotion(プロモーション):
NICOBOはクラウドファンディングからスタートしたプロダクトであり、2022年6月に支援者向けに出荷されたタイミングで、スマホアプリや公式SNSがスタートしました。
Instagram、Twitter、Facebook、YouTubeなどのSNSでは、「ニコボとの暮らしをテーマ」にした投稿をしています。本体の可愛さや機能よりも、NICOBOがそこにいるライフスタイル、空間の雰囲気を伝えるプロモーションです。
Place(流通):
Wi-Fiがつながる環境とスマートフォンがあれば活用できるため、全国で流通可能。2023年5月16日から公式Webサイトで一般購入の注文受付を開始しています。
(出典:HubSpot)
HubSpotは米国で生まれた、マーケティング、セールス、カスタマー サービス向けソフトウェアプラットフォームを提供するSaaS企業です。
Product(製品):
マーケティング、営業、カスタマーサポートなどのビジネス機能のすべてを1つのプラットフォーム上で提供しています。
スモールビジネス市場からスタートしたHubSpotは、ユーザーフレンドリーで直感的に使えるインターフェースが特徴。ITリテラシーがそれほど高くない層が手軽に必要なプランを活用し、ニーズに合わせて無理なく拡張できます。連携アプリ500以上とエコシステムも充実しています。
近年はエンタープライズ市場でもユーザビリティを高く評価されており、例えばSales Hub は、 G2 の 2022 年春の CRM グリッドで第 1 位 に選ばれました。2023年には、人工知能(AI)を搭載したツール「コンテンツアシスタント」と「ChatSpot.ai」をリリースするなど機能を拡張し続けています。
Price(価格):
無料版、スターター、プロフェッショナル、エンタープライズパッケージなど複数の価格帯があります。比較的低価格で、中小企業であればマーケティングオートメーションが月5400円、SalesHubが月2400円、CRM Suiteが月5999円からと始めやすい価格設定。
例えば、HubSpotのCRMは公開価格に必要な機能がすべて含まれており、営業対象の有料ユーザー数を増やした場合のみ追加費用が発生するなど、顧客にとってコストパフォーマンスが良い価格設定になっています。
無料プランの機能が非常に充実しているのもHubSpotの特徴です。
(出典:HubSpot)
Promotion(プロモーション):
HubSpotはさまざまなプロモ―ション施策を行いますが、インバウンドマーケティングの提唱者であるだけあり、特にコンテンツマーケティングに力を入れています。自社ブログやガイド、ホワイトペーパーなどのコンテンツを提供することで、ユーザーに価値を提供し、ブランド認知度を高めています。
Place(流通):
クラウド上でプロダクトが提供できるため、世界の120を超える国で展開しています。
広範なデジタルマーケティング代理店パートナーコミュニティを作っており、日本でもSMB市場向けコンサルティング会社、マーケティング企業、ベンチャーキャピタルなど124社以上のプロバイダー、パートナーと連携しています。
(出典:Salesforce.com)
Salesforceは、CRMを中心としたSaaSプラットフォーム企業です。SaaS業界のトップ企業であり、ソフトウェアベンダー業界というカテゴリーでも、近年はトップクラスに位置します。
Product(製品):
SaaS業界でもっとも高機能、多機能なプラットフォームを展開しています。また、6900 を超えるアプリケーションと連携が可能です。当初は営業領域が強いプラットフォームでしたが、近年はTableau(データ分析)、Slackなど次々と強力なサービスを統合した結果、活用領域がCRMを超えて広がっています。
2023年3月には、OpenAIとの連携により世界初のCRM向け生成AIテクノロジー「Einstein GPT」を発表。セールス、サービス、マーケティング、コマース、およびITインタラクションでAIが作成したコンテンツを提供できるようになり、操作性が向上しました。
Salesforceは、大手企業のさまざまなニーズに応えられる、堅牢でカスタマイズ性に優れた高度なツールであることが特徴。一方、その高度さ、複雑さのために活用する側にそれなりの知見や学習が求められます。
Price(価格):
SaaS市場でもっとも高機能、多機能なプロダクトであるため価格がもっとも高く設定されています。ユーザー単位で課金され、主要な機能の追加には別途料金がかかります。
Salesforceは、SaaS業界の後発企業がベンチマークしているなど、業界のプライスゾーンにも影響を与えるプロダクトです。ただ、スモールビジネス市場向けの安価なプランも用意されていますし、1カ月の無料トライアルも可能です。
Promotion(プロモーション):
Salesforceは、広告、CM、ビルボード、SNSマーケティング、ブログ、ウェビナー、ホワイトペーパー、Eブックなどのコンテンツマーケティングほか、多彩な手法で積極的にプロモーションを展開しています。
CEOのMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏は、書籍やカンファレンスで積極的に自身の哲学を発信し、社会からの信頼を築いていることもプロモーションの一部です。
イベント開催にも非常に積極的で世界各地で定期的に顧客やパートナー企業との大規模なイベントを開催し(コロナ以降はオンライン)、セールスフォースコミュニティのつながりを強固にしています。
(出典:セールスフォース・ジャパン)
最たる特徴は、積極的な営業アプローチかもしれません。大量の営業担当者が、Salesforcesを使いこなして実績を上げること自体、クライアントの信頼を高めています。大手のコンサルティング パートナー、デジタル エージェンシー、ソフトウェア ベンダーなど、パートナーも大手企業が並ぶ強力な布陣です。
Place(流通):
クラウドサービスなのでワールドワイドに展開。市場は北米が最大で、ほかには欧州、アジア太平洋、中南米です。直の営業部門と世界で400社以上のパートナー企業がSalesforceを拡販しています。
【考察】
HubSpotとSalesforceは、CRMを中心としたSaaSプラットフォームであり提供しているサービスのカテゴリーは似通っています。
スモールビジネス市場からスタートしたHubSpotは、必要な機能を直感的に使えるユーザーフレンドリーなSaaS。価格設定も中小企業に負担のかからない設定で、パートナー企業も中小企業IT支援企業が中心です。プロモーションもインバウンドマーケティング主体となっています。
一方、エンタープライズ市場からスタートしたSalesforceは、大手企業が求める高度なニーズに対応できるCRMプラットフォームとして進化したため、高機能で高価格です。パートナー企業もアクセンチュアなど大手市場の顧客を持つベンダーやコンサルティング企業であり、インバウンドマーケティング、アウトバウンドマーケティングを駆使したハイタッチなコミュニケ―ションをとります。
それぞれが市場を広げてきたため競合するシーンが増えているものの、元々の市場も、企業哲学が異なるため、2社とも自社独自のエコノミー圏を作り上げています。
(出典:株式会社デジタルレシピ)
Catchy(キャッチー)は、GPT-3を搭載した日本語文章作成アシスタントツールです。2022年6月にローンチし話題になりましたが、その後日本でもChatGPT、Bing AIが活用できるようになり印象が薄くなった感があります。
Product(製品):
CatchyはAIライティングアシスタントツールであり、広告、webサイトのテキスト、セールスレターほか、100種類以上のシチュエーションでの文章生成ツ―ルです。2023年に入ってからもプレスリリース生成、ツイート生成AIなどを発表しています。
現状の強みは完全に日本語のツールであること。本格的にコンテンツを作成する層はより高精度のChatGPTなどに流れていくとしても、英語サイトに拒否反応を示しかつ簡単なビジネス文書、チラシなど日常的な文章作成のみのニーズという層には、必要十分な機能があります。
最近のWebサイトからはYouTuber、飲食店経営者、EC経営者にアピールするなど、スモールビジネス市場にアプローチしていることがうかがえます。またChatGPTのセキュリティ研修サービスを開始するなど、環境変化にあわせ柔軟にサービスを展開しています。
Price(価格):
リリース当初はなかった月3000円プランが追加されました。またfreeプランに毎月10クレジットが付与されるため、当初の無料分を使い切った会員も、期間をおいて改めて試せます。久しぶりに使ってAIの成長を実感し、購入を検討する可能性が期待できる価格プランです。
Promotion(プロモーション):
ローンチ当初のインパクトは大きく、リリース4ヶ月で会員数2万人突破と大成功。マスコミに取り上げられたこともあり、日本語の文章作成AIとして第一想起が狙える位置にいます。プロモ―ションは、今のところウェビナー、SNSマーケティング、プレスリリース、アフィリエイト、他社とのアライアンス、コラボレーションなどが中心です。
共創型のプロダクトのようなので、今後どのような事業にピボットしていくかは不明瞭です。仮に対象の層が中小企業、中小飲食店、ECの経営者などのSMB市場の場合、AIリテラシーはそれほど高くないため「見つけてもらう」スタンスだと拡販は難しいかもしれません。
paypayがシェアをとったように、何かラスト1マイルをつめるパートナー戦略がとれると実効的ではないかと考えます。
ただ、ウェビナーの内容や、最新AIの調査・実装・発信を行う「CTO室(先端AI技術室)」を新設する動き等を見ると、本来対象にしたい層は大手企業の印象です。
Place(流通):
日本全国。現在はオンラインによる直販での拡大と、代理店募集をしています。
(出典:Biodata Bank株式会社)
カナリアとは、2018年に設立したスタートアップのBiodata Bank(バイオデータバンク)社が提供する、熱中症対策のデバイスです。
Product(製品):
「熱中対策ウォッチ カナリア」は、熱中症のリスクを警告してくれる腕時計型デバイス。温度、湿度、気圧、汗の量などを計測し、スマートフォンのアプリでリアルタイムにデータを確認できます。
手首につけるだけの使い切り(3~4か月)で、充電する必要はなく、難しい操作もいらず、使う人への説明も必要ないプロダクトです。特許技術「熱ごもりセンサーカナリア」を搭載しています。
Price(価格):
4950円と低価格です。BtoCと企業向けに大量のロットで販売できるためか、安価に設定されています。使い切りをコンセプトに、あえて通信機能をつけなかったこともコストの抑制にもつながっているでしょう。
Promotion(プロモーション):
プロモーションは、ホームページやSNS、イベントでのデモンストレーション、メディア露出が中心。また、技術系スタートアップなので、当初から実証実験に積極的に参加しています。
2019年には日本を含む世界7カ国での実証実験に参加。また、欧州のスタートアップ関連イベント「VIVA TECHNOLOGY」に参加したきっかけでフランス企業から支援を受け、2021年夏に実証実験をフランスで実施、熱中症を予防するデバイスとして認められました。
その後、欧州で代理店とパートナーシップを提携、6月から実証実験に参加したフランスの大手企業を中心に製品の販売を開始、という流れでBtoB領域は欧州市場を軸にアプローチしています。
Place(流通):
流通経路は公式ストアをはじめ、多くのオンラインショップです。企業からの大量注文も受け付けtています。海外では、フランス、スペイン、ベルギーへと販売先が拡大しています。
(出典:大坂ヒートクール株式会社)
大坂ヒートクールは大学発スタートアップです。大学スタートアップ対象のピッチコンテスト「U-START UP」で、第一回の2021年に優勝。その後、ビジネスの素人であった大学教員の方々が資金調達やプロモーションを行っています。現在は商品化を進めているフェーズです。
Product(製品):
大坂ヒートクールは、「温度で五感をハックする」をミッションに、「ThermoScratch」というかゆみを緩和させるプロダクトを商品化中。アトピー、内臓疾患によるかゆみなどに悩む人に対し、「熱い」「冷たい」という温度刺激を与えることで、人が皮膚をかかずにかゆさを緩和できるところが特徴です。
プロダクト開発に向けてデバイスを貸与しながら、さらなる実証実験や開発を進めています。
(出典:大坂ヒートクール株式会社)
一般にマーケティングのステップは、外部環境分析、ターゲット市場の選定やポジショニングの選定、マーケティングミックスと言われます。
しかし、大学や研究所には先に優れた研究結果や技術が存在するため、プロダクトアウトからスタートします。そこから市場を探し、提携先を探して商品化するので、その過程でプロモーション、プレースとの絡みが重要になります。
Price(価格):プロダクトが決まっていないため未定。
Promotion(プロモーション):
多くのピッチやイベント、アクセラレーションに参加しています。新聞広告やテレビCMを流す予算はないということで、広報活動をREACH REACHで学び、積極的に広報に力を入れ、メディアに取り上げられるように活動しています。note、twitter、instagram、LinkedIn、podcastなどのSNSでも情報発信しています。
今の時代のスタートアップエコシステムを活用し、SNS社会、デジタル社会の資源を活用したプロモーションがしっかり行えていると言えるでしょう。
Place(流通):
当初は国内、2024年以降は、オーストラリア、東南アジア、ドイツなどに拡販する予定。
地元の大阪商工会議所との関わりも深く、大阪と町工場をつなぐイベントに参加したり、OIST(沖縄科学技術大学院)のプログラムや海外イベントへ参加したりしているのを見ると、大阪を軸にしたグローバル市場展開かと思われます。
【考察】
スタートアップ領域では、素晴らしい技術があっても予算の不足や提携先選びのミスでその成果をあげられなかったり、大手企業や後発企業に功績を持っていかれたりすることが少なくありません。
その点、バイオデータバンクや大坂ヒートクールは、積極的な国内外のピッチやコンテストへ挑戦し、国や自治体の支援も有効活用しています。大坂ヒートクールは商品化途上なため今後の販売戦略、量産体制の方針は見えませんが、地元コミュニティとの提携などで手堅く足場を固めています。
2社とも今後の市場へのプロモーション、プレース(流通網)戦略がカギですが、世界のかゆみ市場も、熱中症対策市場も非常に大きいため、アライアンスする企業にとっても魅力的な企業です。国内外の大手企業も含めたパートナーネットワークの構築が重要になるでしょう。
マーケティングミックス4Pとは、簡単に言えば経営戦略やマーケティング戦略をたてる際に、プロダクトのみ、価格のみ、プロモーションのみ、プレースのみにフォーカスして考えるのではなく、4つの要素のバランスをミックスして考えるためのフレームワークです。
プロダクトマーケティングにはそのまま活用できますし、プロダクトが確立しておりプロモーション中心の戦略をたてる際も、プロダクトの思想、機能、プライスを考慮してどのようなコンセプトのキャンペーンを展開するか、利便性をいかに向上させるかというプレースの視点が役立ちます。
4Pは、マーケティングミックスの中でもっとも重要な要素4点がしぼりこまれた基本フレームワークであり、4Pを基本として7P、8P、4Cなどが存在します。4Pを活用できるようになれば、ほかのマーケティングミックスもよく理解できるようになるでしょう。